説明

水処理用ポリマー成形体

【課題】 水処理において被凝集物に対する凝集処理性能に優れた水処理用ポリマー成形体を提供する。
【解決手段】 本発明に係る水処理用担体10は、カルボキシル基を有する第1の電解性ポリマーが、アルコール基を有する第1の架橋剤により網目状に架橋された組成の第1組成部と、アミノ基を有する第2の電解性ポリマーが、アルデヒド基を有する第2の架橋剤により網目状に架橋された組成の第2組成部のうちの少なくとも一方の組成部を含む構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理に用いられる水処理用ポリマー成形体の構築技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、多孔質形状で架橋ゲル化したポリビニルアルコールを微生物の坦持用として汚濁物を分解処理するのに用いる技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、排水処理設備において微生物等の被凝集物に対し凝集性を有するポリビニルアルコール系の含水ゲルが開示されている。この種の排水処理をはじめ、各種の水処理分野においては、凝集処理性能に優れた新たな水処理用ポリマー成形体の開発が要請される。
【特許文献1】特開平10−263576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、水処理において被凝集物に対する凝集処理性能に優れた水処理用ポリマー成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明の「水処理」に関しては、水に含まれる凝集処理を伴う水処理が広く包含されるものであり、典型的には、用水処理設備や排水処理設備において、用水や排水中の汚濁物を微生物により分解するための処理が挙げられる。
【0005】
本発明にかかる水処理用ポリマー成形体は、水処理に用いられるポリマー成形体であって、第1組成部及び第2組成部のうちの少なくとも一方の組成部を含むポリマーゲル体として構成とされる。ここでいう「ポリマー(重合体)」とは、モノマー(単量体)が複数結合してできた高分子物質として規定される。
本発明では、第1組成部及び第2組成部の少なくとも一方を含む形態や、第1組成部及び第2組成部の両方を含む形態を採り得る。第1組成部及び第2組成部の両方を含む形態の場合、各組成部は組成上の区分が可能であれば足り、ポリマー内に混在状ないし分離状に存在することができる。また、第1組成部或いは第2組成部に加えて、更なる別の組成部を含む構成であってもよい。
第1組成部は、カルボキシル基を有する第1の電解性ポリマーが、アルコール基を有する第1の架橋剤により網目状に架橋された組成を有する。第2組成部は、アミノ基を有する第2の電解性ポリマーが、アルデヒド基を有する第2の架橋剤により網目状に架橋された組成を有する。これら第1の電解性ポリマーや第2の電解性ポリマーは、水溶性を有する水溶性ポリマーとも称呼される。架橋剤により架橋処理がなされたこれら第1及び第2の電解性ポリマーは、それぞれが架橋処理によって水に不溶化されるとともにイオン性を保持した状態のゲル体として構成される。ここでいう「網目状」の構成に関しては、規則的或いは不規則的に形成された複数の開口部分を有する構成が広く包含される。
【0006】
本発明にかかる水処理用ポリマー成形体のこのような構成によれば、架橋剤による架橋反応によって電解質ポリマーをゲル化させ、水に不溶化させても、イオン性を保持しているので、ポリマーゲル成形体としたときにもそれ自体が高分子凝集剤としての効果を持っている。そのために、用水中や排水中の汚濁物が水処理用ポリマー成形体のポリマー表面に凝集し、それに微生物が集合化し、あるいは微生物ないし酵素が凝集可能とされた、被凝集物に対する凝集処理性能の高い高分子凝集剤としての機能を果たすこととなり、以って水処理において被凝集物に対する凝集処理性能に優れた水処理用ポリマー成形体が提供される。この水処理用ポリマー成形体の凝集対象として、典型的には水に含まれる各種の汚濁物、微生物、酵素等が挙げられる。
【0007】
また、水処理用ポリマー自体がゲル状の成形体として構成されるため、水に不溶となり、用水中や排水中で長期間にわたって使用することが可能な耐久性を実現することができる。なお、この水処理用ポリマー成形体は、ポリマー材料からなる成形体であって、ゲル状のポリマー材料自体によって成形された成形体として構成されてもよいし、或いは芯材等の固形物を用いることによってゲル状の水処理用ポリマー成形体を成形性ないし形状保持性を付与するように構成されてもよい。
【0008】
更に、ポリマー間を架橋反応させることで形成される網目によって、溶存物質に対し選択的な浸透透過性を付与することが可能となる。この際、平均的な網目の大きさは、大きさ自体がナノレベルの大きさであることから、排水処理に使用する場合、ポリマーゲル表面にのみ微生物が担持生育する。したがって、水処理用ポリマー成形体に吸着剤を包括させて吸着処理を行う場合には、ポリマーゲルに包括された吸着剤は、その吸着剤表面が微生物で覆われることで発生する閉塞現象が解消されるので、本来の吸着性能を発揮できるとともに飽和吸着量を延長化する効果が付与される。
【0009】
また、本発明にかかる更なる形態の水処理用ポリマー成形体では、前記の第1組成部は、第1の電解性ポリマーとしてのポリアクリル酸が、第1の架橋剤としてのポリビニルアルコールにより網目状に架橋された組成であるのが好ましい。第1の電解性ポリマーとしてカルボキシル基を持つポリアクリル酸を選定する場合には、架橋剤としてポリビニルアルコールを適用して、酸触媒のもと酸性条件下において公知の方法でエステル化することによって網目状に架橋反応させるのが好ましい。
このような構成によれば、第1の電解性ポリマーとしてポリアクリル酸を用い、その架橋剤としてポリビニルアルコールを用いて組成された第1組成部を少なくとも含む、被凝集物に対する凝集処理性能に優れた水処理用ポリマー成形体を提供することが可能となる。
【0010】
また、本発明にかかる更なる形態の水処理用ポリマー成形体では、前記の第2組成部は、第2の電解性ポリマーとしてのポリアクリルアミドが、第2の架橋剤としてのグルタルアルデヒドにより網目状に架橋された組成であるのが好ましい。第2の電解性ポリマーとしてアミノ基を持つポリアクリルアミドを選定する場合には、架橋剤としてグルタルアルデヒドを適用して、アルカリ条件下において公知の方法で網目状に架橋反応させるのが好ましい。
このような構成によれば、第2の電解性ポリマーとしてポリアクリルアミドを用い、その架橋剤としてグルタルアルデヒドを用いて組成された第2組成部を少なくとも含む、被凝集物に対する凝集処理性能に優れた水処理用ポリマー成形体を提供することが可能となる。
【0011】
また、本発明にかかる更なる形態の水処理用ポリマー成形体では、前記の電解性ポリマーと当該電解性ポリマーに対応する架橋剤との混合比率に基づいて、組成部の網目形状が設定された構成であるのが好ましい。すなわち、第1の電解性ポリマーと第1の架橋剤との混合比率に基づいて、第1組成部の網目形状が設定され、また第2の電解性ポリマーと第2の架橋剤との混合比率に基づいて、第2組成部の網目形状が設定される。
このような構成によれば、ポリマー間を架橋反応させることで形成される平均的な網目の大きさを予め分子設計することが可能で、これによりポリマーゲル内を浸透透過できる溶存物質の大きさ(分子量を含め)をコントロールすることができるため、水処理の目的や用途に応じて組成部の網目形状を設定することが可能となる。
【0012】
なお、第1の電解性ポリマーとしてカルボキシル基を持つポリアクリル酸を選定し、その架橋剤としてポリビニルアルコールを適用する際、用水中あるいは排水中の生物処理後に残存する有機性汚濁物質を処理対象とすることを考慮する場合には、ポリアクリル酸のモノマー単位1モルに対してポリビニルアルコールのモノマー単位は1〜10モルの比率が好ましい。すなわち、実際の調整液では、ポリアクリル酸水溶液が0.2モル(0.88%濃度)としたときは、ポリビニルアルコールがモル濃度比でポリアクリル酸と当量〜10倍使用されるのが好ましい。この配合割合を選択することによって、ポリアクリル酸の配合割合が増加することで成形体としての強度低下が生じるのを抑えることが可能となる。また、この配合割合を選択することによって、活性炭などの吸着剤をポリマーゲルに包括させたときに、ポリビニルアルコールの配合割合が増加することで吸着剤の性能が低下もしくは消失するのを防止することが可能となる。
【0013】
また、第2の電解性ポリマーとしてアミノ基を持つポリアクリルアミドを選定し、その架橋剤としてグルタルアルデヒドを適用する際、グルタルアルデヒドの1モルに対してポリアクリルアミドのモノマー単位のモル濃度比が100〜200の間に設定されるのが好ましい。特に、用水や排水の生物処理に用いる用途の場合には、ポリアクリルアミドとグルタルアルデヒドの割合は、グルタルアルデヒドの割合が多いほどゲル成形体とした時の強度は向上するが、モル濃度比で10:1よりも架橋剤の割合を増加させると結晶化が進み、逆に脆くなるので、ポリアクリルアミドの割合はモノマー単位のモル濃度比で架橋剤の10倍以上が好ましい。実際の架橋反応に用いる調整液では、ポリアクリルアミド水溶液を0.2モル(1.42%濃度)にしたときは、グルタルアルデヒドがモル濃度でポリアクリルアミドの1〜2%使用されるのが好ましい。特に、ポリアクリルアミド水溶液の濃度は、グルタルアルデヒドで架橋反応させる時に、網目の大きさ、網目の形状に関係すると考えられるが、ポリマーゲル成形体となったときの強度や吸着剤を包括させた時の吸着性能に大きな影響を及ぼすことを把握した結果、この目的で使用する材料の適性条件とされる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、水処理に用いられる水処理用ポリマー成形体の構成に関し、特にカルボキシル基を有する第1の電解性ポリマーが、アルコール基を有する第1の架橋剤により網目状に架橋された組成の第1組成部と、アミノ基を有する第2の電解性ポリマーが、アルデヒド基を有する第2の架橋剤により網目状に架橋された組成の第2組成部のうちの少なくとも一方の組成部を含む構成を採用することによって、イオン性を保持する水処理用ポリマー成形体のポリマーゲル表面層に被凝集物を効率的に凝集させることが可能な高分子凝集剤を提供することができ、以って水処理において被凝集物に対する凝集処理性能に優れた水処理用ポリマー成形体を実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明における「水処理用ポリマー成形体」の一実施の形態である水処理用担体の構成等につき説明する。この水処理用担体は、用水処理設備や排水処理設備において、用水や排水中の汚濁物を微生物により分解するための水処理に用いる担体として構成される。また、この水処理用担体は、モノマー(単量体)が複数結合してできた高分子物質としてのポリマー(重合体)として構成される。
【0016】
本実施の形態の水処理用担体は、原料となる特定の電解質ポリマー(「水溶性ポリマー」とも称呼する)を、架橋剤による架橋反応によって、水に不溶化させるとともに、ポリマー全体を架橋反応により連続的な網目状のゲル体を合成することによって構成される。詳細については後述するが、本実施の形態では、原料となる特定の電解質ポリマーとして、カルボキシル基を有するポリアクリル酸を用い、或いはアミノ基を有するポリアクリルアミドを用いている。必要に応じては、ポリアクリル酸やポリアクリルアミドに代えて、カルボキシル基やアミノ基を有する他の電解性ポリマーを原料として用いることもできる。
【0017】
本実施の形態の水処理用担体のこのような構成によれば、架橋剤による架橋反応によって電解質ポリマーをゲル化させ、水に不溶化させても、イオン性を保持しているので、ポリマーゲル成形体としたときにもそれ自体が凝集処理性能の高い高分子凝集剤としての効果を持っている。そのために、用水中や排水中の汚濁物が水処理用担体のポリマー表面に凝集し、それに微生物が集合化し、あるいは微生物自体も凝集するので、微生物担持材としての性能及び生育を付加することができ、以って凝集処理性能向上を図ることが可能となる。この場合、水処理用担体の凝集対象として、典型的には水に含まれる各種の汚濁物、微生物、酵素等が挙げられる。
【0018】
また、本実施の形態の水処理用担体は、ポリマー材料自体がゲル状の成形体として構成されるため、水に不溶となり、用水中や排水中で長期間にわたって使用することが可能な耐久性を実現することができる。なお、この水処理用担体は、ポリマー材料からなる成形体であって、ゲル状のポリマー自体によって成形された成形体として構成されてもよいし、或いは芯材等の固形物を用いることによってゲル状の水処理用担体を成形性ないし形状保持性を付与するように構成されてもよい。特に、ゲル状のポリマー成形体(以下、「ポリマーゲル」とも称呼する)にプラスチック材やネットなどの編物あるいは織物からなる芯材を混入させることによって、成形体の寸法安定性を図るとともに強度を著しく向上させることができる。
【0019】
また、本実施の形態のポリマーゲルは、当該ポリマーゲルに活性炭やイオン交換樹脂等各種の吸着剤を包括させた成形体として構成され得る。このような構成によれば、ポリマー全体が架橋反応により連続的な網目状のゲル体となるため、吸着剤の内部にまでポリマーゲルが浸透することを防ぎ、吸着剤の吸着効果を阻害しないという作用効果を奏する。
【0020】
また、本実施の形態のポリマーゲルは、ポリマー間を架橋反応させることで形成される網目によって、溶存物質に対し選択的な浸透透過性を付与することが可能となる。この際、ポリマー間を架橋反応させることで形成される平均的な網目の大きさを予め分子設計することが可能で、これによりポリマーゲル内を浸透透過できる溶存物質の大きさ(分子量を含め)をコントロールすることが可能とされる。この際、平均的な網目の大きさは、各水溶性ポリマーの配合時のモル濃度に大きく依存するが、大きさ自体がナノレベルの大きさであることから、排水処理に使用する場合、ポリマーゲル表面にのみ微生物が担持生育する。したがって、ポリマーゲルに活性炭等の吸着剤を包括させた構成の場合、この吸着剤は表面が微生物で覆われることで発生する閉塞現象が解消されるので、本来の吸着性能を発揮できるとともに飽和吸着量を延長化する効果が付与される。
【0021】
また、一般に、排水処理設備は、生物処理、凝集処理、さらに、砂濾過と活性炭を用いた高次処理を組み合わせた大がかりなものとなっているが、本実施の形態の水処理用担体を使用することによって、汚濁物の凝集と微生物分解処理とを同時に行い、さらに有用な微生物の捕集と残存する難分解性物質のみを排水から分離除去する吸着性能を持った分離膜の機能を材料に付与することが可能となる。これにより、従来の排水処理設備における複数の処理工程が複合化されることとなり、排水処理設備のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0022】
上記ポリマーゲルを成形した水処理用担体(以下、「ポリマー成形体」ないし「ポリマーゲル成形体」とも称呼する)は、使用用途に応じて、例えばチューブ状ないし円筒状、シート状ないし板状等、種々の形態の成形体として構成され得る。このポリマーゲルの成形処理において、典型的には、吸着剤包括の有無にかかわらず所定形状の型枠に、(1)架橋反応させたポリマーゲル全体を流し込み、(2)プラスチック材、ネットなどの編物あるいは不織布を含めた織物をポリマーゲルの芯材として使用する場合には、さらに芯材も型枠内に浸漬させた後、あるいは(3)架橋反応させたポリマーゲルを芯材表面に塗布した後に、前記の(1)、(2)、(3)いずれの場合も、全体を十分に乾燥させる処理を用いる。これにより、水溶液中でポリマーゲル成形体が膨潤したときでも、材料自体に強度を持たせることと寸法安定性を与えることが可能となる。なお、ポリマーゲルの芯材に用いる材料は、まずポリマーゲルと芯材との界面の濡れ、すなわち接着性が良好な材料を選定し、次にポリマーゲルが芯材内部まで十分に浸透してポリマーゲル成形体全体が一体化する構造のものであるのが好ましい。これらの条件に、更に水溶液中の耐久性を考慮すると、適する芯材の素材として、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ビニロン系樹脂のほかに表面処理で接着性が改良された材料が最適である。また、芯材の構造体としては、表面に多くの微細穴や溝のあるプラスチック成形品、繊維の集合体、産業資材用のラッセルネットが適切である。
【0023】
本実施の形態のポリマーゲル成形体の具体例な形態に関しては、図1〜図4が参照される。ここで、図1〜図4には、本実施の形態のポリマーゲルが成形されたポリマー成形体としての水処理用担体10〜40の概略構造が示されている。
【0024】
図1に示す水処理用担体10は、チューブ状ないし円筒状のポリマーゲル成形体であり、中空部11aを有するゲル状の本体部11に粒子状の吸着剤12を含有する構成とされている。このような構成の水処理用担体10を用いることで、用水中や排水中の汚濁物がポリマー表面に凝集し、それに微生物が集合化し、あるいは微生物自体も凝集するので、微生物担持材としての性能及び生育を付加することができる。また、ポリマー全体が架橋反応により連続的な網目状のゲル体となるため、吸着剤12の内部にまでポリマーゲルが浸透することを防ぎ、吸着剤12の吸着効果を阻害することなく、処理水中に含まれる所望の被吸着物の吸着作用を得ることが可能となる。
【0025】
なお、水処理用担体10に含まれる吸着剤12は、処理水中に含まれる所望の被吸着物の吸着作用に加え、更に吸着剤12自体が成形体の寸法安定性向上を図る機能を発揮する構成であるのが好ましい。必要に応じては、成形体の寸法安定性の更なる向上を図るべく、プラスチック材やネットなどの編物あるいは織物からなる芯材を更に混入させた構成を採用することもできる。
【0026】
図2に示す水処理用担体20は、水処理用担体10と同様に、チューブ状ないし円筒状のポリマーゲル成形体であり、中空部21aを有するゲル状の本体部21に芯材としてのプラスチック材(ネット、織物)12を包括する構成とされている。このような構成の水処理用担体20を用いることで、用水中や排水中の汚濁物がポリマー表面に凝集し、それに微生物が集合化し、あるいは微生物自体も凝集するので、微生物担持材としての性能及び生育を付加することができる。また、本体部21にプラスチック材12を包括しているため、成形体の寸法安定性向上を図るのに有効である。
【0027】
図3に示す水処理用担体30は、シート状ないし板状のポリマーゲル成形体であり、ゲル状の本体部31に、前記吸着剤12と同様の吸着剤32を含有する構成とされている。水処理の用途や目的によっては、図1に示すチューブ状ないし円筒状の水処理用担体10にかえて、このシート状ないし板状の水処理用担体30を用いることが可能である。このような構成の水処理用担体30によっても、前記水処理用担体10と同様の水処理性能を得ることが可能となる。
【0028】
図4に示す水処理用担体40は、水処理用担体30と同様に、シート状ないし板状のポリマーゲル成形体であり、ゲル状の本体部41に、前記吸着剤12と同様の吸着剤42を含有し、また前記プラスチック材12と同様のプラスチック材43を包括する構成とされている。水処理の用途や目的によっては、図2に示すチューブ状ないし円筒状の水処理用担体20にかえて、このシート状ないし板状の水処理用担体40を用いることが可能である。このような構成の水処理用担体40によれば、前記水処理用担体20と同様の水処理性能を得ることが可能となるうえに、更にポリマー全体が架橋反応により連続的な網目状のゲル体となるため、吸着剤42の内部にまでポリマーゲルが浸透することを防ぎ、吸着剤42の吸着効果を阻害することなく、処理水中に含まれる所望の被吸着物の吸着作用を得ることが可能となる。
【0029】
ここで、本実施の形態の水処理用担体10〜40の原料となる電解質ポリマーと当該電解質ポリマーに対応する架橋剤との具体的な組み合わせ及び具体的な架橋処理に関しては、下記の第1〜第4の実施形態が参照される。
【0030】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、電解質ポリマーとしてカルボキシル基を持つポリアクリル酸を選定する。この場合には、ポリアクリル酸に対応する架橋剤としてポリビニルアルコールを適用して、酸触媒のもと公知の方法でエステル化によって網目状に架橋反応させるのが好ましい。ここでいうポリアクリル酸が、本発明における「カルボキシル基を有する第1の電解性ポリマー」に相当し、またここでいうポリビニルアルコールが、本発明における「アルコール基を有する第1の架橋剤」に相当する。
【0031】
ポリアクリル酸をポリビニルアルコールによって架橋処理する場合、この架橋反応による網目の大きさは、溶液中で網目状のポリマーゲルを浸透透過していく化学物質の分子量と構造に基づいて設定することができ、一般的な用水中あるいは排水中の生物処理後に残存する有機性汚濁物質を処理対象にした場合、典型的には、ポリアクリル酸のモノマー単位1モルに対して、ポリビニルアルコールのモノマー単位を1〜10モルの比率で設定するのが好ましい。実際の調整液では、ポリアクリル酸水溶液を0.2モル(0.88%濃度)としたときは、ポリビニルアルコールをモル濃度比でポリアクリル酸に対し当量〜10倍の比率で使用するのが好ましい。この配合割合を選択することによって、ポリアクリル酸の配合割合が増加することで成形体としての強度低下が生じるのを抑えることが可能となる。また、この配合割合を選択することによって、活性炭などの吸着剤をポリマーゲルに包括させたときに、ポリビニルアルコールの配合割合が増加することで吸着剤の性能が低下もしくは消失するのを防止することが可能となる。
【0032】
(第2の実施形態)
また、第2の実施形態では、電解質ポリマーとしてアミノ基を持つポリアクリルアミドを選定する。この場合には、ポリアクリルアミドに対応する架橋剤としてグルタルアルデヒド等を適用して、公知の方法で網目状に架橋反応させるのが好ましい。ここでいうポリアクリルアミドが、本発明における「アミノ基を有する第2の電解性ポリマー」に相当し、またここでいうグルタルアルデヒドが、本発明における「アルデヒド基を有する第2の架橋剤」に相当する。
【0033】
ポリアクリルアミドをグルタルアルデヒドによって架橋処理する場合、この架橋反応による網目の大きさは、溶液中で網目状のポリマーゲルを浸透透過していく化学物質の分子量と構造に基づいて設定することができ、一般的な用水中あるいは排水中の生物処理後に残存する有機性汚濁物質を処理対象にした場合、典型的には、グルタルアルデヒドの1モルに対して、ポリアクリルアミドのモノマー単位のモル濃度比を100〜200の間に設定するのが好ましい。特に、用水や排水の生物処理に用いる用途の場合には、ポリアクリルアミドとグルタルアルデヒドの割合は、グルタルアルデヒドの割合が多いほどゲル成形体とした時の強度は向上するが、モル濃度比で10:1よりも架橋剤の割合を増加させると結晶化が進み、逆に脆くなるので、ポリアクリルアミドの割合はモノマー単位のモル濃度比で架橋剤の10倍以上が好ましい。実際の架橋反応に用いる調整液では、ポリアクリルアミド水溶液を0.2モル(1.42%濃度)にしたときは、グルタルアルデヒドがモル濃度でポリアクリルアミドの1〜2%使用するのが好ましい。特に、ポリアクリルアミド水溶液の濃度は、グルタルアルデヒドで架橋反応させる時に、網目の大きさ、網目の形状に関係すると考えられるが、ポリマーゲル成形体となったときの強度や吸着剤を包括させた時の吸着性能に大きな影響を及ぼすことを把握した結果、この目的で使用する材料の適性条件とされる。
【0034】
(第3の実施形態)
また、第3の実施形態では、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸をベースにポリアクリルアミドを配合する。この場合には、ポリアクリル酸の割合はポリアクリルアミドの10倍以上とするのが好ましい。また、ポリマーゲル化する架橋反応は、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸との間でエステル化反応を主体とするのが好ましい。ポリアクリルアミドのアミノ基は、典型的には、酵素等の固定化用としての機能を果たす。ポリマーゲル体にカルボキシル基とアミノ基を同時に持っているので、両電解質の性能を水溶液中で発揮する上で最良となる。
【0035】
特に、吸着剤を包括させたポリマーゲル成形体を構成するときには、吸着剤の内部にポリマーゲルが吸収か浸透すると吸着性能が無くなるので、材料全体が架橋反応で十分に網目状のポリマーゲル成形体になった後で、吸着剤を包括させることが必要とされる。この場合、特に本実施の形態のポリマーゲル成形体は、水溶性のポリマー間を架橋反応させることで、成形体全体が連続的に高分子化した網目状ポリマーゲル材料となっていることと、それに吸着剤を包括させても吸着剤の性能を阻害させないことを特徴としたハイブリッド材料として構成される。
【0036】
(第4の実施形態)
また、第4の実施形態では、電解質ポリマーとして、カルボキシル基を持つポリアクリル酸と、アミノ基を持つポリアクリルアミドの両方を選定することが可能である。この場合、ポリアクリル酸に対応する架橋剤としてポリビニルアルコールを適用して、酸触媒のもと公知の方法でエステル化によって網目状に架橋反応させる一方、ポリアクリルアミドに対応する架橋剤としてグルタルアルデヒド等を適用して、公知の方法で網目状に架橋反応させるのが好ましい。典型的には、ポリビニルアルコールによるポリアクリル酸の架橋処理を行なった後に、グルタルアルデヒドによるポリアクリルアミドの架橋処理を行なうか、或いはグルタルアルデヒドによるポリアクリルアミドの架橋処理を行なった後に、ポリビニルアルコールによるポリアクリル酸の架橋処理を行なうかのいずれかを採用することが可能である。
【0037】
上記第1〜第3の実施形態に関し、本発明者らは実際にポリマーゲル成形体を製造した上で所定の水処理を実施し、水処理効果を確認するテストを実施した。この水処理効果を、図5及び図6を参照しつつ以下に説明する。
【0038】
上記第1の実施形態に関し、ポリアクリル酸とポリビニルアルコールをモノマー単位で1:1のモル濃度比(ポリアクリル酸0.2モル溶液に調整)で架橋反応させたポリマーゲル体をシート状に作成した。この際に粒状活性炭(市販品:粒度2.4〜0.5mm、石炭系)を図3に示すような形態で、質量として10:1(ポリマーゲル:活性炭)の割合で活性炭を包括させた複合体を、130℃で乾燥させて成形体(成形品)とした。そして、工業廃水中に含まれるCOD成分200ppmの廃液500mlに対して、成形体シートから粒状活性炭の質量5gを含む面積を切り取ったものを、その中に浸漬して温度30℃での水処理効果を確認した。その水処理の結果、廃液中のCOD成分は、200ppmから1日後に35ppm以下となり、その後は5ppmで平衡状態となった。また、ポリマーゲル体を浸漬状態で二ケ月の開放置しておいたが、ポリマーゲル表面に微生物が成育した痕跡と成形体の形状はそのままであった。この水処理結果から、本実施の形態のポリマーゲル体を用いて廃液処理を実施した場合、廃液中のCOD成分を除去率97.5%という高い除去効率によって処理することが可能であることが確認された。
【0039】
上記第2の実施形態に関し、ポリアクリルアミドとグルタルアルデヒドをポリマーにあってはモノマー単位で100:1のモル濃度比で、ポリアクリルアミドの使用溶液を0.2モルとした。pHが9のリン酸緩衝液中で架橋反応させたポリマーゲル体に粉末活性炭(和光純薬製試薬、石炭系)を4:1(ポリマー質量:粉末活性炭質量)の質量割合に混ぜて包括させた複合体を予め筒状にしたナイロン系ラッセルネット(直径2cm、目付200g/m)に塗布し、図1或いは図2に示すようなチューブ状態にして120℃で乾燥させて成形体(成形品)とした。そして、水で湿潤させたチューブから粉末活性炭が0.2g含まれる長さ(5cm)を切り取り、非イオン系界面活性剤ポリオキシエチレン(付加モル数12、NP12)ノニルフェニルエーテル500ppm溶液を200ml入れたビーカー内に48時間まで浸漬させて、吸着効果を調べた(測定波長272nmで測定セルの透過距離10mmによる吸光度測定による)。この水処理によるノニルフェニルエーテル(NP12)の吸着効果に関しては、図5が参照される。なお、図5において、PAMがポリアクリルアミドを示し、またGAがグルタルアルデヒドを示している。この図5に示すように、本吸着テストの結果として、このポリマーゲル成形体は、24時間後には除去率60.3%という吸着除去効率(198ppm残存)を示し、また48時間後には除去率91%(45ppm残存)という高い吸着除去効率を示すことが確認された。
【0040】
上記第3の実施形態に関し、ポリアクリル酸:ポリビニルアルコール:ポリアクリルアミドをモノマー単位で10:10:1のモル濃度比(ポリアクリル酸0.2モル:ポリビニルアルコール0.2モル:ポリアクリルアミド0.02モル)でポリビニルアルコールとポリアクリル酸の間を酸触媒のもとエステル化によって架橋反応させたポリマーゲル体を作成した。その際、図4に示すようなポリエステルのラッセルネットシート(目付145g/m)の芯材に塗布した後、130℃で乾燥させた。そして、この成形体シート360cm(10cm×6cmのシート6枚を約1cm間隔にしたもの)を廃液反応槽3.6リットル内に設置した後に、人工廃水(BOD成分200ppmに調整)10リットル/日をポンプで連続通水した。その水処理の結果、人工廃水中のBOD成分は、200ppmから1週間後には反応槽出口で20ppm前後まで低下して安定した。この水処理結果から、本実施の形態のポリマーゲル体を用いて、用排水用で特に工業廃水の処理を実施した場合、廃水中のBOD成分を除去率90%という高い除去効率によって処理することが可能であることが確認された。
【0041】
また、上記第3の実施形態に関し、ポリビニルアルコール:ポリアクリル酸:ポリアクリルアミドをモノマー単位で10:10:1のモル濃度比(ポリアクリル酸0.2モル:ポリビニルアルコール0.2モル:ポリアクリルアミド0.02モル)でポリビニルアルコールとポリアクリル酸の間を酸触媒のもとエステル化によって架橋反応させたポリマーゲル体を作成した。この際ポリマーゲルに粒状活性炭(液相用市販品:粒度2.4〜0.5mm、石炭系)をポリマーのみの乾燥質量に対して2:1の割合で包括させた後に、図4に示すような状態でポリエステルのラッセルネットシート(目付145g/m)をポリマーゲル体に浸漬するようにして、130℃で乾燥させて成形体を作成した。そして、活性炭5gに相当する量を採取して、非イオン系界面活性剤ポリオキシエチレン(付加モル数12、NP12)ノニルフェニルエーテル500ppm溶液を500ml入れたビーカー内に入れ、吸着効果を調べた(測定波長272nmで測定セルの透過距離10mmによる吸光度測定による)。この水処理によるノニルフェニルエーテル(NP12)の吸着効果に関しては、図6が参照される。なお、図6において、PVAがポリビニルアルコールを示し、PAMがポリアクリルアミドを示し、またPAAがポリアクリル酸を示している。この図6に示すように、本吸着テストの結果として、このポリマーゲル成形体は、24時間後には除去率80%程度の吸着除去効率を示し、また48時間後には除去率88%程度の吸着除去効率を、更に96時間後には除去率90%程度の高い吸着除去効率を示すことが確認された。
【0042】
以上のように、本実施の形態は、電解質の性質を持った水処理用担体(水処理用ポリマー成形体)及びその製造に関するものであり、当該水処理用担体は、排水処理や用水処理において被凝集物に対する凝集処理性能に優れている。具体的には、当該水処理用担体は、排水中の汚濁物の凝集とそれに微生物が集合する微生物坦持材としても優れた性能を示すもので、これまで汚泥として廃棄されていた高分子凝集剤の性能も併せ持った廃棄不要の循環再利用型の環境浄化材として有効である。また、活性炭などの吸着剤を包括させた水処理用担体としたときには、当該水処理用担体は、用水や排水に含まれる有用な微生物を高次処理の段階でポリマーゲル表面に集合もしくは吸着させることができ、かつナノレベルの分離膜性能を示すように網目の大きさを製造段階で決定させることができるので、微生物が吸着剤の内部に吸収されて閉塞することもなく、微生物で分解できなかった難分解性の溶存物質のみを吸着除去できる性能を有するという点において有利である。
【0043】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0044】
上記実施の形態では、カルボキシル基を有する電解性ポリマーであるポリアクリル酸と、アミノ基を有する電解性ポリマーであるポリアクリルアミドを、ポリマー原料として使用する場合について記載したが、本発明では、カルボキシル基を有する電解性ポリマー及びアミノ基を有する電解性ポリマーの少なくとも一方をポリマー原料として使用することができ、カルボキシル基を有する電解性ポリマー或いはアミノ基を有する電解性ポリマーに加えて、更なる別のポリマー材料を原料として使用することもできる。
【0045】
また、上記実施の形態では、用水処理設備や排水処理設備において使用される水処理用担体について記載したが、これら用水処理設備や排水処理設備における水処理以外に、水に含まれる被凝集物の凝集処理を伴う各種の水処理に関し、本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施の形態のポリマーゲルが成形されたポリマー成形体としての水処理用担体10の概略構造を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態のポリマーゲルが成形されたポリマー成形体としての水処理用担体20の概略構造を示す斜視図である。
【図3】本実施の形態のポリマーゲルが成形されたポリマー成形体としての水処理用担体30の概略構造を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態のポリマーゲルが成形されたポリマー成形体としての水処理用担体40の概略構造を示す斜視図である。
【図5】(粉末活性炭)/(ポリアクリルアミド:グルタルアルデヒド(100:1)+ナイロンラッセルネット)成形体(目付200g/m)に対するポリオキシエチレン(付加モル数12)ノニルフェニルエーテル(NP12)の吸着効果に関し、ノニルフェニルエーテル(NP12)の除去率と処理時間との関係を示すグラフである。
【図6】(粉末活性炭)/(ポリアクリル酸:ポリビニルアルコール:ポリアクリルアミド+PET製ラッセルネット)成形体(目付145g/m)に対するポリオキシエチレン(付加モル数12)ノニルフェニルエーテル(NP12)の吸着効果に関し、ノニルフェニルエーテル(NP12)の除去率と処理時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10,20,30,40…水処理用担体
11,21,31,41…本体部
11a,21a…中空部
12,32,42…吸着剤
13,43…プラスチック材(ネット、織物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理に用いられる水処理用ポリマー成形体であって、
カルボキシル基を有する第1の電解性ポリマーが、アルコール基を有する第1の架橋剤により網目状に架橋された組成の第1組成部と、アミノ基を有する第2の電解性ポリマーが、アルデヒド基を有する第2の架橋剤により網目状に架橋された組成の第2組成部のうちの少なくとも一方の組成部を含む構成であることを特徴とする水処理用ポリマー成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理用ポリマー成形体であって、
前記第1組成部は、前記第1の電解性ポリマーとしてのポリアクリル酸が、前記第1の架橋剤としてのポリビニルアルコールにより網目状に架橋された組成であることを特徴とする水処理用ポリマー成形体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理用ポリマー成形体であって、
前記第2組成部は、前記第2の電解性ポリマーとしてのポリアクリルアミドが、前記第2の架橋剤としてのグルタルアルデヒドにより網目状に架橋された組成であることを特徴とする水処理用ポリマー成形体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の水処理用ポリマー成形体であって、
前記電解性ポリマーと当該電解性ポリマーに対応する架橋剤との混合比率に基づいて、前記組成部の網目形状が設定された構成であることを特徴とする水処理用ポリマー成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−119324(P2009−119324A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293505(P2007−293505)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(390021348)フジクリーン工業株式会社 (71)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】