説明

気相流動層装置、気相流動化方法及び重合体の製造方法

【課題】 流動層を形成する粒子の偏析が起こりやすく、特に、質量の小さい粒子や径のより小さい流動層粒子を気相流動層装置の上方の領域に滞留させることができる気相流動層装置及びこれを用いた気相流動化方法並びに重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の気相流動層装置1は、狭隘部14を有する流路を形成する筒状部材10と、流路内における狭隘部14よりも下方に設けられ、流路内に第1のガスを供給して流動層13を形成させるガス分散板12と、流路の狭隘部14にガス分散板12を介することなく第2のガスを供給するガス吹込部60とを備え、流路の狭隘部14は、ガス分散板12上に形成される流動層13の粉面よりも下方に設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相流動層装置、気相流動化方法及び重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気相流動層装置として、直円筒形状を有する縦型の容器と、容器下部に孔を多数有する板(以下「ガス分散板」という。)を備えており、このガス分散板から容器内部にガスを流入させ、流動層を形成する装置が知られている。
【0003】
このような気相流動層装置は、オレフィン気相重合反応装置としても用いられており、所望のオレフィン粒子を得るための検討がなされている。例えば、特許文献1では、十分に成長した、すなわち大きな粒子を反応容器の下部から選択的に抜き出すため、ガス分散板の上方におけるガスの流路が所定位置に狭隘部を有する気相流動層装置が提案されている。
【特許文献1】特開2006−348275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の気相流動層装置において、流動層を形成する粒子の偏析、すなわち大きな粒子と小さな粒子の分粒をより一層促進させたいという要望がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、流動層を形成する粒子の偏析が起こりやすく、特に、質量の小さい粒子や径の小さい粒子を気相流動層装置の上方の領域に滞留させることができる気相流動層装置を提供することを目的とする。また、本発明は、該気相流動層装置を用いた、気相流動化方法及び重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の気相流動層装置は、狭隘部を有する流路を形成する筒状部材と、流路内における狭隘部よりも下方に設けられ、流路内に第1のガスを供給して流動層を形成させるガス分散板と、流路の狭隘部にガス分散板を介することなく第2のガスを供給するガス吹込部とを備え、流路の狭隘部は、ガス分散板上に形成される流動層の粉面よりも下方に設けられるものである。
【0007】
ここで、本発明における「狭隘部」とは、ガス分散板に垂直な直線に沿って筒状部材のガス分散板よりも上方側を見たとき、ガス分散板に平行なガスの流路の断面積(以下、場合により単に「断面積」という。)が単調減少した後で単調増加する領域において、当該断面積の最小値を与える部分を意味する。なお、ガスの流路の断面積は、単調減少した後直ちに単調増加してもよく、あるいは、単調減少した後しばらく最小値のまま推移し、その後単調増加してもよい。前者の場合は単調減少領域との境界の部分が狭隘部であり、また、後者の場合は断面積が最小値のまま推移する部分が狭隘部である。また、ガスの流路における狭隘部の個数は1つであっても複数であってもよい。この場合、第2のガスを供給するガス吹込部はいずれかの狭隘部に備えられていればよい。さらに、ガスの流路が複数の狭隘部を有する場合、狭隘部同士の断面積の大小関係は特に制限されないが、筒状部材の上方側へいくほど狭隘部の断面積が大きくなることが好ましい。
【0008】
本発明の気相流動層装置は、狭隘部を有する流路を形成する筒状部材と、流路内における狭隘部よりも下方に設けられ、流路内に第1のガスを供給して流動層を形成させるガス分散板と備え、流路の狭隘部が、ガス分散板上に形成される流動層の粉面よりも下方に設けられることに加え、流路の狭隘部にガス分散板を介することなく第2のガスを供給するガス吹込部を備えることを特徴としている。このような構造を有することにより、流動層を構成する粒子(以下、場合により「流動層粒子」という。)の偏析が起こりやすく、流動層粒子のうち、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができる。
【0009】
本発明の気相流動層装置において、上記第2のガスを供給するガス吹込部は、上記筒状部材の中心軸を取り囲むように配置された複数のガス吹込口を有することが好ましい。このような配置のガス吹込口を有することにより、ガス流速分布を軸周りにほぼ対称的なものにすることができる。これにより、余計な流れの乱れを抑えて流動層内において所望の偏析が起こりやすくなる。
【0010】
本発明の気相流動層装置において、ガス吹込部から供給される第2のガスの流量は、ガス分散板から供給される第1のガスの流量以下とされることが好ましい。第2のガスの流量をこのような範囲にすることで、偏析がより起こりやすくなり、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができる。ここで、ガスの流量とはガスの体積流量のことをいう。
【0011】
また、第1のガス及び/又は第2のガスが重合用原料ガスを含み、流動層において気相重合が行われることが好ましい。気相重合において、このような気相流動層装置を用いた場合、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができるため、気相流動層装置下部からは質量のより大きい流動粒子や径のより大きい流動層粒子、すなわち重合反応が十分に進行した粒子を反応容器の下部から選択的に抜き出すことができる。つまり、反応が十分に進まないまま重合体が次の工程へ送り出されるショートパスが起こりにくくなり、均一性に優れた重合体を効率良く得ることができる。また、このような気相流動層装置によれば、流動層の偏析を維持したまま、流動層に供給されるガスの総流量を増やすことができるため、反応熱の除熱が容易になる。
【0012】
本発明の気相流動層装置において、流路の狭隘部の断面積は、流路の分散板直上部の断面積の0.1〜0.95倍であることが好ましい。狭隘部の断面積をこのような範囲とすることで、より流動層内の偏析が起こりやすくなり、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができる。
【0013】
本発明にかかる気相流動化方法は、狭隘部を有する流路を形成する筒状部材内に、狭隘部よりも下方に設けられたガス分散板から第1のガスを供給すると共に、ガス分散板を介すことなく流路の狭隘部にさらに第2のガスを供給し、狭隘部よりも粉面が高くされた流動層をガス分散板上に形成する工程を備える。
【0014】
このような工程を備える気相流動化方法によれば、流動層内の偏析が起こりやすく、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができる。
【0015】
本発明にかかる気相流動化方法において、第2のガスの流量は、第1のガスの流量以下とすることが好ましい。第2のガスの流量をこのような範囲にすることで、偏析がより起こりやすくなり、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができる。
【0016】
本発明にかかる重合体の製造方法は、狭隘部を有した流路を形成する筒状部材内に、狭隘部よりも下方に設けられたガス分散板から第1のガスを供給すると共に、ガス分散板を介すことなく流路の狭隘部にさらに第2のガスを供給し、狭隘部よりも粉面が高くされた流動層をガス分散板上に形成する工程を備え、第1のガス及び/又は第2のガスは重合用原料ガスを含み、流動層において気相重合を行うものである。
【0017】
このような製造方法によれば、上述のように、重合反応が十分に進行した粒子のみを筒状部材(以下、場合により「反応容器」という。)の下部から選択的に抜き出すことができるため、均一性に優れた重合体を効率良く得ることができる。また、このような製造方法によれば、流動層の偏析を維持したまま、流動層に供給されるガスの総流量を増やすことができるため、反応熱の除熱が容易になる。
【0018】
本発明にかかる重合体の製造方法において、第1のガス及び/又は第2のガスはオレフィンモノマーガスを含み、流動層においてオレフィン気相重合を行ってもよい。
【0019】
このような製造方法によれば、上述のように、均一性に優れたオレフィン重合体を効率良く得ることができる。また、特にオレフィン重合においては、反応熱の除熱が生産能力向上のネックとなるのが一般的である。このような製造方法によれば、上述のように反応熱の除熱が容易になるため、オレフィン重合体の生産能力の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流動層を形成する粒子の偏析が起こりやすく、特に、質量の小さい粒子や径のより小さい流動層粒子を気相流動層装置の上方の領域に滞留させることができる気相流動層装置を提供することができる。また、本発明によれば、該気相流動層装置を用いた、気相流動化方法及び重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
[第1実施形態]
[気相流動層装置]
図1は、本発明の第1実施形態に係る気相流動層装置1を模式的に示す断面図であり、ガス分散板及び反応容器の回転軸を含み且つガス分散板に垂直な平面で気相流動層装置1を切断したときの断面図である。図1に示す気相流動層装置1は、筒状部材10と、ガス分散板12と、を主として備えている。
【0023】
筒状部材10は、狭隘部14を有し、狭隘部14には複数のガス吹込ノズル60aからなるガス吹込部60が備えられている。筒状部材10は、更に、ガス吹込部63、ガス排出部61、流動層粒子の導入口15及び流動層粒子の抜取口16を備えている。筒状部材10は下端及び上端が閉じられており、ガス吹込部63は、筒状部材10の下部に設けられており、ガス排出部61は、筒状部材10の上部に設けられている。
【0024】
ガス分散板12は、筒状部材10の流路内の、狭隘部14よりも下方、かつ、ガス吹込部63よりも上方に配置されている。ガス分散板12、筒状部材10及び狭隘部14は、それぞれの中心軸が一致するように配置されることが好ましい。
【0025】
筒状部材10は、下から順に、風箱を形成する下部円筒領域10a、単調減少領域10b、単調増加領域10c、フリーボードを形成する上部円筒領域10dを有する。単調減少領域10b及び単調増加領域10cは、ガス分散板12に垂直な直線に沿って反応容器のガス分散板12よりも上方側を見たとき、ガス分散板12に平行なガスの流路の断面の直径が、それぞれ、単調減少及び単調増加する。また、本実施形態では、単調減少領域10b及び単調増加領域10cにおける断面の直径の変化量はいずれも一定である。さらに、図1に示す筒状部材10は、ガス分散板12に平行なガスの流路の断面の直径が単調減少した後直ちに単調増加する形状を有しており、単調減少領域10bと単調増加領域10cとの境界である、当該断面の直径の最小値を与える部分が狭隘部14となっている。
【0026】
なお、図1に示す実施形態では、単調減少領域10b及び単調増加領域10cにおける断面の直径の変化量はいずれも一定、すなわち断面形状が直線であるが、この変化量は、一定でなくてもよい。すなわち、単調減少領域及び単調増加領域は断面形状が曲線になっていてもよい。
【0027】
ガス分散板12より上方の筒状部材10の流路内には、流動層13が形成される。なお、流動層13はその粉面30が、狭隘部14より上方に位置するように形成される。また、単調減少領域10bの高さをH、単調増加領域10cの高さをH、さらに、HとHの合計の高さをHとした場合、単調減少領域10bの高さHは0.1H〜0.9Hであることが好ましく、0.2H〜0.8Hであることがより好ましく、0.3H〜0.7Hであることが更に好ましい。ガス分散板12から狭隘部14までの高さHが、0.1H未満、あるいは、0.9Hを超えると、流動層内の流動層粒子の均一混合が促進され、流動層内の偏析が起こり難くなる傾向にある。また、図1に示す実施形態では、狭隘部は1つであるが、狭隘部は複数備えられていてもよく、その場合、各狭隘部を形成する単調減少領域及び単調増加領域がそれぞれ上述と同様の関係を有することが好ましい。
【0028】
流動層粒子の導入口15は、狭隘部14より上方に設けられている。導入口15は、粉面30より下方に設けられていることが好ましい。流動層粒子の抜取口16は狭隘部14より下方、かつ、ガス分散板12より上方に設けられている。
【0029】
ガス分散板12は、平面状の板に貫通した孔が複数設けられた構造を有し、一の面から他の面にガスが通り抜けるようになっている。このときの当該孔の数や位置については、特に限定されない。また、ガス分散板12には、流動層を形成する粒子の落下防止、或いはガスが噴出する方向に指向性を持たせるために孔上にキャップ等を設けてもよい。また、ガス分散板12の内径と、筒状部材10の最下面の内径は、略同一であることが好ましい。換言すれば、ガス分散板12を通過したガスが、反応容器内部全体に均一に広がるように、反応容器とガス分散板とを設計することが好ましい。
【0030】
ガス分散板12は、ガスをガス分散板12の面方向に分散させることができる。このことにより、分散されたガスは、より広範囲に流入させることができる。
【0031】
図2は、複数のガス吹込ノズル60aからなるガス吹込部60が備えられた狭隘部14を筒状部材10の上方から見た断面図である。筒状部材10の中心軸を取り囲むように、8つのガス吹込ノズル60aが配置されており、ガス吹込ノズル60aは、ガス吹込口60bを有している。本実施形態においては、8つのガス吹込ノズル60aが記載されているが、狭隘部へのガス供給が、軸周りにほぼ対称的なものとなれば、形状や数は特に制限されず、筒状部材10内部にリングスパージャーを設け、そのリングスパージャーにガス吹込口を設けた形状としてもよい。
【0032】
狭隘部14におけるガスの流路の断面積(πD/4)は、ガス分散板12直上部の筒状部材10におけるガス流路の流路の断面積(πD/4)の0.1倍〜0.95倍であることが好ましく、0.2倍〜0.8倍であることがより好ましく、0.3倍〜0.6倍であることが更に好ましい。狭隘部14におけるガスの流路の断面積が、ガス分散板12直上部の筒状部材10におけるガス流路の流路の断面積の0.1倍未満であると、上記範囲内にある場合に比べて、狭隘部14におけるガス流速が非常に高くなり、ガス排出部61から排出されるガス中への流動層粒子の飛散が著しく多くなることがあり、0.95倍を超えると、上記範囲内にある場合と比べて、流動層内の流動層粒子の均一混合が促進され、流動層内の偏析が起こり難くなる傾向にある。
【0033】
狭隘部14はガスの流路のガスの流れ方向、すなわちガスの流路の上下方向に複数設けられていてもよい。なお、このように狭隘部14を複数有する場合は、流動層上面は最も下部にある狭隘部14よりも上にあればよい。
【0034】
また、上述の気相流動層装置1においては、筒状部材10の上部に拡大部、或いは撹拌翼が設けられていてもよい。
【0035】
また、導入口15には流動化粒子を容器内へ供給するライン119が接続され、ガス吹込部63とガス排出部61との間にガスを循環させる循環ライン131が接続され、ライン131には、流動化用ガスを供給するライン139が接続され、ガス吹込ノズル60aには流動化用ガスを供給するライン136が接続され、抜取口16には粒子を排出するライン138が接続されている。循環ライン131には、ガス循環用のコンプレッサ132が接続されている。
【0036】
[気相流動化方法]
続いて、図1に示す気相流動層装置1を用いた気相流動化方法について説明する。
【0037】
本実施形態で使用される粉体の粒径や材質は特に限定されない。例えば、材質としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン粉体、シリコン等のセラミック粉体等が挙げられる。また、粒径としては、例えば、5μm〜3000μm等である。
【0038】
まず、ガス吹込部63から、筒状部材10内に第1のガスを供給する。ガス吹込部63から供給される第1のガスは、ガス分散板12を通過して上昇し、ガス分散板上に流動層を形成する。さらに、狭隘部14に設けられたガス吹込部60から第2のガスを供給する。
【0039】
第1のガス及び第2のガスは特に限定されない。例えば、重合用原料ガス、窒素、空気等が挙げられる。
【0040】
このようにして流動層を形成した場合、以下のような流動状態になると考えられる。狭隘部14ではガス空筒速度が、狭隘部14より上方及び下方よりも速くなり、狭隘部14を境に上部と下部とで粒子の流動化挙動が異なるものとなる。
【0041】
狭隘部14よりも下方では、上方に向かうに従って径が縮小し、中心軸部だけでなく筒状部材10の内壁に沿った部分においてもガスの上昇流れが起きやすい。これにより、中心軸部を粒子が上昇し中心軸部の周りの筒状部で粒子が下降する大規模な粒子循環流れが起こりにくく混合は緩やかなものとなる。したがって、底部から粒子を抜き出した際に、狭隘部14よりも下方における粒子の流れはプラグフローに近い。これにより、狭隘部14を越えて下方に下りた粒子がショートパスして排出されることを抑制できる。
【0042】
一方、狭隘部14よりも上方では、上方に向かうに従って径が増大するので、主として中心軸部をガスが上昇する。これにより、中心軸部を粒子が上昇し中心軸部の周りの筒状部で粒子が下降する大規模な粒子循環流れが起こる。これにより、粒子の混合が十分に行われる。特に、気相重合を行う場合において、粒子が小さい場合には触媒活性が高く除熱能力が必要となるが、本実施形態では、混合が十分に行われるので除熱も容易であり、粒子の融着等を抑制できる。
【0043】
また、狭隘部14では、最もガス空筒速度が高くなるので、軽い粒子や小さい粒子がガスにより選択的に上方に押し戻され、軽い粒子や小さい粒子を狭隘部14よりも上方に滞留させることができる。そして、軽い粒子や小さい粒子を狭隘部よりも上方に十分に偏析させるためには、狭隘部14におけるガス空筒速度を高くして狭隘部14における分離機能を向上させることが効果的である。
【0044】
ところが、ガス分散板12から供給するガス量を高めると、狭隘部14よりも下方における混合状態が良好となりすぎて、狭隘部14を越えて下方に下りた粒子のショートパスが起きる恐れがある。
【0045】
しかしながら、本実施形態では、ガス分散板12を介することなく、ガスを狭隘部14に供給しているので、狭隘部14における軽い粒子や小さい粒子を狭隘部14よりも上方へ戻す機能を十分に向上させつつ、狭隘部14より下方での粒子のショートパスを抑制することができる。従って、流動層全体において、軽い粒子や小さい粒子のショートパスを極めて抑制することができる。また、狭隘部14より上方での混合もよくなるので除熱能力も高くなる。
【0046】
また、第2のガスの流量は、第1のガスの流量以下とすることが好ましい。第2のガスの流量をこのような範囲にすると、偏析がより起こりやすくなり、質量のより小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子を流動層のより上層に位置するように浮遊させることができる。また、第1のガス流量は、最小流動化速度をVmin(cm/s)とすると、ガス分散板直上部のガス空筒速度が、Vmin以上Vmin+20cm/s未満となる流量であることが好ましく、Vmin+2cm/s以上Vmin+10cm/s未満となる流量であることがより好ましい。ガス分散板直上部のガス空筒速度が上記範囲外であると、流動層での流動層粒子の流動性が過剰に低くなる、あるいはガス空筒速度が高過ぎてショートパスが起こりやすくなることがある。
【0047】
[重合体の製造方法]
次に、上述の気相流動層装置1を用いた、重合体の製造方法について説明する。
【0048】
上記流動層13は、流動層粒子からなるが、この流動層粒子は、気相重合の場合、重合触媒、及び、重合触媒により重合用原料ガスを重合することによって得られる重合体粒子からなる。流動層粒子の詳細については後述する。
【0049】
例えば、オレフィンの重合反応においては、上記導入口15から、導入された重合触媒或いは予備重合触媒は、ガス分散板12及びガス吹込口60bを経て流動層内に流入するオレフィンガスにより重合反応を開始し、重合触媒或いは予備重合触媒の廻りにオレフィン重合体が形成されて、オレフィン重合体粒子(流動層粒子)となる。なお、ガス吹込口60bから流入するガス、及びガス分散板12から流入するガスは、重合用原料ガスであることが好ましいが、上記ガスのいずれかは、重合用原料ガスでなくてもよく、例えば、窒素などの不活性ガスであってもよい。そして、オレフィン重合体粒子は重合反応により成長し、十分に成長したオレフィン重合体粒子は、反応容器の底部に設けられた抜出口16から抜き出されることとなる。
【0050】
このとき、上記導入口15は、狭隘部14と、流動層の粉面30との間に有し、上記抜出口16は、狭隘部14よりも下方に有することが好ましい。
【0051】
この場合、重合触媒を導入する導入口15が上記狭縊部14よりも上方に設けられているため、導入された重合触媒及び十分に成長していない重合体粒子などの質量が小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子が流動層の下方にまで落下することをより抑制することができる。このことにより、十分に成長していない重合体粒子などの質量が小さい流動層粒子や径のより小さい流動層粒子が抜出口16から排出される、ショートパスをより確実に抑制することができる。これにより、導入した重合触媒を十分に機能させることができる。また、抜出口16が狭縊部14より下方に設けられているため、十分に成長した流動層粒子を抜出口16から容易に且つ確実に抜き出すことができる。
【0052】
(流動層粒子)
本実施形態で用いられる流動層粒子は、気相重合反応の場合、上述したように重合触媒、及び、重合触媒存在下、重合用原料ガスが重合することによって得られる重合体粒子である。本実施形態の用いられる重合触媒としては、公知のオレフィン重合触媒を使用することができ、例えば、チタンとマグネシウムとハロゲンと電子供与体とを含有する重合触媒成分を包含する不均一系重合触媒、重合体の融点が概ね単一である重合体を生成する均一系触媒等が挙げられる。この均一系触媒としては、チタン、ジルコニウム等の遷移金属からなるメタロセン錯体やメチルアルミノキサン等の共触媒を多孔質シリカに担持した重合触媒等を挙げることができる。
【0053】
上記重合触媒の質量平均粒径は、5μm〜150μmであり、重合触媒の反応容器外へ飛散を低減する観点から、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。
【0054】
また、助触媒、有機アルミ化合物、活性促進剤、又は有機珪素化合物も上記のような触媒と共に使用することができる。典型的な助触媒及び活性促進剤は周知であり、例えば米国特許第4,405,495号公報、4,508,842号公報等に開示されているものを用いることがきる。さらに本実施形態の重合触媒は、流動化助剤、静電気除去添加剤のような添加剤を含んでいてもよい。なお、本実施形態の重合触媒は、重合体の分子量を調整するために、水素などの連鎖移動剤を併用することも可能である。
【0055】
なお、重合触媒は、重合触媒を予め少量のオレフィン類で重合させたいわゆる予備重合触媒であってもよい。予備重合において用いられるオレフィン類としては、上述した気相重合で用いられるオレフィンが挙げられる。この場合1種類のオレフィンを単独で用いてもよく、2種類以上のオレフィンを併用してもよい。
【0056】
予備重合触媒の製造方法としては、特に制限されないが、スラリー重合、気相重合等が挙げられる。この中でも好ましくはスラリー重合である。この場合、製造において経済的に有利となることがある。また、回分式、半回分式、連続式のいずれを用いて製造してもよい。
【0057】
予備重合触媒の質量平均粒径は、5μm〜1000μmであり、重合触媒の反応容器外への飛散を低減する観点から、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、このとき、粒径が20μm以下、特に10μm以下の予備重合触媒は少ないほうが好ましい。
【0058】
なお、重合触媒の導入は炭化水素溶媒等に懸濁させて導入してもよく、或いはモノマーガス、窒素等の不活性ガスに同伴させて導入してもよい。
【0059】
本実施形態で用いられる重合用原料ガスとしては、特に限定されないが、例えば、α−オレフィン等のオレフィン類、極性ビニルモノマー、ジエン、又はアセチレン等が挙げられる。これらの中でもオレフィン類を用いることが好ましい。オレフィン類であれば、気相重合反応に好適である。このようなオレフィン類としては、炭素数が2以上の直鎖状オレフィンや環状オレフィン等が挙げられ、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等が挙げられる。この中でも、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテンが更に好ましい。
【0060】
これらの化合物の1種類を重合して、単独重合体を製造してもよく、2種類以上を重合して共重合体を製造してもよい。また、1種類を重合して単独重合体とした後、引き続き2種類以上を重合して、ブロック共重合体とすることもできる。
【0061】
本実施形態の気相流動層装置1を用いた気相重合は、実質的に水分が存在しない環境下で行うことが好ましい。水分が存在すると、重合触媒の重合活性が低下することがある。また、重合反応系内に酸素や二酸化炭素が存在すると、重合触媒の重合活性が低下することがある。
【0062】
また、反応温度は、0℃〜120℃であることが好ましく、20℃〜100℃であることがより好ましい。反応温度が0℃未満であると、重合触媒の重合活性が低下することがあり、反応温度が120℃を超えると、流動層での流動層粒子の流動性が低下することがある。
【0063】
反応圧力は、常圧〜10MPaであることが好ましく、0.2MPa〜8.0MPaであることがより好ましい。反応圧力が常圧未満であると、生産性が低下することがあり、反応圧力が10MPaを超えると、反応設備のコストが高くなることがある。
【0064】
また、気相重合時において、流動層式反応装置のガス分散板直上部のガス空筒速度は、5cm/s〜150cm/sであることが好ましく、10cm/s〜100cm/sであることがより好ましい。上記ガス空筒速度が5cm/s未満であると、流動層での流動層粒子の流動性が低下し、流動層粒子の塊ができることがあり、ガス空筒速度が150cm/sを超えると、反応容器外への流動層粒子の飛散が多くなることや、ショートパスが起こり易くなることがある。
【0065】
また、重合条件下での最小流動化速度をVmin(cm/s)とすると、流動層式反応装置のガス分散板直上部のガス空筒速度は、Vmin以上Vmin+20cm/s未満であることが好ましく、Vmin+2cm/s以上Vmin+10cm/s未満であることがより好ましい。ガス分散板直上部のガス空筒速度が上記範囲外であると、流動層での流動層粒子の流動性が過剰に低くなる、あるいはガス空筒速度が高過ぎてショートパスが起こりやすくなることがある。
【0066】
ここで、最小流動化速度(流動化開始速度とも称される)Vminとは、流動層において、ガス空筒速度を流動化状態まで増加させた後、徐々に減少させて流動層の圧力損失のガス流速依存性を求め、その際の流動層の圧力損失とガス流速とのプロットにおいて折点を与える速度と定義される(鞭巌・森滋勝・堀尾正靱共著、「流動層の反応工学」、第19頁)。最小流動化速度Vminの影響因子としては、固形物の粒径及び嵩比重、ガスの密度及び粘度などが挙げられるが、最小流動化速度Vminは流動層の断面形状又は断面積に依存しない。
【0067】
また、流動層式反応装置の狭隘部に設けられた吹込部60より供給される第2のガスの流量は、ガス分散板12より供給される第1のガスの流量の0.1〜1.0倍であることが好ましく、0.3〜0.8倍であることがより好ましい。第2のガスの流量が第1のガスの流量の0.1倍未満であると、流動層の偏析が起こり難くなる傾向にあり、1.0倍を超えると、反応容器外への流動層粒子の飛散が多くなることがある。
【0068】
本発明の対象となる流動層は気固系流動層であるが、流動層内部に液が存在しても、反応装置内ガス容積に対し10%未満の少量であれば特に問題とならない。この場合でも上述の気相流動層装置1においては、気固系流動層の流動化状態を示すことができる。
【0069】
このような製造方法によれば、軽い粒子や小さい粒子のショートパスが抑制されるため、重合反応が十分に進行した粒子のみを抜出口16から選択的に抜き出すことができる。したがって、均一性に優れた重合体を効率良く得ることができる。また、このような製造方法によれば、流動層の偏析を維持したまま、流動層に供給されるガスの総流量を増やすことができるため、反応熱の除熱が容易になる。また、特に、オレフィン重合を行う場合、従来の方法において、生産能力向上のネックとなっていた反応熱の除熱が容易になる。つまり、本発明の製造方法によれば、オレフィン重合体の生産能力の向上を図ることができる。
【0070】
次に、気相流動層装置1のその他の実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0071】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る気相流動層装置1を模式的に示す断面図であり、ガス分散板及び反応容器の回転軸を含み且つガス分散板に垂直な平面で気相流動層装置1を切断したときの断面図である。
【0072】
図3に示す筒状部材10は、単調減少領域10b及び単調増加領域10cの間に、ガス分散板に平行なガスの流路の断面がしばらく最小値のまま推移する、円筒領域10eを有する以外は、図1に示す第1の実施形態と同様である。この場合の狭隘部14は、円筒領域10eと一致する。なお、ガス吹込部60は円筒領域10eの下部に設けられている。
【0073】
このような形状の筒状部材10を用いても、第1の実施形態同様の効果を得ることができる。
【0074】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態に係る気相流動層装置1を模式的に示す断面図であり、ガス分散板及び反応容器の回転軸を含み且つガス分散板に垂直な平面で気相流動層装置1を切断したときの断面図である。
【0075】
図4に示す筒状部材10は、単調減少領域10b及び単調増加領域10cを形成する容器の断面が厚くなっており、筒状部材10の外周が円筒状になっていること以外は、図1に示す第1の実施形態と同様である。
【0076】
このような形状の筒状部材10を用いた場合においても、第1の実施形態同様の効果を得ることができる。
【0077】
また、この場合、筒状部材10は、既製の一般的な縦型直円筒状の容器の内面に狭隘部材を装着することにより作製することが可能できる。このような実施形態によれば、既存の容器を利用して、簡便に作成することができるため、製造コスト削減の点から効果的である。上記狭隘部材は容易に脱着することが可能であるため、ガスの流入速度等に応じて上記狭隘部材の配置する位置を調整することも可能である。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず様々な変形態様が可能である。例えば、上記実施形態では、気相重合反応を行う場合について記載しているが、これに限られず、例えば、CVD等の他の粒子成長反応を行ってもよいし、反応を行わずに粒子の分離装置として利用することも可能である。
【0079】
[多槽重合反応装置及び方法]
上述の気相流動層装置1は、1つの装置を用いた単槽重合方法だけでなく、2つ以上の反応装置を直列に配置した多槽重合方法にも使用することができる。多槽重合方法の場合、直列に連結された反応装置のうちのいずれか1つが上述の気相流動層装置1であればよく、その他の反応装置は別種の反応装置であってもよい。上述の気相流動層装置1と併用される反応装置としては、上述の気相流動層装置1、ガス吹込み部60を有さない気相流動層装置、バルク重合反応装置、スラリー重合反応装置、溶液重合反応装置等であってもよい。バルク重合法とは、プロピレン等の液状のオレフィンを媒体として重合を行う方法であり、スラリー重合法及び溶液重合法とは、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の不活性炭化水素溶媒中で重合を行う方法である。
【0080】
ここで、上述の気相流動層装置1を用いた多槽重合反応の具体例として、二段重合プロピレン共重合体の製造方法の一例として、前段の重合工程で生成する重合体成分を構成する単量体単位の含有割合と、後段の重合工程で生成する重合体成分を構成する単量体単位の含有割合とが異なる二段重合プロピレン共重合体(以下、場合により「A−Bタイプのポリプロピレンブロックコポリマー」という。)の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、便宜的に、前段の重合工程を「第1の重合工程」、後段の重合工程を「第2の重合工程」と称する。
【0081】
A−Bタイプのポリプロピレンブロック共重合体の製造方法において、上述の気相流動層装置1は、第1又は第2の重合工程の一方のみに用いてもよく、あるいは第1及び第2の重合工程の双方に用いてもよい。
【0082】
第1の重合工程は、重合体成分の全単量体単位の含有量を100質量%とした場合に、プロピレンに基づく単量体単位の含有量を96質量%以上とする重合体成分を製造する工程である。上記プロピレンに基づく単量体単位の含有量が小さすぎると、流動層粒子の耐粘着性が劣る場合がある。
【0083】
この第1の重合工程では、プロピレンの単独重合を行ってもよく、プロピレン以外の単量体とプロピレンとを共重合してもよい。プロピレン以外の単量体としては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素原子数が2〜8のオレフィン(但し、プロピレンを除く。)を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。第1の重合工程で製造する重合体成分としては、好ましくは、プロピレン単独重合体及びプロピレン−エチレン共重合体である。
【0084】
なお、第2の重合工程において上述の気相流動層装置1が用いられる場合、第1の重合工程の重合法は特に制限されず、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法又は気相重合法のいずれであってもよい。これらの重合法を、複数の反応装置で行ってもよい。また、これらの重合法を、任意に組合せてもよく、回分式、半回分式、連続式のいずれで行ってもよい。また、第1の重合工程において、重合温度は、温度0℃〜120℃、好ましくは、20℃〜100℃、重合圧力は、常圧〜10MPa、好ましくは0.2MPa〜8.0MPaである。なお、重合体の分子量を調整するために、水素などの連鎖移動剤を用いることができる。
【0085】
第2の重合工程は、重合体成分の全単量体単位の含有量を100質量%とした場合に、プロピレンに基づく単量体単位の含有量が65質量%〜90質量%とする重合体成分を製造する工程である。プロピレンに基づく単量体単位の含有量が65質量%未満であると、上記範囲に比べて流動層粒子の耐粘着性が劣ることがあり、プロピレンに基づく単量体単位の含有量が90質量%を超えると、プロピレン系重合体の耐衝撃性が低下することがある。なお、上記範囲は、好ましくは70質量%〜85質量%であり、より好ましくは75質量%〜80質量%である。
【0086】
第2の重合工程で用いられるプロピレン以外の単量体としては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素原子数が2〜8のオレフィン(但し、プロピレンを除く。)を挙げることができる。第2工程においては、上記オレフィンのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。プロピレン以外の単量体としては、好ましくは、エチレンである。
【0087】
なお、第1の重合工程において上述の気相流動層装置1が用いられる場合、第2の重合工程の重合法は特に制限されず、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法又は気相重合法のいずれであってもよい。これらの重合法を、複数の反応装置で行ってもよい。また、これらの重合法を、任意に組合せてもよく、回分式、半回分式、連続式のいずれで行ってもよい。第2の重合工程の重合法としては、好ましくは、気相重合法である。第2の重合工程の重合方法が気相重合法である場合、第1の重合工程において上述の気相流動層装置1が用いられるのであれば、第2の重合工程においては上述の気相流動層装置1を用いてもよく、あるいは上述の気相流動層装置1以外の気相流動層装置を用いてもよい。
【0088】
また、第2の重合工程において、重合温度は、0℃〜120℃、好ましくは、20〜100℃、重合圧力は、常圧〜10MPa、好ましくは0.2MPa〜8.0MPaである。なお、重合体の分子量を調整するために、水素などの連鎖移動剤を用いることができる。
【0089】
例えば、上述の気相流動層装置1を第1の重合工程に使用した場合、十分に成長していない重合体粒子が第2の重合工程へショートパスすることを抑制できる。すなわち、第2の重合工程に供給される粒子中の重合体成分の各単量体単位の含有量を均一化することができる。したがって、粒子径のみならず、第2の重合工程後に得られる共重合体粒子中の、第1の重合工程より得られる共重合体と、第2の重合工程より得られる共重合体との比率の均一化や、その比率の制御なども容易になるという効果を奏する。
【0090】
このような気相流動層装置1を用いた多槽重合方法によれば、結晶性プロピレン系重合体部と非晶性プロピレン系重合体部とを有する多段重合プロピレン共重合体も製造することができる。また、この多段重合プロピレン共重合体は、耐熱性、剛性及び耐衝撃性に優れるため、バンパーやドアトリムなどの自動車部品、レトルト食品包装容器などの各種包装容器などに用いることができる。
【0091】
続いて、多槽重合反応装置及び方法の好適な例について説明する。図5は、本発明の実施形態にかかる多槽重合反応装置100の一例を示す図である。図5に示した多槽重合反応装置100は、3つの重合反応装置110、130、150がそれぞれ移送ライン119又は138を介して直列に配置された構成を有している。
【0092】
3つの重合反応装置110、130、150のうち最も上流側に配置された重合反応装置110は、バルク重合反応装置であり、第1のオレフィン(例えばプロピレン)を重合するための反応装置である。重合反応装置110が備える反応容器111には、重合触媒導入ライン112から重合触媒が、アルキルアルミニウム化合物導入ライン113からアルキルアルミニウム化合物が、有機珪素化合物導入ライン114から有機珪素化合物が、オレフィン導入ライン115から第1のオレフィンが、水素導入ライン116から水素が、それぞれ連続的に供給されて第1のオレフィンの重合が行われる。
【0093】
また、反応容器111の内部には撹拌機117が設けられており、第1のオレフィンの重合の際に反応容器111の内容物を撹拌することが可能となっている。また、反応容器111の外壁はジャケット118で覆われており、第1のオレフィンの重合に伴い発生する反応熱はジャケット118で除去される。
【0094】
重合反応装置110におけるバルク重合の反応条件は特に制限されないが、重合温度は、通常40〜120℃、好ましくは50〜90℃であり、重合圧力は、通常1〜100MPa、好ましくは5〜40MPaである。
【0095】
反応容器111の下部には、移送ポンプ120を備える移送ライン119が設けられており、反応容器111内の反応生成物(重合触媒を含有する重合体粒子)は移送ライン120を通って重合反応装置130に移送される。
【0096】
重合反応装置130は、図1に示した気相流動層装置1と同様であるが、循環ライン131に、循環コンプレッサー132に加えてさらに熱交換器133を含んで構成されている。また、循環ライン131の熱交換器133と筒状部材10との間には、ガスライン139として、オレフィン導入ライン134及び水素導入ライン135がそれぞれ連結されている。
【0097】
図5に示した筒状部材10は、流動層13の上方において、ガス分散板12に平行なガスの流路の断面積がガスの流れ方向に沿って一定となるように構成されたものであるが、重合反応装置130が備える筒状部材10は、流動層13の上方に拡大部を有していてもよい。拡大部を有する場合、拡大部に形成されるガスの流路は、流動層13を通過したガスが筒状部材10から循環ライン131に排出される前にガスの流速を低減する減速領域としての役割を担っている。拡大部の形状は上記減速領域を形成できるものであれば特に制限されない。
【0098】
重合反応装置130においては、重合反応装置110からの重合触媒を含有する重合体粒子が導入口15から筒状部材10内に連続的に導入される。そして、オレフィン導入ライン134から第1のガスとして第1のオレフィンが、水素導入ライン135から水素がそれぞれ筒状部材10内に導入され、ガス分散板12を介して上向きに吹き込まれることにより、重合触媒を含有する重合体粒子の流動層13が形成される。さらに、オレフィン導入ライン136から第2のガスとして第1のオレフィンが分散板12を介することなく筒状部材10内に導入され、第1のオレフィンの重合が行われる。
【0099】
流動層13を通過したガスは、筒状部材10の頂部から循環ライン131に排出される。排出されたガスは、循環コンプレッサー132により循環ライン131を循環し、熱交換器133により重合反応熱が除去された後、再び筒状部材10の底部から吹き込まれる。なお、排出されたガスを筒状部材10内に吹き込む際には、オレフィン導入ライン134からの第1のオレフィンの供給及び水素導入ライン135からの水素の供給を継続して行うことができる。
【0100】
筒状部材10の抜出口16には、バルブ137を備える移送ライン138が設けられており、移送ライン138の他端は重合反応装置150の反応容器151に連結されている。流動層粒子は、筒状部材10と反応容器151との圧力差により抜出口16から抜き出され、移送ライン138を通って反応容器151内に導入される。バルブ137の開閉操作は、通常、流動層上面の高さが略一定となるように、バルブ137を開閉して流動層粒子を抜き出す。
【0101】
3つの重合反応装置110、130、150のうち最も下流側に配置された重合反応装置150は、円筒型気相流動層式反応装置であり、反応容器151内のガスの流路が狭隘部を有さない点で上述の気相流動層装置1とは別種の気相流動層式反応装置である。なお、反応容器151内の下部にガス分散板152が設けられている点は重合反応装置130と同様である。
【0102】
また、重合反応装置150は循環ライン155を備えている。循環ライン155の上流端は反応容器151の頂部に、下流端は反応容器151の底部に、それぞれ連結されている。循環ライン155には循環コンプレッサー156及び熱交換器157が設けられており、さらに、循環ライン155の熱交換器157と反応容器151との間には、第1のオレフィン導入ライン158、第2のオレフィン導入ライン159、及び水素導入ライン160がそれぞれ連結されている。
【0103】
また、重合反応装置150は、反応容器151内における流動層粒子の流動を補助するための攪拌機161を備えている。
【0104】
重合反応装置150においては、重合反応装置130からの流動層粒子が、反応容器151内に間歇的に導入される。そして、第1のオレフィン導入ライン158から第1のオレフィンが、第2のオレフィン導入ライン159から第2のオレフィン(例えばエチレン)が、水素導入ライン160から水素が、それぞれ反応容器151内に導入され、ガス分散板152を介して上向きに吹き込まれることにより、重合触媒を含有する重合体粒子の流動層153が形成され、第1及び第2のオレフィンの重合が行われる。
【0105】
流動層153を通過したガスは、拡大部154に形成されたガスの流路(減速領域)においてその流速が減速された後、反応容器151の頂部から循環ライン155に排出される。排出されたガスは、循環コンプレッサー156により循環ライン155を循環し、熱交換器157により重合反応熱が除去された後、再び反応容器151の底部から吹き込まれる。なお、排出されたガスを反応容器151内に吹き込む際には、第1のオレフィン導入ライン158からの第1のオレフィンの供給、第2のオレフィン導入ライン159からの第2のオレフィンの供給及び水素導入ライン160からの水素の供給を継続して行うことができる。
【0106】
重合反応装置150における気相重合の反応条件は特に制限されないが、反応温度は、通常0〜120℃、好ましくは20〜100℃である。また、重合圧力は、通常0.1(常圧)〜10MPa、好ましくは0.1〜8.0MPaである。
【0107】
反応容器151の下部にはバルブ163を備える製品排出ライン162が連結されており、重合反応装置150において生成した目的のオレフィン重合体粒子は製品排出ライン162から取り出される。なお、重合反応装置150における気相重合は、オレフィン重合体粒子が十分に成長するまではバルブ163を閉じた状態で行われるが、その後、流動層上面の高さが略一定となるように、バルブ163を開閉してオレフィン重合体を抜き出す。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
[粒子]
本実施例においては、流動層粒子としてポリプロピレンパウダー(以下「PPパウダー」という。)を用いた。
【0110】
PPパウダーとして、平均粒径が1050μm、最小粒径が180μm、最大粒径が1740μmであるものを用いた。
【0111】
[流動層式反応装置]
本実施例では、以下に示す反応装置A及びBを用いた。反応装置A及びBはいずれも最下部にガス分散板(ガス分散板径=50cmφ、ガス分散板面積=1963cm、孔数=137個、孔径=0.8cm、孔配列=4cm間隔正方形配列)を備えるものである。
【0112】
(反応装置A)
反応装置Aとしては、図1に示すように、ガス分散板に平行なガスの流路の断面の直径が単調減少した後直ちに単調増加する形状を有し、当該断面の直径の最小値を与える部分が狭隘部となっている、単調減少領域及び単調増加領域における断面の直径の変化量はいずれも一定である反応装置を用いた。この反応容器のサイズは、分散板直上部の内径Dが50cmφ、単調減少領域10bの高さHが42cm、狭隘部の内径Dが20cmφ、単調増加領域10cの高さHが42cm、単調増加領域10cの最上部の内径が50cmφであった。なお狭隘部には、周方向に均等に配置した8ヶ所のノズル(内径1.9cmφ)から均一にガスを供給できる、図1及び図2に示すような円環状(最小内径20cmφ)のガス供給装置60を備え、この装置の高さ方向中央を狭隘部14とした。
【0113】
(反応装置B)
反応装置Bとしては、図3に示すように、ガス分散板に平行なガスの流路の断面の直径が単調減少した後、しばらく最小値のまま推移し、その後単調増加する形状を有し、この最小値のままで推移する部分が狭隘部となっている、単調減少領域及び単調増加領域における断面の直径の変化量はいずれも一定である反応装置を用いた。この反応容器のサイズは、分散板直上部の内径Dが50cmφ、単調減少領域10bの高さHが40cm、狭隘部を形成する円筒の内径Dが20cmφ、円筒の高さHが24cm、単調増加領域10cの高さH40cm、単調増加領域10cの最上部の内径が50cmφであった。なお、狭隘部を形成する円筒領域10dの下部には、周方向に均等に配置した8ヶ所のノズル(内径1.9cmφ)から均一にガスを供給できる、図3及び図2に示すような円環状(最小内径20cmφ)のガス供給装置60を設けた。
【0114】
(実施例1)
上記反応装置Aに、上記PPパウダーを60kg充填した後、ガス分散板を通して乾燥窒素ガスを供給量2708L/minで導入し、流動層を形成させた。一方、ガス供給装置60からは供給量1500L/minで乾燥窒素ガスを導入した。この際のガス分散板におけるガス速度は23cm/sであり、流動層の高さは102cmで、流動層の粉面は単調増加領域の上端から18cm上方にあった。10分間流動層を形成させた後、乾燥窒素ガスの導入を停止し、反応容器内の粒子を下記方法に従って測定した。なお乾燥窒素ガスは、常温、常圧のガスとした。また最小流動化速度は20cm/sであった。
【0115】
(実施例2)
ガス供給装置60から供給量3000L/minで乾燥窒素ガスを導入したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0116】
(比較例1)
ガス供給装置60からの乾燥窒素ガス導入を停止したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0117】
(実施例3)
上記反応装置Bに、上記PPパウダーを60kg充填した後、ガス分散板を通して乾燥窒素ガスを供給量2708L/minで導入し、流動層を形成させた。一方、ガス供給装置60からは供給量1500L/minで乾燥窒素ガスを導入した。この際のガス分散板におけるガス速度は23cm/sであり、流動層の高さは119cmで、流動層の粉面は単調増加領域の上端から15cm上方にあった。10分間流動層を形成させた後、乾燥窒素ガスの導入を停止し、反応容器内の粒子を下記方法に従って測定した。なお乾燥窒素ガスは常温、常圧のガスとした。また最小流動化速度は20cm/sであった。
【0118】
(実施例4)
ガス供給装置60から供給量3000L/minで乾燥窒素ガスを導入したこと以外は実施例3と同様に行った。
【0119】
(比較例2)
ガス供給装置60からの乾燥窒素ガス導入を停止したこと以外は実施例3と同様に行った。
【0120】
[評価方法]
(小粒子割合比)
上記実施例1〜4、及び比較例1、2で得られた粉体を、粉体最上部から30g、粉体最下部から30g、夫々粒子を取り出し、夫々の粒度分布を測定し、500μm以下の粒子の重量割合を求め、下記式から小粒子割合比を算出した。得られた結果を表1に示す。なお、この値が高いほど、粒径500μm以下の粒子が、粉体下部よりも粉体上部の方により多く存在することを示す。
小粒子割合比=WT/WE
T:粉体最上部から取り出した粒子中での粒径が500μm以下の粒子の重量割合(単位:重量%)
E:粉体最下部から取り出した粒子中での粒径が500μm以下の粒子の重量割合(単位:重量%)
【0121】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の第1実施形態に係る気相流動層装置1を模式的に示す断面図である。
【図2】複数のガス吹込ノズル60aからなるガス吹込部60が備えられた狭隘部14を筒状部材10の上方から見た断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る気相流動層装置1を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る気相流動層装置1を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる多槽重合反応装置100の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0123】
10…筒状部材、12…ガス分散板、13…流動層、14…狭隘部、15…導入口、16…抜出口、60…ガス吹込部、60b…ガス吹込口、100…多槽重合反応装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
狭隘部を有する流路を形成する筒状部材と、
前記流路内における前記狭隘部よりも下方に設けられ、前記流路内に第1のガスを供給して流動層を形成させるガス分散板と、
前記流路の狭隘部に前記ガス分散板を介することなく第2のガスを供給するガス吹込部と、を備え、
前記流路の狭隘部は、前記ガス分散板上に形成される前記流動層の粉面よりも下方に設けられる気相流動層装置。
【請求項2】
前記ガス吹込部は、前記筒状部材の中心軸を取り囲むように配置された複数のガス吹込口を有する請求項1記載の気相流動層装置。
【請求項3】
ガス吹込部から供給される第2のガスの流量が、前記ガス分散板から供給される第1のガスの流量以下とされる請求項1又は2記載の気相流動層装置。
【請求項4】
前記第1のガス及び/又は前記第2のガスが重合用原料ガスを含み、前記流動層において気相重合が行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載の気相流動層装置。
【請求項5】
前記流路の狭隘部の断面積は、前記流路の前記分散板直上部の断面積の0.1〜0.95倍である請求項1〜4のいずれか一項に記載の気相流動層装置。
【請求項6】
狭隘部を有する流路を形成する筒状部材内に、前記狭隘部よりも下方に設けられたガス分散板から第1のガスを供給すると共に、前記ガス分散板を介すことなく前記流路の狭隘部にさらに第2のガスを供給し、前記狭隘部よりも粉面が高くされた流動層をガス分散板上に形成する工程を備える気相流動化方法。
【請求項7】
前記第2のガスの流量を、前記第1のガスの流量以下とする請求項6記載の気相流動化方法。
【請求項8】
狭隘部を有した流路を形成する筒状部材内に、前記狭隘部よりも下方に設けられたガス分散板から第1のガスを供給すると共に、前記ガス分散板を介すことなく前記流路の狭隘部にさらに第2のガスを供給し、前記狭隘部よりも粉面が高くされた流動層をガス分散板上に形成する工程を備え、
前記第1のガス及び/又は前記第2のガスは重合用原料ガスを含み、前記流動層において気相重合を行う重合体の製造方法。
【請求項9】
前記第1のガス及び/又は前記第2のガスはオレフィンモノマーガスを含み、前記流動層においてオレフィン気相重合を行う請求項8記載の重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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