説明

気相成長装置

【目的】基板支持部を薄くできるようにサセプタとは別体に形成して、基板表面とサセプタ表面との段差をなくし、段差に起因する膜厚分布のばらつきを改善する。
【構成】カーボン製サセプタ13の開口端面15にサセプタとは別体で厚さの薄いモリブデン製のツメ14を数箇所取り付ける。このツメ14で基板2の外周部を支えて、成長面となる基板表面19を下にして保持する。これにより、基板表面19とサセプタ端面15とが面一になるようにする。ツメ14の影響を少なくするには、ツメ14の厚さT、基板2にかかるツメ14の長さをLとした場合、T≦−0.2・L+0.6の関係を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエピタキシャル層の膜厚分布を改善した気相成長装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図4に従来の横型気相成長装置の模式化した横断面図を示す。反応管1は上下に二分され、上半分にはエピタキシャル成長用基板2の表面を下向きに支持するカーボン製のサセプタ3が設けられる。このサセプタ3の底部開口の径を縮径して基板支持部4を本体と一体的に形成し、その基板支持部4に基板2の外周部を支えることにより基板2を保持する。サセプタ3の上部開口面には、カーボン製のヒータ5が取り付けられ、サセプタ3並びに基板2を加熱できるようになっている。また、サセプタ3は、サセプタ支持軸7を介してモータ6に接続され回転する。
【0003】反応管1の下半分は原料ガスの通路になっており、原料ガス導入口8より原料ガスが供給され、加熱された基板2に対して水平にガスを流してエピタキシャル成長を行い、反応したガスを排気口9から排出する。なお、反応管1の上半分はジャケット構造になっており、両端に設けた冷却水出入口10から給排される冷却水により反応管1を冷却するようになっている。
【0004】同図に示す通り、基板2を表面を下にしてサセプタ3にセットし、カーボン製ヒータ5に電流を流し、サセプタ3即ち基板2を加熱する。この状態で原料ガスをガス導入口8より供給すると、同図矢印に沿って原料ガスが基板2表面上を流れ、そこで高温気相における原料ガス分解、デポジションが起こり、基板2の表面上にエピタキシャル層が形成される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の横型気相成長装置で用いている基板支持部一体型のカーボン製サセプタ3では、図5に模式的に示したように、基板2を支える基板支持部4の厚さが約1mmあるため、この基板支持部4に載せる基板2の表面はサセプタの開口端面に対して1mmへこんだ位置にあり、サセプタ端面と段差ができる。この段差により基板周辺部でガス流速度境界層が剥離してガス流速度が遅くなり、それにより成長速度が低下して膜厚均一性を悪くしていた。
【0006】図6(A)に上述した従来の気相成長装置により3インチGaAs基板上に成長したn型GaAsエピタキシャル層の直径方向の膜厚分布を示す。直径方向は同図(B)に示すように2種類ある。中心から25mmまではフラットな膜厚分布を示しているが、それより外周では基板表面とサセプタ表面との段差の影響により外方に行くほど膜厚が薄くなっていき、ちょうどお皿を逆さまにしたような膜厚分布になっている。
【0007】基板表面とサセプタ端面との段差をなくせば基板周辺部でガス流速度境界層の剥離が発生しないため、基板周辺部で成長速度の低下が起こらず、膜厚均一性を向上させることが可能になると考えられる。しかし、基板支持部はカーボンを用いてサセプタの一体加工により形成しているため、強度の点から1mm以下の厚さにすることが出来なかった。
【0008】本発明の目的は、基板支持部をサセプタとは別体に形成し基板表面とサセプタ端面との段差をなくすことによって、前記した従来技術の欠点を解消し、膜厚均一性の良好なエピタキシャル基板を形成できる気相成長装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の気相成長装置は、無底容器状をしたサセプタの底部開口に基板表面を下向きにして基板を保持し、基板表面に沿って原料ガスを流してエピタキシャル成長を行う気相成長装置において、サセプタ底部開口の端面に、その端面延長上の径方向内方に突き出て基板の外周部を支える金属製の基板支持片をサセプタとは別体に取り付けるようにしたものである。基板支持片は例えばモリブデンなどが好ましい。
【0010】この場合において、特に、基板支持片の厚さをT(mm)、基板にかかる基板支持片の長さをL(mm)とすると、T≦−0.2・L+0.6の関係を満たすことが好ましい。
【0011】
【作用】サセプタの開口端面延長上にサセプタとは別体に取り付けた基板支持片で基板を支えると、基板表面とサセプタの開口端面とに段差が生じず、段差によって発生していた速度境界層の剥離がなくなる。このためガス流速が遅くなって基板周辺部の成長速度が低下する現象がなくなる。その結果、膜厚均一性の良好なエピタキシャル成長が可能になる。
【0012】この場合において、基板支持片の厚さTと基板にかかる基板支持片の長さLとが上式の関係を満たしていると、基板支持片の影響を最小にすることが出来る。
【0013】
【実施例】以下、本発明を図示の実施例に基づいて説明する。図1は本発明の気相成長装置に用いるサセプタ13の実施例を示し、(A)は横断面図、(B)は底面図、(C)は点線の丸で囲った部分の拡大図である。なお、気相成長装置の構成は、サセプタ部を除いて、従来例で説明した図4の構成と同じである。
【0014】本実施例のサセプタ13は、上部のみならず底部にも開口した無底容器状をしており、その開口の大きさは基板2を内部に収納するために、基板2の直径よりもやや大きな内径をもつ偏平な円筒体で構成されている。サセプタ13の材料はカーボン製である。
【0015】サセプタ13の容器壁の厚さにより形成される底部開口の端面15には、端面延長上の径方向内方に突き出した厚さの薄い基板支持片を構成するツメ14が、サセプタ13とは別体に取り付けてある。ツメ14の本数は、図示例では、底部開口端面15の周方向に沿って等間隔に4本になっているが、3本でも、あるいは5本以上でもよい。これらのツメ14には、予めねじを切ったロッド16をツメ14の面に対して垂直に固着しておき、ツメ14の取り付け箇所の容器壁に軸方向にロッド挿通穴17を明け、その挿通穴17にツメのロッド16を通し、ナット18で締め付けることにより、サセプタ13の底部開口端面15にツメ14を固定する。サセプタ13内に納めた基板2は、その底部のツメ14に基板外周部を支えてサセプタ13に保持させる。このときエピタキシャル成長させる表面を下にして、基板表面19がサセプタ13の底部開口を臨むようにする。
【0016】基板2を支えるツメ14は原料ガスと反応しない金属で構成することが好ましい。本実施例ではモリブデンで製作してある。また、ツメ14の厚さTを0.2mm、ツメ14が基板2に係止する部分の長さLを1mmとした。
【0017】このように、サセプタ13の開口端面15に取り付けたツメ14の上に基板2を載せるので、サセプタの開口端面15と基板表面19とには段差を生じず面一となる。なお、ツメ14とサセプタの開口端面15および基板表面19との間ではツメ14の厚さ分の段差はできるが、この点に関しては後述する。
【0018】上記ツメ付きサセプタを用いた気相成長装置を用いて3インチGaAs基板上にn型GaAs層を成長した。サセプタ13の回転数は10rpmとした。ガス流速は1.5m/sとした。得られたエピタキシャルウェハの膜厚分布を測定したところ、図2に示す通り±2%以下のフラットな膜厚分布が得られた。これは、基板支持部をサセプタとは一体ではなく、基板支持片として別体に構成し、基板表面をサセプタ開口端面と同一表面上にもってきたことによる。また、基板支持片をサセプタ開口端面の全周ではなく、周方向にツメとして分離して数点取り付けるようにしたので、ツメの影響を少なくすることができる。
【0019】このように本実施例により良好な膜厚均一性が得られることがわかったが、新たに次のことが問題になる。それは、基板とそれを支えるツメとの間に段差ができるため、この部分で成長速度の低下が生じることである。そこで、ツメの厚さT(mm)と基板にかかるツメの長さL(mm)とを変えたツメを製作し、これを用いてGaAs基板上にn型GaAsエピタキシャル成長し、その影響を調べた。ガス流速は1.5m/s、サセプタの回転数は10rpmとした。
【0020】結果を図3に示す。基板を支持するツメの存在する直径方向で基板周辺3mmを除いた膜厚均一性が±2%未満を○、±2%以上を×としてプロットした。その結果、次式T≦−0.2・L+0.6を満たすT及びLで良好な膜厚均一性が得られることがわかった。
【0021】
【発明の効果】(1)請求項1に記載の気相成長装置によれば、サセプタとは別体の金属製のツメを用いて基板を支えることにより、サセプタ底面と基板表面との段差がなくなり、ガス流速度境界層の剥離をなくすことができ、基板周辺部での成長速度の低下を抑えることができる。従って、膜厚均一性の良いエピタキシャル層を成長することが可能になる。
【0022】(2)請求項2に記載の気相成長装置によれば、ツメの厚さと基板にかかるツメの長さとを、ツメの影響が最小になるような関係に設定したので、膜厚均一性の一層良好なエピタキシャル層を成長することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の気相成長装置の実施例に用いるサセプタの模式化した横断面図、底面図および拡大図。
【図2】本実施例による気相成長装置で成長したn型GaAsエピタキシャル層の膜厚分布特性図。
【図3】本実施例による気相成長装置に用いるサセプタのツメの厚さT、ツメが基板にかかる長さLを変えてエピタキシャル層の膜厚均一性を調べたL、T値の適合不適合図。
【図4】従来例の横型気相成長装置の模式化した横断面図。
【図5】従来例の気相成長装置に用いるサセプタの模式化した横断面図及び底面図。
【図6】従来例の気相成長装置で成長したn型GaAsエピタキシャル層の膜厚分布特性図およびウェハ上の分布測定箇所の説明図。
【符号の説明】
1 反応管
2 基板
5 カーボン製ヒータ
6 モータ
7 サセプタ支持軸
8 原料ガス導入口
9 排気口
10 冷却水出入口
13 サセプタ
14 金属製のツメ
15 サセプタの底部開口端面
19 基板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】無底容器状をしたサセプタの底部開口に基板表面を下向きにして基板を保持し、基板表面に沿って原料ガスを流してエピタキシャル成長を行う気相成長装置において、前記サセプタ底部開口の端面に、その端面延長上の径方向内方に突き出て基板の外周部を支える金属製の基板支持片をサセプタとは別体に取り付けたことを特徴とする気相成長法。
【請求項2】前記基板支持片の厚さをT(mm)、基板にかかる基板支持片の長さをL(mm)とすると、T≦−0.2・L+0.6の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−283444
【公開日】平成6年(1994)10月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−71476
【出願日】平成5年(1993)3月30日
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)