説明

水性エマルジョン及び水性塗料

【課題】基材への浸透性及び耐候性に優れる水性エマルジョン及びそのような水性エマルジョンを含む水性塗料、特に、木材に塗工される木材用水性塗料を提供する。
【解決手段】(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールの存在下、(A)重合性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性エマルジョンであって、(A)重合性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含む水性エマルジョン、及び、この水性エマルジョンを含む水性塗料、特に木材に塗工される木材用水性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルジョン及び水性塗料に関し、特に、木材に塗工される木材用水性塗料及びそれに含まれる水性エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
種々のアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤の存在下、重合性不飽和単量体を乳化重合して、エマルジョンが製造されており、得られたエマルジョンは、例えば、塗料、接着剤及び紙塗工剤等の原料として利用されている。しかし、常套の界面活性剤のみを用いて乳化重合すると、エマルジョンの機械的安定性及び分散安定性等が不十分となることがある。エマルジョンの機械的安定性を高める手段の一つとして、常套の界面活性剤と一緒に水溶性高分子を、乳化分散安定剤として用いる方法がある。界面活性剤と一緒に使用される水溶性高分子として、ポリビニルアルコールが広く知られている。
【0003】
特許文献1は、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体と界面活性剤を特定の割合で含む乳化分散安定剤を開示する。このポリビニルアルコールは、メルカプト基を有するために連鎖移動剤としても作用し得るので、得られるエマルジョンの分子量を低くし得る。分子量が低いエマルジョンを一成分とする塗料は、浸透性に優れるものとなり得るが、得られる皮膜の破断強度や耐候性が低くなり得る。
【0004】
特許文献2は、アクリル酸エステル系単量体をポリビニルアルコール存在下で、モノマー乳化物の粒子径を0.5μm以下に乳化分散し、乳化重合させる、ポリビニルアルコールを保護安定剤とするアクリルエマルジョンの製造方法を開示する。平均粒子径を小さくすることで乳化重合の初期反応を起こりやくし、機械的安定性や破断強度を向上させている。特許文献2の表1には、エマルジョンの平均粒子径が0.3〜0.4μmであることが開示されている。この平均粒子径の値では、得られる塗料の浸透性は十分とは言えない。特に、平均粒子径0.3〜0.4μmのエマルジョンを含む塗料を木材に塗工した場合、木材への塗料の浸透が不十分となり、木材を内部から保護することが不十分と成り得る。更に、特許文献2では、界面活性剤を併用せず、ポリビニルアルコールのみで乳化重合しており、エマルジョンの平均粒子径を0.5μm以下にするために、高圧ホモジナイザー等の強力乳化装置を使用しなければならない。(特許文献2段落番号0010及び0014参照)
【0005】
特許文献3は、特定のビニルアルコール系重合体と界面活性剤を分散剤として、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体を乳化重合することで得られる水性エマルジョンを開示する。更に、この水性エマルジョンを用いる塗料も開示する。しかし、特許文献3の表1によると、実施例1〜11の水性エマルジョンは、特許文献2と同様、平均粒子径が0.3〜0.4μmと大きいので浸透性が十分でなく、木材用塗料を得るための水性エマルジョンとしては、不十分であった。
【0006】
木材へのエマルジョンの浸透性を高めるために、エマルジョンに含まれる樹脂分の平均粒子径を小さくすることが考えられる。しかし、エマルジョンの粒子径を小さくすると、形成される皮膜(又は塗膜)の破断強度及び耐候性が低下し得る。皮膜の耐候性に乏しい水性塗料を木材に塗工すると、木材は屋外で長期にわたる暴露で外観が劣化し得る。このように、木材用塗料には、木材への浸透性のみならず、木材の外観を高める必要があるので耐候性にも優れることが要求される。しかし、浸透性及び耐候性の両方に優れ、木材用塗料の原料としての要求を満たす水性エマルジョンは未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−179705号公報
【特許文献2】特開2000−256424号公報
【特許文献3】WO2006/095524号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みなされたもので、基材への浸透性及び耐候性に優れる水性エマルジョン及びそのような水性エマルジョンを含む水性塗料、特に、木材に塗工される木材用水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、特定のポリビニルアルコールを乳化安定剤として用いて、その存在下で、重合性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性エマルジョンは、基材への浸透性が良く、耐候性も優れることを見出した。更に、この水性エマルジョンを含む水性塗料は木材用水性塗料として優れることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、一の要旨において、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールの存在下、(A)重合性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性エマルジョンであって、
(A)重合性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含むことを特徴とする水性エマルジョンを提供する。
【0011】
本発明の好ましい態様として、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールと、更に(C)界面活性剤の存在下、(A)重合性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性エマルジョンを提供する。
本発明の更に好ましい態様として、(A)重合性不飽和単量体は、更に、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を有する単量体を含む水性エマルジョンを提供する。
【0012】
本発明では、重合性不飽和単量体は、更に、アクリル酸を含むことが好ましい。
本発明の別の態様として、平均粒子径0.25μm以下の分散質を含むことが好ましい。
本発明の別の好ましい態様として、(C)界面活性剤は、ベンゼン骨格を有することが好ましい。
【0013】
本発明は、第二の要旨として、上記の水性エマルジョンを含む水性塗料を提供する。
本発明の一の態様として、水性塗料は、木材に塗工されることが最も好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る水性エマルジョンは、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールの存在下、(A)重合性不飽和単量体を乳化重合して得られ、(A)重合性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含む水性エマルジョンなので、基材、特に木材への浸透性が良く、更に、耐候性にも優れる。
【0015】
本発明に係る水性エマルジョンは、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールが(C)界面活性剤と併用されている場合、得られるエマルジョンの分散安定性がより向上し、浸透性及び耐候性の両方がより向上する。
本発明に係る水性エマルジョンは、重合性不飽和単量体が、更に、アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を含む場合、浸透性を維持したまま、耐候性がより向上する。
【0016】
本発明に係る水性エマルジョンは、重合性不飽和単量体が、更に、アクリル酸を含む場合、乳化重合の反応性がより安定し、浸透性及び耐候性の両方がより向上する。
本発明に係る水性エマルジョンは、平均粒子径0.25μm以下の分散質を含む場合、基材への浸透性がより向上する。上記水性エマルジョンを木材へ塗工した場合、水性エマルジョンは、木材内部により浸透し、内部から木材の防腐をより保護する。
本発明に係る水性エマルジョンは、(C)界面活性剤がベンゼン骨格を有する乳化剤である場合、浸透性及び耐候性により優れる。
【0017】
本発明に係る水性塗料は、上記水性エマルジョンを含むので、基材への浸透性及び形成される被膜の耐候性に優れ、基材に塗工した場合、基材の外観を向上する。
本発明に係る水性塗料は、木材に塗工すると、木材内部に浸透し、木材の腐敗を木材内部から防止する。更に、木材表面が長期にわたり屋外で暴露される場合でも、本発明の水性塗料を木材に塗工することによって、木材表面の退色劣化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において「(A)重合性不飽和単量体」とは、エチレン性二重結合を有するラジカル重合性単量体をいう。
本明細書において「エチレン性二重結合」とは、重合反応(ラジカル重合)し得る炭素原子間二重結合をいう。そのようなエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基(CH=CH−)、(メタ)アリル基(CH=CH−CH−及びCH=C(CH)−CH−)、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CH−COO−及びCH=C(CH)−COO−)、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(CH=CH−COO−R−及びCH=C(CH)−COO−R−)及び−COO−CH=CH−COO−等を例示できる。
【0019】
本発明では、(A)重合性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸エステルを含む。尚、本明細書においては、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」ともいい、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルについては「(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリレート」ともいう。アリル基及びアクリロイルオキシ基についても同様である。
(メタ)アクリル酸エステルとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート及びドデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを例示できる。アルキル基及びシクロアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基等の分枝を有しても良く、また、例えば、水酸基、アミノ基、アミド基等の置換基を有しても良い。アルキル基及びシクロヘキシル基は、メチル基、エチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等であることが好ましい。
これら(メタ)アクリル酸エステル類は、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0020】
(A)重合性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸エステルの他にも、「アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体」を含むことが好ましい。
アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体とは、ラジカル重合反応によって得られる水性樹脂に、アルコキシシリル基を付与することができる化合物をいい、本発明に係る水性エマルジョンを得ることができるものであれば特に制限されるものではない。アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体は、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を共に有し、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合は、例えば、エステル結合、アミド結合及びアルキレン基等の他の官能基を介して結合してよい。
【0021】
ここで「アルコキシシリル基」とは、加水分解することによってケイ素に結合するヒドロキシル基(Si−OH)を与えるケイ素含有の官能基をいう。「アルコキシシリル基」として、例えば、トリメトキシシル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシシリル基、モノエトキシシリル基、及びモノメトキシシリル基等のアルコキシシルリ基を例示できる。特に、トリメトキシシリル基及びトリエトキシシリル基が好ましい。「エチレン性二重結合」については、上述の通りである。
尚、アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体は、上述の(メタ)アクリル酸エステルに含まれない。
【0022】
本発明において、(A)重合性不飽和単量体は「アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体」を含むと、分散質となる水性樹脂はアルコキシシリル基を含んでなる。本発明に係る水性エマルジョンを含む塗料から形成される塗膜を乾燥すると、アルコキシシリル基は脱水縮合反応し、塗膜中で架橋し、水性樹脂の内部又は水性樹脂同士の間に架橋構造を形成し得、塗膜の耐候性及び耐水性等の向上に寄与し得る。
【0023】
アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体として、下記式(1)で示される化合物を例示できる。
【0024】
Si(OR)(OR)(OR) (1)
[但し、式(1)において、Rはエチレン性二重結合を有する官能基であり、R、R及びRは、炭素数1〜5のアルキル基である。R、R及びRは、相互に同一でも異なってもよい。]
【0025】
のエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル基、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、2−(メタ)アクリロイルオキシブチル基、3−(メタ)アクリロイルオキシブチル基、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルを例示できる。
、R及びRの炭素数1〜5のアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、及びn−ペンチル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を例示できる。
【0026】
「アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体」として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルトリn−ブトキシシランなどのビニルトリアルコキシシランが挙げられる。具体的には、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましく、特に、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらのアルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明では、(A)重合性不飽和単量体は、更に、「(メタ)アクリル酸」を含むことが好ましい。上述したように、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。(メタ)アクリル酸として、アクリル酸を用いることが好ましい。
【0028】
本発明は、目的とする水性エマルジョンが得られる限り、(A)重合性不飽和単量体は、「その他の単量体」を含んでよい。「その他の単量体」とは、エチレン性二重結合を有するラジカル重合性単量体であって、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、並びにアルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体以外の単量体をいう。
【0029】
「その他の単量体」を以下に例示する。
スチレン及びスチレンスルホン酸等のスチレン系単量体;
イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそのエステル;及び
(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド。
【0030】
(A)重合性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルをから選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、い。
(A)重合性不飽和単量体は、更に、アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体及び/又は(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。
(A)重合性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ビニルトリアルコキシシラン及び(メタ)アクリル酸を含むことがより好ましく、メチルメタクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及びアクリル酸を含むことが特に好ましい。
【0031】
本発明における(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールとは、−SOM基(以下、「スルホン酸基」ともいう)を側鎖に有する変性ポリビニルアルコールをいう。Mは、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウムイオンである。
【0032】
スルホン酸基による変性量は、0.01〜5.0モル%であることが好ましく、より好ましくは1.0〜4.0モル%である。変性量が0.01〜5.0モル%の場合、より良好にエマルジョンの安定性を改良することができる。更に、変性量が、1.0〜4.0モル%である場合、更に、エマルジョンの安定性を向上することができる。
【0033】
(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールの製造方法として、下記の方法を例示できる。
(1)スルホン酸基を有する単量体を、ポリビニルアルコールを製造する際に共重合する方法
スルホン酸基を有する単量体として、以下のものを例示できる。
(イ)エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸及びメタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩、
(ロ)下記一般式(2)又は(3)で表されるスルホアルキルマレート
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
(式中、Rはアルキル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウムイオンを示し、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜12のアルキル基を例示できるがその限りではない。)
上記のスルホアルキルマレートとして、例えば、ナトリウムスルホプロピル−2−エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピル−2−エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレート等を例示できる。
【0037】
(ハ)下記一般式(4)〜(7)のいずれかで表されるスルホアルキル(メタ)アクリルアミド、スルホアルキル(メタ)アクリレート
【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

(式中、R、R、R、R、R、R、R10は、水素原子又はアルキル基、Rはアルキル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウムイオンを示す。アルキル基としては、前記と同じものを例示できる。)
上記のスルホアルキル(メタ)アクリルアミドとして、例えば、ナトリウムスルホメチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ−t−ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ−S−ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホ−t−ブチルメタクリルアミド等を例示できる。
【0041】
【化6】

(式中、R11は水素原子又はアルキル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウムイオンを示す。)
上記のスルホアルキル(メタ)アクリレートとして、例えば、ナトリウムスルホエチルアクリレート等を例示できる。
(ニ)下記一般式(8)で表されるエチレンオキサイドモノアリルエーテルの末端水酸基の硫酸エステル体
【0042】
【化7】

【0043】
(式中、R12は水素原子又はアルキル基、nは1〜60の整数を示す。)
アルキル基として、前記と同じものを例示できるが、なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
共重合により導入する場合、スルホン酸基を有する単量体の中でもオレフィンスルホン酸、又はその塩が好適に使用される。
【0044】
(2)スルホン酸基を有するアルコール、アルデヒド及びチオール等の官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させて重合する方法
このときは、特に連鎖移動効果の大きいチオールに由来する化合物が有効で以下の化合物が例示できる。
【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
(式中、R13〜R21はそれぞれ水素原子又はメチル基、nは2〜4の整数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウムイオンを示す。なお、nが複数のときは、nの数だけ存在する各R16、R17、R19、R20は同じものでも異なるものでもよい。)
具体的には、チオプロピオン酸ナトリウムスルホプロパン等を例示できる。
【0050】
化学式(2)〜(12)のMは、既に記載したように、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウムイオンであれば良いが、アルカリ金属であることが好ましく、特にナトリウムであることが好ましい。
【0051】
上記(1)及び(2)の製造方法以外の製造方法として、(3)PVA系樹脂を臭素、ヨウ素等で処理した後、酸性亜硫酸ソーダ水溶液で加熱する方法、(4)PVA系樹脂を濃厚な硫酸水溶液中で加熱する方法、(5)PVA系樹脂をスルホン酸基含有アルデヒド化合物でアセタール化する方法等を例示することができる。
上記(1)〜(4)の方法で得られるスルホン化変性ポリビニルアルコールとして、例えば、日本合成(株)社製のゴーセランLシリーズ(商品名)を例示することができる。
(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールを用い、その存在下で(A)重合性単量体を乳化重合することで、本発明に係る水性エマルジョンを製造することができる。
【0052】
本発明では、(C)界面活性剤を(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールと併用することが好ましい。両者を併用することによって、乳化重合の際の重合性が安定し、得られる水性エマルジョン中のエマルジョン粒子が、水性媒体中でより安定に分散することができる。
本明細書では、(C)界面活性剤とは、水性媒体と単量体混合物とのエマルジョンを形成させるために使用され、分子中に極性基と無極性基の両方を持つ物質、いわゆる乳化剤をいうが、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールを含まない。
【0053】
(C)界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を例示できる。
アニオン系界面活性剤として、例えば、
ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート;
ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;
アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート;
ナトリウムスルホシノエート;
スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;
ナトリウムラウレート、トリエタールアミンオレエート、トリエタールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;
ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;
高アルキルナフタレンスルホン酸塩;
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;
ジアルキルスルホコハク酸塩;
ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;
ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;
アルキルベンゼンスルホン酸塩;
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩;
アルキルアリルスルホコハク酸塩
等を例示できる。
【0054】
ノニオン系界面活性剤として、例えば、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル;
ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;
ソルビタン脂肪酸エステル;
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;
グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド;
ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;
エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物;
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル;
ポリオキシエチレンプロペニルフェニルエーテル;
ポリオキシエチレンプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩;
ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩;
ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル
等を例示できる。
【0055】
カチオン系界面活性剤として、例えば、モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、エチレンオキサイド付加型アルキルアンモニウム塩等を例示できる。
両性界面活性剤として、例えば、アミドプロピルベタイン、アミノ酢酸ベタイン等を例示できる。
高分子界面活性剤として、例えば、ポリビニルアルコール;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム及びポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム;及びポリ(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0056】
本発明では、(C)界面活性剤は、アニオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤であることが好ましい。これらの界面活性剤は、単独又は組み合わせて用いることができる。本発明では、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤の中で、特に、ベンゼン骨格を有するものが好ましい。ベンゼン骨格を有する界面活性剤として、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル及びポリオキシエチレンプロペニルフェニルエーテルが好ましい。
【0057】
(A)重合性不飽和単量体を乳化重合する方法として、例えば、以下の(I)〜(III)の方法を例示できる。
(I)(A)重合性不飽和単量体、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコール及び場合により(C)界面活性剤の全てを一度に、水性媒体中に仕込んで重合させる方法、
(II)(A)重合性不飽和単量体、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコール及び場合により(C)界面活性剤を、連続的又は間欠的に水性媒体中に滴下して重合させる方法、
(III)(A)重合性不飽和単量体、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコール及び場合により(C)界面活性剤に水を加えて、予め乳化液を調製し、これを連続的又は間欠的に水性媒体中に滴下して重合させる方法。
【0058】
(A)/(B)(重量比、固形分換算)は、99/1〜95/5であることが好ましく、99/1〜97/3であることが特に好ましい。
(B)/(C)(重量比、固形分換算)は、30/70〜90/10であることが好ましく、40/60〜70/30であることが特に好ましい。
【0059】
本発明において「水性媒体」とは、水道水、蒸留水又はイオン交換水等の一般的な水をいうが、水溶性又は水に分散可能な有機溶剤であって、単量体等の本発明に関する樹脂の原料と反応性の乏しい有機溶剤、例えば、アセトン及び酢酸エチル等を含んでもよく、更に水溶性又は水に分散可能な単量体、オリゴマー、プレポリマー及び/又は樹脂等を含んでもよく、また後述するように水系の樹脂又は水溶性樹脂を製造する際に通常使用される、乳化剤、重合性乳化剤、重合反応開始剤、鎖延長剤及び/又は各種添加剤等を含んでいてもよい。
【0060】
乳化重合の反応温度、反応時間、単量体の種類及び濃度、攪拌速度、並びに触媒の種類及び濃度等の重合反応の条件は、本発明の水性エマルジョンが得られる限り、特に限定されない。
【0061】
「触媒」とは、少量の添加によって(A)重合性不飽和単量体の乳化重合を起こさせることができる化合物であって、水性媒体中で使用することができるものが好ましい。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチトニトリル(AIBN)及び2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、及び2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を例示することができ、特に、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。
【0062】
分散質となる水性樹脂の特性に応じて、水性樹脂を中和してもよい。ここで「中和」は、通常中和に用いられるアルカリ性物質を加えることで行うことができる。
本明細書において「アルカリ性物質」とは、水に溶解することによって7より大きなpHを呈する物質をいい、通常アルカリ性物質の形態は気体、液体及び固体を問わないが、水に溶解性せしめた水溶性の形態のものが取り扱いやすく、また、中和反応を制御し易いので好ましい。このような「アルカリ性物質」として、例えば、アンモニア、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属等を例示できるが、アンモニア水ナトリウム水溶液及びカリウム水溶液が好ましい。
アルカリ性物質は、水性樹脂を含む水性媒体のpHが8.0以上となるように加えることが好ましく、pHが8.0〜10.0となるように加えることがより好ましく、pHが8.0〜9.5となるように加えることが特に好ましい。
【0063】
本発明に係る水性エマルジョンは、平均粒子径0.25μm以下の分散質(又は水性樹脂)を含むことが好ましい。本発明では、分散質の平均粒子径が0.1〜0.2μmであることが特に好ましい。本明細書中で平均粒子径とは、大塚電子(株)製の「PARIII」(LASER PARTICLE ANALYZER)を使用し、動的光散乱法により測定し、キュラント法により解析して求めた粒子径をいう。
【0064】
本発明に係る水性塗料は、本発明に係る水性エマルジョンを含んで成るものであれば、当業者にとって周知である顔料、充填剤、防錆剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、成膜助剤等を必要に応じて含有してよい。
【0065】
顔料とは、通常、顔料とされるものであれば特に限定されることはない。顔料は、通常、有機顔料と無機顔料に分類される。
有機顔料として、例えば、ファストエロ、ジアゾエロー、ジアゾオレンジ及びナフトールレッド等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ファナールレーキ、タンニンレーキ及びカタノール等の染色レーキ、イソインドリノエローグリーニッシュ及びイソエンドリノエローレディッシュ等のイソインドリノ系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレンスーカット及びペリレンマルーン等のペリレン系顔料等を例示できる。
無機顔料として、例えば、カーボンブラック、鉛白、鉛丹、黄鉛、銀朱、群青、酸化コバルト、二酸化チタン、チタニウムイエロー、ストロンチウムクロメート、モリブテン赤、モリブテンホワイト、鉄黒、リトボン、エメラルドグリーン、ギネー緑、コバルト青等を例示できる。
【0066】
充填剤とは、性能向上、コスト低減等の目的で添加される物質をいい、通常充填剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、クレー、アルミナ等を例示できる。
防錆剤とは、素材の腐食を抑制するために加えられる物質をいい、通常、防錆剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、鉛丹、白鉛、亜鉛化鉛、塩基性硫酸白鉛、塩基性クロム酸鉛、鉛酸カルシウム、クロム酸亜鉛、鉛酸シアナミド、亜粉末、ジクロロメート、バリウムクロメート、亜硝酸ソーダ、ジシクロヘキシルアンモニウムニトリル、シクロヘキシルアミンカーボネート、防錆油等を例示できる。
【0067】
増粘剤とは、通常、増粘剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、アルカリ増粘型の増粘剤として、変性アクリルポリマーを、会合型の増粘剤として、ウレタン変性ポリエーテル及びポリエーテル等を例示できる。アルカリ増粘型の増粘剤として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学社製のSP600(商品名))、サンノプコ(株)製のSNシックナー615(商品名)、R&H(株)製のASE60(商品名)、ヘンケルジャパン(株)製のKA10K(商品名)等を例示できる。また会合型の増粘剤として、例えば、サンノプコ(株)製のSN812(商品名)、R&H(株)製のRM8W(商品名)、ADEKA(株)製のUH752(商品名)等を例示できる。
【0068】
分散剤とは、通常、分散剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、太平化学産業(株)製のトリポリリン酸カリウム、ローム&ハース社製のプライマール850(商品名)、花王(株)製のデモールEP(商品名)、第一工業製薬(株)製のディスコートN−14(商品名)、(R&H製)のオロタン165A(商品名)、サンノプコ(株)製のSNディスパーサント5020(商品名)を例示できる。
【0069】
消泡剤とは、通常、消泡剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、疎水性シリカ、金属石鹸系、アマイド系、変性シリコーン系、シリコーンコンパウンド系、ポリエーテル系、エマルション系、粉末系などがある。例えば、疎水性シリカとして、サンノプコ(株)製のノプコSNデフォーマー777(商品名)、サンノプコ(株)製のSNデフォーマーVL(商品名)、金属石鹸系として、サンノプコ(株)製のノプコNXZ(商品名)、アマイド系消泡剤として、サンノプコ(株)製のノプコ267−A(商品名)、変性シリコーン系消泡剤として、信越化学製のシリコーンKM80(商品名)、シリコーンコンパウンド系消泡剤として、サンノプコ(株)製のSNデフォーマー121N(商品名)、ポリエーテル系消泡剤として、サンノプコ(株)製のSNデフォーマーPC(商品名)、エマルション系消泡剤として、サンノプコ(株)製のノプコKF−99(商品名)、粉末系消泡剤として、サンノプコ(株)製のSNデフォーマー14−HP(商品名)等を例示できる。
【0070】
防腐剤として、例えば、ソージャパン(株)製のACTICIDE LG(商品名)、ソージャパン(株)製のACTICIDE MBS(商品名)等を例示できる。
成膜助剤とは、通常、成膜助剤とされるものであれば特に限定されることはない。例えば、2,2,4―トリメチルペンタンジオール−1,3−モノイソブタレート(チッソ(株)社製のCS−12(商品名))、2,2,4−トリメチルペンタンジオール−1,3−ジイソブタレート(チッソ(株)社製のCS−16(商品名))、ベンジルアルコール、ブチルグリコール、2−エチルヘキシルグリコ−ル、フェニルプロピレングリコール、ジブチルジグリコール;ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレンモノグリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル等の多価アルコールモノアルキルエーテルの有機エステル類、3−エトキシプロピオン酸エステル類、酢酸3−メトキシ−3−メチル−ブチル、安息香酸エステル、アジピン酸系ポリエステル等を例示できる。
【0071】
本発明の水性塗料は、種々の基材、例えば、金属、木材、プラスチック及び無機質建材等の一般的な基材に塗工することができるが、特に木材の塗工に適する。上述したように、本発明の水性エマルジョンは、それに含まれる分散質の平均粒子径が、0.25μm以下と小さいので、本発明の水性塗料は、木材に非常によく浸透する。本発明の水性塗料は木材内部に浸透することで、木材表面に多量に塗料が残らず、木材外観が良くなり、更に、木材内部へ浸透した水性塗料が木材の腐敗を内部から防止することができる。
【0072】
尚、本発明の水性エマルジョンは、その被膜の耐候性が優れるので、本発明の水性塗料を木材に塗工すると、塗料は木材内部に浸透するにも関わらず、木材表面が屋外で暴露された場合、その木材表面が光等で劣化することを防止することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
本実施例で用いた(A)重合性単量体、(B)スルホン化変性ポリビニルアルコール、及び(C)界面活性剤を以下に示す。
【0074】
(A)重合性単量体
(A−1)メチルメタクリレート(以下、「MMA」という)(和光純薬社製、Tg=105℃)
(A−2)スチレン(以下、「St」という)(和光純薬社製、Tg=105℃)
(A−3)n−ブチルアクリレート(以下、「n−BA」という)(和光純薬社製、Tg=−56℃)
(A−4)2−エチルヘキシルアクリレート(以下、「2EHA」という)(和光純薬社製、Tg=−70℃)
(A−5)n−ブチルメタクリレート(以下、「n−BMA」という)(和光純薬社製、Tg=20℃)
(A−6)シクロヘキシルメタクリレート(以下、「CHMA」という)(和光純薬社製、Tg=66℃)
(A−7)ヒドロキシエチルアクリレート(以下、「HEA」という)(和光純薬社製、Tg=−15℃)
(A−8)ダイアセトンアクリルアミド(以下、「DAAM」という)(協和発酵ケミカル社製、Tg=87℃)
(A−9)3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング社製のSZ−6030(商品名))
(A−10)アクリル酸(以下、「AA」という)(和光純薬社製、Tg=106℃)
(A−11)メタクリル酸(以下、「MAA」という)(和光純薬社製、Tg=130℃)
(A−12)アクリルアミド(以下、「AAm」という)(和光純薬社製、Tg=153℃)
【0075】
(B)スルホン化変性ポリビニルアルコール
(B−1)スルホン酸基(−SOM)を側鎖に有する変性ポリビニルアルコール(ケン化度:86.5〜89.0モル%、4%水溶液の粘度:2.3〜2.7mPa・s(20℃)、日本合成化学社製のゴーセランL3266(商品名))
(B’−2)スルホン酸基を有さないポリビニルアルコール(ケン化度:86.5〜89.0モル%、4%水溶液の粘度:3.0〜3.7mPa・s(20℃)、日本合成化学社製のゴーセノールGL−03(商品名))
【0076】
(C)界面活性剤
(C−1)ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウムの50%水溶液(花王製のペレックスSSL(商品名))
(C−2)ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(HLB:17.5、第一工業製薬社製のノイゲンEA197(商品名))
(C−3)ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(HLB:15.6、第一工業製薬社製のノイゲンEA177(商品名))
(C−4)ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製社薬のアクアロンBC10(商品名))
【0077】
<実施例1>
水性エマルジョン
プレエマルジョン乳化物用滴下ロート、開始剤用滴下ロート、攪拌装置、温度計、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコを用意し、そのフラスコに脱イオン水59.0g、花王株式会社製のペレックスSSL(以下、「(C−1)界面活性剤」ともいう)0.25g(固形分:0.125g)、日本合成化学製のゴーセランL3266(以下、「(B−1)変性ポリビニルアルコール」ともいう)0.75gを仕込み、緩やかに窒素を吹き込みながら攪拌し、75℃に昇温した。
【0078】
次に、プレエマルジョン乳化物用滴下ロートに、脱イオン水50.7g、(C−1)界面活性剤0.25g(固形分:0.125g)、(B−1)変性ポリビニルアルコール1.25g、第一工業製薬のノイゲンEA197(以下「(C−2)界面活性剤」ともいう)1.01g、メチルメタクリレート50.6g、ノルマルブチルアクリレート47.5g、アクリル酸1.0g、ヒドロキシエチルアクリレート0.6g、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング社製のSZ−6030(商品名)、以下、「(A−9)単量体」ともいう)0.3gからなるプレエマルジョン乳化物を調製し、15.3gをフラスコに添加した。
次に、過硫酸アンモニウム(以下、「APS」ともいう)0.3g、脱イオン水13.0gからなる水溶液を調製して開始剤用滴下ロートに入れ、調製液4.0gをフラスコに添加し、重合を開始した。この時に、フラスコ内の温度を80℃まで20分かけて昇温し、ここまでを初期重合とした。
【0079】
初期重合反応終了後、反応系内の温度を80℃に維持したまま、プレエマルジョン乳化物用滴下ロート並びに、開始剤用滴下ロートに仕込んだ残りのプレエマルジョン乳化物、開始剤水溶液を180分にわたって均一滴下した。滴下後、脱イオン水20gでプレエマルジョン乳化物用滴下ロートを洗浄し、洗浄液をフラスコに添加した。その後も同温度で90分間維持し、重合を終了した。得られた反応溶液を室温まで冷却し、25%アンモニア水溶液を0.8g添加し、80メッシュの濾過布で濾過して、水性エマルジョンを得た。
【0080】
<実施例2〜6及び比較例1〜3>
表1に示すような組成で原料等を仕込み、実施例1同様にして水性エマルジョンを調製した。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
実施例及び比較例で得られた水性エマルジョンの物理的性質(固形分(不揮発分)、粘度、pH、及び平均粒子径)を、以下のように測定した。その結果を表3及び表4
に示す。
【0084】
<不揮発分>
実施例及び比較例で得られた水性エマルジョン1gを秤量し、熱風乾燥機によって130℃で一時間乾燥した後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<粘度>
BM粘度計(東京計器社製)により、回転数60rpm、30℃にて測定した。粘度測定時には粘度に応じてローターを選定した。
【0085】
<pH>
pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製のHM−25R(商品名))を用いて、30℃での値を測定した。
<平均粒子径>
動的散乱法による粒度分布測定器(大塚電子社製 PAR−III)を用い、キュラント法による解析を用い、水系エマルジョンの平均粒子径を測定した。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
<水性塗料の製造とその評価方法>
実施例及び比較例の水系エマルジョン(不揮発分:45%)100gあたり、2,2,4−トリメチルペンタンジオール−1,3−モノイソブタレート(商品名:チッソCS−12(チッソ社製)6gを添加して、十分攪拌し、23℃で16時間以上放置した。次に、脱イオン水119gを添加して攪拌し、固形分20質量%の水性塗料を調製した。水性塗料の浸透性、耐候性を以下の方法で評価し、その結果を表5に示す。
【0089】
<浸透性:塗装外観>
試験体として厚み12mm×150mm×75mmの杉材を使用して評価した。上記水性塗料を、23℃×65RH%の環境下、50g/mの塗布量となるように刷毛で塗装した。塗装から1時間乾燥後、45g/mの塗布量になるように刷毛で再塗装を行い、同条件化で7日間養生し、目視で塗装表面の外観評価を行った。評価基準を以下に示す。
◎:杉基材表面に樹脂残りは無く、基材に樹脂が含浸されている。
○:杉基材表面に樹脂残りはほとんど無く、基材に樹脂がほぼ含浸されている。
△:少し基材表面に樹脂が残り、基材への樹脂の浸透が不十分である。
×:杉基材表面に樹脂が残り、基材に樹脂が含浸されていない。
【0090】
<耐侯性試験結果>
浸透性を評価する塗装外観試験に用いたテストピースを、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機社製のサンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(商品名))を用いて300時間耐久試験を実施した。目視で塗装表面の外観評価を行った。評価基準を以下に示す。
◎:変化は見られない
○:塗板の極一部に退色劣化が見られる
△:全面的に軽度の退色劣化が見られる
×:全面的に退色劣化が見られる
××:全面的に強い退色劣化が見られる
【0091】
【表5】

【0092】
表5に示すように、実施例1〜6の水性塗料は、浸透性(塗装外観)及び耐候性が良好であった。実施例4は、(A)重合性単量体が(A−9)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ−6030)を含んでいない。実施例1及び2と比較すると、実施例4は、塗装外観が僅かながら劣っているが、木材用塗料としての要求性能は満たしている。実施例6は、(A−9)を含まず、更に他の実施例と比較すると(C)界面活性剤の添加量が少ない。他の実施例と比較すると、実施例6は、塗装外観、耐候性が少し劣ってはいるが、木材用塗料の要求性能は満たしている。
【0093】
比較例1〜3は、いずれも(B−1)スルホン化変性ポリビニルアルコールを使用していない。比較例1及び2の平均粒子径(各々0.18μm及び0.13μm)は、実施例1及び2の値(各々0.19μm及び0.19μm)より小さいにも関わらず、塗装外観(浸透性)が実施例よりも劣る。一般的には、平均粒子径が小さいほど浸透性は優れるので、比較例1及び2の塗装外観が、実施例1及び2より劣る別な理由が有るはずである。これは、比較例1及び2が、全くポリビニルアルコールを用いないで、(C)界面活性剤のみを用いて乳化重合することに起因すると考えられる。更に、比較例1及び2は、実施例と比較して、耐候性も劣る。比較例3は、(B−1)を用いず、スルホン酸基を有さないポリビニルアルコール(B’−2)を界面活性剤を使用する。表5から明らかなように、実施例と比較すると、比較例3は、塗装外観及び耐候性が著しく劣る。
【0094】
このように、乳化重合の際、スルホン化変性ポリビニルアルコールを分散安定剤とすると、水性エマルジョンは、浸透性及び耐候性に優れ、特に、木材用塗料の原料として非常に適することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、新規な水性エマルジョン及び水性塗料を提供し、特に、木材に塗工される木材用水性塗料及びそれに含まれる水性エマルジョンとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールの存在下、(A)重合性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性エマルジョンであって、
(A)重合性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含むことを特徴とする水性エマルジョン。
【請求項2】
(B)スルホン化変性ポリビニルアルコールと(C)界面活性剤の存在下、(A)重合性不飽和単量体を乳化重合して得られる請求項1に記載の水性エマルジョン。
【請求項3】
(A)重合性不飽和単量体は、更に、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を有する単量体を含む請求項1又は2に記載の水性エマルジョン。
【請求項4】
平均粒子径0.25μm以下の分散質を含む請求項1〜3のいずれかに記載の水性エマルジョン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水性エマルジョンを含む水性塗料。
【請求項6】
木材に塗工されることを特徴とする請求項5に記載の水性塗料。

【公開番号】特開2011−126998(P2011−126998A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286755(P2009−286755)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(391047558)ヘンケルジャパン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】