説明

水処理部材及び水処理方法

【課題】
下水再生の高度処理や海水淡水化などに用いられる逆浸透膜において,逆浸透膜表面に水中の溶解有機物が吸着して水の透過量を低下させ,安定運転を阻害し,逆浸透膜モジュールを交換する頻度が高いことが課題である。
【解決手段】
逆浸透膜に吸着する水中溶解有機物を吸収するための吸着材料1を表面積を拡大するために繊維状にして,逆浸透膜3より前の流路内に設置する。被処理水を,繊維の長さ方向に流れるようにすることにより,有機物を吸着しても,目詰まりによる被処理水の流量低下が起きづらく,吸着繊維の交換や回復処理をするまでの期間を長くして運用コストを低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,排水再生処理や海水淡水化に用いて,電解質を分離除去する逆浸透膜の前処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水の浄化の高度処理において逆浸透膜が用いられている。逆浸透膜表面には半透膜が用いられるが,半透膜の材質は大きく分けて,酢酸セルロース系と芳香族ポリアミド系がある。このうち,芳香族ポリアミド系の逆浸透膜は水透過性や電解質除去性能が高いため,工業用に広く用いられている。その構造は,微孔多孔質支持体上に芳香族ポリアミド膜を形成した複合半透膜の構造が多く用いられ,芳香族ポリアミド部分の膜厚は200〜300nmが一般的である。
【0003】
逆浸透膜は海水淡水化,半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造,上水の高度処理,下水・排水の再生処理などにおいて,水中溶解する有機物,電解質の除去に用いられる。
【0004】
これらの用途のうち,下水の再生処理に用いる場合は,一般的に以下のような処理プロセスを経て水が逆浸透膜に供給される。まず,下水に含まれる粗大な夾雑物,ごみ等はスクリーンと呼ばれるふるいを通して除かれる。次に,砂などの細かい懸濁物を必要に応じて凝集剤等を添加し沈殿池で沈下させ分離する。上澄みの水にはまだ浮遊物や溶解有機物等が含まれており,微生物を用いて分解する。微生物のコロニーや代謝物が汚泥であるが,汚泥と水とは沈殿池での沈降または精密ろ過膜を通すことで分離される。このようにして処理された下水一次処理水には浮遊物はほとんど含まれず,この段階で河川に放流したり,緑化散布水などの用途によっては再利用したりできる水質まで浄化されている。日本国内では,この段階で河川に放流し自然浄化を活かして,水循環を行っている。しかしながら,中東,大陸内陸部,島等では自然浄化に必要十分な河川や湖沼がないために,下水一次処理水をさらに浄化して飲料水や工業用水として再利用する要望が高まっている。逆浸透膜はこの最終処理において下水一次処理水中の電解質や溶解有機物を除去するのに用いられる。
【0005】
下水一次処理水には,前段階までの処理などによって変化するが,電解質が1%以下,溶解有機物がTOC(全有機炭素量)に換算して3〜20mg/L含まれる。これらを逆浸透膜で分離すると電解質を1ppm以下,有機物を1mg/L以下まで低下させることが可能である。
【0006】
下水再生処理に用いられる逆浸透膜は,モジュール内の膜表面積を増加させるため,スパイラルと呼ばれる形状に折りたたまれているものが多い。中央の芯の部分に袋状の逆浸透膜を固定し,傘のように巻き上げて円筒に納めた形をしている。モジュールは4インチ,8インチなどの直径で長さが1mの円筒形が主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3864817号
【特許文献2】特開2007-244979号
【特許文献3】特開2009-202125号
【特許文献4】特開平4-122407号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
逆浸透膜は,分離膜の一種であるが,分離膜を用いた水のろ過方式には2方式ある。一つは,全量ろ過方式で,これは供給した水の全量を膜に通過させる方式で,膜を通過できない成分は膜面に堆積する。もう一つはクロスフローろ過方式であり,膜面に平行に水が流れ,一部が膜を透過して透過水に,残りは溶解物濃度が高くなった状態で濃縮水としてモジュールから取り出される。逆浸透膜でのろ過には,後者のクロスフローろ過方式を用いている。この方式では,膜表面への溶解物の析出や濃度上昇による運転負荷上昇を低減する。しかし,クロスフローろ過方式でも溶解物が膜面に吸着し,透過水量が経時的に劣
化する問題がある。
【0009】
膜表面への吸着物には,電解質が膜表面付近で濃度が高くなって析出するスケール,水中の微生物が増殖するバイオファウリングなどのほか,有機物が吸着する有機物ファウリングがある。定期的に膜表面に清浄水や洗浄液を流し,せん断力によって吸着物を除去しているが,有機物が吸着した場合,せん断力では完全に除去することができず,徐々に蓄積して水の透過量が低下する。一定した透過量を得るために動力(圧力)を増加させるが,ポンプの電力費増加につながる。また,洗浄液により逆浸透膜が徐々に劣化するため,イオンの阻止率が低下する。これらが進むと逆浸透膜モジュールを交換する必要が生じる。逆浸透膜モジュールの交換時は運転を長時間止める必要があり,また逆浸透膜モジュールは再生利用ができないため,新しい逆浸透膜モジュールに交換する必要があり,稼働率低下,逆浸透膜の消耗品代,廃棄物処理費など単位水量当たりのランニングコストをあげる原因となっている。
【0010】
このため,有機物を逆浸透膜前であらかじめ除去する前処理を追加して逆浸透膜の交換までの寿命を延ばす方法がある。前処理方法としては,有機物を分解する方法,有機物を吸着や凝集により,除去する方法などがあるが,後者の有機物を吸着する方法としては,活性炭が汎用的に用いられる。ここで,逆浸透膜に吸着する成分は,下水一次処理水中に含まれる3〜20mg/Lの有機物のうち5%以下である。しかしながら,活性炭を用いる方法では,下水一次処理水に含まれる有機物のほとんどを吸着するために,活性炭がすぐに吸着飽和に達してしまい,活性炭の交換頻度が高くなり,逆浸透膜の交換頻度を低減してもコストメリットが得られない。活性炭以外の方法として,特許文献1には,逆浸透膜と同じ材料からなる吸着剤を用いる方法が開示されている。また,特許文献2には,溶解有機物のうち親水性のものを吸着除去する方法が開示されている。
【0011】
吸着剤の構造は,下水一次処理水を透過させたときに,十分な透過水量が得られることが求められる。一方で,水と接触する表面積を大きく取ることが吸着を効率よく行うために必要である。表面積を拡大する方法として,活性炭は粉状,破砕片,粒状のものなどがあるが,水中で用いる場合,水の流路が狭くなるため,十分な流速が得られにくい。活性炭以外の吸着剤も,粒状の場合はいずれも同様の問題が生じる。さらに,活性炭は表面積拡大のために細孔を持つが,細孔内で捕捉した物質は脱離が困難で,洗浄での吸着能回復が実用上不可能である。
【0012】
他の表面積拡大方法として,例えば,特許文献3には多孔質で水が通過できる樹脂を用いる方法が示されており,洗浄で吸着能が回復することが示されている。この方法は有効であるが,洗浄液は表層を流れるのみで洗浄力を強めるためには,圧力をかけて剪断力を増加するか,高濃度の洗浄液を用いることになり,動力増加や薬液処理コスト増加につながる。
【0013】
他に,特許文献4には繊維状の吸着材料をシート状にして,シートに水を透過させる方法が記載されている。この場合,時間の経過に従い,繊維の隙間が目詰まりして水の透過量が低下する課題がある。
【0014】
逆浸透膜を用いて水処理する場合に,水中に溶解した有機物が逆浸透膜表面に吸着して水の透過量が経時劣化し,安定した透過水供給に問題が生じる。逆浸透膜の表面は洗浄して性能を回復するが,完全な機能回復は難しく,また,洗浄液により膜が劣化して透過水の水質が低下する。このため,ある程度劣化した場合は逆浸透膜を交換する必要がある。逆浸透膜の寿命が短いと水処理のランニングコストが高くなる。とくに,下水再生処理においては,逆浸透膜に供給される水に含まれる有機物量が多いため,大きい課題である。
【0015】
前処理で有機物を除去する方法があるが,低コストで効果を得ることが難しい。これは,吸着剤が大量に必要であることや吸着剤の再生利用が困難なことが原因である。
【0016】
本発明の目的は,上記課題を解決し,低コストな前処理を追加して逆浸透膜の寿命を延ばし,水処理のランニングコストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は,上記課題を解決するために,被処理水を,逆浸透膜で処理する工程を含む水処理で,前記逆浸透膜の上流側に配置され,前記被処理水を接触させる水処理部材において,有機物を吸着可能な材料を表面に持つ繊維を有し,前記繊維の長さ方向に前記被処理水が流れるように前記被処理水の経路が形成するなど,被処理水の流れが吸着繊維の目詰まりにより堰き止められにくいようにしていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,低コストの前処理を追加で逆浸透膜の寿命を延ばすことにより,逆浸透膜を用いた水処理のランニングコストを低減し,水を安定供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例にかかる水処理装置の模式図である。
【図2(a)】本発明の一実施例にかかる,繊維を水の流れる方向に並行に配置した吸着モジュールの模式図である。
【図2(b)】図2(a)にかかる吸着モジュールの入口側金網の面を入口側から見たものである。
【図3】シート状吸着材料をスパイラル構造にした吸着剤の模式図である。
【図4】パイル状の布を用いた場合の吸着剤と水の流れの模式図である。
【図5】本発明の一実施例にかかる吸着材料の分子構造である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明にかかる実施例を図面を用いて説明する。
【0021】
下水再生処理において微生物処理を行った後に逆浸透膜で処理する場合について,課題解決の手段を述べるが,逆浸透膜のその他の用途,つまり海水淡水化,半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造,上水の高度処理,下水・排水の再生処理(微生物処理を併用しないものなどを含む)においても水中溶解有機物の除去に有効である。
【0022】
図1に,下水処理処理装置の模式図を示す。吸着モジュール2内には,有機物を吸着するための吸着材料の繊維1が設けられている。吸着モジュールの下流には,吸着が終わった処理水を貯めておく貯水タンク5が設けられ,その下流には,加圧のためのポンプ6と,逆浸透膜3を内部に有する逆浸透膜モジュール4が設けられている。下水一次処理水は,吸着モジュール2にて有機物を吸着され,貯水タンク5に貯められる。その後,貯水タンク5から汲み出された処理水は,ポンプ6にて加圧されて逆浸透膜モジュール4に供給される。逆浸透膜モジュール4では,逆浸透膜3により,電解質と溶解有機物が遮断され,溶解物の濃度が低い透過水と,電解質及び溶解有機物を高濃度で含む濃縮水に分離される。
【0023】
下水再生処理において,逆浸透膜に供給される下水一次処理水は微生物による有機物分解処理後の水であり,溶解有機物がTOC(全有機炭素量)に換算して3〜20mg/L含まれる。溶解有機物の種類は1つに特定できるものではない。クロスフローろ過方式においては,逆浸透膜で分離された成分は濃縮水とともに排出されるので,排出可能な有機物は逆浸透膜の劣化原因ではなく,積極的に除去する必要はない。図1に示す水処理設備により,逆浸透膜表面に吸着する有機物のみを選択的に効率よく吸着除去する前処理吸着剤により,課題を解決する。このような吸着剤とすることで,吸着剤の量を減らすことができ,低コストの前処理が実現できる。
【0024】
まず,逆浸透膜の表面への吸着有機物を分析した。多成分が含まれるので,成分を特定できるものではないが,カルボニル基やカルボキシル基を含む有機物が吸着しやすいことが分かった。他に,アミノ基,Siを含むシロキサン類を含む成分なども吸着する成分に含まれる。
【0025】
また,逆浸透膜への溶解有機物の吸着量を調べたところ,水中に含まれる溶解有機物のうち,逆浸透膜に吸着するのはTOC換算して5%以下でそれ以外の有機物は水中に存在しても逆浸透膜に吸着せず,水の透過量低下原因とはならないことを突き止めた。
【0026】
逆浸透膜が有機物を吸着するメカニズムには分子間相互作用が大きく影響する。吸着物の分析から,カルボニル基,カルボキシル基と親和性の高いアミノ基を繰り返し単位に含むポリマーを吸着材料とすることが良い。ポリマーの繰返し単位にアミノ基を含む例として,ポリアミド,ポリイミド,ポリウレタン,尿素樹脂,ポリペプチド(タンパク質),ポリエチレンイミン,ポリベンゾイミダゾール,ポリベンゾオキサゾールなどがある。他の材料として,側鎖や主鎖に含まれる官能基がアミノ基を含むものを用いることもできる。一例として,ポリアリルアミン,ポリビニルアミンなどがある。また,アミノ基やシロキサン類との親和力のため,主鎖または側鎖にカルボニル基,シロキサン構造を含むものも良い。さらに,主鎖や側鎖に含まれる構造は1種類に限らず,複数の構造を含むことによって,水中に含まれる混合物の広範囲の種類を吸着することができ,吸着効率を向上することができる。
【0027】
吸着効率をさらに向上するためには,吸着剤の体積当たりの表面積を増加する必要がある。このため,上記材料が表面材質となる繊維を,吸着剤として用いる。上記材料の単一成分からなるポリマーの繊維,上記材料どうしまたは上記材料とその他の成分の2成分以上を共重合したポリマーからなる繊維,単一成分ポリマーを繊維にしたあと,他の成分からなるポリマーを縒り合わせた混合材料繊維,異なる材質の繊維表面に上記材料をコーティングした複合繊維などが考えられる。機械的強度,耐熱性,耐薬品性などを考慮して組合せればよい。繊維表面にはさらに表面積を増加するために表面凹凸があるものを用いても良い。繊維の径は10μm〜1mmで,細い繊維を縒り合わせて用いることもできる。10μm以下の繊維は,固定が困難になる,脱落して水中に異物として浮遊するなどの問題がある。一方,1mm以上では,表面積を増加する効果が小さく,実用にあった設備サイズにすることが難しい。より好ましくは,100〜500μmの径が良い。
【0028】
繊維状の吸着剤は,吸着能が低下したときの吸着性能回復も容易である。ここで,対象となる有機物はカルボニル基やカルボキシル基を含む弱酸で,アルカリ性で溶解しやすい。このことに関して,同じ下水一次処理水をpH8.0とpH6.0に調製したあとに吸着剤で処理したときに,pH6.0のほうが吸着量が多くなる結果を得ており,この結果は,pH8.0のアルカリ性においては有機物が溶解しやすいために吸着量が少ないと考えられる。従って,吸着剤に吸着した有機物を除去して吸着能を回復するためにはアルカリ溶液を流して表面を洗浄する。しかしながら,表面にアルカリ溶液を流すだけでは,脱離速度が遅く,表面の機能回復のためには多くの薬液と時間を要する。本発明の繊維状の吸着剤では,吸着剤構造を自由に変形できることから,アルカリ溶液中で表面に物理的な力を加えることが容易であり,表面の機能回復が短時間で可能である。物理的な力としては,吸着剤を吸着槽から取り出し,繊維を屈伸させることがあり,具体的には,繊維を揺動する,繊維束をねじる,固定端同士の距離を変動させる,などがある。また,表面への剪断力を強化するため,洗浄時にバブリングする,ブラシ等で擦るなども考えられる。
【0029】
繊維状の吸着剤は,目詰まりを起こしても被処理水の流れを堰き止めないように配置する。例えば,被処理水が繊維に沿って水が流れる構造を持つよう配置する。簡易な形状の一例としては図2に示すような,繊維を束にして配管内に水の通過方向に平行に並べる構造である。この吸着モジュール2の一端から下水一次処理水が流れ込み,吸着処理を行った被処理水が他端から流出される。吸着モジュール2内に,2枚のメッシュ7としての金網を配置し,メッシュをリング9により固定し,糸状の繊維1をメッシュ7に絡めて,2枚のメッシュ7間に橋渡しして配置している。図(a)は吸着モジュールの模式図であり,図2(b)はメッシュである金網部分の断面図である。図2では繊維1の両端を固定しているが,一端のみを固定しても良い。また,メッシュ7は,有機物を吸着しないまたは吸着力の小さい材料により形成する。処理水はメッシュ7を貫通するように流れるが,メッシュは有機物を吸収しないので,目を細かくしても目詰まりが起こりにくい。また,繊維1をメッシュや布など目の細かいものによって支持することで,高密度に配置することができる。
【0030】
他には,不織布や織物などのシート状にすることも可能だが,これらを用いる場合も,シート面に垂直に水が透過するのではなく,シート表面に沿って水が流れるように配置する。この場合図3のように吸着剤のシートをスパイラル形状に巻くことで表面積を拡大できる。
【0031】
また,図4に示すようにシート状にする場合に,パイル状に繊維をシートから突出させることで,吸着効率を向上することもできる。この場合はパイルの繊維表面材質が前述の吸着材料であれば,シート部分(地布)は別の材料で良い。水は,シート面に垂直方向に透過するより抵抗の少ないシートの面に沿って流れるため,シートの目詰まりが生じて透過水量が低下する問題が生じにくい。また,シート部分を有機物を吸着しない(吸着力の小さい)材料で構成すれば,シート面を貫通するように被処理水を流すことも可能である。この場合,被処理水はおよそパイルの繊維方向に沿って流れるからである。
【0032】
このような吸着剤により,逆浸透膜前処理を行うことで,あらかじめ逆浸透膜の性能劣化原因の有機物のみを選択的に吸着して水中から除去することができ,また,吸着剤への有機物蓄積量が増えても目詰まりによる被処理水の流量低下を起こしにくいため,吸着剤の交換頻度が低く,低コストの前処理方法が得られる。
【0033】
以下,実施例を用いて説明する。
(実施例1)
本発明において,逆浸透膜に供給される下水一時処理水は,ごみ等をスクリーンにかけて取り除く処理,さらに砂などの細かい懸濁物を凝集剤添加して沈降除去する処理,微生物を用いて有機物を分解する処理が施されている。下水一次処理水中には塩類や溶解有機物が含まれている。このように処理された下水一次処理水は,溶解有機物をTOC(全有機炭素量)に換算して3.7mg/L含んでいた。
【0034】
本発明にかかる水処理では,この下水一次処理水を前処理吸着剤を用いて処理し,水中の有機物を吸着除去する。さらに,前処理を行った処理水を圧力をかけながら逆浸透膜を通すことで,処理水中の電解質を除去され,処理が完成する。除去された電解質は,濃縮水として取り除かれる。
【0035】
下水一次処理水を図1に示す設備に導入し,吸着処理に連続して逆浸透膜ろ過を行った。
【0036】
吸着モジュール2は,ステンレス304の平織の金網を入口と出口に配置し,図2(b)に示すようにナイロン66(吸着材料;1)の市販の糸(太さ560dtex(デシテックス)=約250μm径)を渡したものを用いた。ステンレス金網2は30メッシュで線径が0.34mm,目開きが0.507mmのものを用いた。金網の目に糸1を通して入口と出口の金網の間を往復させた。入口と出口の金網の間は300mm離れており,流路径12mmにナイロン繊維を52本配置した構造である。金網は2本のステンレスリング8,9に端部を挟み込んで固定した。
【0037】
吸着モジュール2のあとに逆浸透膜に加圧するためのポンプ6があり,ポンプは逆浸透膜モジュールに水を供給するとともに吸着モジュールの水を吸引する。ポンプは25ml/分定流量供給で運転した。
【0038】
逆浸透膜モジュールは平膜の逆浸透膜を用いてクロスフローでろ過する機構を持つ。逆浸透膜の有効面積は60cmである。逆浸透膜はNaCl阻止能95%,低圧タイプ(NF(ナノフィルトレーション)膜)を用いた。ろ過時の透過水回収率は10%(2.5ml)で運転した。
【0039】
タンク内に10Lの下水一次処理水を用意し,4時間で6Lを設備で処理した。このとき,透過水と濃縮水は別々に捕集した。また,比較として,吸着モジュールでナイロン糸を入れていないものを準備して同じく処理を行い,逆浸透膜への有機物吸着量を比較検討した。
【0040】
逆浸透膜の供給圧力は0.6MPaで,4時間での変化はほとんどなかった。また,濃縮水のTOCは4.1mg/Lで,この値は水量減少による変化分しか見られず,濃縮水のTOCから逆浸透膜や吸着モジュールに吸着した量は把握できなかった。そこで,逆浸透膜の表面分析をXPS(X線光電子スペクトル)で行った。その結果,吸着剤がある場合もない場合も,炭素(C1s),窒素(N1s)のピークに増加が見られ,逆浸透膜に吸着した成分があった。吸着量の定量評価は出来ないが,吸着剤を通したほうが逆浸透膜への吸着量が少なくなった。
(実施例2)
使用済みの吸着剤をアルカリ洗浄する際に吸着剤表面をこすることによる洗浄力増強に関して,平板状の吸着剤により効果を調べた。
【0041】
ガラス基板上に吸着材料として,図5に示すポリアミドを成膜した。
【0042】
ガラス基板上にはポリアミドが密着しないため,まず,シランカップリング処理でアミノ基末端をガラス基板上に形成した。シランカップリング処理は以下のように実施した。
【0043】
ガラス基板はスライドガラス(75mm×25mm)を用い,pH12の水酸化ナトリウム水溶液に30分浸漬後,純水で流水洗浄10分行い,表面を脱脂した。その後,エキシマUVランプ(中心波長152nm)に3分間照射して表面をさらに脱脂するとともに,水酸基を形成した。
【0044】
ビーカに水50mlを入れて,攪拌子を入れて攪拌しながら,シランカップリング剤の3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.5mlを少量ずつ滴下した。滴下終了後30分間攪拌を継続したところ,透明な溶液となった。これを0.2μm孔の親水化PVDFフィルタでろ過してシランカップリング剤溶液を得た。エキシマUV処理直後のガラス基板をシランカップリング剤溶液にディップして,基板立てに立てて液切りし,立てた状態で5分間放置した。その後,純水洗浄で余分なシランカップリング剤を除去し,窒素ブローで水滴を除去した後に,基板立てに立てて130℃オーブンで30分間水分乾燥とシランカップリング反応促進した。
【0045】
シランカップリング処理済みのガラス基板に,ポリアミドを成膜した。ポリアミドは,テレフタル酸クロリドとm−フェニレンジアミンを界面重合して得た。具体的な方法を以下述べる。
【0046】
テレフタル酸クロリド0.05gを50mlのn−ヘキサンに加えた。溶解度が低いため,全量が溶解することはない。一方,m−フェニレンジアミン0.2gを50mlの水に加え,0.4wt%の水溶液を調製した。バットの底面にガラス基板を置き,ガラス基板の上からm−フェニレンジアミン水溶液50mlを入れる。テレフタル酸クロリドのヘキサン溶液1mlを水溶液表面に広げるように滴下し,30秒間放置して界面でポリアミドが重合されるのを待ってからガラス基板を静かに引き上げて,表面にポリアミド膜を転写する。基板立てに立てて液切したあと,130℃オーブンで30分間加熱してポリアミド膜とシランカップリング剤のアミノ末端との密着力向上を促進する。加熱後のガラス基板は室温まで自然冷却した後に純水で流水洗浄した。反対側の面も同様にしてポリアミドを成膜した。
【0047】
このように作製したガラス基板を吸着剤として,下水一次処理水で吸着処理を行った。下水一次処理水は実施例1と同様に処理したものだが,前段処理の状態が異なり,TOCが8.5mg/Lと実施例1とは異なる値を示した。下水一次処理水50mlを容器に入れ,その中に前記の方法で両面にポリアミド成膜したガラス基板を5枚,互いに接触しないように入れた。吸着剤の表面積は187cmである。これを2セット用意し,染色バットをシェーカーで揺動しながら10時間吸着処理を行った。吸着処理後の下水一次処理水のTOCを測定したところ,5.5mg/Lに低下し,下水一次処理水中の有機物が吸着除去されていることが確認できた。
【0048】
その後,これらの吸着剤の洗浄を行った。pH10.0に調製した水酸化ナトリウム水溶液50mlを容器に入れ,吸着処理後のガラス基板を浸漬して5分間シェーカーに設置して40往復/分で揺動した。その後,1セットの5枚は水を含ませたスポンジの間を通して表面に物理的な力を加えた。さらに2セットの吸着剤は純水で流水洗浄し,窒素ブローで水滴を除去したあと,130℃30分乾燥した。スポンジを通してもガラス基板表面にはポリアミド膜が残っていた。
【0049】
洗浄後の吸着剤を用いて再度吸着処理を行った。その結果,吸着処理後のTOCは,スポンジを通さなかった場合に8.3mg/L,スポンジを通した場合は6.5mg/Lとなり,スポンジを通した場合のほうが吸着能力が回復していた。この結果により,表面洗浄には物理的な力を併用することが有効であることが示された。この実施例では表面積の算出等が容易になるように平板上の吸着剤を用いたが,繊維状の吸着剤でも表面を擦り洗いすることが可能であるので,同様の結果が得られる。
【符号の説明】
【0050】
1・・・吸着材料の繊維,2・・・吸着モジュール,3・・・逆浸透膜,4・・・逆浸透膜モジュール,5・・・貯水タンク,6・・・ポンプ,7・・・ステンレス金網,8・・・金網固定枠(内側),9・・・金網固定枠(外側),10・・・吸着材料からなるシート,11・・・スペーサー,12・・・被処理水の導入パイプ,13・・・パイルの地布(吸着材料以外の素材も可)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を,逆浸透膜で処理する工程を含む水処理で,前記逆浸透膜の上流側に配置され,前記被処理水を接触させる水処理部材において,
有機物を吸着可能な材料を持つ繊維を有し,
前記繊維の長さ方向に前記被処理水が流れるように前記被処理水の経路が形成されていることを特徴とする水処理部材。
【請求項2】
前記繊維が束ねられた状態であり,前記繊維の長さ方向に水を通過させる構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の水処理部材。
【請求項3】
前記繊維により形成された織物を有し,当該織物の面に沿って被処理水を通過させる構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の水処理部材。
【請求項4】
前記繊維により形成された不織布を有し,当該不織布の面に沿って被処理水を通過させる構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の水処理部材。
【請求項5】
地布と,前記繊維により形成され前記地布に支持されたパイルとを有し,前記地布の面に沿って被処理水を流す構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の水処理部材。
【請求項6】
前記有機物を吸着可能な繊維は,アミノ基が繰返し単位に1つ以上含まれる高分子重合体を含んでいることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水処理部材。
【請求項7】
被処理水を,逆浸透膜で処理する工程を含む水処理で,前記逆浸透膜の上流側に配置され,前記被処理水を接触させる水処理部材において,
有機物の吸着力が小さい非吸着材によって形成されたメッシュまたは布と,
前記非吸着材で形成されたメッシュまたは布により支持され,前記非吸着材よりも有機物の吸着力が大きい繊維を含む吸着材とを備えたことを特徴とする水処理部材。
【請求項8】
前記非吸着材は前記メッシュを形成し,
前記吸着材は,前記メッシュにより支持された繊維であることを特徴とする請求項7に記載の水処理部材。
【請求項9】
複数の前記メッシュを備え,
前記吸着材は,前記複数のメッシュに架橋されて設けられていることを特徴とする請求項8に記載の水処理部材。
【請求項10】
パイル布を有し,
前記非吸着材は,前記パイル布の地布を形成し,
前記吸着材は,前記地布に織り込まれたパイル糸の表面を形成していることを特徴とする請求項7に記載の水処理部材。
【請求項11】
前記被処理水は,前記メッシュまたは布を通過するように流れることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の水処理部材。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の水処理部材を内部に持つ吸着モジュールと,
前記吸着モジュールの下流に配置された逆浸透膜モジュールと,
貯水のためのタンクと,
被処理水を加圧して逆浸透膜に導入するための加圧ポンプとを備える水処理装置。
【請求項13】
被処理水を,逆浸透膜で処理する水処理方法において,
前記逆浸透膜処理の前に,請求項1乃至11のいずれかに記載の水処理部材を被処理水に接触させることを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−240299(P2011−240299A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116899(P2010−116899)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】