説明

水分散型コロイド溶液及びその製造方法

【課題】 実質的に、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物と1価の無機陰イオンのみからなる触媒等に有用な水に安定に分散したコロイド溶液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 2価の金属塩と3価の金属塩との混合水溶液とアルカリ水溶液とを巧みに反応させ、2価の金属塩と3価の金属塩とを共沈殿させることにより合成した層状複水酸化物を水中に分散させることによって製造した、実質的に、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物と1価の無機陰イオンのみからなり、1価の無機陰イオンが当該化合物に対してモル比で0.1〜0.4の範囲である水分散型コロイド溶液である。但し、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+中のM2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオンを示し、xは、0.13<x<0.28の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物を水分散させることにより得られる水分散型コロイド溶液、更に詳しくは、実質的に一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物と1価の無機陰イオンのみからなり、1価の無機陰イオンが当該化合物に対してモル比で0.1〜0.4の範囲である水分散型コロイド溶液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物は、ハイドロタルサイト様物質とも称され、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2] [An−x/n・mH2O]で表される化合物である。ここで、M2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオン、An−はn価の陰イオンを示し、xは1未満の正の実数
、nは正の整数、mは正の実数を示す。層状複水酸化物の構造は、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で表される正の電荷を持つ金属水酸化物層(基本層)と、その層間に一般式[An−x/n・mH2O]n−で表される陰イオンと水分子からなる中間層とが交互に積み重なって層状化合物を構成することに特徴を有する。
【0003】
この層状複水酸化物は、触媒担体として、これを焼成して得られた複酸化物は触媒として、またプラスチック分野に於いては安定化剤、難燃剤、保湿性改良剤として、医薬品分野に於いては制酸剤として利用されている。また、近年ドラッグデリバリーシステム、薬効持続を目的とするコントロールドリリースへの応用研究も盛んに行われている。更にまた、環境分野においては、吸着剤としての検討も進められている。しかし、層状複水酸化物の状態では、樹脂とのなじみ、分散性が悪く、この改良のため精力的に研究が行われ、他の分野に於いても、さらなる高性能化、高機能化を目的としてナノサイズ化の検討がされている。
【0004】
その1つは、層状複水酸化物を有機溶媒中で基本層にまで剥離し、コロイドの分散状態にする方法である。例えば、中間層にグリシン(特許文献1)やフッ素系イミド(特許文献2)を含有した層状複水酸化物を作成し、これを有機溶媒、例えばホルムアミドやアルコールによってコロイドの分散状態とする方法である。しかし、有機溶媒の使用は環境への有害性の問題があることから、無害な水を溶媒とする、層状複水酸化物を剥離した水分散型のコロイド溶液の開発が望まれている。
このような水分散型のコロイド溶液としては、乳酸等のカルボン酸(特許文献3、非特許文献1)や乳酸マグネシウム(特許文献4)等の有機化合物を中間層に含有する層状複水酸化物を、水溶媒中で剥離することで、水分散型のコロイド溶液が得られることが開示されている。しかしながら、これら開示技術によって得られるコロイド溶液は層状複水酸化物の中間層に由来する有機物を必ず含有するため、例えば、有機合成反応における触媒用途においては、該有機物が副反応を引き起こす等の問題があり、また、これを各種基材にコーティングし乾燥、焼成する場合、依然ガス発生の問題を内包すると共に透明性の高いコーティング膜を得ることは困難である。
このため、とりわけ触媒等高機能を要求される分野において有機物を含まない、即ち実質的に無機物のみで構成された水分散型コロイド溶液が強く要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-221226号公報
【特許文献2】特開2005-272323号公報
【特許文献3】特開2006-052114号公報
【特許文献4】特開2008-214127号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Hibino, M. Kobayashi, “Delamination of layered double hydroxides in water”, J. Mater. Chem., 2005, Vol.15, p.653-656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は要請課題を解決せんと鋭意検討を行う中で、偶然にも、1価の無機陰イオンのみを中間層に含有する層状複水酸化物が、水中に分散することを発見し、係る知見に基づき本発明を完成したものであって、実質的に無機物のみからなる金属水酸化物の水分散型コロイド溶液、及びその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、実質的に、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物と1価の無機陰イオンのみからなり、1価の無機陰イオンが当該化合物に対してモル比で0.1〜0.4の範囲である水分散型コロイド溶液
(但し、
(i)一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+中のM2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオンを示す。
(ii)一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+中のxは、0.13<x<0.28の範囲である。)に関する。
【0009】
更に本発明は、2価の金属イオンと1価の無機陰イオンからなる2価の金属塩と3価の金属イオンと1価の無機陰イオンからなる3価の金属塩との混合水溶液と、アルカリ水溶液とを中性からアルカリ性の条件下で反応させ、2価の金属成分と3価の金属成分を共沈殿させることにより層状複水酸化物を合成、洗浄し、これを水中に分散させることを特徴とする上記の水分散型コロイド溶液の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
前記の通り本発明の水分散型コロイド溶液は、実質的に有機物を含まない、基本層と1価の無機陰イオンのみで構成されているから、これまで有機物含有に起因していた種々の制約を回避することができ、その用途は格段に広範なものとなる。更に本発明の水分散型コロイド溶液は、低粘度で、高度に分散、ナノサイズ化されているから高い透明性を有する。従って本発明の水分散型コロイド溶液は、高機能を要求される触媒を始め、高い透明性を要求されるコーティング剤、高度の分散性を要求される化粧品や樹脂配合剤、光機能材料など幅広い用途展開が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水分散型コロイド溶液は、実質的に、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物と、1価の無機陰イオンのみからなる水分散型コロイド溶液である。
ここで、実質的とは、本発明の水分散型コロイド溶液の製造において、原料中の不純物に由来する有機物を除けば、本発明の水分散型コロイド溶液には有機物を含有しないことを意味する。
【0012】
さて、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物とは、周知の通り、2価の金属イオンM2+と3価の金属イオンM3+が水酸基の酸素原子によって架橋されることで形成されたシート状の化合物であり、層状複水酸化物から剥離した金属水酸化物層、即ち基本層である。ここで、層状複水酸化物とは、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2] [An−x/n・mH2O]で示される化合物であり、M2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオン、An−はn価の陰イオンを示し、xは1未満の正の実数
、nは正の整数、mは正の実数を示す。層状複水酸化物の構造は、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で表される金属水酸化物層と、その層間に一般式[An−x/n・mH2O]n−で表される陰イオンと水分子からなる中間層とが交互に積み重なったものである。
【0013】
本発明の水分散型コロイド溶液のうち一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物において、2価の金属イオンM2+の具体例として、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Pd2+、Ba2+、Zn2+、Co2+、Ni2+、Pt2+、Cu2+、Fe2+等が挙げられる。このうち、Mg2+とZn2+は、前駆体である層状複水酸化物を単相で得られやすいために好適に使用できる。Mg2+とZn2+は、このうち1種を用いてもよいし、2種を組み合わせて用いてもよい。また、3価の金属イオンM3+の具体例として、Al3+、Ga3+、Fe3+、Co3+、Au3+、Ce3+、Bi3+等が挙げられる。このうち、Al3+は3価イオンとしての安定性が高いため、水分散型コロイド溶液の前駆体である層状複水酸化物の作成に好適に使用できる。本発明の水分散型コロイド溶液においては、2価の金属イオンと3価の金属イオンの組み合わせとして、Mg2+及び/又はZn2+と、Al3+の組み合わせが特に好例として挙げられる。
【0014】
層状複水酸化物において、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+のxの上限は一般的に0.33と云われている。しかし、xがこのような値では本発明の水分散型コロイド溶液は望むべくもない。種々検討を重ねた結果、xは、0.13<x<0.28の範囲において安定したコロイド溶液が得られるが、特に0.15<x<0.22の範囲において急激にコロイド溶液の安定性が向上することを見出した。
【0015】
本発明の水分散型コロイド溶液に含有される1価の無機陰イオンとしては、I、Br、Cl、F、NO3、NO2、ClO4、ClO、PF6、BF4、SCN、CN、OHが例示できる。これら1価の無機陰イオンは、1種のみでもよいし、2種以上を含んでいてもよい。この中でも特に、ClとNO3は、本発明の水分散型コロイド溶液を安定に分散させる上で好適に使用できる。1価の無機陰イオンは、層状複水酸化物の一般式のうち[An−x/n・mH2O]n−で示される陰イオンと水分子からなる中間層に由来するものがほとんどであるが、コロイド溶液をより安定化させるために必要に応じて添加される酸の陰イオンに由来するものも含まれる。当該酸の陰イオンの種類は、中間層の陰イオンと同じである必要は無く、OHを除く上記に示した陰イオンの種類の範囲内であれば特に制限されることはない。
【0016】
次いで、1価の無機陰イオンの量について云えば、この量は、上記の通り、層状複水酸化物由来の陰イオンと、コロイド溶液をより安定化させるために必要に応じて添加される酸由来の陰イオンとの合計量である。即ち、1価の無機陰イオンの量は、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+に対して、モル比で0.1〜0.4の範囲である。前記モル比が0.1〜0.4の範囲であれば、コロイド粒子の顕著な溶解や、製造時及び保存中に白濁や凝集を見ない安定な状態の水分散型コロイド溶液を得ることができる。
【0017】
本発明の水分散型コロイド溶液は、[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として20質量%以下の濃度範囲で得ることができる。そして、コロイド溶液がより安定な状態を保つためには、15質量%以下の濃度が好ましく、より好ましくは12質量%以下の濃度である。濃度の下限については、コロイド溶液の品質上どれだけ低濃度にしても問題はないが、実用的な観点から[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として5質量%以上含有することが好ましい。尚、20質量%以上ではコロイド溶液の粘度が高くなるため、安定なコロイド溶液が得られにくい。
【0018】
本発明の水分散型コロイド溶液の作成において、コロイド化の過程及び得られた溶液の性状が、非特許文献1の内容を具体的に記した特許文献3に開示された方法(作成例を後掲の〔参考例〕に記載)で作成したコロイド溶液と同様の挙動を示した。この非特許文献1と特許文献3は、有機酸を中間層に含有させた層状複水酸化物を作成した後、層状複水酸化物を層間剥離してコロイド溶液とする方法である。このことより、本発明のコロイド溶液も層状複水酸化物が層間剥離することでコロイド化していると推定できる。
【0019】
次に、本発明の水分散型コロイド溶液の製造方法について詳しく説明する。
本発明の水分散型コロイド溶液の製造方法は、まず水分散型コロイド溶液の前駆体として層状複水酸化物を合成した後、洗浄し、これを水中に分散させる方法である。
本発明に於いては、この層状複水酸化物を共沈法によって合成する。本発明に於いて共沈法を採用した理由は、種々検討を重ねた結果、結晶サイズの小さな層状複水酸化物、即ち積層方向の厚みが小さく金属水酸化物シートの面積の小さい層状複水酸化物が得られ、中間層が水と接触しやすく層間剥離が容易、即ちコロイド化、ナノサイズ化が容易なことによる。
【0020】
前駆体である層状複水酸化物の合成方法に関しては幾つかの方法があるが、本発明の水分散型コロイド溶液を得るには、共沈法で合成することが最適である。共沈法は、2価の金属塩と3価の金属塩の混合水溶液を適切なpHに保ちながらアルカリ水溶液で中和することによって、2価の金属イオンと3価の金属イオンとを水酸化物として共沈殿させることで層状複水酸化物を得る方法である。この方法によるときが、コロイド化が最も容易で、生成した水分散型コロイド溶液も最も安定である。
【0021】
本発明において、層状複水酸化物の合成で使用する2価の金属塩と3価の金属塩は、金属水酸化物層の層間に取り込まれ得る有機物や2価以上の価数の無機陰イオンを含有しないものである。2価及び3価の金属イオンの種類は前記と同じものが挙げられ、それらの塩は下記の通りである。即ち、2価の金属イオンの塩としては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Pd2+、Co2+、Ni2+、Pt2+、Cu2+、Fe2+の塩化物または硝酸塩が例として挙げられる。3価の金属イオンの塩としては、Al3+、Ga3+、Fe3+、Co3+、Au3+、Ce3+、Bi3+の塩化物または硝酸塩が例として挙げられる。このうち、2価の金属塩として、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛のうち1種以上であることが特に好ましく、3価の金属塩として塩化アルミニウムまたは硝酸アルミニウムのうちいずれか一方または双方であることが特に好ましい。
【0022】
2価の金属塩と3価の金属塩の配合比は、層状複水酸化物が単相で得られる条件が好ましい。即ち、最終的に得られるコロイド溶液中の一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物中のxが、0.13<x<0.28の範囲内になるように2価の金属塩と3価の金属塩の配合比を決めることが望ましい。
【0023】
さらに中和方法を説明すると、先ずアルカリを用いてpH7〜12に調整した水溶液(以下、水溶液Aとする)を作成する。ここで用いるアルカリの例として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。次に、水溶液Aに、撹拌下で2価の金属塩と3価の金属塩の混合水溶液を添加する。しかし、この操作だけでは、金属塩の添加によって瞬時にpHの低下が起こるため、中和反応がほとんど進まない。従って、中和反応を進行させるために、金属塩の添加と同時にアルカリ水溶液を適宜添加し、最適なpHに維持しながら中和を行う。尚、使用する2価の金属塩と3価の金属塩の種類によって、最適な中和pHは異なるが、中性からアルカリ性であり、数値範囲としては概ねpH7〜12範囲内である。2価の金属塩として塩化マグネシウム及び/又は塩化亜鉛を、3価の金属塩として塩化アルミニウムを用いたときは、pH9〜11の範囲がより好ましい。
中和に使用するアルカリ水溶液としては、中和により本発明の前駆体となる層状複水酸化物が得られるものであれば特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好例として挙げられる。
【0024】
また、中和時のpHを安定させるために、水溶液Aと、中和に使用するアルカリ水溶液には、必要に応じて緩衝剤等の塩類を添加しても良い。このような塩類としては、1価の無機陰イオンからなるものであれば良く、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、過酸化水素等が挙げられる。
上記塩類を配合する際の量は、層状複水酸化物が得られる範囲内であれば特に限定されないが、概ね反応溶液全量に対し、10質量%以下である。
【0025】
さて、上記の通り本発明に於ける中和方法においては、アルカリ側で中和反応を行うことが極めて重要である。同時に、本発明の製造方法に於いて不可欠の要素は上記2価の金属塩と3価の金属塩の混合水溶液の添加時間である。これについて説明すると、上記2価の金属塩と3価の金属塩の混合水溶液の添加時間は、2分〜50分の範囲とすることが最適である。即ち、50分よりも長時間で添加した場合、層状複水酸化物は単相で得られるものの、以後の処理により得られるコロイド溶液は白濁したものとなり、本発明の水分散型コロイド溶液を得ることは極めて困難になる。一方、2分より短時間で添加した場合、アルカリ水溶液によって、中和に最適なpH範囲に保つことが困難となり、結果として層状複水酸化物のほかに不純物相が生成し易く、これを分散処理しても、透明性の高いコロイド溶液は得られ難い。
【0026】
中和時の濃度は特に限定されないが、中和終了時のスラリー濃度が[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として0.5〜4.0質量%となるように原料を配合、添加することが推奨される。即ち、0.5質量%未満では濃度が低いために生産性が悪く、4.0質量%を超える濃度では非常に粘調になり、反応時の撹拌が困難になる傾向がある。
【0027】
上記のような共沈法で得られた層状複水酸化物は、多くの余分な塩類を含み、この状態ではコロイド化しない。従って、生成した層状複水酸化物を副生塩と分離するために、洗浄し、脱塩する工程(以下、脱塩工程と云う)が不可欠である。本発明においては、層状複水酸化物が乾燥しない条件で十分脱塩できれば特に問題なく、例えば、イオン交換や、デカンテーションを繰り返し行う方法、限外ろ過や吸引ろ過等のろ過処理を純水を適宜注ぎながら繰り返し行う方法等が挙げられる。脱塩の程度は、中和反応時に生成する副生塩の総量を約50ppm以下、即ち、デカンテーションの廃液、またはろ液の電気伝導度(EC)を概ね150μS/cm以下になるまで洗浄を行うことが望ましい。
【0028】
脱塩工程後の層状複水酸化物は乾燥させることなく、水に混濁した状態で分散処理に供する。この混濁状態における外観は白色のスラリー状であるが、分散処理により透明感のあるコロイド溶液となる。分散処理は、[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として15質量%以下の濃度で行うことが好ましい。15質量%を超えると分散処理によるコロイド化が困難となる。
【0029】
また、この分散処理の際に、pHを調整する目的で酸を添加することも可能である。これは、分散処理後に得られるコロイド溶液のpHを[M2+1-xM3+x(OH)2]x+の等電点から遠ざけ、コロイド溶液を更に安定化する目的で添加するものである。添加する酸の種類は、2価と3価の金属塩由来の1価の陰イオンと同じ陰イオンを含む酸である必要は無いが、上記で示したI、Br、Cl、F、NO3、NO2、ClO4、ClO、PF6、BF4、SCN、CNを陰イオンとして含む1価の酸のうち1種または2種以上である。このうち、塩酸または硝酸がより好ましい。なお、通常は余剰の陰イオン、即ち層状複水酸化物に由来する陰イオン以外の陰イオンによって、コロイド化の進行速度は遅くなる傾向にあるが、コロイド化の進行と同時に凝集が起こりやすい系においては、余剰の陰イオンが凝集の進行を阻害するのに有効な場合がある。
【0030】
上記pHを調整する目的で添加する1価の酸の量は、最終的に得られるコロイド溶液中に含まれる1価の無機陰イオンの総量が、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+に対して、モル比で0.1〜0.4となる範囲内で添加可能である。モル比が0.1〜0.4の範囲であれば、層状複水酸化物の酸による溶解や、コロイド溶液の製造時及び保存中に白濁や凝集が起こりにくい安定な状態の水分散型コロイド溶液を得ることができる。
【0031】
分散処理方法としては、室温で5〜12日間程度静置する室温エージング法、超音波処理法、加熱処理法が挙げられる。このうち、超音波処理法は超音波によって[M2+1-xM3+x(OH)2]x+の金属水酸化物が破壊されことがあるため、好ましくない。工業的生産を考慮すると加熱処理法が最も好ましい。
【0032】
加熱処理法における加熱温度は40〜100℃の温度範囲であることが望ましい。即ち、40℃を下回るとコロイド化に要する時間が著しく長くなり生産性が悪くなる。一方、100℃を上回ると非常に短時間でコロイド化するが、加熱時間を厳密に制御しなければ、凝集によるコロイド溶液の不透明化や沈殿が発生する。加熱処理の時間は、コロイド溶液が得られる条件であれば特に限定されないが、概ね30分〜6時間程度でコロイド化させることができる。
【0033】
得られたコロイド溶液は限外ろ過、エバポレーター等で必要な濃度まで濃縮することができる。しかし、コロイド溶液として安定な濃度の上限は、[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として20質量%であり、より安定な状態を保つためには15質量%以下の濃度が好ましく、より好ましくは12質量%以下である。濃度の下限については、コロイド溶液の品質上どれだけ低濃度にしても問題はないが、実用的な観点から5質量%以上であることが好ましい。
【0034】
さて、本発明の水分散型コロイド溶液の製造において、大気の炭酸ガス由来のCO32−がコロイド溶液に混入する恐れがあるが、CO32−は層状複水酸化物の層間結合力を強めるため、層状複水酸化物製造時の混入はできる限り避けることが望ましい。CO32−の混入を極力避ける方法として窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で製造することが望ましいが、この方法以外でも混入が極力避けられる方法であれば特に制限されるものではない。
【0035】
このように、特殊な剥離剤や分散剤を層間に含有しない本発明の無機物のみからなる層状複水酸化物が特許文献3(特開2006-52114号公報)と同様の挙動でコロイド化する理由については定かではない。しかし、その理由として、結晶サイズの小さい層状複水酸化物を用いているために、層間に水分子が取り込まれやすく、その水分子が熱振動することで層間を押し広げて、剥離反応を引き起こしているものと推測される。即ち、剥離に要する時間が、室温エージング法の5〜12日間程度に対して加熱処理法にあっては30分〜6時間程度というこの差は、水分子の熱振動力の差に由来すると考えられる。
【0036】
さて、このようにして得られた本発明の水分散型コロイド溶液は半透明から透明の白色溶液の外観を示す。
本発明の水分散型コロイド溶液の透明度の範囲を全光線透過率(以下、透過率と云う)、及びヘイズ率で表すと、[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として0.5質量%含有するコロイド溶液において透過率は30%以上、且つヘイズ率は55%以下である。より好ましくは、製造1ヶ月後の室温保存において、透過率が30%以上、且つヘイズ率は55%以下である。
【0037】
また、本発明の水分散型コロイド溶液の粘度は、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物を10質量%含有するコロイド溶液をE型粘度計により測定した場合、概ね1.5mPa・s〜5.0mPa・sを示すために、取り扱いが容易で、樹脂等他物質との混合、分散も極めて容易である。
【0038】
更にまた、本発明の水分散型コロイド溶液の分散粒子径(メディアン径)は、動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LB-500)による測定で概ね10nm〜150nmの範囲を示し、ナノサイズ化されているから各種物質との混合において、均一分散し、良質の混合物を得ることができる等数々の特性を有するものである。
【0039】
本発明の水分散型コロイド溶液は、難燃剤等の樹脂添加剤やカチオン吸着能を利用した有害物質除去剤、電池材料、紫外線吸収剤、防錆剤、触媒等さまざまな用途への利用が可能である。この際、必要に応じて、本発明のコロイド溶液に各種添加剤をコロイド状態が維持できる範囲で配合することも可能である。添加剤の例として、ジエタノールアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア等のアミン類、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸等の有機酸、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ボリアクリル酸等の有機高分子、アルキルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、カルボキシベタイン等の界面活性剤が挙げられる。
【0040】
また、本発明のコロイド溶液は水に分散したコロイド溶液であるが、有機溶媒との親和性が高いので水溶媒を有機溶媒で置換することにより、有機溶媒分散型のコロイド溶液とすることもできる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、2-メトキシプロパノール、2-n-ブトキシエタノール等のセロソルブ類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類やホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が例示できる。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明は特にこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
〔実施例1〕
塩化マグネシウム6水和物234gと塩化アルミニウム6水和物64gを純水252gに溶解し、金属塩水溶液を調製した。この金属塩水溶液を水酸化ナトリウムでpH10に調整した2.5%塩化ナトリウム水溶液2000gに撹拌下で添加した。金属塩水溶液の添加時間は5分であった。この際、pHを9〜11の範囲に保つように、20質量%に調製した水酸化ナトリウム水溶液を適宜添加した。以上の操作によって得られた共沈殿のスラリーを、限外ろ過処理により、ろ液ECが70μS/cmになるまで洗浄することで脱塩した。得られた溶液はコロイド状ではなく、透明度が非常に低い白色のスラリー状の外観であった(以下、このスラリーを“スラリーA”とする)。このスラリーAを小分けし、下記の実施例1−1から1−5に供した。尚、スラリーAを100℃で乾燥した粉末について、X線回折装置(以下、XRDと記載する)(島津製作所(株)製XRD-7000)で測定したところ、2θ=10.9度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。
【0042】
[実施例1−1]
スラリーAを70℃で2時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。蛍光X線分析装置(フィリップス社製 PW2400)(以下、XRFと記載する)による元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18+の組成の金属水酸化物層が10.8質量%、塩素が1.23質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18+(モル比)=0.19であった。尚、原料の金属塩量とコロイド溶液中の金属水酸化物層量から算出した金属成分の収率(以下、収率とする)は、約90%であった。
【0043】
[実施例1−2]
スラリーAを90℃で1時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。コロイド溶液中の金属水酸化物層の組成と濃度、塩素濃度は実施例1-1と同じである。
【0044】
[実施例1−3]
スラリーAを50℃で6時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。コロイド溶液中の金属水酸化物層の組成と濃度、塩素濃度は実施例1-1と同じである。
【0045】
[実施例1−4]
スラリーAに1質量%塩酸水溶液を[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18に対してモル比で0.025添加し、70℃で5時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18+が10.0質量%、塩素が1.33質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18+(モル比)=0.22だった。この条件で得られたコロイド溶液はとりわけ安定であり、50℃で1ヶ月保存した場合も透過率、ヘイズ率、粘度が初期値からほとんど変化しなかった。
【0046】
[実施例1−5]
スラリーAを10日間室温でエージングすることで白色透明のコロイド溶液が得られた。コロイド溶液中の金属水酸化物層の組成と濃度、塩素濃度は実施例1-1と同じであった。
【0047】
〔実施例2〕
塩化マグネシウム6水和物221gと塩化アルミニウム6水和物76gを純水253gに溶解した金属塩水溶液を使用し、その添加時間を10分とした以外は、実施例1と同様に層状複水酸化物のスラリーを作成した。これを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=11.2度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.77Al0.23(OH)2]0.23+が10.6質量%、塩素が1.40質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.77Al0.23(OH)2]0.23+(モル比)=0.22だった。
【0048】
〔実施例3〕
塩化マグネシウム6水和物124gと塩化アルミニウム6水和物26gを純水125gに溶解した金属塩水溶液を使用し、その添加時間を40分とした以外は、実施例1と同様に層状複水酸化物のスラリーを作成した。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=10.9度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで、白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.84Al0.16(OH)2]0.16+が10.2質量%、塩素が0.96質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.84Al0.16(OH)2]0.16+(モル比)=0.16だった。
【0049】
〔実施例4〕
塩化亜鉛88gと塩化アルミニウム6水和物64gを純水398gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様に層状複水酸化物のスラリーを作成した。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=11.0度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで、白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Zn0.81Al0.19(OH)2]0.19+が10.0質量%、塩素が0.73質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Zn0.81Al0.19(OH)2]0.19+(モル比)=0.19だった。
【0050】
〔実施例5〕
塩化マグネシウム6水和物117gと塩化亜鉛44gと塩化アルミニウム6水和物64gを純水389gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で白色のスラリーを得た。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=11.0度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで、白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.39Zn0.41Al0.20(OH)2]0.20+が10.1質量%、塩素が0.90質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.39Zn0.41Al0.20(OH)2]0.20+(モル比)=0.19だった。
【0051】
〔実施例6〕
硝酸マグネシウム6水和物295gと硝酸アルミニウム9水和物100gを純水155gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で白色のスラリーを得た。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=11.0度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで、白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.80Al0.20(OH)2]0.20+が10.5質量%、硝酸イオンが質量2.2%存在することが明らかになった。即ち、硝酸イオン/[Mg0.80Al0.20(OH)2]0.20+(モル比)=0.20だった。
【0052】
〔実施例7〕
塩化マグネシウム6水和物251gと塩化アルミニウム6水和物48gを純水251gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様に層状複水酸化物のスラリーを作成した。これを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=10.7度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.86Al0.14(OH)2]0.14+が10.6質量%、塩素が0.89質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.86Al0.14(OH)2]0.14+(モル比)=0.14だった。
【0053】
〔実施例8〕
塩化マグネシウム6水和物209gと塩化アルミニウム6水和物87gを純水254gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様に層状複水酸化物のスラリーを作成した。これを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=11.0度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認できた。この層状複水酸化物のスラリーを70℃で2時間加熱することで白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、コロイド溶液中には[Mg0.74Al0.26(OH)2]0.26+が10.7質量%、塩素が1.61質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.74Al0.26(OH)2]0.26+(モル比)=0.25だった。
【0054】
〔比較例1〕
塩化マグネシウム6水和物279gと塩化アルミニウム6水和物22gを純水249gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で白色のスラリーを得た。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=10.9度に底面反射を持つ層状複水酸化物の他に、水酸化マグネシウムに由来するブルーサイト構造が確認された。これを70℃で2時間加熱したが白濁したスラリー状の溶液のままであり、コロイド溶液は得られなかった。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、スラリー中には[Mg0.92Al0.08(OH)2]0.08+が11.0質量%、塩素が1.27質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.92Al0.08(OH)2]0.08+(モル比)=0.19だった。
【0055】
〔比較例2〕
塩化マグネシウム6水和物192gと塩化アルミニウム6水和物104gを純水254gに溶解した金属塩水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法で白色のスラリーを得た。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、2θ=11.4度に底面反射を持つ層状複水酸化物が単相で得られていることが確認された。これを70℃で2時間加熱したが白濁したスラリー状の溶液のままであり、コロイド溶液は得られなかった。XRFによる元素分析と重量分析の結果から、スラリー中には[Mg0.66Al0.34(OH)2]0.34+が10.5質量%、塩素が2.15質量%存在することが明らかになった。即ち、Cl/[Mg0.66Al0.34(OH)2]0.34+(モル比)=0.34だった。
【0056】
〔比較例3〕
実施例1で示した層状複水酸化物のスラリーAに、10質量%塩酸水溶液を[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18に対してモル比で0.4添加したところ(スラリー中の塩化物イオン/[Mg0.82Al0.18(OH)2]0.18+(モル比) = 0.59)、スラリーは無色透明でチンダル現象の見られない外観となり、層状複水酸化物が完全に溶解してしまった。即ち、コロイド溶液を得ることはできなかった。
【0057】
〔参考例〕
非特許文献1の内容を具体的に記した特許文献3の方法に従い合成を行った。
乳酸マグネシウム3水和物73.9gと乳酸アルミニウム19.6gを純水406.5gに溶解し、金属塩水溶液を調製した。この金属塩水溶液を20%乳酸ナトリウム水溶液500gに窒素雰囲気中、撹拌下で添加した。この際、pHを9.5〜10.5の範囲に保つように、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を適宜添加した。以上の操作によって得られた共沈殿のスラリーを、限外ろ過処理により、ろ液ECが70μS/cmになるまで洗浄及び脱塩することで白色のスラリーを得た。このスラリーを100℃乾燥した粉末についてXRD測定したところ、層状複水酸化物が単相で得られていることが確認された。これを10日間室温エージングしたところ、実施例1〜8と同様の挙動で、白色透明のコロイド溶液が得られた。XRFによる元素分析と重量分析の結果からコロイド溶液には[Mg0.81Al0.19(OH)2]0.19+が4.6質量%含まれることが確認された。また、全有機炭素分析装置(島津製作所(株)製TOC-Vc)により全有機炭素量を測定し、乳酸の分子量に換算したところ、乳酸が1.55質量%存在することが確認された。即ち、CH3CH(OH)COO/[Mg0.81Al0.19(OH)2]0.19+(モル比)=0.22だった。
このコロイド溶液の収率は約35%と低収率であった。これは、限外ろ過処理による脱塩工程で層状複水酸化物の構成成分であるマグネシウム成分とアルミニウム成分が限外ろ過膜に捕捉されずに、ろ液に混入し、それが系外に排出されたためである。この原因としては、金属イオン成分が有機酸によって安定化しているために(錯形成等)、アルカリ水溶液の添加による中和でおこるべき金属水酸化物層の形成が十分に進まず、その結果多量の金属イオン成分が未反応のまま残存し、その未反応のイオン成分が限外ろ過処理時にろ過膜に捕捉されずに、ろ液として系外に排出されたことによると推測された。また、コロイド溶液の濃度に関して、限外ろ過装置で装置の許容する液量まで濃縮を試みたが、収率が低かったために、結果として[Mg0.81Al0.19(OH)2]0.19+として4.6質量%のコロイド溶液しか得られなかった。
【0058】
これら実施例及び比較例で得られたコロイド溶液、及びスラリーについて、合成1日後の透過率、ヘイズ率、粒子径、粘度を測定した。さらに、実施例1〜8については、そのコロイド溶液の濃度を[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として10質量%に調製した後、室温で1ヶ月保存後の透過率、ヘイズ率、粘度を測定した。尚、これらの測定は、以下の方法で行い、その結果を表1に示した。
【0059】
<透過率、ヘイズ率の測定>
得られたコロイド溶液、またはスラリーを、[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として、0.5質量%になるように純水で希釈した後、日本電飾工業株式会社製側色差計 ND-300Aで透過率、ヘイズ率を測定した。
<分散粒子径の測定>
得られたコロイド溶液、またはスラリーを、[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として、1質量%になるように純水で希釈した後、株式会社堀場製作所製 動的光散乱式粒径分布測定装置 LB-500で分散粒子径(メディアン径)を測定した。
<粘度の測定>
[M2+1-xM3+x(OH)2]x+として10質量%の濃度としたコロイド溶液の粘度を、株式会社トキメック製 E型粘度計を用いて測定を行った。
【0060】
表1

※ 4.6質量%時の粘度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物と1価の無機陰イオンのみからなり、1価の無機陰イオンが当該化合物に対してモル比で0.1〜0.4の範囲である水分散型コロイド溶液
(但し、
(i)一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+中のM2+は2価の金属イオン、M3+は3価の金属イオンを示す。
(ii)一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+中のxは、0.13<x<0.28の範囲である。)。
【請求項2】
2価の金属イオンがMg2+及び/又はZn2+であり、3価の金属イオンがAl3+である請求項1記載の水分散型コロイド溶液。
【請求項3】
1価の無機陰イオンがClまたはNO3である請求項1又は2記載の水分散型コロイド溶液。
【請求項4】
一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物を5〜20質量%含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の水分散型コロイド溶液。
【請求項5】
一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物を0.5質量%含有する水分散型コロイド溶液の全光線透過率が30%以上、且つヘイズ率が55%以下である請求項1〜4記載のいずれか1項に記載の水分散型コロイド溶液。
【請求項6】
一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+で示される化合物を10質量%含有する水分散型コロイド溶液の粘度が1.5mPa・s〜5.0mPa・sである請求項1〜5記載のいずれか1項に記載の水分散型コロイド溶液。
【請求項7】
2価の金属イオンと1価の無機陰イオンからなる2価の金属塩と3価の金属イオンと1価の無機陰イオンからなる3価の金属塩との混合水溶液と、アルカリ水溶液とを中性からアルカリ性の条件下で反応させ、2価の金属成分と3価の金属成分とを共沈殿させることにより層状複水酸化物を合成、洗浄し、これを水中に分散させることを特徴とする請求項1記載の水分散型コロイド溶液の製造方法。
【請求項8】
2価の金属イオンがMg2+及び/又はZn2+であり、この2価の金属塩が塩化物又は硝酸塩であり、3価の金属イオンがAl3+であり、この3価の金属塩が塩化物又は硝酸塩である請求項7記載の水分散型コロイド溶液の製造方法。
【請求項9】
1価の無機陰イオンが、Cl又はNO3である請求項7又は8記載の水分散型コロイド溶液の製造方法。
【請求項10】
水中に分散させるときの温度が40℃〜100℃である請求項7〜9のいずれか1項に記載の水分散型コロイド溶液の製造方法。

【公開番号】特開2011−121786(P2011−121786A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278323(P2009−278323)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】