説明

水中放電によるアオコ処理装置、並びに水中放電によるアオコ処理装置の取水方法

【課題】水に多量に含まれたアオコを容易に容器に流入させられる水中放電によるアオコ処理装置、並びに水中放電を用いたアオコ処理装置の取水方法を提供する。
【解決手段】水に多量に含まれたアオコは密度が増し、浮上すると「マット状」または「スカム状」の浮上アオコとなり、取水口や取水口のスクリーンやネットに詰まり易く、容器に流入されにくくなり、水中放電によるアオコ処理の効率は落ちる。
散水装置を用いて取水口付近の「マット状」または「スカム状」の浮上アオコを分解、拡散させて取水口を通り易くさせると、アオコは容器に流入され易くなるので、水中放電を用いたアオコ処理の効率は保たれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中放電によるアオコ処理装置、並びに水中放電によるアオコ処理装置の取水方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湖沼、貯水池等の閉鎖水域においては富栄養化現象等により、アオコ等の人畜に対し毒性を有する水中有害微生物が発生し、水質の悪化の問題が生じており、その解消が求められている。
【0003】
これに対して、フィルタを用いて機械的に回収処理する方法が試みられたが、フィルタの目詰まりにより速やかに能力が低下してしまう問題がある。
また超音波を照射する方法も試みられたが、超音波の能力に限界があり、エネルギー効率上十分なものではなかった。
【0004】
そこで最近、水中に高電圧パルス放電(水中放電)を発生させアオコ等の水中有害微生物の組織を破壊する水中放電による処理装置が発表されている。このパルスはパルス幅ナノ秒単位、ピーク電圧数十kV、繰り返し周波数100Hz程度のものである。
【0005】
図1に示すように、高電圧パルス放電の衝撃波(Pg)を加える前のアオコ(a)は炭酸ガス等の気泡(k)を組織中に有して浮上して光合成を行っている。
図2に示すように、高電圧パルス放電(水中放電)の衝撃波(Pg)をアオコ(a)に加えるとアオコ(a)の中の気泡(k)は破壊される。
図3に示すように、気泡を失ったアオコ(ax)は浮力を失い沈降する。
【0006】
気泡を失い沈降したアオコは、その段階で完全には死滅していないが、もはや浮上できず、水面において太陽光による光合成を行なえないため死滅に至るものである。死滅したアオコは生きているアオコ(a)が有する毒性を失うのでその後の処理は適宜行なうことができる。
【0007】
この水中放電によるアオコ処理は図4に示す次の工程で行われる。
1.水に多量に含まれたアオコ(wa)を一定の大きさの容器(Y)に取り入れる。
2.この水に多量に含まれたアオコ(wa)が入った容器(Y)にはプラス電極(PP)が取り付けられている。
3.容器(Y)の底にはマイナス電極(PN)が取り付けられている。
4.プラス電極(PP)には極短時間、高電圧のパルス状の電圧が印加される。
5.このパルスは例えばパルス幅10ns、ピーク電圧30kV、繰り返し100Hz程度である。
6.すると、プラス電極(PP)の周辺に高電圧パルス放電の衝撃波(Pg)を発生する。
7.この衝撃波(Pg)によりアオコは沈降を開始する。
【0008】
これが水中放電によるアオコ処理の工程である。
ところで、通常アオコ(a)は水面付近10cmの深さの層に浮遊しており、浮遊の状態はそのアオコ(a)の濃さにより様々である。
アオコ(a)が比較的薄い場合は水とアオコ(a)は混ざり合い、膜状のアオコが湖面を覆う状態になる。
この状態から更にアオコ(a)が増えると、アオコ(a)は厚く「マット状」に湖面を覆う状態に移行する。この状態から更にアオコ(a)が増えると、アオコ(a)は「スカム状」に湖面を覆う状態となる。
【0009】
また、通常湖沼には木切れや枯葉塵芥類が同時に浮遊しており、これらの物が容器(Y)内に流入されると水中放電によるアオコ処理が効率よく出来ない。よって湖沼水の取水口(D)にこれらの流入を防ぐためにスクリーンやネット(N)が取り付けられている。
木切れや枯葉塵芥類はこのスクリーンやネット(N)により阻止されて容器(Y)内には流入しないが、アオコ(a)が前記「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)になると、その「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)をも容器(Y)内に容易に流入されなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、従来の水中放電によるアオコ処理装置(A)には、湖沼水の取水口(D)にスクリーンやネット(N)が取り付けられているために、アオコ(a)が前記「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)になると、その「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)をも容器(Y)内に容易に流入されなくなるので、アオコ処理が効率よく実行されなくなり、「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)は枯れて特有の異臭を放ち続ける。
【0011】
従って、水中放電によるアオコ処理は、アオコ(a)が前記「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)になると能率よく処理されなくなり、時間と労力がかかり、不便である。
【0012】
このように、従来の水中放電による処理装置(A)は、アオコ(a)が前記「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)になると能率よく処理されなくなり、時間と労力がかかり、不便であった。そこで、アオコ(a)が前記「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)になった場合において、アオコ(a)が湖沼水の取水口(D)や取水口(D)のスクリーンやネット(N)を滞りなくくぐり抜けて、容器Yに流れることができる水中放電によるアオコ処理装置が求められていた。
【0013】
本発明は、以上のことを鑑みて創案されたものであり、アオコ(a)が湖沼水の取水口(D)や取水口(D)のスクリーンやネット(N)を滞りなくくぐり抜けることができる水中放電による処理装置、並びに水中放電によるアオコ処理装置の取水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の水中放電によるアオコ処理装置は、水中に浸かる取水部と、該取水部は水を通す散水管と接続され、該散水管の他端には取水口より上方の位置に12平方mm以上の散水穴を有する散水部を設けた散水装置とを備える。
ここで、取水口より上方の位置に12平方mm以上の散水穴を有した散水部によって、取水口付近に散水されて、「マット状」や「スカム状」の浮上アオコは分解、拡散されるので、アオコが湖沼水の取水口や取水口のスクリーンやネットをくぐり抜けることができる。
【0015】
また、本発明の水中放電によるアオコ処理装置において、散水部の散水穴を12平方mm未満に穿孔した場合、取水口より上方の位置に12平方mm未満の散水穴を有した散水部によって、取水口付近に散水されて、「マット状」や「スカム状」の浮上アオコは分解、拡散されるので、アオコが湖沼水の取水口や取水口のスクリーンやネットをくぐり抜けることができる。
【0016】
また、本発明の水中放電によるアオコ処理装置の取水方法が、水面から10cm以上深い位置のアオコの少ない水をくみ上げて、その水を散水する場合、取水口より上方の位置に散水穴を有した散水部によって、取水口付近に散水されて、「マット状」や「スカム状」の浮上アオコは分解、拡散されるので、アオコが湖沼水の取水口や取水口のスクリーンやネットをくぐり抜けることができる。
【0017】
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】衝撃波を加える前のアオコを示す概略図である。
【図2】アオコに衝撃波を加えたところを示す概略図である。
【図3】衝撃波を加えた後のアオコを示す概略図である。
【図4】従来のアオコ処理装置の実施例を示す概略図である。
【図5】本発明の散水装置を備えるアオコ処理装置の実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図5は、本発明の水中放電による散水装置を備えるアオコ処理装置の実施例を示す概略図である。
図5において、本発明の水中放電による散水装置を備えるアオコ処理装置は、アオコが発生している湖などに浮かべてアオコを処理する。
まず、水中放電によるアオコ処理装置をアオコ(a)が発生している湖などに浮かべた時点で、容器(Y)の中にアオコ(a)を含んだ水が流れ込む。
【0020】
散水装置を備える水中放電によるアオコ処理装置の処理の手順は次のとおりである。
イ.散水装置(S)の電源を入れる。すると、取水部(SM)が水を吸い上げ、その水は散水管(SL)、散水部(SS)、を通り散水穴(SP)から取水口(D)付近の「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)に散水される。
ロ.排水装置(H)の電源を入れる。すると、排水発動部(HM)の動きに連動して排水部(HP)が始動する。すると、矢印の方向にアオコを含んだ水が排水される。また、排水された分だけ、アオコを含んだ水は取水口(D)から容器(Y)に流れ込む。
ハ.高電圧パルス発生装置(P)の電源を入れる。すると、高電圧パルス発生器(PM)が高電圧パルスを発生させる。すると、電極(PP)からマイナス電極(PN)の方向へ高電圧パルス放電の衝撃波(Pg)が発生し、その衝撃波(Pg)が発生した付近のアオコ(a)の気泡(k)が破壊され、アオコ(ax)は浮力を失う。
ニ.気泡を失ったアオコ(ax)(浮力を失ったアオコ)は排水出口方向に流され、容器(Y)を出たあとは沈降する。
【0021】
上記イ.で散水されるアオコの少ない水(w)は水面より10cm程度低い位置の水を給水部で吸い上げるほうが、「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ(wb)を分解、拡散させ易く、アオコを取水口へ流入させ易い。
また、散水部(SS)の散水穴(SP)は12平方mm以上穿孔したものでもよいし、12平方mm未満に穿孔したものでもよい。
こうして、容器の取水口(D)の付近に水を散水し、「マット状」または「スカム状」の浮上アオコ(wb)は分解、拡散されて、アオコ(a)は容器内に容易に流入される。
【0022】
また、上記ハ.で水中放電によるアオコ処理が能率的に実行される。
【0023】
以上、本発明の水中放電による散水装置を備えるアオコ処理装置の実施例を示したが、散水装置に替えて、次の攪拌装置や曝気装置を備えることもできる。
攪拌装置は、取水口や取水口のスクリーンやネット付近の水中に浸かる攪拌体を動かし、取水口付近の「マット状」や「スカム状」の浮上アオコを攪拌させる。
曝気装置は、取水口や取水口のスクリーンやネット付近の水中に浸かる曝気口から空気を送り、取水口付近の「マット状」や「スカム状」の浮上アオコを曝気させる。
この攪拌装置や曝気装置を備える水中放電によるアオコ処理装置でも、取水口付近の「マット状」や「スカム状」の浮上アオコは分解、拡散されるので、アオコが湖沼水の取水口や取水口のスクリーンやネットをくぐり抜けることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る水中放電によるアオコ処理装置は、アオコが湖沼水の取水口や取水口のスクリーンやネットをくぐり抜けることができる。
【0025】
本発明に係る水中放電によるアオコ処理装置の取水方法は、アオコが湖沼水の取水口や取水口のスクリーンやネットを滞りなくくぐり抜けることができるよう水中放電によるアオコ処理装置に取水できる。
【符号の説明】
【0026】
a アオコ
k 気泡
kh 破壊される気泡
ax 気泡を失ったアオコ
kx 破壊された気泡
w アオコの少ない水
wa 水に多量に含まれたアオコ
wb 「マット状」や「スカム状」の浮上アオコ
A 従来の水中放電によるアオコ処理装置
Y 容器
D 取水口
N スクリーンやネット
S 散水装置
SM 取水部
SL 散水管
SS 散水部
SP 散水穴
H 排水装置
HM 排水発動部
HP 排水部
P 水中放電装置
PM 高電圧パルス発生器
PP プラス電極
PN マイナス電極
Pg 高電圧パルス放電の衝撃波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浸かる取水部と、該取水部は水を通す散水管と接続され、該散水管の他端には取水口より上方の位置に12平方mm以上の散水穴を有する散水部を設けた散水装置を備える水中放電によるアオコ処理装置。
【請求項2】
前記散水穴は、12平方mm未満にした請求項1に記載の水中放電によるアオコ処理装置。
【請求項3】
前記取水部は、水面から10cm以上深い位置の水をくみ上げて、その水を散水する請求項1または請求項2に記載の水中放電によるアオコ処理装置の取水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104289(P2013−104289A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260964(P2011−260964)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(596009788)株式会社末松電子製作所 (16)
【出願人】(510182881)株式会社融合技術開発センター (2)
【Fターム(参考)】