説明

水処理方法及び装置

【課題】下水等の被処理水を、小さいエネルギーで、かつ浄化用鉄分等の資源を無駄にすることなく、浄化処理する。
【解決手段】水処理装置1の第1反応部10では、有機物を含む被処理水と水酸化鉄等の固体金属化合物とを、鉄還元細菌等の微生物又は触媒の存在下で接触させ、有機物を酸化させるとともに固体金属化合物を還元させて金属イオンを遊離させる。第2反応部20では、被処理水を空気等の酸素含有気体と接触させる。これによって、金属イオンの酸化反応が起きる。分離部30では、第2反応部20からの被処理水から固体成分を分離する。分離した固体成分を上記固体金属化合物として第1反応部10に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下水、汚水、汚染地下水等の汚濁した水を浄化処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理は好気処理と嫌気処理に大別される。後者の嫌気処理は、BOD(Biochemical oxygen demand)濃度が1000mg/L以上の高濃度汚染水に有効であるが、一般下水のようなBOD濃度が200mg/L程度の汚染水には有効に働かない。そのため、一般下水の処理では、好気処理が行われている。好気処理としては、活性汚泥の微生物に下水中の有機汚濁物質を分解させる活性汚泥法が広く知られている。一方、水の溶存酸素の飽和値は8mg/L程度であるから、例えばBOD200mg/Lの下水を空気遮断下で処理した場合、BODは192mg/Lまで低下させるのが限界である。したがって、活性汚泥法等の好気処理では曝気が必須となる。例えば水深5m程度の曝気処理槽へ空気を注入しなければならず、空気の加圧とそのときの空気の断熱圧縮による温度上昇などにより、莫大なエネルギーを必要とする。通常、BOD 1kg当たりの消費エネルギーは、1kWh程度である。
【0003】
特許文献1では、水酸化鉄と鉄還元細菌を用いて汚染土壌や汚染地下水中の有機物を酸化させて分解し、汚染土壌や汚染地下水を浄化している。汚染土壌の浄化の場合、水酸化鉄を汚染土壌に添加する。汚染土壌が乾燥しているときは更に水を添加してスラリーにする。このスラリーを反応槽内で攪拌する。鉄還元細菌は、汚染土壌中に元々生息しているものを用いる。攪拌により土の中の汚染物質を水中に脱離させて微生物分解させる。その後、スラリーをそのまま排出する。又はスラリーを固液分離槽で土と上澄み液に分離し、土を浄化土壌として再利用に供し、上澄み液を添加水として反応槽に戻す。
汚染地下水の浄化の場合、鉄還元細菌等の微生物を含む活性汚泥と水酸化鉄を汚染地下水に添加して攪拌する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−144295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、浄化処理の都度、新たな水酸化鉄を系に供給する必要がある。また、汚染地下水の浄化の場合、攪拌後の処理について不明である。汚染土壌の処理の場合、攪拌後の固液分離で生じた上澄み液を反応槽へ戻すのは、主に乾燥土壌のスラリー化のためであることから推測すると、汚染地下水の場合は、乾燥土壌のような事情は存在しないから攪拌後そのまま排出しているものと考えられる。この排出水には上記水酸化鉄から溶出した鉄イオンが少なからず存在しているものと考えられる。要するに、鉄分は使い捨てであり、不経済である。また、排出水に鉄分が含まれていると鉄の酸化によって赤錆が発生し、生物に与える影響も少なくない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、下水、汚水等の汚濁した水を、小さいエネルギーで、かつ浄化用鉄分等の資源を無駄に使い捨てにすることなく浄化処理して、鉄イオンをなるべく含まない状態で排出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明方法は、有機物を含む被処理水と金属酸化物又は金属水酸化物からなる固体金属化合物とを、前記有機物に対し酸化作用を有し前記固体金属化合物に対し還元させ金属イオンを遊離させる作用を有する微生物又は触媒からなる第1反応媒体の存在下で接触させる第1反応工程と、
前記第1反応工程後の被処理水を酸素含有気体と接触させる第2反応工程と、
前記第2反応工程後の被処理水から固体成分を分離する分離工程と、
前記分離した固体成分を前記第1反応工程における固体金属化合物として供する再利用工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明装置は、有機物を含む被処理水と金属酸化物又は金属水酸化物からなる固体金属化合物とを、前記有機物に対し酸化作用を有し前記固体金属化合物に対し還元させ金属イオンを遊離させる作用を有する微生物又は触媒からなる第1反応媒体の存在下で接触させる第1反応部と、
前記第1反応部からの被処理水を酸素含有気体と接触させる第2反応部と、
前記第2反応部からの被処理水から固体成分を分離する分離部と、
を備え、前記分離した固体成分が前記第1反応部に供給されることを特徴とする。
【0009】
第1反応工程又は第1反応部では、微生物又は触媒からなる第1反応媒体の働きによって、有機物を酸化させて分解するとともに前記固体金属化合物を還元させて金属イオンを遊離させることができる。有機物の酸化分解によって、被処理水中の有機物濃度を下げて被処理水を浄化できる。有機物を酸化するための酸素源として固体金属化合物の酸素を充てることで、好気処理の場合は必須であった曝気を省略でき、所要エネルギーを小さくできる。
第2反応工程又は第2反応部では、被処理水に酸素含有気体を接触させることで、酸素含有気体中の酸素を被処理水に溶解させて、被処理水中で前記金属イオンの酸化反応を起こさせることができる。これにより、金属酸化物又は金属水酸化物からなる固体成分が生成される。すなわち、金属イオンを元の固体金属化合物に戻すことができる。
その後、分離工程又は分離部によって、被処理水から固体成分すなわち固体金属化合物を分離する。これによって、被処理水は次工程に送ったり放出したりでき、固体金属化合物は第1反応工程又は第1反応部に再利用できる。このようにして、固体金属化合物の金属成分を無駄に使い捨てることなく循環使用しながら被処理水を浄化処理することができる。したがって、系に固体金属化合物を補充する必要がなく、若しくは補充量を低減することができる。
【0010】
前記有機物としては、グルコース(C6H12O6)、フルクトース(C6H12O6)、乳酸(C2O3H3)などの有機酸が挙げられる。
【0011】
前記酸素含有気体としては、空気を用いることが好ましい。前記酸素含有気体として、酸素ガスを用いてもよく、酸素と窒素等の混合ガスを用いてもよい。
【0012】
前記固体金属化合物としては、水酸化鉄(Fe(OH)3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化マンガン、水酸化マンガン、酸化クロム、水酸化クロム等が挙げられる。前記固体金属化合物を構成する金属は、好ましくは鉄(Fe)である。前記固体金属化合物は、好ましくは水酸化鉄(Fe(OH)3)、酸化鉄(Fe2O3)である。水酸化鉄は、リン(P)を吸着する能力が高いために、被処理水のリン濃度を下げる効果もある。
【0013】
前記第1反応媒体は、微生物であることが好ましい。前記微生物としては、鉄還元細菌等の金属還元細菌が挙げられる。前記第1反応媒体が金属還元細菌であることが好ましい。有機物の酸化分解反応が遅いときなどは、別途に培養した鉄還元細菌等の金属還元細菌を第1反応工程又は第1反応部に供してもよい。
前記第1反応媒体が触媒であってもよい。前記触媒としては、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)等が挙げられる。
【0014】
前記固体金属化合物が、水酸化第二鉄(Fe(OH)3)又は酸化鉄(Fe2O3)である場合、前記微生物が鉄還元細菌であることが好ましい。水酸化第二鉄又は酸化鉄として赤錆を用いることができる。第1反応工程では、鉄還元細菌の代謝によって有機物を分解して二酸化炭素(CO2)にできる。有機物の分解に必要な酸素は水酸化鉄又は酸化鉄から供給されるから、曝気は不要である。また、メタンや硫化水素が発生しないようにできる。有機物の分解に伴なって水酸化鉄又は酸化鉄が還元されて2価の鉄イオン(Fe2+)となって被処理水に溶解する。
【0015】
2価の鉄イオンは、硝酸イオンを還元し、窒素ガスにする能力を有する。そのため、被処理水に対し脱窒の効果もある。このとき、pHが高いとアンモニアに還元されることがあるから、アンモニアの発生及びアンモニア濃度の上昇を抑制する観点からは、被処理水のpHはなるべく低いことが望ましい。
【0016】
前記第1反応工程を行なう前に、被処理水中のアンモニアを酸化させる前処理工程を行なってもよい。例えば、空気等の酸素含有気体を前記第1反応工程前の被処理水と接触させる。これによって、アンモニウムイオンを酸化して硝酸イオンや亜硝酸イオンに変換できる。その後、前記第1反応工程を行ない、2価鉄イオンを生成する。この2価鉄イオンによって、硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに変換できる。これによって、被処理水を脱窒できる。
【0017】
前記分離工程後の被処理水の一部又は全部を、前記第1反応工程に新たに供給される被処理水に混合することにしてもよい。これによって、前記第1反応工程に供給される被処理水中のアンモニア濃度を低くできる。
【0018】
第2反応工程又は第2反応部では、2価鉄イオン等の金属イオンの酸化のために、被処理水を曝気してもよい。2価鉄イオン等の金属イオンの曝気による酸化は、生化学反応ではなく化学反応であるから、反応速度が比較的大きい。したがって、曝気のための投入エネルギーが小さくて済む。前記曝気手段として、散気管や散水ノズルを用いることができる。
【0019】
第2反応工程又は第2反応部において、前記被処理水と前記酸素含有気体とを、前記金属イオンの酸化作用を有する微生物又は触媒からなる第2反応媒体の存在下で接触させることにしてもよい。これによって、前記酸化反応を促進させることができる。
【0020】
前記第2反応媒体は、金属酸化細菌等の微生物であることが好ましい。前記固体金属化合物が水酸化鉄又は酸化鉄である場合、前記金属酸化細菌が鉄酸化細菌であることが好ましい。金属イオンの酸化反応を、曝気ではなく、鉄酸化細菌などの金属酸化細菌によって行なう場合でも、その反応速度は充分に大きい。なぜならば、金属酸化細菌は、エネルギー的には有機酸などの有機物より劣る金属イオンを栄養源としており、生息や増殖等の生命活動のために大量の金属イオンを必要とするからである。これはとりもなおさず、金属イオンを高速で酸化処理することにほかならない。
【0021】
第1反応工程を金属還元細菌の存在下で行ない、かつ第2反応工程を金属酸化細菌の存在下で行なうことが好ましい。金属酸化細菌は、鉄イオン等の金属イオンを酸化して、欠陥の多い貧結晶を作り出す。貧結晶は、曝気による通常の結晶よりも金属還元細菌にとって食べるのに適している。したがって、処理速度を高めることができる。
【0022】
前記第2反応媒体が触媒であってもよい。前記触媒としては、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)等が挙げられる。
【0023】
前記第2反応部が、前記被処理水と前記酸素含有気体とを隔てるとともに前記被処理水の透過を阻止し前記酸素含有気体の透過を許容する膜を含んでいてもよい。前記酸素含有気体が前記膜を透過して前記被処理水と接触することによって、前記被処理水中の金属イオンの酸化反応を起こすことができる。
【0024】
前記膜の材質としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリプロピレン等の樹脂が挙げられる。前記膜は、好ましくは疎水性の多孔質膜である。前記膜は、平面状であってもよく、管状であってもよい。管状の膜の形態として中空糸膜が挙げられる。前記膜が管状である場合、当該管状膜の内部に前記酸素含有気体を通し、管状膜の外部に前記被処理水を通してもよい。或いは、管状膜の内部に前記被処理水を通し、管状膜の外部に前記酸素含有気体を通してもよい。
【0025】
前記膜の前記被処理水側の表面に、前記金属酸化細菌又は触媒からなる第2反応媒体を付着させることが好ましく、金属酸化細菌を付着させることがより好ましい。前記膜に金属酸化細菌を生息させることで、バイオフィルムを構成することが好ましい。前記金属イオンを含む被処理水中に前記膜を静置しておくことで、前記膜の表面に金属酸化細菌を増殖させることができる。
【0026】
分離工程又は分離部で分離した固体成分の周りには鉄還元細菌等の微生物又は触媒が殆ど存在していない。そのため、上記固体成分を第1反応工程又は第1反応部に戻しても、有機物の分解にあまり寄与しないことが考えられる。そこで、前記第1反応工程では、前記被処理水を上昇方向に流動させ、前記再利用工程では、前記固体成分を前記第1反応工程における被処理水の上側部(流れの下流部)に供給することが好ましい。また、前記第1反応部の底部に処理前の被処理水を供給する供給路が連なり、前記第1反応部の上部に前記第2反応部との連通部及び前記分離部との連通部が設けられていることが好ましい。 これによって、第1反応部では被処理水を上昇方向に流動させ、かつ分離槽からの固体成分を第1反応部における被処理水の上側部(流れの下流部)に供給することができる。そして、鉄還元細菌等の微生物又は触媒が被処理水の流れに乗って上昇することで、分離工程又は分離部から戻された固体成分の周辺に微生物又は触媒を送り込むことができる。固体成分すなわち固体金属化合物は、被処理水より比重が大きいから被処理水の流れに逆らって沈降しようとする。したがって、被処理水と固体金属化合物とが互いに対向流を構成するように流動する。これにより、固体金属化合物を被処理水の底部にまで行き渡らせることができる。よって、第1反応部の広い範囲で、ないしは第1反応部のほぼ全域で有機物の酸化分解反応及び固体金属化合物の還元反応を起こすことができる。この結果、被処理水の浄化効率を高めることができる。被処理水を第1反応部に連続的に供給して浄化でき、かつ浄化後の被処理水を第1反応部から連続的に取り出して第2反応部へ送ることができる。或いは、第1反応部への被処理水の供給と取り出しを同時併行して行なうことができる。
【0027】
本発明方法において、前記被処理水を1の容器の下部に導入して前記容器内を上昇させ、前記容器内の下部において前記第1反応工程を行なわせ、前記容器内の上側の被処理水中に前記酸素含有気体を導入して前記第2反応工程を行なわせ、前記上側の被処理水中で発生した前記固体成分を前記容器の下部へ沈降させることにしてもよい。本発明装置において、1の容器を備え、前記容器内の下部が、前記被処理水の供給路と連通して前記第1反応部として提供され、前記容器内の前記下部より上側の部分が、前記被処理水と前記酸素含有気体とを接触させる接触部を有して前記第2反応部として提供されていてもよい。この構成によれば、前記容器が、第1反応部と、第2反応部と、分離槽と、分離した固体成分を第1反応部に戻す再利用部としての機能を兼ね備える。前記容器内において第1反応工程と、第2反応工程と、分離工程と、再利用工程とが行なわれる。よって、装置構造を簡素化できる。前記接触部としては、前記散気管や前記膜を用いることができる。
【0028】
前記第1反応工程若しくは第1反応部又は前記第2反応工程若しくは第2反応部では、固体金属化合物(固体成分)と被処理水(液成分)とが異なる相対速度で移動するのが好ましく、固体金属化合物(固体成分)と被処理水(液成分)とが対向流となることがより好ましい。
【0029】
前記分離工程では、前記被処理水を分離槽内に溜めて前記固体成分を沈殿させることにしてもよい。前記分離部が、前記被処理水を溜めて前記固体成分を沈殿させる分離槽を含むことが好ましい。これによって、被処理水から固体成分を容易にかつ確実に分離できる。
【0030】
前記分離槽の底部が、下方へ向かって狭まる漏斗状(逆さ錐状)であり、かつ下端に前記第1反応部との連通部が設けられていることが好ましい。
固体成分は、前記分離槽の漏斗状の底部に沈殿し、漏斗状の底部の斜面に案内されて下端の連通部へ順次沈降する。これによって、沈殿した固体成分を前記連通部から第1反応部へ自動供給することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、活性汚泥法等の後記処理より小さいエネルギーで被処理水を浄化できる。かつ浄化用鉄分等の資源を無駄に使い捨てることなく循環使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【図6】本発明の第6実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【図7】本発明の第7実施形態に係る水処理装置の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
この実施形態の被処理水は、下水、汚水等の汚濁した水である。被処理水は、生活排水に限られず、産業排水であってもよい。被処理水の汚濁物質は、一般にグルコース(C6H12O6)、フルクトース(C6H12O6)、有機酸等の有機物を含む。
【0034】
図1に示すように、第1実施形態に係る水処理装置1は、第1反応部10と、第2反応部20と、分離部30を備えている。第1反応部10は、金属酸化物又は金属水酸化物からなる固体金属化合物と被処理水とを、有機物に対する酸化作用及び固体金属化合物に対する還元作用を有する微生物又は触媒の存在下で接触させる。詳述すると、第1反応部10は、反応槽11を備えている。反応槽11には、反応室12と貯水室14が設けられている。これら室12,14が隔壁13によって仕切られている。反応槽11の隔壁13より上側の部分が反応室12になっている。
【0035】
反応室12には固体金属化合物が蓄えられている。固体金属化合物は、金属酸化物又は金属水酸化物にて構成されている。ここでは、固体金属化合物は、赤錆にて構成されている。赤錆は、水酸化鉄(Fe(OH)3)や酸化鉄(Fe2O3)を主成分として含む。反応室12への初期投入時の赤錆は、好ましくは粒子状、又は粉状であるが、小片状、塊状、ないしはブロック状であってもよい。
【0036】
固体金属化合物の金属成分は、鉄(Fe)に限られず、マンガン(Mn)であってもよく、クロム(Cr)であってもよい。固体金属化合物は、赤錆に限られず、酸化マンガン、水酸化マンガン、酸化クロム、水酸化クロム等であってもよい。固体金属化合物を構成する金属イオンの価数は少なくとも2価以上であり、多価であることが好ましい。
【0037】
被処理水供給路4が、上記被処理水の貯留部ないしは被処理水源(図示省略)から延びて反応室12に連なっている。供給路4の反応室12への連通部は、反応室12の上端部に配置されているが、反応室12の側壁部に配置されていてもよく、反応室12の底部に配置されていてもよい。供給路4に第1送液ポンプ4Pが設けられている。送液ポンプ4Pによって、処理前の被処理水90が供給路4を経て反応室12に供給される。
【0038】
反応室12内において、赤錆からなる固体金属化合物と被処理水90とが混ざり、赤錆スラリー91が形成されている。赤錆スラリー91には、第1反応媒体が混じっている。第1反応媒体は、固体金属化合物を還元させて金属イオンを遊離させる作用を有する微生物又は触媒にて構成されている。遊離した金属イオンは被処理水に溶解する。
【0039】
ここでは、第1反応媒体として微生物の鉄還元細菌が用いられている。鉄還元細菌は、鉄分及び有機物が存在する嫌気環境下において活性化して代謝を行ない、増殖する。この鉄還元細菌の代謝は、有機物を鉄分で酸化して分解することでエネルギーを得るものであり、このとき、3価の鉄分を還元して2価鉄イオン(Fe2+)を吐き出す。2価鉄イオンは水溶性である。上記鉄還元細菌の代謝の反応式の一例を次式に示す。
C6H12O6 + 24Fe(OH)3 → 6CO2 + 18H2O + 48OH- + 24Fe2+ (式1)
【0040】
一般に、鉄還元細菌は、下水や汚水中に生息している。この下水や汚水等の被処理水が反応室12に供給されることで、反応室12内に鉄還元細菌が添加される。装置1の運転開始時には鉄還元細菌の数が少なくても、赤錆のスラリー91中で短期間に増殖させることができる。図1において破線で示すように、鉄還元細菌を嫌気環境の培養槽3で培養して増殖させて反応室12に供給することにしてもよい。
【0041】
有機物を酸化させるとともに固体金属化合物を還元させる作用を有するものとして、鉄還元細菌等の微生物に代えて、又はそれに加えて、プラチナやルテニウム等の触媒を用いてもよい。
【0042】
反応室12の底部は隔壁13(固液分離膜)にて画成されている。隔壁13は、メッシュ等にて構成され、固体の透過を阻止し、液体の透過を許容する。反応槽11の隔壁13より下側の部分が貯水室14になっている。赤錆スラリー91中の被処理水が隔壁13を透過して貯水室14に溜められている。この貯水室14の被処理水93中の有機物濃度は、元の被処理水90の有機物濃度より十分に小さく、ないしは殆どゼロである。被処理水93には、上記固体金属化合物の金属成分のイオン(ここでは、2価鉄イオン)が溶解している。
【0043】
第1反応部10の貯水室14と第2反応部20とが、接続路5を介して接続されている。接続路5には第2送液ポンプ5Pが設けられている。第2反応部20は、貯水室14からの被処理水93を酸素含有気体と接触させる。酸素含有気体は、好ましくは空気である。第2反応部20は、曝気装置にて構成され、被処理水93を曝気する。
【0044】
この実施形態の第2反応部20は、散水ノズル21を備えている。接続路5の先端が散水ノズル21に連なっている。送液ポンプ5Pによって、貯水室14の被処理水が接続路5を経て散水ノズル21に送られる。散水ノズル21は、先端の噴出面を下へ向けて外気中に配置されており、この噴出面から被処理水93をシャワー状、霧状、ないしは多数の滴状の液滴94にして放散する。
【0045】
第2反応部20の後段に分離部30が配置されている。分離部30は、第2反応部20で曝気後の被処理水から固体成分を分離する。この実施形態の分離部30は、分離槽31を備えている。分離槽31は、上面が開放され、かつ散水ノズル21の下方に離れて配置されており、散水ノズル21からの液滴94を受け容れて被処理水96として溜める。分離槽31の底部には、被処理水96から分離された固体成分の沈殿層95が形成されている。固体成分は、反応室12の固体金属化合物と同一成分にて構成されている。すなわち、沈殿層95は、水酸化鉄又は酸化鉄からなる赤錆にて構成されている。赤錆は不溶性の固体である。沈殿層95の上側に被処理水96の上澄み層が形成されている。この被処理水96は赤錆を殆ど含まず、かつ有機物濃度は十分小さく、ないしは殆どゼロである。
【0046】
分離槽31の底部から回収路6(再利用部)が引き出されている。回収路6は、第1反応部10の反応室12へ延びている。分離槽31の側部から導出路7が引き出されている。導出路7の上流端は、上澄み液96に臨んでいる。導出路7は次段の水処理部(図示省略)又は水利用部へ延びている。
【0047】
上記のように構成された水処理装置1によって、下水、汚水等の被処理水を浄化処理する方法を説明する。
[被処理水供給工程]
被処理水90を送液ポンプ4Pによって供給路4から反応室12内に供給する。被処理水90は、反応室12内のスラリー91に混じり、スラリー91を構成する赤錆(Fe(OH)3等)と接触しながら反応室12内を流通する。
【0048】
[第1反応工程]
このとき、赤錆スラリー91中の鉄還元細菌が、活性化して代謝を行なうことによって、被処理水中のグルコース(C6H12O6)等の有機物を赤錆の3価鉄イオンで酸化して分解
し、かつ赤錆から2価鉄イオンを遊離させる(式1)。有機物の分解によって、赤錆スラリー91中の被処理水の有機物濃度を下げて被処理水を浄化できる。分解時にメタンや硫化水素が発生することはない。有機物を酸化するための酸素源として赤錆中の酸素を充てることで、好気処理では必須の曝気を省略でき、曝気のための所要エネルギーを省略できる。赤錆から遊離した2価鉄イオンは、被処理水に溶解する。
【0049】
反応槽11の底部におけるスラリー91の成分のうち赤錆や鉄還元細菌は、隔壁13に
よって貯水室14への透過を阻止され、反応室12内に留まる。上記2価鉄イオンを含む浄化済み被処理水93は、隔壁13を透過して貯水室14へ導出される。
【0050】
[第2反応工程]
この貯水室14の被処理水93を、送液ポンプ5Pによって接続路5を経て第2反応部20へ導入して曝気する。ここでは、被処理水93を散水ノズル21から空気中に散水して無数の液滴94にする。この液滴94が、空気(酸素含有気体)と接触しながら落下する。このとき、空気中の酸素が、液滴94に溶解して液滴94中の2価鉄イオンと接触する。これによって、次式に示すように、2価鉄イオンが酸化され、赤錆が生成される。すなわち、第1反応部10の固体金属化合物と同一成分からなる固体成分が生成される。
4Fe2+ + O2 + 10H2O → 4Fe(OH)3+ 8H+ (式2)
【0051】
式2に示す2価鉄イオン(Fe2+)の酸化反応は化学反応であり、式1に示す生化学反応と比べると反応速度が非常に大きい。そのため、液滴94に溶解した酸素は、飽和に達する前に上記酸化反応(式2)に消費される。したがって、液滴94の溶存酸素量が飽和することはなく、空気中の酸素が液滴94に次々と溶解する。よって、活性汚泥法等の好気処理における曝気と比べると、必要な曝気エネルギー(具体的にはポンプ5Pによる浄化被処理水93の汲み上げエネルギー)を十分に小さくすることができ、その小さな曝気エネルギーで、2価鉄イオンを十分に酸化させて新たな赤錆を確実に生成することができる。
また、この反応は鉄酸化細菌の働きによっても加速させることができる。
【0052】
[分離工程]
液滴94は、分離槽31に落下して溜まる。そして、分離槽31の底部に、上記第2工程で生成した固体成分すなわち赤錆が沈降して沈殿層95が形成され、その上側に浄化済み被処理水の上澄み液96が形成される。これによって、赤錆を被処理水から分離できる。上澄み液96は、導出路7によって次段の処理へ回し、更に浄化度を高めたり、排出したりする。
【0053】
[再利用工程]
上記沈殿層95の赤錆は、バッチ又は連続的に回収路6から反応室12へ戻す。作業者が沈殿物95を取り出して反応室12に戻してもよい。これによって、赤錆の鉄分を無駄に使い捨てることなく、循環させて再利用できる。反応室12に鉄分を補充する必要はなく、或いは補充量を低減できる。
【0054】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を適宜省略する。
図2は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態の水処理装置1Xでは、被処理水供給路4が反応槽11の底部に接続されている。反応槽11には隔壁13が設けられておらず、反応槽11内の全体が反応室12になっている。反応槽11の上面は開放されている。反応室12内に赤錆と被処理水とのスラリー91が蓄えられている。反応室12内の赤錆スラリー91の上側部分には、浄化済み被処理水93の上澄み層が形成されている。
【0055】
反応槽11の上部に接続路5の上流端(第2反応部20との連通部)が設けられている。接続路5の上流端は、上澄み層93に臨んでいる。接続路5の上流端には、フィルタ5f(固液分離膜)が設けられている。フィルタ5fは、液体の流通を許容し、固体の流通を阻止する。
【0056】
反応槽11の上方に分離部30の分離槽35が配置されている。分離槽35の上端部は
開口され、その上方に散水ノズル21が配置されている。分離槽35の少なくとも下側部分(底部)36は、下方へ向かって狭まる漏斗状(逆さ錐状)になっている。漏斗状の部分26の下端部37は、反応槽11へ向けて開口し、第1反応部10との連通部ないしは回収路6(再利用部)を構成している。反応槽11の開放された上面が、第1反応部10における分離部30との連通部を構成している。反応槽11の上部を蓋体で塞ぎ、この蓋体に分離部30との連通部を設けてもよい。
【0057】
分離槽35の漏斗状部分36の内部にスラリー状の沈殿層95が形成されている。このスラリー状の沈殿層95が、分離槽35の下端部37(第1反応部10との連通部)から一定量ずつ流出して落下するようになっている。この流出スラリー95aには鉄還元細菌が殆ど存在しない。分離槽35の下端部37に弁を設けて沈殿層95の流出量を調節してもよい。
【0058】
分離槽35内の沈殿層95の上側に上澄み液96が形成されている。導出路7の上流端が上澄み液96内に臨んでいる。導出路7の上流端にはフィルタ7f(固液分離膜)が設けられている。フィルタ7fは、液体の流通を許容し、固体の流通を阻止する。
【0059】
第2実施形態の水処理装置1Xの動作を説明する。
水処理装置1Xにおいては、第1反応工程では、被処理水を上昇方向に流動させ、再利用工程では、固体成分(赤錆)を第1反応工程における被処理水の上側部に供給する。
【0060】
詳述すると、処理前の被処理水90を供給路4から反応槽11の底部に導入する(被処理水供給工程)。被処理水は、総体的に反応室12内を上昇するように流動する。この流れに乗って鉄還元細菌が反応槽11の上部へ移動する。スラリー91を構成する赤錆は、水より比重が大きいから、総体的に被処理水の流れに逆らって沈降しようとする。したがって、被処理水と赤錆とは互いに対向流を構成する。
【0061】
この過程で、鉄還元細菌の代謝によって第1反応工程が行なわれる(式1)。すなわち、被処理水中の有機物が酸化されて分解され、被処理水が浄化されていく。同時に、赤錆が還元されて2価鉄イオンが遊離される。2価鉄イオンは被処理水に溶解し、被処理水と共に上昇する。したがって、反応室12の上側に向かうにしたがって、被処理水中の有機物濃度が低下し、かつ被処理水中の2価鉄イオンの濃度が高まる。上澄み層93では、有機物濃度が十分小さくなり、ないしは殆どゼロになり、かつ2価鉄イオン濃度が十分に高くなる。
【0062】
上澄みの被処理水93を、送液ポンプ5Pによって接続路5に導出し、第2反応部20へ送る。これによって、第1反応部10内の被処理水の流れを確実に上昇方向に向けることができる。被処理水93を接続路5に吸い込む際、フィルタ5fによって、上澄み層93中の赤錆や鉄還元細菌が接続路5に取り込まれるのを阻止することができる。
【0063】
第2反応部20では、被処理水93を散水ノズル21から空気中に散水して無数の液滴94にする。この液滴94が空気と接触することで、液滴94中の2価鉄イオンが酸化され(式2)、固体成分すなわち赤錆が生成される(第2反応工程)。
【0064】
液滴94は、分離槽35に落下して溜まる。分離槽35内において、赤錆が沈降して沈殿層95となり、その上に被処理水の上澄み液96が形成される(分離工程)。この上澄み液96を導出路7へ導出して次工程の処理等に供する。このとき、フィルタ7fによって、上澄み液96中の未沈殿の赤錆が導出路7に取り込まれるのを阻止することができる。
【0065】
沈殿層95は、分離槽35の漏斗状部分36に堆積する。この沈殿層95を連通部37から一定量ずつ流出させる(再利用工程)。これに伴って、沈殿層95が、漏斗状部分36の斜面に案内されて下端の連通部37へ向けて順次沈降する。これによって、沈殿層95を第1反応部10へ自動供給することができる。沈殿層95及びその流出体95aは、スラリー状になっている。このスラリーの大半は赤錆であり、残部は浄化後の被処理水である。
【0066】
流出スラリー95aは、反応室12内の被処理水の上側部に供給され、そのうち赤錆は更に沈降して赤錆スラリー91の上側部分に混ざる。上記流出スラリー95aには、鉄還元細菌が殆ど存在しない。したがって、赤錆スラリー91の上側部分は、鉄還元細菌の存在密度が小さくなる傾向がある。一方、被処理水の上昇流に乗って鉄還元細菌が上がって来ることで、赤錆スラリー91の上側部分にも鉄還元細菌を行き渡らせことができる。また、赤錆は反応室12の底部へ向けて沈降する。これによって、反応室12内の広い範囲で一様に鉄還元細菌を繁殖させて第1反応工程を起こすことができる。この結果、被処理水中の有機物の分解効率を高めることができ、被処理水の浄化効率を高めることができる。
【0067】
水処理装置1Xによれば、被処理水90を第1反応部10に連続的に供給して浄化でき、かつ浄化後の被処理水93を第1反応部10から連続的に取り出して第2反応部20へ送ることができる。第1反応部10への被処理水90の供給と、第1反応部10からの浄化済み被処理水93の取り出しを同時併行して行なうことができる。
流出スラリー95a中の赤錆の流量は、第1反応部10内で2価鉄イオンに還元される赤錆の単位時間当たりの量と対応させることが好ましい。これによって、第1反応部10内の赤錆量を常時ほぼ一定に維持することができる。
流出スラリー95a中の被処理水の流量と、供給路4からの被処理水90の供給流量との合計流量が、浄化済み被処理水93の接続路5への導出流量とほぼ等しくなるようにすることが好ましい。これによって、第1反応部10内の被処理水の量を常時ほぼ一定に維持することができる。
【0068】
分離槽35内の上澄み液96の導出路7への導出流量は、第1反応部10内の被処理水93の接続路5への導出流量とほぼ等しくなるようにすることが好ましい。これによって、分離槽35内の被処理水の量を常時ほぼ一定に維持することができる。
この結果、水処理装置1Xを定常的に連続運転することができる。
【0069】
図3は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態の水処理装置1Aは、1つの容器40を備えている。容器40の下端部に供給路4が接続されている。第1送液ポンプ4Pの駆動によって、被処理水90が、供給路4から容器40の下部に導入される。容器40の下部には、酸化鉄(Fe2O3)や水酸化鉄(Fe(OH)3)等の赤錆が沈殿している。赤錆は、被処理水90と混合してスラリー91になっている。スラリー91には鉄還元細菌が生息している。容器40内の下部(赤錆スラリー91が溜まっている部分)は、第1反応部10として提供されている。
【0070】
被処理水90の容器40への供給流量は充分に小さい。或いは、容器40の断面積は充分に大きい。これによって、容器40内の被処理水が、赤錆を巻き上げない流速で、好ましくは赤錆の沈降を許容する流速でゆっくり上昇する。上記上昇流速は、例えば10μm/sec〜10cm/sec程度である。上昇しながら、被処理水中の有機物が鉄還元菌によって酸化され、被処理水が浄化されていく(第1反応工程)。一方、赤錆は還元されて2価鉄イオン(Fe2+)になる(式1)。この2価鉄イオンが被処理水に溶け込む。2価鉄イオンは被処理水の流れに乗って容器40内の下部10を上昇する。
【0071】
被処理水は、有機物濃度が低下し、かつ2価鉄イオンを含んだ状態で、赤錆スラリー91の上端部よりも上側へ出て、更に上昇する。赤錆スラリー91より上側の被処理水93中に散気管22が設けられている。散気管22は、赤錆スラリー91の上端部の近くにほぼ水平に配置されている。散気管22の基端部に送気管23が連なっている。送気管23に送気ポンプ24が設けられている。
【0072】
送気ポンプ24の駆動によって、空気(酸素含有気体)が送気管23から散気管22へ送り込まれる。この空気が、散気管22の多数の散気孔22aから洩れて、被処理水93内にバブリングされる。これによって、被処理水93が空気と接触し、被処理水93中の2価鉄イオンが酸化されて水酸化鉄や酸化鉄等の赤錆(固体成分)になる(第2反応工程)。散気管22をスラリー91より上側の被処理水93内における下寄りの高さに配置することによって、散気された空気を上記上側の被処理水93の広い範囲に行き渡らせることができる。したがって、2価鉄イオンを確実に赤錆に変換させることができる。散気管22は、第2反応部20の被処理水と空気(酸素含有気体)とを接触させる接触部を構成する。
【0073】
スラリー91より上側の被処理水93は、スラリー91中の被処理水と同じ大きさの低速で上昇する。したがって、上記赤錆が被処理水93中を沈降する(分離工程)。被処理水93(液成分)と赤錆(固体成分)の流れは、互いに対向流を形成する。やがて、赤錆は、容器40の下部に達してスラリー91に混ざる(再利用工程)。容器40内のスラリー91より上側の部分は、第2反応部20及び分離部30として提供される。
【0074】
容器40の上端部の液面近くの被処理水は、2価鉄イオン濃度が充分に低くなる。この被処理水を上澄み液96として導出路7から排出する。なお、容器40の上端部には、雑菌の繁殖を防止するために蓋を設けることが好ましい。蓋には、散気された空気を逃がす空気抜きを設けることが好ましい。
【0075】
第3実施形態の水処理装置1Aによれば、1つの容器40が、第1反応部、第2反応部20、分離部30、及び再利用部6としての機能を兼ね備えることになる。よって、装置構造を簡素化できる。
【0076】
図4は、本発明の第4実施形態を示したものである。第4実施形態の水処理装置1Bは、第3実施形態(図3)と同様の容器40を備えている。容器40内における赤錆スラリー91より上側の第2反応部20には、被処理水93と酸素含有気体とを接触させる接触部として、散気管22に代えて、膜25が設けられている。膜25は、被処理水の透過を阻止し、酸素含有気体の透過を許容する。例えば、膜25は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる多孔膜で構成されている。PVDFは疎水性であるから、水は自身の表面張力のために膜25の微細孔を通過することができない。一方、酸素、空気などの気体は微細孔を通過可能である。
【0077】
膜25は、管状になっている。ここでは、管状の膜25として、多数(複数、図では模式的に6つを図示)の中空糸膜が用いられている。中空糸膜の太さは、φ100mm〜φ0.1mm程度であり、好ましくはφ10mm程度である。多数本の管状の膜25が、容器40内の上側部分(第2反応部20を構成する部分)の被処理水93中に配置されている。これら管状膜25は、上下に延びている。送気管23が各管状膜25の上端部に連なっている。各管状膜25の下端部に排気管26が連なっている。
【0078】
空気(酸素含有気体)が、送気管23から管状膜25に供給される。管状膜25の内部空間は、空気(酸素含有気体)の流路25aを構成する。管状膜25の外部には被処理水93の流路25bが形成される。管状膜25を介して外側の被処理水93と内側の空気とが隔てられる。
【0079】
膜内流路25aの空気の一部は、管状膜25の微細孔を通過して被処理水93に溶ける。これによって、膜外流路25bにおいて、被処理水93中の2価鉄イオンと溶存酸素とが反応して、酸化鉄等の赤錆(固体成分)が生成される(第2反応工程)。この赤錆が被処理水93中を沈降し(分離工程)、管状膜25より下方の赤錆スラリー91に混ざる(再利用工程)。
【0080】
膜内流路25aの空気は下向きに流れる。これに対し、膜外流路25bの被処理水93は上向きに流れる。したがって、上記空気と被処理水93は互いに対向流を構成する。これによって、鉄イオンを効率良く酸化できる。ひいては、管状膜25への空気供給量を低減できる。
管状膜25の下端に達した空気は、排気管26に導出されて排気される。
管状膜25の上方へ出た被処理水は、上澄み液96として導出路7から排出される。
【0081】
好ましくは、管状膜25の外周面(被処理水側の表面)に鉄酸化細菌(第2反応媒体)を生息させる。鉄酸化細菌は、被処理水93中の2価鉄イオンと、膜25を透過した空気中の酸素とを取り込み、2価鉄イオンを酸化して3価鉄イオンにし(式3)、かつ酸素を還元する(式4)。上記3価鉄イオンは、鉄酸化細菌から吐き出されて水酸化鉄や酸化鉄 等の赤錆になる(式5)。この赤錆は、欠陥の多い貧結晶になる。
Fe2+ → e-+Fe3+ (式3)
e + H+ + 1/4O2 → 1/2H2O (式4)
Fe3+ + 3H2O → Fe(OH) 3 + 3H+ (式5)
上記反応式3〜5をまとめると、下式6の通りになる。
Fe2+ + 5/2H2O + 1/4O2 → Fe(OH) 3 + 2H+ (式6)
【0082】
上記赤錆の貧結晶は容器40の上部20から下部10に沈降する。容器40の下部10には、鉄還元細菌が生息している。この鉄還元細菌が、上記貧結晶の三価の鉄を電子受容体にして、被処理水中の有機物を分解する。貧結晶は、通常の結晶よりも鉄還元細菌にとって食し易い形態である。そのため、有機物の分解を促進させることができる。
【0083】
ところで、2価の鉄イオンは、被処理水中の硝酸イオンを還元し、窒素ガスにする能力を有する(式7)。したがって、固体金属化合物を構成する金属として鉄を用いることで、被処理水を脱窒することができる。
NO3- + 5Fe2+ + 12H2O → 5Fe(OH)3 + 9H+ + 1/2N2 (式7)
このとき、被処理水のpHが高いと、硝酸イオンがアンモニアに還元されることがある(式8)。
NO3- + 8Fe2+ + 21H2O → 8Fe(OH)3 + 14H+ + NH4+ (式8)
したがって、アンモニア濃度の上昇を抑制する観点からは、本装置は、低pHの被処理水の処理に適している。
【0084】
第2反応部20においては、被処理水に酸素を供給することによって、アンモニアが硝酸化される(式9)。
NH4++2O2 → NO3-+2H++H2O (式9)
したがって、浄化済み被処理水96のアンモニア濃度を浄化前より低くできる。
【0085】
図5は、本発明の第5実施形態を示したものである。この実施形態は、被処理水中のアンモニア処理を考慮したものであり、水処理装置1Cの導出路7に分流部50が設けられている。分流部50を介して、導出路7から戻し路51が分岐している。供給路4には合流部42が設けられている。戻し路51の先端が、合流部42を介して供給路4に連なっている。
【0086】
浄化済み被処理水96の一部が分流部50から戻し路51に分流され、残部がそのまま導出路7を経て排出される。被処理水96の戻し流量と排出流量の比率は、好ましくは、戻し流量:排出流量=5:5〜9:1程度である。戻し路51に分流した被処理水96は、合流部52において、新たな被処理水90と混合される。これによって、容器40に供給される被処理水90のアンモニア濃度を低くできる。そして、第2反応工程において、アンモニアを硝酸化し(式9)、更には窒素ガスに変換する(式8)。これによって、排出水96中のアンモニア濃度ひいては窒素濃度を低下させることができる。
【0087】
上記の分流部50における戻し流量の比率が高いほど、供給被処理水90のアンモニア濃度を小さくできる。一方、戻し流量比を高くすると、浄化処理量が小さくなりコストが高くなる。したがって、戻し流量比は、浄化処理の要求量やコストをも考慮して決めることが好ましい。
【0088】
図6は、本発明の第6実施形態を示したものである。第6実施形態に係る水処理装置1Dでは、供給路4にアンモニア前処理部60が介在されている。アンモニア前処理部60は、曝気装置を含む。曝気装置は、散気管を有していてもよく、散気ノズルを有していてもよい。図では、アンモニア前処理部60は、送液ポンプ4Pと第1反応部10との間に配置されているが、アンモニア前処理部60を送液ポンプ4Pより上流の供給路4に配置してもよい。
【0089】
アンモニア前処理部60に送気路61が接続されている。空気等の酸素含有気体が、送気路61からアンモニア前処理部60に導入され、アンモニア前処理部60内で被処理水90が曝気される。これによって、被処理水90中のアンモニアを酸化させて硝酸イオンや亜硝酸イオンに変換できる(式9)。したがって、被処理水90のアンモニア濃度を予め低下させたうえで、被処理水90を容器40の下部の第1反応部10に導入することができる。この結果、容器40内おける脱窒を効率的に行なうことができる。
【0090】
図7は、本発明の第7実施形態を示したものである。第7実施形態に係る水処理装置1Eでは、容器40内の被処理水の上昇流速が第3実施形態(図3)より大きくなるように設定されている。そのため、容器40の上部20では、酸化鉄や水酸化鉄等の赤錆が被処理水の流れに押されて上昇する。したがって、赤錆(固体成分)と被処理水(液成分)が互いに同じ向きに流れ、並行流を構成する。赤錆には沈もうとする力も作用するから、赤錆の上昇速度は被処理水の上昇速度より小さい。
【0091】
容器40の上端部には接続路5を介して分離槽31が接続されている。分離槽31の底部と容器40の中間部とが回収路6にて接続されている。容器40の上端部に達した酸化鉄を含む被処理水93は、接続路5を経て分離槽31に送られる。そして、酸化鉄が分離槽31の底部に沈殿する(分離工程)。この沈殿物が、回収路6を介して容器40の下部10に戻される(再利用工程)。分離槽31の上部の上澄み液96は、導出路7によって排出される。
【0092】
本発明は、上記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、第2反応部20は、被処理水を散水するのに代えて、被処理水中に空気を送り込んで曝気するものであってもよい。この場合、第2反応部20は、被処理水を溜める第2反応槽と、第2反応槽に設けられた曝気孔を有する曝気部と、曝気部に空気を供給する給気部とを含むことが好ましい。上記第2反応槽内で鉄酸化細菌等の金属酸化細菌を培養してもよい。この金属酸化細菌の代謝によって、金属イオンの酸化反応を促進させることができる。
分離部30は、固体と液体を分離する固液分離フィルタにて構成されていてもよい。
【0093】
第1反応工程において、第1反応媒体として鉄還元細菌等の金属還元細菌に代えて、又は金属還元細菌に加えて、Pt、Ru等の触媒を用いてもよい。
第2反応工程において、第2反応媒体として鉄酸化細菌等の金属酸化細菌に加えて、又は金属酸化細菌に代えてPt、Ru等の触媒を用いてもよい。膜25の被処理水側の表面に、金属酸化細菌に代えて、又は金属酸化細菌に加えて、Pt、Ru等の触媒を担持させてもよい。
別途に培養した金属酸化細菌を第2反応工程又は第2反応部に供してもよい。
【0094】
複数の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、第5〜第7実施形態(図5〜図7)において、第2反応部20の接触部として、膜25に代えて、第3実施形態(図3)の散気管22を用いてもよい。第5実施形態(図5)の戻し手段50〜52を、第1、第2実施形態(図1、図2)に適用してもよい。第6実施形態(図6)のアンモニア前処理手段60〜61を、第1、第2実施形態(図1、図2)に適用してもよい。第7実施形態(図7)の分離部30として、第2実施形態(図2)の漏斗状分離槽35を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、例えば下水の浄化処理や河川水などのBOD、COD、窒素除去、リン除去に適用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1,1X,1A〜1E 水処理装置
3 培養槽
4 被処理水供給路
4P 第1送液ポンプ
5 接続路
5f フィルタ
5P 第2送液ポンプ
6 回収路
7 導出路
7f フィルタ
10 第1反応部
11 反応槽
12 反応室
13 隔壁
14 貯水室
20 第2反応部
21 散水ノズル
22 散気管
22a 散気孔
23 送気管
24 送気ポンプ
25 膜
25a 膜内流路
25b 膜外流路
26 排気管
30 分離部
31 分離槽
35 漏斗状分離槽
36 漏斗状部分
37 下端開口(第1反応部との連通部)
40 容器
50 分流部
51 戻し路
52 合流部
60 アンモニア前処理部
61 送気路
90 被処理水
91 赤錆スラリー
93 浄化被処理水
94 液滴
95 沈殿層
95a 流出スラリー
96 上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む被処理水と金属酸化物又は金属水酸化物からなる固体金属化合物とを、前記有機物に対し酸化作用を有し前記固体金属化合物に対し還元させ金属イオンを遊離させる作用を有する微生物又は触媒からなる第1反応媒体の存在下で接触させる第1反応工程と、
前記第1反応工程後の被処理水を酸素含有気体と接触させる第2反応工程と、
前記第2反応工程後の被処理水から固体成分を分離する分離工程と、
前記分離した固体成分を前記第1反応工程における固体金属化合物として供する再利用工程と、
を備えたことを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記第1反応工程では、前記被処理水を上昇方向に流動させ、前記再利用工程では、前記固体成分を前記第1反応工程における被処理水の上側部に供給することを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記被処理水を1の容器の下部に導入して前記容器内を上昇させ、前記容器内の下部において前記第1反応工程を行なわせ、前記容器内の上側の被処理水中に前記酸素含有気体を導入して前記第2反応工程を行なわせ、前記上側の被処理水中で発生した前記固体成分を前記容器の下部へ沈降させることを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記分離工程では、前記被処理水を分離槽内に溜めて前記固体成分を沈殿させることを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記第1反応媒体が、金属還元細菌であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記固体金属化合物が水酸化鉄又は酸化鉄であり、前記第1反応媒体が鉄還元細菌であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
鉄還元細菌を培養して前記第1反応工程に供することを特徴とする請求項6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記第2反応工程において、前記被処理水と前記酸素含有気体とを、前記金属イオンの酸化作用を有する微生物又は触媒からなる第2反応媒体の存在下で接触させることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記第2反応媒体が、金属酸化細菌であることを特徴とする請求項8に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記固体金属化合物が水酸化鉄又は酸化鉄であり、前記金属酸化細菌が鉄酸化細菌であることを特徴とする請求項9に記載の水処理方法。
【請求項11】
前記分離工程後の被処理水の一部又は全部を、前記第1反応工程に新たに供給される被処理水に混合することを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の水処理方法。
【請求項12】
有機物を含む被処理水と金属酸化物又は金属水酸化物からなる固体金属化合物とを、前記有機物に対し酸化作用を有し前記固体金属化合物に対し還元させ金属イオンを遊離させる作用を有する微生物又は触媒からなる第1反応媒体の存在下で接触させる第1反応部と、
前記第1反応部からの被処理水を酸素含有気体と接触させる第2反応部と、
前記第2反応部からの被処理水から固体成分を分離する分離部と、
を備え、前記分離した固体成分が前記第1反応部に供給されることを特徴とする水処理装置。
【請求項13】
前記第1反応部の底部に処理前の被処理水を供給する供給路が連なり、前記第1反応部の上側部に前記第2反応部との連通部及び前記分離部との連通部が設けられていることを特徴とする請求項12に記載の水処理装置。
【請求項14】
前記第2反応部が、前記被処理水と前記酸素含有気体とを隔てるとともに前記被処理水の透過を阻止し前記酸素含有気体の透過を許容する膜を含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の水処理装置。
【請求項15】
前記膜の前記被処理水側の表面に、前記金属イオンの酸化作用を有する微生物又は触媒からなる第2反応媒体を付着させたことを特徴とする請求項14に記載の水処理装置。
【請求項16】
1の容器を備え、前記容器内の下部が、前記被処理水の供給路と連通して前記第1反応部として提供され、前記容器内の前記下部より上側の部分が、前記被処理水と前記酸素含有気体とを接触させる接触部を有して前記第2反応部として提供されることを特徴とする請求項12〜15の何れか1項に記載の水処理装置。
【請求項17】
前記分離部が、前記被処理水を溜めて前記固体成分を沈殿させる分離槽を含むことを特徴とする請求項12〜15の何れか1項に記載の水処理装置。
【請求項18】
前記分離槽の底部が、下方へ向かって狭まる漏斗状であり、かつ下端に前記第1反応部との連通部が設けられていることを特徴とする請求項17に記載の水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−130900(P2012−130900A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115668(P2011−115668)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】