説明

水平鋳造機の始動及び停止方法及び装置

【課題】例えば金属インゴットの連続鋳造用キャスタ等の水平鋳造機を始動させたり停止させたりするための装置を提供する。
【解決手段】キャスタは、溶融金属を運ぶための供給経路,少なくとも1つの鋳型、及び、各鋳型を供給経路に別個に接続するための接続経路を有する。閉鎖ゲートは、各接続経路と関連させられ、開位置と閉位置との間で可動である。各接続経路は、閉鎖ゲートと鋳型の間に配置された落下部を有する。この落下部は、下方へ向きを変えるのに適しており、これにより、接続経路及び鋳型の入口から迅速に溶融金属を排出させることが可能である。また、装置は、鋳型内に差し込まれるのに適し、溶融金属を受け取るために内部に形成されたスレッド付き凹部を備えた、細長いスタータブロックを有する。鋳型に対してスタータブロックをシールするために、スタータブロックにはOリングが嵌め込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平鋳造機の動作を停止させるための装置及び方法、並びに、水平鋳造機をそれらの停止後に始動させる若しくは再始動させるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水平連続鋳造は、通常、溶融金属からの金属インゴット生成に用いられる。連続キャスタは、キャスタに用いられる鋳型を変更することにより、種々の断面形状及び周囲(girth)のインゴットを生成することができる。インゴットは、キャスタの下流で所望の長さにカットされ得る。従来の水平連続キャスタの一例は、例えば米国特許第3455369号に示される。
【0003】
マルチストランド水平キャスタは、特殊タイプのキャスタであり、同時に鋳造されたインゴットのマルチストランドを可能とする。かかるキャスタは、一般に、単一のヘッダボックスを介して又は各鋳型専用の別個の接続経路を介して複数の鋳型に接続された溶融金属供給経路(feed)を有している。
【0004】
マルチスタンドキャスタにおいては、1つ又はそれ以上のストランドを一時的に隔離し閉鎖することがしばしば必要とされる。閉鎖の理由としては、上流側又は下流側での動作の不良,溶融金属の所望でない状態、若しくは、キャスタの通常のメンテナンス及び修理が考えられる。閉鎖の間における特定の接続経路の不適切な隔離は、費用のかかる溶融金属の損失をもたらす可能性がある。また、溶融金属が適切に回収されず、インゴットを冷却する際にしばしば用いられる水と接触することになれば、発火や爆発が発生するおそれもある。
【0005】
閉鎖の間に特定のストランドを隔離し、排出させ、また、溶融金属を回収する試みがなされている。かかる閉鎖デバイスの一例が、米国特許第4982779号に示される。しかしながら、かかるデバイスは、溶融金属が接続経路及び鋳型を通過し、鋳型出口を通じて排出することをしばしば必要とする。このことは、溶融金属が鋳型内で凝固することをもたらし、修理の場合に、この部分のアクセスを制限することとなる。その上、多くの閉鎖システムが、溶融金属が鋳型出口で検出された後に経路を隔離するのみあり、そのため、多量の溶融金属が、経路が隔離される前に失われる。
【0006】
キャスタが閉鎖された後、また、ちょうどキャスタが始動させられる若しくは再始動させられるとき、それは、安全で、かつ、溶融又は鋳造金属のいかなるスタートアップ損失を最小に抑制するように動作する必要がある。スタートアップに関して一般的に注目されるべき点は、鋳造インゴットが切断装置へ向かう間におけるその適切な位置合わせである。加えて、鋳型を離れる金属は、一般に、生成されたインゴットに作用する冷却剤スプレーにより直に冷却される。スタートアップに際して、爆発や発火をもたらし得る冷却剤と溶融金属との間の接触を防止することが重要である。
【0007】
幾つかのスタートアップブロックが、水平連続キャスタとの利用に考案されている。これらの幾つかの例が、米国特許第4454907号,第4252179号,第3850225号及び4381030号に示される。しかしながら、これらのデバイスのほとんどは、溶融金属と冷却剤との間の接触を防止するために、鋳型に対して積極的にシールしていない。更に、多数のスタータブロックは、インゴットの端部及びブロックはインゴットから切断される必要があるように、インゴットの生成された端部に永続的に係合する。このことは、金属及びスタータブロックの所望でない無駄をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、特定のストランドの迅速な隔離、及び、溶融金属のストランドの全部分からの溶融金属の短時間の排出及び回収を実現する閉鎖方法及びデバイスを見出すことが望ましい。また、生成されたインゴットの適切な位置合わせを保証し、発火又は爆発の可能性を軽減し得る適切なスタータブロックを開発することが望ましい。
【0009】
本発明は、1つ又はそれ以上の接続経路を通じた流れを終わらせるために、遠隔動作式の閉鎖デバイスを用いることを可能とする。流れの終了後、本発明は、また、接続経路及び鋳型への簡単なアクセスを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、1つの実施形態において、金属インゴットの連続鋳造用の装置を提供するもので、該装置は、溶融金属を運ぶための供給経路と、金属インゴットを鋳造するための少なくとも1つの鋳型と、溶融金属を送るために、各鋳型を供給経路へ別個に接続する接続経路と、を有している。閉鎖ゲートは、各接続経路と関連させられ、上記供給経路に隣接して配置される。このゲートは、開いた位置と閉じた位置との間で可動である。各接続経路は、また、閉鎖ゲートと鋳型との間に配置された落下部(drop-down portion)を有している。この落下部は、下方へ向きを変えるのに適しており、それにより、接続経路及び鋳型の入口から溶融金属を短時間で排出させる。
【0011】
本発明は、別の実施形態において、金属インゴットの連続鋳造用の装置を提供するもので、該装置は、溶融金属を運ぶための供給経路と、溶融金属を受け、金属インゴット内に金属を流し込むための鋳型と、を有している。冷却剤ソースは、インゴットを冷却するために、鋳型から現れるインゴットの表面に影響を与えるように位置決めされ、鋳型から鋳造インゴットを運搬するための運搬用デバイスは、インゴットの鋳造方向において位置合わせされる。上記装置は、また、鋳型内に挿入され運搬用デバイスにより支持されるのに適するとともに、溶融金属を受けるための内部に形成されたスレッド付きの凹部と、鋳型に対してスタータブロックをシールするためのスタータブロックに嵌め込まれるOリングと、を備えた細長いスタータブロックを有している。
【0012】
また別の実施形態において、本発明は、鋳造インゴット用のマルチストランドの連続溶融金属キャスタにおける少なくとも1つのストランドの鋳造を停止させる方法を提供する。キャスタは、溶融金属を運ぶための供給経路と、金属インゴットを流し込むための少なくとも1つの鋳型と、溶融金属を送るための供給経路に対して各鋳型を別個に接続する接続経路と、各接続経路に関連させられ、上記供給経路に隣接して配置された閉鎖ゲートと、を有している。ゲートは、開いた位置と閉じた位置との間で可動であり、各接続経路は、閉鎖ゲートと鋳型との間に配置される落下部(drop-down portion)を有している。その落下部は、下方に向きを変えるのに適している。上記方法は、少なくとも1つの接続経路を隔離させるべく閉鎖ゲートを閉じること、及び、接続経路及び鋳型の入口から短時間で溶融金属を排出させるために、落下部の向きを下方に変えることを有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が用いられた2つのストランドの連続水平キャスタ及び下流側のインゴット切断装置の斜視図である。
【図2】直立の動作位置にある本発明の閉鎖ゲート及び落下部を示す、2つのストランドの水平キャスタの斜視図である。
【図3】下向きの排出位置にある本発明の閉鎖ゲート及び落下部を示す、2つのストランドの水平キャスタの斜視図である。
【図4a】直立の動作位置にある落下部を示す、水平連続キャスタの断面図である。
【図4b】下向きの排出位置にある落下部を示す、水平連続キャスタの断面図である。
【図5】鋳造の間の生成されたインゴットを示す鋳型の断面図である。
【図6】水平連続キャスタを閉鎖する手順のフローチャートである。
【図7】本発明のスタータブロックを保持する、鋳型の断面図である。
【図8】本発明のスタータブロックの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、マルチストランドの水平鋳造機10及び2つのストランドのキャスタを、共働する下流側の装置とともに示す。図2には、3つのストランドの鋳造機が、より詳細に示される。溶融金属12が、通常の供給経路14から、所望の断面形状及びサイズの鋳造インゴット18を形成し、生成する鋳型16へ移動する。鋳型16は、全体として、耐熱性の入口管を備えた金属(例えばアルミニウム)体で作られ、グラファイトライナ(graphite liner)を有してもよい。各鋳型16は、通常、第1の冷却剤ソースに接続される鋳型体内における冷却ジャケットを有している。冷却ジャケットは、インゴットのスキンを形成するために、それを通過する溶融金属を冷却するためのものである。
【0015】
キャストインゴットは、下流側の処理のために、運搬用デバイス52により運搬されていく。
【0016】
専用の接続経路20は、マルチストランドの鋳造機10の各ストランドを形成するために、各鋳型16を供給経路14へ接続する。閉鎖ゲート22は、供給経路14に隣接して、各接続経路20内に位置決めされている。閉鎖ゲート22は、通常動作で開いており、また、閉鎖の場合に、溶融金属12から個々のストランドを隔離するために閉鎖される。各接続経路は、鋳型16に隣接した落下部24を備えている。この落下部24は、キャスタ10の通常動作の間、直立の位置をとる。
【0017】
図3に示されるように、落下部24は、隔離された接続経路20及び鋳型16から溶融金属を短時間で排出させるために、閉鎖の間に下向きの位置に下げられ得る。図3は、また、供給経路14から特定のストランドを隔離すべく、閉じた位置にある1つの閉鎖ゲート22を示している。図4a及び4bは、落下部24の動作位置及び閉鎖位置をそれぞれ示す断面図である。各落下部24は、好ましくは、その内部に溶融金属を運ぶ通路25を備えた耐熱材料のブロックで構成される。この通路25は、ブロックの上面における入口と、その端面における出口と、を有している。これらは、接続経路20内に開く出口開口部と鋳型16に対して開く入口開口部とそれぞれ位置合わせされている。ブロック24,経路14及び鋳型16の間の適切なシールを保証するために、ファイバフラックス(FiberfraxTM)紙が接触面に適用される。
【0018】
供給経路14及び接続経路20は、好ましくは加熱された経路である。これにより、金属が鋳型へ移動する間、金属を溶融状態に保つことができる。
【0019】
図2及び3には、供給経路14が、専用の接続経路20を介して鋳型16に接続されているように示されているが、供給経路14もまた溶融金属を各鋳型16に供給するための単一のヘッダボックス(不図示)を介して接続され得ることが理解されるべきである。この場合、閉鎖ゲート22は、閉鎖の間に供給経路からヘッダボックスを隔離させるために、ヘッダボックスに隣接して配置している。
【0020】
図4に示されるように、各鋳型16は、好ましくは、アルミニウムから機械加工されたツーピース鋳型本体17を有し、該鋳型本体17は、その範囲内に環状溝26を備えている。耐熱性の入口チャンネル19もまた鋳型16に付属することが可能で、入口チャンネル19は、そのインレット端部にて、落下経路部24の下流側端部と結合する。更に、鋳型の内周部には、グラファイト部材21が配置されている。環状溝26は、第2の冷却剤供給ライン28に接続され、環状溝26から生成インゴット18に隣接した鋳型16の表面まで延びる少なくとも1つの環状スロット又は複数の孔部32を有している。第2の冷却剤供給ライン28からの冷却剤は、生成インゴット18上に形成されるスキンに作用するように、スロット又は孔部32を通じて流れ出て、これにより、インゴットは冷却され、凝固する。また、ガス供給ライン30が、冷却剤のスロット又は孔部32を浄化したり、溶融金属12が入るのを防止したりするためのガスを供給するために、環状溝26に接続されている。利用に適した鋳型の他の実施形態が、本発明と同じ譲受人に譲渡され、“金属の水平連続鋳造”と題された、2006年7月18日に発行された米国特許第7077186号に記載されている。その開示事項は、引用によりここに組み込まれる。
【0021】
図6のフローチャートは、マルチストランド鋳造機10の特定のストランドを閉鎖するための幾つかの可能性のある判断、及び、該ストランドを隔離させ、閉鎖するためにとられるその後のステップを示している。ブレークアウト検出器は、鋳型から漏れる液体金属を識別し得るセンサであればいかなるものであってもよいが、好ましくは、引用によりここに組み込まれる米国特許第6446704号(コリンズ(Collins))に記載されるようなものである。フローチャートにおける一連の事象を引き起こす他の欠陥は、生成されたインゴットを連続的に切断するのに用いられる切断鋸の欠陥、又は、インゴット回収機とインゴット動作との間における同期損失を含んでいる。これらのタイプの閉鎖の事象を発生させ得る装置は、本発明と同じ譲受人に譲渡され、“金属鋼片の水平鋳造及び切断”と題された、2003年12月11日に出願された同時係属出願シリアル番号10/735077号に記載されている。その開示事項は、引用によりここに組み込まれる。
【0022】
第1のステップでは、特定のストランドが、機器構成(configuration)によって、閉鎖ゲート22を閉じることにより、供給経路14から若しくはリザーバから隔離される。閉鎖ゲート22は、好ましくは付勢式に閉じ、通常動作に際しては、ゲートを開いた位置に保持するためのアクチュエータを有している。適用可能な閉鎖ゲートとしては、例えば、通常閉じたゲートバルブを有するものがある。次のステップは、接続経路20及び鋳型16からいかなる溶融金属12を迅速に排出させるべく、落下部24を下方位置へ下げることである。溶融金属12は、図1に示されたもののような、集積箱34内にチャンネル33を介して集積され得る。
【0023】
閉鎖ゲート22の閉鎖と落下部24の下方変位の間には、鋳型16の出口を浄化し、ストランドを隔離させるべく、デバイス52を運搬することで、インゴット18の引出し(withdrawal)速度を加速させることが好ましい。落下部が下方変位させられた後、更なる好適なステップは、冷却剤供給ライン28からインゴット18への冷却剤の流れを停止させることである。最終の好適なステップは、冷却剤及び溶融金属の孔部32を浄化するために、ガス供給ライン30から環状溝26まで、また、出口孔部32を通じて、ガスを吹き込むことである。
【0024】
図7及び8は、特定のストランドを始動させる又は再始動させるための、スタータブロック36を示している。ブロック36は、一般に、鋳型16の口に挿入されるべく、一端側で伸長され寸法設定され、また、運搬デバイス52上で支持されている。スレッド付きの円錐状凹部38が、溶融金属を受けるために、溶融金属の流れ方向に平行して、ブロック36内に形成されている。そのスタータブロックは、更に、Oリング40を受けるための周方向溝48を有している。Oリング40は、鋳型16に対してブロック36を確実にシールするために、鋳型16の口に係合するのに適している。
【0025】
好ましくは、スタータブロック36は、鋳型16に隣接し、Oリング40から離れるように冷却剤を逸らせるのに適した環状の窪み部42を有しており、これにより、冷却剤と溶融金属との間の接触が防止され得る。更に、スタータブロック36は、それが溶融金属12を受ける間におけるスレッド付き凹部38からのエア抜きを可能とするために、好ましくは凹部38とスタータブロック36の表面との間に形成されたエア抜き44を有している。より好ましくは、多孔性のプラグ46が、凹部38内に、溶融金属がエア抜き44を通過することが防止される間における凹部38からのエア抜きを可能とするエア抜き44への入口側で設けられている。
【0026】
溶融金属12が、鋳型16を通過し、インゴット18上のスキンを形成すべく冷却するにつれ、スタータボックス36は、鋳型16の口から係合解除し、冷却剤の衝突流に対してインゴット18を露出させ、それにより、インゴット18が冷却され、凝固させられる。スタータブロックは、再利用のため、インゴット18から取り外されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶融金属を運ぶための経路と、
(b)溶融金属を受け、金属を金属インゴット内に流し込むための鋳型と、
(c)上記インゴットを冷却するために、該インゴットの表面に作用するように位置決めされた冷却剤ソースと、
(d)上記鋳型から鋳造インゴットを運搬するための、インゴットの鋳造方向に位置合わせされる運搬デバイスと、
(e)上記鋳型内に挿入されるのに適し、また、上記運搬デバイスにより支持され、更に、溶融金属を受けるために内部に形成されたスレッド付き凹部を有する伸長されたスタータブロックと、
(f)上記鋳型に対してスタータブロックをシールするためにスタータブロックに嵌め込まれるOリングと、を有している金属インゴットの連続鋳造用装置。
【請求項2】
上記スタータブロックが、その外側面上に、上記鋳型に隣接しつつ上記Oリングから離れるように冷却剤を逸らせるのに適した環状の窪み部を有している請求項1記載の装置。
【請求項3】
上記スタータブロックが、更に、溶融金属を受ける間における上記凹部からのエア抜きを可能とするために、上記スレッド付き凹部内に形成され該スタータブロックの隣接面につながるエア抜きを有している請求項1の装置。
【請求項4】
上記凹部からのエア抜きを可能とする一方、溶融金属を凹部内に保持するために、上記エア抜きに隣接して、スレッド付きの凹部内に配置された多孔性のプラグを更に有している請求項3の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−179372(P2010−179372A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122262(P2010−122262)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【分割の表示】特願2006−543329(P2006−543329)の分割
【原出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(506110243)ノベリス・インコーポレイテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
【Fターム(参考)】