説明

水中探知装置

【課題】魚群の分布態様に一定の特徴がある場合に、一回の送受信によって精度の高い魚量情報を算出することができる水中探知装置を提供すること。
【解決手段】円錐面状または平面状の探知領域の探知を行う際、一回の送受信によって形成される送受信ビームの垂直ビーム幅Δθの内部に計測対象魚群の全体が含まれるような場合に、得られたエコーデータに、各探知点における送受信ビームの厚みrΔθを乗じた上で、上記円錐面または平面に沿って面積積分することで当該魚群の魚量情報を算出する魚量情報算出部を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚群の魚量情報を算出する機能を備えた水中探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
魚群の魚量情報を算出する水中探知装置は、水産資源の調査に欠かせないものとなっている。従来、魚群の魚量情報を算出する水中探知装置として、特許文献1の装置が知られている。特許文献1には、探知対象とする魚群に対して探知領域を変更しながら複数回の送受信による探知を行い、得られたエコーデータを3次元積分することによって、魚群の魚量情報を算出する水中探知装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−105701
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置は、さまざまな分布態様の魚群について精度の高い魚量情報を算出できる点で優れているが、探知領域を変更しながら複数回の送受信による探知を行って、魚群からのエコーデータを得る必要があり、データの取得に時間が掛かるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、魚群の分布態様に一定の特徴がある場合に、一回の送受信によって精度の高い魚量情報を算出することができる水中探知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある魚群の魚量を計測する際、一回の送受信により円錐面状または平面状の探知領域に形成される送受信ビームの垂直ビーム幅Δθの角度範囲内に、魚量計測の対象とする魚群の全体が含まれているような場合は、当該魚群に対し、垂直方向について理想ビーム(ビーム幅内の送受信感度が一定であり、かつ、ビーム幅外の送受信感度が0であるビーム)による探知を行ったものとみなすことができる。そして、このような場合、一回の送受信によって得られる各探知点のエコーデータに、それぞれの探知点における「送受信ビームの厚み」を乗じた上で、上記円錐面または平面に沿った面積積分を実行することにより、当該魚群の魚量情報を精度良く算出することができる。
【0007】
ここで、垂直ビーム幅とは、探知面(具体的には、上記の円錐面または平面)に対して垂直な方向について、送信ビームと受信ビームを合わせた感度が主軸方向(送信ビームと受信ビームを合わせた感度が最大となる方向)の感度に比べて所定量(例えば3bB)減衰する方向の成す角度あるいは角度範囲を指す。また、各探知点における「送受信ビームの厚み」は、上記垂直ビーム幅を、各探知点における、探知面に垂直な方向(法線方向)の実際の長さに換算したものであり、垂直ビーム幅の角度Δθ〔rad〕に送受波器から当該探知点までの距離rを乗ずることで得られる。
本発明は、上記の原理に基づくものである。
【0008】
本発明の水中探知装置は、自船周囲の円錐面状の探知領域に超音波の送受信ビームを形成して、前記円錐面に2次元的に配列された各探知点のエコーデータを得る送受信部と、前記エコーデータに各探知点における前記送受信ビームの厚みを乗じ、前記円錐面に沿って面積積分することにより、前記探知領域内の魚群の魚量情報を算出する魚量情報算出部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の水中探知装置は、自船周囲の平面状の探知領域に超音波の送受信ビームを形成して、前記平面に2次元的に配列された各探知点のエコーデータを得る送受信部と、前記エコーデータに各探知点における前記送受信ビームの厚みを乗じ、前記平面に沿って面積積分することにより、前記探知領域内の魚群の魚量情報を算出する魚量情報算出部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の水中探知装置は、送受信部からのエコーデータの信号レベルに基づいて魚群エリアを検出する魚群エリア検出部を備え、上記魚量情報算出部は、魚群エリア検出部で検出される魚群エリアに属するエコーデータに基づいて魚群の魚量情報を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一回の送受信によって円錐面状あるいは平面状の探知領域に形成される送受信ビームの垂直ビーム幅の内部に、魚量計測の対象とする魚群の全体が含まれているような場合に、一回の送受信によって精度の高い魚量情報を算出することができる水中探知装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、水中探知装置の一種であるスキャニングソナーについて本発明を適用した場合の実施形態を説明する。
図1は本発明のスキャニングソナーで自船周囲の円錐面状の探知領域を探知する水平モード探知の態様を模式的に示している。1はスキャニングソナーの送受波器であり、船舶の船底に装備される。TBは送受波器1から水中に送信される超音波の円錐面状の送信ビーム、RBは水中の魚群等で反射して帰来するエコーを受信する際、送受波器1により形成されるペンシル状の受信ビームである。送信ビームTBは、水平面に対して所定のティルト角θ(本明細書では自船直下方向と、探知面である円錐面の母線と、が成す角をティルト角θと定義する。)で、自船周囲の全方位に向けて形成される。また、受信ビームRBは、送受波器1により送信ビームTBと同じティルト角θで、送信ビームTBに沿うように全方位に向けて時分割的に、あるいは同時に形成される。
このように本発明のスキャニングソナーは送受信ビームを形成して、円錐面上に2次元的(方位方向、距離方向)に配列される複数の探知点Pのエコーデータを取得する。
【0013】
図2は本発明のスキャニングソナーの構成を表わすブロック図である。送受波器1は、多数の超音波振動子を配列して構成される。2は送信ビーム形成部であり、送受波器1の超音波振動子のそれぞれに対して、所定の位相、振幅をもつ駆動信号を供給して、自船周囲に超音波の円錐面状の送信ビームを形成する。3は受信ビーム形成部であって、送受波器1の受信する受信信号の位相、振幅を制御して、自船周囲の円錐面状の探知領域にペンシル状の受信ビームを形成し、各探知点のエコーデータを得る。なお、公知のため説明を省くが、受信ビーム形成部3は、受信信号に対して増幅、ノイズ除去、AD変換、検波、距離減衰補正等の処理を行う諸回路を含む。(送受波器1、送信ビーム形成部2、受信ビーム形成部3を合わせて送受信部と称する。)4は魚量情報算出部であって、後述するように、受信ビーム形成部3から出力されるエコーデータに基づいて、魚群の魚量情報を計算する。5は表示部であって、受信ビーム形成部3から出力されるエコーデータに基づく水中映像の描画や、魚量情報算出部4において算出される魚量情報の表示を行う。
【0014】
魚量情報算出部4では、受信ビーム形成部3が出力するエコーデータを用いて、エコー積分を実行して魚量情報を算出する。本発明では、対象となる魚群が垂直ビーム幅Δθの範囲に分布していることを前提にして魚量情報を算出する。すなわち、探知対象とする魚群に対し、垂直方向に関して理想ビーム(Δθのビーム幅内の送受信感度が一定であり、かつ、ビーム幅外の送受信感度が0であるビーム)による探知を行ったものとみなす。この場合、次の仮定1と仮定2が成り立つ。
(仮定1)垂直方向に関し、ビームは垂直ビーム幅Δθの理想ビーム(ビーム内の送受信感度は一定で、ビーム外の感度は0)と見なす。
(仮定2)対象魚群の分布は垂直ビーム幅Δθ内におさまっている。
【0015】
さて、魚群内の尾数Nは数1で表される。
【数1】

この式で、(r、θ、φ)は送受波器位置を中心とした球面極座標における探知点の位置座標をあらわす。rは送受波器からの距離、θは自船直下方向を基準とする俯角、φは方位角である。また、n(r、θ、φ)は探知点(r、θ、φ)における尾数密度をあらわす。
【0016】
一般にスキャニングソナーによるティルト角θの水平モード探知では、探知面に2次元的に配列される各探知点の入力換算音響強度Pをr、φ方向について連続的に取得する。上述の仮定1,2の条件下では、主軸方向(θ,φ)の受信ビームによって得られる、送受波器から距離rの探知点の入力換算音響強度Pは、次の数2のように表せる。
【数2】

数2において、Tsは一尾当たりのターゲットストレングス、Pはソースレベル(送波音圧1m換算値)、αは超音波吸収減衰係数、θは送信ビーム及び受信ビームのティルト角を表す。また、h(r´,θ´,φ´;r, θ,φ)は、点ターゲットの3次元点広がり関数である。
【0017】
数2の両辺にr(e2αrrΔθ を乗じ、数3のようにr、φについての面積積分を行う。
【数3】

【0018】
数3における{ }内の積分は、パルス幅をτ、送受信の方位方向指向性関数をb(φ)とすると、次の数4のように展開できる。
【数4】

【0019】
数4を数3に代入し、等価ビーム幅Ψを用いると、数5のようになる。
【数5】

【0020】
従って、N・Tsは次の数6のようになる。
【数6】

【0021】
このように、水平モード探知から得られる入力換算音響強度にr(e2αrの距離減衰補正および、面積積分を体積積分に変換する為の距離補正項rΔθsinθを乗じて面積積分することにより、垂直ビーム内に分布する魚群の魚量を算出することができる。
【0022】
から下記の式で求められる量を生の体積散乱強度とし、S(r, θ,φ)で表す。S(r, θ,φ)は、本発明においては、受信ビーム形成部3から出力される探知点(r,φ)のエコーデータに相当する。このため、S(r, θ,φ)を単に、エコーデータと称する。
【数7】

【0023】
(r,θ,φ)を用いると、数6は下記のように表せる。
【数8】

【0024】
魚量情報算出部4においては、各探知点からのエコーデータS(r, θ,φ)を用いて数8の積分演算が実行され、エコー積分N・Tsが算出される。
ここで、数8の右辺の各項の意味について図4を参照しながら説明する。
図4は探知領域の垂直断面を示したものである。図4から分かるように、数8のrΔθは、送受波器からrの距離にある探知点Pにおける「送受信ビームの厚み」と考えることができる。なお、図4は分かりやすくするため、縦方向を誇張して描いている。
また、数8の右辺のrsinθdrdφは、r、φをパラメータとする、ティルト角θの円錐面の面積要素とみなすことができる。
以上のことから、数8の右辺は、各探知点のエコーデータS(r, θ,φ)に、各探知点での送受信ビームの厚みrΔθを乗算し、ティルト角θの円錐面に沿って面積積分することを意味していることが分かる。
【0025】
一尾当たりのターゲットストレングスTsが既知であれば、数8で求まるエコー積分値N・TsをターゲットストレングスTsで除することで、魚群を構成する魚の尾数Nを推定できる。
【0026】
数8では積分範囲を探知領域全体としたが、図3に示すように、図2の構成に、探知領域のうちエコーデータが所定のスレッショルド値を越えた領域を魚群エリアとして検出する魚群エリア検出部6を追加し、魚群エリア検出部6で魚群エリアとされた範囲についてのみ積分を実行するようにしても良い。また、魚群のまとまりごとに、複数の魚群エリアを設定して、魚群エリアごとに積分を実行して魚量情報を算出するようにしても良い。
【0027】
魚群エリア検出部6を含む構成の場合は、積分範囲は魚群と検出された魚群エリア内だけで良いので、魚量情報算出部での数8の演算式は下記の数9のようになる。
【数9】

なお、数9においてAは魚群エリアを表わす。
【0028】
ところで、上記の説明では、垂直方向に関し、送受信ビームを垂直ビーム幅Δθの理想ビーム(ビーム内の送受信感度は一定で、ビーム外の感度は0)によって近似したが、より正確な魚量情報を得るには、送受信ビームの垂直方向指向性関数bv(θ)を矩形形状の指向特性関数(Δθの範囲で値が1であり、その他の範囲で値が0)で近似したことによる影響を補正することが望ましい。以下、この点について説明する。
【0029】
まず、等価指向性音圧補正係数Kvを下記の数10で定義する。
【数10】

数10のKvを使って、数8を書き換えると次の数11が得られる。
【数11】

より正確なエコー積分値N・Tsを算出するためには、魚量情報算出部4において、数8の演算に代えて、等価指向性音圧補正係数Kvによる補正を含む数11の演算を実行するようにすれば良い。
等価指向性音圧補正係数Kvは、ソナーのビーム特性によって異なるが、発明者が実験に用いたソナーでは0.8程度の値であった。
【0030】
なお、一般にエコー積分では対象魚群を完全に走査して積分することにより正確なエコー積分値を算出できる。ここで、完全な走査とは、魚群に対して空間サンプリング定理を満たす条件(ビーム幅の半分以下のビームピッチ、パルス幅の半分以下のレンジサンプルピッチ)で魚群全体を走査することを言う。
本発明において、受信ビームの方位方向の形成ピッチ、距離方向のレンジサンプルピッチを、空間サンプリング定理を満たすように設定しておくことで、対象となる魚群に対して、完全な走査が実現され、精度の高いエコー積分値を得ることができる。
【0031】
本発明のスキャニングソナーの実際の動作について、サンマ等の浮魚からなる魚群を探知する場合を例に挙げて、説明する。
【0032】
図5は浮魚からなる魚群の探知を行う際の、探知領域の垂直断面を模式的に示したものである。この図に示すように、浮魚を探知する際は、垂直ビーム幅の上縁が略水平になるように送受信ビームのティルト角θを設定する。例えば、垂直ビーム幅が8度なら、水平方向からの主軸方位が垂直ビーム幅の半分の4度になるよう自船直下を基準としたティルト角θを86度に設定する。送信ビーム形成部2、受信ビーム形成部3は設定されたティルト角の送信ビームと受信ビームを探知領域に形成する。受信ビーム形成部3から出力される各探知点のエコーデータは、表示部5に送られて水中映像として描画されるとともに、魚量情報算出部4へ送られる。魚量情報算出部4は、エコーデータを積分することにより、魚量情報(エコー積分N・Tsや尾数N)を算出する。魚量情報算出部4において算出された魚量情報は表示部5に表示される。
【0033】
なお、浮魚には、遊泳深度に限界Dがあることが知られている。図5から分かるように、垂直ビーム幅の下縁は、式L=D/sinΔθで求まる距離Lだけ自船から離れた位置で限界Dの深度に達するから、浮魚の魚群を確実に垂直ビーム幅の範囲で探知して、魚量算出をより正確を行うためには探知対象とする魚群から上記の距離L以上離れた位置に操船して探知することが望ましい。また、自船から距離Lより近い位置にある魚群については、魚量計測の算出対象から除外するようにしてもよい。
【0034】
ここでは、浮魚を探知する場合について説明したが、送受信ビームのティルト角を任意に設定した場合でも、探知画像等から分かる計測対象魚群の分布状況から、当該魚群が送受信ビームの垂直ビーム幅の内部に入っていると推測される場合は、本発明の水中探知装置によって当該魚群の魚量情報を高精度に算出することができる。
【0035】
以上、円錐面状の探知領域を探知する水平モード探知の場合を例に挙げて説明したが、水面に対して垂直な平面状の探知領域を探知する垂直モード探知の場合や、水面に対して所定の傾き角を持つ平面状の探知領域を探知するスラントモード探知の場合にも適用できる。これらの場合、水平モード探知における探知面である円錐面のティルト角θを90度に固定して平面状の探知領域とし、この平面状の探知領域を所定の角度(垂直モード探知なら90度、スラントモード探知なら上記の所定の傾き角)だけ、自船を含む水平軸を回転軸として回転した座標系を設定し、エコー積分を実行する。なお、これらの探知モードは、特許文献1としてあげた特開2006−105701にも説明されている。
【0036】
また、以上の説明では、本発明をスキャニングソナーに適用した場合について説明したが、本発明はスキャニングソナー以外の水中探知装置、例えば半周ソナー、セクタースキャニングソナー、PPIソナー等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のスキャニングソナーの探知領域を説明する図。
【図2】本発明の実施形態のスキャニングソナーのブロック図。
【図3】本発明の実施形態のスキャニングソナーで、魚群エリア検出部6を追加した場合のブロック図。
【図4】本発明のスキャニングソナーの探知領域の垂直断面の模式図。
【図5】浮魚を探知する際の探知領域の垂直断面の模式図。
【符号の説明】
【0038】
1 送受波器
2 送信ビーム形成部
3 受信ビーム形成部
4 魚量情報算出部
5 表示部
6 魚群エリア検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自船周囲の円錐面状の探知領域に超音波の送受信ビームを形成して、前記円錐面に2次元的に配列される各探知点のエコーデータを得る送受信部と、
前記エコーデータに各探知点における前記送受信ビームの厚みを乗じ、前記円錐面に沿って面積積分することにより、前記探知領域内の魚群の魚量情報を算出する魚量情報算出部と、
を備えることを特徴とする水中探知装置。
【請求項2】
自船周囲の平面状の探知領域に超音波の送受信ビームを形成して、前記平面に2次元的に配列される各探知点のエコーデータを得る送受信部と、
前記エコーデータに各探知点における前記送受信ビームの厚みを乗じ、前記平面に沿って面積積分することにより、前記探知領域内の魚群の魚量情報を算出する魚量情報算出部と、
を備えることを特徴とする水中探知装置。
【請求項3】
前記送受信部からのエコーデータの信号レベルに基づいて魚群エリアを検出する魚群エリア検出部を備え、
前記魚量情報算出部は、前記魚群エリア検出部で検出される魚群エリアに属するエコーデータに基づいて魚群の魚量情報を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の水中探知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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