説明

水中植生工法及び水中植生施設

【課題】台風時の藻場の破損を防止し、失われた生態系を効率よく修復することができる水中植生工法及び水中植生施設を提供すること。
【解決手段】ポット11内に充填した生育基盤材12の上面に形成された植生面14に水生植物13を植生した水生植物生育体10と、水生植物生育体10を被修復水域の水中に浮遊させるための浮体20と、水生植物生育体10を被修復水域の水中生態系を修復可能に、この被修復水域の水中に係留し、浮体20の浮力を調整することによって、水生植物生育体10の水深を変更可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖沼、海洋等の植生技術に関し、より詳細には、水中の生態系を修復するための水中植生工法及び水中植生施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水質汚染や沿岸海域の埋め立て事業の促進等による海洋環境の破壊が問題となっている。そのため、人工的に水生植物の藻場を造成することにより、水質浄化を行い、破壊された生態系の回復を図っている。
【0003】
従来の水生植物の藻場の造成には、水生植物生育体を浮体に取り付けて、被修復水域に浮遊させる方法があった。
【特許文献1】特開2004−236561
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の水生植物生育体を浮遊させて藻場を造成する方法には、次のような問題点があった。
(1)台風時に海面に発生する波によって、藻場の生育基盤材が流出したり、藻場そのものが破壊されてしまう。
(2)藻場が重量物であると、クレーン船などの大型揚重機が必要であり、設置工事費が過大になる。
(3)藻は日照量により生育が大きく影響されるので、設置場所での海面からの水深を調整する必要がある。
【0005】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたもので、台風時の藻場の破損を防止し、容易な設置方法で、失われた生態系を効率よく修復する水中植生工法及び水中植生施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本願の第一発明である水中植生工法は、底部を有するポットと、このポット内に充填した生育基盤材と、この生育基盤材に植生した水生植物と、からなる水生植物生育体と、前記水生植物生育体を水中に浮遊させるための浮体と、前記水生植物生育体を水中に係留するための係留手段と、を使用した水中植生工法であって、前記浮体の浮力を調整する浮力調整装置を追加して使用し、前記浮力調整装置により、浮体の浮力調整を行うことで、前記水生植物生育体の水深を変更可能にしたことを特徴とする。
【0007】
本願の第2発明は、前記第1の発明であって、前記複数の水生植物生育体を並設し、前記複数の水生植物生育体を、高低差を設けて設置したことを特徴とする。
【0008】
本願の第3発明は、前記第1または第2の発明であって、前記水生植物生育体の下方に漁礁を配置し、前記漁礁に前記水生直物生育体を取り付けたことを特徴とする。
【0009】
本願の第4発明は、前記第1乃至3のいずれかの発明であって、前記水生植物生育体の植生面に、前記生育基盤材の流出を防止するための繊維マットとメッシュ材を重合して配置したことを特徴とする。
【0010】
本願の第5発明である水中植生施設は、水中にて水生植物を育成して水域の環境を改善する施設であって、底部を有するポットと、このポット内に充填した生育基盤材と、この生育基盤材に植生した水生植物と、からなる水生植物生育体と、前記水生植物生育体を水中に浮遊させるための浮体と、前記水生植物生育体を水中に係留するための係留手段と、前記浮体の浮力を調整する浮力調整装置と、からなり、前記浮力調整装置により、前記浮体の浮力調整を行うことで、前記水生植物生育体の水深を変更可能に構成することを特徴とする。
【0011】
本願の第6発明は、前記第5の発明であって、前記水生植物生育体を複数並設し、前記複数の水生植物生育体を、高低差を設けて設置したことを特徴とする。
【0012】
本願の第7発明は、前記第5または第6の発明であって、前記水生植物生育体の下方に漁礁を配置し、前記漁礁に前記水生直物生育体を取り付けたことを特徴とする。
【0013】
本願の第8発明は、前記第5乃至7のいずれかの発明であって、前記水生植物生育体の植生面に、前記生育基盤材の流出を防止するための繊維マットとメッシュ材を重合して配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果のうちの少なくとも一つを得ることができる。
<1>浮体の浮力を調整することにより、台風時には水生植物生育体を海底に沈めることで、波による破壊を防ぐことができると共に、逆に水生植物生育体を海面まで浮上させて、水生植物生育体をメンテナンスすることが可能となり、水生植物生育体の生育環境を改善することが可能となる。
<2>海岸から浮かせた状態で、ボートなどで曳航し、設置場所で沈めることができる。
<3>設置場所の濁度に応じて最適な水深に設置することができる。
<4>水生植物生育体の配置に高低差がつくことにより、上段で生育された水生植物に実った種子を、下段の水生植物生育体で受け止め、自然育成することができる。
<5>水生植物生育体の係留部材を漁礁とすることにより、漁礁作用が得られるうえに、構成部材数を削減することができる。
藻場は、水質浄化だけでなく、枯死した水生植物の葉が底生生物の餌となる。その底生植物が幼稚魚の餌となり、また、水生植物が潮流を和らげ、外敵から身を守るための隠れ場所ともなるため、幼稚魚や小型生物の生息場所となり、水中の食物連鎖の基礎を支えている。
漁礁には、その幼稚魚や小型生物を捕食する成魚が多く集まる。また、その成魚の排泄物や死骸が水中のバクテリアにより分解されると、水生植物の栄養となる。
このように、藻場と漁礁を組み合わせることにより、相乗効果で、食物連鎖が機能し、海域環境が改善される。
<6>水生植物生育体の構成に繊維マットとメッシュ材を使うことにより、潮流による生育基盤材の流出を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
<1>本発明の概要
本発明に係る水中植生施設は、図1に示すように、水生植物生育体10と、浮体20と、係留手段30と、浮力調整装置40とを使用する。以下に各資材について詳述する。
【0017】
<2>水生植物生育体
水生植物生育体10は、水中に藻場を形成するための要素であり、図1に示すように、ポット11と、このポット11内に充填した生育基盤材12と、この生育基盤材12の最上面に形成される植生面14に生育した水生植物13とから構成する。
ポット11は、底部を有し、ポーラスコンクリートで形成する。ポット11をポーラスコンクリート製とすることにより、軽量化が図られるとともに、水や空気等の通路を有しているため、水生植物13が生育しやすい環境を造ることができる。
ポット11は水生植物13の量により、大きさを任意に設定する。
また、ポット11は、軽量化を図るために、例えば、金属製の枠体で構成することもできる。
生育基盤材12は、水生植物13を生育するために根付かせるものである。例えば、水生植物13が砂泥性海草藻類の場合には、生育基盤材12を、砂泥にて構成した底質とすることができ、水生植物13が岩礁性海草藻類の場合には、生育基盤材12を岩礁とすることができる。
水生植物13は、海草藻類の海洋に生息する植物や、河川や湖沼などに生息する植物であり、例えばアマモが好適である。
水生植物13は別の場所で生育したものを搬入したものと、現地で生育したものを含む。
【0018】
<3>浮体
浮体20は、図1に示すように、水生植物生育体10に接続し、水生植物生育体10を水中に浮遊するために用いる。
浮体20は空気21と水22を内包しており、後述する浮力調整装置40により、空気21と水22の量を調整し、浮体20にかかる浮力を調整する。
浮体20には、水および空気注入用のホース23を取り付ける。ホース23の他端はバルブ24で止め、ブイ25で水面に浮かせた状態とする。また浮体20には逆止弁26を取り付ける。
浮体20の数や大きさは、水生植物生育体10の大きさにより、任意に設定する。
浮体20と水生植物生育体10の接続は、直接接続してもよいし、ロープを介して接続してもよい。
【0019】
<4>係留手段
係留手段30は、図1に示すように、水生植物生育体10の下部に接続する。
係留手段30は、縄等で構成し、水生植物生育体10が、潮流により流されないように、水底や護岸に係留する。
【0020】
<5>浮力調整装置
浮力調整装置40は、図1に示すように、モータ41、ポンプ42、コンプレッサー43、電源44、とから構成し、浮体20にかかる浮力を調整するために用いられる。
浮力調整装置40と浮体20は、図2に示すように、ブイ25によって水面上に浮いているバルブ24に、ホース45を繋いで接続する。
水生植物生育体10を沈めるときには、バルブ24を開き、モータ41およびポンプ42を運転し、ホース45からホース23を介して、浮体20に水を送入する。浮体20内の空気21は、逆止弁26から抜け、浮体20内は水22で充たされ、浮体20は浮力を失い、水生植物生育体10は水底に沈下する。
逆に、水生植物生育体10を浮上させるには、バルブ24を開き、コンプレッサー43を運転し、ホース45からホース23を介して、浮体20に空気を送入する。浮体20内の水22は、逆止弁26から抜け、浮体20内は空気21で充たされ、浮体20の浮力が上昇し、水生植物生育体10は浮上する。この際、あらかじめ係留手段の長さを調整しておくことで、水生植物生育体10は海面まで浮上する。
また、浮力調整装置40は、浮体20に内蔵してもよいし、浮体20とは別個独立としてもよい。電源44はソーラー電源でもよいし、蓄電池でもよい。
【0021】
[改善方法]
<1>水生植物生育体の被修復水域への配置
水生植物生育体10は、浮体20内を空気21で充たした状態で、被修復水域まで曳航する。
そして、浮力調整装置40により、浮体20に水を送入して、図3に示すように、水生植物生育体10を沈め、あらかじめ長さを調整した係留手段30に接続する。
その後、浮力調整装置40により、浮体20に空気を送入して、係留手段30が緊張するまで、水生植物生育体10を浮上させる。
被修復水域とは、生態系の修復が必要な水域、例えば食物連鎖のバランスが崩れた水域を意味する。
【0022】
<2>水生植物生育体の水深の変更
水生植物生育体10を配置する被修復水域の濁度により、水生植物13が必要とする光量を得られる深度が変わる。よって、水生植物生育体10は、係留手段30の長さを調整することにより、水生植物13が必要とする光量を十分得られる最適な深度に配置する。
台風時には、浮体20にかかる浮力を小さくし、図4に示すように水生植物生育体10を沈めることにより、波による破壊を防止することができる。台風通過後は、浮体20にかかる浮力を大きくし、所定の水深に戻す。
また、浮体20にかかる浮力を大きくし、水生植物生育体10を海面まで浮上させて、水生植物生育体10をメンテナンスすることが可能となる。これにより、水生植物生育体10の生育環境を改善することが可能となる。
【0023】
[その他の実施の形態1]
以降に他の実施形態について説明するが、実施の形態と同一の部位については同一の符号を付して説明を省略する。
【0024】
水生植物生育体10は、図5に示すように、複数を、高低差をつけて配置しても良い。これにより、上段で生育された水生植物13に実った種子15を、下段の水生植物生育体10で受け止め、自然育成することができる。
【0025】
[その他の実施の形態2]
水生植物生育体10は、図6に示すように、水生植物生育体10の下部に設置した重量構造物で構成した漁礁50に取り付けてもよい。
水生植物生育体10と漁礁50の相乗効果により、食物連鎖が機能し、海域環境が改善される。
また、施設の構成部材数を削減することができる。
【0026】
[その他の実施の形態3]
水生植物生育体10の構成を、図7に示すように、ポット11と、このポット11内に入れた生育基盤材12と、生育基盤材12の植生面14に敷設する繊維マット16と、繊維マット16の上面に重合するメッシュ材17と、水生植物13と、から構成してもよい。
繊維マット16は潮流による生育基盤材12の流出を防止する。また、図8で示すようにスリット18を持ち、そこから水生植物13が発芽し、生長する。スリット18は図9および図10に示すように、形が−形でも+形でもよいし、配列がスクエア状でも千鳥状でもよい。
メッシュ材17は例えば金属製の網で、下面の繊維マット16に重量を付与し、繊維マット16が植生面14から剥離するのを防止し、網の間から水生植物13が生長する。
メッシュ材17は、繊維マット16を固定でき、水生植物13の生育を阻害しない間隔のものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の水中植生工法を概略的に示す構成図。
【図2】本発明の水生植物生育体の浮力調整方法を示す図。
【図3】本発明の水生植物生育体の設置方法を示す図。
【図4】本発明の水生植物生育体を浮力調整して沈めた状態を示す図。
【図5】本発明の水生植物生育体を段差を設けるように連結した状態を示す図。
【図6】本発明の係留部材を漁礁とした状態を示す図。
【図7】本発明の水生植物生育体の構成に繊維マットとメッシュ材を用いた状態を示す斜視断面図。
【図8】本発明の水生植物生育体の構成に繊維マットを用いた状態を示す断面図。
【図9】本発明の繊維マットの平面図。
【図10】本発明の繊維マットの平面図。
【符号の説明】
【0028】
10 水生植物生育体
11 ポット
12 生育基盤材
13 水生植物
14 植生面
15 種子
16 繊維マット
17 メッシュ材
18 スリット
20 浮体
21 空気
22 水
23 ホース
24 バルブ
25 ブイ
26 逆止弁
30 係留手段
40 浮力調整装置
41 モータ
42 ポンプ
43 コンプレッサー
44 電源
45 ホース
50 漁礁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部を有するポットと、このポット内に充填した生育基盤材と、この生育基盤材に植生した水生植物と、からなる水生植物生育体と、前記水生植物生育体を水中に浮遊させるための浮体と、前記水生植物生育体を水中に係留するための係留手段と、を使用した水中植生工法であって、
前記浮体の浮力を調整する浮力調整装置を追加して使用し、
前記浮力調整装置により、前記浮体の浮力調整を行うことで、前記水生植物生育体の水深を変更可能としたことを特徴とする、
水中植生工法。
【請求項2】
請求項1に記載の水中植生工法において、前記複数の水生植物生育体を並設し、前記複数の水生植物生育体を、高低差を設けて設置したことを特徴とする、水中植生工法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水中植生工法において、前記水生植物生育体の下方に漁礁を配置し、前記漁礁に前記水生植物生育体を取り付けたことを特徴とする、水中植生工法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の水中植生工法において、前記水生植物生育体の植生面に、前記生育基盤材の流出を防止するための繊維マットとメッシュ材を重合して配置したことを特徴とする、水中植生工法。
【請求項5】
水中にて水生植物を育成して水域の環境を改善する施設であって、
底部を有するポットと、このポット内に充填した生育基盤材と、この生育基盤材に植生した水生植物と、からなる水生植物生育体と、
前記水生植物生育体を水中に浮遊させるための浮体と、
前記水生植物生育体を水中に係留するための係留手段と、
前記浮体の浮力を調整する浮力調整装置と、からなり、
前記浮力調整装置により、前記浮体の浮力調整を行うことで、前記水生植物生育体の水深を変更可能に構成した、
水中植生施設。
【請求項6】
請求項5に記載の水中植生施設において、前記水生植物生育体を複数並設し、前記複数の水生植物生育体を、高低差を設けて設置したことを特徴とする、水中植生施設。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の水中植生施設において、前記水生植物生育体の下方に漁礁を配置し、前記漁礁に水生植物生育体を取り付けたことを特徴とする、水中植生施設。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載の水中植生施設において、前記水生植物生育体の植生面に、前記生育基盤材の流出を防止するための繊維マットとメッシュ材を重合して配置したことを特徴とする、水中植生施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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