説明

水中打設装置

【課題】流れのある場所でも所望する位置に品質の良いセメント系固化材を打設することが可能な水中打設装置を提供する。
【解決手段】水中コンクリート7を下端22に向けて導く打設管2を備えた水中打設装置1である。
そして、打設管を挿通させる挿通孔31aが形成された上板31と、その上板に対向して配置される下板32と、上板と下板とを所定の間隔で接続する連結材33とを有して打設管の下端に装着される下端支持部3と、下端の端面22aから連結材の長さより短い上方の位置の打設管の周面に設けられて管軸方向の投影視で挿通孔より側方に突起される突起部4と、下端支持部より上方に突出された位置の打設管と上板とに連結されて打設管を管軸方向に移動させる油圧ジャッキ5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にコンクリートやモルタルなどのセメント系固化材を打設するための水中打設装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トレミー管という打設管を使用して、水中に水中コンクリートを打設することが知られている(特許文献1など参照)。
【0003】
このトレミー管を使用する方法では、その下端を水底に着底させた後に、水中コンクリートをトレミー管の投入口から投入し、トレミー管の内部が水中コンクリートで充満された後に、トレミー管を持ち上げてその下端から水中コンクリートを吐出させる。
【特許文献1】特開昭62−10328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図4(a)に示すように、トレミー管8の下端面81が、水底Sに吐出された水中コンクリート7の中から抜け出すと、その下端面81と水中コンクリート7との隙間から水Wがトレミー管8の内部に入り込むことになる。そして、一旦、水Wが入り込むと、図4(b)に示すように、トレミー管8に沿って水Wの流路が形成され、水中コンクリート7と水Wが混ざり合って品質が低下することになる。このような水Wの浸入は、打設中にトレミー管8が上下に揺動することによっても起こりやすくなる。
【0005】
他方、海洋や河川などの流れのある場所にトレミー管8を立設させるに際して、トレミー管8の上端を作業船などに繋いで固定すると、作業船が流されて移動することによってトレミー管8も所望する位置から移動してしまい、正確な位置に水中コンクリート7を打設することが難しくなる。
【0006】
そこで、本発明は、流れのある場所でも所望する位置に品質の良いセメント系固化材を打設することが可能な水中打設装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の水中打設装置は、セメント系固化材を下端に向けて導く打設管を備えた水中打設装置であって、前記打設管を挿通させる挿通孔が形成された上部と、その上部に対向して配置される下部と、前記上部と前記下部とを所定の間隔で接続する連結材とを有して前記打設管の下端に装着される下端支持部と、前記下端の端面から前記連結材の長さより短い上方の位置の前記打設管の周面に設けられて管軸方向の投影視で前記挿通孔より側方に突起される突起部と、前記下端支持部より上方に突出された位置の前記打設管と前記上部とに連結されて前記打設管を管軸方向に移動させるジャッキ部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記上部は前記打設管の外径より直径が大きな円板状であって前記挿通孔は上部の略中央に形成され、前記下部は前記上部と略同径の円板状であって管軸方向の投影視で前記上部に重なる位置に配置され、前記連結材は複数の連結棒で形成されて前記上部と前記下部の周方向に間隔を置いて配置される構成とすることができる。
【0009】
また、前記ジャッキ部の上方の前記打設管の周面には下方の撮影が可能な向きで水中カメラが固定されている構成が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の水中打設装置は、打設管の下端に下端支持部が装着されるとともに、打設管を管軸方向に移動させるジャッキ部を備えている。
【0011】
このため、打設管を水中の所望する位置に正確に立設させることができるうえに、ジャッキ部によって打設管を管軸方向に移動させ固定することで、打設管の内部に水を取り込むことなく品質の良いセメント系固化材を水中に打設することができる。特に、突起部を下端支持部の上部に当接させることで、打設管の端面と下部との隙間を一定の間隔に保持して、水の浸入を防ぐことができる。
【0012】
また、上部と下部とが円板状であってその略中央に打設管が配置されるのであれば、打設管を傾けることなく立設させることが容易になる。さらに、連結材が複数の連結棒で形成されていれば、それらの連結棒の隙間からセメント系固化材を円滑に吐出させることができる。
【0013】
さらに、ジャッキ部の上方に水中カメラを固定することによって、ジャッキ部の作動状況、及びセメント系固化材の打設状況を水上で確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態の水中打設装置1の構成を説明する斜視図である。
【0016】
まず、構成から説明すると、この水中打設装置1は、水上の投入口21から投入されたセメント系固化材としての水中コンクリート7を下端22に向けて導く打設管2と、その打設管2の下端22に装着される下端支持部3とを備えている。
【0017】
この打設管2は、円筒形の直管で、上端には漏斗状の投入口21が形成され、水上から水底Sまでの水深に合わせて、適宜、継ぎ足すことによって所望する長さに形成される。なお、ここでは、水上に投入口21を備えた打設管2について説明するが、打設管2の水上の端部がコンクリート圧送管に直接、接続されるような形態であってもよい。
【0018】
また、下端支持部3は、打設管2を挿通させる挿通孔31aが形成された上部としての上板31と、その上板31に対向して配置される下部としての下板32と、上板31と下板32とを所定の間隔で接続する連結材33とを有している。
【0019】
この上板31は、打設管2の外径より直径が大きな円板であって、挿通孔31aは上板31の略中央に形成されている。また、下板32は、上板31と略同径の円板であって、打設管2の管軸方向の投影視が上板31に重なる位置に上板31に平行に配置されている。
【0020】
さらに、連結材33は、複数の連結棒33a,・・・で構成されており、上板31と下板32の周方向に一定の間隔を置いて配置される。
【0021】
また、このように構成される下端支持部3は、装着される打設管2に作用する水平力の大きさ、又は下端22に生じるモーメントの大きさによって、大きさ及び重量を調整することができる。例えば、下端支持部3によって打設管2を自立させる場合に、打設管2の長さが長い、流速が早いなどで打設管2の下端22に大きなモーメントが発生するようなときは、下端支持部3の下板32の直径を大きくして接地面積を大きくしたり、下端支持部3全体の重量を大きくしたりすることによって、打設管2が転倒しにくくなるようにする。
【0022】
また、このような下端支持部3の挿通孔31aには、打設管2の下端22を挿入する。この挿通孔31aの内径は、打設管2の外径より大きく形成されており、打設管2を円滑に管軸方向に移動させることができる。
【0023】
図2は、下板32の上面に打設管2の下端22の端面22aを当接させた状態の断面図である。この図2に示すように、下端22の端面22aから連結材33の長さより短い上方の位置の打設管2の周面に、突起部4,・・・が設けられている。
【0024】
この突起部4は、側面視直角三角形状で、打設管2の管軸方向に投影視すると、挿通孔31aより側方に突起部4,・・・が突起されることになる。そして、このような突起部4,・・・を設けることによって、打設管2を吊り上げても、下端支持部3が打設管2から抜け出すことがない。また、突起部4,・・・がストッパになって、図3に示すように、下板32と打設管2の端面22aとの隙間を所定の間隔以下に抑えることができる。
【0025】
また、下端支持部3から上方に突出された位置にはジャッキ部としての油圧ジャッキ5が複数、配置されている。この油圧ジャッキ5は、打設管2と上板31とに連結されて打設管2を管軸方向に移動(上下動)させる。
【0026】
この油圧ジャッキ5は、円筒状のシリンダ51と、油圧を受けてシリンダ51に沿って移動する円柱状のラム52と、シリンダ51と水上とを接続する油圧ホース53とを備えている。
【0027】
このシリンダ51は、下端支持部3から上方に突出された打設管2の周面に固定される。また、ラム52の先端は、下端支持部3の上板31の上面に溶接などによって接合される。
【0028】
ここで、図3は、シリンダ51からラム52が下方に最も突出した状態を示しており、突起部4が上板31の下面に当接しているので、これ以上にラム52を下方に突出させることができない。また、図2は、シリンダ51からラム52が下方に突出する長さが最も短い状態を示しており、打設管2の端面22aが下板32の上面に当接しているので、これ以上にラム52を上方に移動させることができない。
【0029】
また、油圧ホース53は、図2,3に示すように、水上から打設管2に沿って延伸され、油圧ジャッキ5の取り付け位置付近で分岐ホース53aに分岐されて、別の油圧ジャッキ5に接続される。
【0030】
さらに、油圧ジャッキ5の上方の打設管2の周面には、下方の撮影が可能な向きで水中カメラ6が固定される。この水中カメラ6には、電力及び撮像信号を送信する電線61が接続される。
【0031】
次に、本実施の形態の水中打設装置1を使用した水中コンクリート7の打設方法について説明する。
【0032】
まず、油圧ジャッキ5,5の油圧を解除すると自重によって打設管2が下端支持部3に対して下がり、ラム52,52がシリンダ51に対して引き上げられる。そして、打設管2の端面22aは、下板32の上面に当接して蓋がされたような状態になる。
【0033】
そして、図2に示すように、水底Sに下端支持部3の下板32の下面が当接するまで水中打設装置1を沈降させる。この際、水底Sに凹凸があっても、下端支持部3の下板32で面的に接地させることで、安定的に下端支持部3を自立させることができる。
【0034】
このようにして沈設された打設管2は、下端22が下端支持部3によって支持されており、立設させることができる。また、水流によって打設管2が傾くような力が作用する場合であっても、上端の投入口21付近を軽く支えるだけで打設管2を安定して直立させることができる。
【0035】
そして、図2に示すように、打設管2の端面22aが下板32によって蓋をされたままの状態で、投入口21から水中コンクリート7を投入する。この投入に際しては、沈設時に打設管2の内部に水Wが入り込んでいることがあるので、スポンジ状の栓(プランジャ)の上から水中コンクリート7を投入し、水Wとの混合を防ぐ。また、この投入は、投入口21付近まで打設管2の内部に水中コンクリート7が充填されるまでおこなわれる。
【0036】
続いて、油圧ジャッキ5を作動させて油圧を上昇させることで、ラム52を下方に向けて突出させる。すなわち、ラム52を下方に押し出すと、その反力で打設管2が持ち上がり、図3に示すように、突起部4,4が上板31の下面に当接した時点で打設管2の上方への移動は停止する。
【0037】
そして、このように打設管2を持ち上げると、端面22aと下板32との間に一定の隙間が開いて、その隙間から水中コンクリート7が吐出されることになる。
【0038】
また、水中コンクリート7の打設を中断する場合、又は打設管2の下端22を打設された水中コンクリート7の中から一時的に抜き出す場合は、油圧を下げて打設管2を自重で沈降させることによってラム52を引き上げて、端面22aを下端支持部3の下板32の上面に当接させることで打設管2に蓋をしてから、水中コンクリート7の中から抜き出すようにすれば、水Wが打設管2の内部に入り込みにくい。
【0039】
次に、本実施の形態の水中打設装置1の作用について説明する。
【0040】
このように構成された本実施の形態の水中打設装置1は、打設管2の下端22に下端支持部3が装着される。そして、この下端支持部3が水底Sに停留することによって、打設管2を水中の所望する位置に正確に立設させることができる。
【0041】
このように打設管2の下端を支持する構成であれば、海流などの影響を受け難く、作業船の上からであっても正確な位置に水中コンクリート7を打設することができる。
【0042】
また、打設管2を上下動させる油圧ジャッキ5を備えるとともに、打設管2の上方への移動量を制限する突起部4が設けられている。このため、打設管2の端面22aと下板32との隙間を所定値以下に抑えることができ、端面22aが吐出された水中コンクリート7の中から抜け出すことを防止できる。
【0043】
このため、打設管2の内部に水Wを取り込むことがなく、品質の良い水中コンクリート7を水中に打設することができる。
【0044】
また、油圧ジャッキ5を操作することにより、所望するタイミングで打設管2の端面22aに下端支持部3の下板32で蓋をすることができるので、余分な水Wを打設管2の内部に取り込んで、水中コンクリート7の品質を劣化させてしまうようなことがない。
【0045】
さらに、突起部4を下端支持部3の上板31に当接させることで、打設管2の端面22aと下板32との隙間を一定の間隔に保持することが容易にできる。このように隙間が一定で変動しなければ、常に下端22が水中コンクリート7に埋設された状態になり、打設管2の端面22aからの水Wの浸入を防ぐことができる。
【0046】
また、上板31と下板32とが円板であってその略中央に打設管2が配置されるのであれば、打設管2を傾けることなく立設させることが容易になる。すなわち、打設管2が下端支持部3に対して偏った位置に装着されていると、ある方向の抵抗が小さくなってその方向に傾き易くなるが、略中央に立設させることで打設管2を直立させることが容易になる。
【0047】
さらに、連結材33が複数の連結棒33a,・・・で形成されていれば、それらの連結棒33a,・・・の隙間から水中コンクリート7を円滑に吐出させることができる。
【0048】
また、油圧ジャッキ5であれば、水中使用及び遠隔操作に適用させやすい。
【0049】
さらに、油圧ジャッキ5の上方に水中カメラ6を固定することによって、油圧ジャッキ5の作動状況を水上で監視することができる。また、水中コンクリート7の打設状況も、この水中カメラ6で撮影された撮像によって水上で確認することができる。
【0050】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0051】
例えば、前記実施の形態では、セメント系固化材として水中コンクリート7を打設する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、水中モルタル、又はセメントベントナイト等の固化安定液などがセメント系固化材であってもよい。
【0052】
また、前記実施の形態では、複数の連結棒33a,・・・で形成された連結材33について説明したが、これに限定されるものではなく、目の大きな格子材によって形成される円筒管などを連結材とすることもできる。
【0053】
さらに、前記実施の形態では、上板31及び下板32が円板である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、多角形の板などであってもよい。また、上部及び下部として板状部材について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば井桁状又は格子状の部材を下端支持部の上部や下部に使用することもできる。
【0054】
また、前記実施の形態では、突起部4を上板31に当接させることで打設管2の下端22の隙間を一定に保持したが、これに限定されるものではなく、例えば油圧ジャッキ5による管軸方向の移動量を調整することによって、端面22aと下板32との間隔の大きさを調整することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の最良の実施の形態の水中打設装置の構成を説明する斜視図である。
【図2】水中打設装置を水底に沈設した状態を説明する断面図である。
【図3】水中打設装置の打設管の下端から水中コンクリートを吐出させた状態を説明する断面図である。
【図4】従来のトレミー管による水中コンクリートの打設状況を説明する図であって、(a)はトレミー管の下端面から水が入り込む状況を説明する説明図、(b)はトレミー管の内部に水みちが形成された状況を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 水中打設装置
2 打設管
22 下端
22a 端面
3 下端支持部
31 上板(上部)
31a 挿通孔
32 下板(下部)
33 連結材
33a 連結棒
4 突起部
5 油圧ジャッキ(ジャッキ部)
6 水中カメラ
7 水中コンクリート(セメント系固化材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系固化材を下端に向けて導く打設管を備えた水中打設装置であって、
前記打設管を挿通させる挿通孔が形成された上部と、その上部に対向して配置される下部と、前記上部と前記下部とを所定の間隔で接続する連結材とを有して前記打設管の下端に装着される下端支持部と、
前記下端の端面から前記連結材の長さより短い上方の位置の前記打設管の周面に設けられて管軸方向の投影視で前記挿通孔より側方に突起される突起部と、
前記下端支持部より上方に突出された位置の前記打設管と前記上部とに連結されて前記打設管を管軸方向に移動させるジャッキ部とを備えていることを特徴とする水中打設装置。
【請求項2】
前記上部は前記打設管の外径より直径が大きな円板状であって前記挿通孔は上部の略中央に形成され、前記下部は前記上部と略同径の円板状であって管軸方向の投影視で前記上部に重なる位置に配置され、前記連結材は複数の連結棒で形成されて前記上部と前記下部の周方向に間隔を置いて配置されることを特徴とする請求項1に記載の水中打設装置。
【請求項3】
前記ジャッキ部の上方の前記打設管の周面には下方の撮影が可能な向きで水中カメラが固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中打設装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−31497(P2010−31497A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193084(P2008−193084)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】