説明

水性ワニス組成物及び該組成物を用いる両面印刷方法

【課題】両面インラインコーター付き両面印刷機を使用して、印刷用紙表面に印刷インキの印刷と、その印刷面に水性ワニス組成物の上塗りを行い、次いで連続して、その印刷紙の裏面にも、印刷インキの印刷と、その印刷面に水性ワニス組成物の上塗りを行う両面印刷方法において、インキ皮膜や上塗り皮膜が裏面印刷ユニットの圧胴によって剥き取られる、いわゆる「圧胴とられ」の現象を防止すると共に、印刷紙を棒積みする際のブロッキングの発生を防止することのできる水性ワニス組成物を提供する。
【解決手段】(a)最低造膜温度が−5〜60℃の水性アクリル系樹脂と、(b)シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する水性ワニス組成物、及び該水性ワニス組成物を使用する両面インラインコーター付き両面印刷機による両面印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷面の上塗りに用いる水性ワニス組成物と、該組成物を用いる印刷方法に関し、更に詳細には、両面インラインコーター付き両面オフセット印刷機に好適に使用できる水性ワニス組成物と、該組成物を用いる両面インラインコーター付き両面オフセット印刷機による両面印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インラインコーター(印刷ユニットの下流側に付設されるコーティングユニット)を搭載した片面印刷機(インラインコーター付き片面印刷機)を用いて、用紙の片面に印刷インキで印刷し、次いで、その印刷面の上に水性ワニス組成物を上塗りすることにより、印刷物の美粧化、表面保護及び各種機能性の付与を目的とする表面加工を行う技術は広く実用化されている。
【0003】
このインラインコーター付き片面印刷機を用いる方法によれば、印刷用紙が印刷機の給紙部から排紙部に運ばれるまでの1工程で印刷インキの印刷と水性ワニス組成物の印刷面への上塗り被覆とを行うことができるが、用紙の両面に同様の印刷と上塗りを行う場合には、片面の印刷と上塗りが完了し排紙部に積み重ねられた印刷紙を給紙部に移動させ、用紙を裏返して再度同様の印刷と上塗りをする2工程が必要であった。
【0004】
また、インラインコーターを搭載しない両面印刷機を用いて用紙の両面に印刷する技術も既に実用化されているが、このような両面印刷機で印刷された印刷紙の両面に上塗りを行う場合には、別ラインの上塗りコーターを用いて、印刷紙の表面の上塗りを行う工程と、その後、その裏面に同様の上塗りを行う工程の2工程が必要であった。
【0005】
上記のように、上塗り工程が印刷工程と不連続になる場合は、作業の切り替え等で印刷作業性が低下する。このため、近年、両面印刷機に表面印刷ユニットの下流側に表面上塗りコーターを付設し、裏面印刷ユニットの下流側に裏面上塗りコーターを付設した、両面インラインコーター付き両面印刷機が使われ始めている。
【0006】
しかし、この両面インラインコーター付き両面印刷機で、従来の片面インラインコーター付き印刷機に使用されていた水性ワニス組成物を使用すると、下記の問題が発生する。
(a)印刷用紙の表面を表面印刷ユニットにより印刷インキで印刷し(実際の印刷機においては裏面を先刷りし、表面を後刷りするが、本発明においては、説明の便宜のため、先刷り面を表面といい、後刷り面を裏面という。)、その印刷面を表面上塗りコーターにより水性ワニス組成物で上塗りすると、上塗り塗膜中の水分が蒸発し浸透するに伴いワニス塗膜面の粘弾性が急激に強くなることにより、その印刷紙が裏面印刷ユニットに運ばれブランケット胴と圧胴の間を通過するとき、裏面印刷ユニットの圧胴にインキ皮膜や上塗り皮膜が付着し、次々に運ばれてくる印刷面によって更にインキ皮膜や上塗り皮膜が圧胴に堆積し、この堆積した皮膜によって更にインキ皮膜やワニス皮膜が圧胴に剥ぎ取られる、「圧胴とられ」といわれる問題。
(b)印刷機の排紙部に排出されてくる、表裏両面に印刷され且つ両印刷面が上塗りされた印刷紙を、インキ皮膜が酸化乾燥するまで(通常1昼夜)積み上げて保管する間に、上下の上塗り皮膜同士がブロッキングする、という問題。
【0007】
インラインコーター付き片面印刷機に使用される水性ワニス組成物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸(本明細書においては、(メタ)アクリルなる用語はアクリルとメタアクリルを総称する。)、(メタ)アクリル酸エステル類のモノマーを共重合させ、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基を塩基性化合物で中和してなる水溶性樹脂5〜50重量%と、カルボキシル基含有水溶性樹脂を水性分散剤として上記モノマー類を水中で共重合してなる水分散樹脂50〜95重量部からなる水性ワニス組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、この水性ワニス組成物を両面インラインコーター付き両面印刷機で使用するとき、前記の「圧胴とられ」とブロッキングが発生する。
【0008】
【特許文献1】特開2002−52851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、インキ皮膜や上塗り皮膜の「圧胴とられ」やブロッキングの発生を引き起こすことなく両面インラインコーター付き両面印刷機に使用できる水性ワニス組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の課題は、インキ皮膜や上塗り皮膜の「圧胴とられ」やブロッキングの発生を引き起こすことなく、両面インラインコーター付き両面印刷機を使用して、印刷用紙の表裏両面のそれぞれに印刷インキによる印刷と水性ワニス組成物による印刷面の上塗りを行うことのできる印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、(a)最低造膜温度が−5〜60℃の水性アクリル系樹脂と、(b)シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する水性ワニス組成物を提供する。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、両面インラインコーター付き両面印刷機を使用して、印刷用紙の片面への印刷インキの印刷と、該印刷面への水性ワニス組成物の上塗りと、該印刷用紙の他面への印刷インキの印刷と、該他面の印刷面への水性ワニス組成物の上塗りとを、順次連続的に行う両面印刷方法において、前記水性ワニス組成物として、(a)最低造膜温度が−5〜60℃の水性アクリル系樹脂と、(b)シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する水性ワニス組成物を使用する両面印刷方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性ワニス組成物は、両面インラインコーター付き両面印刷機を使用して、印刷用紙の印刷面に上塗りされると、極めて短時間で非粘着性の上塗り皮膜を形成すると共に、裏面の印刷時に印刷ユニットの圧胴が印圧で上塗り皮膜に押付けられても上塗り皮膜が圧胴に付着せず、インキ皮膜や上塗り皮膜の「圧胴とられ」を防止することができ、また、印刷終了後に印刷紙をインキ皮膜や上塗り皮膜が完全に乾燥するまでの間積み重ねる(棒積み)時にブロッキングの発生を防止することができる。従って、本発明の水性ワニス組成物を両面インラインコーター付き両面印刷機に使用して表裏両面の印刷面に塗布し上塗り皮膜を形成する本発明の両面印刷方法では、インキ皮膜や上塗り皮膜の「圧胴とられ」の問題の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の水性ワニス組成物は、必須成分として、(a)最低造膜温度が−5〜60℃の水性アクリル系樹脂と、(b)シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する。
【0015】
本発明で使用する水性アクリル系樹脂は、最低造膜温度が−5〜60の範囲にあるものであるが、最低造膜温度が−5〜60℃の範囲にあり且つガラス転移点が−10〜120℃の範囲にある水性アクリル系樹脂が好ましい。
【0016】
水性アクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とし、これと、カルボキシル基含有ビニルモノマーと、これらと共重合可能な他のビニルモノマーとを含むモノマー成分を共重合させて得られる共重合体を使用することができ、その共重合体は、エマルション型樹脂、自己水分散型樹脂、アルカリ可溶型樹脂及びヒドロゾル型樹脂のいずれであってもよい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルカルビトール、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール等が挙げられる。カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。共重合可能なモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0017】
本発明で使用する水性アクリル系樹脂としては、重量平均分子量100,000〜500,000のコア部と重量平均分子量5,000〜50,000のシェル部を有するコア/シェル型水性エマルションのアクリル系樹脂が、圧胴に付着しない非付着性の皮膜を急速に形成できる点から、好ましい。
【0018】
更に、本発明で使用する水性スチレン系樹脂としては、重量平均分子量100,000〜500,000のコア部と重量平均分子量5,000〜50,000のシェル部を有するコア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルションと、重量平均分子量5,000〜50,000の水溶性アクリル系樹脂との混合物が、同様の点から、より好ましい。コア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルションと水溶性アクリル系樹脂との混合割合は、固形分の質量基準で、コア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルション80〜99質量%に対し水溶性アクリル系樹脂1〜20質量%が好ましい。
【0019】
本発明の水性ワニス組成物中における水性アクリル系樹脂の含有量は、質量基準で、水性ワニス組成物の全量に対して15〜55%となる割合が好ましい。
【0020】
本発明で使用する水性アクリル系樹脂は、コア/シェル型エマルションの場合は酸価20〜150を有するものが、水性溶媒に対する樹脂の溶解性又は水性分散媒に対する樹脂の分散性の点から好ましい。また該水性アクリル系樹脂が水溶性樹脂の場合は酸価80〜240を有するものが同じ理由で好ましい。
【0021】
本発明で使用するシリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルは、水性ワニスの上塗り皮膜に離型性を付与し、また前記乾燥過程で発生する粘弾性を抑制する成分として作用する。
【0022】
シリコーンとしては、例えば、無変性シリコーンオイル;カルビノール、アルキルポリエーテル、アルキルアリールポリエーテル等で変性された変性シリコーンオイル;及びそれらの水性乳化物等を使用することができる。これらの中でもアルキルポリエーテル変性シリコーンが特に好ましい。シリコーンの含有量は、全固形分に対し、好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは1〜5%、最も好ましくは1%〜3%である。シリコーンの含有量が0.1%未満では、インキ皮膜や上塗り皮膜の「圧胴とられ」が発生し易く、また棒積み時における印刷面同士のブロッキングを防止する効果が得られ難い。一方、その含有量が5%を超えると、印刷物の滑り性が過度になり、後加工適性が悪化し、上塗り皮膜にハジキが発生する等の悪影響が顕著となる。
【0023】
脂肪酸エステルとしては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノレン酸、エチルヘキサン酸、トリエチルへキサン酸等の低級又は高級脂肪酸と、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコール、コレステリルアルコール等の低級又は高級アルコールとのエステルが挙げられる。中でも炭素原子数6以上の脂肪酸と炭素原子数4以上の低級又は高級アルコールとのエステルが好ましい。脂肪酸エステルの含有量は、全固形分に対し、0.01〜8質量%が好ましい。脂肪酸エステルの含有量が0.1質量%未満では、インキ皮膜やワニス皮膜の「圧胴とられ」が発生し易く、また棒積み時における印刷面同士のブロッキングを防止する効果が得られ難い。一方、その含有量が8%を超えると、印刷面の耐ブロッキング性、耐熱性、耐水性、後加工性等が悪化する。
【0024】
脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、エチルヘキサン酸、トリエチルへキサン酸等の高級脂肪酸のアマイドが挙げられる。
脂肪酸アマイドの含有量は、全固形分に対し、高級脂肪酸エステルと同様の点から、0.01〜8質量%が好ましい。
【0025】
リン酸エステルとしては、例えば、炭素原子数1〜30のアルキル基のリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステル、及びこれらの乳化物又はアルカリ中和物等を使用することができる。これらの中でも、炭素原子数1〜20のアルキル基のリン酸エステルが好ましく、炭素原子数4〜13のアルキル基のリン酸エステルがより好ましく、炭素原子数8〜13のアルキル基のリン酸エステルが最も好ましい。リン酸エステルの含有量は、全固形分に対する質量基準で、0.01〜8%が好ましく、0.05〜6%がより好ましく、0.5〜3%が最も好ましい。
【0026】
本発明の水性ワニス組成物は、水又は、水及び水と混じり合う有機溶剤からなる溶媒又は分散媒中に、前記水性アクリル系樹脂と、シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種が溶解又は分散しているものである。水と混じり合う有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールモノエーテル類あるいはそのエステル類;及びグリコールジエーテル類等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
また、本発明の水性ワニス組成物は、必要に応じて、前記の各成分以外に、着色剤、ワックス、高沸点溶剤、界面活性剤、消泡剤等の添加剤を本発明の目的を害さない範囲で適当量含み得る。
【0028】
本発明の両面印刷方法は、両面インラインコーター付き両面印刷機に前記水性ワニス組成物を使用して行う。両面印刷機の表面印刷ユニットの下流側に付設される表面上塗りコーターと裏面印刷ユニットの下流側に付設される裏面上塗りコーターは、それぞれ、ロール方式、チャンバー方式、フレキソ方式及びグラビア方式のいずれでもよい。表面上塗りコーターの下流側で且つ裏面印刷ユニットの上流側(表面上塗りコーターと裏面印刷ユニットの間)には乾燥ユニットが付設され、この乾燥ユニットで表面の上塗り塗膜を加熱し半乾燥の状態にする。この乾燥ユニットの乾燥方式は、近赤外線方式、遠赤外線方式及び熱風方式のいずれであってもよい。
【0029】
両面印刷機における表面上塗りコーターと裏面印刷ユニットの間の機器設置許容空間は通常かなり狭く、充分大きな乾燥ユニットを付設することは困難であるから、上塗り塗膜が乾燥ユニットを通過し裏面印刷ユニットに入る時点で上塗り塗膜が完全乾燥することは困難であり、通常は半乾燥の状態にならざるを得ない。それゆえ、印刷面の上塗りに使用する水性ワニス組成物には、半乾燥状態の上塗り皮膜が裏面印刷ユニットの圧胴に印圧で押し付けられても、圧胴に付着せず、上塗り皮膜やインキ皮膜が圧胴に剥き取られる「圧胴とられ」を起こさないようなものでなければならない。本発明の水性ワニス組成物は、この「圧胴とられ」を引き起こさずに、表裏両面の印刷面に上塗り皮膜を形成することができる。
【0030】
本発明の両面印刷法では、通常使用される酸化重合乾燥型印刷インキ及び紫外線硬化型印刷インキを特に制限なく使用することができる。
【0031】
本発明の両面印刷方法では、印刷機の給紙部から給紙された印刷用紙は、表面印刷ユニット、(表面に紫外線硬化型印刷インキを印刷する場合は、表面紫外線硬化ユニット)、表面上塗りコーター、表面乾燥ユニット、裏面印刷ユニット、(裏面に紫外線硬化型印刷インキを印刷する場合は、裏面紫外線硬化ユニット)、裏面上塗りコーター及び裏面乾燥ユニットを順次通過し、排紙部に排出される。
【0032】
尚、表面紫外線硬化ユニットが表面上塗りコーターの後(即ち表面乾燥ユニットの前)に設置されることもある。同様に、裏面紫外線硬化ユニットが裏面上塗りコーターの後(即ち裏面乾燥ユニットの前)に設置されることもある。
【0033】
その間、印刷用紙は、表面印刷ユニットにより酸化重合乾燥型印刷インキ又は紫外線硬化型印刷インキで印刷され、(紫外線硬化型印刷インキを使用する場合は紫外線硬化ユニットにより印刷面が硬化され)、表面上塗りコーターにより印刷面が水性ワニス組成物で上塗りされ(塗布量は好ましくは4〜6g/m、より好ましくは2〜4g/m)、表面乾燥ユニットにより上塗り塗膜が加熱されて半乾燥する。その後、印刷紙は、連続して裏面印刷ユニットに運ばれ、該印刷ユニットにより酸化重合乾燥型印刷インキ又は紫外線硬化型印刷インキで印刷され、(紫外線硬化型印刷インキを使用する場合は裏面紫外線硬化ユニットにより裏面印刷面が硬化され)、裏面上塗りコーターにより裏面印刷面が水性ワニス組成物で上塗りされ(塗布量は表面上塗りと同じ。)、そして裏面乾燥ユニットにより上塗り塗膜が加熱されて半乾燥される。印刷紙はこの状態で排紙部に排出され、その後、インキ皮膜や上塗り皮膜が完全乾燥するまでの間(通常、一昼夜)、積み重ね(棒積み)られる。
【0034】
本発明の両面印刷方法では、前記水性ワニス組成物を使用するから、印刷時に裏面印刷ユニットの圧胴によるインキ皮膜や上塗り皮膜の「圧胴とられ」が発生せず、また棒積み時に上下の印刷面同士がブロッキングを起こすことはない。
【実施例】
【0035】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0036】
(ベースワニス組成物の調整)
表1に示す配合処方に従ってベースワニス組成物(1)を調整した。
【0037】
【表1】

【0038】
表中の成分の説明
(1)水性アクリル系樹脂(A)
アクリル酸/α−メチルスチレン/スチレン/アクリル酸エチルカルビトール/アクリル酸ヘキシルをモノマー成分とするコア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルション(不揮発分45%、酸価82、ガラス転移温度25℃、重量平均分子量;シェル部約8,000、コア部約400,000)
(2)水性アクリル系樹脂(B)
アクリル酸/α−メチルスチレン/スチレン/アクリル酸2−エチルヘキシルをモノマー成分とする水性アクリル系樹脂エマルション(不揮発分45%、酸価51、ガラス点移転56℃、重量平均分子量;シェル部約10,000、コア部約200,000以上)
(3)水性アクリル系樹脂(B)
アクリル酸/スチレン/α−メチルスチレンをモノマー成分とする水溶性アクリル系樹脂(不揮発分33%、酸価150、ガラス転移温度76℃、重量平均分子量約10,000)
【0039】
<水性ワニス組成物の調整>
表2の配合処方に従って本発明の実施例及び比較例の水性ワニス組成物を調整した。
【0040】
【表2】

【0041】
<印刷>
ローランド社製R−702 LTLV(ツインコーター付き)印刷機を使用して代用試験を行った。予め、印刷用紙の表面に、1胴目で墨インキを、2胴目で黄インキを印刷し、第1コーターで実施例1の水性ワニス組成物を塗布した印刷紙を作成した。印刷後直ちにこの印刷紙を反転させ、1胴目、2胴目、第1コーターは同一設定のままで、表面の印刷と同様に、裏面に、1胴目で墨インキを、2胴目で黄インキを印刷し、第1コーターで同実施例のワニス組成物の塗布を行い、第2コーターにより両面印刷機の「圧胴とられ」の代用評価をするために、第2コーターでは何も塗布せず、第2コーター部のブランケットには印圧のみをかけた。この方法で、第2コーター部のブランケット胴へのインキ皮膜とワニス皮膜の取られ方と、棒積み時の印刷面のブロッキング状態を観察した。その結果を第3表に示す。実施例2、3及び比較例1の各水性ワニス組成物についても、同様の試験を行った。その結果を同表に示す。
【0042】
<印刷条件>
印刷条件の詳細は下記のとおり設定した。
(印刷部)
用紙 :OKトップコート+ 57.5Kg A全(王子製紙社製)
インキ :「ニューチャンピオン ナチュラリスSP−8 R201墨N」
(大日本インキ化学工業株式会社製)
インキの印刷版 : 天地方向に、非画線部、墨、墨+黄、黄部分を作成したもの。
【0043】
(第1コーター部(チャンバーコーター))
水性ワニス組成物:実施例1〜3及び比較例1の各水性ワニス組成物
水性ワニス組成物の粘度:ザーンカップ4番 16秒(25℃)、希釈剤:水
コーター :アニックスロール 120線/インチ
ワニス用印刷版 :樹脂版、全ベタ柄(サイレル45NOW:デュポン社製)
印圧 :0.03mm(B−I間)
乾燥機 :熱風100℃に設定
【0044】
(第2コーター部)
ブランケット:「MC5000V」(金陽社製)
印圧 :0.15mm(B-I間)
乾燥機 :熱風75℃に設定
印刷速度 :10000枚/時
印刷枚数 :5000枚
【0045】
<評価方法>
(第2コーターブランケッ胴へのインキ皮膜とワニス皮膜の取られ方)
評価基準 5 取られ無し
4 ブランケット面の20%未満の面で取られている
3 ブランケット面の20〜50%の面で取られている
2 ほぼ全面的に取られており、部分的にインキ皮膜とワニス皮膜の堆積が見られる
1 全面的にインキ皮膜とワニス皮膜の堆積が見られる
(棒積み時のブロッキング状態)
評価基準 5 ブロッキング無し
4 剥離の音はするがブロッキングの跡形はない
3 僅かなブロッキングの跡形が見られる
2 各印刷紙は容易に剥がせるが、明瞭な跡形が見られる
1 各印刷紙が剥がし難く、全面的に跡形が見られる
【0046】
<結果>
評価結果を表3に示す
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示す結果は、本発明の実施例1〜3の水性ワニス組成物が、比較例1の水性ワニス組成物と比較して、第2コーターブランケット胴へのインキ皮膜とワニス皮膜の取られ方及び棒積み時のブロッキング状態のいずれにおいても、明らかに優れた効果を奏することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)最低造膜温度が−5〜60℃の水性アクリル系樹脂と、(b)シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする水性ワニス組成物。
【請求項2】
前記水性アクリル系樹脂のガラス転移点が−10〜120℃である、請求項1に記載の水性ワニス組成物。
【請求項3】
前記水性アクリル系樹脂が、重量平均分子量100,000〜500,000のコア部と重量平均分子量5,000〜50,000のシェル部を有するコア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルションである、請求項1又は2に記載の水性ワニス組成物。
【請求項4】
前記水性アクリル系樹脂が、重量平均分子量100,000〜500,000のコア部と重量平均分子量5,000〜50,000のシェル部を有するコア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルションと、重量平均分子量5,000〜50,000の水溶性アクリル系樹脂との混合物である、請求項1又は2に記載の水性ワニス組成物。
【請求項5】
前記コア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルションと水溶性アクリル系樹脂との混合割合が、固形分の質量基準で、コア/シェル型水性アクリル系樹脂エマルション80〜99質量%に対し水溶性アクリル系樹脂1〜20質量%である、請求項4に記載の水性ワニス組成物。
【請求項6】
前記水性アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシル基含有ビニルモノマー及びこれらと共重合可能なモノマーからなり、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含有するモノマー成分を共重合させて得られる水性アクリル系樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物。
【請求項7】
前記シリコーンが、無変性シリコーンオイル、及びカルビノール、アルキルポリエーテル又はアルキルアリールポリエーテルで変性された変性シリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸エステルが、炭素原子数6以上の脂肪酸と炭素原子数4以上のアルコールとのエステルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸アマイドが、高級脂肪酸のアマイドである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物。
【請求項10】
前記リン酸エステルが、炭素原子数1〜30のアルキル基のリン酸アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物。
【請求項11】
両面インラインコーター付き両面印刷機に使用される請求項1〜10のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物。
【請求項12】
両面インラインコーター付き両面印刷機を使用して、印刷用紙の片面への印刷インキの印刷と、該印刷面への水性ワニス組成物の上塗りと、該印刷用紙の他面への印刷インキの印刷と、該他面の印刷面への水性ワニス組成物の上塗りとを、順次連続的に行う両面印刷方法において、前記水性ワニス組成物として、前記請求項1〜11のいずれか1項に記載の水性ワニス組成物を使用することを特徴とする両面印刷方法。

【公開番号】特開2007−45873(P2007−45873A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229288(P2005−229288)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】