説明

水性塗料組成物、有機無機複合塗膜、シラン縮合物分散体及びその製造方法

【課題】 耐溶剤性、耐磨耗性及び耐汚染性などの物性を高レベルで兼備する塗膜を与えることができ、かつ保存安定性が良好である、水を主たる媒体とするシラン縮合物分散体及びその製造方法、これを用いる水性塗料組成物、並びに該組成物を用いて得られる有機無機複合塗膜を提供すること。
【解決手段】 カチオン性樹脂(X)の水性分散体、又はノニオン性樹脂(Y)の水溶液若しくは水分散体と、テトラアルコキシシラン等及び/又はその部分縮合物とアミノ基を有するシラン化合物及び/又はその部分縮合物とを特定比率で用いて得られる縮合物(I)と、酸(II)とを含有することを特徴とする水性塗料組成物、及びこれを用いて得られる有機無機複合塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のシラン縮合物を用いる水性塗料組成物、有機無機複合塗膜及びシラン縮合物分散体に関する。より詳細には、各種金属及び、プラスチック、ガラス、木材、セメント等の製品への塗装分野や、紙、繊維等の製品の改質分野へと適用可能であるシラン縮合物分散体、その製造方法、これを用いる水性塗料組成物及び有機無機複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング材料などの分野において、従来の有機材料では得ることの難しい高い硬度・耐溶剤性・耐汚染性等の機能を発現させることを目的として、アルコキシシラン類のゾル−ゲル法によるコーティング材料が報告されている。
【0003】
このような例の一つとして、例えば、テトラメトキシシランないしはそのオリゴマーの加水分解縮合物と、その加水分解縮合物と縮合反応し得る化合物を配合してなるコーティング組成物が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では高い硬度・耐溶剤性・耐汚染性を有する塗膜を得ることが可能であるとされている。
【0004】
一般にアルコキシシラン類は加水分解によってメタノール、エタノールといった低沸点アルコールを生成する。これらの低沸点アルコールは、蒸留等によって除去可能ではあるものの、該低沸点アルコールの大部分を除去し、水を主たる分散媒とした場合には、ゲル化が起こりやすく保存安定性が低下するという問題がある。特許文献1においても、テトラメトキシシランないしはそのオリゴマーの加水分解縮合物の分散体の保存安定性を上げるために、各種有機溶剤を併用することが提案され、水を主たる媒体とする安定なシラン縮合物は未だ見出されていない。
【0005】
近年の環境や安全に対する配慮から、水性のコーティング材料が求められている現状において、ゾル−ゲル法を応用することができる、水を主たる媒体とするシラン縮合物分散体が希求されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−143819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、耐溶剤性、耐磨耗性及び耐汚染性などの物性を高レベルで兼備する塗膜を与えることができ、かつ保存安定性が良好である、水を主たる媒体とするシラン縮合物分散体及びその製造方法、これを用いる水性塗料組成物、並びに該水性塗料組成物を用いて得られる有機無機複合塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行ったところ、特定のシラン化合物及び/又はその部分縮合物と、アミノ基を有するシラン化合物及び/又はその部分縮合物とを、特定の比率で酸の存在下で縮合反応を行うことで、水を主たる媒体とする保存安定性に優れるシラン縮合物分散体、及びこれを用いる水性塗料組成物を見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、下記一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中、aは0〜3の整数であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれるR、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表されるシラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物と
アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物とを
前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比(A1)/(B1)が50/50〜90/10の範囲になるように用いて縮合して得られる縮合物(I)と、
酸(II)と、水(III)とを含有することを特徴とするシラン縮合物分散体(Z)、及びその製造方法を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、カチオン性樹脂(X)の水性分散体、又はノニオン性樹脂(Y)の水溶液若しくは水分散体と、
下記一般式(1)
【0012】
【化2】

(式中、aは0〜3の整数であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれるR、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表されるシラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物と
アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物とを
前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比(A1)/(B1)が50/50〜90/10の範囲になるように用いて縮合して得られる縮合物(I)と、
酸(II)と、を含有することを特徴とする水性塗料組成物、及びこれを用いて得られる有機無機複合塗膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保存安定性に優れた水を主たる媒体とするシラン縮合物分散体を提供することができる。該シラン縮合物分散体を用いて得られる塗膜は、透明性に優れ、高い硬度や耐溶剤性及び耐磨耗性などの物性を有する塗膜を与える。更に、該シラン縮合物分散体と水性のカチオン性樹脂やノニオン性樹脂とを組み合わせて用いることにより、保存安定性に優れた水性塗料組成物が得られる。また、該組成物をコーティングすることにより、シラン縮合物の連続相中にポリマーが均一に分散あるいは数ナノレベルで複合化した有機無機複合塗膜を得ることができる。この水性塗料組成物は、自動車用、建材用、木工用、プラスチック用等の各種の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の水性塗料組成物、有機無機複合塗膜、シラン縮合物分散体及びその製造方法を詳細に説明する。本発明において、水を主たる媒体とするシラン縮合物分散体とは、シラン化合物の加水分解縮合反応終了後に、該反応によって生成するアルコールや、該縮合反応時に用いた有機溶媒を蒸留等の工程を経ることによって全部又はその大部分を除去することが可能であり、水を分散媒として用いることができる分散体であって、かつ、保存安定性の向上を目的として、新たに有機溶媒を添加する必要がないものであることを示す。従って、その応用段階において、例えば、造膜助剤としての有機溶媒を添加し混合したものであってもよく、更にカチオン性樹脂やノニオン性樹脂の媒体として有機溶媒が含まれているものを用いて混合して得られる水性塗料組成物であっても良い。
【0015】
〔シラン化合物(A)及び/またはその部分縮合物〕
本発明で用いるシラン化合物(A)は
下記一般式(1)
【0016】
【化3】

(式中、aは0〜3の整数であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれるR、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される化合物である。
【0017】
前記シラン化合物(A)としては、例示するならば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルキルアルコキシシラン類、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシラン等のトリアルキルアルコキシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン類、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のクロロシラン類が挙げられる。これらのシラン類は、単独もしくは二種以上組み合わせて用いることができる。また、これらのシラン類の単独部分縮合物あるいは共部分縮合物を本発明に用いることもできる。
【0018】
前記シラン化合物(A)の中でも、テトラアルコキシシラン類またはアルキルアルコキシシラン類が好ましく、テトラアルコキシラン類は加水分解縮合可能な官能基が多く、得られるシラン縮合物分散体(Z)を用いた塗膜の耐汚染性・耐磨耗性が良好である点からより好ましい。この中でも特に反応性が高いという観点から、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランを用いることがさらに好ましい。
【0019】
前記シラン化合物(A)としてテトラメトキシシランやテトラエトキシシランを用いる場合には、その部分縮合物を用いることも可能である。部分縮合物としては、後述するアミノ基を有する加水分解性シラン化合物(B)との反応性に優れ、かつ得られるシラン縮合物分散体(Z)の保存安定性に優れる点、並びに工業的な入手容易性と、取り扱い上容易である点から、縮合度として2〜15の範囲であることが好ましく、また、縮合度の異なるものが複数存在している分布品であっても良い。このようなテトラメトキシシランやテトラエトキシシランの部分縮合物としては、例えば、コルコート株式会社の商品名「メチルシリケート51」、「メチルシリケート53A」、「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」、「EMS−485」等が挙げられる。
【0020】
〔シラン化合物(B)及び/またはその部分縮合物〕
本発明で用いるアミノ基を有するシラン化合物(B)としては、特に限定されるものではないが、下記一般式(2)
【0021】
【化4】

(式中、bは0〜2の整数であり、Rはアミノ基を有する一価の有機基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれる場合のR、Rは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
前記一般式(2)中の有機基Rとしては、例えば、3−アミノプロピル基、アミノエチル基、p−アミノフェニル基、m−アミノフェニル基、o−アミノフェニル基、3−フェニルアミノプロピル基、3−メチルアミノプロピル基、3−エチルアミノプロピル基、3−ジメチルアミノプロピル基、3−ジエチルアミノプロピル基などが挙げられる。
【0023】
このような化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルジエチルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルジエチルメトキシシラン、3−アミノプロピルエチルメトキシエトキシシラン、3−アミノプロピルエチルメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルエチルメチルメトキシシラン等の3−アミノプロピルアルコキシシラン類、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン等の3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルアルコキシシラン類、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジメトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルエチルジメトキシシラン、p−アミノフェニルエチルジエトキシシラン等のアミノフェニルアルコキシシラン類、3−(p−アミノフェニル)プロピルトリメトキシシラン、3−(p−アミノフェニル)プロピルエチルジメトキシシラン、3−(p−アミノフェニル)プロピルメチルジメトキシシラン、3−(p−アミノフェニル)プロピルトリエトキシシラン、3−(p−アミノフェニル)プロピルエチルジエトキシシラン、3−(p−アミノフェニル)プロピルメチルジエトキシシラン等の3−(p−アミノフェニル)プロピルアルコキシシラン類などが挙げられ、単独または二種以上組み合わせて用いることができる。また、これらのシラン類の単独部分縮合物あるいは共部分縮合物を用いることもできる。
【0024】
このようなシラン化合物(B)の中でも、得られるシラン縮合物分散体(Z)の保存安定性に優れる点から、3−アミノプロピルアルコキシシランや3−(2−アミノエチル)アミノプロピルアルコキシシラン、及び/又はそれらの部分縮合物を用いることが好ましい。また、入手の容易さという観点から、3−アミノプロピルアルコキシシラン及び/又はその部分縮合物を用いることがより好ましく、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び/又はその部分縮合物を用いることがさらに好ましい。ここでいう部分縮合物とは、前述と同意である。
【0025】
また、このようなシラン化合物に対して、本発明の効果を妨げない範囲、例えば前記加水分解性シラン化合物(A)に対して30重量%以下の割合で、その他のシラン化合物(C)及び/又はその部分縮合物を併用することも可能である。その他のシラン化合物(C)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシラン類、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシアルコキシシラン類、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトアルコキシシラン類、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のスルフィドアルコキシシラン類、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン類、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン等のウレイドアルコキシシラン類、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフルオロアルコキシシラン類、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等のビスアルコキシシラン類が挙げられる
【0026】
〔縮合物(I)〕
本発明において、前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物と、前記アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物とを縮合させることにより縮合物(I)が得られるが、このときの、前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比(A1)/(B1)が50/50〜90/10の範囲になるように用いることが必須であり、好ましくは(A1)/(B1)が65/35〜85/15の範囲であり、さらに好ましくは(A1)/(B1)が70/30〜85/15の範囲である。該比率が50/50未満では、縮合物中のアミノ基の含有率が高くなりすぎるため、これを用いて得られる有機無機複合塗膜の耐水性が低下する傾向にあり、又、該比率が90/10を超えると、シラン縮合物分散体の保存安定性が低下するため、十分な効果が得られない場合がある。
【0027】
ここで、前記シラン化合物(A)の完全縮合後の質量(A1)は、(A1)=(化合物(A)の仕込み量)/(縮合反応前の化合物(A)の式量)×(完全縮合反応後の化合物(A)の式量)で計算することができ、同じく、アミノ基を有するシラン化合物(B)の完全縮合後の質量(B1)は、(B1)=(化合物(B)の仕込み量)/(縮合反応前の化合物(B)の式量)×(完全縮合反応後の化合物(B)の式量)で計算することができる。
【0028】
前述の、その他のシラン化合物(C)を併用する場合においても、得られるシラン縮合物分散体(Z)の保存安定性と、有機無機複合塗膜の耐水性とを兼備させるために、前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と、前記その他のシラン化合物(C)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(C1)との合計質量と、前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比〔(A1)+(C1)〕/(B1)が50/50〜90/10の範囲になるように用いることが必須である。尚、その他のシラン化合物(C)の完全縮合後の質量(C1)は、(C1)=(化合物(C)の仕込み量)/(加水分解縮合反応前の化合物(C)の式量)×(完全縮合反応後の化合物(C)の式量)で計算することができる。
【0029】
本発明において、前記縮合物(I)の平均一次粒径としては10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがさらに好適である。本発明のシラン縮合物分散体においては、前記で得られる縮合物(I)は、水性媒体の種類やその濃度に応じて一部凝集したり、溶解したような状態になることもあり、明確な球状の粒子として観測できないこともある。この様な状態であっても、本発明の水性分散体は保存中に凝集が進み、巨大粒子状の沈殿物が観測されたり、分散体全体がゲル状に固化したり等の現象が起こらず、保存安定性に優れることが大きな特徴である。
【0030】
〔酸(II)〕
本発明で用いる酸(II)は、前記縮合物(I)中に含まれるアミノ基を有するシラン化合物(B)が有するアミノ基を中和することによってカチオン化させ、シラン縮合物分散体(Z)の安定性を高めるために用いるものである。
【0031】
前記酸(II)としては、特に限定されるものではなく、各種の酸を用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、ホウ酸、リン酸、硝酸といった各種無機酸や、ギ酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸といった各種有機酸が挙げられる。また、これらの酸は単独、もしくは2種以上を併用してもよい。これらの中でも、目的とするpHの範囲への調整が容易であり、得られるシラン縮合物分散体の保存安定性が良好である点から、pKaが5以下であり、25℃の水に対して2重量%以上溶解する酸が好ましく、この中でも入手のしやすさという観点から、塩酸、酢酸、マレイン酸を用いることが最も好ましい。また、酸(II)の価数が2以上である場合、ここでのpKaはpKを示すものとする。
【0032】
前記酸(II)の添加量としては、シラン縮合物分散体(Z)のpHが6以下になるように添加することが好ましく、pHが4以下になるように添加することがより好ましい。pHがこれらの値になるように酸(II)を加えることによって、前述のようにシラン化合物(B)中のアミノ基が中和されて得られるシラン縮合物分散体(Z)の安定性が高くなる。
【0033】
また、酸(II)は縮合物(I)を合成する際の触媒としても働くことが可能である。この場合、[酸(II)のモル数×酸(II)の価数〕/〔アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/またはその部分縮合物中のアミノ基のモル数〕が1.0以上であるように酸(II)を加えて縮合させることが好ましい。
【0034】
〔水(III)〕
本発明における水(III)は、縮合物(I)を分散化させる溶媒として働くものであり、特に限定されるものではないが、イオン性の不純物が含まれていないことが好ましい。
【0035】
〔シラン縮合物分散体(Z)〕
シラン縮合物分散体(Z)中の縮合物(I)の含有量としては、安定性が良好であるという点から、1質量%〜30質量%の間に調整することが好ましく、3質量%〜20質量%の間に調整することがより好ましい。
【0036】
シラン化合物(A)及び/またはアミノ基を有するシラン化合物(B)、必要に応じて併用するその他のシラン化合物(C)としてアルコキシ基を有する化合物を用いた場合、前記縮合物(I)を合成する際にアルコールが副生するが、このアルコールは蒸留によって除くことができる。アルコールは本発明のシラン縮合物分散体(Z)の保存安定性には関与しないため、アルコールを蒸留する場合のアルコールの残留量は適宜選択することができるが、通常はシラン縮合物分散体(Z)の全質量中の10質量%以下であり、5質量%以下がより好ましい。
【0037】
〔シラン縮合物分散体の製造法〕
本発明におけるシラン縮合物分散体(Z)は前記縮合物(I)と酸(II)、水(III)とを含有することを特徴とする。このようなシラン縮合物分散体(Z)は、各種の方法で得ることができるが、その中でも好ましい方法としては、シラン化合物(A)及び/またはその部分縮合物と、アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/またはその部分縮合物と、有機溶媒と、酸(II)との混合物に、初期添加水を加えて加水分解縮合させた後、さらに水を加えてシラン縮合物分散体を調整する方法が挙げられる。また、シラン化合物(A)及び/またはその部分縮合物と、酸(II)との混合物に、有機溶媒を加えた後、水、アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/またはその部分縮合物との混合溶液を加えて加水分解縮合反応させる方法も挙げられる。
【0038】
ここで初期添加水とは、シラン化合物(A)及び/またはその部分縮合物と、アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/またはその部分縮合物の加水分解反応に用いられる水であって、珪素原子に対して0.1〜5モル当量加えることが好ましい。
【0039】
本発明のシラン縮合物分散体(Z)の製造法について詳細に説明する。加水分解縮合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、ベンゼン、ケロシン、トルエン、キシレン等の炭化水素類や、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、エチルエーテル、ブチルエーテル、2−α−メトキシエタノール、2−α−エトキシエタノール、ジオキサン、フラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類の溶媒が挙げられる。この中では、入手のし易さや、反応のコントロールの容易さという観点から、アルコール類が好ましく、特にメタノールやエタノール等の溶媒を用いるのがより好ましい。
【0040】
前記加水分解縮合の反応条件としては、特に限定されるものではなく、0℃〜150℃の温度で、数分〜数日間反応させることにより加水分解縮合させることができる。この中でも反応の制御が容易であることから、50℃〜90℃にて30分〜10時間程度反応させることがより好ましい。
【0041】
シラン縮合物分散体中のアルコールを蒸留で除く方法としては、各種の方法を用いることが可能であり、常圧条件または減圧条件で好適にアルコールを除くことができる。アルコールを蒸留によって除く場合、シラン縮合物分散体(Z)の安定性を保つという観点から、縮合物(I)に酸(II)、水(III)を加えた後にアルコールを除く方法が好ましい。また、前記縮合物(I)を合成する際に前記の各種の溶媒を加えた場合も、同様の方法で除くことができる。溶媒除去の容易性の観点から、その沸点が100℃未満の有機溶媒を用いること、又は、水と共沸可能な有機溶媒を用いることが好ましい。
【0042】
〔水性塗料組成物〕
本発明のシラン縮合物分散体(Z)は単独でコーティング剤として用いることが可能である。このとき、シラン縮合物分散体(Z)を塗布、乾燥することにより、縮合物(I)のシラノール基同士の架橋反応が進行し、縮合物(I)の連続相からなる塗膜を形成する。
【0043】
一方で、一般的に広く用いられている無機微粒子の水性分散体としてコロイダルシリカ水性分散体があるが、これらは単独での塗膜の形成能を有しておらず、本発明のシラン縮合物分散体(Z)と全く異なるものである。
【0044】
また、本発明の水性塗料組成物は、シラン縮合物分散体(Z)と、カチオン性樹脂(X)の水性分散体またはノニオン性樹脂(Y)の水溶液及び/または水性分散体を含有してなるものである。これらのカチオン性樹脂(X)及びノニオン性樹脂(Y)は各々単独、もしくは2種以上混合して使用しても良い。
【0045】
〔カチオン性樹脂(X)〕
本発明で用いるカチオン性樹脂(X)とは、カチオン性の官能基を有する有機化合物であって、水性媒体中で安定に分散した水性分散体を形成するものである。前記水性媒体としては、水を主成分とする均一溶媒系であれば特に限定はされない。このような溶媒系としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系の水溶性有機溶媒と水とを混和させた溶媒系や、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブといったエーテル系の水溶性有機溶媒と水とを混和させた溶媒系が挙げられる。尚、完全な有機溶剤フリーの水性塗料組成物を得る場合には、これらの有機溶剤を併用しないことが良いことは勿論である。
【0046】
前記カチオン性樹脂(X)は水性媒体中で分散するものであり、その分散した樹脂粒子の平均粒子径としては、得られる複合塗膜の耐磨耗性と透明性を兼備する点から、0.005μm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.01μm〜0.4μmである。
【0047】
前記カチオン性の官能基としては、例えば、第一級から第三級のアミノ基や、ホスフィノ基の塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、プロピオン酸、酪酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の酸との反応物、四級アンモニウム基、四級ホスホニウム基などが挙げられる。
【0048】
前記カチオン性の官能基の含有量としては、カチオン性樹脂(X)が水性媒体中で溶解することがなく、安定な分散体を形成できる範囲であれば、特に限定されるものではないが、通常、該カチオン性樹脂(X)固形分中に、カチオン当量として0.01〜1当量/kg含有していれば水性分散体とすることができ、特にカチオン性樹脂(X)の水性媒体中への分散性と得られる塗膜の耐水性とのバランスに優れる点から、0.02〜0.8当量/kg含有していることが好ましく、0.03〜0.6当量/kg含有していることが特に好ましい。
【0049】
カチオン性樹脂(X)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値で求められる数平均分子量(Mn)としては、カチオン性樹脂(X)が水性媒体中で溶解せずに安定な分散体を形成できる範囲であれば特に限定されるものではなく、通常1,000〜5,000,000の範囲であり、好ましくは、5,000〜1,000,000の範囲である。
【0050】
カチオン性樹脂(X)の種類としては特に限定されるものではなく、例えばアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂といったポリビニル系のポリマーや、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂といった各種のポリマーを使用することができる。
【0051】
これらの中でも、製造の容易さ、シラン縮合物分散体(Z)との親和性の良さという観点から、ウレタン樹脂やアクリル樹脂を用いることがより好適である。これらをそれぞれ、カチオン性ウレタン樹脂(X−1)、カチオン性アクリル樹脂(X−2)と以下、呼称する。
【0052】
カチオン性ウレタン樹脂(X−1)は、ポリイソシアネート、ポリオール、及び必要に応じて併用される鎖伸長剤からなる、カチオン性の官能基を有するウレタン樹脂である。
【0053】
カチオン性ウレタン樹脂(X−1)の原料として用いることができるポリイソシアネートとしては、有機ポリイソシアネートとして、例えば、鎖状脂肪族ポリイソシアネート、環状脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、アミノ酸誘導体から得られるポリイソシアネート等の各種のものを例示できる。
【0054】
鎖状脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸が有するカルボキシル基をイソシアネート基に置き換えたダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
環状脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート等のジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルテトラメチルメタンジイソシアネート等のテトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
芳香脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、アミノ酸誘導体から得られるポリイソシアネートの具体例としては、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0058】
カチオン性ウレタン樹脂(X−1)の原料として用いることができるポリオールとしては、一分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する各種化合物を挙げることができ、得られる有機無機複合塗膜の可とう性に優れる点から、高分子ポリオールを使用するのが好ましい。高分子ポリオールとしては、例えば、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化イソブチレン、テトラヒドロフラン等の重合体または共重合体等のポリエーテルポリオール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、ジプロピレングリコール等の飽和もしくは不飽和の各種の低分子グリコール類またはn−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、バーサティック酸グリシジルエステル等のモノカルボン酸グリシジルエステル類と、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の二塩基酸またはこれらに対応する酸無水物やダイマー酸などを脱水縮合して得られるポリエステルポリオール類;環状エステル化合物を開環重合して得られるポリエステルポリオール類;その他ポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリクロロプレンジオール、ポリブタジエングリコールの水素化物、ポリイソプレングリコールの水素化物等のポリオレフィンジオール類、ビスフェノールAに酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得られたグリコール類、2つ以上のヒドロキシ基およびメルカプト基等の連鎖移動基を1つ有する連鎖移動剤の存在下にアルキル(メタ)アクリレート等の各種のラジカル重合性不飽和単量体を重合させて得られるアクリルポリマー等のマクロモノマー、ポリジメチルシロキサン等のポリジアルキルアルコキシシラン類、ヒマシ油ポリオール、塩素化ポリプロピレンポリオール等が挙げられる。
【0059】
前述のポリイソシアネートとポリオールとを用いて、本発明で用いることができるカチオン性ウレタン樹脂(X−1)の水性分散体を製造する方法としては、特に限定されるものではないが、カチオン性の官能基を該ウレタン樹脂(X−1)の主鎖に導入する方法としては、例えば、特開2002−307811号公報に記載のように、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールと、分子中に三級アミノ基を有する鎖伸長剤を用いてウレタン樹脂を合成し、該樹脂中の三級アミノ基を酸で中和もしくは四級塩化した後に水性媒体中に分散させる方法や、特開2006−45509号公報に記載のように、側鎖に四級塩化したアミノ基を有するジオールと前記ポリオール、前記ポリイソシアネートからなるウレタン樹脂を合成し、水性媒体中に分散させる方法などがある。
【0060】
上記のアミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アジピン酸などの有機酸類や、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、硼酸、亜リン酸、フッ酸等の無機酸等を使用することができる。これらの酸は単独使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
また、前記の四級化する際に使用することができる四級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類などを使用することができ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0062】
本発明で用いるカチオン性ウレタン樹脂(X−1)は、樹脂の分散安定性を阻害しない範囲で、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基といった反応性官能基を有していても良い。また、カチオン性ウレタン樹脂(X−1)の分散安定性を高めるために、ノニオン性の親水性基、例えば、ポリエチレンオキサイド鎖や、ポリアミド鎖などを分子中に有していても良い。更に、安定な水性分散体とするために、乳化剤を併用したものであっても良い。
【0063】
本発明で用いることができるカチオン性アクリル樹脂(X−2)は、カチオン性の官能基を含有する水分散型のアクリル樹脂である。このようなカチオン性アクリル樹脂(X−2)の水性分散体の製造方法としては、各種の方法を用いることができるが、例を挙げるならば、有機溶媒中で、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体とカチオン性基を有さないエチレン性不飽和単量体との混合物と、ラジカル重合開始剤を滴下しながら加熱重合させた後、有機溶媒を除去して、カチオン性基を前記酸類で中和して水性媒体中に分散する方法が挙げられる。このとき、水性分散体の安定性を向上させるために乳化剤を併用しても良い。
【0064】
更に、前記カチオン性アクリル樹脂(X−2)の水性分散体の合成法として、水性媒体中で、アミノ基を有する(メタ)アクリレートとアミノ基を有さない(メタ)アクリレートとの混合物と、ラジカル重合開始剤を滴下しながら加熱重合させる乳化重合法も挙げられる。
【0065】
前記有機溶媒中でのラジカル重合において用いることができる有機溶媒として、特に限定されるものではない。例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族系または脂環族系の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはエチレンカーボネート、等が挙げられる。これらの有機溶剤はそれぞれを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
前記カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のビニルピリジン類;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、β−(tert−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩等の(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0067】
前記カチオン性基を有さないエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸もしくはメタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリレート類;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリレート類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアミド化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル系化合物が挙げられる。
【0068】
また、前述の各種の(メタ)アクリル系単量体に加えて、主々の(メタ)アクリル系以外のビニル系単量体を併用することもできる。前記(メタ)アクリル系以外の単量体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸あるいはクロトン酸等の(メタ)アクリル酸以外のカルボキシ基含有モノマー;前記した(メタ)アクリル酸以外のカルボキシ基含有モノマーと各種の1価アルコール類とのエステル;クロトノニトリル、クロトン酸アミドあるいはそのN−置換誘導体等のクロトン酸の誘導体;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミルスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられる。
【0069】
また、前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、クメンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酢酸−t−ブチル、過硫酸塩等の過酸化物系の重合開始剤や、アゾビスイソブチロニトリルといったアゾ系の重合開始剤が挙げられる。
【0070】
〔ノニオン性樹脂(Y)〕
本発明で用いるノニオン性樹脂(Y)とは、ノニオン性の親水性官能基を有する有機化合物であって、水性媒体中に溶解あるいは分散するものである。ノニオン性の親水性官能基としては、エーテル基や、ヒドロキシ基、アミド基などが挙げられる。また、水性媒体としては、前記カチオン性樹脂について例示したものをいずれも用いることができる。
【0071】
ノニオン性樹脂(Y)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値で求められる数平均分子量(Mn)としては、ノニオン性樹脂(Y)が水性媒体中で溶液あるいは安定な分散体を形成できる範囲であれば特に限定されるものではなく、通常1,000〜5,000,000の範囲であり、好ましくは、5,000〜1,000,000の範囲である。
【0072】
以下、水性媒体中に溶解するノニオン性樹脂(Y)を水溶性ノニオン性樹脂(Y−1)、水性媒体中に分散するノニオン性樹脂を水分散性ノニオン性樹脂(Y−2)と呼称する。
【0073】
このようなノニオン性樹脂(Y−1)の例としては、例えば、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテルやポリエチルビニルエーテル等のポリビニルエーテル、ポリ(N−メチルアクリルアミド)やポリ(N−エチルアクリルアミド)等のポリ(N−アルキルアクリルアミド)等の親水性ポリマーが挙げられる。また、アクリル樹脂や、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂等の各種の樹脂中に前記ノニオン性の親水性官能基を含有させ、水中に溶解させたものなどが挙げられる。
【0074】
前記ノニオン性樹脂(Y−2)の水性分散体の平均粒子径としては、得られる複合塗膜の耐磨耗性と透明性を兼備する点から、0.005μm〜1μmの範囲であることが好ましく、0.01μm〜0.4μmであることがより好ましい。
【0075】
このようなノニオン性樹脂(Y−2)の例としては、例えば、アクリル樹脂や、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂等の各種の樹脂中に前記ノニオン性の親水性官能基を含有させ、水中で安定に分散させたものなどが挙げられる。例えば、特開2004−331864号公報などに記載されているように、ポリビニルアルコール系重合体セグメント存在下でビニル単量体を乳化重合させることによって得られるブロック重合体水性分散体などが挙げられる。
【0076】
本発明の水性塗料組成物において、前記カチオン性樹脂(X)又はノニオン性樹脂(Y)は、得られる塗膜に柔軟性や可撓性を付与したり、基材との密着性を高めたりする等の目的で、前述のシラン縮合物分散体(Z)と併用されるものであり、目的とする物性に応じてその配合量を選択できるものである。本発明で得られる塗膜が、縮合物(I)に由来する高い耐磨耗性を損なわないためには、得られる塗膜中における前記カチオン性樹脂(X)又はノニオン性樹脂(Y)の割合が、70質量%以下、好ましくは60質量%以下になるように用いることが好ましい。
【0077】
ここで、塗膜中の完全縮合後の縮合物(I)の質量(I1)は、(I1)=((A1)+(B1))で表すことができる。また、その他のシラン化合物(C)及び/又はその部分縮合物を用いる場合は、シラン化合物(C)の完全縮合後の質量(C1)を用いて、(I1)=〔(A1)+(B1)+(C1)〕で表すことができる。
【0078】
更に、前記縮合物(I)中の官能基と反応する官能基を二つ以上有する架橋剤(V)を、本発明の水性塗料組成物又はシラン縮合物分散体(Z)に、好ましく配合することができる。これによって、架橋剤(V)が縮合物(I)中の官能基と反応して塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0079】
前記縮合物(I)中の官能基と反応しうる官能基としては、例えば、グリシジル基、ウレイド基、アクリル基、カルボキシル基、アルコキシシリル基、アルデヒド基などの官能基が挙げられる。その中でも塗液のポットライフや、硬化のしやすさという観点から、グリシジル基、アルコキシシリル基が好ましい。このような官能基を有する架橋剤(V)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシアルコキシシラン類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o−フタル酸ジグリシジルエステル、グリセロールジグリシジルエステル等のジグリシジル類;グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル類;ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のテトラグリシジルエーテル類;その他ポリグリシジルエーテル類あるいはグリシジル基を官能基として有する重合体類等が挙げられる。
【0080】
これらの架橋剤(V)の中で、より好ましいものはエポキシアルコキシシラン類であり、その中でも入手が容易であることから3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランがさらに好ましい。これらのエポキシアルコキシシラン類を加える分量としては、前記縮合体(I)中のアミノ基に対して0.1〜10モル当量の範囲で加えるのが好ましく、0.5〜5モル当量の範囲で加えるのがより好ましい。
【0081】
本発明の水性塗料組成物又はシラン縮合物分散体(Z)に、さらに塗装塗膜の耐磨耗性などを向上させることを目的として、無機酸化物微粒子(W)を配合することができる。このような無機酸化物微粒子(W)は塗膜形成時にシラン縮合物分散体(Z)中の縮合物(I)のシラノール基との相互作用や、前記した架橋剤(V)との架橋反応により、無機成分を多く含有する膜を形成させることができ、塗膜の耐磨耗性が向上すると考えられる。
【0082】
このような無機酸化物微粒子(W)としては、シリカや、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの微粒子がある。このような無機酸化物微粒子(W)の平均粒子径としては、塗膜の透明性及び塗液の安定性の観点から、5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましい。また、これらの無機酸化物微粒子(W)を配合する割合としては、無機酸化物微粒子(W)と縮合物(I)との質量比が(W)/(I)の比で、2/1以下であることが好ましい。この理由としては、(W)/(I)の比がこれ以上になると、塗膜にクラックが生じやすくなるためである。
【0083】
これらの無機酸化物微粒子(W)の中でも入手が容易であることから、一般にコロイダルシリカとして市販されている水分散シリカ微粒子が好ましい。このようなコロイダルシリカをシラン縮合物分散体(Z)に配合する場合、コロイダルシリカ粒子の凝集を防ぐため、酸などを加えてコロイダルシリカのpHをシラン縮合物分散体(Z)と同程度に調製した後に配合することが好ましい。
【0084】
このようなコロイダルシリカの市販品としては、例えば、日産化学工業の製品「スノーテックス20」や、「スノーテックスS」、「スノーテックスO」、「スノーテックスXS」、「スノーテックスZL」などがある。
【0085】
また、本発明の水性塗料組成物は、クリアー塗料組成物として用いることもできるが、各種顔料分散体、染料などを混入して、着色塗料用組成物としても用いることができる。
【0086】
本発明の水性塗料組成物又はシラン縮合物分散体(Z)には、本発明の効果を妨げない範囲で、各種の増粘剤、濡れ剤、チキソ剤、ワックス、レベリング剤などの添加剤、あるいはフィラー等を加えても良い。
【0087】
本発明の水性塗料組成物の不揮発分としては、特に制限はないが、通常1〜40質量%であり、好ましくは1〜30質量%である。
【0088】
本発明の水性塗料組成物の機材への塗工方法に関しては、特に限定されるものではないが、例を挙げるならば、エアースプレー法、フローコーター法、ロールコーター法などの各種の塗工方法で塗装することができる。
【0089】
本発明の水性塗料組成物の塗装基材の材質の例としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属、ABS、ポリカーボネート、PMMA、PET、ポリスチレン等のプラスチック類、ガラス、木材、セメント等が挙げられる。また、塗装基材の形状の例としては、フィルム状、板状、粒状、繊維状の基材等が挙げられる。
【0090】
さらに、基材への密着性向上、基材の着色、基材の保護などを目的として、各種プライマー、シール剤、アンダーコート等を前記各種基材に塗装したのち、本発明の水性塗料組成物を塗装することもできる。
【0091】
本発明の水性塗料組成物の塗装塗膜の膜厚は特に制限されるものではないが、通常0.1μm〜50μmであり、好ましくは1μm〜20μmである。
【0092】
塗装後の乾燥温度としては特に限定されるものではないが、通常20℃〜250℃の間であり、60℃〜200℃の間で乾燥させることが好ましい。また、乾燥時間としては特に限定されるものではないが、通常数秒〜10日程度であり、好ましくは1分〜5時間程度が好ましい。
【0093】
〔有機無機複合塗膜〕
本発明の有機無機複合塗膜は、シラン縮合物分散体(Z)と、カチオン性樹脂(X)の水性分散体またはノニオン性樹脂(Y)の水溶液及び/または水性分散体との混合物を塗布することによって得ることができる。ここで、カチオン性樹脂(X)の水性分散体または水分散性ノニオン性樹脂(Y−2)の水性分散体を使用した場合、縮合物(I)が更に架橋してなる連続相中にカチオン性樹脂やノニオン性樹脂が微粒子として均一に分散している有機無機複合塗膜を得ることができる。また、水溶性ノニオン性樹脂(Y−1)の水溶液を使用した場合、縮合物(I)とノニオン性樹脂が数ナノレベルで複合化している有機無機複合塗膜を得ることができる。これは、添付した図面(電子顕微鏡写真)によって明らかである。
【0094】
シラン縮合物分散体(Z)が乾燥過程で連続相を形成する際、これらのカチオン性樹脂(X)及びノニオン性樹脂(Y)がそれ自体凝集して粗大粒子にならないためこのような構造の有機無機複合塗膜を形成すると考えられる。
【0095】
このような有機無機の複合塗膜構造をとることにより、無機成分由来の性能である、耐磨耗性や耐汚染性といった性能を高いレベルで有する塗膜を得ることができる。
【0096】
一方で、シラン縮合物分散体(Z)の代わりにコロイダルシリカを各種の樹脂に混合して塗膜を作成すると、コロイダルシリカは単独では塗膜形成能を有しないため、充填剤として機能することになり、配合した樹脂が形成する連続相中にシリカ粒子が分散した構造の塗膜になる。このような構造を有する有機無機複合塗膜では、連続相が有機樹脂であるため、無機成分由来の性能を引き出すことが難しく、耐磨耗性、耐汚染性等の性能を高いレベルで有する複合塗膜を作成することが困難である。
【0097】
本発明の有機無機複合塗膜は、本発明の水性塗料組成物を基材上に塗布し、乾燥することにより、容易に得ることができる。本発明の有機無機複合塗膜は、乾燥工程で大気中に放出される有機溶剤の量が少ないため、環境への悪影響が少なく、工業的に簡便で有用なものである。
【実施例】
【0098】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0099】
実施例1 〔シラン縮合物分散体(Z−1)の合成〕
温度計、窒素ガス導入管、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下で、メタノール 250.0部、テトラメトキシシラン部分縮合物(コルコート株式会社製品「メチルシリケート51」(以下MS51)) 50.0部、マレイン酸 2.0部を加えて均一に溶解させた後、イオン交換水 7.6部を加え66℃まで昇温させて3時間加熱還流させた。ここに、アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z‐6610」) 10.5部とマレイン酸 8.8部、イオン交換水 242.5部とを混合した溶液を加えて、さらに66℃にて1時間加水分解縮合反応させた。反応終了後、反応溶液からメタノールを蒸留によって除いた後、得られた溶液が不揮発分15.0%になるようにイオン交換水を加えて、シラン縮合物分散体(Z−1)を得た。得られたシラン縮合物分散体(Z−1)のMS51の完全縮合後の質量とアミノプロピルトリメトキシシランの完全縮合後の質量との比は80/20で、完全縮合後の縮合物(I−1)の含有量は、11.2質量%、pHは2.2、メタノールの残留量は1.0質量%以下であった。また、得られたシラン縮合物分散体(Z−1)の平均一次粒子径は2.2nmであった。
【0100】
実施例2 〔シラン縮合物分散体(Z−2)の合成〕
実施例1と同様の反応容器に、窒素気流下で、メタノール 250.0部、MS51 50.0部、マレイン酸 6.7部を加えて均一に溶解させた後、アミノプロピルトリメトキシシラン 10.5部を加えて室温で数分攪拌して均一に溶解した。その後、イオン交換水 229.0部を加えて66℃まで昇温させ、4時間加水分解縮合反応させた。反応終了後、反応溶液からメタノールを蒸留によって除いた後、得られた溶液が不揮発分15.0%になるようにイオン交換水を加えて、シラン縮合物分散体(Z−2)を得た。
【0101】
実施例3 〔シラン縮合物分散体(Z−3)の合成〕
実施例1と同様の反応容器に、窒素気流下で、メタノール 250.0部、MS51 50.0部、マレイン酸 6.7部を加えて均一に溶解させた後、イオン交換水 7.6部を加えて攪拌し、さらにアミノプロピルトリメトキシシラン 10.5部を加えて室温で数分攪拌して均一に溶解した。その後、66℃まで昇温させて1時間加水分解縮合反応させた後、イオン交換水 225.0部を加えて、さらに1時間66℃にて加熱還流させた。反応終了後、反応溶液からメタノールを蒸留によって除いた後、得られた溶液が不揮発分15.0%になるようにイオン交換水を加えて、シラン縮合物分散体(Z−3)を得た。
【0102】
実施例4〜11、14〜20 〔シラン縮合物分散体(Z−4)〜(Z−11)、(Z−14)〜(Z−20)の合成〕
実施例3の場合と同様に、表1〜4に記載の配合でシラン縮合物分散体(Z−4)〜(Z−11)、(Z−14)〜(Z−20)を合成した。
【0103】
実施例12 〔シラン縮合物分散体(Z−12)の合成〕
実施例1と同様の反応容器に、窒素気流下で、メタノール 250.0部、MS51 50.0部、シラン化合物(C)として、ビニルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6300」) 6.8部、マレイン酸 7.8部を加えて均一に溶解させた後、イオン交換水 7.6部を加えて攪拌し、さらにアミノプロピルトリメトキシシラン 12.0部を加えて室温(25℃)で数分攪拌して均一に溶解した。その後、66℃まで昇温させて1時間加水分解縮合反応させた後、イオン交換水 250.0部を加えて、さらに1時間66℃にて加熱還流させた。反応終了後、反応溶液からメタノールを蒸留によって除いた後、得られた溶液が不揮発分15.0%になるようにイオン交換水を加えて、シラン縮合物分散体(Z−12)を得た。
【0104】
実施例13 〔シラン縮合物分散体(Z−13)の合成〕
シラン化合物(C)として、ビニルトリメトキシシランの代わりに3−メタクリロイルプロピルトリメトキシシランを用いる以外は実施例12と同様にして、表3に記載の配合でシラン縮合物分散体(Z−13)を合成した。
【0105】
比較例1〜2 〔比較用シラン縮合物分散体(Z’−1)〜(Z’−2)の合成〕
実施例3の場合と同様に、表4に記載の配合で比較用のシラン縮合物分散体(Z’−1)〜(Z’−2)を合成した。
【0106】
比較例3 〔比較用シラン縮合物分散体(Z’−3)の合成〕
実施例1と同様の反応容器に、窒素気流下で、アセトン 75.0部、MS51 50.0部、マレイン酸 0.25部を加えて均一に混合させた後、イオン交換水 14.3部を加え80℃のオイルバス中で3時間加熱還流させた。ここに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 15.3部と、イオン交換水 330.0部とを混合させた溶液を加えて、さらに80℃のオイルバス中にて1時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液から溶媒を蒸留によって除いた、得られた溶液が不揮発分10.0%になるようにイオン交換水を加えて、比較用シラン縮合物分散体(Z’−3)を得た。
【0107】
〔シラン縮合物分散体(Z−1〜20)中のメタノール含有量測定方法〕
シラン縮合物分散体(Z−1〜20)中のメタノール含有量を、ジメチルスルホキシドを標準物質としたH−NMR(日本電子株式会社製品LA300)によって測定した。その結果、シラン縮合物分散体(Z−1〜20)のメタノール含有量は、1質量%以下であった。
【0108】
〔シラン縮合物分散体(Z−1〜20)の平均一次粒子径測定方法〕
シラン縮合物分散体(Z−1〜20)の平均一次粒子径を、株式会社リガクTTRIIを用いてX線小角散乱法によって測定した。
【0109】
実施例1〜20で得たシラン縮合物分散体(Z−1〜20)及び比較例1〜3で得た比較用シラン縮合物分散体(Z’−1〜3)の、(A1)と(B1)との比、完全縮合後のシラン縮合物(I)の含有量、pH、平均一次粒子径について表1〜5にまとめた。
【0110】
以下、実施例1〜20で得たシラン縮合物分散体(Z−1〜20)及び比較例1〜3で得た比較用シラン縮合物分散体(Z’−1〜3)中に含まれる完全縮合後のシラン縮合物(I)の質量をそれぞれ(I−1〜20)及び(I’−1〜3)と記載する。
【0111】
〔シラン縮合物分散体の保存安定性試験〕
実施例1〜20及び比較例1〜3で合成したシラン縮合物分散体(Z−1)〜(Z−20)、及び比較用シラン縮合物分散体(Z’−1)〜(Z’−3)をそれぞれ40℃の恒温槽にて静置保存し、経時の粘度を測定することによって保存安定性試験を行った。その結果を表1〜4の下部に示す。
【0112】
評価基準
◎:40℃にて1ヶ月保存後の粘度増加が30%以下。
○:40℃にて2週間保存後の粘度増加が30%以下。
×:シラン縮合物分散体が40℃にて1週間後ゲル化。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

【0118】
表1〜5の脚注:
MS51:テトラメトキシシラン部分縮合物(コルコート株式会社の商品名「メチルシリケート51」)
TMOS:テトラメトキシシラン
TEOS:テトラエトキシシラン
ES48:テトラエトキシシラン部分縮合物(コルコート株式会社製品「エチルシリケート48」)
APTMS:3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6610」)
APTES:3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6011」)
MTMS:メチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6366」)
IBTMS:イソブチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−2306」)
HTMS:n−ヘキシルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6582」)
VTMS:ビニルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6300」)
GPTMS:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6040」)
MAcTMS:メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6030」)
【0119】
合成例1 〔カチオン性ウレタン樹脂(X−1−1)の水分散体の調製〕
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量201g/当量)590部を仕込んだ後、フラスコ内を窒素置換した。次いで、前記フラスコ内の温度が70℃になるまでオイルバスを用いて加熱した後、滴下装置を使用してジ−n−ブチルアミン378部を30分間で滴下し、滴下終了後、90℃で10時間反応させた。反応終了後、赤外分光光度計(FT/IR−460Plus、日本分光株式会社製)を用いて、反応生成物のエポキシ基に起因する842cm−1付近の吸収ピークが消失していることを確認し、3級アミノ基含有ポリオール(アミン当量339g/当量、水酸基当量339g/当量)を得た。
【0120】
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコ内で、ニッポラン980R(日本ポリウレタン工業株式会社製ポリカーボネートポリオール、分子量2000)640部を、メチルエチルケトン390部に溶解した。次いで、イソホロンジイソシアネート133部とオクチル酸第一錫0.2部を加え、75℃で2時間反応させた後、前記3級アミノ基含有ポリオールを122部を添加し4時間反応させた後、60℃に冷却し、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6011」) 22部を添加して、1時間反応させることにより、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にジメチル硫酸45部を加えて更に60℃で2時間反応させて4級化した後、イオン交換水2080部を滴下することにより水分散化を行い、更に引き続いて減圧下脱溶剤することにより、不揮発分35%で、pH6.5、粒子径0.05μm(大塚電子株式会社製粒径アナライザーFPAR−1000により測定。)、カチオン含有量が0.39当量/kgのカチオン性ポリウレタン樹脂(X−1−1)の水分散体を得た。
【0121】
合成例2 〔カチオン性アクリル樹脂(X−2−1)の水分散体の調製〕
攪拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却管および不活性ガスの送入管と排出管とを備えた反応容器に、窒素を導入しながら、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド12部、n−ドデシルメルカプタン0.4部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド 1部、イオン交換水540部を入れ、攪拌しながら内温を80℃に上げ、同温で1時間維持して反応させることによって反応生成物を得た。次に、該反応生成物の存在する反応容器に、別の容器中で予め混合した単量体混合物(ブチルアクリレート220部、メチルメタクリレート180部)と、重合開始剤水溶液〔2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドの5%水溶液〕40部を、各々別の滴下漏斗から3時間かけて滴下し重合させた。滴下中は反応容器内温度を80℃に維持した。滴下終了後、さらに液温を80℃で1時間攪拌し、次いで25℃に冷却し、イオン交換水にて不揮発分が35%になるように調整し、pH3.5、粒子径0.3μm、カチオン含有量0.14当量/kgのカチオン性アクリル樹脂(X−2−1)の水分散体を得た。
【0122】
合成例3 〔ノニオン性アクリル樹脂(Y−1)の水分散体の調製〕
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器にイオン交換水 763部、メルカプト基を有するポリビニルアルコール(株式会社クラレ製品:M−205 重合度400 ケン化度88.0%)100部を仕込んで、窒素ガス気流下に攪拌しながら90℃に昇温し2時間保持した。室温まで冷却した後、1規定硫酸水溶液(0.5mol/L)17部を添加し、次いで、メチルメタクリレート(MMA)90部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)10部から成るモノマー混合物を調製し、このモノマー混合物の40部を添加した。ついで、窒素ガスを10分間液面下に吹き込んだ後、70℃に昇温した。過硫酸アンモニウム(APS)の2%水溶液20部を4時間で滴下し、滴下開始1時間後からモノマー混合物の残り全量を2時間で並行して添加した。APSの2%水溶液の添加終了後、2時間攪拌しブロック共重合体(Y−1)を得た。この乳化重合体の不揮発分は20.0%であった。
【0123】
合成例4 〔ポリビニルアルコール(Y−2)水溶液の調製〕
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器にイオン交換水900部、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製品:PVA−217 重合度1700 ケン化度88.0%)100部を仕込んで、窒素ガス気流下に攪拌しながら90℃に昇温し2時間保持した後、室温まで冷却して不揮発分10%のポリビニルアルコール(Y−2)の水溶液を得た。
【0124】
実施例21〜49及び比較例4〜6〔水性塗料組成物1〜29及び比較用水性塗料組成物1〜3の調製〕
前記合成例1で合成したカチオン性ポリウレタン樹脂(X−1−1)の水分散体114.3部(固形分40部)を攪拌しながら、ここにシラン縮合物分散体(Z−3)483部(シラン縮合物(I−3)含有量 60部)を徐々に滴下して、水性塗料組成物1を得た。以下同様に、カチオン性樹脂(X)、ノニオン性樹脂(Y)、シラン縮合物(I)がそれぞれ表6〜表10及び表14に書かれた質量比になるように配合して、水性塗料組成物2〜29及び比較水性塗料組成物例1〜3を調製した。
【0125】
コロイダルシリカpH調製液(W’−1)〜(W’−4)の調製
日産化学工業株式会社製品のコロイダルシリカ「スノーテックスO」(SiO含有量 20.5wt%、pH2.7)にマレイン酸20wt%水溶液をpHが2.5になるように加えた後、イオン交換水を加えてSiO含有量が15wt%になるよう調製してコロイダルシリカpH調整液(W’−1)を作成した。日産化学工業株式会社製品の「スノーテックス20」(SiO分 20.0wt%、pH9.6)及び、「スノーテックスZL」(SiO分 40.0wt%、pH8.5)、「スノーテックスXS」(SiO分 20.0wt%、pH9.3)も同様の処理を行って、それぞれコロイダルシリカpH調整液(W’−2)〜(W’−4)を作成した。
【0126】
実施例50〜52〔水性塗料組成物30〜32の調製〕
前記合成例1で合成したカチオン性ポリウレタン樹脂(X−1−1)の水分散体114.3部(固形分40部)を攪拌しながら、ここにシラン縮合物分散体(Z−3) 483部(シラン縮合物(I−3)含有量60部)を徐々に滴下した。さらに、溶液を攪拌しながら3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン 51.6部を滴下して30分攪拌後水性塗料組成物30を得た。以下同様に、カチオン性樹脂(X)、ノニオン性樹脂(Y)、シラン縮合物(I)、架橋剤(V)がそれぞれ表11に書かれた質量比率になるように配合して、水性塗料組成物31〜32を調製した。
【0127】
実施例53〜57〔水性塗料組成物33〜37の調製〕
シラン縮合物分散体(Z−3)806.5部(シラン縮合物(I−3)含有量100部)を攪拌しながら、3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン 86.0部を滴下して30分攪拌後水性塗料組成物34を得た。以下同様に、シラン縮合物(I)、架橋剤(V)がそれぞれ表11〜12に書かれた質量比率になるように配合して、水性塗料組成物34〜37を調製した。
【0128】
実施例58〜64〔水性塗料組成物38〜44の調製〕
シラン縮合物分散体(Z−3)806.5部(シラン縮合物(I−3)含有量100部)を攪拌しながら、コロイダルシリカpH調整液(W’−1)166.7部(SiO含有量25部)を徐々に滴下した。さらに、溶液を攪拌しながら3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン 129.0部を滴下して30分攪拌後水性塗料組成物38を得た。以下同様に、シラン縮合物(I)、架橋剤(V)、無機微粒子(W)がそれぞれ表12〜13に書かれた質量比率になるように配合して、水性塗料組成物39〜44を調製した。なお、無機微粒子は調整液(W’−1)〜(W’−4)中に含まれるSiOの質量として表中の値を記載している。
【0129】
比較例7〔比較水性塗料組成物4の調製〕
前記合成例4で合成したポリビニルアルコール(Y−2)の水溶液400.0部(固形分40部)を攪拌しながら、ここに日産化学工業株式会社製品スノーテックスC(SiO分20wt%、pH8.5) 300部(SiO含有量60部)を徐々に滴下して、比較水性塗料組成物4を得た。
【0130】
比較例8〔比較水性塗料組成物5の調製〕
コロイダルシリカpH調整液(W’−4)667部(SiO含有量100部)を攪拌しながら、ここに3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン 129.0部を徐々に滴下して、30分攪拌後比較水性塗料組成物5を得た。
【0131】
保存安定性試験の評価は、シラン縮合物分散体(Z)を評価する場合と同様に行った。
【0132】
【表6】

【0133】
【表7】

【0134】
【表8】

【0135】
【表9】

【0136】
【表10】

【0137】
【表11】

【0138】
【表12】

【0139】
【表13】

【0140】
【表14】

【0141】
表6〜表14の脚注:
GPTES:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6041」)
ECyTMS:2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン (東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z‐6043」)
GPDMS:3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製品「Z−6044」)
【0142】
実施例65〜108 〔有機無機複合塗膜1〜44〕
実施例21〜64で得た水性塗料組成物1〜44を、ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜1〜塗膜44)を得た。
【0143】
実施例109
実施例23で得た水性塗料組成物3をポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、80℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜45)を得た。
【0144】
実施例113
実施例23で得た水性塗料組成物3をポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、23℃で24時間乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜46)を得た。
【0145】
比較例9〜13
比較例4〜8で得た比較水性塗料組成物1〜5を、ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの比較有機無機複合塗膜(比較塗膜1〜比較塗膜5)を得た。ここで得られた比較塗膜5はクラックが発生した。
【0146】
得られた塗膜1〜46及び比較塗膜1〜5の物性測定結果を表15〜21に示す。なお、塗膜の評価は以下の手法により行った。
【0147】
耐磨耗性
学振式磨耗試験機(大栄科学精器製作所製品、RT−200)にて評価を行った。
磨耗体:スチールウール(日本スチールウール株式会社製、商品名ボンスター、品番No.0000)
荷重:500g
往復回数:250回
表の数字は、試験前後の塗膜の濁度の差を数値化したものであり、数字が小さいほど耐磨耗性が良好であることを示す。
【0148】
耐汚染性
塗膜に黒マジックでそれぞれ幅10mmの線を引き、4時間経過後にメチルエチルケトンで拭き取り、試験前後の塗膜の変化を目視で判定した。
○:色残りなし。
×:色残りあり。
【0149】
耐水性
下記温度の水中に塗膜を浸漬し、塗膜の表面状態変化の有無を目視で判定した。
◎:40℃の水2週間浸漬後、変化なし。
○:40℃の水1週間浸漬後、変化なし。
△:25℃の水1週間浸漬後、変化なし。
×:25℃の水1週間浸漬後、塗膜が溶解した。
【0150】
耐溶剤性
メチルエチルケトンを染み込ませたガーゼで500g荷重をかけてラビング試験を50往復行い、試験前後の塗膜の変化を目視判定した。
○:変化なし。
△:一部塗膜白化。
×:塗膜全面白化。
【0151】
塗膜状態
塗膜の状態を目視で評価した。
○:塗膜が透明。
×:塗膜に割れを生じた。
【0152】
【表15】

【0153】
【表16】

【0154】
【表17】

【0155】
【表18】

【0156】
【表19】

【0157】
【表20】

【0158】
【表21】

【0159】
実施例65で得られた有機無機複合塗膜1及び、実施例68で得られた有機無機複合塗膜4、比較例12で得られた比較用有機無機複合塗膜4の断面を透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、日本電子株式会社製)にて観測を行い、得られた画像をそれぞれ図1〜3に示した。透過型電子顕微鏡では、原子番号の大きい成分を含む相が電子線を透過しにくいために黒色に観測される。そのため、これらの塗膜においては、シラン縮合物由来の部分が黒色に、ポリマー由来の部分が白色に観測される。これにより、有機無機複合塗膜1においては、塗膜中にカチオン性樹脂の微粒子が均一に分散している様子を確認することができる。また、有機無機複合塗膜4においては、シラン縮合物由来の部分とポリマー由来の部分が、数ナノ以下の大きさで複合化していることが確認できる。さらに、比較用有機無機複合塗膜4においては、ポリマーの連続相の中に無機微粒子が分散している構造となっており、相構造が逆転していることを確認することができる。その他の実施例で得られた塗膜についても、ポリマー微粒子がシラン縮合物連続相中に分散していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】実施例65によって得られた有機無機複合塗膜1の断面構造の透過型電子顕微鏡写真である。
【0161】
【図2】実施例68によって得られた有機無機複合塗膜4の断面構造の透過型電子顕微鏡写真である。
【0162】
【図3】比較例12によって得られた比較有機無機複合塗膜4の断面構造の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性樹脂(X)の水性分散体、又はノニオン性樹脂(Y)の水溶液若しくは水分散体と、
下記一般式(1)
【化1】

(式中、aは0〜3の整数であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれるR、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表されるシラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物と、
アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物と、を
前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比(A1)/(B1)が50/50〜90/10の範囲になるように用いて縮合して得られる縮合物(I)と、
酸(II)と、を含有することを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記カチオン性樹脂(X)がカチオン性ウレタン樹脂(X−1)又はカチオン性アクリル樹脂(X−2)である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記カチオン性樹脂(X)の水性分散体における該カチオン性樹脂(X)からなる粒子の平均粒子径が0.01〜0.4μmの範囲である請求項1又は2記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記酸(II)のpKaが5以下であり、25℃の水に対して2重量%以上溶解するものである請求項1〜3の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記酸(II)が酢酸、マレイン酸、及び塩酸からなる群から選ばれる一種以上の酸である請求項4記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記シラン化合物(A)がテトラアルコキシシランである請求項1〜5の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前記シラン化合物(B)が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、bは0〜2の整数であり、Rはアミノ基を有する一価の有機基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれる場合のR、Rは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される化合物である請求項1〜6の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
前記シラン化合物(B)が、3−アミノプロピルアルコキシシランである請求項7記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
更に架橋剤(V)を含有する請求項1〜8の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項10】
更に無機酸化物微粒子(W)を含有する請求項1〜9の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項記載の水性塗料組成物を基材上に塗布し乾燥して得られることを特徴とする有機無機複合塗膜。
【請求項12】
有機無機複合塗膜中における前記カチオン性樹脂(X)又はノニオン性樹脂(Y)の割合が70質量%以下である請求項11記載の有機無機複合塗膜。
【請求項13】
下記一般式(1)
【化3】

(aは0〜3の整数であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれるR、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表されるシラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物と、
アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物と、を
前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比(A1)/(B1)が50/50〜90/10の範囲になるように用いて縮合して得られる縮合物(I)と、
酸(II)と、水(III)とを含有することを特徴とするシラン縮合物分散体。
【請求項14】
前記酸(II)のpKaが5以下であり、25℃の水に対して2重量%以上溶解するものである請求項13記載のシラン縮合物分散体。
【請求項15】
前記酸(II)が酢酸、マレイン酸、及び塩酸からなる群から選ばれる一種以上の酸である請求項14記載のシラン縮合物分散体。
【請求項16】
前記シラン縮合物分散体のpHが6以下である請求項13〜15の何れか一項記載のシラン縮合物分散体。
【請求項17】
前記シラン化合物(A)がテトラアルコキシシランである請求項13〜16の何れか一項記載のシラン縮合物分散体。
【請求項18】
前記シラン化合物(B)が、下記一般式(2)
【化4】

(式中、bは0〜2の整数であり、Rはアミノ基を有する一価の有機基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれる場合のR、Rは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される化合物である請求項13〜17の何れか一項記載のシラン縮合物分散体。
【請求項19】
前記シラン化合物(B)が、3−アミノプロピルアルコキシシランである請求項18記載のシラン縮合物分散体。
【請求項20】
更に架橋剤(V)を含有する請求項13〜19の何れか一項記載のシラン縮合物分散体。
【請求項21】
更に無機酸化物微粒子(W)を含有する請求項13〜20の何れか一項記載のシラン縮合物分散体。
【請求項22】
下記一般式(1)
【化5】

(aは0〜3の整数であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれるR、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表されるシラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物と、
アミノ基を有するシラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物と、を酸(II)を用いて縮合を行う際に、
前記シラン化合物(A)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(A1)と前記シラン化合物(B)及び/又はその部分縮合物の完全縮合後の質量(B1)との比(A1)/(B1)が50/50〜90/10の範囲であり、且つ〔酸(II)のモル数×酸(II)の価数〕/〔前記シラン化合物(B)及び/またはその部分縮合物中のアミノ基のモル数〕が、1.0以上になるように用いて、水の存在下で縮合を行うことを特徴とするシラン縮合物分散体の製造方法。
【請求項23】
前記酸(II)が酢酸、マレイン酸、及び塩酸からなる群から選ばれる一種以上の酸である請求項22記載のシラン縮合物分散体の製造方法。
【請求項24】
前記シラン化合物(A)がテトラアルコキシシランである請求項22又は23記載のシラン縮合物分散体の製造方法。
【請求項25】
前記シラン化合物(B)が、下記一般式(2)
【化6】

(式中、bは0〜2の整数であり、Rはアミノ基を有する一価の有機基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシ基、クロル基、又はヒドロキシ基であって、複数個含まれる場合のR、Rは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される化合物である請求項22〜24の何れか一項記載のシラン縮合物分散体の製造方法。
【請求項26】
前記シラン化合物(B)が、3−アミノプロピルアルコキシシランである請求項25記載のシラン縮合物分散体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274242(P2008−274242A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80379(P2008−80379)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】