水中溶接装置及び水中溶接方法
【課題】シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置及び水中溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するよう構成するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給する水供給機構を設けた。
【解決手段】レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するよう構成するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給する水供給機構を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、例えば原子炉の炉水中における炉内構造物の溶接など、水中での溶接を行うための水中溶接装置及び水中溶接方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来から水中で溶接を行う水中溶接装置、例えば、原子炉の炉水中で炉内構造物の補修等を行う水中溶接装置が知られている。このような水中溶接装置では、水中において気中を形成することが必要であるが、装置を小型化するため、部分的なシールドを行うことによって気中を形成する方法が有効である。
【０００３】
溶接部周辺を局部的に被うシールドカバー方式は、シールドの確保と装置の小型化をしやすい特徴がある。このため、従来から溶接部周辺を局部的に被うシールドカバーを有する各種の水中溶接装置が提案されている。
【０００４】
図４に示す水中溶接装置は、シールドカバーを用いレーザ溶接によって溶接を行う従来提案されている装置構成の一例である。この図４に示す装置では、溶接部７０の周辺をシールドカバー７５によって覆い気中を形成するとともに、溶接部７０に照射されたレーザ光７１の反射光７２を反射する反射シールド機構７３を設け、この反射シールド機構７３からの反射光７４を溶接部７０に照射して溶接エネルギーとして利用しようとするものである（例えば、特許文献１）。しかしながら、このような構成の水中溶接装置の場合、溶接部７０からの反射光７２がシールドカバー７５にあたり、シールドカバー７５に劣化が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特許第３００６３７０号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
上記したとおり、従来から水中溶接装置では、溶接部周辺を局部的に被うシールドカバーを設け、水中において気中を形成することが行われている。しかしながら、かかる構成の水中溶接装置でレーザ光を用いた溶接を行った場合、溶接部からの反射光がシールドカバーにあたり、シールドカバーに劣化が生じ、シールドカバーに穴が開くこともあり、徐々に気中形成が困難になるという問題があった。
【０００７】
このような問題は、例えば水中において開先肉盛溶接を行う場合に開先傾斜部におけるシールド性を確保するため、シールドカバーの長さを延長したような場合に特に顕著となる傾向があった。
【０００８】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置及び水中溶接方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
本発明の水中溶接装置の一態様は、レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するよう構成するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給する水供給機構を設けたことを特徴とする。
【００１０】
本発明の水中溶接方法の一態様は、レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接方法において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給しつつ溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【００１１】
本発明によれば、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置及び水中溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００１２】
【図１】本発明の第１実施形態に係る水中溶接装置の全体の概略構成を示す図。
【図２】第１実施形態の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図３】第２実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図４】従来の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【００１３】
以下、本発明の水中溶接装置及び水中溶接方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【００１４】
図１は、本発明の第１実施形態に係る水中溶接装置の全体の概略構成を示す図であり、図２は、第１実施形態の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図である。なお、図１では、後述するシールドカバー１１の一部を切り欠いて内部の状態を示してある。
【００１５】
図１に示すように、水中環境下にある被溶接材１を溶接する場合、レーザ発振器２は大気中に設置され、水中溶接ヘッド４の部分のみが水中に設置される。そして、大気中に設置されたレーザ発振器２から照射されたレーザ光３は光ファイバー５を通して水中溶接ヘッド４に伝送される。また、シールドガス１２も、大気中に設けられたシールドガス供給源１２０から水中溶接ヘッド４に供給されるようになっている。さらに、本実施形態では、大気中に設けられた水供給源１８０から水中溶接ヘッド４に水１８が供給されるようになっている。
【００１６】
水中溶接ヘッド４は、略円筒状に形成されている。そして、図２に示すように、水中溶接ヘッド４の内部には、レーザ光３を集光するための光学系６が設けられている。水中溶接ヘッド４の先端側（図１，２の下側）には、外周方向に向けてフランジ状に突出する大径部４ａが設けられ、この大径部４ａの略中央部に、光学系６によって集光されたレーザ光３を射出するとともに、シールドガス１２を吐出するためのノズル部１３が設けられている。
【００１７】
上記大径部４ａの先端側の面には、ノズル部１３の周囲を囲むように、レーザ光３の反射光９を吸収するための反射光吸収体１５が設けられている。本実施形態では、反射光吸収体１５は、環状に形成された板状部材から構成されており、大径部４ａの先端側の面に形成された溝１４内に嵌合されるようにして装着されている。反射光吸収体１５を構成する板状部材としては、例えばカーボン板を好適に使用することができる。また、例えば表面を黒くなるまで酸化させたステンレス鋼製の板材等、酸化した金属板を用いることもできる。さらに、入射した反射光９が内部で乱反射し外部に漏洩しないように構成された金網状の構造物を用いてもよい。
【００１８】
また、反射光吸収体１５としては、上記のように板状部材等の部材を配置するのではなく、大径部４ａの先端側（図２の下側）の面に、反射光９を吸収する酸化物の膜、反射光９を吸収する塗料を塗布して形成された塗布膜、反射光９を吸収する物質を溶射等によってコーティングしたコーティング膜等の反射光９を吸収する膜等を用いてもよい。このような反射光吸収体１５としては、反射光９（レーザ光３）の反射率が低くその大部分を吸収するものが好ましく、少なくとも、反射光９（レーザ光３）が垂直入射した際の反射率が２０％以下で、８０％以上を吸収するものが好ましく、反射率が１０％以下で、９０％以上を吸収するものがさらに好ましい。
【００１９】
上記反射光吸収体１５の周囲には、溶接部の周囲に気中を形成するためのシールドカバー１１が設けられている。このシールドカバー１１は、略筒状に形成された内側シールドカバー１１ａと、この内側シールドカバー１１ａの外側に同軸的に設けられ、略筒状に形成された外側シールドカバー１１ｂの２重構造とされている。内側シールドカバー１１ａの内部には、シールドガス１２と、図示しない溶接ワイヤ供給系から溶接ワイヤ７が供給されるようになっている。
【００２０】
内側シールドカバー１１ａとしては、厚さが比較的薄い弾性部材、例えば厚さが０．３〜０．５ｍｍのシリコーンゴム等を用いることが好ましい。これによって、耐水性と変形する機能を確保することができる。一方、外側シールドカバー１１ｂは、内側シールドカバー１１ａより厚い弾性部材、例えば厚さが１．０〜２．０ｍｍのシリコーンゴム等を用いることが好ましい。また、内側シールドカバー１１ａを長くし、外側シールドカバー１１ｂを短くすることで内側シールドカバー１１ａが変形することを阻害しない構造とすることができる。
【００２１】
上記の構成とすることにより、例えば、開先肉盛溶接に適用する場合、良好なシールド性を確保することができる。すなわち、薄く長い内側シールドカバー１１ａが開先傾斜部１６に沿って変形するため、シールド性の確保が容易になる。また、このような内側シールドカバー１１ａだけでは強度が低く大きく変形するとシールドガス１２が逃げるため、外側シールドカバー１１ｂによって内側シールドカバー１１ａの変形を抑え、これによって良好なシールド性を確保することができる。なお、シールドカバー１１の耐久性や強度が不足している場合は、シールドカバー１１を同軸的に配置した３重又はそれ以上の多重の構造としてもよい。その場合、シールドカバーの長さは外周側ほど短くし、厚さは外周側ほど厚くする、又は同等とすることが好ましい。
【００２２】
また、大径部４ａ内には水供給路１８１が形成されており、この水供給１８１の終端は、シールドカバー１１（内側シールドカバー１１ａ）の内側の周方向に沿って開口する水供給口１８２となっている。これらの水供給路１８１、水供給口１８２によって、水供給源１８０からの水１８を、内側シールドカバー１１ａの内側面に沿って供給する水供給機構が形成されている。
【００２３】
内側シールドカバー１１ａの内側に供給された水１８は、内側シールドカバー１１ａの内側にある程度保持され、ある程度厚みのある水膜を形成した状態となることが好ましい。このため、内側シールドカバー１１ａの内側に複数の溝（すじ）等を設けることが好ましい。このような溝（すじ）は、例えば、ブラシ等で内側シールドカバー１１ａの内側を擦ることによって形成することができる。
【００２４】
また、上記のように内側シールドカバー１１ａの内側に供給された水１８を保持させる方法としては、内側シールドカバー１１ａの内面を粗面化する方法も採用することができる。このように内側シールドカバー１１ａの内面を粗面化する方法としては、例えば、サンドブラスト、コロナ放電等を用いることができる。
【００２５】
また、上記の内側シールドカバー１１ａの内側に形成される水１８による水膜は、内側シールドカバー１１ａの内側の全面に形成されることが好ましい。このため、水供給口１８２は、内側シールドカバー１１ａの内側に沿って円環状に開口するか、円環状に開口させずに、その環状領域に径の小さい複数の円口が並んで形成されたシャワー状の構造とすることが好ましい。
【００２６】
上記構成の水中溶接装置では、光ファイバー５によって水中溶接ヘッド４に伝送されたレーザ光３は、水中溶接ヘッド４の内部に設けられた光学系６により集光され、ノズル部１３から被溶接部に向けて照射される。これとともに、溶接ワイヤ７が供給され、被溶接部に溶接池８が形成され、溶接作業が実行される。
【００２７】
上記の溶接作業の際、ノズル部１３から被溶接部に向けて照射されたレーザ光３の一部は、被溶接部及びその近傍で反射して反射光９となる。ここで、本実施形態の水中溶接装置では、水供給路１８１、水供給口１８２によって内側シールドカバー１１ａの内側に水１８が供給され、内側シールドカバー１１ａの内側に水膜が形成された状態となっている。水は、赤外線を吸収する性質を持っていることから、この水膜によって反射光９が吸収され、内側シールドカバー１１ａに反射光９が当たる量を低減することができる。これによって内側シールドカバー１１ａが劣化することを抑制することができる。
【００２８】
また、本実施形態では、水中溶接ヘッド４の先端側（図２の下側）の反射光９があたる部分に反射光９を吸収するための反射光吸収体１５が設けられているので、反射光９は反射光吸収体１５によってその大部分が吸収され、さらに反射を繰り返して内側シールドカバー１１ａに反射光９が到達する可能性を大幅に低減することができる。これによって内側シールドカバー１１ａが劣化することを抑制することができる。
【００２９】
以上のとおり、本実施形態の水中溶接装置では、反射光９により内側シールドカバー１１ａが損傷を受け、穴が開くなどして気中形成が困難になることを抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができる。
【００３０】
図３は、本発明の第２実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッド４０の断面概略構成を示すものである。この第２実施形態の水中溶接装置では、水中溶接ヘッド４０の水供給口１８２の内側に、この水供給口１８２に沿ってシールドガス供給口１２１が設けられている。このシールドガス供給口１２１は、図１に示したシールドガス供給源１２０からのシールドガス１２を供給するためのものである。
【００３１】
そして、このシールドガス供給口１２１からシールドガス１２を供給することによって、水供給口１８２から内側シールドカバー１１ａの内側部分に供給された水１８の内側にカーテン状のガス流を形成し、水１８が内側の被溶接部の近傍に入り込むことを防止できるようになっている。このように構成された第２実施形態に係る水中溶接装置では、前述した第１実施形態と同様な効果を得られるとともに、内側シールドカバー１１ａの内側部分に供給された水１８が、被溶接部等にかかり、被溶接部が冷却されてしまうこと等を確実に防止することができる。さらに、反射光を吸収して蒸発した水蒸気を除去することができる。
【００３２】
なお、図３に示した第２実施形態において、上記の部分以外は、前述した第１実施形態と同様に構成されているので、対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【００３３】
以上説明したとおり、第１実施形態及び第２実施形態に係る水中溶接装置及び水中溶接方法によれば、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができる。なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【００３４】
１……被溶接材、２……レーザ発振器、３……レーザ光、４……水中溶接ヘッド、５……光ファイバー、６……光学系、７……溶接ワイヤ、８……溶接池、９……反射光、１１……シールドカバー、１２……シールドガス、１３……ノズル部、１４……溝、１５……反射光吸収体、１６……開先傾斜部、１８……水、１８０……水供給源、１８２……水供給口。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、例えば原子炉の炉水中における炉内構造物の溶接など、水中での溶接を行うための水中溶接装置及び水中溶接方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来から水中で溶接を行う水中溶接装置、例えば、原子炉の炉水中で炉内構造物の補修等を行う水中溶接装置が知られている。このような水中溶接装置では、水中において気中を形成することが必要であるが、装置を小型化するため、部分的なシールドを行うことによって気中を形成する方法が有効である。
【０００３】
溶接部周辺を局部的に被うシールドカバー方式は、シールドの確保と装置の小型化をしやすい特徴がある。このため、従来から溶接部周辺を局部的に被うシールドカバーを有する各種の水中溶接装置が提案されている。
【０００４】
図４に示す水中溶接装置は、シールドカバーを用いレーザ溶接によって溶接を行う従来提案されている装置構成の一例である。この図４に示す装置では、溶接部７０の周辺をシールドカバー７５によって覆い気中を形成するとともに、溶接部７０に照射されたレーザ光７１の反射光７２を反射する反射シールド機構７３を設け、この反射シールド機構７３からの反射光７４を溶接部７０に照射して溶接エネルギーとして利用しようとするものである（例えば、特許文献１）。しかしながら、このような構成の水中溶接装置の場合、溶接部７０からの反射光７２がシールドカバー７５にあたり、シールドカバー７５に劣化が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特許第３００６３７０号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
上記したとおり、従来から水中溶接装置では、溶接部周辺を局部的に被うシールドカバーを設け、水中において気中を形成することが行われている。しかしながら、かかる構成の水中溶接装置でレーザ光を用いた溶接を行った場合、溶接部からの反射光がシールドカバーにあたり、シールドカバーに劣化が生じ、シールドカバーに穴が開くこともあり、徐々に気中形成が困難になるという問題があった。
【０００７】
このような問題は、例えば水中において開先肉盛溶接を行う場合に開先傾斜部におけるシールド性を確保するため、シールドカバーの長さを延長したような場合に特に顕著となる傾向があった。
【０００８】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置及び水中溶接方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
本発明の水中溶接装置の一態様は、レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するよう構成するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給する水供給機構を設けたことを特徴とする。
【００１０】
本発明の水中溶接方法の一態様は、レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接方法において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給しつつ溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【００１１】
本発明によれば、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置及び水中溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００１２】
【図１】本発明の第１実施形態に係る水中溶接装置の全体の概略構成を示す図。
【図２】第１実施形態の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図３】第２実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図４】従来の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【００１３】
以下、本発明の水中溶接装置及び水中溶接方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【００１４】
図１は、本発明の第１実施形態に係る水中溶接装置の全体の概略構成を示す図であり、図２は、第１実施形態の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図である。なお、図１では、後述するシールドカバー１１の一部を切り欠いて内部の状態を示してある。
【００１５】
図１に示すように、水中環境下にある被溶接材１を溶接する場合、レーザ発振器２は大気中に設置され、水中溶接ヘッド４の部分のみが水中に設置される。そして、大気中に設置されたレーザ発振器２から照射されたレーザ光３は光ファイバー５を通して水中溶接ヘッド４に伝送される。また、シールドガス１２も、大気中に設けられたシールドガス供給源１２０から水中溶接ヘッド４に供給されるようになっている。さらに、本実施形態では、大気中に設けられた水供給源１８０から水中溶接ヘッド４に水１８が供給されるようになっている。
【００１６】
水中溶接ヘッド４は、略円筒状に形成されている。そして、図２に示すように、水中溶接ヘッド４の内部には、レーザ光３を集光するための光学系６が設けられている。水中溶接ヘッド４の先端側（図１，２の下側）には、外周方向に向けてフランジ状に突出する大径部４ａが設けられ、この大径部４ａの略中央部に、光学系６によって集光されたレーザ光３を射出するとともに、シールドガス１２を吐出するためのノズル部１３が設けられている。
【００１７】
上記大径部４ａの先端側の面には、ノズル部１３の周囲を囲むように、レーザ光３の反射光９を吸収するための反射光吸収体１５が設けられている。本実施形態では、反射光吸収体１５は、環状に形成された板状部材から構成されており、大径部４ａの先端側の面に形成された溝１４内に嵌合されるようにして装着されている。反射光吸収体１５を構成する板状部材としては、例えばカーボン板を好適に使用することができる。また、例えば表面を黒くなるまで酸化させたステンレス鋼製の板材等、酸化した金属板を用いることもできる。さらに、入射した反射光９が内部で乱反射し外部に漏洩しないように構成された金網状の構造物を用いてもよい。
【００１８】
また、反射光吸収体１５としては、上記のように板状部材等の部材を配置するのではなく、大径部４ａの先端側（図２の下側）の面に、反射光９を吸収する酸化物の膜、反射光９を吸収する塗料を塗布して形成された塗布膜、反射光９を吸収する物質を溶射等によってコーティングしたコーティング膜等の反射光９を吸収する膜等を用いてもよい。このような反射光吸収体１５としては、反射光９（レーザ光３）の反射率が低くその大部分を吸収するものが好ましく、少なくとも、反射光９（レーザ光３）が垂直入射した際の反射率が２０％以下で、８０％以上を吸収するものが好ましく、反射率が１０％以下で、９０％以上を吸収するものがさらに好ましい。
【００１９】
上記反射光吸収体１５の周囲には、溶接部の周囲に気中を形成するためのシールドカバー１１が設けられている。このシールドカバー１１は、略筒状に形成された内側シールドカバー１１ａと、この内側シールドカバー１１ａの外側に同軸的に設けられ、略筒状に形成された外側シールドカバー１１ｂの２重構造とされている。内側シールドカバー１１ａの内部には、シールドガス１２と、図示しない溶接ワイヤ供給系から溶接ワイヤ７が供給されるようになっている。
【００２０】
内側シールドカバー１１ａとしては、厚さが比較的薄い弾性部材、例えば厚さが０．３〜０．５ｍｍのシリコーンゴム等を用いることが好ましい。これによって、耐水性と変形する機能を確保することができる。一方、外側シールドカバー１１ｂは、内側シールドカバー１１ａより厚い弾性部材、例えば厚さが１．０〜２．０ｍｍのシリコーンゴム等を用いることが好ましい。また、内側シールドカバー１１ａを長くし、外側シールドカバー１１ｂを短くすることで内側シールドカバー１１ａが変形することを阻害しない構造とすることができる。
【００２１】
上記の構成とすることにより、例えば、開先肉盛溶接に適用する場合、良好なシールド性を確保することができる。すなわち、薄く長い内側シールドカバー１１ａが開先傾斜部１６に沿って変形するため、シールド性の確保が容易になる。また、このような内側シールドカバー１１ａだけでは強度が低く大きく変形するとシールドガス１２が逃げるため、外側シールドカバー１１ｂによって内側シールドカバー１１ａの変形を抑え、これによって良好なシールド性を確保することができる。なお、シールドカバー１１の耐久性や強度が不足している場合は、シールドカバー１１を同軸的に配置した３重又はそれ以上の多重の構造としてもよい。その場合、シールドカバーの長さは外周側ほど短くし、厚さは外周側ほど厚くする、又は同等とすることが好ましい。
【００２２】
また、大径部４ａ内には水供給路１８１が形成されており、この水供給１８１の終端は、シールドカバー１１（内側シールドカバー１１ａ）の内側の周方向に沿って開口する水供給口１８２となっている。これらの水供給路１８１、水供給口１８２によって、水供給源１８０からの水１８を、内側シールドカバー１１ａの内側面に沿って供給する水供給機構が形成されている。
【００２３】
内側シールドカバー１１ａの内側に供給された水１８は、内側シールドカバー１１ａの内側にある程度保持され、ある程度厚みのある水膜を形成した状態となることが好ましい。このため、内側シールドカバー１１ａの内側に複数の溝（すじ）等を設けることが好ましい。このような溝（すじ）は、例えば、ブラシ等で内側シールドカバー１１ａの内側を擦ることによって形成することができる。
【００２４】
また、上記のように内側シールドカバー１１ａの内側に供給された水１８を保持させる方法としては、内側シールドカバー１１ａの内面を粗面化する方法も採用することができる。このように内側シールドカバー１１ａの内面を粗面化する方法としては、例えば、サンドブラスト、コロナ放電等を用いることができる。
【００２５】
また、上記の内側シールドカバー１１ａの内側に形成される水１８による水膜は、内側シールドカバー１１ａの内側の全面に形成されることが好ましい。このため、水供給口１８２は、内側シールドカバー１１ａの内側に沿って円環状に開口するか、円環状に開口させずに、その環状領域に径の小さい複数の円口が並んで形成されたシャワー状の構造とすることが好ましい。
【００２６】
上記構成の水中溶接装置では、光ファイバー５によって水中溶接ヘッド４に伝送されたレーザ光３は、水中溶接ヘッド４の内部に設けられた光学系６により集光され、ノズル部１３から被溶接部に向けて照射される。これとともに、溶接ワイヤ７が供給され、被溶接部に溶接池８が形成され、溶接作業が実行される。
【００２７】
上記の溶接作業の際、ノズル部１３から被溶接部に向けて照射されたレーザ光３の一部は、被溶接部及びその近傍で反射して反射光９となる。ここで、本実施形態の水中溶接装置では、水供給路１８１、水供給口１８２によって内側シールドカバー１１ａの内側に水１８が供給され、内側シールドカバー１１ａの内側に水膜が形成された状態となっている。水は、赤外線を吸収する性質を持っていることから、この水膜によって反射光９が吸収され、内側シールドカバー１１ａに反射光９が当たる量を低減することができる。これによって内側シールドカバー１１ａが劣化することを抑制することができる。
【００２８】
また、本実施形態では、水中溶接ヘッド４の先端側（図２の下側）の反射光９があたる部分に反射光９を吸収するための反射光吸収体１５が設けられているので、反射光９は反射光吸収体１５によってその大部分が吸収され、さらに反射を繰り返して内側シールドカバー１１ａに反射光９が到達する可能性を大幅に低減することができる。これによって内側シールドカバー１１ａが劣化することを抑制することができる。
【００２９】
以上のとおり、本実施形態の水中溶接装置では、反射光９により内側シールドカバー１１ａが損傷を受け、穴が開くなどして気中形成が困難になることを抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができる。
【００３０】
図３は、本発明の第２実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッド４０の断面概略構成を示すものである。この第２実施形態の水中溶接装置では、水中溶接ヘッド４０の水供給口１８２の内側に、この水供給口１８２に沿ってシールドガス供給口１２１が設けられている。このシールドガス供給口１２１は、図１に示したシールドガス供給源１２０からのシールドガス１２を供給するためのものである。
【００３１】
そして、このシールドガス供給口１２１からシールドガス１２を供給することによって、水供給口１８２から内側シールドカバー１１ａの内側部分に供給された水１８の内側にカーテン状のガス流を形成し、水１８が内側の被溶接部の近傍に入り込むことを防止できるようになっている。このように構成された第２実施形態に係る水中溶接装置では、前述した第１実施形態と同様な効果を得られるとともに、内側シールドカバー１１ａの内側部分に供給された水１８が、被溶接部等にかかり、被溶接部が冷却されてしまうこと等を確実に防止することができる。さらに、反射光を吸収して蒸発した水蒸気を除去することができる。
【００３２】
なお、図３に示した第２実施形態において、上記の部分以外は、前述した第１実施形態と同様に構成されているので、対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【００３３】
以上説明したとおり、第１実施形態及び第２実施形態に係る水中溶接装置及び水中溶接方法によれば、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができる。なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【００３４】
１……被溶接材、２……レーザ発振器、３……レーザ光、４……水中溶接ヘッド、５……光ファイバー、６……光学系、７……溶接ワイヤ、８……溶接池、９……反射光、１１……シールドカバー、１２……シールドガス、１３……ノズル部、１４……溝、１５……反射光吸収体、１６……開先傾斜部、１８……水、１８０……水供給源、１８２……水供給口。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するよう構成するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給する水供給機構を設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項２】
請求項１記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーの内側面に多数の溝を形成したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項３】
請求項１記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーの内側面を粗面化したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項４】
請求項１〜３いずれか１項記載の水中溶接装置であって、
前記水供給機構の前記シールドカバー内への水供給口の内周側に当該水供給口に沿って、前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するシールドガス供給口を設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項５】
請求項１〜４いずれか１項記載の水中溶接装置であって、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部と前記シールドカバーとの間に、レーザ光の反射光を吸収する反射光吸収体を設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項６】
レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接方法において、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給しつつ溶接を行うことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項１】
レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するよう構成するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給する水供給機構を設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項２】
請求項１記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーの内側面に多数の溝を形成したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項３】
請求項１記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーの内側面を粗面化したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項４】
請求項１〜３いずれか１項記載の水中溶接装置であって、
前記水供給機構の前記シールドカバー内への水供給口の内周側に当該水供給口に沿って、前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するシールドガス供給口を設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項５】
請求項１〜４いずれか１項記載の水中溶接装置であって、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部と前記シールドカバーとの間に、レーザ光の反射光を吸収する反射光吸収体を設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項６】
レーザ発振器及びシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接方法において、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設け、当該シールドカバー内に前記シールドガス供給源からのシールドガスを供給するとともに、前記シールドカバーの内側面に沿って水を供給しつつ溶接を行うことを特徴とする水中溶接方法。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図２】
【図３】
【図４】
【公開番号】特開２０１１−１１０５５６（Ｐ２０１１−１１０５５６Ａ）
【公開日】平成２３年６月９日（２０１１．６．９）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００９−２６５９３４（Ｐ２００９−２６５９３４）
【出願日】平成２１年１１月２４日（２００９．１１．２４）
【出願人】（０００００３０７８）株式会社東芝 (54,554)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２３年６月９日（２０１１．６．９）
【国際特許分類】
【出願日】平成２１年１１月２４日（２００９．１１．２４）
【出願人】（０００００３０７８）株式会社東芝 (54,554)
【Ｆターム（参考）】
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