説明

水性平版印刷インキならびに印刷物

【課題】水を媒体とし、高速印刷適性、着肉性、地汚れ耐性に優れた水性平版印刷インキである。印刷後は水で洗浄が可能であり、地球環境、作業環境の改善が図られるものである水性平版印刷インキを提供する。
【解決手段】(a)顔料、(b)カルボキシル基含有水性樹脂とオキサゾリン化合物とを反応させてなるアミドエステル架橋構造を有する水性樹脂、(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物ならびに(d)水を含有することを特徴とする水性平版印刷インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規にして有用なる水性平版印刷インキならびに印刷物に関する。さらに詳しくは、水無し平版印刷に好適に用いられる平版印刷インキならびに印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、高速、大量、安価に印刷物を供給するシステムとして広範に用いられている。平版印刷は非画線部に湿し水を供給し、湿し水とインキ反発性を利用し画像部と非画像部を形成してなるシステムである。
【0003】
近年、湿し水に関わる作業、環境上の問題を解決する方法として、水なし平版印刷法が提案され、特に湿し水に代わってインキ反発性を示すことを目的として非画線部にシリコーンゴムを設けて印刷する水無し平版印刷方法が実用化されている。
【0004】
一般に平版インキは、顔料、インキ用樹脂、石油系溶剤および植物油を主成分として形成されている。石油系溶剤においても地球環境保全、労働環境保全の観点から、脱芳香族化が行われている。さらに昨今では、より一層環境保全を配慮した、揮発性の石油系溶剤を一切含有しないVOCフリータイプのインキへのニーズが高まっている。VOCとは、常温で揮発する化合物のことである。米国環境保護庁はVOC測定方法として、110℃1時間の加熱による加熱残分測定を提示しており、実使用に即した測定方法として用いられている。
【0005】
上記VOCフリータイプのインキとしては、金属ドライヤーを添加して酸化重合することにより印刷皮膜を形成する枚葉印刷インキではすでに実用化されているが、熱風乾燥機中で溶剤を蒸発することにより印刷皮膜を形成するオフ輪印刷インキでは、まだ実用化されていない。
【0006】
さらに、印刷後の平版インキの洗浄剤としては揮発性溶剤を含む洗浄剤を使用することが一般的である。洗浄剤においても環境的な観点から揮発性有機成分を含まないことが望ましい。特許文献1〜4には、水を媒体とし、水洗浄可能な水性平版印刷インキを使用した水性平版印刷について開示されており、水性印刷インキとして使用されているのはフレキソインキもしくはそれに類似した構成、物性のインキである。しかしながら、フレキソインキの物性では、高速印刷適性、着肉性、地汚れ耐性、耐水性、耐摩擦性において不十分なものがあった。
【特許文献1】特開平7−232485号公報
【特許文献2】特開平8−310101号公報
【特許文献3】特開平8−169188号公報
【特許文献4】特開2001−117218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決し、高速印刷適性、着肉性、地汚れ耐性に優れた水性平版印刷インキならびに印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、高速印刷適性、着肉性、地汚れ耐性に優れ、さらに水洗浄可能な水性平版印刷インキを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(a)顔料、(b)カルボキシル基含有水性樹脂とオキサゾリン化合物とを反応させてなるアミドエステル架橋構造を有する水性樹脂、(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物ならびに(d)水を含有することを特徴とする水性平版印刷インキに関するものである。
【0010】
また、本発明は、さらに、(e)植物油または植物油由来脂肪酸エステルを含有することを特徴とする上記の水性平版印刷インキに関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、さらに、(f)水溶性の有機酸もしくは無機酸またはそれらの塩を含有することを特徴とする上記の水性平版印刷インキに関するものである。
【0012】
また、本発明は、110℃1時間での加熱による有機化合物の揮発分が水性平版印刷インキ全体に対して1重量%以下であることを特徴とする上記の水性平版印刷インキに関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、基材上に、上記の水性平版印刷インキを印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる、水性平版印刷インキは、水を媒体とし、高速印刷適性、着肉性、地汚れ耐性に優れた水性平版印刷インキである。印刷後は水で洗浄が可能であり、地球環境、作業環境の改善が図られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明で用いられる(a)顔料としては、無機顔料および有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉等が、有機顔料としては、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系、β−オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系、ピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系モノアゾ、アセト酢酸アリリド系ジスアゾ、ピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素または臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドン系、ジオキサジン系、スレン系(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系等)、イソインドリノン系、金属錯体系、キノフタロン系等の多環式顔料および複素環式顔料等の公知公用の各種顔料が使用可能である。
【0016】
次に、(b)カルボキシル基含有水性樹脂とオキサゾリン化合物とを反応させてなる水性樹脂について説明する。
【0017】
カルボキシル基含有水性樹脂としてはアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂等が挙げられる。その他、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、カルボキシル基含有水性樹脂であれば特に限定されるものではない。市販の樹脂も好適に使用することができる。
【0018】
アクリル樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種以上の単量体を付加重合して得られる樹脂である。カルボキシル基を含有させるためには、単量体成分としてアクリル酸、メタクリル酸等を付加重合することが必須である。水酸基、アミノ基等の官能基を分子中に含有する共単量体を用いることもできる。さらに酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル単量体を一部共重合することも可能である。水性の樹脂を得るためには、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有単量体を共重合した後に、塩基性化合物でカルボキシル基の一部または全部を中和することが必要である。また、水性化を容易にするために、親水性のポリエチレンオキサイド基を含有する単量体を共重合することも可能である。酸価としては、30〜350の範囲がインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量としては、2000〜100000の範囲が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0019】
スチレンアクリル樹脂とは、上記アクリル樹脂においてスチレンを単量体成分として含有する樹脂である。アクリル樹脂と同様に、水酸基、アミノ基等の官能基を分子中に含有する共単量体を用いることもできる。さらに酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル単量体を一部共重合することも可能である。水性の樹脂を得るためには、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有単量体を共重合した後に、塩基性化合物でカルボキシル基の一部または全部を中和することが必要である。また、水性化を容易にするために、親水性のポリエチレンオキサイド基を含有する単量体を共重合することも可能である。酸価としては、30〜350の範囲がインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量としては、2000〜100000の範囲が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0020】
スチレンマレイン酸樹脂とは、スチレンと無水マレイン酸を共重合して得られる樹脂である。他の単量体を一部共重合することもできる。さらに、水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物で一部変性しても構わない。酸無水物基または変性後のカルボキシル基の一部または全部を塩基性化合物で中和することにより水性樹脂を得ることができる。酸無水物基は水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物、及び水等で容易に開環しカルボキシル基を与える。酸価としては、30〜450の範囲がインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量としては、2000〜100000の範囲が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0021】
α−オレフィンマレイン酸樹脂とは、α−オレフィンと無水マレイン酸を共重合して得られる樹脂である。他の単量体を一部共重合することもできる。さらに、水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物で一部変性しても構わない。酸無水物基または変性後のカルボキシル基の一部または全部を塩基性化合物で中和することにより水性樹脂を得ることができる。酸無水物基は水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物、及び水等で容易に開環しカルボキシル基を与える。酸価としては、30〜450の範囲がインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量としては、2000〜100000の範囲が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0022】
本発明で用いられるオキサゾリン化合物とは、分子内に2−オキサゾリン基を少なくとも2つ以上有する化合物であり、2−オキサゾリン基を分子内に有する化合物であれば得に限定されず、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド、ならびに重合性不飽和結合を有するオキサゾリン化合物とスチレン、アクリルモノマー等との重合物等が挙げられる。重合性不飽和結合を有するオキサゾリン化合物としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができる。市販品としては日本触媒社製エポクロスWS−500、WS−700、RPS−1005が例示される。これらオキサゾリン化合物は、水性樹脂中のカルボキシル基と加熱反応し、アミドエステル架橋構造を形成する。
【0023】
つまり、(b)カルボキシル基含有水性樹脂とオキサゾリン化合物とを反応させてなるアミドエステル架橋構造を有する水性樹脂は、そのアミドエステル架橋構造により水性インキの凝集力を高め、高粘度化することにより良好な地汚れ耐性、インキ転移性、高速印刷適正を発現できるものと推定される。
【0024】
カルボキシル基含有水性樹脂とオキサゾリン化合物とは、2−オキサゾリン基/カルボキシル基=0.02〜0.4の範囲で反応させるのが望ましい。この範囲以下ではその効果が得られ難く、これ以上であるとインキ粘度が増大しすぎ、流動性が大きく劣化し好ましくない。また、この反応は必要に応じて有機溶媒、もしくは水存在下で行うことができる。カルボキシル基含有水性樹脂を、その水性化前に有機溶媒存在下でオキサゾリン化合物と反応させ、後に残カルボキシル基を塩基性化合物で中和、水性化することも可能であり、またカルボキシル基含有水性樹脂を塩基性化合物で中和した後、水存在下でオキサゾリン化合物と反応させることも可能である。反応温度は80℃〜200℃が好ましい(水存在下では100℃以下)。
【0025】
(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物としては、分子中に水酸基またはアミノ基を含有するものであれば特に限定されるものではない。
【0026】
水酸基含有化合物の例としてはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラチレングリコールモノメチル、テトラチレングリコールモノエチル、テトラエチレングリコールモノn−ブチル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、アセチレンジオール、ジアセトンアルコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600等が挙げられる。
【0027】
アミノ基含有化合物としては、モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、2−アミノ−1−ブタノール、4−アミノ−1−ブタノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン等が挙げられる。
【0028】
(d)水は水性平版印刷インキ全体に対して5〜50重量%添加使用されることが好ましい。
【0029】
(e)植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等が例示できる。また、植物油由来脂肪酸エステルとして、上記植物油由来の脂肪酸、すなわち、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等炭素数15〜20程度のアルキル主鎖を有する脂肪酸の、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等の炭素数1〜10程度のアルキルエステルが例示できる。
【0030】
これら植物油、植物油由来脂肪酸エステルは水性樹脂との相溶性が良くないため、版面との接触によりインキ中から拡散するものと思われる。すなわちWFBLモデルにより、地汚れ耐性が格段に向上するものと考える。また植物油または植物油由来脂肪酸エステルは水性平版印刷インキ全体に対して1〜30重量%含有されることが好ましい。この範囲以下ではその効果が認められにくく、これ以上であると、印刷機上での安定性を損なうことになる。
【0031】
さらに、使用する植物油、植物油由来脂肪酸エステルはヨウ素価が130以上の乾性油に分類されるものが望ましい。乾性油はその不飽和脂肪酸基の酸化重合による、硬化皮膜形成速度が速く、その皮膜強度も高い。そのため、インキ皮膜の耐水性、耐摩擦性を向上させることができる。ヨウ素価130以上の植物油としてはアマニ油、サフラワー油、桐油、脱水ヒマシ油等が例示でき、植物油由来脂肪酸エステルとしては、これら植物油由来のアルキルエステルが例示できる。
【0032】
さらに、使用する植物油及び植物油由来脂肪酸エステルがその脂肪酸基として、共役二重結合を有するリノレン酸、エレオステアリン酸等を20%以上含む場合が最も好適である。このような植物油及び植物油由来脂肪酸エステルは、硬化皮膜形成速度、皮膜強度が特に高くなり易く好ましい。この植物油としてアマニ油、桐油等が例示でき、植物油由来脂肪酸エステルとしては、これら植物油由来のアルキルエステルが例示できる。
【0033】
(f)水溶性の有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸、シュウ酸、マロン酸、フィチン酸、p−トルエンスルホン酸、有機ホスホン酸等が例示できる。無機酸としては、リン酸、メタリン酸、硫酸等が例示できる。また塩としては、上記の有機酸または無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、あるいはアンモニウム塩挙げられ、具体的には、クエン酸2水素カリウム、クエン酸水素2アンモニウム、酒石酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、メタリン酸ナトリウム等が例示できる。これら化合物の水溶液のpHは3から7の範囲の酸性領域が好ましい。
【0034】
これら水溶性の有機酸もしくは無機酸またはそれらの塩は、インキ中に添加することで、インキ凝集力が増大し、高粘度化することにより、良好な地汚れ耐性を発現できるものと思われる。また、これら水溶性の有機酸もしくは無機酸またはそれらの塩は10〜50%の水溶液としてインキ、またはその原料であるワニス(インキ用ビヒクル)に添加するのが取り扱い上簡便であり好ましい。インキ中には固形分換算で全インキ中0.1〜10重量%、さらには0.3〜5重量%添加するのが好適である。
【0035】
次に、本発明における平版印刷インキとしての使用形態について説明する。本発明における平版印刷インキは、通常平版印刷インキ、例えば枚葉インキ、ヒートセット輪転インキ、コールドセット輪転インキ等の形態において使用される。一般的には、
(a)顔料 5〜30重量%
(b)水溶性樹脂 10〜40重量%
(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物 1〜40重量%
(d)水 5〜50重量%
(e)植物油または植物油由来脂肪酸エステル 1〜30重量%
(f)水溶性の有機酸、無機酸またはそれらの塩 0.1〜10重量%
(g)その他添加剤 0〜40重量%
からなる組成にて使用される。
【0036】
VOC(揮発性有機化合物)フリータイプのインキとして使用する際には、上記組成において、VOC成分を0重量%とすればよい。VOCとは、常温で揮発する有機化合物のことである。米国環境保護庁はVOC測定方法として、110℃1時間の加熱による加熱残分測定を提示しており、実使用に即した測定方法として広く用いられている。オフ輪印刷機乾燥機中での紙面温度にも適応しており、合理的な判定方法と考えられる。
【0037】
樹脂は、必要に応じて塩基性化合物を添加して水に溶解または分散させた樹脂ワニスの形態で使用するのが取り扱い上簡便であって好ましい。
【0038】
本発明の平版印刷インキは、5℃から100℃の間で、顔料、樹脂またはワニス等の平版印刷インキ成分を、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサー、ペイントシェーカー等の練肉、混合、調整機を用いて製造される。
【0039】
平版印刷インキの粘度は、コーンプレート型回転式粘度計により測定された25℃、ずり速度120s−1の粘度が10Pa・s以上であることが好ましい。上記範囲以外では高速印刷適性、着肉性の面で不十分になり易く好ましくない。
【0040】
さらに、本発明の平版印刷インキには、必要に応じてその他の添加剤を使用することが可能である。例えば、耐摩擦剤、ブロッキング防止剤、スベリ剤、スリキズ防止剤としては、カルナバワックス、木ロウ、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、およびシリコーン化合物等の合成ワックスを例示することができる。
【実施例】
【0041】
次に具体例をもって、本発明を詳細に説明する。尚、本発明中、「部」とは重量部を、「%」は重量%を示す。
インキの粘度はハーケ(HAAKE)社製コーンプレート回転型粘度計ロトビスコ1(RotoVisco1)にて25℃、ずり速度120s−1での値を測定した。
【0042】
(樹脂製造例1)
ジエチレングリコール150部を、攪拌機、還流冷却管、温度計付きフラスコに仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸70部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30部、シクロヘキシルメタクリレート200部、パーブチルO(日本油脂(株)製過酸化物、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。その後さらに、WS−700((株)日本触媒製オキサゾリン化合物、固形分25%)50部を添加し、130℃2時間反応させた。次いで、N−モノエタノールアミン55部、イオン交換水310部を添加し、90℃1時間保持させた。その後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水溶性樹脂(A1)を得た。
【0043】
(樹脂製造例2)
樹脂製造例1と同様の装置に、ポリエチレングリコール400 150部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸90部、n−ブチルアクリレート10部、スチレン200部、パーブチルO 9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。その後さらに、WS−500((株)日本触媒製オキサゾリン化合物、固形分39%)22部を添加し、130℃2時間反応させた。次いで、トリエタノールアミン175部、イオン交換水220部を添加し、90℃1時間保持させた。その後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水溶性樹脂(A2)を得た。
【0044】
(樹脂製造例3)
樹脂製造例1と同様の装置に、プロピレングリコール150部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、無水マレイン酸70部、スチレン230部、パーブチルO 9部を3時間かけて添加した。添加終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。その後さらに、1,3−フェニレンビスオキサゾリン15部を添加し、130℃2時間反応させた。次いで、N−モノエタノールアミン75部、イオン交換水340部を添加し、90℃1時間保持させた。その後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水溶性樹脂(A3)を得た。
【0045】
(樹脂製造例4)
樹脂製造例1と同様の装置に、ジエチレングリコール150部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸70部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30部、シクロヘキシルメタクリレート200部、パーブチルO(日本油脂(株)製過酸化物、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。次いで、N−モノエタノールアミン59部、イオン交換水330部を添加し、90℃1時間保持させた。その後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水溶性樹脂(A4)を得た。
【0046】
(樹脂製造例5)
樹脂製造例1と同様の装置に、ポリエチレングリコール400 150部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸90部、n−ブチルアクリレート10部、スチレン200部、パーブチルO 9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。次いで、トリエタノールアミン186部、イオン交換水200部を添加し、90℃1時間保持させた。その後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水溶性樹脂(A5)を得た。
【0047】
[実施例1]
リオノールブルーFG7330(東洋インキ製造(株)製藍顔料)20部、樹脂製造例1で得られた水性樹脂(A1)55部、ジエチレングリコール10部、イオン交換水7.9部、大豆油5部、50%メタリン酸ナトリウム水溶液2部、およびシリコーン消泡剤0.1部の混合物をレッドデビル型ペイントコンディショナーで30分間混練し、粘度60Pa・sの平版印刷インキを作成した。
【0048】
[実施例2〜7、比較例1〜3]
表1に示した配合比率にて、実施例1と同様に平版印刷インキを作成した。実施例2、7および比較例2のインキはVOC成分を0重量%とした。
【0049】
【表1】

【0050】
(枚葉印刷試験評価)
実施例1〜7および比較例1〜3のインキを、三菱ダイヤI−4枚葉印刷機(三菱重工(株)製)にて5,000枚/時で用紙をSKコート 4/6 90kg(日本製紙(株)製)、版面温度27〜30℃、印刷版HG−2(東レ(株)製)として各インキ8千枚の印刷試験を行い、ベタ着肉、地汚れ、耐水性、耐摩擦性の状態を比較した。ベタ着肉状態、地汚れは、印刷物目視により評価し、耐水性は含水綿棒で3回擦った後の印刷物表面を目視評価した。耐摩擦性は東洋精機製学振型摩擦試験器にて、荷重100g、10往復の条件で対紙にアート紙白紙面を用いて目視評価した。結果を表2に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
(オフ輪印刷試験評価)
実施例1〜7および比較例1〜3のインキを、三菱BT2−800NEOオフ輪印刷機(三菱重工(株)製)にて300rpmで用紙をNPIコート紙66.5kg(日本製紙(株)製)、印刷版TAP(東レ(株)製)として各インキ1万5千枚の印刷試験を行い、印刷物のベタ着肉、地汚れ、耐水性、耐摩擦性の状態を比較した。ベタ着肉状態、地汚れは、印刷物目視により評価し、耐水性は含水綿棒で3回擦った後の印刷物表面を目視評価した。耐摩擦性は東洋精機製学振型摩擦試験器にて、荷重100g、10往復の条件で対紙にアート紙白紙面を用いて目視評価した。結果を表3に示した。
【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、水を媒体とする水性平版印刷インキを提供することであり、本発明の水性平版印刷インキは、優れた高速印刷適性、着肉性、汚れ耐性を有する。さらには、印刷後に、水で印刷機および版の洗浄が可能で、地球環境、作業環境の改善が図られるものであり、その工業的価値は、極めて高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顔料、(b)カルボキシル基含有水性樹脂とオキサゾリン化合物とを反応させてなるアミドエステル架橋構造を有する水性樹脂、(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物ならびに(d)水を含有することを特徴とする水性平版印刷インキ。
【請求項2】
さらに、(e)植物油または植物油由来脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求項1記載の水性平版印刷インキ。
【請求項3】
さらに、(f)水溶性の有機酸もしくは無機酸またはそれらの塩を含有することを特徴とする請求項1または2記載の水性平版印刷インキ。
【請求項4】
110℃1時間での加熱による有機化合物の揮発分が水性平版印刷インキ全体に対して1重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の水性平版印刷インキ。
【請求項5】
基材上に、請求項1ないし4いずれか記載の水性平版印刷インキを印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2010−59332(P2010−59332A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227683(P2008−227683)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】