説明

水中面受波器

【課題】水中で音響信号を検出する面受波器において、受波素子が音響信号を正確に受波できる帯域を広くするとともに、受波素子の共振の影響を小さくし、さらに共振時に受波素子に構造上のストレスが生じないような、水中面受波器を提供する。
【解決手段】粘弾性材からなるモールド材によってモールドされた受波素子を、モールド材を介して間接的に調整板に取り付ける。調整板は受波素子の検出対象となる音響信号を透過させる肉厚及び材質で構成されている。これにより、受波素子が正確に音響信号を検出出来る帯域を広くし、受波素子に発生する共振の低Q化を図ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中で音響信号を検出する受波器に関するものであり、特に受波素子に発生する不要な共振への対策を施した水中面受波器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中の音響信号を検出する受波器にはさまざまな形状のものがあるが、受波器が船舶の船底等に設置される場合には、厚みが少なく取り付けが容易な面形状をした受波器(以下、面受波器と呼ぶ)が用いられることが多い。図5は面受波器の構造の一例(以下、面受波器aと呼ぶ)を示したものである。音響信号の検出は、受波素子が厚み方向に振動することで行われるが、音響信号を感知する受波素子には肉厚の薄い音響−電気変換素子が使用されているため、厚み方向の共振(以下、厚み共振と呼ぶ)が非常に高周波となり、平坦な受波感度特性が広帯域に渡って得られるという特徴を有している。また、常時、水中で使用されるため、水密処理として受波素子全体が粘弾性材料からなるモールド材でモールドされている。
【0003】
面受波器における受波素子の配置のやり方は複数あり、図6は面受波器aに対して全体としての受波素子の寸法はそのままとなるよう、受波素子を複数に分割した場合の面受波器の構造例(以下、面受波器bと呼ぶ)である。この際、夫々の受波素子が直列接続されている場合には各受波素子からの出力を加算したものが面受波器bの受波出力となり、夫々の受波素子が並列接続されている場合には各受波素子からの出力の平均が面受波器bの受波出力となる。
【0004】
また、図7は面受波器aに対して受波素子を剛体からなる背面板に直接取り付けた場合の構造例(以下、面受波器cと呼ぶ)である。受波素子は接着剤で背面板に取り付けられ、また面受波器aおよびbと同様にモールド材で覆われている。そして、面受波器を船底に取り付ける際には、背面版と船底とが機械的に結合されるようになっている。
【0005】
なお、受波素子がモールドされた面受波器については、例えば特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−11900号公報
【特許文献2】特開平6−38291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肉厚の薄い受波素子を用いて面受波器を構成した場合、厚み共振の帯域は高周波域に位置しているため、厚み方向の受波感度としては広い帯域を持った性能を期待することが出来る。しかしながら、実際には厚み共振よりも低周波の帯域に水平方向の伸縮共振(以下、水平伸縮共振と呼ぶ)と、曲げによる共振(以下、曲げ共振と呼ぶ)が発生しており、それぞれ共振は発生している帯域においては、厚み方向の振動を正確に検出出来ない、つまり音響信号の測定精度が低下してしまうと言う問題がある。なお、受波素子における厚み方向、水平方向、曲げ方向は、図8に示した受波素子の固有モードに基づくものであり、(a)が厚み方向のモード、(b)が曲げ方向のモード、(c)が水平方向のモードを示している。
【0008】
図9は面受波器aにおいて、音響信号受信時の周波数特性の実測値を示したものであり、横軸が周波数、縦軸が出力(感度)を示している。図9に示した周波数特性の実測値からも分かる通り、厚み共振は高周波域に位置しているが、水平伸縮共振と曲げ共振は低周波域に発生しており、この帯域の厚み方向の振動は正確に検出できなくなっている。
【0009】
一方、面受波器bにおいて、面受波器aと同じ寸法という前提で受派素子を分割した場合には、受派素子が分割されたことで曲げ共振の帯域は低周波化し、水平伸縮共振の帯域は高周波化するため、面受波器aに比べるとその間の平坦な帯域を増やす事が可能となる。しかしながら、曲げ共振には高次モードが存在し、また共振の出力は面受波器aと同様のレベルにあるため、共振帯域付近においては厚み方向の振動を正確に検出することが出来ない。
【0010】
図10は面受波器aおよびbについて、周波数特性の実測値を示したものである。これによると、面受波器bでは曲げ共振は低周波化し、水平伸縮共振は高周波化することで面受波器aに対して平坦な帯域は増加している。しかしながら、共振のレベルはほとんど変化していないことが分かる。
【0011】
また、面受波器cにおいては、背面板により受波素子に発生する曲げ共振や水平伸縮共振が制御されるため、面受波器aやbに比べると曲げ共振や水平伸縮共振のレベルを低下させる、つまり低Q(Quality Factor)を図ることが可能となる。図11は面受波器a、b、cについて、周波数特性の実測値を示したものである。これによると、面受波器cでは曲げ共振、水平伸縮共振の両方とも、低Q化が図れていることが分かる。しかしながら、面受波器cでは受波素子が背面板に直結されているため、背面板の振動雑音がそのまま受波素子に加わる可能性がある。また、音圧を受けた場合に受波素子は曲げ共振と同一の方向で歪が発生するが、背面板は剛体であるため歪は小さく、受波素子と背面板との接着面には音圧を受けている限りストレスが発生することとなる。よって、接着面の長期信頼性に不安があるといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために、粘弾性材からなるモールド材によってモールドされた平面状の受波素子を備える水中面受波器において、受波素子の測定対象となる音響信号を透過する肉厚および材質であって、モールド材を介して受波素子と間接的に結合され、曲げ共振及び水平伸縮共振の低Q化を図る調整板を備えることを特徴とする水中面受波器を提供するものである。
【0013】
さらに本発明は、上記の水中面受波器において、モールドされた受波素子が、調整板の両面に対照となるように2箇所に配置され、夫々の受波素子は調整板とモールド材を介して間接的に結合されていることを特徴とする水中面受波器を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
実施例1によれば、曲げ共振および水平伸縮共振の低Q化が可能になるとともに、調整板の厚みや形状を変えることで曲げ共振および水平伸縮共振の周波数や減衰を調整することが可能となり、受波素子の寸法を変えたり、分割したり、受波器の形状を大きく変えることなく、目的とした性能とのトレードオフが可能となる。
【0015】
実施例2によれば、実施例1の効果の加え、受波器の無指向性化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において実質的に同一の構成および機能を有する構成要素については、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0017】
本発明における面受波器の構成を図1により説明する。1aは音響−電気変換素子からならなる受波素子、1bは受波素子を覆うモールド材であり、粘弾性材料からなる。なお、図では省略しているが、受波素子には電気信号を伝送するケーブルが接続されており、これも併せてモールドされている。1cは調整板であり本受波素子1aの測定帯域において音響透過性に問題のない材質、形状、寸法となっている。材質としては例えば金属や樹脂が該当するが、受波素子1aの測定帯域によって使用可能な材質が特定されるので、測定帯域が高周波域の場合には樹脂のみ適用可能となる。ここで、受派素子1aと調整板1cとは直接は結合されていなく、モールド材1bを介して結合されている。また、調整板は図示していない船体等の底部に機械的に結合されている。
【0018】
次に、面受波器が所定周波数の音響信号を検知した時に発生する共振について説明する。まず曲げ共振についてであるが、受波素子に発生する曲げ共振は、調整板とモールド材と受波素子とが一体とみなした場合の1つの物体に発生する共振によるものであり、曲げ共振のQが小さいモールド材の両面に受波素子と調整板とが結合しているため、ずれ弾性の影響を受けて全体の曲げ共振のQは従来の面受波器に対して小さいものになる。また、高次の曲げモードのQに関しても同様に減衰する。
【0019】
次に、水平伸縮共振についてであるが、受波素子はモールド材を介して調整板と結合されているため、モールドのずれ方向スチフネスが増大し、従来の面受波器と比べると水平伸縮共振の帯域を高周波化することが可能となる。また、水平伸縮共振のQについても曲げ共振の場合と同様に従来の面受波器に対して小さいものとなる。
【0020】
図2は本実施例における周波数特性の実測値および従来技術における周波数特性の実測値を示したものである。ここで実線は本実施例の実測値、1点鎖線は従来技術の面受波器aの実測値、2点鎖線は面受波器bの実測値、破線は面受波器cの実測値を示している。なお、周波数特性Aと周波数特性Bは全く同一のデータであり、Aでは各受波器での特性を見やすくするため、基準値を変更したものである。これをみると、本実施例ではいずれの従来技術に対しても、曲げ共振と水平伸縮共振のいずれも低Q化が図られていることが分かる。
【0021】
なお、受波素子と調整版とは直接に接続はされていなく、モールド材を介して接続されているため、音圧を受けた時の受波素子と調整板の歪の差はモールド材によって吸収される。そのため、接続部分のストレスによる長期信頼性について心配する必要がない。
【0022】
さらに、従来の面受波器で曲げ共振や水平伸縮共振の周波数やQを変更させるには受波素子について寸法の変更、分割、形状の変更を行う必要があったが、本実施例においては受波素子と調整版とが直接に接続されていないことで、調整板の寸法や形状を決定する際の自由度が大きいので、目的とした性能とのトレードオフが可能となる。
【実施例2】
【0023】
本発明における実施例2の面受波器の構成を図3により説明する。2aおよび2bは音響−電気変換素子からならなる受波素子、2c、2dは受波素子2aおよび2bをそれぞれ覆うモールド材であり、粘弾性材料からなる。2eは調整板であり材質は金属、若しくは樹脂からなり、受波素子2aおよび2bの測定帯域において音響透過性に問題のない厚みとなっている。ここで、受派素子2aと2bは調整板2eを基準として対象となるように配置されており、また実施例1と同様にモールド材2cおよび2dを介して結合されている。調整板は図示していない船体等の底部に機械的に結合されている。
【0024】
実施例1の構成では、目標帯域において音響的な影響が少なくなるように調整板の形状や寸法を選択することが可能であった。しかしながら、受波素子が音圧を受ける際には、調整板を通過しない音響信号よりも調整板を通過する音響信号の方が若干感度が低下するため、受波器全体としてみると指向性が発生していた。これに対し、本実施例においては調整板の表裏に受波素子を配置するようにしているため、調整板の表裏どちらから受ける音圧に対しても同条件で受波することができ、指向性の発生を抑えることが可能となる。なお、本実施例においても実施例1と同様に曲げ共振及び水平伸縮共振の低Q化は図られている。
【0025】
図4は本実施例において、音圧を受けた方位に対する検出出力の関係を示したものである。ここで実線は実施例1における出力、破線は本実施例における出力である。なお、0度方向は図に示した受波素子に対しては上面の垂直方向であり、右水平方向が90度、左水平方向が−90度、下面垂直方向が180度としている。これによると、実施例1では0度方向に対して180度方向の感度が低下しており、指向性が発生していることが分かる。一方、本実施例においては0度方向と180度方向の感度が同等となっており、無指向性となっていることが分かる。
【0026】
以上のように本実施例によれば、曲げ共振及び水平伸縮共振の低Q化が図ることができるとともに、受波器を無指向性とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の面受波器の構成説明図
【図2】実施例1の周波数特性実測値
【図3】実施例2の面受波器の構成説明図
【図4】実施例2の指向性説明図
【図5】面受波器aの構成説明図
【図6】面受波器bの構成説明図
【図7】面受波器cの構成説明図
【図8】受波素子に発生する振動モード
【図9】面受波器aの周波数特性
【図10】面受波器bの周波数特性
【図11】面受波器cの周波数特性
【符号の説明】
【0028】
1a、2a、2b:受波素子
1b、2c、2d:モールド材
1c、2e:調整板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性材からなるモールド材によってモールドされた平面状の受波素子を備える水中面受波器において、
前記受波素子の測定対象となる音響信号を透過可能であって、前記モールド材を介して該受波素子と間接的に結合され、該受波素子の曲げ共振及び水平伸縮共振の低Q化を図る調整板を備えることを特徴とする水中面受波器。
【請求項2】
請求項1記載の水中面受波器であって、
モールドされた前記受波素子が、前記調整板の両面に対称となるように2箇所に配置され、夫々の該受波素子は該調整板と前記モールド材を介して間接的に結合されていることを特徴とする水中面受波器。
【請求項3】
請求項1記載の水中面受波器であって、
前記受波素子が水中側に位置するよう前記調整板が船舶の船底に固定され、水中内の音響信号を測定対象とすることを特徴とする水中面受波器。
【請求項4】
請求項2記載の水中面受波器であって、
前記受波素子が一方が水中側に位置するように前記調整板が船舶の船底に固定され、水中内の音響信号を測定対象とすることを特徴とする水中面受波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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