説明

水処理装置及び水処理方法

【課題】装置の大型化を招くことなく、生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む複数の有機物を含む廃水から難分解性有機物を効率的に除去することができる水処理装置を提供する。
【解決手段】廃水に含まれる有機物を生物処理によって分解する水処理装置であって、生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む廃水から難分解性有機物を揮発させる揮発処理部20と、揮発処理部で揮発された難分解性有機物及び難分解性有機物とともに揮発した生物処理で分解が容易な易分解性有機物を含む空気を捕集する捕集装置50と、捕集装置で捕集された空気を曝気して易分解性有機物を生物処理する生物反応槽80と、生物反応槽に含まれる余剰汚泥を固液分離する固液分離装置90と、固液分離装置で分離された余剰処理水に含まれる難分解性有機物を、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水に含まれる人体や環境に有害な有機物を生物処理によって分解する水処理装置及び水処理方法に関し、特に、1,4-ジオキサン、内分泌撹乱物質等、生物処理に対する難分解性有機物を含む廃水に好適な水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃水や生活排水等の廃水に含まれる各種の有機物を除去するために、生物処理により有機物を分解する生物反応槽を備えた水処理装置が広く用いられている。
【0003】
しかし、1,4-ジオキサンやある種の内分泌撹乱物質は、生物分解性が非常に低いため、何らかの経路で水系へ混入してしまうと、上述した生物反応槽による生物処理では効果的に除去できないという問題が指摘されている。
【0004】
例えば、1,4-ジオキサンは、沸点が101℃、比重が1.03で特徴的な臭気のある無色の液体であり、水との混和性が高く、生物分解性が非常に低い難分解性有機物であるため、常温の廃水に曝気しても1,4-ジオキサンを効果的に揮発させることが困難である。同様に、1,4-ジオキサンは、活性炭吸着性が悪いために吸着法による除去も困難であり、水溶性が高いために凝集沈殿法を用いても除去困難である。
【0005】
このような1,4-ジオキサンは、セルロース、エステル、及びエーテル類の良好な溶剤で、主として有機合成反応溶剤として使用されている。例えば、化学工業では塩素系溶剤の安定剤や、油脂の抽出、パルプ化、ワックス、接着剤、保湿剤、ゴム、プラスチック等の抽出・反応用溶剤として用いられ、医薬品製造業では医薬品、化粧品、除草剤、殺虫剤、脱臭くん蒸剤等の抽出・反応用溶剤として用いられ、繊維工業では溶剤、試薬として用いられている。
【0006】
また、1,4-ジオキサンは、化学反応(エチレンオキシド重合反応)や界面活性剤を生成する際に副生成され、一般家庭で使用される洗剤製品(シャンプー、食器用洗剤等)の主成分である界面活性剤にも副生成物として残留しており、様々な廃水に混入する蓋然性が高い状況にある。
【0007】
特許文献1には、固体または液体から1,4-ジオキサンを揮発させる揮発工程と、該揮発工程で揮発した1,4-ジオキサンを含む空気を採集する集気工程と、該集気工程で採集された空気に対して水を噴霧することにより、前記空気中の1,4-ジオキサンを前記噴霧する水へ移行させるスクラバー工程と、該スクラバー工程から排出される排出水に含まれる1,4-ジオキサンを促進酸化法又はフェントン酸化法を用いたジオキサン分解工程で分解処理する1,4-ジオキサンの処理方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、廃水中に含有される1,4-ジオキサンを促進酸化法またはフェントン酸化法によるジオキサン分解装置で分解除去する際に、ジオキサン分解の前処理として、廃水に共存する有機物を生物反応槽で分解除去すると共に、廃水を固液分離し、固液分離で分離された分離水をジオキサン分解装置で処理する廃水処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4224817号公報
【特許文献2】特開2005−58854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述したように、1,4-ジオキサンは沸点等が水とほぼ同等の値であり、常温の廃水に曝気しても1,4-ジオキサンを効果的に揮発させることは困難であり、また、廃水を加熱した状態で曝気しても、1,4-ジオキサンよりも揮発性が高い有機物が共に気化するため、特許文献1に記載された処理方法では、従来と同様に、ジオキサン分解工程で1,4-ジオキサンを効率的に分解処理することが困難である。ジオキサン分解工程で有用なOHラジカルが他の有機物との反応に消費されるためである。
【0011】
例えば、1,4-ジオキサンとアセトアルデヒドが含まれる廃水を加熱した状態で曝気すると、1,4-ジオキサンのみならず、1,4-ジオキサンよりも揮発性の高い沸点が20.2℃のアセトアルデヒドが揮発するため、ジオキサン分解工程で1,4-ジオキサンを効率的に分解処理することができないのである。
【0012】
そこで、特許文献2に記載されたように、原水に1,4-ジオキサンと共存するアセトアルデヒドを生物反応槽で分解除去する場合には、アセトアルデヒドが生物反応槽の微生物に対して毒性を示す有機物であるため、原水を大幅に希釈して毒性を弱める必要があり、容量の大きな生物反応槽が必要になるばかりでなく、生物処理後の処理水に含まれる1,4-ジオキサン濃度が薄くなり、やはり、ジオキサン分解工程で1,4-ジオキサンを効率的に分解処理することが困難になるという問題があった。
【0013】
このような問題は、アセトアルデヒドに限るものではなく、1,4-ジオキサンよりも揮発性の高い有機物が生物反応槽の微生物に対して毒性を示す有機物である場合に共通する問題である。
【0014】
さらに、難分解性有機物以外の有機物の濃度が高い廃水を生物反応槽で分解除去する際には、生物処理効率を向上させる等の観点で廃水を希釈する必要があり、処理水の容量の増加の結果、生物反応槽やジオキサン分解装置の大型化による設備費の上昇を招くという問題もある。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、装置の大型化を招くことなく、生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む複数の有機物を含む廃水から難分解性有機物を効率的に除去することができる水処理装置及び水処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明による水処理装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、廃水に含まれる有機物を生物処理によって分解する水処理装置であって、前記生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む廃水から難分解性有機物を揮発させる揮発処理部と、前記揮発処理部で揮発された難分解性有機物及び難分解性有機物とともに揮発した前記生物処理で分解が容易な易分解性有機物を含む空気を捕集する捕集装置と、前記捕集装置で捕集された空気を曝気して易分解性有機物を生物処理する生物反応槽と、を備えている点にある。
【0017】
上述の構成によれば、揮発処理部によって廃水から揮発された難分解性有機物及び難分解性有機物とともに揮発した易分解性有機物が空気と共に捕集装置に捕集され、捕集装置から生物反応槽に曝気ガスとして供給される。当該曝気ガスに含まれる易分解性有機物が生物反応槽で生物処理によって難分解性有機物よりも比較的容易に分解除去されるため、当該生物反応槽によって廃水からほぼ難分解性有機物のみが分離されるようになる。また、生物反応槽には、廃水から揮発した有機物のみが供給されて生物処理されるので、廃水の容量が多い場合でもそれに対応して大型の生物反応槽を設置する必要も無い。
【0018】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一特徴構成に加えて、前記捕集装置で捕集された難分解性有機物及び易分解性有機物を含む空気を冷却するガス冷却装置を備えている点にある。
【0019】
上述の構成によれば、ガス冷却装置によって生物反応槽への曝気ガスとなる難分解性有機物及び易分解性有機物を含む空気の温度が低下し、その結果、生物反応槽に曝気された易分解性有機物の殆どが処理水に溶解して、生物反応槽で効率的に分解処理され、生物反応槽からの揮発量を極めて低い状態に調整することができる。
【0020】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第一または第二特徴構成に加えて、前記生物反応槽に含まれる余剰汚泥を固液分離する固液分離装置と、前記固液分離装置で分離された分離水に含まれる難分解性有機物を、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置と、を備えている点にある。
【0021】
揮発処理部で廃水から有機物を揮発させるときに、廃水の水分も難分解性有機物とともに気化するため、そのようなガスが曝気ガスとして捕集装置から生物反応槽に供給されると生物反応槽の処理水の量が増加する。特に、難分解性有機物が水と同等の沸点を示す1,4-ジオキサンである場合に顕著である。そこで、生物反応槽の水量及び活性汚泥量を調整するために、固液分離装置で余剰汚泥が取り出されるとともに、固液分離された生物反応槽の処理水の一部が余剰処理水として槽外に取り出される。取り出された処理水には生物反応槽で生物処理され難い難分解性有機物のみが含まれているため、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いる分解処理装置で効率的に分解処理されるようになる。
【0022】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記生物反応槽から放出された難分解性有機物を含む空気を捕集する第2の捕集装置を備えている点にある。
【0023】
生物反応槽に供給される曝気ガスには、廃水から揮発した難分解性有機物及び難分解性有機物と共に揮発した易分解性有機物が含まれ、易分解性有機物は主に生物反応槽で分解除去され、専ら生物反応槽で分解され難い難分解性有機物が余剰空気とともに生物反応槽からガス状で放出される。そこで、第2の捕集装置によってこのような生物反応槽からガス状で放出される難分解性有機物を選択的に捕集することが可能になる。
【0024】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第三の特徴構成に加えて、前記分解処理装置により難分解性有機物が分解された分離水を前記生物反応槽に循環させる循環経路を備えている点にある。
【0025】
上述の構成によれば、分解処理装置により難分解性有機物が分解され、当該難分解性有機物の濃度が低下した分離水が、循環経路を介して生物反応槽に循環供給されるので、生物反応槽への曝気ガスに含まれる難分解性有機物が処理水に溶解し易くなる。その結果、難分解性有機物を分離水に効率的に溶解させて分解処理することができるようになる。
【0026】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記揮発処理部で揮発された廃水に含まれる有機物を生物処理する第2の生物反応槽を備えている点にある。
【0027】
揮発処理部によって難分解性有機物及び易分解性有機物が揮発された後の廃水にも有機物が含まれている。そこで、第2の生物反応槽にこのような有機物が含まれる廃水を投入することによって、第2の生物反応槽で有機物が分解処理される。
【0028】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述した第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記揮発処理部は、廃水を曝気して難分解性有機物を揮発させる曝気槽、廃水を加熱して難分解性有機物を揮発させる加熱槽、または、廃水を加熱するとともに曝気して難分解性有機物を揮発させる加熱曝気槽で構成されている点にある。
【0029】
難分解性有機物を含む複数の有機物が含まれる廃水を曝気槽に貯留し、曝気槽に貯留された廃水を曝気することによって、効率的に廃水から難分解性有機物を揮発させることができる。また、このような廃水を加熱槽で加熱することにより、効率的に廃水から難分解性有機物を揮発させることができる。廃水を加熱するとともに曝気する加熱曝気槽を備えてもよい。特に、難分解性有機物が水と同等の沸点を示す1,4-ジオキサンである場合に、廃水を加熱することによって、水とともに1,4-ジオキサンを効率的に揮発させることができる。
【0030】
本発明による水処理方法の第一の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、廃水に含まれる有機物を生物処理によって分解する水処理方法であって、前記生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む廃水から難分解性有機物を揮発させる揮発処理工程と、前記揮発処理工程で揮発された難分解性有機物及び難分解性有機物とともに揮発した前記生物処理で分解が容易な易分解性有機物を含む空気を捕集する捕集工程と、前記捕集工程で捕集された空気を曝気して易分解性有機物を生物処理する生物反応処理工程と、を備えている点にある。
【0031】
同第二の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述した第一特徴構成に加えて、前記生物反応処理工程で用いられた余剰汚泥を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で分離された分離水に含まれる難分解性有機物を、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理工程と、を備えている点にある。
【0032】
同第三の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述した第二の特徴構成に加えて、前記分解処理工程で難分解性有機物が分解された分離水を、前記生物反応処理工程に循環させる循環工程を備えている点にある。
【発明の効果】
【0033】
以上説明した通り、本発明によれば、装置の大型化を招くことなく、生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む複数の有機物を含む廃水から難分解性有機物を効率的に除去することができる水処理装置及び水処理方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による水処理装置の説明図
【図2】本発明による水処理装置の別実施形態の説明図
【図3】図1に示す水処理装置で実行される水処理方法の工程説明図
【図4】図2に示す水処理装置で実行される水処理方法の工程説明図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明による水処理方法及び水処理装置を説明する。
以下の説明では、具体例として、生物処理で分解が困難な難分解性有機物として1,4-ジオキサン、生物処理で分解が容易な易分解性有機物として沸点が20.2℃のアセトアルデヒド、沸点が197.3℃のエチレングリコール等が含まれる工業廃水を分解処理するための水処理方法を説明する。
【0036】
尚、本発明は、1,4-ジオキサン以外に生物処理で容易に分解除去できない内分泌撹乱物質等の難分解性有機物と、その他単一または複数の易分解性有機物とが含まれる各種の工業廃水や下水等の廃水の浄化処理に適用でき、難分解性有機物と生物処理で分離除去可能な有機物が含まれる廃水から難分解性有機物を効率的に無害化処理する必要がある廃水に適用できる。易分解性有機物には、難分解性有機物よりも揮発性の高い高揮発性有機物や、難分解性有機物よりも揮発性の低い低揮発性の有機物であって、生物処理で分離除去可能な有機物が含まれる。
【0037】
本実施形態では、易分解性有機物であるアセトアルデヒドが難分解性有機物よりも揮発性の高い高揮発性有機物として、易分解性有機物であるエチレングリコールが難分解性有機物よりも揮発性の低い低揮発性有機物として説明されている。
【0038】
図1に示すように、水処理装置は、原水受入槽10、底部に散気装置21が設置された曝気槽を備えた揮発処理部20、揮発処理部20の上部に設置された捕集カバー51と捕集カバーで捕集されたガスが通流する管路52を備えた捕集装置50、底部に散気装置81を備え、活性汚泥が充填された生物反応槽80、固液分離装置90、オゾン生成部71とオゾン散気装置72と紫外線ランプ73を備えた分解処理装置70等を備えている。尚、図1で、符号Pはポンプ、符号Bはブロワーファン、符号Mは攪拌用モータを示している。
【0039】
温度が80℃、pH値が9.0の工業廃水が原水受入槽10に流入して貯留され、原水受入槽10から曝気槽にポンプアップされる。散気装置21から槽内に散気された気泡によってバブリングされた工業廃水から、高揮発性有機物であるアセトアルデヒド、難分解性有機物である1,4-ジオキサン、1,4-ジオキサンと沸点がほぼ等しい水蒸気が気化される。尚、工業廃水が低温であれば、曝気槽に熱交換装置を設けて、廃水温度が揮発しやすい温度になるように加熱することが好ましい。
【0040】
揮発処理部20は、廃水を曝気して難分解性有機物及び高揮発性有機物を揮発させる曝気槽で構成する以外に、散気装置21を設けずに廃水を加熱して難分解性有機物及び高揮発性有機物を揮発させる加熱槽で構成し、或は、加熱槽に散気装置を設置した加熱曝気槽で構成することも可能であり、廃水をミスト状に空間に噴霧して難分解性有機物及び高揮発性有機物を揮発させるミスト装置で構成することも可能である。また、曝気槽や加熱槽に塩分を添加して塩分濃度を上昇させることによって、難分解性有機物及び高揮発性有機物が揮発し易くなるように調整してもよい。
【0041】
揮発処理部20で揮発処理されたアセトアルデヒド、1,4-ジオキサン、水蒸気が空気とともに捕集装置50で捕集され、管路52に備えたブロワーファンを介して一対の生物反応槽80の散気装置81にそれぞれ送気される。
【0042】
ブロワーファンから散気装置81への管路にガス冷却装置55が設置され、捕集装置50で捕集された高温の曝気用ガスが冷却された後に生物反応槽80に送気される。ガス冷却装置55によって生物反応槽80への曝気ガスの温度が低下するため、生物反応槽80に曝気された高揮発性有機物の殆どが処理水に溶解して、生物反応槽80で効率的に分解処理される。尚、ガス冷却装置55を備えることが好ましいが、曝気用ガスの温度がそれほど高くない場合には、必ずしも必要な装置ではない。
【0043】
各生物反応槽80は連通され、予め所定濃度の活性汚泥が充填されている。散気装置81から生物反応槽80に送気されたアセトアルデヒドが主に生物処理によってCOとHOに分解されて無害化され、同時に脱臭される。
【0044】
アセトアルデヒドは、生物反応槽80内の微生物に対して毒性を示す有機物であり、高濃度のアセトアルデヒドを含む廃水を生物反応槽80に投入すると、その毒性により微生物による分解反応が適正に行なわれ難くなるため、廃水を希釈してアセトアルデヒドの濃度を低く調整する必要がある。
【0045】
そこで、当該有機物を含む廃水に対して必要とされる希釈率及び活性汚泥量と同等の有機物負荷となるように、生物反応槽80の槽容積及び活性汚泥量が決められている。つまり、生物反応槽80は、曝気槽の2〜10倍の容量に設定され、散気装置81から生物反応槽80に送気されたアセトアルデヒドを適正に分解処理可能な活性汚泥濃度に維持されている。従って、廃水を大きな希釈率で希釈する必要が無いため、各装置を大型化する必要が無い。
【0046】
捕集装置50と散気装置81の間に、捕集装置50で捕集されたアセトアルデヒドを酸化処理して酢酸に変化させる酸化処理部を備え、微生物に対する毒性を消失させた後に散気装置81から生物反応槽80に送気するように構成すれば、生物反応槽80を一層コンパクトに構成できる点でより好ましい。例えば、揮発したアセトアルデヒドにオゾンガスを混合させる酸化処理部、或はアセトアルデヒドを酸化触媒に接触させる酸化処理部を備えればよい。
【0047】
生物反応槽80には、廃水から気化した蒸気が散気装置81を介して供給され、槽内の水量が次第に増加し、また有機物がSS成分に転換されることにより汚泥が増加するため、生物反応槽80内の活性汚泥を含む処理水の一部がポンプを介して固液分離装置90に送られ、槽内の処理水量が一定に調整される。固液分離装置90で分離された固形分は余剰汚泥として廃棄され、分離水の一部が生物反応槽80に循環供給され、分離水が分離水貯留槽60に貯留される。図1には、生物反応槽80の処理水及び固液分離装置90で固液分離された分離水の流れが一点鎖線で示され、曝気ガスの流れが破線で示されている。
【0048】
固液分離装置90として遠心脱水機、スクリュー式脱水機、フィルタプレス式脱水機等、公知の各種の脱水機を用いることができる。
【0049】
生物反応槽80に送気された高揮発性有機物は槽内で分解されるが、難分解性有機物である1,4-ジオキサンは槽内で分解処理されず、そのまま槽外に揮発し、一部が処理水に溶解する。従って、分離水貯留槽60に貯留された分離水は、ある程度の量の1,4-ジオキサンが含まれているが他の有機物は殆ど存在しない状態である。
【0050】
そこで、分離水貯留槽60に貯留された分離水が分解処理装置70に送水され、分解処理装置70で促進酸化法により1,4-ジオキサンが分解処理される。促進酸化法(AOP(Advanced Oxidation Process))とは、オゾンや過酸化水素等の酸化剤と紫外線を用いて活性酸素種の中でも最も強力なヒドロキシルラジカルを発生させ、これによって難分解性有機物を酸化分解する方法である。
【0051】
本実施形態では、分解処理装置70がオゾン生成部71とオゾン散気装置72と紫外線ランプ73を備えて構成される例を説明しているが、具体的構成は特に限定するものではない。オゾン散気装置72に替えて過酸化水素注入装置を備えてもよい。
【0052】
また、フェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置70を備えてもよい。フェントン酸化法とは、酸性のpH域で過酸化水素に鉄(II)化合物が触媒的に反応して複雑な連鎖反応で、酸化力の強いヒドロキシルラジカルを発生させ、これによって難分解性有機物を酸化分解する方法である。さらに、スーパーオキシドを発生させて有機物等を酸化分解する電気分解法を採用した分解処理装置70を備えてもよい。
【0053】
分離水貯留槽60に、後述するような分離膜と、分離膜の下部から曝気する散気装置を備えた膜分離装置を設けて、膜分離装置の透過液を分解処理装置70で分解処理してもよい。
【0054】
何れの場合でも、他の有機物が殆ど含まれていないため、ヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドが専ら1,4-ジオキサンの酸化にのみ作用し、極めて効率的に難分解性有機物が分解処理できるようになる。
【0055】
尚、分離された難分解性有機物を酸化分解することなく専門の処理業者に引き渡して、処理業者に処理を委ねてもよい。処理水に含まれる有機物が難分解性有機物のみとなっているので、従来に比べて処理費用を安価に抑えることができるようになる。
【0056】
各生物反応槽80の上部空間にも、捕集カバー101と捕集カバー101で捕集されたガスが通流する管路102を備えた第2の捕集装置100が設置されており、第2の捕集装置100によって、槽外に揮発した1,4-ジオキサン及び水蒸気が空気とともに捕集される。
【0057】
第2の捕集装置100に捕集された1,4-ジオキサンを、工場に設置された燃焼炉等の燃焼装置に導き、燃焼処理することにより無害化処理することができる。本実施形態では、第2の捕集装置100に捕集された1,4-ジオキサンを吸着する活性炭等が充填された脱臭装置130を設けて、1,4-ジオキサンを回収するように構成されている。
【0058】
また、分離水貯留槽60に貯留された分離水に含まれる1,4-ジオキサンを分解する分解処理装置70で分解処理された分離水を、生物反応槽80に循環させる循環経路85が設けられている。
【0059】
分解処理装置70により難分解性有機物が分解され、当該難分解性有機物の濃度が低下した分離水が、循環経路85を介して生物反応槽80に循環供給されるので、生物反応槽80への曝気ガスに含まれる難分解性有機物が処理水に溶解し易くなり、その結果、難分解性有機物を分離水に効率的に溶解させて分解処理することができるようになる。尚、本発明は、循環経路85を必須とするものではなく、循環経路85を備えていない水処理装置であってもよい。
【0060】
揮発処理部20で高揮発性有機物及び難分解性有機物が揮発した後の廃水には、難分解性有機物よりも揮発性の低い低揮発性有機物であるエチレングリコールが残存している。当該廃水は揮発処理部20からpH調整槽120に送水され、苛性ソーダが添加されてpH値が8以下になるように調整されるとともに、希釈水が加えられて生物処理に適した約40℃前後の温度調整された後に、第2の生物反応槽30に送水される。
【0061】
第2の生物反応槽30も活性汚泥が充填され、一対の槽の底部にそれぞれ散気装置31を備えている点で上述した生物反応槽80と同様の構成であるが、散気装置31から供給されるガスが空気である点で、先に説明した生物反応槽80と異なる。
【0062】
第2の生物反応槽30で生物処理された処理水は、その下流側に設置された膜分離槽40に送水される。膜分離槽40には、生物反応槽30で生物処理された処理水を固液分離する分離膜41と、分離膜41の下部から曝気する散気装置が設置され、分離膜41で固液分離された処理水が上述した分解処理装置70に送水されて、微量の1,4-ジオキサンが分解処理される。分離膜として、限外ろ過膜、精密ろ過膜等を採用でき、膜の形態として中空糸膜、平膜、チューブラー膜等を好適に採用できる。尚、分離膜41で固液分離された処理水に含まれる1,4-ジオキサン濃度が極めて低い場合には、そのまま河川に放流することも可能である。
【0063】
尚、図1には、2機の分解処理装置70が示されているが、スクラバー装置110から出力される1,4-ジオキサン水溶液と、分離水貯留槽60に貯留された1,4-ジオキサン水溶液と、分離膜41で固液分離された処理水である1,4-ジオキサン水溶液が、1機の分解処理装置70で分解処理されるように兼用させてもよい。
【0064】
上述の第2の生物反応槽30の上部空間にも、捕集カバー101と捕集カバー101で捕集されたガスが通流する管路102でなる第2の捕集装置100が設けられ、低揮発性有機物を生物処理する生物反応槽30で揮発した1,4-ジオキサンがスクラバー装置110に送気されるように構成されている。
【0065】
本実施形態では、例えば、廃水に含まれる1,4-ジオキサンのうち、約85%が第2の捕集装置100で捕集されたガスに含まれ、約9.3%が分離膜41で固液分離された処理水に含まれ、約5%が分離水貯留槽60に貯留された分離水に含まれ、それぞれ分解処理装置70で効率的に分解処理される。
【0066】
図2には、水処理装置の別実施形態が示されている。本実施形態では、第2の捕集装置100に捕集された1,4-ジオキサンを吸着する活性炭等が充填された脱臭装置130に代えて、第2の捕集装置100で捕集された空気に水を噴霧して、1,4-ジオキサンを水溶させるスクラバー装置110と、スクラバー装置110で水溶させた難分解性有機物を、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置70が設けられている。
【0067】
スクラバー装置110は、水噴霧装置111が設けられた筒状のケーシングで構成され、第2の捕集装置100に捕集された1,4-ジオキサンを含むガスがブロワーファンによってケーシング内に送気され、水噴霧装置110からの噴霧水に溶解するように構成され、1,4-ジオキサンの水溶液が、上と同様の分解処理装置70に送水されて分解処理される。
【0068】
図1及び図2の何れにも、生物反応槽80で生物処理され、分離水貯留槽60に貯留された分離水と、第2の生物反応槽30で生物処理され膜分離槽40の分離膜41で固液分離された処理水の双方が、共通の分解処理装置70で分解処理される例が示されているが、各処理経路に分解処理装置70を個別に設けて処理経路毎に難分解性有機物を分解処理するように構成してもよい。
【0069】
図3には、図1で説明した水処理装置で実行される処理工程のフローが示されている。つまり、本発明による水処理方法は、廃水受入工程と、揮発処理工程と、捕集工程と、生物反応処理工程と、固液分離工程と、分解処理工程を備えている。
【0070】
廃水受入工程では、1,4-ジオキサンを含む工業廃水が原水受入槽10に受け入れられ、揮発処理工程では、揮発処理部20で廃水から1,4-ジオキサン及び1,4-ジオキサンよりも揮発性の高いアセトアルデヒドが揮発処理される。
【0071】
捕集工程では、揮発処理部20で揮発した1,4-ジオキサン及びアセトアルデヒドを含む空気が捕集装置50によって捕集され、ガス冷却装置55によって冷却される冷却工程が必要に応じて実行される。
【0072】
生物反応処理工程では、予め所定濃度の活性汚泥が充填された生物反応槽80に、捕集工程で捕集され冷却工程で冷却された空気を含むガス状の有機物を曝気して、アセトアルデヒドを生物処理する生物反応処理工程が実行される。
【0073】
上述したように、高揮発性有機物が生物反応処理工程で用いられる微生物に対して毒性を示す有機物であり、当該有機物を含む廃水に対して必要とされる希釈率と同等の希釈率となるように、生物反応処理工程の活性汚泥量が調整されている。
【0074】
生物反応処理工程で用いられた余剰汚泥が脱水機90に移送され、固液分離工程で固液分離された分離水に含まれる1,4-ジオキサンが、分解処理工程で促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置70で分解される。さらに、分解処理工程で難分解性有機物である1,4-ジオキサンが分解された後の分離水を、生物反応処理槽80に循環させる循環工程が実行される。
【0075】
生物反応工程で生物反応槽80から放出された難分解性有機物を含む空気が第2の捕集装置100よって捕集される第2の捕集工程が実行され、活性炭等が充填された脱臭装置130で難分解性有機物が吸着される吸着脱臭工程が実行される。
【0076】
図4には、図2で説明した水処理装置で実行される処理工程のフローが示されている。特徴的な工程を説明する。生物反応工程で生物反応槽80から放出された難分解性有機物を含む空気が第2の捕集装置100よって捕集される第2の捕集工程が実行され、スクラバー装置110に第2の捕集工程で捕集された空気に水を噴霧して、難分解性有機物を水溶させるスクラバー工程が実行される。
【0077】
そして、スクラバー工程で水溶させた1,4-ジオキサンが、分解処理工程で促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置70で分解される。
【0078】
上述した実施形態は、本発明の一例であり、当該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0079】
10:原水受入槽
20:揮発処理部(曝気槽)
30:第2の生物反応槽
40:膜分離槽
50:捕集装置
70:分解処理装置
80:生物反応槽
90:固液分離装置
100:第2の捕集装置
110:スクラバー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水に含まれる有機物を生物処理によって分解する水処理装置であって、
前記生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む廃水から難分解性有機物を揮発させる揮発処理部と、
前記揮発処理部で揮発された難分解性有機物及び難分解性有機物とともに揮発した前記生物処理で分解が容易な易分解性有機物を含む空気を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置で捕集された空気を曝気して易分解性有機物を生物処理する生物反応槽と、
を備えている水処理装置。
【請求項2】
前記捕集装置で捕集された難分解性有機物及び易分解性有機物を含む空気を冷却するガス冷却装置を備えている請求項1記載の水処理装置。
【請求項3】
前記生物反応槽に含まれる余剰汚泥を固液分離する固液分離装置と、
前記固液分離装置で分離された分離水に含まれる難分解性有機物を、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理装置と、
を備えている請求項1または2記載の水処理装置。
【請求項4】
前記生物反応槽から放出された難分解性有機物を含む空気を捕集する第2の捕集装置を備えている請求項1から3の何れかに記載の水処理装置。
【請求項5】
前記分解処理装置により難分解性有機物が分解された分離水を前記生物反応槽に循環させる循環経路を備えている請求項3記載の水処理装置。
【請求項6】
前記揮発処理部で揮発された廃水に含まれる有機物を生物処理する第2の生物反応槽を備えている請求項1から5の何れかに記載の水処理装置。
【請求項7】
前記揮発処理部は、廃水を曝気して難分解性有機物を揮発させる曝気槽、廃水を加熱して難分解性有機物を揮発させる加熱槽、または、廃水を加熱するとともに曝気して難分解性有機物を揮発させる加熱曝気槽で構成されている請求項1から6の何れかに記載の水処理装置。
【請求項8】
廃水に含まれる有機物を生物処理によって分解する水処理方法であって、
前記生物処理で分解が困難な難分解性有機物を含む廃水から難分解性有機物を揮発させる揮発処理工程と、
前記揮発処理工程で揮発された難分解性有機物及び難分解性有機物とともに揮発した前記生物処理で分解が容易な易分解性有機物を含む空気を捕集する捕集工程と、
前記捕集工程で捕集された空気を曝気して易分解性有機物を生物処理する生物反応処理工程と、
を備えている水処理方法。
【請求項9】
前記生物反応処理工程で用いられた余剰汚泥を固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離された分離水に含まれる難分解性有機物を、促進酸化法またはフェントン酸化法を用いて分解する分解処理工程と、
を備えている請求項8記載の水処理方法。
【請求項10】
前記分解処理工程で難分解性有機物が分解された分離水を、前記生物反応処理工程に循環させる循環工程を備えている請求項9記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−35189(P2012−35189A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177079(P2010−177079)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】