説明

水中観察装置および方法

【課題】複雑な機構を用いることなく、開放された水域の濁水中であっても対象物を把握することができる水中観察装置および方法を提供する。
【解決手段】水中カメラ2を構成する正面カメラ部2aの正面撮影窓部3aを覆って透明な中空ケース5を取り付け、中空ケース5の内部を透明液体Wで充填した状態にして、中空ケース5の先端面6aを水中の対象物Gに接触または近接させて、水中カメラ2により撮影した画像をモニタ9に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中観察装置および方法に関し、さらに詳しくは、複雑な機構を用いることなく、開放された水域の濁水中であっても対象物を把握することができる水中観察装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
掘削孔内の水中地盤や海底等の水中地盤の状態を観察する場合には、例えば水中カメラが使用される。ところが、その水域が濁っていて視界が悪い場合は、水中カメラを用いても対象物の明確な画像を撮影することができず、その状態を把握することができない。そこで、濁水中においても水中の掘削孔内壁の状態を把握できるようにした撮像装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1で提案されている撮像装置では、カメラ部を挟んだ上下位置に取付けた仕切体を膨張させて掘削孔内壁に密着させることにより隔離領域を形成する。そして、隔離領域に清水を供給しつつ、混濁水を排出することにより、隔離領域を清水に置き換える。これにより、掘削孔内に濁水が存在していても、隔離領域の清水を通じて掘削孔内壁の土質状態を水中カメラで撮影することができるようにしている。
【0004】
しかしながら、膨張する仕切体、清水供給手段、混濁水排出手段が必要であり、装置が複雑化するという問題があった。また、膨張した仕切体によって隔離領域を形成できない開放された水域では、この装置を適用することができないため、使用できる場所に制約があるという問題があった。さらには、掘削孔の内径が大きくて隔離領域の容積が大きい場合は、清水に置き換えるために多大な時間が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−160978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、複雑な機構を用いることなく、開放された水域の濁水中であっても対象物を把握することができる水中観察装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の水中観察装置は、水中カメラと、この水中カメラにより撮影された画像を表示するモニタと、前記水中カメラの撮影窓部を覆って取り付けられる中空ケースとを備え、前記中空ケースを構成する面のうち、少なくとも前記撮影窓部に対向する面が透明であるとともに、前記中空ケースの内部が透明液体で充填されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の水中観察方法は、水中カメラの撮影窓部を覆って中空ケースを取り付け、この中空ケースを構成する面のうち、少なくとも前記撮影窓部に対向する中空ケースの面が透明であるとともに、この中空ケースの内部を透明液体で充填した状態にして、前記撮影窓部に対向する面を水中の対象物に接触または近接させて、前記水中カメラにより撮影した画像をモニタに表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部が透明液体で充填されていて、水中カメラの撮影窓部に対向する面が透明である中空ケースを、撮影窓部を覆うように取り付け、前記撮影窓部に対向する中空ケースの面を水中の対象物に接触または近接させて、水中カメラにより撮影することにより、視界が悪い濁水中であっても、対象物は中空ケースの内部に充填された透明液体を通じて撮影できる。このように複雑な機構を用いない簡素な構造でありながら、撮影された対象物の画像はモニタに表示されるので、その状態を把握することが可能になる。
【0010】
また、掘削孔内部等の閉鎖された水域に限らず、開放された水域であっても適用することができる。さらに、水中ケースの内部が透明液体で充填されているので、水圧による水中ケースの変形を抑制することができる。
【0011】
ここで、本発明の水中観察装置では、前記撮影窓部に対向する中空ケースの面と、中空ケースのその他の面とが分離可能に構成されている仕様にすることもできる。撮影窓部に対向する中空ケースの透明な面は、水中の対象物と接触して損傷し易い部分であり、損傷が激しくなると透明度が低下して鮮明な画像が撮影し難くなる。ところが、この仕様の場合は、撮影窓部に対向する中空ケースの損傷した面のみを交換できるので経済的である。
【0012】
また、前記撮影窓部に対向する中空ケースの面が中空ケースの先端面であり、この中空ケースが側面視で、先端側が後端側に比して幅広の形状になっている仕様にすることもできる。この仕様の場合は、水中カメラで撮影する視野を広く確保することができる。また、中空ケースの先端面を水中の対象物に接触させた際に、水中カメラを安定して保持し易くなる。
【0013】
前記撮影窓部に対向する中空ケースの面が中空ケースの先端面であり、この中空ケースの側壁面の少なくとも一部が、環状の可撓性材料により構成されている仕様にすることもできる。この仕様の場合は、中空ケースの先端面を水中の対象物に接触させた際に、中空ケースに付与する押圧力を調整することにより、水中カメラと対象物との間隔を変化させることができる。これにより、水中カメラの焦点距離を調整することができる。また、中空ケースの先端面を対象物の傾斜等に追従させて密着させ易くなるので、鮮明な画像を撮影するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水中カメラおよび中空ケースを半断面側面図で例示した本発明の水中撮影装置の全体概要図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】中空ケースの変形例を示す半断面側面図である。
【図4】中空ケースの別の変形例を示す半断面側面図である。
【図5】水中カメラおよび中空ケースを半断面側面図で例示した本発明の水中撮影装置の別の実施形態の全体概要図である。
【図6】水中カメラおよび中空ケースを半断面側面図で例示した本発明の水中撮影装置のさらに別の実施形態の全体概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の水中観察装置および方法を実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1、図2に例示するように、本発明の水中観察装置1は、水中カメラ2と、この水中カメラ2により撮影された画像を表示するモニタ9と、水中カメラ2を構成する正面カメラ部2aの正面撮影窓部3aを覆って水中カメラ2に取り付けられる中空ケース5とを備えている。正面カメラ部2aによって撮影された画像は画像処理部8を通じてモニタ9に表示される。この画像処理部8として、パーソナルコンピュータ等を用いることができる。
【0017】
水中カメラ2と中空ケース5とはシール部材を介在させて水密に接続されている。正面撮影窓部3aは透明な材料で形成されており、その外周には照明4が環状に配置されている。照明4には、例えば、LED等を用いることができる。
【0018】
中空ケース5は、例えば、アクリル、ポリカーボネート等の透明樹脂によって筒状に形成されている。中空ケース5は円筒状が好ましい。この実施形態では、中空ケース5を構成するすべての面が透明になっているが、中空ケース5を構成する面のうち、少なくとも正面撮影窓部3aに対向する先端面6aが透明であればよい。例えば、先端面6aを透明にして側壁面7を非透明にすることもできる。
【0019】
中空ケース5の大きさは、外径が例えば40mm〜60mm程度であり、長さが例えば60〜70mm程度である。中空ケース5の長さは、水中カメラ2(正面カメラ部2a)の焦点距離に基づいて決定される。中空ケース5を大きくし過ぎると水圧によって変形し易くなるとともに、狭い場所での撮影ができなくなる。
【0020】
中空ケース5の側壁面7を黒色などの非透明にすることにより、側壁面7による反射等を防止することも可能である。側壁面7を非透明にする場合は、側壁面7の内面のみ、或いは外面のみを非透明にすることもできる。
【0021】
中空ケース5の内部には透明液体Wが充填、密封されている。透明液体Wには、例えば透明水を用いるが、無色に限らず、赤色、黄色、緑色など着色されているが濁っていない透明液体Wにすることもできる。
【0022】
この実施形態では、先端面6aが側壁面7の先端部に、水密に螺合して嵌め込まれる構造であり、先端面6aと側壁面7とが分離可能に構成されている。中空ケース5は、この構造に限らず、先端面6aと側壁面7とを一体化した構造にすることもできる。
【0023】
この水中観察装置1を用いた本発明の水中観察方法では、中空ケース5の先端面6aを対象物Gに接触させて、または、対象物Gから2cm以内に近接させて、照明4を点灯させながら、水中カメラ2により対象物Gを撮影する。対象物Gは中空ケース5内部に充填された透明液体Wを通じて撮影される。したがって、視界が悪い濁水中であっても、対象物Gの画像はモニタ9に表示されるので、このモニタ9を見ることにより対象物Gの状態を把握することができる。中空ケースの先端面6aを対象物Gに接触させて撮影すると、対象物Gの状態を一段と鮮明に把握することができる。
【0024】
本発明では、膨張する仕切体、清水供給手段、混濁水排出手段を備えた従来提案されている撮像装置とは異なって、複雑な機構を用いない簡素な構造でありながら、掘削孔内部などの閉鎖された水域だけでなく、海や河川湖沼などの開放された水域においても対象物Gを把握することができる。したがって、濁水中であっても掘削孔の壁面および底面の土質状態、海底、川底などの土質の状態を把握できる。
【0025】
また、水中ケース5の内部が透明液体Wで充填されているので、水圧による水中ケース5の変形を抑制できるという利点もある。先端面6aを対象物Gに接触または近接させて撮影すればよいので、撮影に要する時間は短時間で済む。
【0026】
正面撮影窓部3aに対向する中空ケース5の透明な面(先端面6a)は、水中の対象物Gと接触して損傷し易い部分であり、損傷が激しくなると透明度が低下して鮮明な画像が撮影し難くなる。そのため、上記実施形態のように、正面撮影窓部3aに対向する先端面6aと、中空ケース5のその他の面(側壁面7)とが分離可能に構成されていると、損傷した先端面6aのみを交換できるので経済的である。
【0027】
図3に例示するように、正面撮影窓部3aに対向する中空ケース5の面が中空ケース5の先端面6aであり、中空ケース5が側面視で、先端側が後端側に比して幅広の形状になっている仕様にすることもできる。この仕様の場合は、水中カメラ2で撮影する視野を広く確保することができる。また、先端面6aを水中の対象物Gに接触させた際に、水中カメラ2は中空ケース5によって安定して保持されるという利点がある。
【0028】
また、図4に例示するように、中空ケース5の側壁面の先端部および後端部を樹脂製の側壁面7aとして、その間の範囲の側壁面7bを環状の可撓性材料で構成することもできる。可撓性材料としては、ゴム等を用いる。側壁面のすべてを可撓性材料で構成することもできる。即ち、正面撮影窓部3aに対向する中空ケース5の面が先端面6aであり、中空ケース5の側壁面の少なくとも一部を、環状の可撓性材料により構成された側壁面7bにした仕様にすることもできる。
【0029】
この仕様の場合は、先端面6aを水中の対象物Gに接触させた際に、中空ケース5に付与する対象物Gに向かう方向の押圧力を調整することにより、側壁面7bの膨張具合が変化する。それ故、正面カメラ部2aと対象物Gとの間隔が変化し、水中カメラ2の焦点距離を微調整することが可能になる。また、先端面6aを対象物Gの傾斜等に追従させて密着させ易くなるので、対象物G鮮明な画像を撮影するには有利になる。
【0030】
図5に例示するように、側面カメラ部2bを備えた水中カメラ2の場合は、水中カメラ2本体の側面に透明な側面撮影窓部3bが形成される。そこで、環状の中空ケース5は側面撮影窓部3bを覆って、水密に水中カメラ2に取り付けられている。
【0031】
中空ケース5を構成するすべての面を透明にしてもよいが、中空ケース5を構成する面のうち、少なくとも側面撮影窓部3bに対向する面(側壁面7)を透明にすればよい。中空ケース5の内部には透明液体Wが充填、密封されている。
【0032】
この実施形態では、側面撮影窓部3bに対向する側壁面7と、中空ケース5のその他の面(先端面6aおよび後端面6b)とが分離可能に構成されているが、中空ケース5のすべての面を一体化した構造にすることもできる。
【0033】
図5の水中観察装置1では、中空ケース5の側壁面7を対象物Gに接触させて、または、対象物Gから2cm以内に近接させて、照明4を点灯させながら、水中カメラ2により対象物Gを撮影する。対象物Gは中空ケース5の内部に充填された透明液体Wを通じて撮影されるので、濁水中であっても、その状態を把握することができる。
【0034】
図6に例示するように、正面カメラ部2aおよび側面カメラ部2bを備えた水中カメラ2の場合は、水中カメラ2本体の正面に透明な正面撮影部3a、側面に透明な側面撮影窓部3bが形成される。そこで、筒状の中空ケース5は、正面撮影窓部3aおよび側面撮影窓部3bを覆って、水密に水中カメラ2に取り付けられている。
【0035】
中空ケース5を構成するすべての面を透明にしてもよいが、中空ケース5を構成する面のうち、少なくとも正面撮影窓部3aおよび側面撮影窓部3bに対向する面(先端面6aおよび側壁面7)を透明にすればよい。中空ケース5の内部には透明液体Wが充填、密封されている。
【0036】
この実施形態では、正面撮影窓部3aに対向する先端面6aと、中空ケース5のその他の面(側壁面7および後端面6b)とが分離可能に構成されているが、中空ケース5のすべての面を一体化した構造にすることもできる。
【0037】
図6の水中観察装置1では、中空ケース5の先端面6aと側壁面7の少なくとも一方を対象物Gに接触させて、または、対象物Gから2cm以内に近接させて、照明4を点灯させながら、水中カメラ2により対象物Gを撮影する。対象物Gは中空ケース5の内部に充填された透明液体Wを通じて撮影されるので、濁水中であっても、その状態を把握することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 水中観察装置
2 水中カメラ
2a 正面カメラ部
2b 側面カメラ部
3a 正面撮影窓部
3b 側面撮影窓部
4 照明
5 中空ケース
6a 先端面
6b 後端面
7、7a、7b 側壁面
8 画像処理部
9 モニタ
G 対象物
W 透明液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中カメラと、この水中カメラにより撮影された画像を表示するモニタと、前記水中カメラの撮影窓部を覆って取り付けられる中空ケースとを備え、前記中空ケースを構成する面のうち、少なくとも前記撮影窓部に対向する面が透明であるとともに、前記中空ケースの内部が透明液体で充填されていることを特徴とする水中観察装置。
【請求項2】
前記撮影窓部に対向する中空ケースの面と、中空ケースのその他の面とが分離可能に構成されている請求項1に記載の水中観察装置。
【請求項3】
前記撮影窓部に対向する中空ケースの面が中空ケースの先端面であり、この中空ケースが側面視で、先端側が後端側に比して幅広の形状になっている請求項1または2に記載の水中観察装置。
【請求項4】
前記撮影窓部に対向する中空ケースの面が中空ケースの先端面であり、この中空ケースの側壁面の少なくとも一部が、環状の可撓性材料により構成されている請求項1〜3のいずれかに記載の水中観察装置。
【請求項5】
水中カメラの撮影窓部を覆って中空ケースを取り付け、この中空ケースを構成する面のうち、少なくとも前記撮影窓部に対向する面が透明であるとともに、この中空ケースの内部を透明液体で充填した状態にして、前記撮影窓部に対向する中空ケースの面を水中の対象物に接触または近接させて、前記水中カメラにより撮影した画像をモニタに表示することを特徴とする水中観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172472(P2012−172472A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37803(P2011−37803)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】