説明

水の光分解反応により水素および酸素を製造する装置

【課題】簡便な構造でありながら、外部からの電位印加なしで、光照射下における水素および酸素の生成速度を飛躍的に増大させ、また水素と酸素を分離して生成することができ、工業的に有利な水素と酸素の効率的な製造装置を提供する。
【解決手段】可視光応答性光触媒9、レドックス媒体9及び対極8含む水素生成セル2と、半導体電極6を有する酸素生成セル1と、前記対極8と前記半導体電極6を導通する手段3とを備えた水素および酸素の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を太陽光などの光エネルギーにより光分解して水素及び酸素を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーおよび資源豊富な水を利用して安価でかつ高性能な光エネルギー変換システムを構築することは、省エネルギーおよび環境保全等の観点からみて、富に重要な課題となりつつある。
特に太陽エネルギーを用いて水を分解して水素を製造する技術は、水素燃料電池の早期実用化のために是非必要な技術である。
【0003】
光触媒による水の光分解法については、近年広く研究されているが、性能は非常に低い。量子収率が高い光触媒は、太陽光にはほとんど含まれない300nm以下の極短波長の紫外光しか利用できないため、太陽光でのエネルギー変換は不可能である。TiO2などおよそ400nmまでの紫外線を吸収できる光触媒での水分解の報告はあるが、量子収率も高くなく太陽エネルギー変換効率は最高でも0.03%程度である。高い太陽エネルギー変換効率を達成するためには太陽光の大部分を占める可視光で水を分解することが不可欠である。
【0004】
また、半導体光触媒を用い可視光で水を分解するためには、その半導体が可視光吸収だけではなく、適切なバンド構造および安定性を有していることが必要となる。光吸収によって生成した電子(e-)が水を還元して水素を生成するためには半導体の伝導体のエネルギーレベルが水の還元電位よりもマイナス側に位置し、また生成した正孔(h+)が水を酸化するためには価電子帯のそれは水の酸化電位よりもプラス側に位置することが必須である。さらに可視光吸収によって生成した電子または正孔によって半導体自身が分解されないことも必要である。
【0005】
一般的に安定である酸化物半導体の価電子帯は主に酸素の2p軌道から構成され、プラスの深い位置に固定される。そのため可視光吸収を有する酸化物半導体の伝導体はほとんどの場合、水の還元電位よりもプラスとなり水素の生成に不適である。また酸化物以外の色素や硫化物等は水の分解に適したバンド構造を有するものもあるが、ほとんどの場合生成した正孔によって自らが酸化分解され不安定である。
【0006】
これまでにいくつかの可視光応答性の半導体光触媒が知られているが、ほとんどがメタノールや硝酸銀といった不可逆な還元剤や酸化剤(いわゆる犠牲試薬)の存在下での反応であり、太陽エネルギー変換とはなっていない。
【0007】
これらの問題を解決し、可視光で水を分解する方法として本出願人は、2つの異なる光触媒をヨウ素レドックス媒体で連結した、2段階水分解システムを開発した(特許文献1, 非特許文献1, 2)。
【0008】
この2段階水分解システムは、水素生成用と酸素生成用の2種の半導体光触媒とヨウ素レドックスを含む水溶液から構成されており、水素生成用光触媒上で生成した電子が水を還元して水素を生成し、同時に正孔が水溶液中のヨウ化物イオン(I-)を酸化してヨウ素酸イオン(IO3-)またはヨウ素錯イオン(I3-)を生成する。一方で酸素生成用光触媒上においては電子によってこれらのヨウ素酸イオン(IO3-)または三酸化ヨウ素(I3-)が還元されてヨウ化物イオンに戻り、正孔によって水が酸化されて酸素が生成する。このサイクルが繰り返されることで水が水素と酸素に分解する。このシステムでは水分解反応がレドックスを介して2つに分かれるため、前述のバンド構造の制約が無くなる。すなわち水素生成用の光触媒は水の酸化は不可能であっても、レドックスを酸化できればよく、また酸素生成用光触媒は水の還元ポテンシャルを有していなくてもレドックスを還元できれば使用可能であるため、様々な半導体が使用可能という利点を有している。
【0009】
しかしこのシステムは、水素生成用の可視光応答性光触媒の効率が極めて低いこと、2種の光触媒を1つの反応溶液中で混合して光を照射するため各種の競争反応が進行して反応効率を低下させる、また2種の光触媒が同じ波長領域の光を吸収するため全体の光の利用効率が低下するといった重大な問題点を有しており、実用化に向けた効率の向上が困難であった。また1室セルであるため水素と酸素が混合気体で生成し爆発の危険性があるため実用化には不向きであった。
【0010】
一方、半導体光触媒を用い、水から水素と酸素を分離生成するシステムとして、TiO2、WO3等の半導体薄膜とPt対極を用いた電気化学的水分解法が多く検討されているが(特許文献2)、いずれの場合も光吸収によって半導体の伝導帯に生じた電子が水を還元して水素を生成する十分なポテンシャルを有していないため、半導体電極と対極の間に外部回路を導入し、電圧の印可(バイアス)をかけることが必要であった。
またこの欠点を補う方法として、半導体薄膜とバイアスを生み出す光電池1つの組み合わせからなり、光照射のみで水を水素と酸素に分離生成可能なシステムが報告されている(特許文献3)。
しかし、このシステムは、構成部材として、(1)導電性基板上に形成された半導体薄膜(酸素生成用)と(2)水素生成用のPt対極の他に、(3)光電池を形成するためのユニットとして、導電性基板上の半導体薄膜とPt対極および電解液の漏れを防ぐ密閉容器が必要であり、更に(4)これらを収容接続するためのイオン交換膜を配したセル等の数多くの部材を必要とし、システムが極めて煩雑となり大規模な生産・応用には不向きであった。
【0011】
【特許文献1】特開平2002−25502号公報
【特許文献2】特開平2001−286749号公報
【特許文献3】特表2004−504934号公報
【非特許文献1】Chem. Phys. Lett., 344(2001) 339.
【非特許文献2】Chem. Commun., (2001)2416.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、レドックスと2種の光触媒を組み合わせて水から水素と酸素を連続的に製造する装置であって、部品点数が少なく、簡便な構造でありながら、光照射下における水素および酸素の生成速度を飛躍的に増大させ、また水素と酸素を分離して生成することができ、工業的に有利な水素と酸素の効率的な製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒と半導体薄膜電極をそれぞれ分離し、両者を導線などにより導通させると、外部からの電圧印加等を必要とせずに単なる光照射のみで水を水素と酸素に分解できることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)水の光分解反応により水素及び酸素を製造する装置であって、可視光応答性光触媒とレドックス媒体を含む水素生成セルと半導体電極を有する酸素生成セルと両者を導通する手段とを備えたことを特徴とする水素および酸素の製造装置。
(2)レドックス媒体の酸化還元準位が0から1.23V(vs.NHE,pH=0)の間にあることを特徴とする上記(2)に記載の水素および酸素の製造装置。
(3)レドックス媒体の酸化体および還元体がヨウ素の荷電数の変化を利用するものであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の水素および酸素の製造装置。
(4)レドックス媒体の酸化体がI3-またはIO3-であり還元体がI-であることを特徴とする上記(1)〜(3)何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
(5)レドックス媒体の酸化体がFe3+であり還元体がFe2+であることを特徴とする時央軌(1)〜(3)何れか記載の水素および酸素の製造装置。
(6)可視光応答性光触媒が、可視光を吸収して水素およびレドックス媒体の酸化体を生成できるものであることを特徴とする上記(1)〜(5)何れか記載の水素および酸素の製造装置。
(7)可視光応答性光触媒が、各種色素と半導体の組み合わせによる色素増感光触媒であることを特徴とする上記(6)に記載の水素および酸素の製造装置。
(8)水素生成セルに、水または水と有機溶媒の混合溶液を含有させることを特徴とする上記(1)〜(7)何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
(9)半導体電極が、光を吸収して酸素および水素生成セルのレドックス媒体の還元能力を有する電子を生成できるものであることを特徴とする上記(1)〜(8)何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
(10)半導体電極が、透明導電性基板上に半導体薄膜を設けたものであることを特徴とする上記(9)に記載の水素および酸素の製造装置。
(11)水素生成セルと酸素生成セル室が、イオン交換膜で連通していることを特徴とする上記(1)〜(10)何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導線などによって導通された多室セルの水素生成用セルに色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒とレドックス媒体の溶液を含み、一方の酸素生成用セルには半導体薄膜電極を電解質溶液中に浸し、半導体薄膜電極から水素生成室の対極へ単に導線をつなぐ構造とすることで、簡便な構造でありながら、外部バイアスの印加なしに光照射のみで水を水素と酸素分解可能であり、従来の光触媒水分解システムで問題であった効率の低さおよび水素と酸素が混合気体で生成することによる爆発の危険性を解決することができる。また半導体薄膜電極に紫外光を含む短波長の光を吸収させ、通過した残りの長波長の可視光を色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒に吸収させることで広い範囲の太陽光を効率良く利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の水の光分解反応により水素及び酸素を製造する装置は、(i)水から酸素ガスを半導体薄膜の存在下で光電気化学反応により製造する酸素生成セル、(ii)光反応により水素イオンから水素ガスおよびレドックスの還元体から酸化体を色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒の存在下で製造する水素生成セルおよび(iii)両者を導線などにより導通させる手段から構成される。
【0017】
本発明の典型的な装置は図1に示される。図1において、1は酸素生成セル、2は水素生成セル、3は導線、4はイオン交換膜である。酸素生成セル1には、透明導電性基板5上に形成された多孔質半導体薄膜6が電解液7に浸されており、導電性基板5から導かれた導線3が水素生成室2の対極8へ繋がっている。水素生成セル2は、可視光応答性光触媒9がレドックス媒体を含む溶液10に懸濁した状態になっている。かかる構成の装置において、外部から照射された光は、まず酸素生成セル1の半導体電極6によって紫外光を含む短波長の光が吸収され、透過した長波長の可視光が水素生成室の可視光応答性光触媒に吸収される。
【0018】
図2は、図1の装置を改変し、平面形にしたものであり、水素生成セル2に含有される粉末状の可視光応答性触媒9を下部に沈殿させた状態とすることで、攪拌操作をしなくても該光触媒を対極8に均一に配置することができる。また、可視光応答性光触媒9が劣化した場合にはセルから除去し、新しい触媒を投入することで容易に初期の性能が復帰できるといったメリットを有するものである。なお、図2の場合、上面に位置する酸素生成セル1は大気解放としてもよい。
【0019】
図3は、図1の装置を更に改変したものであり、一枚の透明導電性基板5の導電側にTiO2等の半導体を固定し半導体薄膜電極6とし、裏側に可視光応答性光触媒9を固定化することによりシンプルな構造としたものである。また色素増感光触媒を用いる場合は透明導電性基板の裏側にPt/TiO2等の半導体粉末を固定化し、色素の吸着を行えば良く、また、色素が劣化した場合にはこれを取り出して色素の再吸着だけを初期の性能を維持することができる。また、Pt等の対極8は底面に設置することで、光の反射率を高めることができ、光エネルギーの有効利用が可能となるといった利点を有するものである。
つぎに、本発明の製造装置による水素および酸素の生成機構について説明する。
【0020】
酸素生成セルでは、光が照射されることにより半導体薄膜上で電子と正孔が生成し、電子は導通手段へと流れ、電極上に残った正孔が水を酸化することによって酸素を生成する。
酸素生成セルにおける反応は以下の通りである。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- (1)
【0021】
酸素生成セルにおいて生成した電子は導通手段により水素生成セルの対極へと導かれ、溶液中に存在するレドックスの酸化体(Ox)を還元してレドックスの還元体(Red)を生成する。反応式は以下の通りである。
e- + Ox → Red (2)
【0022】
水素生成セルでは色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒が長波長の可視光を吸収し電子と正孔を生成し、電子が水素イオンを還元して水素を生成し、正孔が溶液中の還元体(Red)を酸化して酸化体(Ox)を生成する。反応式は以下の通りである。
4H+ + 4Red → 2H2 + 4Ox (3)
【0023】
全体の反応は、(1)、(2)および(3)を合わせた以下の(4)式の反応となる。
2H2O → 2H2 + O2(4)
【0024】
前記の水素生成セルで用いられるレドックス対(Red/Ox)としては、様々な組み合わせが利用できる。本発明の場合はレドックス対の酸化還元準位が水の酸化還元準位の0から1.23V(vs. NHE, pH=0)の間にあることが望ましい。ヨウ素系のレドックスとしては、具体的には例えば、I-/IO3-、I-/IO4-、I-/I3-、I-/I2、I-/HIO、I2/IO3-などの組み合わせがある。また鉄系Fe2+/Fe3+のレドックスも用いることができる。
【0025】
レドックス媒体の濃度は、0.1mmol/L程度から、その飽和溶液までの濃度のものを用いることができる。共存するイオンについては反応を阻害しないものであれば任意に用いることができる。
例えばヨウ素レドックス系における共存陽イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンなどがある。また鉄系レドックスの場合には共存する陰イオンとして、硫酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、過塩素酸イオンなどがある。溶液のpHは活性に非常に大きな影響を与える。ヨウ素系レドックスの場合、酸性側では主にI3-を含むレドックス反応が進行し、アルカリ側では主にIO3-、IO4-を含むレドックス反応が進行する。どのpHで反応を進行させるかは、色素増感光触媒および半導体電極の種類やその安定領域などに依存する。
【0026】
これらのレドックス媒体は色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒が存在する水素生成セルのみに含まれ、半導体電極の存在する酸素生成セルには含まれないことが重要である。酸素生成セルにレドックス媒体が含まれる場合には、半導体電極上で生成した正孔が還元体を酸化する反応が水の酸化と競争的に進行し酸素生成を阻害、全体の効率を低下させる。
このため水素生成セルと酸素生成セルはレドックス媒体を通さないが、水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH-)を通過させるイオン交換膜等で連結されることが好ましい。例えばレドックス媒体がヨウ素系レドックスのように陰イオンである場合には、陽イオン交換膜を用い、逆にレドックスが陽イオンの場合には陰イオン交換膜を用いる。
【0027】
水素生成セルのレドックス媒体を含む溶媒としては、水および水と各種の有機溶媒の混合溶媒を使用することが可能である。
水素生成室に用いる溶媒は可視光応答性光触媒の種類によって最適なものを選択する。具体的な有機溶媒の例としては、アセトニトリルの他にテトラヒドロフラン、炭酸プロピレン、エタノール、2プロパノール、ジメチルホルムアルデヒド等が挙げられる。
たとえば、クマリンやメロシアニン色素増感光触媒上での水素生成速度が水とアセトニトリルの混合溶液を用いることで大きく向上する。
【0028】
一方で酸素生成セルに用いる溶媒は水が最適であるが半導体薄膜上における酸素生成を阻害しないものであれば有機溶媒も利用可能である。いずれの場合においても用いる溶媒が光触媒反応によって容易に分解されないことが必要である。また水素生成セルと酸素生成セルで異なる溶媒を用いる場合には、その両者を連結するイオン交換膜が各々の溶媒を通過させないものを選択する。
【0029】
酸素生成セルの反応溶液には、電極反応の溶液抵抗を下げるための安定な支持電解質が必要である。一般的な電解反応の支持電解質が用いられる。例えば、Na2SO4、H2SO4、Na2HPO4、NaClO4等である。濃度は溶液抵抗を下げるためには高濃度が望ましく、好ましくは0.01mol/l以上であるが、水素生成セルに含まれるレドックス媒体の濃度とのバランスを考慮する。
【0030】
前記述(1)の反応を進行させるため用いられる半導体は、(a)半導体の伝導体の電子がレドックス対の酸化体(Ox)を還元できるポテンシャルがあり、(b)半導体の価電子帯の正孔が水を酸化して酸素を発生できるポテンシャルがあり、(c)反応中に安定である、という条件を満たす必要がある。このような半導体としての具体例としては例えば以下のものを挙げることができる、TiO2, SrTiO3, Ta2O5, ZrO2, BiVO4, AgNbO3, AgPbTi2O6, RbPb2Nb3O10, In2O3-(ZnO)3, Bi2MoO6, Bi2WO6, Ag3VO4, In2-xZnxCu2O5, ABiO2(AはNa, K, Li, Ag等の一価金属),ABiO3(AはNa, K, Li, Ag等の一価金属), TaON, Sm2Ti2S2O5, BaNbO2N, SrTaO2N, LaTaON2, Zr2ON2, NaTiOS2, ZrOS等。
【0031】
上記の半導体は、光照射によって生成した電子を対極に導くために導電性の基板上に薄膜として形成される。この場合の半導体電極基板としては、導電性ガラスや導電性プラスチックなどの透明電極が良い。中でも耐熱性の酸化スズ系導電性ガラスが最も良い。透明導電体が良い理由は、半導体電極に吸収されなかった長波長側の可視光が透過し、水素生成室の色素増感光触媒に吸収され光を効率よく利用できるからである。
【0032】
前述(3)の反応を進行させるため用いられる可視光応答性光触媒は、(a)半導体の伝導体の電子が水を還元して水素を発生できるポテンシャルがあり、(b)半導体の価電子帯の正孔がレドックス対の還元体(Red)から電子をひき抜き酸化体(Ox)を生成できるポテンシャルがあり、(c)反応中に安定である、という条件を満たす必要がある。このような半導体としてはSrTiO3(Crドープ), TaON, SnNb2O6, Cr2Ti2O7, ABiO2(AはNa, K, Li, Ag等の一価金属),ABiO3(AはNa, K, Li, Ag等の一価金属), Sm2Ti2S2O5, BaNbO2N, SrTaO2N, LaTaON2, Zr2ON2, NaTiOS2, ZrOS等が挙げられる。
【0033】
前記述(3)の反応を進行させるために色素増感光触媒を用いる場合は、(a)色素の光吸収によって励起した電子が半導体の伝導体に注入され、その電子が水を還元して水素を発生できるポテンシャルがあり、(b)電子の注入によって酸化状態になった色素がレドックス対の還元体(Red)から電子をひき抜き酸化体(Ox)を生成、色素自らはもとの基底状態にもどるポテンシャルを有する、(c)反応中に安定である、という条件を満たす必要がある。このような色素としてはルテニウムトリスビビリジンやポルフィリン等の各種金属錯体、クマリン、メロシアニン、ポリレン等の有機色素が挙げられる。また半導体としてはTiO2, K4Nb6O17等の水素生成が可能な伝導体レベルを有するものが挙げられる。この場合、光を吸収するのは主に色素であるため、半導体はバンドギャップが大きく紫外光のみ吸収するものが色素の分解を防ぐ点でも好ましい。
【0034】
色素増感光触媒において色素から半導体への電子注入が効率良く進行するためには、色素が半導体と直接接していることが必要であり、この点から色素は半導体表面に物理的に吸着あるいは化学的に固定されていることが望ましい。
【0035】
色素増感光触媒等の可視光応答性光触媒における水素生成を促進させるために助触媒を半導体に担持することも望ましい。助触媒としてはPt、Rhなどの貴金属やRuO2、IrO2などの貴金属酸化物、Ni、NiOx等の遷移金属ならびにその酸化物、さらにカーボンでも良い。好ましくはPtが用いられる。バルク形のTiO2等の場合にはPt等の助触媒はバルク表面に担持されるが、K4Nb6O17等の層状化合物の場合には助触媒を層間に導入することで反応効率の向上が図れる。
【0036】
水素生成セルの対極はレドックス媒体に合わせた適切な材料を用いる。ヨウ素系レドックスの還元にはPt等の貴金属の他に安価なカーボン電極も用いることができる。またレドックス媒体との接触面積を増やし、反応速度を向上させるために電極表面積の大きな多孔質電極やメッシュ電極等を用いることが望ましい。
【実施例】
【0037】
次に本発明を実施例により記述する。
実施例
(1)ルテニウム錯体吸着Pt-TiO2光触媒(可視光応答性光触媒)の調製
チタニウムイソプロポキシドを加水分解後、500℃で1時間焼成して得られたアナターゼ形の酸化チタンを、塩化白金酸(H2PtCl6)を含むメタノール水溶液(メタノール:1vol%)中で攪拌しながら紫外光の照射を行い、白金を表面に0.5wt%担持した酸化チタン(Pt-TiO2)を調製した。ルテニウム錯体(tris(4,4’-dicarboxy-2,2’-bipyridyl)ruthenium(II)complex)のエタノール溶液中でPt-TiO2を12時間攪拌し、遠心分離・乾燥によってルテニウム錯体吸着Pt-TiO2光触媒を得た。
【0038】
(2)ルテニウム錯体吸着Pt-TiO2光触媒の可視光水素生成活性評価
この触媒を電子供与体としてヨウ化ナトリウム(NaI:0.1M)を含む水とアセトニトリル等の有機溶媒の混合溶液100ml中にマグネチックスターラーを用いて懸濁させ、カットオフフィルターを装着した300Wキセノンランプによって420nm以上の波長を持つ可視光を照射した。生成した気体はガスクロによって定性・定量した。その結果、完全な水溶液中での1分間あたりの水素生成速度が0.1マイクロモルであるのに対し、水を5%含む各種有機溶媒中では、それぞれアセトニトリル中4マイクロモル、テトラヒドロフラン中19マイクロモル、炭酸プロピレン中4マイクロモルであった。色素増感光触媒における水素生成反応が、水を含む有機溶媒中で高い性能を示すことがわかる。
【0039】
(3)TiO2電極(半導体電極)の調製
チタニウムイソプロポキシドを加水分解後、500℃および900℃で1時間焼成して得られたアナターゼおよびルチル形の酸化チタン粉末を、水と少量の酢酸でペースト状にし、これを導電性ガラス(F-SnO2, 10オーム/sq)にドクターブレード法で塗布し、500℃で1時間空気焼成することで、アナターゼおよびルチル形の結晶を有するTiO2多孔質薄膜電極を得た。
【0040】
(4)電極の評価1
これらの電極をイオン交換膜(ナフィオン)で仕切った2室セルの酸素生成セルに設置し、水素生成セルのPt対極との間をポテンシオスタットで接続し、両極間にかけるバイアスを変化させながら光照射を行った。酸素生成セルおよび水素生成セルの両方を0.1mol/lのNa2SO4水溶液で満たした場合では、アナターゼ・ルチル共に、プラス0.3V以上のバイアスをかけた場合に光電流が大きく増加した。バイアス無し(0V)での光電流はアナターゼ・ルチルそれぞれ、約0.1mV, 0.15mVと非常に低い値であった。これに対して水素生成セルのみヨウ素レドックス(0.1mol/l-NaI + 1mmol/l-I3-)を含む溶液に代えると、光電流はマイナス0.5Vのバイアスから大きく増加し、バイアス無し(0V)における光電流はそれぞれ1.2mV, 1.8mMとなった。水素生成セルにヨウ素レドックスが存在することで、バイアス無しの状態で10倍以上の光電流が流れることがわかる。またこのときTiO2電極からは酸素の生成が確認された。バイアス無しの状態で光照射を続けると、水素生成室に存在するI3-が全てI-へ還元されるまで光電流が流れた。
【0041】
(5)電極の評価2
上記の反応において、水素生成セルの溶媒を水からアセトニトリルと水の混合溶媒(95:5)に代えて検討を行った(ヨウ素レドックスの濃度は同様)。この場合もバイアス無しの状態でアナターゼ・ルチルそれぞれ、1.4mV, 2.1mVの光電流が観測された。この場合にもTiO2電極からは酸素の生成が確認された。バイアス無しの状態で光照射を続けると、水素生成室に存在するI3-が全てI-へ還元されるまで光電流が流れた。
【0042】
(6)2室セルにおける水素生成セルならびに酸素生成セルへの光照射
ナフィオンで仕切った2室セルの酸素生成セルにTiO2ルチル多孔質薄膜電極を設置し、水素生成セルのPtメッシュ電極との間を導線で接続した。酸素生成セルは0.1mol/lのNa2SO4水溶液とし、水素生成セルは0.1mol/lのNaIを含むアセトニトリル-水混合溶媒とした(水5%)。水素生成セルに前記のルテニウム錯体吸着Pt-TiO2光触媒を加え、マグネチックスターラーで懸濁させながら、300Wのキセノンランプを用いて、酸素生成セルのTiO2電極には紫外光を含む白色光を、水素生成室には400nmより長波長の可視光を照射した。その結果、水素生成室からは約1マイクロモル/分の水素生成が40時間以上定常的に観測された。またこのとき酸素生成セルからは酸素の生成が観測された。導線に流れる電流をモニターしたところ、酸素生成セルのTiO2電極から水素生成室の対極へバイアスの印可無しで電流が流れ続けていることが確認された。
【0043】
比較例 (導通手段を講じない場合)
実施例1の2室セルにおいて、導線を遮断した状態で水素生成セルおよび酸素生成セルに光の照射を行った。その結果、上記(2)の場合と同様に初期に約5マイクロモル/分の水素生成が観測されたが、約30マイクロモルの水素が生成した時点で、水素生成は停止した。これは反応の進行に伴って水素生成セル内のI3-濃度が増加し、これがルテニウム錯体吸着Pt-TiO2光触媒のPt上で再還元される反応が進行し、水素生成が阻害されたためである。この水素生成が停止した時点で導線を接続したところ、再び水素生成セルからの水素生成が観測された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の2室セル型の水素および酸素の製造装置の説明図。
【図2】本発明の他の2室セル型の水素および酸素の製造装置の説明図。
【図3】本発明の更に別の2室セル型の水素および酸素の製造装置の説明図。
【符号の説明】
【0045】
1 酸素生成セル
2 水素生成セル
3 導通手段(導線)
4 イオン交換膜
5 透明導電性基板
6 多孔質半導体薄膜電極
7 電解液
8 対極
9 可視光応答性光触媒
10 レドックス媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の光分解反応により水素及び酸素を製造する装置であって、可視光応答性光触媒、レドックス媒体及び対極を含む水素生成セルと、半導体電極を有する酸素生成セルと、前記対極と前記半導体電極を導通する手段とを備えたことを特徴とする水素および酸素の製造装置。
【請求項2】
レドックス媒体の酸化還元準位が0から1.23V(vs.NHE,pH=0)の間にあることを特徴とする請求項2に記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項3】
レドックス媒体の酸化体および還元体がヨウ素の荷電数の変化を利用するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項4】
レドックス媒体の酸化体がI3-またはIO3-であり還元体がI-であることを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項5】
レドックス媒体の酸化体がFe3+であり還元体がFe2+であることを特徴とする請求項1〜3何れか記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項6】
可視光応答性光触媒が、可視光を吸収して水素およびレドックス媒体の酸化体を生成できるものであることを特徴とする請求項1〜5何れか記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項7】
可視光応答性光触媒が、各種色素と半導体の組み合わせによる色素増感光触媒であることを特徴とする請求項6に記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項8】
水素生成セルに、水または水と有機溶媒の混合溶液を含有させることを特徴とする請求項1〜7何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項9】
半導体電極が、光を吸収して酸素および水素生成セルのレドックス媒体の還元能力を有する電子を生成できるものであることを特徴とする請求項1〜8何れかに記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項10】
半導体電極が、透明導電性基板上に半導体薄膜を設けたものであることを特徴とする請求項9に記載の水素および酸素の製造装置。
【請求項11】
水素生成セルと酸素生成セルが、イオン交換膜で連通していることを特徴とする請求項1〜10何れかに記載の水素および酸素の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−89336(P2006−89336A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277619(P2004−277619)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成14年度文部科学省委託研究「若手任期付き研究支援(バンド制御による高効率可視光応答性ナノ構造光触媒の設計・開発)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】