説明

水を使用する潤滑方法

【課題】本発明は、安全面、衛生面より水を潤滑剤として使用する場合において、潤滑性(極圧性、低摩擦化)を向上し、しかも低環境負荷である、水を使用する潤滑方法を提供する。
【解決手段】鉱油系、合成油系および/または動植物油系の潤滑油に、増ちょう剤を組成物全体に対して1〜60質量%配合して半固体化して得たゲル状潤滑剤あるいはグリースをしゅう動部に塗布した後、該しゅう動部を水で潤滑する潤滑方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性ならびに低環境負荷という点から、最も好ましい液体である水を使用する潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水を油に代わる潤滑剤のベースに用いる試みが行われているが、水の粘度が低すぎて必要な潤滑性が得られないため、水潤滑による汎用的トライボシステムの実現には現状至っていない。水を潤滑剤のベースとして用いて高い潤滑効果を得るために、かつエコロジーの観点から環境への影響の小さい添加剤を含む水潤滑システムの開発が不可欠と言われている。しかし、実用にたえるシステムは見いだされておらず、水を如何に潤滑剤として活用するかが課題となっている。
【0003】
水を潤滑剤とした試みとして、低負荷領域であれば、ある程度実用に耐える水圧作動システムが報告されている。しかし、稼動時に高い接触面圧を受ける転がり軸受のような機械要素の場合、たとえ軸受材料がセラミックスであったとしても、水潤滑は油潤滑の場合の数%程度の軸受寿命しか示さないことも報告されている(非特許文献1)。水潤滑については、しゅう動材料面からの対応が主であり(特許文献1、2)、潤滑方法での対応のほとんど見られない。つまり、水潤滑の技術はまだまだ実用からは程遠い段階であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−293556
【特許文献2】特開平10−101461
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「水系潤滑を活用した低環境負荷トライボシステムに関する研究開発」(財)香川県科学技術振興財団・産学官共同研究開発事業報告書(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全面、衛生面より水を潤滑剤として使用する場合において、潤滑性、特には極圧性を向上し、さらに低摩擦化して効率を向上し、しかも低環境負荷である潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決する潤滑方法を開発するにあたり、グリースなどの半固体化した潤滑剤、特にはゲル状潤滑剤に着目し、それを塗布したしゅう動材料を水で潤滑することにより、摩耗が低減され、低摩擦となることを見出し、本発明を完成するに至った。
ゲル状潤滑剤は、極性のあるゲル化剤が水素結合により三次元のマトリックス(ミセル)を形成し、その中に潤滑油(基油と添加剤)が取り込まれて半固体状になっており、かつゲル化剤が水には溶けにくいためミセルは破壊されず、機器・機械の運転時のしゅう動部はゲル化剤の被膜で覆われ、水はそのまわりを流動し、主には冷却、密封のための働きをする。一方、ゲル状潤滑剤は、それ自体が油性剤であるゲル化剤を大量に含んでおり、また状態が半固体状であるため各種の添加剤を取り込みながら強固な吸着被膜を形成し、摩耗を低減し、低摩擦とすることができる。
これらのことから、しゅう動部に半固体潤滑剤、特にはゲル状潤滑剤を塗布した後、当該しゅう動部に水を使用する潤滑方法が極めて有用な水潤滑の方法であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりの潤滑方法である。
(1)鉱油系、合成油系および/または動植物油系の潤滑油に、増ちょう剤を組成物全体に対し1〜60質量%配合して半固体化して得たゲル状潤滑剤あるいはグリースをしゅう動部に塗布した後、該しゅう動部を水を用いて潤滑する潤滑方法。
【0009】
特には、(2)増ちょう剤が、50〜300℃の融点を有するアミド化合物である上記(1)に記載の潤滑方法。
【0010】
さらには、(3)半固体化したゲル状潤滑剤の液体化温度が、作動中のしゅう動部における水温より高い上記(1)または(2)に記載の潤滑方法。
【0011】
また、(4)ゲル状潤滑剤の基油が生分解性である上記(1)〜(3)いずれかに記載の潤滑方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑方法によれば、油剤と比べて潤滑性に劣る水を液状の潤滑剤として使用する場合でも、しゅう動部に塗布されたゲル状潤滑剤あるいはグリースが、金属などのしゅう動材料の相互接触を妨げる充分な被膜を形成するため、油剤に匹敵する潤滑性、さらには低摩擦化して機械の効率を高めることができる。また、液体が水であることから、極めて安全な作業環境を作ると同時に、ゲル状潤滑剤あるいはグリースが大気に蒸散されないので、周囲の環境を汚すことが防止される。
この潤滑方法は、塗布した半固体化したゲル状潤滑剤あるいはグリースが消費されてしゅう動材料表面の被膜がなくなるまで、メインの潤滑剤として働き、摩耗を低減することから水潤滑の幅広い用途に有用である。また、被膜がなくなるまでの機器・機械の運転により、しゅう動材料の表面を平滑化することから摩耗低減・低摩擦の効果は持続される。被膜が消耗され、水潤滑のみでは不充分な場合は、再度、ゲル状潤滑剤をしゅう動部に塗布すれば長期にわたり効果は持続する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いる半固体化したゲル状潤滑剤およびグリースは、基油と所望により添加剤とからなる潤滑油と増ちょう剤とから調製される。
潤滑油に用いる基油としては鉱油系、合成油系、動植物油系などの潤滑油基油を用いることができる。さらに、これらの潤滑油基油は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
鉱油系の基油としてはパラフィン鉱油、ナフテン鉱油などが、合成油系としては、ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、エステル、エーテル、シリコーン油などが、動植物油系としては牛脂、鯨油、にしん油、大豆油、菜種油、パーム油あるいはそれらを変性させたものなどが挙げられる。
【0014】
これらの基油の中で、極性のある基油が強固なゲルを形成することから好ましい。このような基油としては、エステル系、エーテル系あるいは動植物系などの基油や、極性のあるゲル化剤でゲル化した基油が挙げられ、通常その水素結合により強固なゲルを形成する。
また、少量であれ半固体化したゲル状潤滑剤が水に混入し廃棄されるケースを想定すると、基油は生分解性であることがより好ましい。生分解性の基準としては(財)日本環境協会が認定する「エコマーク」取得のための認定基準がひとつの目安であり、OECD法(OECD301B、C、FまたはASTM D5864、D6731)で生分解度60%以上となっている。基油のうち鉱油等の炭化水素系油は生分解性が無いが、エステル、エーテルのうち特定構造のもの、および動植物油はほとんどは生分解性である。
【0015】
基油の40℃における動粘度としては8〜1000mm2/sが好ましく、32〜500mm2/sがより好ましい。基油の粘度が低すぎると形成される被膜が薄くなり潤滑性が悪くなり、基油の粘度が高すぎるとゲルの流動性がなくなって取り扱いにくくなる。引火点は安全面から高いほど良く、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0016】
基油に添加する添加剤としては、従来から潤滑油、グリースなどに用いられている、アルキル土類金属系清浄剤、摩耗防止剤、極圧剤、分散剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、消泡剤などの添加剤をより性能を向上させるために配合させることができる。
アルカリ土類金属系清浄剤としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を含有するもので、例えばアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレートなどが挙げられる。摩耗防止剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸アミン塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0017】
その他の添加剤は、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂など、分散剤としてはポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸エステルおよびそれぞれのホウ酸変性物などが使用できる。また、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系の酸化防止剤など、金属不活性剤としてはベンゾトリアゾールなど、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、消泡剤としてはシリコーン化合物などがそれぞれ挙げられる。
【0018】
添加剤により低摩擦化をはかるためには、つまり摩擦係数を下げるためには摩擦緩和剤の添加が有効である。摩擦緩和剤にはしゅう動材料に吸着し、その吸着被膜により金属等の直接接触を防止するエステル、アルコール、アミド化合物などの有機系摩擦緩和剤と、しゅう動部材と反応することにより表面に低せん断の被膜を形成することにより摩擦を低減させるモリブデン化合物などの含金属摩擦緩和剤がある。モリブデン化合物としては二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェートなどがある。特にはモリブデン化合物の添加が有効であり、ゲル状潤滑剤への配合量としては0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。添加量が少なすぎると低摩擦化の効果がなく、多すぎると他の添加剤とのバランスが悪くなり安定性が低下する。
【0019】
基油に添加剤を配合した潤滑油を半固体化する増ちょう剤のうち、ゲル状潤滑剤をつくるゲル化剤としてはアミド化合物が適している。アミド化合物としては、アミド基を1個以上有する脂肪酸アミドが好ましく、特にアミド基が1個のモノアミドおよびアミド基を2個有するビスアミドを好ましく用いることができる。モノアミド化合物としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミドおよびステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミドなどの飽和または不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミド類などが挙げられる。通常、脂肪酸アミドの脂肪酸部分の炭素数は8〜20である。
ビスアミド化合物としては、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m-キシレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0020】
アミド化合物の融点は50〜300℃であり、好ましくは100〜200℃で、用途に応じて適切な融点の化合物を選定すればよく、場合によっては2種以上のアミド化合物を混合し、融解する温度を調整してもよい。増ちょう剤であるのアミド化合物は、組成物(ゲル状潤滑剤)全体に対して1〜60質量%、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%配合する。である。仕上がりのゲル状潤滑剤の硬さはゲル化剤の配合量に依存し、配合量が少なすぎると柔らかすぎて形成する被膜が薄くなり、逆に多すぎると硬くなりすぎて取り扱いにくくなる。
【0021】
ゲル状潤滑剤が液体化する温度はゲル化剤の融点より数度低い温度であることから、使用中の、しゅう動部における水潤滑剤の温度より高い液体化温度となるようにゲル化剤を選定することが望ましい。しゅう動部における水潤滑剤の温度は、非接触温度計で測定することができる。また、水潤滑剤をリサイクル使用するような場合には、しゅう動部から流出する水潤滑剤の温度で代用することができる。
【0022】
また、グリースは、潤滑油に増ちょう剤をブレンドして半固体化したものであるが、この増ちょう剤として、尿素化合物、金属石けんを使うことができる。
尿素化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などがあり、目的に応じて適宜用いることができる。
金属石けんは、カルボン酸またはそのエステルをアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属等の金属水酸化物でケン化したものである。ここで、金属としてはナトリウム、カルシウム、リチウム、アルミニウム等が好適であり、カルボン酸としては油脂を加水分解してグリセリンを除いた粗製脂肪酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸や、12−ヒドロキシステアリン酸等のモノヒドロキシカルボン酸、アゼライン酸等の二塩基酸、テレフタル酸、サリチル酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸などが好適である。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には、リチウム石けんが好ましく、特には12−ヒドロキシステアリン酸を用いたリチウム石けんが好ましい。
【0023】
増ちょう剤は、組成物(グリース)全体に対して1〜60質量%、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%配合する。仕上がりのグリースの硬さは増ちょう剤の配合量に依存し、配合量が少なすぎると柔らかすぎて形成する被膜が薄くなり、逆に多すぎると硬くなりすぎて取り扱いにくくなる。
【0024】
本発明で用いる水については特に規定はないが、ゴミ、微生物、金属分がなるべく少ないほうがよい。その点からはイオン交換水や蒸留水が好ましい。これらの水は、水溶性のアルコール、カルボン酸、リン酸などの耐摩耗剤、極圧剤や、菌、黴の発生を抑えるために、防腐剤、防黴剤を適量添加した水潤滑剤として用いることもできる。
【0025】
本発明の潤滑方法をしゅう動部に適用する具体的な手順は、まず、しゅう動材料に半固体潤滑剤、特にはゲル状潤滑剤を塗布してゲル状潤滑剤の塗膜を形成する。塗布は、従来から行われている適宜の方法で、一般的には、はけやブラシ、コーター等を用いて行うことができる。昇温して液体状態のゲル状潤滑剤中にしゅう動材料を浸漬した後、取り出して冷却する方法や、液体状態のゲル状潤滑剤をスプレイで噴霧した後、冷却する方法等でゲル状潤滑剤の膜を形成してもよい。
ゲル状潤滑剤で覆われたしゅう動部を潤滑剤として水を用いて潤滑するには、液体の潤滑油でしゅう動部を潤滑する従来の方法、例えば、滴下、吹きかけ、スプレイ、浸漬などの方法を、潤滑油を水に替えて適用すればよい。しゅう動部全体が水で覆われていることが好ましい。
【0026】
本発明の潤滑方法は、水を用いて潤滑する、摩耗を低減させ、さらに低摩擦化して効率向上を図り、安全で、しかも低環境負荷を低した潤滑方法であり、幅広い水潤滑の用途に有用に適用できる。なお、機械に使用されるしゅう動材料としては、細孔が存在するリン酸マンガン処理やリン酸亜鉛処理のような表面処理された材料が好ましく、半固体化したゲル状潤滑剤が細孔に浸透するため、剥離されにくくなり、その効果がより長時間にわたり持続される。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0028】
〔ゲル状潤滑剤の調製〕
次に示す潤滑油基油、増ちょう剤(ゲル化剤)、添加剤を用いて表1に記載の配合割合によりゲル状潤滑剤(ゲル−1〜ゲル−4)を調製した。配合割合は組成物全体基準での質量%で示した。
(A)基油
パラフィン系鉱油基油(動粘度(40℃)97mm2/s、粘度指数98、流動点−12.5℃、引火点274℃、(株)ジャパンエナジー製、VG100)
ポリオールエステル基油(ペンタエリスリトールと2−エチルヘキサン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸(モル比で1:1)とのエステル、動粘度(40℃)69mm2/s、粘度指数89、流動点−40℃、引火点252℃、日油(株)製、VG68)
(B)添加剤
トリクレジルホスフェート(TCP、味の素(株)製のDURAD TCP)
塩基性カルシウムスルホネート(日本ルブリゾール(株)製のLZ−74、Ca含有量12質量%、塩基価305mgKOH/g)
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC、(株)ADEKA製のサクラルーブ165、Mo含有量4.6質量%、S含有量5.1質量%)
(C)ゲル化剤
エチレンビスステアリルビスアミド(融点145℃、和光純薬工業(株)製試薬)
N−ラウリルラウリン酸アミド(融点77℃、和光純薬工業(株)製試薬)。
【0029】
〔グリースおよび潤滑油〕
グリースとしては市販のJOMOリゾニックグリース NO.2(リチウム(Li)石けん系)と、JOMOウレアグリース NO.2(尿素系)を用いた。潤滑油としては市販の「JOMOハイドラックスA46」(鉱油系作動油)と、「JOMOスクリュー32」(鉱油系空気圧縮機油)を用いた。いずれも(株)ジャパンエナジー製である。
【0030】
〔水〕
水は精製水(イオン交換法により精製した水を蒸留により製造した精製水、共栄製薬(株)製試薬)をそのまま用いた。
【0031】
【表1】

【0032】
〔潤滑性評価〕
調製して得られた4種のゲル状潤滑剤および2種のグリースをそれぞれ実施例1〜4および実施例5〜6として、テストピースに塗布し、その後、精製水の水浴中で潤滑性(FALEX焼付荷重)を測定し、曽田式振子型油性試験機を用い摩擦係数を測定した。得られた結果を表2に示した。一方、比較例として、比較例1、2及び3は、ゲル状の潤滑材を使用せず、水、作動油及び圧縮機油中で、それぞれ実施例と同様にFALEX焼付荷重及び摩擦係数を測定した。また、比較例4〜6は、水潤滑を併用せず、ゲル状潤滑剤を塗布しただけでそれぞれ同様にFALEX焼付荷重及び摩擦係数を測定した。得られた比較例1〜6の結果を表3に示した。
(FALEX試験)
摩耗量:ASTM D2670を参考に、Vブロックにゲル状潤滑剤、グリースあるいは潤滑油を塗布し、ピンと組み合わせてセットした後、水槽に浸して試験し、焼付荷重を測定した。測定は水温20℃、回転数100rpmで、ならし運転(荷重250Lbf、1分)の条件で行った。ただし、比較例4についてのみ、槽に油を入れて試験を行った。
(曽田式振子試験)
曽田式振子型油性試験機を用いた摩擦係数の測定は室温で行った。ローラーピンに半固体化したゲル状潤滑剤、グリースあるいは潤滑油を塗布し、一方、油槽にボールをセットし、油のかわりに精製水を入れて浸るようにした後、振子のローラーピンを静かにのせて摩擦係数の測定を行った。ただし、比較例4については油槽に油を入れた試験とした。
なお比較例1については、FALEX試験のならし運転で焼付を起こし、高い摩擦係数が予想されることから、機器保全のため測定しなかった。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表2と表3からわかるように、本発明の潤滑方法は焼付荷重を向上させ、かつ低摩擦化できることから、極めて良好な潤滑方法であると言える。特に実施例1〜4の塗布用潤滑剤としてゲル状潤滑剤を用いた場合は、焼付荷重が高く、摩擦係数が低いことから極めて良好な結果であり、優れている。また、実施例5、6の塗布用にグリースを用いた場合でも、比較例2、3の潤滑油と比べるとはるかに良好な結果であった。比較例1の潤滑剤の塗布がない場合は極めて低い潤滑性しか示さなかった。比較例4〜6のゲル状潤滑剤のみを用い、水を用いない場合も低い潤滑性しか示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の潤滑方法は、水での潤滑のみでは機器・機械の摩耗が多い場合や、水潤滑における長所である省エネルギー化、安全化をはかる際に極圧性がネックになる場合の潤滑性を向上させ、さらに低摩擦化し効率向上がはかれる方法であり、幅広い用途に有用に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系、合成油系および/または動植物油系の潤滑油に、増ちょう剤を組成物全体に対して1〜60質量%配合して半固体化して得たゲル状潤滑剤あるいはグリースをしゅう動部に塗布した後、該しゅう動部を水で潤滑する潤滑方法。
【請求項2】
増ちょう剤が、50〜300℃の融点を有するアミド化合物である請求項1に記載の潤滑方法。
【請求項3】
半固体化したゲル状潤滑剤の液体化温度が、作動中のしゅう動部における水温より高い請求項1または2に記載の潤滑方法。
【請求項4】
ゲル状潤滑剤の基油が生分解性である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑方法。

【公開番号】特開2011−173997(P2011−173997A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39507(P2010−39507)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】