説明

水分散性改良プロポリス抽出物、含プロポリス飲料、及び、プロポリス抽出物の水分散性改良方法

【課題】優れた特性を有するプロポリスが持つ欠点である、容器、口腔内やのどへの付着、風味改善への困難性を乳蛋白質等の吸収を妨げるおそれのある物質を用いることなく、改善する方法、および、これら欠点が改善された水分散性改良プロポリス抽出物を提供する。
【解決手段】アルコール抽出によるプロポリス抽出物であって、炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理された水分散性改良プロポリス抽出物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に対する分散性を改善させたプロポリス抽出物、及び、そのようなプロポリス抽出物を含む飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の健康ブームや自然派志向により、さまざまな天然健康食品が注目されている。これら天然健康食品の中でも、ミツバチによって作り出される天然の抗生物質、あるいは、天然の細胞活性化物質とも云われるプロポリスから抽出されたプロポリス抽出物は、健康増進、体質改善に供するものとして、あるいは、高い抗ガン効果が期待されるものとして特に注目されている。
【0003】
このようなプロポリス抽出物は通常、エタノール−水混合溶媒などにより抽出され、溶解された状態でスポイトにより滴下可能な液(プロポリス抽出液)として、スポイトがキャップにセットされたスポイト瓶などに容れられて供給され、例えば、健康維持目的ではその液の20〜30滴を適量の水、湯、牛乳、コーヒー、紅茶、ジュース、蜂蜜、ドリンク剤あるいは酒類などの飲料に滴下して朝、昼、及び、晩の一日3回経口摂取し、あるいは、体調を崩したときには朝、昼、晩、及び、就寝前の一日4回、50〜100滴をやはり上記飲料に滴下して経口摂取するとされている。
【0004】
しかしながら、プロポリス抽出液が上記のような飲料に滴下されると、そのプロポリス抽出液のプロポリス由来の抽出成分のうち、水可溶成分は飲料に溶解するものの、水不溶性成分はいわゆる「やに」状となり、飲料の表面に浮いたり、あるいは、沈下して容器の底や側面に付着してしまい、所要量の摂取ができなくなるおそれがある。
【0005】
このうち、飲料表面に浮いた成分は飲用の際に飲用者の歯や歯ぐき、舌、口蓋あるいはのどに付着して、有効に摂取できなくなる場合がある上に、飲用後もしばらくの間、不快感やあるいは刺激感を与え続ける。
【0006】
一方、容器の底や側面に付着した成分は、当然、飲用できないので有効に活用されない上に、通常の洗浄方法(洗剤を用いた洗浄)では容易に除去できない(特に漆器に付着した場合には、器を傷めずにこの「やに」状成分を洗浄除去することは経験上不可能である)と云った問題があった。
【0007】
さらに、プロポリス抽出液は味覚という点では、いわゆる「口苦し」であって、引用時にのどに「辛さ」を感じ、また、においもきついため、一般に飲みにくい。ここで、カプセル化などの手段を利用することも可能ではあるが、一回当たりの飲用量が上記のように20〜30滴ないし50〜100滴と多いため、カプセルが飲用に適さない大きさとなり、あるいは、一度に飲むカプセル数が多くなり、いずれも実用的でなく、根本的な解決が望まれていた。
【0008】
そこで、プロポリス抽出液を他の飲料成分に混合して、飲みやすい飲料とする検討が行われていたが、上記のような容器への付着の問題が解決されておらず、付着しない程度に配合すると配合量が少なくなり、プロポリス抽出液の充分な飲用量を確保するための必要な飲用量が、例えば200mLと多くなる。このとき量が多いため飲む途中に息継ぎが必要となるが、一旦息継ぎをすると、その後継続して飲用することがためらわれて必要量が飲みきれずに残したり、あるいは、全量飲みきるのに大きな決心が必要とされたりして、風味を改善し、飲みやすくするという点では困難があった。特に、癌患者は飲食に際して強い吐き気を伴う場合が多く、プロポリスが有するとも云われる高い抗ガン効果を期待しても、充分な量の摂取ができないと云う問題があった。
【0009】
ここでプロポリス抽出液の水分散性を向上させるために特開2001−169736号公報(特許文献1)では、ミルクカゼイン等の乳蛋白質を添加配合する技術が提案されている。
【0010】
しかしながら、充分に分散させるための液量はかなり多く必要で、そのためプロポリス抽出液の充分な摂取量を確保するための必要な飲用量も多くなると云う上記欠点は解消されない。また、例えば、子供が洗剤等を誤飲した際に、まず第1の処置として、その吸収を妨げるために牛乳を飲ませることが知られているように、乳蛋白質には他の物質の吸収を遅らせたり、妨げたりする機能があり、上記従来技術ではプロポリスの有効成分を体内に取り込めない可能性が指摘されていた。
【0011】
ここで、特開平9−141002号公報記載(特許文献2)の技術では、水溶性を向上させたプロポリス抽出液として、プロポリス抽出液のpHを5.5ないし7.0に調整することにより水溶性を向上させている。
【特許文献1】特開2001−169736号公報
【特許文献2】特開平9−141002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特開平9−141002号公報記載(特許文献2)に記載の技術により水溶性が改良できるのは、55体積%以下の低濃度のエタノール水溶液を用いて抽出したプロポリス抽出物か、あるいは、高濃度のエタノール水溶液を用いて抽出したものの、その後、水を添加してエタノール濃度を50体積%とし、不溶化した一部成分を除去した、固形物濃度が10重量%のプロポリス抽出物であった。
【0013】
例えば、特許文献2の段落0041には80体積%のエタノール混合溶液にエキス分が溶解した抽出物溶液(固形物濃度約w/w%)に水を添加してエタノール濃度50体積%抽出物としているが、この水添加の際に、相分離した下層である「粘着性沈殿物」を除去している。しかしながらこの「粘着性沈殿物」には、プロポリスの重要成分として財団法人 日本健康・栄養食品協会で「健康補助食品 規格基準集 −その2−」でプロポリスエキスとして必須であるとされているp−クマル酸ないし同基準で定義された液体クロマトグラフィーによる分析でp−クマル酸と同じ保持時間を有する物質(以下、両方を併せて「p−クマル酸」という)や、同じく日本プロポリス協議会において必須成分とされているケルセチンが多く含まれ、その量は当初の80体積%のエタノール混合溶液によって抽出されたp−クマル酸やケルセチンの10乃至30%が含まれている場合がある。
【0014】
このように、エタノールの濃度を低くした抽出液を用いた場合、単に水が加わって、有効成分の濃度が薄くなり、採取必要量が増加する問題が発生するだけでなく、例え、添加された水に相当する分だけ多く採取した場合であっても、そこには本来、含まれているべき有効成分が「粘着性沈殿物」として除去されてしまっているため、本来期待される効果を得るためには、さらに多く採取しなければならないという問題が生じると共に、高価な原料中の有効成分を有効利用できずに捨ててしまうと云った問題が生じていた。
【0015】
また、プロポリスは天然物であるため、採取場所、採取季節、採取花蜜等により成分、抽出溶媒による抽出性も大きく異なるとされているが、この中でも、p−クマル酸やケルセチンなどの、特に有効性の高いと云われている成分が多く、「医薬レベルのプロポリス」として高い評価を得ている、アレクリン(バッカーリス ドラクンクリ フォーリア)由来のプロポリス抽出物の場合、80体積%のエタノール水溶液による抽出エキス(抽出エキスとしてのエタノール濃度は60〜70体積%)では、特許文献2に記載の方法では充分な水溶性の向上が困難であった。
【0016】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、特開平9−141002号公報記載の技術によっても充分な水溶性が得られないような、高濃度のエタノール水溶液によって抽出された、高品質なプロポリス抽出液を、その成分を失うことなく有効利用でき、かつ、高濃度のエタノール−水混合溶液で抽出された抽出成分をその濃度を大きく薄めずに、さらに、プロポリスエキスが持つ欠点である、容器、口腔内やのどへの付着、風味改善への困難性を乳蛋白質等を用いることなく改善する方法、および、これら欠点が改善された水分散性改良プロポリス抽出物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の水分散性改良プロポリス抽出物は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、アルコール抽出によるプロポリス抽出物であって、炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理された水分散性改良プロポリス抽出物である。
【0018】
また、本発明の含プロポリス飲料は上記のような水分散性改良プロポリス抽出物を含有する含プロポリス飲料である。
【0019】
さらに、本発明のプロポリス抽出物の水分散性改良方法は、アルコール抽出によるプロポリス抽出物であって、炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理する構成を有するプロポリス抽出物の水分散性改良方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水分散性改良プロポリス抽出物によれば、容器や、口腔内・のどへの付着がないため、容器に付着して無駄となる部分がないので全量摂取が可能であり、使用後の容器の洗浄が容易であり、容器の繰り返し利用が可能となり、また、外出時などに際しても専用容器を持ち運ぶことが必要でなくなり、また、口腔内・のどへの付着による違和感、不快感がなく、不快な味・臭いの長時間残留が防止される。
【0021】
さらに、エキスの溶媒成分であるアルコール−水混合溶液が高いアルコール濃度のまま水分散性を改良することができるので、アルコール濃度を下げる必要がなく、水分による希釈や希釈による有効成分の沈殿発生に伴う必要摂取量の増加を伴うことがなく、さらに、有効成分自体を無駄なく摂取に供することができる。
【0022】
しかも、水に容易に分散させることができ、その後、密栓した状態で室温での放置でも半年以上も沈降が認められないことから、飲みやすい香味等を有する含プロポリス飲料への加工が容易であり、そのときも、10〜30mL程度の、一口か半口で飲用できるごく少量の飲料でありながら、健康者の1日所要量のプロポリス成分を含む飲料とすることができ、かつ、容器の洗浄が容易なプロポリス抽出物含有飲料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明における「プロポリス抽出物」はエタノール−水混合溶液を抽出溶媒とする抽出によって得られたプロポリス抽出液及びその加工品を指す。すなわち、エタノール−水混合溶液にプロポリス成分が溶解した状態のもの、及び、これを濃縮あるいは乾燥乃至半乾燥させたものを含む。
【0024】
プロポリスからの成分の抽出には上記のようにエタノール−水混合溶液を用いるが、エタノール濃度が60体積%以上の混合溶液を用いた場合に抽出量を多く抽出できるため、60体積%以上のエタノール−水混合溶液を用いることが好ましく、70体積%以上であるとさらに抽出量が多くなるのでより好ましい。なお、95体積%超のエタノール濃度のエタノール溶液は高価となるので実用的ではなく、エタノール濃度が70体積%以上95体積%以下の範囲では濃度が変化しても抽出量には大きな変化が生じないので、この範囲が最適である。
【0025】
なお、被抽出物であるプロポリスは天然物であるため、その抽出量は一定ではないが、エタノール濃度が60体積%の混合溶液を用いた場合、プロポリス抽出物中のエキス成分(非揮発成分)は一般に20〜33重量%の範囲となる。
【0026】
なお、プロポリスの有効成分濃度に密接な関係があるといわれている、波長300nmでの吸光度もアルコール濃度が60体積%以上の混合溶液を用いた場合にもそれ以下の濃度の溶液を用いた場合に比べ大きく、70体積%の混合溶液を用いた場合には60体積%以上の混合溶液を用いた場合より大きくなるが、エタノール濃度が70体積%以上95体積%以下の範囲では濃度が変化しても吸光度には大きな変化が生じない。
【0027】
また、やはりプロポリスの有効成分濃度に密接な関係があるといわれている、波長275〜315nmの間の吸光度の積分値もアルコール濃度が60体積%以上の混合溶液を用いた場合にもそれ以下の濃度の溶液を用いた場合に比べ大きく、70体積%の混合溶液を用いた場合には60体積%以上の混合溶液を用いた場合より大きくなるが、エタノール濃度が70体積%以上95体積%以下の範囲では濃度が変化してもこの範囲の吸光度の積分値には大きな変化が生じない。
【0028】
本発明では、このようなプロポリス抽出液に対して、炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理を施す。
【0029】
炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの水分散性改良剤の添加量は、用いるプロポリス抽出液に含まれたプロポリス抽出物の含有量によっても異なるが、通常、例えば非揮発成分が33重量%のプロポリス抽出液の場合、0.5質量%以上2質量%以下であり、このとき、添加量が0.5質量%未満では充分な水分散性改良効果が得られない場合があり、また、添加量が2質量%近くあれば充分な水分散性改良効果が得られ、かつ、2質量%を越えて添加してもプロポリス抽出物に溶解せず、加熱処理後においても未反応と思われる粉末が沈降・残留するので、この粉末を濾過等の手段により除去する必要が発生する場合がある。なお、プロポリス抽出物の含有率が異なる抽出物の場合には、上記比率を換算した添加量を目安にして適宜増減して添加する。
【0030】
なお、本発明の水分散性改良プロポリス抽出物の製造方法では、水分散性改良剤として炭酸水素ナトリウムあるいは炭酸ナトリウムを用いる必要がある。クエン酸等の可食酸を用いたり、あるいは水酸化ナトリウムを液が中性になるように添加しても、あるいは、水酸化ナトリウムを液が中性になるように添加した後に加熱処理を行っても、エタノール濃度が高い、従って、非揮発成分を多く含むプロポリス抽出物に対しては、成分が水溶性となることもなく、充分な水分散性改良効果は得られず、結果として、処理を行わないプロポリス抽出物同様に、「やに」状の付着物の問題が残る。
【0031】
このようにプロポリス液に対して炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウムを添加した後、加熱処理を行う。加熱処理を行わないと、水分散性が充分に改良されない。
【0032】
本発明における加熱処理の処理温度としては、発泡が生じるように行う必要がある。ここで、通常、下限は40℃以上、望ましくは50℃以上、上限は70℃以下で望ましくは65℃以下である。ここで、発泡が生じるような加熱処理を行わない場合には、これら炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムの添加の結果、pHが中性域(5.5ないし7)となっても、成分が水溶性となることもなく、充分な水分散性改良効果は得られず、結果として、処理を行わないプロポリス抽出物同様に、「やに」状の付着物の問題が残る。
【0033】
加熱処理は加熱による発泡が完了するまで続ける(通常、15〜30分程度)が、40℃以下の場合、30分を越えて加熱処理を行っても発泡が終了せず、また、このとき、充分な水分散性改良効果が得られない場合がある。一方、70℃を越えた温度では処理後のプロポリス液が赤く変色する場合があり、また、飲用時での「辛味」やのどへの刺激等が増加する場合がある。
【0034】
このようにアルコール抽出によるプロポリス抽出物であって、炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理されて得られた水分散性改良プロポリス抽出物は均一に乳化した状態となるが、この乳化は極めて安定で、密栓して室温に放置しても半年経っても沈降や容器内壁や底への付着は発生しない。さらに、この水分散性改良プロポリス抽出物はエタノール含有量が高いため密栓さえしておけば腐敗等の恐れはない。
【0035】
また、成分についてもプロポリス抽出物中の有効成分と目されるケルセチン、p−クマル酸、ケンフェロール、ジテルペン、パラクマル酸の各主要成分の含有量についても、処理の前後で変化はなく、また、その他の成分についても高速液体クロマトグラフィーによる分析の結果でも差異は見られない。また、紫外域での吸光光度計による分析でも水分散性改良処理の前後で変化が見られない。
【0036】
このようにして得られた水分散性改良プロポリス抽出物は水分散性に優れているため、一般の清涼飲料やお茶、紅茶等に、様々な混合比で混ぜても成分が沈降することがない。また、このとき、ジュース類に対して添加してもそのpHの影響を受けず、安定に分散する。
【0037】
このため、これら清涼飲料等の製造過程で水分散性改良プロポリス抽出物を配合することで、容易に含プロポリス飲料を得ることができるので、プロポリス特有の匂いのマスキングが容易となり、より飲みやすい飲料とすることができる。
【0038】
本発明の水分散性改良プロポリス抽出物は水分散性改良後、加熱や減圧処理等により、揮発成分を減らして、乾燥あるいは半乾燥の状態としても良い。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の水分散性改良プロポリス抽出物の実施例について具体的に説明する。
<プロポリス抽出液の調整>
【0040】
<処理条件の影響についての検討>
プロポリス抽出液としては、アレクリン(バッカーリス ドラクンクリ フォーリア)由来のプロポリスに対して80体積%エタノール−水混合溶媒を用いて抽出して得た、不揮発成分32重量%を含むプロポリス抽出液を用いた。
【0041】
これらプロポリス抽出液に対して、表1及び表2に示す量で炭酸水素ナトリウム(NaHCO)または炭酸ナトリウム(NaCO)を添加し、次いで、やはり表1に示す温度で加熱処理を、発泡が終了するまで(15〜25分程度)行った。
【0042】
このとき、容器内の液面に膜が発生したかどうか、また、他の容器への移し替えを行ったときに元の容器の壁面、底面に付着物があるかどうかを目視で調べた他、実際に飲用し、官能試験も行った。このときの結果を表1に併せて記載する。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1及び表2によれば、プロポリス抽出液に対する炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムの総添加量が2質量%以上の系ではこれらの残留物と思われる粉末状の沈殿が見られたが、総添加量が2質量%以下の系では分散性が向上したことが判る。なお、上記表1及び表2において、均一分散状態が得られたサンプルについて、密閉条件で室温下3週間の放置テストを行ったが、沈殿の発生はなく、均一分散状態が保たれた。
【0046】
なお、表1及び表2での水分散性改良プロポリス抽出物のpHは、元のプロポリス抽出液のpHが5.3であったのに対して、6.7〜6.9程度とほぼ中性域となっていた。なお、未処理のプロポリス抽出液に対してpHが6.8になるように水酸化ナトリウム水溶液を少量添加して攪拌したが何の変化も観察されず、さらに、60℃で25分間の加熱処理を行ったが、この場合にも分散性の向上は見られなかった。
【0047】
また、これら水分散性改良プロポリス抽出物のうち、容器への付着がなかったサンプルについては、実際の官能検査のときにも、唇や歯茎などへの付着残留感を与えることが全くなく、また、容器への付着が微量とされたサンプルについてもこれら付着残留感が殆どないことが確認され、また、これら両者において、未処理のプロポリス液を用いた場合にしばしば生じる、飲用後30分〜1時間程度継続する、のどへの刺激感も5分以内に解消することが確認された。
【0048】
<水分散性改良処理のプロポリスの成分への影響について>
ここで、炭酸水素ナトリウムを2質量%添加し、60℃で加熱処理を行った水分散性改良プロポリス抽出物(A)について、水分散性改良処理の処理前後の、その成分の変化の有無の検討を高速液体クロマトグラフィーにより行った。
【0049】
分析は、装置として島津製作所製HPLC Class Lc−10、カラムとして島津テクノリサーチ社ODS−II(4.6mmφ、150mm)、移動相として、メタノール、水酢及び酢酸混合液(それぞれ体積比で70、30及び1)、検出器としてフォトダイオードアレイ検出器をそれぞれ用い、流量を1.2mL/分、カラム温度を50℃とし、測定波長275nmで行った。
【0050】
水分散性改良処理前のプロポリス液のクロマトグラムを図1に、水分散性改良プロポリス抽出物(A)のクロマトグラムを図2にそれぞれ示す。
【0051】
また、さらに、水分散性改良プロポリス抽出物(A)について容器への付着程度の評価を、水分散性改良処理を行なわないプロポリス液での評価と同時に行った。
【0052】
図1及び図2において、保持時間が約3分(これらでは2.95〜2.97分)のところに現れたピークがp−クマル酸であるが、その他の成分についても水分散性改良処理の処理前後で変化が見られないこと、及び、水分散性改良処理によって、新たな成分が発生しないことが判る。
【0053】
なお、ケンフェロール及びケルセチンについては、上記条件で、ただし、検出波長を380nmとして測定をした。その結果、保持時間が約25分及び約52分の箇所にピークを有するこれら物質の、処理前後でのピーク高さ及び面積に変化がなく、これら成分も本発明の水分散性改良処理の影響を受けないことが確認された。
【0054】
<飲用容器への付着の検討>
予め質量を測定した透明なプラスチック製コップ12個にそれぞれ水道水を100mL入れ、これらのうち6個に水分散性改良処理前のプロポリス抽出液(プロポリス成分含有量32質量%:0.48)を、他の6個に上記水分散性改良プロポリス抽出物A(プロポリス成分含有量32質量%:0.48g(添加した炭酸水素ナトリウムは全量反応したとし、かつ、添加した炭酸水素ナトリウム由来のナトリウム成分質量は微量であるとして無視した))をそれぞれ1.5g(約60滴分であり、健康維持に充分であるとされている1日量に相当する)ずつ滴下した。
【0055】
これら容器を軽く振って攪拌した後、内容液を捨て、その後自然乾燥によって容器を乾燥させた後、各々の容器の質量変化を調べ、付着物質量を測定し、それぞれ平均した。
【0056】
その結果、水分散性改良処理前のプロポリス液の場合には、付着残留物の平均質量は0.11gであり、この量はプロポリス成分として7%強に相当する。
これに対して、本発明に係る水分散性改良プロポリス抽出物Aの場合にはコップの付着残留物質量の平均は0.002gと、付着残留物が事実上ない状態であることが確認された。なお、このときのわずかな付着残留物は流水で手洗浄することにより、容易に除去可能であることが確認された。
【0057】
これら結果により、本発明に係る水分散性改良プロポリス抽出物は容器に付着することがないので、全量を確実に飲用できることが判る。
【0058】
また、水分散性改良プロポリス抽出物Aは水のみならず、緑茶、紅茶などに滴下してもその良好な水分散性が損なわれないことが確認された。また、水分散性が良好であるため、例えば飲料や水に添加した後、減圧や加熱などにより残留アルコール分を減少させても成分が沈下することはないことも確認され、これらより、アルコール分が問題となるような非アルコール飲料等の分野にも本発明の水分散性改良プロポリス抽出物が応用可能であることが判った。
【0059】
<比較試験>
プロポリス抽出液としては、アレクリン由来のプロポリスに対して80体積%のエタノール水溶液で、常法に従って浸漬抽出して得られた、不揮発分285.9g(サンプリングした少量のサンプルを蒸発乾固させたときの残留分からの換算値。以下同)を含むプロポリス抽出液(「抽出原液」)1444g(エタノール濃度63体積%)を得た。
【0060】
次いで、この抽出原液777gに対して水を加えて、エタノール濃度(サンプリングした少量のサンプルを加熱し、揮発したエタノール量をエタノールガスセンサを用いて測定し、サンプルのアルコール濃度に換算するアルコール濃度計(根本特殊科学社製)を用いて測定した。以下同)を50体積%とし、その後24時間、室温で放置した。
【0061】
放置により、低粘度液状の上層と、「どろっとした」褐色乃至黒色の下層と分離したので、これらを分け、上層物質(856g(不揮発分:107.9g))と下層物質(77.5g(不揮発分:35.1g))とに分取した。
【0062】
ここで、特開平9−141002号公報記載(特許文献2)の技術では上記の上層物質は原料物質として用いているが、下層物質は「粘着性沈殿物」として除去されている。
【0063】
ここで、上層物質と下層物質について、その成分について「抽出原液」とともに解析を行った。抽出原液(移動相溶媒により100倍希釈)、上層物質(移動相溶媒により100倍希釈)及び下層物質(移動相溶媒により10000倍希釈)での結果、及び、下層物質での上記同様にして行った高速液体クロマトグラフィーでの結果をそれぞれ図3〜図5に示す。
【0064】
図3〜図5において、保持時間が約3分(これらでは2.88〜2.935分)のところに現れたピークがp−クマル酸であるが、下層物質中にも非常に多く残留していることが判り、これらより、特開平9−141002号公報記載(特許文献2)では除去されている下層物質中にもp−クマル酸等のプロポリス中の有効成分として考えられる物質が多く含まれていることが示唆された。
【0065】
さらに、より定量的に解析を行うため、日本食品分析センターによりこれらサンプルの不揮発分中のケルセチン及びp−クマル酸の定量分析を高速液体クロマトグラフ法にて行った。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の定量分析の結果、抽出原液、上層物質及び下層物質のケルセチン及びp−クマル酸の量は表4に示される値となる。
【0068】
【表4】

【0069】
これら結果より特開平9−141002号公報記載の技術を応用した場合にケルセチンで15重量%、p−クマル酸で10重量%程度の既知有効成分が、「粘着性沈殿物」として除去されていたことが判る。
【0070】
ここで、上記における抽出原液を用いて、炭酸水素ナトリウムを室温(23℃)下で加え、pHを5.8、6あるいは6.4に変化させたサンプルを調整した(このとき発泡は一切生じなかった)。
【0071】
これらサンプルを、pH未調整の上層物質とともに、それぞれ23℃の水が100mL入ったガラス製コップに10粒ずつ滴下させてモニターが飲用したが、コップへの残留付着、および、モニターの歯や口蓋への非水溶性物質の付着にはpH未調整品とpH調整品との間に有意差が見られず、pH調整による水溶性ないし分散性向上の効果は確認できなかった。このことより、上記抽出原液のような、抽出成分が「濃い」液の場合には、pH調整による効果は得られないことが判った。
【0072】
同様に、ただし炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸ナトリウムを添加してpHを5.8、6あるいは6.4に変化させたサンプルを調整し(このとき発泡は一切生じなかった)、モニターテストを行ったが、やはり、pH調整による水溶性ないし分散性向上の効果は確認できなかった。
【0073】
一方、上記抽出原液に対して、2質量%となるよう炭酸水素ナトリウムを加え、45℃での加熱処理を、発泡が終了するまで行った、炭酸水素ナトリウム・加熱処理サンプル、及び、上記抽出原液に対して、1.5質量%となるよう炭酸ナトリウムを加え、60℃での加熱処理を、発泡が終了するまで行った、炭酸ナトリウム・加熱処理サンプルについても、同様にモニターテストを行った。その結果、これら本発明に係る2つのサンプルとも、コップへの付着残留やモニターの歯や口蓋への非水溶性物質の付着が生じなかった。このことから、本発明によれば、pH調整のみでは飲みやすさや容器付着性が改良されない抽出成分が「濃い」液の場合であっても確実に効果が得られることが判る。
【0074】
このように、本発明によれば、アレクリン由来のプロポリスに対して80体積%エタノール−水混合溶媒を用いて抽出して得られた、ケルセチンやp−クマル酸などの有効とされる成分濃度が極めて高いプロポリス抽出液に対しても、その成分を全く無駄にすることなく、有効に摂取可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、従来不可能であった、高濃度のエタノール水溶液によって抽出された、高品質なプロポリス抽出液を、その成分を失うことなく有効利用でき、かつ、高濃度のエタノール−水混合溶液で抽出された抽出成分をその濃度を大きく薄めずに、さらに、プロポリスエキスが持つ欠点である、容器、口腔内やのどへの付着、風味改善への困難性を乳蛋白質等を用いることなく改善することができる、プロポリス抽出液の欠点を全く取り除いた水分散性改良プロポリス抽出物として広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】水分散性改良処理前のプロポリス液のクロマトグラムである。
【図2】水分散性改良プロポリス抽出物(A)のクロマトグラムである。
【図3】抽出原液(移動相溶媒により100倍希釈)のクロマトグラムである。
【図4】上層物質(移動相溶媒により100倍希釈)のクロマトグラムである。
【図5】下層物質(移動相溶媒により10000倍希釈)のクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール−水混合溶液を抽出溶媒とする抽出によって得られたプロポリス抽出液であって、抽出後に炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理されたことを特徴とする水分散性改良プロポリス抽出物。
【請求項2】
上記加熱処理が40℃以上70℃以下で行なわれたことを特徴とする請求項1に記載の水分散性改良プロポリス抽出物。
【請求項3】
上記加熱処理が、発泡が終了するまで行われたことを特徴とする請求項1に記載の水分散性改良プロポリス抽出物。
【請求項4】
上記エタノール−水混合溶液におけるエタノール濃度が70vol%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水分散性改良プロポリス抽出物。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の水分散性改良プロポリス抽出物を含有することを特徴とする含プロポリス飲料。
【請求項6】
エタノール−水混合溶液を抽出溶媒とする抽出によって得られたプロポリス抽出液を、炭酸ナトリウム、あるいは/及び、炭酸水素ナトリウム存在下で加熱処理することを特徴とするプロポリス抽出物の水分散性改良方法。
【請求項7】
上記加熱処理が40℃以上70℃未満で行うことを特徴とする請求項2に記載のプロポリス抽出物の水分散性改良方法。
【請求項8】
上記抽出溶媒のエタノール濃度が60容積%以上であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のプロポリス抽出物の水分散性改良方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−54502(P2008−54502A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257081(P2005−257081)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(504448966)
【Fターム(参考)】