説明

水性インク、インクカートリッジ、記録ユニット、記録画像形成方法及び記録装置

【課題】 水分散色材として、親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料の溶媒に対する分散安定性、耐固着性が良好になる他に、耐フィルターつまり性を格段に向上させ、記録画像の耐水性、ブロンズ現象等を抑制し、良好な画像堅牢性及び画像品位を得ること。
【解決手段】 水分散色材として親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料と、特定のポリマーと、これらを溶解又は分散する液媒体と水からなることを特徴とする水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、インクカートリッジ、記録ユニット、記録画像形成方法及び記録装置に関し、さらに詳しくは、良好な耐固着性、保存時の分散安定性の他に、耐フィルター詰まり性を良好にし、かつ品位及び堅牢性が良好な画像を提供できる水分散性色材を少なくとも含む水性インク、ならびにかかる水性インクを用いたインクカートリッジ、記録ユニット、記録画像形成方法及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から筆記具用インク、インクジェット記録用インクを始とする多くの水性インクにおいて、インクの耐固着性(固着物を形成しない、又は形成しにくい性質)の向上や、記録物の品位及び堅牢性の向上に関して、さまざまな提案、検討が報告されている。
【0003】
旧来、水性インクは、水溶性色材を用いているため、耐固着性、経時安定等の信頼性が良好で、且つ記録された記録物の記録物品位も良好であったが、耐水性、耐光性等の堅牢性が思わしくない場合が多かった。
【0004】
これに対して、近年、記録画像の耐水性、耐光性等の堅牢性向上のために、カーボンブラック、有機顔料等の色材を水系インクに分散させて用いる試みがなされている。この分散用の色材は、一般に、色材に対して界面活性剤や樹脂を物理的に作用させて水系中に分散させて用いている。この水系中に分散された色材を記録媒体に付与すると、水系中に分散された色材の安定分散状態が壊れ、色材同士の凝集を生じ、記録物の耐水性、耐光性等の高い堅牢性を得ることができる。その一方で、記録媒体上での色材凝集は、着色部の彩度が低下する傾向にある。また、インクジェットヘッドに水系中に分散された色材を含有するインクを用いた場合に、ヘッドのノズル近傍では、インク中の水、溶剤等の蒸発により、該色材の安定な分散が壊れ、色材同士の凝集が生じ、固着、目詰りが起こってしまう。
【0005】
上記課題に対して、従来の樹脂の添加による分散、界面活性剤の添加による分散等の顔料分散方法とは異なり、親水基を導入することにより顔料自身に分散力を持たせる方法は、従来の顔料分散型のインクの問題点であった保存安定性、耐固着性等の信頼性を向上させるものとして大いに注目を集めている。例えば、顔料表面に親水性有機基を有する表面改質された着色顔料についての提案が特許文献1に、顔料表面の活性水素量を規定した提案が特許文献2に、ジアゾ化反応により顔料に親水基を与える方法が特許文献3に、親水基の対イオンの選択についての提案が特許文献4に記載されている。
【0006】
一方、従来の界面活性剤や樹脂を物理的に作用させて水系中に顔料を分散させる方法では、2メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリンポリマーを顔料の分散樹脂として用いたインクが特許文献5、特許文献6で提案されている。
【0007】
この公報には、インクの乾燥性が著しく低下され、インクの固化が起こり難くなり、ノズルでのインクの目詰まりを防止、連続噴射時間の延長ができる旨が記載されている。
【0008】
また、特許文献7には、特定構造の界面活性剤で分散された顔料インク中に、2メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリンポリマーを分散補助剤として用いるインクが提案されている。
【0009】
この公報では、2メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリンポリマーを顔料分散樹脂に用いた場合に生じる、信頼性(インクの保存性、ノズル目詰まり及び印字擦れ等)と画像特性(インク乾燥性、色境界滲み、普通紙での画像濃度やフェザリング)の両立を改善するものであった。
【0010】
特許文献9では、皮膚上の化粧品の除去性の向上のために、ホスホリルコリン類似基含有重合体を用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2000−513396号公報
【特許文献2】特開平8−3498号公報
【特許文献3】米国特許第5571311号明細書
【特許文献4】特開平8−286938号公報
【特許文献5】特開2001−335724号公報
【特許文献6】特開2002−249684号公報
【特許文献7】特開2008−184567号公報
【特許文献8】特開平6−179842号公報
【特許文献9】特開平10−109029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記特許文献1〜4に記載の提案では、界面活性剤や樹脂を用いた顔料の水分散方法に対し、顔料の水分散性安定性を格段に向上させることはできるが、その一方、該顔料を含有したインクを用いて、記録媒体上に印字した場合、顔料表面上の親水性基の影響で、顔料の耐水性が低下してしまう。また、記録媒体が浸透性受容層を有していた場合、顔料が受容層内部に浸透してしまい、十分な濃度も得ることができない。一方、添加剤等を用いて、顔料を受容層表層に残存させると、顔料付与部が赤味を帯びた現象(以後 ブロンズ現象と呼ぶ)が生じてしまい、印字品位を損ねてしまう。
【0013】
上記特許文献5〜7に記載の提案では、水溶媒に対する顔料分散方法が、顔料表面に界面活性剤乃至分散樹脂を物理的吸着を作用させ分散させているため、インクをプロピレン等の各種プラスチック容器に入れて保存した場合、顔料表面に物理吸着していた界面活性剤や分散樹脂が、顔料表面から脱離し容器表面に吸着する、乃至容器材質より溶出する成分との相互作用によりミセル等を形成してしまうため、顔料を水媒体に分散させるために必要な界面活性剤乃至分散樹脂が顔料表面から減少し、顔料を凝集させる。さらに、50℃以上の高温環境下で長期間保存されたインクは、界面活性剤乃至分散樹脂が脱離した顔料同士が再凝集し安くなる。また、インク中のゴミ等の不純物除去の目的でインクをフィルタリングすると、フィルター目詰まりが生じやすくなる。例えば、インクジェット記録方法において、インクカートリッジやインクボトルを交換し、多量のインクを使用する場合、インク流路に設けられたフィルター詰まりを生じさせ、記録不良に陥る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。本発明にかかる水性インクの一態様は、水分散色材として親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料と、下記一般式(I)で表されるポリマーと、これらを溶解又は分散する液媒体と水からなることを特徴とする水性インクである。
【0015】
【化1】

【0016】
(ここで、R1、R2、及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1から6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基から選ばれる。Xは、整数を表す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水分散色材として、親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料の溶媒に対する分散安定性、耐固着性が良好になる他に、耐フィルターつまり性を格段に向上させ、本発明のインクで得られた記録画像の耐水性、ブロンズ現象等を抑制することで、良好な画像堅牢性及び画像品位を得ることができる。特に、本発明のインクを、インクジェット記録方法に用いた場合、良好な信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヘッドの縦断面図である。
【図2】ヘッドの縦横面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】ヘッドの一例の要部を模式的に示す概略斜視図である。
【図5】ヘッドの一例の一部を抽出した概念図である。
【図6】図5に示した吐出口の部分の拡大図である。
【図7】図6に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。
【図8】図5における主要部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に好ましい発明の実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本発明者は、水分散色材、すなわち水又は水を主成分とする水性媒体に分散し得る色材を用いた水性インクの分散安定性向上、耐固着性を始とする信頼性の向上、さらに記録物の品位、堅牢性を良好にするために、多種多様なメカニズムを考え、多種多様な色材やインク組成について検討及び確認を行ってきた。その結果、従来では考えられてこなかった、インクの構成成分として、親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料と、下記一般式(I)で表されるポリマーと、これらを溶解又は分散する液媒体と水からなることを特徴とする水性インクは、耐固着性が良好であるばかりか、各種容器で保存した水性インクは、分散されている水分散色材の分散安定性が良好であること、該各種容器で保存された水性インクをフィルターを通してもフィルター詰まりが生じないこと、各種得られる記録物でブロンズ現象が生じないこと、品位が良好であること、堅牢性が良好であること、という新たな事実にたどりつき、本発明に至った。
【0021】
本発明者は、カーボンブラックや有機顔料等の水分散色材を用いた水性インクの耐固着性向上について検討した。従来から用いられている方法として、界面活性剤や分散樹脂を用いた顔料分散では、水媒体中での顔料分散性を良好にするには、界面活性剤や分散樹脂を多く用いる方が好ましい結果を得た。しかし、界面活性剤や分散樹脂を多く用いた顔料分散は、水性インクの粘度を上昇させてしまい、例えばインクジェット記録方法等の小さいノズルより水性インクを吐出する場合は、インク粘度上昇の影響で、インク流路途中に設けられたフィルターの流抵抗上昇やインクリフィル性が低下して吐出不良が生じてしまっていた。一方、顔料分散に用いる界面活性剤や分散樹脂量を減らすと、顔料分散安定性が低下するばかりか、分散安定性が低下した顔料によるフィルター詰まり、ノズル詰まりが生じてしまった。
【0022】
次に、上記界面活性剤や分散樹脂を用いず、顔料表面に水溶性基を有する自己分散顔料を用いた場合、水媒体中での顔料分散安定性は良好になるが、得られた記録画像の耐水性が低下してしまった。記録物の耐水性向上のために、顔料表面の水溶性基密度を低下させると、記録画像の耐水性を向上させることはできたが、水媒体中での分散安定性が低下し、さらにフィルター詰まり、ノズル詰まりが生じてしまった。
【0023】
これに対し、特許文献5から7に記載のホスホリルコリン基を有するポリマーを分散樹脂に用いた方法、界面活性分散顔料の分散助剤としてホスホリルコリン基含有ポリマーを用いた方法を検討した。各種温度環境での保存、各種容器保存を行ったところ、粘度等の物性変化に大きな変化は確認できなかったが、インクをフィルタリングすると、初期インクに対し、フィルター性が低下していた。特に、ポリプロピレン等のプラスチック容器で保存した場合、この傾向強く、プラスチック容器材料乃至成形時に付着した油分と分散樹脂成分である、ホスホリルコリン基含有ポリマーが相互作用が生じたため、顔料に物理吸着していたホスホリルコリン基含有ポリマーが脱離してしまった影響と予想される。
【0024】
上記の一般的なアプローチに対して、本発明者は、インク中の水分散顔料状態について、及び記録物上に付与された水分散顔料状態について世の中にある多種多様なインク、記録物について再度検討し、考察を重ねた。
【0025】
その結果、以下の観点で検討を行った。
【0026】
(1):先ず、水分散色材を用いた水系インクは、インク状態では、水分散顔料表面に水分子や有機溶剤を引き付けて分散している。水分子や有機溶剤等の引き付ける量が多ければ水媒体中での分散安定性は良好になること、同様の理由で、耐固着性も良好になること、記録媒体上の印字乃至付与された上記水分散顔料は、水分子乃至水溶性有機溶媒を引き付けるため、水分散顔料が凝集し難くなり、耐水性がなくなること、一方、インク状態で、水分散顔料表面に水分子や有機溶剤をあまり引き付けない場合は、分散安定性が低く、耐固着性も低い。しかし、記録媒体上の印字乃至付与された場合、水分子乃至水溶性有機溶媒を引き付け難いため、水分散顔料が凝集し易く、耐水性が高いことに着目した。これらのことから、水等の溶媒中では、水分散顔料が如何に多く溶媒分子を引き付け、且つ記録媒体上では、水分散顔料表面から如何にして溶媒成分を除去するか又は水分散顔料を凝集させるかと言う一見相反する観点より検討した。
【0027】
(2):顔料の分散方法について考えた。顔料表面に界面活性剤や分散樹脂を物理吸着させる場合は、界面活性剤乃至分散樹脂と顔料表面との相互作用が重要であり、例えば、顔料表面とインク中の有機溶媒乃至インク容器界面又はインク容器からの溶質物との相互作用性が強ければ、界面活性剤乃至分散樹脂は、顔料表面から脱離してしまうこと、故に、インク中で水分散顔料を安定に保つためには、界面活性剤や分散樹脂を物理吸着成分と顔料表面の相互作用を強めること、記録媒体上では、顔料表面に物理吸着している界面活性剤や分散樹脂成分を如何に除去させる、例えば、物理吸着成分同士で凝集させる等の観点から検討した。
【0028】
(3):顔料表面に親水性基が化学的に存在している自己分散顔料は、親水性基が脱離することがないため、インク中の有機溶媒乃至インク容器界面又はインク容器からの溶質物による影響が少ないこと、水分散安定性は、顔料表面に存在する親水性基密度によること、耐固着性では、顔料表面に存在する親水性基が安定な化学結合をしているため、水分散安定性と耐固着性は相関すること、親水性基密度と記録媒体子上での耐水性は相反することを鑑みて検討した。
【0029】
(4):で放置され、乾燥等の影響により凝集が始まり、最終的にはインク系全体にわたって、水分散色材がネッワークを形成した様な凝集が生じ、固化してしまうこと、また、記録媒体上に付与されたインクも同様な凝集が生じていることに注目した。さらに、水分散色材が凝集しやすい状態のインク(例えば水分散色材含有量が多いインクや分散が不安定なインク等)ほど、記録媒体表面で、水分散色材が凝集することにも着目した。これらのことから、ノズル近傍では、壊れやすい凝集をつくるために小さい水分散色材の凝集塊を作るか、さらに、記録媒体上では、如何に効率的に水分散色材の凝集を作るかという一見相反する観点から検討を行った。
【0030】
以上を元に、各種メカニズムを考察し、かつ材料を検討することで本発明に至った。
【0031】
本発明者は、本発明のインクは、下記の具体的なメカニズムによって、分散安定性、耐目詰り性、耐固着性を始とする各種特性に基づく信頼性、さらに記録物の品位や発色性を格段に向上できたものと考えている。
【0032】
本発明のインクは、親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料と、下記一般式(I)で表されるポリマーと、これらを溶解又は分散する液媒体と水から構成されている。
【0033】
【化2】

【0034】
(ここで、R1、R2、及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1から6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基から選ばれる。Xは、整数を表す。)
インク中の顔料表面に親水性基が化学結合している自己分散顔料は、該自己分散顔料の親水性基が化学結合しているため、脱離することがなく、顔料の周りに溶媒分子を多く引き付けて安定に分散している。一方、インク中で共存している一般式(I)のポリマーも、親水性基としてリン酸基を有しているため、該一般式(I)のポリマー周囲にも、溶媒分子を多く引き付けて溶媒に分散乃至溶解している。
【0035】
また一般式(I)のポリマーは4級アミノ基を有しているため、該4級アミノ基と自己分散顔料の親水性基間で水素結合乃至イオン結合による弱い結合をしている。即ち、自己分散顔料と一般式(I)のポリマーは、それぞれが溶媒分子を多く引き付けながら、弱い結合関係で存在している。
【0036】
故に、本発明のインクを溶出物があるプラスチック等の容器などに入れても、一般式(I)のポリマーは、自己分散顔料近傍で安定に存在するため、溶出物とミセル等を形成したりや容器界面に吸着することができない。
【0037】
以上より、良好な顔料の分散安定性の確保やポリマー成分と容器界面や容器からの溶出物との相互作用を抑制でき、インク中の顔料分散安定性やフィルター詰まりを抑制できる。
【0038】
記録媒体上では、該記録媒体上に吐出ないし付与されたインクは、溶媒が蒸発乃至浸透で濃縮される。この状態では、自己分散顔料と一般式(I)のポリマーが絡まった状態になる。また溶媒の減少は、自己分散顔料の親水性基と該一般式(I)のポリマーの4級アミノ基が非常に近接するため、強いイオン結合が生じて耐水性を良好にする。
【0039】
さらに、一般式(I)のポリマーのリン酸基近傍に溶媒が一部存在するため、自己分散顔料と一般式(I)のポリマーが絡まった状態内部に空間ができずに、溶媒で埋められるためブロンズ現象も抑制される。
【0040】
また、使用される自己分散顔料は、表面に結合している親水性基が芳香族間を介して結合しているものが良い。自己分散顔料の中でも、顔料表面を酸化処理して親水性基を化学結合させているものは、該親水性基の自由度が低く、一般式(I)の4級アミノ基と弱い結合を安定につくれない。
【0041】
本発明においては、一般式(II)のポリマーを用いてもよい。
【0042】
【化3】

【0043】
(ここで、R1、R2、及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1から6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基から選ばれる。Rは、炭素数4から8のアルキル基を表す。X及びYは、1以上の整数を表す。)
本発明の構成成分である水分散色材は、親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料色材を用いる。界面活性剤や水可溶化基を有する分散樹脂を用いて物理的な作用により、水に分散する色材は、本発明の効果を得ることができないため使用しない。また、自己分散顔料の中で、顔料表面をオゾンや化合物で酸化処理し、親水基を化学結合させたものも本発明の効果を得ることができないため使用しない。親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合させる顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料であり、一次粒子径が15〜40nm、BET法による比表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10%の特性を有するものが好ましい。
【0044】
さらに、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の水不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の不溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、金を含むフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等の顔料が例示できる。
【0045】
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。上記のような顔料以外でも使用することができるが、特に、これらの顔料の中でも、C.I.ピグメントイエロー13、17、55、74、93、97、98、110、128、139、147、150、151、154、155、180、185、C.I.ピグメントレッド122、202、209、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4がさらに好ましい。
【0046】
上記した顔料の好ましい体積平均粒径は150nm以下である。また、得られる画象の画像濃度の向上と、結晶を核として水分散色材の集合体が形成される際の集合できない水分散色材の量を好適なものとするために、インク中での上記した水分散色材の含有量は、この範囲に限定されるものではないが、0.1〜10質量%未満の範囲が好ましく、より好ましくは0.2〜8質量%未満、さらに好ましくは、0.3〜2質量%未満である。また、水分散色材は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明のインクに含有させる一般式(I)のポリマーは、格段に高い画像の耐水性を求める場合、一般式(II)のポリマーであるのが好適である。Rの疎水性部が記録画像部で、撥水効果を発現するためである。これらのインク中における含有量は記録媒体に種類に応じて選択することができるが、インク全質量に対して、0.01〜10質量%、さらに、0.1〜5質量%とするのが好ましい。少な過ぎると、本発明の効果が発現できず、多すぎると、インクジェット記録に用いた場合、吐出性に影響を与える。
【0048】
また、好ましい分子量は、1000から1000000の範囲であり、さらに好ましくは、2000から100000の範囲である。分子量が小さすぎると、本発明の効果が出にくく、多いと、インク粘度が高くなりすぎ、インクの流動性が低くなってしまう。
【0049】
前記一般式のポリマーの合成は、例えば、特開平11−5817号公報や特許文献4から7に記載されている。
【0050】
また、市販品を入手する場合は、「LIPIDURE(リピジュア\LIPIDURE登録商標)シリーズ」(日油株式会社)などがある。
【0051】
本発明のインクに水可溶性色材を併用させる場合は、色材構造中に、遊離酸の状態でスルホン酸基、カルボン酸基、燐酸基、水酸基、アミノ基等の水溶性基を有し、且つ界面活性剤や樹脂等の第二成分の作用なしに水中で安定に存在できるものを指す。例えば、直接性染料、酸性染料、塩基性染料、バット染料等が上げられ、具体的には、例えば、ダイレクトブラック168、ダイレクトブラック154、ダイレクトイエロー142、ダイレクトイエロー86、ダイレクトレッド227、ダイレクトブルー199、ダイレクトイエロー142、ダイレクトブラック195、フードブラック1、2が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水可溶性色材も単独で、又は必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
上記の水可溶性色材の使用量については特に制限されないが、一般的にはインクの全質量に対して0.1〜15質量%の範囲が好適で、より好適には0.1〜10質量%である。
【0053】
本発明に使用される液媒体としては、水と水溶性有機溶剤との混合物が好ましい。この水溶性有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルフォキサイド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等の環状アミド化合物及びスクシンイミド等のイミド化合物等が挙げられ、これらは、単独で、又は必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
上記した水溶性有機溶剤の含有量は、一般には、インクの全質量に対して、1%〜40質量%が好ましく、より好ましくは3%〜30質量%の範囲である。
【0055】
また、インク中の水の含有量は、好ましくは、30〜95質量%の範囲から選択する。30質量%より少ないと水溶性の成分の溶解性が確保できない場合があり、またインクの粘度も高くなる。一方、水が95質量%より多いと蒸発成分が多過ぎて、十分な固着特性を満足することができない場合がある。
【0056】
本発明のインクの構成成分として界面活性剤を用いても良い。好ましい界面活性剤は、非極性のノニオン界面活性剤である。ノニオン系界面活性剤は、水溶液状態で、該水溶液からそれ自身が相分離しないものであることが好ましい。水溶液から相分離する状態のノニオン系界面活性剤を使用した場合には、インク化したときにインクが不安定になるので好ましくない。このことは、見かけ上は、水に溶けた状態や均一状に分散しているものを使用することが好ましいことを示しており、特に、水溶液に対してエマルジョン状態になるノニオン系界面活性剤を選択するとよいことがわかった。さらに、ノニオン系界面活性剤のインク中の含有量を、水溶液の状態でエマルジョン状態を保持できる添加量以下に選択すると、インクの安定性の低下に対する不安がなくなるので好ましい。
【0057】
ノニオン系界面活性剤の中でも本発明に好適なものとしては、そのHLBが13以下のものである。一般的に、HLBが13よりも大きくなると、水溶性特性が強くなり、溶剤に近い特性を示しやすくなり結晶析出に影響を与え、本発明のメカニズムが発現されにくくなる。
【0058】
本発明のインクにおけるノニオン系界面活性剤のインク中における含有量は、具体的には、インク全質量に対して1質量%以上、さらには、1〜20質量%とすることが好ましい。1質量%より少ないと、画像形成において、所望とするインクの浸透性や広がり性が得られない場合があり、また、20質量%より多いと、所望とする印字品位のバランス、例えば、画像濃度、画像の定着性、ヒゲ状の滲みであるフェザリングの発生の防止などの各性能の良好なバランスがとれなくなる場合がある。
【0059】
以上に挙げた要件を具備するノニオン系界面活性剤の中でも、本発明のインクの構成成分とするの特に好ましいものとしては、下記の一般式(III)で示される化合物及び下記(IV)〜(IX)に列挙した化合物が挙げられる。
【0060】
【化4】

【0061】
[上記一般式(III)において、A及びBは夫々独立に、CnH2n−1(nは1〜10の整数)を表し、X及びYは、それぞれ開環したエチレンオキサイドユニット及び/又は開環したプロピレンオキサイドユニットを表す。]
【0062】
【化5】

【0063】
【化6】

【0064】
【化7】

【0065】
【化8】

【0066】
【化9】

【0067】
【化10】

【0068】
また、上記一般式(III)で表されるノニオン系界面活性剤の中でも特に好ましいのは、下記の一般式(X)で示される化合物である。
【0069】
【化11】

【0070】
インクの安定性の面から、本発明のインクは、さらに、インク中に一価アルコールが併用されているものであることが好ましい。一価アルコールは、目詰り等に影響を与えるカビ等の菌などの増殖、発生を防止する。さらに、一価アルコールは、記録媒体上にインクを付与した場合に、蒸発や、記録媒体中への浸透に対してある。一価アルコールの本発明のインク中への含有量としては、インク全質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは、0.5〜10質量%である。本発明のインク成分として使用することのできる一価アルコールの具体例としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール及びn−ブタノール等が挙げられ、これらは単独で、又は必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
本発明のインクは、必要に応じて、さらに、水溶性有機溶剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー及びpH調整剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0072】
本発明のインクは、表面張力が40dyn/cm以下であることが好ましい。先に説明したメカニズムの発現のためには、例えば、液滴が記録後に広がりを有する方が効果を出すのは好ましいからである。また、本発明のインクのpHは、インクの安定性の面から6.5以上であることが好ましい。
【0073】
さらに、本発明のインクは、色材の対イオンとして、複数のアルカリ金属イオンを併用することが好ましい。インクジェット記録に用いた場合、両者が併用されていると、インクの安定性及びインクの吐出性が良好になる。アルカリ金属イオンとしては、Li+、Na+、K+等を挙げることができる。
【0074】
以上のようにして構成される本発明の水性インクは、通常の文具用のインクとしても用いることができるが、インクジェット記録で用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させて液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するインクジェット記録方法があるが、特に、熱エネルギーによるインクの発泡現象によりインクを吐出させるタイプのインクジェット記録方法に適用する場合に好適であり、吐出が極めて安定となり、サテライトドットの発生等が生じないという特徴がある。但し、この場合には、熱的な物性値(例えば、比熱、熱膨張係数、熱伝導率等)を調整する場合もある。
【0075】
さらに、本発明のインクは普通紙等に記録した場合の印字記録物のインクの耐水性の問題を解決すると同時に、インクジェット用ヘッドに対するマッチングを良好にする面から、インク自体の物性として25℃における表面張力が30〜40dyne/cm、粘度が15cP以下、好ましくは10cP以下、より好ましくは5cP以下に調整されることが好ましい。したがって、上記物性にインクを調整し、普通紙における問題を解決するためには、本発明のインク中に含有される水分量としては50質量%以上98質量%以下、好ましくは60質量%以上95質量%以下とするのが好適である。
【0076】
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な方法及び装置としては、記録ヘッドの室内のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーにより液滴を発生させる方法及び装置が挙げられる。
【0077】
先ず、その装置の主要部であるヘッド構成例を、図1、図2及び図3に示す。図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は、図1のA−B線での断面図である。ヘッド13は、インクを通す溝14を有する、ガラス、セラミック又はプラスチック板等と、発熱ヘッド15(図では薄膜ヘッドが示されているが、これに限定されるものではない。)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は、酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17−1及び17−2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、及びアルミナ等の放熱性のよい基板20より成っている。
【0078】
インク21は、吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、インク21の圧力によりメニスカス23を形成している。今、アルミニウム電極17−1及び17−2に電気信号情報が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が吐出し、インク小滴24となり、吐出オリフィス22より記録媒体25に向かって飛翔する。
【0079】
図3には、図1に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドは、マルチ溝26を有するガラス板27と、図1で説明したものと同様の発熱ヘッド28を密着して作製されたものである。
【0080】
また、本発明に用いられるインクジェット記録装置に搭載され得る上述のヘッドの具体例を以下にさらに詳しく説明する。
【0081】
図4は、本発明のインクジェット記録装置に好適なヘッドの要部を模式的に示す概略斜視図であり、図5〜図7は図4に示したヘッドの吐出口形状を示す正面図である。尚、これらの図において電気熱変換素子を駆動するための電気的な配線等は省略している。
【0082】
本例のヘッドにおいては、例えば図4に示されるような、ガラス、セラミックス、プラスチック又は金属等からなる基板934が用いられる。このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギー発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として、機能し得るものであれば特に限定されるものではない。そこで、本例では、Si基板(ウエハ)を用いた場合で説明する。このような基板934上にインク吐出口を形成するが、その方法としては、レーザー光による形成方法の他、例えば後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(登録商標。Mirror Projection Aliner)等の露光装置により吐出口を形成する方法も挙げられる。
【0083】
図4において934は電気熱変換素子(以下、ヒータと記述する場合がある)931および共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933を備える基板であり、インク供給口933の長手方向の両側には、熱エネルギー発生手段であるヒータ931がそれぞれ1列ずつ千鳥状に、電気熱変換素子の間隔が、例えば、300dpiで配列されている。また、この基板934上には、インク流路を形成するためのインク流路壁936が設けられている。このインク流路壁936には、さらに吐出口832を備える吐出口プレート935が設けられている。
【0084】
ここで、図4においてはインク流路壁936と吐出口プレート935とは、別部材として示されているが、このインク流路壁936を例えばスピンコート等の手法によって基板934上に形成することによりインク流路壁936と吐出口プレート935とを同一部材として同時に形成することも可能である。ここでは、さらに、吐出口面(上面)935a側は撥水処理が施されている。
【0085】
また、ヘッドの実例寸法の一例としては、例えば、図5に示すように、隣するノズルを流体的に隔離する隔壁936aは、幅w=14μmである。図8に示すように、インク流路壁936により形成される発泡室1337は、N1(発泡室の幅寸法)=33μm、N2(発泡室の長さ寸法)=35μmである。ヒータ931のサイズは30μm×30μmでヒータ抵抗値は53Ωであり、駆動電圧は10.3Vである。また、インク流路壁936及び隔壁936aの高さは12μmで、吐出口プレート厚は11μmのものが使用できる。
【0086】
図4に示したように、吐出口832を含む吐出口プレートに設けられた吐出口部940の断面のうち、インクの吐出方向(オリフィスプレート935の厚み方向)に交差する方向で切断してみた断面の形状は、図6に示したように、概略星形となっており、鈍角の角を有する6つの起部832aと、これら起部832aの間に交互に配され、且つ、鋭角の角を有する6つの伏部832bとから概略構成されている。即ち、吐出口の中心Oから局所的に離れた領域としての伏部832bをその頂部、この領域に隣接する吐出口の中心Oから局所的に近い領域としての起部832aをその基部として、図4に示すオリフィスプレートの厚み方向(液体の吐出方向)に6つの溝が形成されている。
【0087】
図示した例のヘッドにおいては、吐出口部940は、例えばその厚み方向に交差する方向で切断した断面が一辺27μmの二つの正三角形を60度回転させた状態で組み合わせた形状となっており、図6に示すT1は8μmである。起部832aの角度はすべて120度であり、伏部832bの角度はすべて60度である。
【0088】
したがって、吐出口の中心Oと、互いに隣接する溝の中心部(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の中心(重心))を結んで形成される多角形の重心Gとが一致するようになっている。(図6参照)本例の吐出口832の開口面積は400μm2であり、溝部の開口面積(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の面積)は1つあたり約33μm2となっている。
【0089】
図7は図6に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。
【0090】
また、本発明のインクジェット記録装置の構成に設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは、本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧又は吸引手段、電気熱変換体又はこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを行うことも安定した記録を行うために有効である。
【0091】
(実施例)
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。尚、文中、部及び%とあるものは、特に断りない限り質量基準である。
【0092】
以下に示す各成分を混合し、十分に撹拌して溶解及び/又は分散させた後、ポアサイズ0.1μmのフロロポアフィルター(商品名:住友電工製)にて加圧濾過し、実施例及び比較例のインクを夫々調製した。純水が「残り」とあるのは、成分の合計が100%となるようにした純水量である。
【実施例1】
【0093】
(実施例1のインク)
・親水性官能基としてスルホン基がフェニル基(芳香族化合物)を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料、対イオンはNa):3%
・グリセリン:10%
・1,5−ペンタンジオール:5%
・アセチレングリコール(一般式(III)の界面活性剤、川研ファインケミカル製):0.6%
・LIPIDURE HM(一般式(I)のポリマー、40質量%水溶液):12%
・純水:残り
【実施例2】
【0094】
(実施例2のインク)
・親水性官能基としてカルボキシル基がフェニル基(芳香族化合物)を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料、対イオンはNa):3%
・グリセリン:10%
・1,5 ペンタンジオール:5%
・アセチレングリコール(一般式(III)の界面活性剤):0.6%
・LIPIDURE HM(一般式(I)のポリマー、40質量%水溶液):12%)
・純水:残り
【実施例3】
【0095】
(実施例3のインク)
・親水性官能基としてスルホン基がフェニル基(芳香族化合物)を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料、対イオンはNa):3%
・グリセリン:10%
・1,5−ペンタンジオール:5%
・アセチレングリコール(一般式(III)の界面活性剤、川研ファインケミカル製):0.6%
・LIPIDURE HM500(一般式(I)のポリマー、5質量%水溶液):50%
・ 純水:残り
【実施例4】
【0096】
(実施例4のインク)
・親水性官能基としてカルボキシル基がフェニル基(芳香族化合物)を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料、対イオンはNa):3%
・グリセリン:10%
・1,5−ペンタンジオール:5%
・アセチレングリコール(一般式(III)の界面活性剤):0.6%
・LIPIDURE HM500(一般式(I)のポリマー、5質量%水溶液):50%)
・純水:残り
【実施例5】
【0097】
(実施例5のインク)
・SENSIENTJet(SENSIENT登録商標) SDP2000(親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料)(商品名 Sensient製):3%(純分)
・グリセリン:10%
・1,5ペンタンジオール:5%
・LIPIDURE HM500(一般式(I)のポリマー、5質量%水溶液):50%)
・純水:残り
(製造例1)
まず、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸及びエトキシエチレングリコールメタクリレートを原料として、定法により、酸価350、数平均分子量5000のABC型ブロックポリマーを作り、さらに、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50%ポリマー水溶液を作成した。この50%ポリマー溶液を60g、カーボンブラックを100gおよびイオン交換水を340g混合し、そして機械的に0.5時間撹拌した。ついで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約10,000psi(約70Mpa)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理し、分散液を得た。この分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を除去して分散液4とした。得られた分散液4は、その顔料濃度が10%、分散剤濃度3.5%であった。
【0098】
(比較例1のインク)
実施例1の自己分散顔料を、上記製造例1で造られた樹脂分散顔料に変更した。顔料分散体を50質量%添加し、その分純水量を減らした。
【0099】
(比較例2のインク)
実施例1の自己分散顔料を、CW1(商品名 オリエント化学製、表面酸化による自己分散顔料)に変更した。顔料純分は、3質量%である。
【0100】
(比較例3のインク)
実施例1からLIPIDURE HM(一般式(I)のポリマー、40質量%水溶液)を除いたものを比較例3とした。
【0101】
(比較例4のインク)
比較例1からLIPIDURE HM(一般式(I)のポリマー、40質量%水溶液)を除いたものを比較例4とした。
【0102】
<評価>
(蒸発インク観察評価)
実施例及び比較例の各インクを、ガラスシャーレに15g入れ、50℃環境下に、蓋をせずに1ヶ月放置したインクを、目視で観察し、下記基準で評価した。
【0103】
○:インクは、流動性を有していた。
【0104】
△:インクは、流動性を有しているが、析出物が見られた
×:インクには、流動性がなかった。
【0105】
(安定性の評価)
実施例及び比較例の各インクを密閉されたガラス容器に入れ、60℃の環境下
に1ヶ月間放置後、インクの状況を目視で観察し、下記の基準で評価した。
【0106】
○:沈降物及びインク成分の分離は認められなかった。
【0107】
△:インク界面で分離が見られた。
【0108】
×:沈降物が多く見られた。
【0109】
(保存性の評価)
実施例及び比較例の各インクをポリプロピレン製容器に入れ密閉し、60℃の環境下に1ケ月間放置した後、フィルターを用いてろ過性を下記の基準で評価した。
【0110】
○:保存前後で、粘度及びろ過性に違いがない。
【0111】
△:保存前後で、粘度に大きな違いはないが、ろ過性が低くなった。フィルター面上に沈降物又は浮遊物が僅かに見られた。
【0112】
×:保存前後で、ろ過性が低くなった。フィルター面上に沈降物又は浮遊物が見られた。
【0113】
××:沈降物が多量に見られ、ほとんどろ過できなかった。
【0114】
次に、実施例及び比較例の各インクを、市販のオンデマンド式インクジェット記録装置BJF600(商品名:キヤノン製)を用いて、その評価を、下記の方法及び基準で夫々行い、表2にその結果を示した。
【0115】
(吐出性の評価)
インクをBJF600用のインクカートリッジに所定量入れ、60℃環境下に1ヶ月保存した。保存したインクカートリッジを10個用いて英数文字を市販の上質紙にインクを使い切るまで記録して、記録後、記録の初めと最後の記録物を比較し、下記の基準で評価した。
【0116】
○:変わりがなかった。
【0117】
△:若干品位の乱れが見られる。
【0118】
×:品位の乱れが多く見られる、又は、不吐出が多く見られる。
【0119】
(画像の評価)
インクをBJF600のインクカートリッジに所定量入れ、市販の上質紙に100Dutyベタ画像を記録し、下記の基準で評価した。
◎:記録初期から初期と同様の記録がなされた。
○:ブロンズ現象はみられなかった
×:ブロンズ現象が見られた。
【0120】
(耐水性評価)
インクをBJF600用のインクカートリッジに所定量入れ、英数文字を市販の上質紙に記録した。得られた画像を1日放置後、画像表面に、市水を流し、画像の汚れ具合を下記の基準で評価した。
◎:画像はまったく汚れなかった。
○:画像汚れは見られるが、ほとんど問題ない。
×:画像汚れがひどかった。
【0121】
【表1】

【符号の説明】
【0122】
13 ヘッド
14 インク溝
15 発熱ヘッド
16 保護膜
17 アルミニウム電極
18 発熱抵抗体槽
19 蓄熱層
20 基板
21 インク
22 吐出オリフィス(微細孔)
23 メニスカス
24 インク滴
25 記録媒体
26 マルチ溝
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
832 吐出口
832a 起部
832b 伏部
931 電気熱変換素子(ヒータ、インク吐出エネルギー発生素子)
933 インク供給口(開口部)
934 基板
935 オリフィスプレート(吐出口プレート)
935a 吐出口面
936 インク流路壁
936a 隔壁
940 吐出口部
1337 発泡室
1338 液流路
1141 溝
C 濡れインク
G 重心
L 液室(インク供給口)から吐出口に向かう線
1 発泡室の幅寸法
2 発泡室の長さ寸法
O 吐出口の中心
1 吐出口伏部寸法
w 隔壁の幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散色材として親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料と、下記一般式(I)で表されるポリマーと、これらを溶解又は分散する液媒体と水からなることを特徴とする水性インク。
【化1】


(ここで、R1、R2、及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1から6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基から選ばれる。Xは、整数を表す。)
【請求項2】
水分散色材として親水性官能基が芳香族化合物を介して顔料表面に共有結合している自己分散顔料と、下記一般式(II)で表されるポリマーと、これらを溶解又は分散する液媒体と水からなることを特徴とする請求項1に記載の水性インク。
【化2】


(ここで、R1、R2、及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1から6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基から選ばれる。Rは、炭素数4から8のアルキル基を表す。X及びYは、1以上の整数を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクを収容したインク収容部と、該インクを吐出させるためのヘッド部と、を一体として備えることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のインクを収容したインク収容部と、該インクを吐出させるためのヘッド部と、を備えることを特徴とする記録ユニット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のインクにエネルギーを与えて、該インクを飛翔させて記録を行うことを特徴とする記録画像形成方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のインクを収容したインク収容部と、該インクを熱エネルギーの作用によりインク滴として吐出させるためのヘッド部と、を有する記録ユニットを備えることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−209244(P2010−209244A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58012(P2009−58012)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】