説明

水平軸風車

【課題】風力発電装置が構成される水平軸風車に制振専用の重量物を付加することなく制振装置を構成する。
【解決手段】本発明の水平軸風車は、発電機6を所定の方向A(又はB)に移動自在に支持する支持機構(レール機構7)と、ロータ1の主軸2に対して発電機6を少なくとも前記所定の方向に移動自在にして主軸の回転を発電機に伝達可能に連結する連結機構として自在継手8(又はスプライン15)と、ダンパ9とを備え、発電機6を制振用の重量物として制振機構が構成される。パッシブ制振、アクティブ制振の双方に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平軸風車に係り、タワーの制振に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、いわゆる水平軸風車が風力発電等の商業用に広く実用化されている。水平軸風車は、1枚又は2枚以上のブレードがハブから放射状に取付けられてなるロータと、ハブに接続されるとともに略水平方向に延在した主軸を介してこのロータを軸支するナセルと、略鉛直方向に設置されるとともにナセルをヨー回転自在に支持するタワーとを有して構成される。
【0003】
従来、高層建築物や振動源のある構造物において、チューンドマスダンパや流体ダンパによる制振装置が広く利用されている。
水平軸風車においても、例えば、特許文献1に記載されるように、タワー頂部やナセル内空間を利用して重量物をダンパで支持して設置して構成された制振装置を備えるものがある。
制振技術としては、制振装置の重量物に受動のダンパのみで支持して構成されたパッシブのものと、制振装置の重量物にアクチュエータと振動センサを付設し、振動を減衰させる力をアクチュエータに作用させる制御を行うアクティブのものとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−205108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、以上の従来技術にあっては、制振作用を発するためにダンパで支持されて可動する重量物を付加する必要がある。
このため、水平軸風車のタワー頂部質量を増加させ、タワー自体にもより高い強度・剛性が必要となり、建設コストの上昇の要因となる。
【0006】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、風力発電装置が構成される水平軸風車において、制振専用の重量物を付加することなく、制振装置を構成することができる水平軸風車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、ハブと1枚又は2枚以上のブレードとを有するロータと、
前記ロータを主軸を介して回転自在に支持するナセルと、
略鉛直方向に設置されるとともに前記ナセルをヨー回転自在に支持するタワーと、
前記ナセルに設置された発電機と、
前記発電機を所定の方向に移動自在に支持する支持機構と、
前記主軸に対して前記発電機を少なくとも前記所定の方向に移動自在にして前記主軸の回転を前記発電機に伝達可能に連結する連結機構とを備え、
前記発電機を制振用の重量物として制振機構が構成された水平軸風車である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記支持機構はレール機構である請求項1に記載の水平軸風車である。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記所定の方向は前記主軸に直交する方向とされ、前記連結機構は前記主軸に直交する方向に前記発電機を移動自在にする自在継手である請求項1に記載の水平軸風車である。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記所定の方向は前記主軸の軸方向とされ、前記連結機構は前記主軸の軸方向に前記発電機を移動自在にするスプラインである請求項1に記載の水平軸風車である。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記ロータと前記発電機との間に設けられ前記ロータの回転を増速して前記発電機に伝達する増速機を備え、
前記増速機と前記発電機とを前記連結機構が連結する請求項1に記載の水平軸風車である。
【0012】
請求項6記載の発明は、前記制振機構は、前記発電機と前記ナセルとの間に前記所定の方向に伸縮するダンパを備えて構成される請求項1に記載の水平軸風車である。
【0013】
請求項7記載の発明は、前記制振機構は、前記所定の方向についての前記ナセルに対する前記発電機の振動を検出するセンサと、前記発電機と前記ナセルとの間に設けられ前記所定の方向について前記発電機に力を作用するアクチュエータと、前記センサの検出値に基づき前記アクチュエータに前記振動を減衰させる力を作用させる制振制御装置とを備えて構成される請求項1に記載の水平軸風車である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風力発電装置が構成される水平軸風車において、風力発電用の発電機を制振用の重量物として制振機構が構成されるので、制振専用の重量物を付加することなく制振装置を構成することができるという効果があり、制振装置を備える風力発電装置としては、タワー頂部の軽量化、それに伴う建設コストの低減が図られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水平軸風車の平面模式図(a)及び後面模式図(b)である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る発電機及びその支持機構の側面模式図である。
【図3】従来の一般的なカップリングによる連結構造の断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る自在継手による連結構造の平面模式図であってオフセット無しの図(a)及びオフセット有り図(b)と、継手部の斜視図(c)である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るアクティブ制振制御系の構成図(a)及び伝達関数表示によるブロック線図(b)である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るアクティブ制振制御の周波数応答図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係るアクティブ制振制御のステップ応答図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る水平軸風車の平面模式図(a)及び側面模式図(b)である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る発電機及びその支持機構の後面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0017】
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態につき説明する。
図1に示すように本実施形態の水平軸風車は、ハブと1枚又は2枚以上のブレードとを有するロータ1を備える。さらに本水平軸風車は、ロータ1を略水平の主軸2及び増速機5を介して回転自在に支持するナセル3と、略鉛直方向に設置されるとともにナセル3をヨー回転自在に支持するタワー4と、ナセル3に設置された増速機5及び発電機6と、発電機6をロータ1に対する左右方向Aに移動自在に支持する支持機構としてのレール機構7と、主軸2に対する直交2軸方向に発電機6を移動自在にして主軸2の回転を発電機6に伝達可能に連結する自在継手8と、ダンパ9とを備えて構成される。本水平軸風車は発電機6が搭載されることにより風力発電装置として構成されている。
【0018】
増速機5は、主軸を支持しており、ロータ1と発電機6との間に設けられる。増速機5は、ロータ1の回転を増速して発電機6に伝達する。増速機5の高速出力軸と発電機6の入力軸とが自在継手8により連結されている。
【0019】
図2に示すように、レール機構7は、ナセル3内底部に固定設置された架構3a上に固定されたレール7aと、発電機6の底面に固定されレール7aと摺動可能に連結される脚部7bとにより構成される。レール7aは、水平面内において主軸と直行する方向Aに延設されている。従って、発電機6は、脚部7bを介してレール7a上に搭載され方向Aに滑走可能に支持される。レール7aにはその上部において左右両側に突出する突出部が設けられ、脚部7bには下方に向かって開口する凹部が設けられており、レール7aの突出部が脚部7bの凹部に左右と上下の両側から覆うように嵌合される。
このため、発電機6のロータ1に対する前後方向及び上下方向への移動を阻止してレール7aからの脱落が阻止される。なお、レール7aの突出部が脚部7bの凹部はそれぞれ方向Aに向かって連続的に設けられる。
【0020】
図3に示すように、従来技術にあっては、増速機5の高速出力軸5aと発電機6の入力軸6aと連結は、カップリング10により行われる。カップリング10を高速出力軸5a及び入力軸6aに板バネ11を挟んでボルト連結する。増速機5と発電機6との配置上の多少の軸ずれ量は、板バネ11の変形により補填することができる。
しかし、かかる従来の連結構造では、振動に伴った発電機6の動的な軸ずれ移動を自在にすることはできない。
そこで本実施形態においては、図4に示すように増速機5の高速出力軸と発電機6の入力軸とを連結する連結機構として自在継手8を設ける。
図4(c)に示すように自在継手8は、増速機5との連結部8a及び発電機6との連結部8aのそれぞれに2軸継手が構成されるもので、一般的に利用されているものである。
ロータ1と増速機5との間に自在継手8を設けないのは、ロータ1と増速機5との間に自在継手8を設けると、主軸2を支持するスパンが短くなりすぎる、或いは、そのスパンを十分にとるために増速機5の前方に主軸2を支持するスパンをとると、ナセルが主軸方向に長大化するからである。
【0021】
本水平軸風車の制振機構は、発電機6を制振用の重量物として利用し、発電機6とナセル3との間にそれらを連結するように方向Aについて設けられたダンパ9を設けることで構成される。
ダンパ9として、バネダンパ、オイルダンパ、エアーダンパ等を適用し、圧力等が可変制御されないパッシブダンパのみを採用することによりパッシブ制振機構を構成することができる。
【0022】
一方、アクティブ制振機構を構成するには、図5に示すように構成する。
図5(a)に示すようにアクティブ制振機構は、方向Aについてのナセル3に対する発電機6の変位xを検出するセンサ12と、発電機6とナセル3との間に設けられ方向Aについて発電機6に力を作用するアクチュエータ13と、センサ12の検出値に基づきアクチュエータ13に振動を減衰させる力fcを作用させる制振制御装置14とを備えて構成される。
【0023】
図5(a)において、発電機6の質量はM、発電機6に入力される振動源となる外力はf、発電機6の変位はx、パッシブダンパの減衰係数はC、そのバネ定数はKである。
重量物としての発電機6の伝達関数を図5(b)の上段ブロック内に、制振制御装置14の伝達関数Gcを下段ブロック内に示した。図5(b)において、F(s)は、重量物としての発電機6に入力される外力値、X(s)は、その結果としての発電機6の変位値、Fc(s)は、重量物としての発電機6に入力されるアクチュエータ13の作用力値である。
【0024】
制振制御装置14は、図5(b)のブロック線図に示すようにして、センサ12で検出される変位値X(s)からアクチュエータ13の作用力値Fc(s)を算出して、その値の作用力fcを外力fと反対方向に入力して発電機6の振動を減衰させる。
【0025】
図5(b)のブロック線図に基づき、フィードバック制御無しの場合、センサ12で検出される振動の加速度に対するフィードバック制御をした場合、センサ12で検出される振動の速度に対するフィードバック制御をした場合、センサ12で検出される振動の変位に対するフィードバック制御をした場合のそれぞれにつき周波数応答、ステップ応答を解析し、図6、図7に示した。
なお、伝達関数Gcの式においてKa=Kv=Kp=0とすれば、フィードバック制御無し、Kv=Kp=0とすれば、加速度に対するフィードバック制御、Ka=Kp=0とすれば、速度に対するフィードバック制御、Ka=Kv=0とすれば、変位に対するフィードバック制御となる。
図6において縦軸の「振幅比」は、外力Ffの振幅に対する変位xの振幅の比である。図7において縦軸の「変位」は、発電機6の変位xである。
【0026】
図6、図7に示すように、センサ12で検出される振動の速度に対するフィードバック制御をした場合、及び変位に対するフィードバック制御をした場合において、振動減衰効果が得られ、速度に対するフィードバック制御をした場合において最も高い振動減衰効果が得られた。
本発明の適用により制振専用の重量物を付加せずに制振装置を構成でき、振動減衰効果が得られるため、仮にタワー高さ60mで、定格出力2MWの風車の場合、構造減衰比を0.5%から10%に増加させることにより、質量約8tを低減できる。これは、30万円/tを想定すると、1機あたり240万円のコスト低減効果に相当する。地震時に、共振点付近で加振する風車に本発明を適用すると効果的である。
【0027】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態につき説明する。
本実施形態の水平軸風車は、上記第1の実施形態に対して発電機を移動自在にする所定の方向を主軸2の軸方向Bに変更した形態であり、その他は同様の構成を有する。上記第1実施形態と同一の要素に同一の符号を付する。
【0028】
本実施形態における連結機構は、主軸2の軸方向Bに移動自在にするスプライン15である。スプライン15は、例えば軸方向に溝が切られたスプライン軸に外嵌される外筒軸を軸方向に直線動作させる構造による直線運動機構であって、トルクを伝達できるものであり、既に回転伝達軸として一般に利用されている。
増速機5の高速出力軸と発電機6の入力軸との連結にスプライン15を適用し、レール機構7の案内方向及びダンパ9の適用方向を軸方向Bとすることにより、ロータ1に対する前後方向の振動を制振する制振機構を構成することができる。
その他の制御構成等は上記第1実施形態と同様のものが適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 ロータ
2 主軸
3 ナセル
4 タワー
5 増速機
6 発電機
7 レール機構
8 自在継手
9 ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと1枚又は2枚以上のブレードとを有するロータと、
前記ロータを主軸を介して回転自在に支持するナセルと、
略鉛直方向に設置されるとともに前記ナセルをヨー回転自在に支持するタワーと、
前記ナセルに設置された発電機と、
前記発電機を所定の方向に移動自在に支持する支持機構と、
前記主軸に対して前記発電機を少なくとも前記所定の方向に移動自在にして前記主軸の回転を前記発電機に伝達可能に連結する連結機構とを備え、
前記発電機を制振用の重量物として制振機構が構成された水平軸風車。
【請求項2】
前記支持機構はレール機構である請求項1に記載の水平軸風車。
【請求項3】
前記所定の方向は前記主軸に直交する方向とされ、前記連結機構は前記主軸に直交する方向に前記発電機を移動自在にする自在継手である請求項1に記載の水平軸風車。
【請求項4】
前記所定の方向は前記主軸の軸方向とされ、前記連結機構は前記主軸の軸方向に前記発電機を移動自在にするスプラインである請求項1に記載の水平軸風車。
【請求項5】
前記ロータと前記発電機との間に設けられ前記ロータの回転を増速して前記発電機に伝達する増速機を備え、
前記増速機と前記発電機とを前記連結機構が連結する請求項1に記載の水平軸風車。
【請求項6】
前記制振機構は、前記発電機と前記ナセルとの間に前記所定の方向に伸縮するダンパを備えて構成される請求項1に記載の水平軸風車。
【請求項7】
前記制振機構は、前記所定の方向についての前記ナセルに対する前記発電機の振動を検出するセンサと、前記発電機と前記ナセルとの間に設けられ前記所定の方向について前記発電機に力を作用するアクチュエータと、前記センサの検出値に基づき前記アクチュエータに前記振動を減衰させる力を作用させる制振制御装置とを備えて構成される請求項1に記載の水平軸風車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−7122(P2011−7122A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152034(P2009−152034)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】