説明

水性インク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像

【課題】 充分に分散安定性が高く、且つ樹脂成分の色材からの脱離がなく、長期にわたり安定である分散性色材を提供し、水不溶性色材を使用するものでありながらインクジェット記録用インクに要求される高い性能を実現し、顔料インク特有の発色性(画像濃度)の低さを大幅に改善し、より高い印字部均一性等の効果が得られる水性インクの提供。
【解決手段】 水不溶性色材に該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子が固着している分散性色材と、少なくとも1種類の水溶性色材とを含むことを特徴とする水性インク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な分散性色材を含有してなる水性インクに関し、又、これを用いたインクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、種々の作動原理よりノズルからインクの微小液滴を飛翔させて被記録媒体(紙等)に到達させ、画像や文字等を記録する方法であるが、高速、低騒音、多色化が容易であり、記録パターンの融通性が高い、現像及び定着操作が不要等の特徴があり、様々な用途において急速に普及している。特に、近年はフルカラーの水性インクジェット記録方式技術がめざましい発達を遂げており、従来の製版方式による多色印刷や、カラー写真方式による印画と比較しても遜色のない多色画像を形成することも可能となっており、作成部数が少ない場合には、通常の多色印刷や印画よりも安価に印刷物が得られることから、フルカラー画像記録分野まで広く応用されつつある。
【0003】
そして、更なる記録の高速化、高精細化、フルカラー化等の記録特性向上の要求に伴って、水性インクジェット記録装置及び記録方法の改良が行われてきている。一般的に、インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録用インクに要求される性能としては、(1)紙上で、滲みや、かぶりのない、高解像度、高濃度で均一な画像が得られること、(2)ノズル先端でのインクの乾燥による目詰まりが発生せず、常に吐出応答性、吐出安定性が良好であること、(3)紙上においてインクの定着性がよいこと、(4)画像の堅牢性(即ち、耐候性や耐水性等)がよいこと、(5)長期保存安定性がよいこと、等が挙げられる。特に、近年における印字速度の高速化に伴って、コピー用紙等の普通紙に印字しても、インクの乾燥及び定着が速く、且つ高画質な印字が得られるインクが要求されている。
【0004】
水性インクジェット記録方式に用いられる色材としては、主に染料と顔料があり、従来から水性インクとしての扱いやすさ、発色性の高さによって水溶性染料が主として用いられてきたが、近年、より高い画像の耐候性、耐水性を実現できるインクジェット記録用の水性インクの色材として、本質的に水に不溶な色材、特に顔料を用いたインクの開発が精力的に進められている。
【0005】
その一例として、例えば、水不溶性色材の表面を化学的に修飾する手法が提案されている(特許文献1参照)。一方、顔料を樹脂で被覆するマイクロカプセル型顔料も提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。又、複数のマゼンタインクのうち、少なくとも淡マゼンタインクの色材が顔料で、その他のカラーインクの色材が染料であることを特徴とするインクセットが提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−195360号公報
【特許文献2】特開平8−183920号公報
【特許文献3】特開2003−34770公報
【特許文献4】特開2000−198958公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した技術では、下記に述べるように、前記した(1)〜(5)の要求を全てにわたって満たすことはできなかった。本発明者らの検討によれば、特許文献1に示される方法によって水不溶性色材の表面を化学的に修飾する手法においては、修飾できる官能基やその密度には限界があり、又、色材が特に有機顔料である場合において直接化学修飾を行うと、本来水に不溶となって結晶化している顔料分子が、親水基の結合によって水溶化されて顔料粒子から溶け出す、いわゆる「顔料剥離」が起こって色調が著しく変化するという問題が生じる等、十分に満足できる技術レベルではなかった。
【0008】
又、特許文献2に示される樹脂によって被覆された顔料とする手法においては、分散安定性を高くするために樹脂の酸価を高くすると、樹脂の親水性も高くなるために、経時と共に樹脂が色材からはずれやすくなり、長期保存安定性を保てなくなる場合があった。
【0009】
又、特許文献3には、「水不溶性着色剤を含有する水系着色微粒子分散物において、該着色微粒子分散物が水不溶性着色剤を分散剤の存在下で水系媒体中に分散させた後にビニルモノマーを添加して重合したものであり、該分散剤が水不溶性着色剤を分散した場合には分散安定性を示し、且つ、該分散剤のみの存在下で該ビニルモノマーを重合した場合には生じるラテックスの安定性が乏しいことを特徴とする水系着色微粒子分散物」が開示されているが、本発明者らの検討によれば、この方法では、十分な色材の分散安定性と長期保存安定性を得ることができなかった。
【0010】
又、特許文献4に示される方法では、低濃度部分は顔料インク、高濃度部分は染料インクが印字されることになり、全体的な耐光性のバランスはとれるものの、顔料インクと染料インクとで、発色性、浸透性は異なる性質をもつため、中間濃度部分の粒状感、均一性、カラーバランスに劣るインクセットとなってしまう。
【0011】
従って、本発明の目的は、これら従来技術の課題を解決し、充分に分散安定性が高く、且つ樹脂成分の色材からの脱離がなく、長期にわたり安定である分散性色材を提供し、水不溶性色材を使用するものでありながらインクジェット記録用インクに要求される高い性能を実現した水性インクを提供することにある。
【0012】
更に、本発明の別の目的は、顔料インク特有の発色性(画像濃度)の低さを大幅に改善し、速乾性を有しながら、より高い印字部均一性等の効果が得られる水性インクを提供することにある。更に、本発明の目的は、斯かる優れた水性インクを用いた水性インクジェット記録用インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、水不溶性色材を含む新規な形状の分散性色材とすることで、本質的に界面活性剤や高分子分散剤を必要とせずに高い分散安定性を保ち、且つ樹脂成分が色材から脱離することなく、長期的に保存安定性がある新規な分散性色材の開発を達成し、かかる分散性色材はインクジェット記録用途として有用であり、更に、当該分散性色材とともに水溶性色材を添加して用いることで、インクジェット記録用インクとした場合に、高い画像濃度、優れた堅牢性等に加えて、特に速乾性を有し、且つ印字部均一性を達成した印字物を与える水性インクを得た。
【0014】
特に、水溶性色材として染料を用いることで、顔料インクを用いる際に生じる発色性の低さ(画像濃度の低さ)を大幅に改善でき、又、新たに開発した分散性色材のもつ速乾性を有したうえで、且つ印字部均一性のよい記録画像が得られることがわかった。
【0015】
即ち、本発明の目的は、以下のような手段によって具体的に達成される。
1.水不溶性色材に該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子が固着している分散性色材と、少なくとも1種類の水溶性色材とを含むことを特徴とする水性インク。
2.水溶性色材が染料である上記1.に記載の水性インク。
3.前記水不溶性色材と前記水溶性色材との色材濃度比が、40/60〜95/5である前記1.又は2.に記載の水性インク。
【0016】
4.前記分散性色材の表面官能基密度が、250μmol/g以上1000μmol/g未満である前記1.〜3.のいずれかに記載の水性インク。
5.インクを構成している水性媒体中における前記分散性色材の表面ゼータ電位が、その平均値が−15mV以下−80mV以上、その分布が標準偏差にて50未満である前記1.〜4.のいずれかに記載の水性インク。
6.前記1.〜5.のいずれかに記載の水性インクを搭載していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0017】
7.前記1.〜5.のいずれかに記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
8.前記1.〜5.のいずれかに記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されてなることを特徴とするインクジェット記録画像。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水不溶性色材でありながら、高い官能基密度をもった樹脂成分で充分に分散安定化されている分散性色材と、インクの性能をより高めることのできる少なくとも1種類の水溶性色材とを含む水性インクが提供される。
【0019】
又、本発明の別の効果として、記録媒体上での速乾性に優れた水性インクが提供される。更に本発明の別の効果として、記録媒体上での発色性とベタ均一性に優れたインクが提供される。
【0020】
又、本発明によれば、上記のような優れた水性インクを用いたインクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の最良と思われる実施の形態を挙げて、本発明を具体的に説明する。本明細書及び特許請求の範囲で用いる「分散性色材」の意味するところは、本質的に界面活性剤や高分子分散剤を添加することなく、水又は水性インク媒体中に分散可能である、即ち、自己分散性を有する色材である。
【0022】
本発明の第一の特徴は、水不溶性色材と、荷電性樹脂擬似微粒子とからなる分散性色材であって、上記水不溶性色材が、上記荷電性樹脂擬似微粒子を固着している点にある。図1に、本発明を特徴づける、色材1に荷電性樹脂擬似微粒子が固着している分散性色材の模式図を示した。この特徴に関しては先行出願(特願2003−428400)に詳しく記載しているので、本願では説明を割愛する。
【0023】
本発明の第二の特徴は、水不溶性色材が、荷電性樹脂擬似微粒子を固着した状態で、単独で分散してなる分散性色材である点にある。この特徴に関しても先行出願(特願2003−428400)に詳しく記載しているので、本願では説明を割愛する。
【0024】
本発明の第三の特徴は、水不溶性色材に荷電性樹脂擬似微粒子が固着している上記した特徴を有する分散性色材に、更に、少なくとも1種類の水溶性色材を含有している点にある。先行出願(特願2003−428400)に、より詳しく記載しているが、水不溶性色材1に荷電性樹脂擬似微粒子が固着している本発明で使用する分散性色材は、色材に荷電性樹脂擬似微粒子が点在して固着しているため、これを含む水性インクを記録媒体上に印字した際、毛細管現象が働き、インク中の水溶性溶媒がすばやく乾燥、蒸発しやすく、速乾性に優れたものとなる。一方、この速乾性のために、特に、普通紙と呼ばれている記録媒体に印字した際は、紙のセルロース繊維上に不均一に色材が配置されやすく、ムラが生じやすい。
【0025】
これに対して、本発明では、インク中に水溶性色材を含有させることによって、特に、発色性を高めるために高表面張力にした水性インクを普通紙上に印字した際において生じることのあった、色材の不均一性、発色ムラが大幅に改善される。又、本発明では、水溶性色材を用いるものの、その周囲には、水不溶性色材(例えば、顔料)に固着している荷電性樹脂擬似微粒子が存在するため、水溶性色材成分を含むことによる耐水性の悪化を最小限にとどめることが可能となる。
【0026】
又、本発明の分散性色材は荷電性樹脂擬似微粒子が多数点在して固着しているという特性をもつために、各樹脂擬似微粒子それぞれが散乱光を発し、印字した際に、白色の紙面上で視覚的に色ムラ(濃度の均一感)として認識されているとも予想される。
こうした現象に対して、インク中に水溶性色材を含有させることによってその散乱光が抑えられ、色材の不均一性、発色ムラが大幅に改善されるのではないかと考えられる。
【0027】
本発明で使用する分散性色材の表面官能基密度は、250μmol/g以上1,000μmol/g未満が好ましく、290μmol/g以上900μmol/g未満が更に好ましい。この範囲より小さな表面官能基密度を有する場合、分散性色材の長期保存安定性が悪くなることがある。又、この範囲よりかなり大きな表面官能基密度を有する場合には、分散安定性が高くなりすぎて、記録媒体上で分散性が浸透し易くなり、高い印字濃度を確保することが難しくなる場合がある。一方、色材としてカーボンブラックを用いる場合においては、カーボンブラックの比重が高く分散安定性を高める必要があることと、特に、記録媒体上での黒濃度は高いものが好まれることから、この場合は、色材の表面官能基密度を、350μmol/g以上800μmol/g未満に設定することが更に好ましい。
【0028】
上記表面官能基密度は、例えば、次のようにして求める。先ず、測定対象の分散性色材を含む水分散体又はインクに大過剰量の塩酸(HCl)水溶液を加え、遠心分離装置にて20,000rpm、1時間の条件で沈降させる。沈降物を回収し、純水に再分散させた後、乾燥法にて固形分率を測定する。再分散させた沈降物を秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて攪拌した分散液を、更に遠心分離装置にて80,000rpm、2時間の条件にて沈降させる。上澄みを秤量し、0.1規定の塩酸溶液にて中和滴定より求めた中和量から、炭酸水素ナトリウムの既知量を差し引くことで、色材1gあたりのmol数として、表面官能基密度が求められる。
【0029】
次に、本発明にかかるインクの構成成分である、水不溶性色材に該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子が固着してなる分散性色材、これと併用する水溶性色材について説明する。
[水不溶性色材]
本発明で用いられる水不溶性色材1としては、公知又は新規に開発された色材のうち、水に不溶なものであればどのようなものでも用いることができる。好ましくは、分散剤とともに水中にて安定に分散できるものが望ましく、好ましくは、分散粒径が0.01〜0.5μm(10〜500nm)の範囲、特に好ましくは0.03〜0.3μm(30〜300nm)の範囲となる色材を使用する。この範囲に分散された色材を用いて得られる分散性色材は、水性インクとして用いた場合に、高い着色力と高い耐候性を有する画像を与える好ましい分散性色材となる。尚、かかる分散粒径は、動的光散乱法によって測定された粒径のキュムラント平均値とする。
【0030】
本発明において、色材に有効に用いることのできる無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。
【0031】
本発明において有効に用いることのできる有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の各種顔料が挙げられる。
【0032】
[水溶性色材2]
本発明にかかるインクの構成成分である水溶性色材は、どのようなものを用いても構わないが、好ましくは染料を用いることが望ましい。
又、水溶性色材は少なくとも1種類含まれていればよく、2種類以上含まれていても構わない。ただし水溶性色材としては、水溶性色材同士、若しくは水溶性色材と前記した分散性色材との組み合わせにより、凝集やショックをひきおこして分散が不安定になるようなものは用いないことが望ましい。
【0033】
本発明において、水溶性色材として用いられる染料としては、特に限定はないが、直接染料、酸性染料、反応性染料が好適に使用される。例えば、下記に挙げるものを用いることができるが、これらは1種類でもよいし、いずれかを混合して用いてもよい。例えば、ブラック染料として、C.I.ダイレクトブラック17、19、22、31、51、62、71、74、112、113、154、168、195、254、シアン染料として、C.I.ダイレクトブルー1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226、307、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、、80、90、100、102、104、112、117、127、138、158、161、203、204、221、244、マゼンタ染料として、C.I.ダイレクトレッド1、4、13、17、23、28、31、62、79、81、83、89、227、240、242、243、C.I.アシッドレッド1、6、8、32、35、37、51、52、80、85、87、92、94、115、254、289、イエロー染料としてC.I.ダイレクトイエロー12、24、26、44、86、98、100、132、144、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、49、61、71等が好ましく用いられる。
【0034】
尚、水不溶性色材と水溶性色材の、インク中における色材濃度の比率は、任意に変えることができるが、好ましくは色材濃度比として40/60〜95/5である。更に好ましくは、55/45〜90/10である。水不溶性色材の濃度比率が40より少ないと、水不溶性色材に固着している荷電性樹脂擬似微粒子の割合が減り、そして水溶性色材が60より多くなることになり、耐水性が顕著に悪化する。又、水不溶性色材の濃度比率が95より多いと、水不溶性色材に固着している荷電性樹脂擬似微粒子のすき間を十分埋めるだけの水溶性色材濃度に達しないため、本発明の特徴である紙面上に印字した際の、色材の不均一性や発色ムラの発生が改善された、より優れた印字物が得られなくなる恐れがあるため好ましくない。
【0035】
[荷電性樹脂擬似微粒子]
本発明で使用する分散性色材のもう一つの構成成分である荷電性樹脂擬似微粒子は、水に対し実質的に不溶であり、固着する対象である水不溶性色材よりも水中(或いはインク中)での分散単位(分散粒径)は小さく、充分に重合度の高い樹脂成分が集合してなる微小体と定義される。
【0036】
又、別の好ましい様態としては、荷電性樹脂擬似微粒子の水中での分散粒径が、例えば、動的光散乱法にて測定可能な場合においては、好ましくはその分散粒径のキュムラント平均値が10nm以上200nm以下の範囲にあることが望ましい。更に、分散性色材の長期保存安定性の観点からは、分散粒径の多分散度指数が0.2未満に抑えられることが更に好ましい。分散粒径の平均値が200nmより大きい場合又は多分散度指数が0.2より大きい場合には、色材を微細に分散安定化するという本来の目的が充分達成されない場合がある。又、分散粒径の平均値が10nmより小さい場合には、荷電性樹脂擬似微粒子としての形態を充分に維持できず、樹脂が水に溶解し易くなるために、本発明のメリットが得られない場合がある。
【0037】
又、水不溶性色材が有機顔料である場合においては、上記の範囲に加えて、前述したように荷電性樹脂擬似微粒子が顔料の分散粒径よりは小さく、且つ色材分子より大きい範囲とすることによって、構造的に極めて安定で且つ高い分散性を有する分散性色材が得られるので、特に望ましい。
【0038】
本発明における荷電性とは、水系媒体中においてそのもの自身が何らかのかたちでイオン化した官能基を保持しており、望ましくはその荷電性によって自己分散可能である状態をいう。従って、荷電性樹脂擬似微粒子であるかどうかについては、公知且つ任意の手法にて、具体的には、荷電性樹脂擬似微粒子の表面ゼータ電位を測定する方法、後述するような手法にて電位差滴定を行い、官能基密度として算出する方法、荷電性樹脂擬似微粒子の水系分散体中に電解質を添加して分散安定性の電解質濃度依存性を確かめる方法、又は、荷電性樹脂擬似微粒子の化学構造分析を公知の手法にて行い、イオン性官能基の有無を調べる方法、のいずれかの方法で確認することができる。
【0039】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、一般的に用いられるあらゆる天然又は合成高分子、或いは本発明のために新規に開発された高分子等、いかなる樹脂成分であっても制限なく使用できる。使用できる樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類等が挙げられる。特に、一般的に使用でき、荷電性樹脂擬似微粒子の機能設計を簡便に行える観点から、アクリル樹脂やスチレン/アクリル樹脂が類される、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー成分の重合体或いは共重合体が、好ましく使用できる。
【0040】
本発明で好ましく用いられるラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー(以降、ラジカル重合性モノマー或いは単にモノマーとして表記する)としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。疎水性モノマーと分類される、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ベンジル等の如き(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、等の如きスチレン系モノマー;イタコン酸ベンジル等の如きイタコン酸エステル;マレイン酸ジメチル等の如きマレイン酸エステル;フマール酸ジメチル等の如きフマール酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0041】
又、以下のような親水性モノマーとして分類されるものも好ましく用いられる。例えば、アニオン性基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマール酸等の如きカルボキシル基を有するモノマー及びこれらの塩、スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピルアクリルアミド、アクリル酸−2−スルホン酸エチル、メタクリル酸−2−スルホン酸エチル、ブチルアクリルアミドスルホン酸等の如きスルホン酸基を有するモノマーとこれらの塩、メタクリル酸−2−ホスホン酸エチル、アクリル酸−2−ホスホン酸エチル等の如きホスホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。これらの中でも特に、アクリル酸及びメタクリル酸を使用することが好ましい。
【0042】
又、ノニオン性の親水性モノマーとしては、具体的には、例えば、構造内にラジカル重合性の不飽和結合と強い親水性を示すヒドロキシル基を同時に有するモノマー類がこれに当てはまり、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル等がこれに分類される。この他、公知又は新規の各種オリゴマー、マクロモノマー等についても制限なく使用できる。
【0043】
更に、架橋性モノマーを用いることも好ましい様態である。例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられ、その他、公知又は新規の各種架橋性モノマーについても使用できる。
【0044】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成するモノマーの種類や共重合比率、作製する際に使用する重合開始剤の種類や濃度等の多くの制御因子によって、分散性色材及び荷電性樹脂擬似微粒子の種々の特性を、適宜に制御することが可能である。
【0045】
[荷電性樹脂擬似微粒子の合成及び色材への固着方法]
荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法、及び色材への固着方法の手順及び方法は、公知である荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法や、荷電性樹脂擬似微粒子と色材の複合化方法によって実施し得る。これに対して、本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明の特徴である、色材と、該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、該色材に、該荷電性樹脂擬似微粒子が固着している状態の散性色材を、簡便に得ることができるな製造方法を発明するに至った。以降、本発明で好ましく実施される、本発明で使用する分散性色材の製造方法について述べる。
【0046】
本発明者らの検討の結果、上述したような特性を有する本発明で使用する分散性色材は、下記の条件で水系析出重合法を適用することによって、極めて簡便に製造できることが明らかとなった。かかる製造方法では、先ず、分散剤にて水不溶性色材1を分散することによって該水不溶性色材の分散水溶液を調製する。次いで、この分散水溶液に水性ラジカル重合開始剤を用いて、ラジカル重合性モノマーを水系析出重合する工程によって、荷電性樹脂擬似微粒子を水不溶性色材1に固着させる。又、上記した水系析出重合過程において、荷電性樹脂擬似微粒子の特性を、これまで述べたような好ましい形態に簡便に制御することができるが、その際にも本発明を特徴づける色材と荷電性樹脂擬似微粒子との固着状態が良好に達成される。以降、上記製造方法における好ましい実施形態を更に詳しく述べる。
【0047】
(水不溶性色材の分散)
先ず、前述したような本発明に好ましく用いられる水不溶性色材を分散剤にて分散して、水分散体とする。色材を水溶液に分散させるための分散剤としては、イオン性、ノニオン性等、いずれのものも使用できるが、その後の重合工程での分散安定性を保つ観点から、高分子分散剤又は水溶性高分子を用いることが望ましい。
【0048】
後の水系析出重合の過程で、荷電性樹脂擬似微粒子の色材への固着を促進することと、重合過程での色材の分散安定性を保持することを両立する観点から、アニオン性分散剤を用いる場合には、酸価100以上250以下のものを用いることも望ましい形態である。酸価がこの範囲より小さい場合には、水系析出重合の際に、疎水性モノマーと分散剤との親和性が、色材と分散剤との親和性より高くなり、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着するより前に分散剤が色材表面から脱離して、分散状態を保てなくなる場合がある。又、酸価がこの範囲より大きい場合には、色材表面での分散剤の排除体積効果及び静電反発力が強くなり過ぎるために、色材への荷電性樹脂擬似微粒子の固着が阻害される場合がある。アニオン性分散剤を用いる場合には、色材への樹脂微粒子の固着を阻害しない観点から、アニオン性基としてカルボキシル基を有する分散剤を選択することが好ましい。
【0049】
水不溶性色材を分散剤にて分散水溶液とする過程において、色材は、好ましくは分散粒径が0.01μm以上0.5μm以下(10nm以上500nm以下)の範囲、特に好ましくは0.03μm以上0.3μm以下(30nm以上300nm以下)の範囲に分散する。この過程での分散粒径が、得られる分散性色材の分散粒径に大きく反映し、前述した着色力や画像の耐候性の観点、及び分散安定性の観点から、上記の範囲が好ましい。
【0050】
ここで、分散状態にある色材の粒径は各種測定方式で異なり、特に、有機顔料は球形粒子である場合は極めて少ないが、本発明においては、大塚電子工業社製ELS−8000にて動的光散乱法を原理として測定し、キュムラント解析することによって求められた平均粒径と多分散度指数を用いた。
【0051】
水不溶性色材を水に分散させる方法は、前記したような条件で色材が水に安定に分散できる方法のうち、前記したような分散剤を用いた方法であればいずれでもよく、従来知られているいずれの方法にも限定されない。或いは本発明のために新規に開発された分散方法であってもよい。使用する高分子分散剤の添加量としては、一般的には、例えば、水不溶性色材が顔料である場合は、顔料に対し10質量%以上130質量%以下とすることが適している。
【0052】
本発明で用いられる色材の分散方法としては、例えば、ペイントシェイカー、サンドミル、アジテーターミル、3本ロールミル等の分散機やマイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルチマイザー等の高圧ホモジナイザー、超音波分散機等、それぞれの色材に一般的に用いられる分散方法であれば、どのような手法でも制限されない。
【0053】
(ラジカル重合開始剤)
本発明で使用するラジカル重合開始剤としては、一般的な水溶性のラジカル重合開始剤であれば、どのようなものでも使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤の具体的な例としては、過硫酸塩、水溶性アゾ化合物等が挙げられる。或いは水溶性ラジカル重合開始剤と還元剤の組み合わせによるレドックス開始剤であってもよい。水溶性アゾ化合物(以後、水性アゾ系ラジカル重合開始剤とする)をラジカル重合開始剤として用いる形態は、本願の別の好ましい実施形態である。水性アゾ系ラジカル重合開始剤は、分子内に少なくとも1つのアゾ基を有する化合物で、アゾ基部分が熱(又は光)によって解裂することでラジカルを生成し、重合を開始させる。過硫酸塩を用いた場合に比べ、水性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いた場合には、開始剤の反応に伴う重合系内のpH低下が少ないため、重合系内での分散性低下による粗大粒子の発生を抑制することができる。
【0054】
特定の有機顔料、特にキナクリドン顔料を水不溶性色材として本願を実施する際に、水性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いることは、重合後の未反応モノマー残留量を少なくし、十分な転化率とする点で特に好ましい形態である。
【0055】
ここで、キナクリドン顔料とは、下記一般式(1)で示される構造を有する顔料であり、具体的には、P.V.(ピグメントバイオレット)19、P.R.(ピグメントレッド)122、P.R.192、P.R.202、P.R.206、P.R.207、P.R.209等が挙げられる。本願において好ましく用いられる例として、P.R.122の構造式は下記一般式(1)において、R2、R9=CH3、R1、R3、R4、R8、R10、R11=Hである。
【0056】

【0057】
本願において好ましく用いられる水性アゾ系ラジカル重合開始剤としては、従来の乳化重合等に汎用的に用いられるものが好ましく用いられ、その他、新規に開発された乳化重合に用いられる重合開始剤であっても用いることができる。例えば、VA−086[2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド)]、VA−057[2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)アミジノプロパン)]、V−501[4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノン酸)](全て和光純薬(株)製)等が挙げられる。水性アゾラジカル開始剤の中でも、特に、カルボン酸基とアミノ基を有する開始剤、例えば、VA−057[2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)アミジノプロパン)]を用いた場合には、上記した好ましい点に加え、生成した荷電性樹脂擬似微粒子表面に結合される開始剤残基が両性となるので、広いpH領域において分散安定性の良好な分散性色材を得ることができるため、好ましい。
【0058】
(ラジカル重合性モノマー)
本発明で使用する分散性色材の簡便な製造方法に用いられるラジカル重合性モノマーは、前記で説明した水系析出重合工程を経て、荷電性樹脂擬似微粒子を構成する成分となるので、得ようとする荷電性樹脂擬似微粒子及び分散性色材の特性によって適宜に選択すればよい。本発明の製造方法においても、従来から公知であるラジカル重合性モノマー、又は本発明のために新規に開発されたラジカル重合性モノマー、のいかなるものでも使用できる。
【0059】
(水系析出重合)
続いて、本発明を特徴づける分散性色材が得られる、荷電性樹脂擬似微粒子を合成すると同時に、色材に固着させる工程である、水系析出重合の好ましい実施形態について述べる。尚、本発明は以下に述べる実施形態によって何ら制限されるものではない。図2は、上記製造方法の工程フローを模式的に記載した工程図である。本工程によって分散性色材を得るまでの過程は、次のように考えられる。先ず、図2(a)に示したように、水溶液中に水不溶性色材1を分散剤3によって分散して分散水溶液を用意する。このとき、色材は、分散剤の吸着によって分散安定化されていて、この吸着は熱的に平衡状態にある。次に、図2(a)で用意した分散水溶液を攪拌しながら昇温し、この中に、モノマー成分4を、例えば、水性ラジカル重合開始剤5と共に添加する(図2(b)参照)。添加された水性ラジカル重合開始剤は、昇温することにより開裂してラジカルを発生し、分散水溶液中に添加されたモノマー成分のうち、微量に水相に溶解した疎水性モノマーと水相中の水溶性モノマーとの反応に寄与する。
【0060】
図3は、モノマー4が重合し、分散性色材を生成するまでの過程を記載した模式図である。前記したようなモノマー4の反応が進行すると、モノマー成分の重合反応によって生成したオリゴマー7は水に不溶となり、水相より析出して析出物8となる。このとき析出したオリゴマーは十分な分散安定性を有していないため、合一して荷電性樹脂擬似微粒子2を形成する。更に、荷電性樹脂擬似微粒子は分散水溶液中の色材の有する疎水性表面を核としてヘテロ凝集を起こし、色材1の表面と、荷電性樹脂擬似微粒子2を構成する樹脂成分が疎水性相互作用によって強く吸着する。このとき、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部では重合反応が進行しつづけており、色材1との吸着点を増やしながら、よりエネルギー的に安定する形態へ変化する。同時に、荷電性樹脂擬似微粒子2の内部は高度に物理架橋が形成されるため、色材1と最も安定に吸着する形態を固定して固着状態となる。一方、色材1は、複数の荷電性樹脂擬似微粒子2が固着していくことによって安定化され、平衡状態にあった分散剤は色材1の表面から脱離する。
【0061】
重合反応条件は、使用する重合開始剤及び分散剤、モノマーの性質によっても異なるが、例えば、反応温度は100℃以下とし、好ましくは40℃以上80℃以下の範囲である。又、反応時間は、1時間以上、好ましくは3時間以上30時間以下である。反応中の攪拌速度は、50rpm以上500rpm以下、好ましくは150rpm以上400rpm以下とするのが望ましい。
【0062】
前述した工程において、特に少なくとも1種類の疎水性モノマーと、少なくとも1種類の親水性モノマーを含むモノマー成分を重合させて荷電性樹脂擬似微粒子を得る際には、好ましくは前記モノマー成分を、水性ラジカル重合開始剤をあらかじめ含んだ水不溶性色材の分散水溶液中に滴下することが望ましい。又は、水不溶性色材の分散水溶液中に、水性ラジカル重合開始剤と、同時又は別々に、滴下して加えることも望ましい形態である。
【0063】
又、親水性モノマーとして、特に、アクリル酸、メタクリル酸等のアニオン性モノマーを重合系内に添加する際に、色材を分散している高分子分散剤の特性によっては部分的に不安定化し、凝集を引き起こす場合もある。これを防ぐために、アニオン性モノマーを予め中和し、ナトリウム塩やカリウム塩の状態で添加することも好適な実施形態である。
【0064】
上述した工程にて得た、本発明にかかる、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した水不溶性色材を用いて水性インクを調製する際には、上記の工程に加えて、更に精製処理を行うことが望ましい。特に、上記において、未反応の重合開始剤、モノマー成分、分散剤、固着に至らなかった水溶性樹脂成分及び荷電性樹脂擬似微粒子等について精製処理を行うことは、分散性色材の保存安定性を高く維持する点で重要である。使用する精製方法としては、通常一般的に用いられている精製方法から最適なものを選択して用いればよい。例えば、遠心分離法や、限外ろ過法を用いて精製することも好ましい実施形態である。
【0065】
上述した工程を経れば、多くの制御因子をコントロールすることによって、色材の表面に所望の共重合体からなる荷電性樹脂擬似微粒子を固着した分散性色材を得ることができる。特に、高い分散安定性を目的としてアニオン性モノマーを使用する場合には、本発明の工程を経た分散性色材は、上記の工程で用いるアニオン性モノマーが比較的少ない量であっても大きな表面官能基密度を得ることができ、高い分散安定性を付与することができる。この結果、長期保存安定性を損なうことなく、荷電性樹脂擬似微粒子の分散安定性を高くすることが可能となる。
【0066】
[水性インク]
本発明にかかる水性インクは、以上説明した水不溶性色材、及び1種類以上の水溶性色材を含むことを特徴とする。使用する水不溶性色材が顔料である場合には、一般的には顔料含有量がインクに対して0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.3質量%以上15質量%以下とする。又、水溶性色材は主に染料を使用するが、一般的には染料含有量がインクに対して0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.3質量%以上15質量%以下とする。更に、水性媒体として水、水溶性の有機溶媒を必要に応じて含むことも好ましい。又、記録媒体への浸透性を助けるための浸透剤、防腐剤、防黴剤等を含んでもよい。又、前記したように、水不溶性色材1と水溶性色材2の色材濃度比は、好ましくは40/60〜95/5である。更に好ましくは55/45〜90/10である。
【0067】
本発明で使用する分散性色材は、図1に示したように、色材1の表面に、荷電性樹脂擬似微粒子2を固着した状態でインク中に存在している。従って、色材は、表面に固着している荷電性樹脂擬似微粒子を介して、記録紙上で、記録媒体及び隣り合った色材と相互に接着する。従って、本発明の水性インクを用いて得られる印字物は、優れた耐擦過性を有するものとなる。
【0068】
又、本発明で使用する分散性色材を用いた水性インクにおいて、該水性インクを構成する水性媒体中における分散性色材の表面ゼータ電位が、アニオン性基を有する場合には平均値が−20mV以上−80mV以下の範囲とすることも別の好ましい実施形態である。表面ゼータ電位を上記の範囲とすることで、水性インクとしての優れた長期保存安定性を付与できる。これに対して、ゼータ電位が−15mV以上の範囲では、分散性色材の高い分散安定性が水性媒体の作用によって妨げられ、水性インクの長期保存安定性が不充分になることがある。一方、ゼータ電位が−80mVよりも小さい場合には、インクの保存安定性は優れるものの、印字物の耐水性が不充分となる場合がある。
【0069】
この明細書で使用する「ゼータ(ζ)電位」とは、ゼータポテンシャル又は界面動電位とも呼ばれ、互いに接している固体と液体とが相対運動を行ったとき、両者の界面に生じる電位差を意味する。液中に存在する固体の表面状態の解析に用いられ、固体と液体との界面に生じた電気二重層のうち、固体に近い部分には固定相(又は吸着相)があり、固体表面と反対電荷のイオン等が固着している。固体と液体とが相対運動をするとき、この固定相は固体とともに移動するので、実際に運動を支配する電位差は、固定相の面と溶液内部との間の電位差であると考えられ、この電位差がゼータ電位と呼ばれる。ゼータ電位は固定相の電荷の正負に応じて、正又は負の値をとる。水不溶性色材がインク中に分散安定化している状態においては、水不溶性色材のもつゼータ電位によって色材同士の接近が妨げられることによって分散状態が維持されるため、水不溶性色材を含むインクジェット記録用インクの分散安定性及び保存安定性においては、ゼータ電位は重要な意義をもつ物性値とされる。
【0070】
更に、ゼータ電位はその絶対値が分散安定性に大きく寄与するのみならず、その分布についても考慮されるべきである。特に、一般的にゼータ電位の異なるコロイド分散体が共存する分散系においては、ゼータ電位の符号(正負)が同符号のものであっても、その絶対値の小さい分散体表面と絶対値の大きい分散体表面間に引力が働くために凝集し易くなるヘテロ凝集現象が知られている。即ち、本発明にかかる水性インクにおける分散性色材のゼータ電位についても、その絶対値が均一であることで、分散安定性における効果が発揮される。本発明者らの検討によれば、本発明で使用する分散性色材のゼータ電位が、その平均値に対して標準偏差で50未満であれば望ましい分散安定性を得られることが明らかとなった。
【0071】
ただし、ゼータ電位は色材(その他あらゆるコロイド分散体に関しても同様である)が分散する水性媒体の誘電率、pH、塩濃度等の種々の条件によって変化する値であるので、色材の使用される媒体条件において測定された絶対値及び分布について議論されるべきである。水性インク中の分散性色材のゼータ電位は、一般的な公知慣用の方法により測定することができる。本発明においては、マイクロテック・ニチオン社製のZEECOMを使用し、水性インクとして用いる水性混合溶媒中に色材を適当な倍率に希釈し、一定の電場を印加した場合の分散粒子(即ち、本発明の場合においては分散性色材)の移動速度を画像処理法にて測定して求めた値とする。
【0072】
[記録画像]
本発明にかかるインクジェット記録画像は、前記した構成の水不溶性色材を含む分散性色材と、水溶性色材2とを含む本発明の水性インクを搭載した、後述するようなインクジェット記録装置を用いて記録媒体上に形成されてなる。この際に使用する記録媒体は、インクジェット記録可能の、どのような媒体でも制限なく用いることができる。
【0073】
[画像記録方法及び記録装置]
前記で説明した分散性色材と水溶性色材を含有する本発明の水性インクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインクタンクとしても、或いは、その充填用のインクとしても有効である。特に、本発明のインクは、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらす。
【0074】
インクジェット記録方式の代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一に対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明である米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0075】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通すると吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0076】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも、本発明は有効である。又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは、本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体、或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【実施例】
【0077】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0078】
[実施例1]
実施例1にかかる記録インク1を下記の要領で作製した。先ず、カーボンブラック10部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤5部、及び水85部からなる組成の混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて、1,500rpmで5時間分散し、顔料分散液1を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用し、ポット内の充填率は70%とした。本実施例で使用したカーボンブラックは、米国Cabot社より上市されているBlack Pearls 880(以下、BP880と略す)であり、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤には、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価190のものを使用した。かかるスチレン−アクリル酸系樹脂分散剤は、予め、水及び、上記の酸価と当量の水酸化カリウムを加えて80℃にて攪拌し、水溶液としたものを使用した。得られた顔料分散液1は、平均分散粒径105nmで安定に分散されていた。
【0079】
次に、上記で得た顔料分散液1を100部、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで攪拌しながら下記の3つの混合液を4時間かけて徐々に滴下して加え、重合を行った。該混合液、は、(1)メタクリル酸メチル4.0部とアクリル酸ブチル1.5部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.3部と水20部、(3)過硫酸カリウム0.05部と水20部からなる。更に2時間熟成することによって得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製して、沈降物である分散性色材1を得た。
【0080】
この分散性色材1を水に分散し、12,000回転、60分間の遠心分離を行って沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察したところ、該分散性色材1は、樹脂微粒子がカーボンブラックの表面に固着している状態が観察された。尚、本実施例に記載されるこれ以降の色材についても、上記と同様の手法にて、色材の形態を確認した。
【0081】
上記で得た分散性色材1をインク中に色材濃度が3%となるように、更に、10%ダイレクトブラック254溶液を10部(インク中の色材濃度1%)加え、これに、下記の成分組成を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧ろ過し、本実施例の水性インク1を調製した。尚、インクの全量が100部となるように水で調整した。
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミ
カル社製) 0.3部
・イオン交換水 残部
【0082】
[実施例2]
本実施例にかかる記録インク2を下記の要領で作製した。先ず、色材としてピグメントブルー(PB)15:3(クラリアント社製)を10部、スチレン−アクリル酸系分散剤5部、水85部からなる組成を有する混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて1,500rpm、5時間分散し、顔料分散液2を得た。サンドミルでは、0.6mm径のジルコニアビーズを使用、ポット内の充填率は70%とした。分散剤として用いたスチレン−アクリル樹脂は、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価190のものを使用した。得られた顔料分散液2は、平均分散粒径108nmにて安定に分散されていた。
【0083】
次に、上記で得た顔料分散液2を100部用いること以外は実施例1と同様の3つの混合液を4時間かけて滴下して重合を行った。更に2時間熟成した後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製し、沈降物である分散性色材2を得た。
【0084】
上記で得られた分散性色材2をインク中に色材濃度が3%となるように、更に、10%ダイレクトブルー199溶液を10部(インク中の色材濃度が1%)加え、これに下記の成分組成を混合し、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧ろ過し、本実施例の水性インク2を調製した。尚、インクの全量が100部となるように水で調整した。
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミ
カル社製) 0.5部
・イオン交換水 残部
【0085】
[実施例3]
本実施例にかかる記録インク3を下記の要領で作製した。先ず、色材としてFAST YELLOW7413(ピグメントイエロー74、山陽色素社製)を10部、スチレン−アクリル酸系分散剤5部、水85部からなる組成を有する混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて1,500rpm、5時間分散し、顔料分散液3を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用、ポット内の充填率は70%とした。分散剤として用いたスチレン−アクリル樹脂は、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価190のものを使用した。得られた顔料分散液3は平均分散粒径118nmにて安定に分散されていた。
【0086】
次に、上記で得た顔料分散液3を100部を用いる以外は実施例1と同様に、3つの混合液を4時間かけて滴下して重合を行った。更に2時間熟成した後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材3を得た。
【0087】
上記で得られた分散性色材3をインク中に色材濃度が3%となるように、更に、10%ダイレクトイエロー132溶液を10部(インク中の色材濃度1.0%)を加え、実施例2と同様の処方にて調合、ろ過を行って、本実施例の水性インク3を調製した。
【0088】
[実施例4]
本実施例にかかる記録インク4を下記の要領で作製した。先ず、色材としてピグメントレッド(PR)122(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)を10部、スチレン−アクリル酸系分散剤5部、水85部からなる組成を有する混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて1,500rpm、5時間分散し、顔料分散液5を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用、ポット内の充填率は70%とした。分散剤として用いたスチレン−アクリル樹脂は、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価190のものを使用した。得られた顔料分散液4は平均分散粒径105nmにて安定に分散されていた。
【0089】
次に、上記で得た顔料分散液4を100部用い、窒素雰囲気下、70℃に加熱した状態で、モーターで攪拌しながら下記3つの混合液を5時間かけて滴下して重合を行った。該混合液は、(1)メタクリル酸メチル4.0部とアクリル酸ブチル1.5部、(2)アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.3部と水20部、(3)VA−057(和光純薬工業社製)0.05部と水20部からなる。更に2時間熟成した後、得られた分散液を水にて10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した後、更に、12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、沈降物である分散性色材4を得た。
【0090】
上記で得られた分散性色材4をインク中に色材濃度が3.0%となるように、更に、10%アシッドレッド254溶液を10質量%(インク中の色材濃度1.0%)加え、その他は実施例2と同様の処方にて調合、ろ過を行って本実施例の水性インク4を調製した。
【0091】
[分散性色材の特性]
上記の実施例1〜4で得た各分散性色材について、それぞれ下記に説明した方法で観察、及び各種の物性を測定し、得られた結果を表1に示した。
【0092】
<樹脂微粒子の固着性>
各分散性色材を水に分散して乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察し、色材に樹脂微粒子固着している状態、及び固着している樹脂微粒子の性状を下記のように評価した。
○:樹脂微粒子が固着している様子が確認できた。
×:樹脂微粒子が固着している様子が確認できなかった。
【0093】
<分散安定性>
各分散性色材の5%水分散液を純水で10倍に希釈し、分画分子量50,000の限外ろ過フィルターを用いて元の濃度になるまで濃縮し、濃縮液を遠心分離装置にて12,000回転、2時間の条件で分離した。分離された沈降物を取り出して純水に再分散させ、目で見て均一に分散していること、及び後述する動的光散乱法にて測定した平均粒径が操作前の粒径の2倍以内であることを確認し、下記の基準で評価した。
○:条件を満たしたもの。
×:条件を満たさなかったもの。
【0094】
<平均粒子径>
各分散性色材を、大塚電子(株)製、ELS−8000を用いて動的光散乱法にて測定し、キュムラント平均値を平均粒径とした。
【0095】
<表面官能基密度>
各分散性色材の表面官能基密度を次のように求めた。色材の水分散液に大過剰量の塩酸(HCl)を加え、遠心分離装置にて20,000rpm、1時間の条件で沈降したものを純水に再分散させ、固形分率を求めて沈降物を秤量し、既知量の炭酸水素ナトリウムを加えて攪拌した分散液を、更に遠心分離装置にて80,000rpm、2時間の条件にて沈降させた。上澄みを秤量し、0.1規定の塩酸水溶液にて中和滴定より求めた中和量から、炭酸水素ナトリウムの既知量及び純水を測定したブランク値を差し引き、表面官能基密度を算出した。
【0096】
<長期保存安定性>
長期保存安定性は、ガラス製のサンプル瓶中に各分散性色材を分散水溶液の状態で入れ、密閉状態で60℃にて1ヶ月放置した後における分散状態を目視にて判断した。評価基準は以下の通りである。
A:固形分の凝集・沈降がみられない。
B:固形分の沈降がややみられるが、軽く振ると元の均一な分散状態に戻る。
C:固形分の凝集・沈降がみられ、軽く振っても均一にならない。
【0097】

【0098】
表1で示した結果より、どの分散性色材とも、水不溶性色材に樹脂微粒子が固着している様子が観察でき、又、分散安定性、保存安定性に優れた色材を得ることができた。
【0099】
[水性インクの特性、評価方法及び評価結果]
上述した方法で得た各水性インクを用いて、インクの特性の評価を以下のように行った。又、インクジェット記録装置にて記録媒体への印字を行って、得られた画像について評価した。使用したインクジェット記録装置としては、キヤノン株式会社から上市されるBJ S700を用いた。その結果を表2に示した。
【0100】
<表面ゼータ電位(ζ電位)>
実施例1記載のインク処方における水系溶媒に、各分散性色材を10万倍程度に希釈し、マイクロテック・ニチオン社製ZEECOMにて、セルの静止面におけるζ電位の値を粒子100個分測定し、その平均値を各色材のζ電位とした。更に、100個測定したそれぞれの値の標準偏差を求めた。
【0101】
<画像濃度(OD)>
実施例1で得た水性インクを用いてキヤノンPPC用紙にBkテキストを印字後、1日経過した印字物の画像濃度(OD)を測定し、下記の基準で評価した。実施例2については、上記のBkテキストの代わりにシアンのテキストを印字し、ブラックの代わりにシアンの画像濃度を測定し、評価した。実施例3については、上記のBkテキストの代わりにイエローのテキストを印字し、ブラックの代わりにイエローの画像濃度を測定し、評価した。実施例4については、上記のBkテキストの代わりにマゼンタのテキストを印字し、以下のように評価した、
A:Bkは印字物のODが1.4以上。カラーは1.1以上。
B:Bkは印刷物のODが1.1以上1.4未満。カラーは0.9以上1.1未満。
C:印刷物のODが1.1未満。カラーは0.9未満。
【0102】
<印字部の均一性>
各水性インクを用いてキヤノンPPC用紙に2cm×2cmの正方形のパッチを印字し、印字部位の均一性を目視で観察し、下記の基準で評価した。
AA:色ムラやスジが全くみられない。
A:色ムラやスジが殆どなく、気にならない。
B:色ムラやスジが少しあり、気になる。
C:色ムラやスジがひどく、見た目にもはっきりと違和感を感じる。
又、各水性インクを用いて、OHPシートに印字したものについても上記と同様の評価を行った。
【0103】
<速乾性>
印字物の速乾性は、印字部分を、印字10秒後に40g/cm2の重さをかけたシルボン紙で1回擦り、印字部分の乱れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
AA:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れがない。
A:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れが殆どなく、気にならない。
B:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れが少しある。
C:擦れにより印字が大きく乱れ、白色部に汚れがみられる。
【0104】
<耐擦過性>
印字物の耐擦過性は、印字部分を、印字1時間後に40g/cm2の重さをかけたシルボン紙で5回擦り、印字部分の乱れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れが殆どなく、気にならない。
B:擦れによる印字の乱れや白色部の汚れが少しあるが、気にならない。
C:擦れにより印字が大きく乱れ、白色部に汚れがみられる。
【0105】
<耐マーカー性>
印字物の耐マーカー性は、印字部分を蛍光黄色マーカーペン(ゼブラ・オプテクス)にて一回なぞり、印字部分の乱れを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:なぞった部分に印字の乱れが少なく、ペン先がほとんど汚れていない。
B:なぞった部分に印字の乱れが少し有り、ペン先が少し汚れる。
C:なぞった部分の印字の乱れが大きく、ペン先に色がつく。
【0106】
<長期保存安定性>
保存安定性は、ガラス製のサンプル瓶中に各インクを入れ、その状態で室温にて1ヶ月放置した後におけるインク中の分散状態を目視にて判断した。評価基準は以下の通りである。
A:固形分の凝集・沈降がみられない。
B:固形分の沈降がややみられるが、軽く振ると元の均一な分散状態に戻る。
C:固形分の凝集・沈降がみられ、軽く振っても均一にならない。
【0107】
<吐出安定性>
吐出安定性は、特定のテキストを連続で100枚印字し、初期の印字物と最後の印字物を比較して目視にて判断した。
A:スジ、ムラ等なく、印字の初期と最後で違いがない。
B:僅かなスジ、ムラ、ヨレがあるものの、最後まで問題なく印字できる。
C:大きく品位の低下がみられる、又は、途中で印字できなくなる。
【0108】

【0109】
表2に示したように、水性インク1〜4はいずれも、インクジェット用インクとして吐出安定性に優れ、該インクによって得られる印字物は、画像濃度が高く、耐擦過性や耐マーカー性に優れて堅牢であり、特に、速乾性、及び印字部の均一性に優れた性質を示すことが確認できた。
【0110】
[比較例1]
実施例1で調製した重合工程前の顔料分散液1を用い、色材が4%濃度となるように実施例1と同様の処方にて調製し、比較インク1とした。
【0111】
[比較例2〜4]
それぞれ実施例2〜4で調製した重合工程前の顔料分散液2〜4を用い、色材濃度がそれぞれ4.0%となるように実施例2〜4と同様の処方にて調製し、比較インク2〜4とした。
【0112】
[参考例1]
実施例1で調製した分散性色材1をインク中に色材濃度が4%となるように、加え、これに、下記の成分組成を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧ろ過し、本参考例の参考インク1を調製した。尚、インクの全量が100部となるように水で調整した。
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミ
カル社製) 0.3部
・イオン交換水 残部
【0113】
上記の比較例1〜4、及び参考例1で得た各色材について、実施例1〜4で行ったと同様の方法で各種観察及び物性測定を行い、得られた結果を表3に示した。更に、比較例1〜4、及び参考例1で得た各水性インクについて、実施例1〜4で行ったと同様の方法で評価し、得られた結果を表4に示した。
【0114】

【0115】
比較色材1〜4の色材を実施例1と同様に観察したところ、色材の表面には何ら固着している樹脂微粒子は観察されなかった。又、表3に示したように、いずれも、前記した水性インク1〜4と比較して分散安定性、保存安定性に劣る結果となった。
【0116】

【0117】
表4に示したように、比較インク1〜4はいずれも、実施例の水性インク1〜4と比較して、特に速乾性、画像濃度が大幅に劣る結果となった。又、参考インク1は、速乾性、吐出安定性、長期保存安定性は優れているものの、印字部均一性、画像濃度はやや劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、水不溶性を有するものでありながら、分散安定性が高く、且つ樹脂成分の色材からの脱離がなく、長期にわたり保存安定性が保たれる分散性色材を使用し、且つ、これに水溶性色材を併用したインクとすることで、インクジェット用インクとしての特性に優れ、得られる印字物は、画像濃度が高く、耐擦過性や耐マーカー性に優れて堅牢であり、特に、速乾性、及び印字部の均一性に優れた水性インクが提供される。更に、この水性インクを利用した優れたインクジェット記録装置、インクジェット記録方法、インクジェット記録画像が提供される。
【0119】
又、本発明の別の効果として、記録媒体上での発色性に優れた水性インクが提供される。更に、本発明の別の効果として記録媒体上での速乾性に優れた水性インクが提供され、又、別の効果としてインクジェット記録装置で印字した際に、印字均一性に優れた水性インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明による、荷電性樹脂擬似微粒子を固着している分散性色材の基本的構造を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法における代表的な工程の模式図である。
【図3】本発明の製造方法における荷電性樹脂擬似微粒子の生成と色材への固着過程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0121】
1:色材
2:荷電性樹脂擬似微粒子
3:分散樹脂
4:モノマー
5:重合開始剤水溶液
6:分散性色材
7:モノマーが重合して形成されたオリゴマー
8:オリゴマーが水に不溶化した析出物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性色材に該色材よりも小さい荷電性樹脂擬似微粒子が固着している分散性色材と、少なくとも1種類の水溶性色材とを含むことを特徴とする水性インク。
【請求項2】
水溶性色材が染料である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記水不溶性色材と前記水溶性色材との色材濃度比が、40/60〜95/5である請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記分散性色材の表面官能基密度が、250μmol/g以上1000μmol/g未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
インクを構成している水性媒体中における前記分散性色材の表面ゼータ電位が、その平均値が−15mV以下−80mV以上、その分布が標準偏差にて50未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性インクを搭載していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置によって画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されてなることを特徴とするインクジェット記録画像。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−8786(P2006−8786A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185950(P2004−185950)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】