説明

水性防汚塗料組成物

【課題】海水中において優れた防汚効果を発揮し、実質的に有機溶剤を含まないため作業者および環境に与える影響の少ない、水性防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】2価金属化合物を含む金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物とジチオカルバミン酸化合物とを含み、揮発性有機溶剤を実質的に必要としない水性防汚塗料組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物を用いた水性防汚塗料組成物に関する。本発明は、魚網、船底などの海中構造物への海中生物および藻類の付着を防止するための塗膜を形成することができる水性防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚塗料組成物は、商業上、船底や魚網などの海洋構造物上における生物の生長を防止するのに用いられている。定置網や養殖網などに代表される魚網においては、海水中に長期間設置されるため、さまざまな植物類または動物類が付着する。例えば、フジツボ、ヒドロ虫等の有害生物が付着することにより網目を閉塞し、域内の水質悪化、酸素欠乏などを引き起こす。また、このような付着生物のために魚網の重量が増加することになり、これを取り扱う作業者への負担が大きいものとなっている。
【0003】
従来、トリブチルチンオキサイドのような有機スズ化合物が、主要な海洋防汚剤として防汚塗料組成物に用いられてきた。しかし、近年においては、海中環境におけるスズの影響について、その毒性の強さから感心が高まっており、有機スズ化合物の防汚塗料への使用は制限されている。そのため、有機スズ化合物に替わる海洋防汚剤を含むさまざまな防汚塗料組成物が提案されている。
【0004】
海洋防汚剤として他の有機化合物が提案されている米国特許第5,071,479号には、3−ヨードプロバギルN−ブチルカルバメートの使用が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この組成物は、有機スズ化合物を含む防汚塗料と同等の性能を示すことができず、商業的には優れた効果を示すことができなかった。
【0005】
また、その他の海洋防汚剤として、ジチオカルバミン酸化合物が有効であることは古くから知れられており、防汚塗料に用いられている。ジチオカルバミン酸化合物を含む防汚塗膜を形成するために、樹脂成分を含むさまざまな塗料組成が提案されている。樹脂成分自体の防汚性能の観点から2価の金属を含有する樹脂を用いる防汚塗料組成物が特開昭62−57464号公報において提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかし、これら従来から提案されている防汚塗料組成物は、金属含有樹脂を調製するために揮発性有機溶剤を用いているので、その塗料組成物は有機溶剤を含有する。そのため、有機溶剤の臭気やその揮発性に関連して、取り扱いに問題があった。また、溶液重合法により調製された樹脂は、その重量平均分子量が2000から数万と比較的小さく、造膜性樹脂として基体に対する密着性を望ましい程度まで提供することができなかった。そのため、これらの樹脂を用いた水中防汚塗料は、密着性を向上する添加剤等を別途必要とするものであった。
【0007】
上記の問題に対しては、高分子量樹脂を提供することができる乳化重合により調製された樹脂を用いる水系防汚塗料が提案されている。しかし、基体に対する防汚塗料の密着性は高分子量のエマルジョン樹脂を用いることにより改善され得るが、一般的に、水中における樹脂の溶出速度が相対的に速くなり、水中に用いる塗料としての要求を満たすことができなかった。そのため、各種添加剤やポリイソブチレンなどの粘性の高い樹脂を必須成分として、防汚塗料を調製する必要がある。特開平9−52803号公報には、N−アルキルポリアミン化合物を有効成分とし、水性エマルジョンを含む水性防汚剤が開示されている(特許文献3)。また、特開平11−193203号公報には、ジチオカルバミン酸化合物を有効成分とし、アクリル樹脂とポリイソブチレンとの混合樹脂と溶剤調整剤としてセルロース誘導体を含む魚網防汚剤が開示されている(特許文献4)。特開2005−213336号公報では、特定の数平均分子量を有するポリブテンのエマルジョンを含む水性防汚塗料組成物が開示されている(特許文献5)。
【0008】
しかしながら、ポリブテンやポリイソブチレンはアクリル樹脂と相容性が悪く、塗料組成物において分離が起き易く、塗布の際に撹拌を行っても均一な塗膜を形成することが容易ではないという問題がある。
【特許文献1】米国特許第5,071,479号明細書
【特許文献2】特開昭62−57464号公報
【特許文献3】特開平9−52803号公報
【特許文献4】特開平11−193203号公報
【特許文献5】特開2005−213336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の有機溶剤を溶媒とする非水性の防汚組成物に替わる水性の防汚塗料組成物を提供することを目的とする。すなわち、揮発性有機溶媒による人体及び環境に与える悪影響を少なくし、取り扱い上安全で、密着性に優れ、かつ均一な塗膜を形成することができる、防汚効果の優れた、水性防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、海洋防汚剤としてジチオカルバミン酸化合物を用い、特定のアクリル水性エマルジョン組成物を造膜性樹脂成分として用いる。すなわち、本発明は、ジチオカルバミン酸化合物、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物および水を含む水性防汚塗料組成物であって;
該水性防汚塗料組成物はポリブテンを含まず、
前記金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、
(i)(a)単量体の全重量を基準として3〜90重量%の、酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体またはそのアルカリ金属塩と(b)単量体の全重量を基準として10〜97重量%の、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和単量体とを乳化重合することにより調製されたアクリル水性エマルジョン組成物中の、共重合体と、
(ii)2価金属化合物
とを、当該共重合体のガラス転移温度より10℃高い温度を超え、かつ当該共重合体の分解温度未満の温度で反応させることにより得られるものである;
水性防汚塗料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性防汚塗料組成物を用いることにより、人体および環境への負荷が少なく、海洋防汚剤を塗料組成物中に均一に分散することができ、かつ、均一な防汚塗膜を形成することができる。また、本発明の防汚塗料組成物により、均一な塗膜が海洋防汚剤の溶出を均一に制御することができ、かつ、造膜樹脂の溶出による防汚効果の相乗効果を有する防汚塗料を提供することを見出し、本発明に至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水性防汚塗料組成物は、ジチオカルバミン酸化合物と、2価金属を含む金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物と、水を含有する。
【0013】
本発明に用いる金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、アクリル共重合体および2価金属を必須成分として含有する水性エマルジョン組成物である。かかる金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、本発明の必須の海洋防汚剤であるジチオカルバミン酸化合物と共に水性防汚塗料組成物を形成することが可能であり、また、塗布後の乾燥により形成する塗膜が海水中で徐々に溶解するため、防汚塗料塗膜に自己研磨性を与えるものである。
【0014】
本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物に含有されるアクリル共重合体は、水中に溶解し、または分散するものであり、かつ、その側鎖に酸性官能基を有する重合体である。共重合体中の酸性官能基は、公知の方法によりその酸性の度合い(共重合体の酸価としてあらわされる)を調整することが可能である。例えば、酸性官能基を有さないモノマーと、酸性官能基またはその塩、酸無水物基を有するモノマーを用いてアクリル共重合体を調製することにより、本発明のアクリル共重合体を得ることができる。好ましくは、全モノマー中の酸性官能基を有するモノマーが1重量%から90重量%、より好ましくは、3重量%から50重量%の範囲である。共重合体の酸価としては、1から270の範囲、好ましくは20から160の間である。酸性官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基、スルホン基またはホスホン基の1以上から選択される酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)が挙げられる。また、アクリル共重合体を調製するための酸性官能基を有さないモノマーは、共重合体の所望の特性により選択される。かかる酸性官能基を有さないモノマーとしては、アクリレートのようなエチレン性不飽和単量体(b)が挙げられる。
【0015】
ここで使用される次の用語は、明らかな断りのない限り、以下に示された定義を有する。用語「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルのいずれかを意味し、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートエステルのいずれか意味する。すべてのパーセントは、特に断りのない限り、含まれる組成物の総重量を基準とした重量パーセント(%)である。g=グラム、L=リットル、mL=ミリリットル、mm=ミリメートル、cm=センチメートル、rpm=一分あたりの回転数、温度は摂氏(℃)である。特に断りのない限り、数値範囲は両端の数字を含むものとする。また、他に明らかな断りのない限り、用語「酸性官能基」には、酸性官能基、その塩、酸無水物基またはこれらの組み合わせを包含するものとする。
【0016】
酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、アリル酢酸、エチリデン酢酸、プロピリデン酢酸、アクリロキシプロピオン酸などのような不飽和モノカルボン酸類、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、メチレンマロン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸、酸無水物およびこれらの塩;2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパン−スルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、3−メタクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−スルホプロピルアクリレート、スルホメチルアクリルアミド、スルホメチルメタクリルアミド、およびホスホエチルメタクリレートなどが挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。これらの単量体は、単独でも、または2種以上を混合しても使用することができる。酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体には、不飽和脂肪族ジカルボン酸の部分エステルも包含される。
酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)としては、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの塩が好ましい。
【0017】
エチレン性不飽和単量体(b)としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシ基またはアミノ基含有(メタ)アクリレート類、芳香族ビニル化合物、ビニルエステル類などエチレン性不飽和結合を有する単量体が挙げられる。
【0018】
アルキル(メタ)アクリレート類には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、3,5,5−トリメチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、セチルアクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデセニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、sec−アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−エチルブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、3,5,5−トリメチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレートなどが含まれる。
【0019】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート類としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレートなどが含まれる。アミノ基含有(メタ)アクリレート類としては、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどが含まれる。
【0020】
芳香族ビニル単量体には、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、エチルスチレン、ヒドロキシスチレン、ジメチルスチレンなどが含まれる。
【0021】
また、アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレン、イソブテン、イソプレン、ジアセントンアクリルアミドなどエチレン性不飽和結合を有する単量体もエチレン性不飽和単量体(b)に含まれる。
【0022】
エチレン性不飽和単量体(b)は、それぞれ単独でも、または2種以上を混合しても使用することができる。好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート類、芳香族ビニル化合物である。特に、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、スチレンまたはこれら2種以上が好ましい。
【0023】
本発明におけるアクリル共重合体は、当業者に公知の乳化重合方法により調製することができる。乳化重合の方法は、D.Cブラックリーによる乳化重合(ワイリー、1975年)に詳細に検討されている。一般的な乳化重合法については、米国特許第2,754,280号および第2,795,564号に記載されている。
【0024】
上記したように、慣用の乳化重合技術は、本発明に好適なアクリル共重合体を調製するために使用され得る。例えば、2種以上の単量体を、乳化剤および重合開始剤の存在下、水性媒体中において重合することによりアクリル共重合体を含むアクリル水性エマルジョン組成物を調製する。例えば、単量体の全重量に基づいて約0.5%から10%の陰イオン性、陽イオン性または非イオン性の分散剤により、単量体は乳化される。過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムなどのフリーラジカル型の重合開始剤は、単独で、またはメタ重亜硫酸カリウムまたはチオ硫酸ナトリウムなどの促進剤と共に用いられる。一般に触媒と呼ばれる開始剤および促進剤は、単量体の全重量に基づいてそれぞれ0.5%から2%の割合で使用される。重合温度は、典型的には、室温から90℃の間である。
【0025】
乳化重合に好適な乳化剤の例としては、アルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルスルホン酸、硫酸、ポリエーテル硫酸のアルカリ金属またはアンモニウム塩;同様のリン酸塩またはホスホン酸塩;脂肪酸のアルコキシル化誘導体、エステル、アルコール、アミン、アミドまたはアルキルフェノールなどが含まれる。
【0026】
メルカプタン、ポリメルカプタンおよびポリハロゲン化合物などの連鎖移動剤は、共重合体の分子量を調整するために使用されることが望ましい。
【0027】
その他、必要に応じて、還元剤、pH調整剤、キレート化剤などを添加して乳化重合を行ってもよく、当該技術は当業者によく知られている。
【0028】
本発明のアクリル共重合体は、好ましくは、0℃から90℃の範囲のガラス転移温度を有するものである。
ここで、用語「ガラス転移温度」または「Tg」は、他に断りのない限り、フォックス式(米国物理協会報、1巻(3)、123頁(1956年))によって計算される温度、すわなち、ガラス上の重合体が、重合鎖のセグメント運動を起こすであろう温度、またはそれより上の温度を意味する。
【0029】
本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、例えば、上記のように調製されたアクリル水性エマルジョン組成物を、含有されるアクリル共重合体のTgより10℃高い温度を超え(もしくは好ましくは該Tgより20℃高い温度を超え)、かつ当該共重合体の分解温度未満の温度に維持しつつ、アクリル水性エマルジョン組成物に適当な量の2価金属化合物を添加し、その後、反応が終了するまでの間、かかる温度を維持しつつ、アクリル共重合体と2価金属化合物の反応を維持することで調製することができる。反応の終了は、反応混合物の不透明度の低下、pHの値の上昇、2価金属化合物の添加により生じた沈殿物が消滅したことによって確認することができる。さらに反応が起こったか否かは、前記の確認に加え、得られた金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物の膜形成温度(最低造膜温度)が反応前のアクリル共重合体の膜形成温度(最低造膜温度)より高くなっていることにより確認することができ、最低造膜温度が高く(例えば5℃以上、10℃以上または15℃以上)なっていることは、反応が起こったことを示している。また、2価金属をアクリル水性エマルジョン組成物に添加した後において、反応系をさらにアクリル共重合体のTgより10℃高い温度を超え、かつ当該共重合体の分解温度未満の温度で加熱することも可能である。反応は、バッチ方式、連続重合方式、または半連続重合方式により行うことができる。
【0030】
本発明で使用される好適な2価金属化合物は、含まれる2価金属イオンがアクリル共重合体を架橋する能力を有する化合物である。これら2価金属のうち、本発明に有用な金属は、アルカリ土類金属または2価の遷移金属であり、具体的には、亜鉛、錫、カドミウム、ニッケル、ジルコニウム、ストロンチウム、コバルト、マグネシウム、カルシウム、銅、鉛、スズ、タングステン、アルミニウムなどが挙げられる。低毒性およびコストの観点から、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム、タングステン、マグネシウム、カルシウムおよびジルコニウムが好ましい。
【0031】
かかる2価金属イオンは、典型的には、対応する金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩、例えば、CaCO、ZnO、MgO、CuO、Mg(OH)、Ca(OH)、の微粉末または水性スラリーとしてアクリル水性エマルジョン組成物に添加される。
【0032】
2価金属化合物の最大添加量は、アクリル共重合体中の酸性官能基(その塩、無水物を含む)の量(当量)および用いられる2価金属の当量により決定される。2価の金属イオンは、化学量論的に、金属イオン1モル当たり2当量の酸性官能基と反応する。1価の金属イオンは、本発明において共重合体を適切に架橋することができない。2価金属化合物の添加量は、アクリル共重合体の酸性官能基の当量当たり、約15%から100%であることが好ましい。酸性官能基の化学量論的全当量より少ない当量の金属を用いることがより好ましく、アクリル共重合体の酸性官能基の当量当たり、約35%から80%の範囲である。未反応の金属化合物の存在は、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物の安定性を損なうことになり、また、形成される塗膜に金属化合物が残存することになり好ましくない。
【0033】
理論によって限定されることを意図しないが、上記のように2価金属イオンと特定の2以上のアクリル共重合体の酸官能基が反応することにより、2以上のアクリル共重合体が該金属を介して架橋される化学的な結合状態が形成されるものと考えられる。かかる架橋形態を有する金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、通常の架橋剤例えばN−メチロールアクリルアミド等により架橋されたエマルジョン組成物とは異なり、海洋防汚剤であるジチオカルバミン酸化合物等と混合されても粘度を上昇させないものと考えられる。一方、本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物を含む水性防汚塗料組成物が基体に塗布され塗膜が形成されると、かかる架橋がより強い結合となり、塗膜の基体への密着性を強化するものと考えられる。
【0034】
アクリル共重合体が低い水溶解性であるとき、金属化合物を粉末状または水性分散液として添加することが好ましい。金属化合物が微細な粉体で添加された場合には、反応はより早く進行する。水性分散液として金属化合物が添加された場合には、反応はさらに早く進行する。一般的には、反応の内容および効率は、このような金属化合物の形状では変化せず、反応速度だけが影響を受ける。アクリル水性エマルジョン組成物のpHは、塩基性化合物を添加することにより調整することができる。しかし、アクリル水性エマルジョン組成物は、2価金属化合物が添加される前においては、酸性に維持されることが好ましい。
【0035】
本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物のpHは、4から8の範囲が好ましい。金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物またはアクリル水性エマルジョン組成物のpHを調整するためには、アンモニアまたはその他アミン化合物のような塩基性化合物を用いることができる。その他アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、エタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどが挙げられる。
【0036】
金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物のpHを7.0またはそれよりも大きくする場合には、アクリル水性エマルジョン組成物中のアクリル共重合体と2価金属化合物を反応させた後に、塩基性物質を添加することが好ましい。これは、アクリル共重合体と2価金属化合物を反応させる前に、アクリル水性エマルジョン組成物へpHを7.0以上にする量の塩基性物質を添加すると、アクリル共重合体と2価金属化との反応速度が低下する場合があるからである。本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物としては、アクリル共重合体と2価金属化合物を反応させた後、塩基性アルカリ金属塩を添加した金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物が好ましい。
【0037】
本発明の水性防汚塗料組成物は、組成物の全重量に対して、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物を、樹脂固形分として、5重量%から30重量%、好ましくは8重量%から25重量%の範囲で含有する。本発明の水性防汚塗料組成物は、塗膜形成性樹脂として、上記の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物を含むことが必須であり、これら以外の共重合体を含むことも可能であるが、自己研磨性および防汚効果を低下させ得るポリブテンは含まない。また、本発明の水性防汚塗料組成物は、含まれる塗膜形成性樹脂が上記金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物のみであっても、防汚塗料としての所望の要求性能を提供することができる。すなわち、塗膜形成性樹脂として上記金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物に含まれる共重合体以外の共重合体を含むことなく、水性防汚塗料組成物を調製することができる。
【0038】
本発明の水性防汚塗料組成物に用いる海洋防汚剤は、ジチオカルバミン酸化合物を必須成分とする。ジチオカルバミン酸化合物としては、例えば、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメートなどが挙げられる。ジチオカルバミン酸化合物は、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができ、防汚塗料組成物の全重量に対して、約5重量%から30重量%、好ましくは5重量%から15重量%の範囲で用いられる。ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートは、例えば、TOC−3204海洋防汚剤(ローム・アンド・ハース社製)として商業的に入手可能である。
【0039】
本発明に用いることができる他の海洋防汚剤として、銅粉、亜酸化銅、ロダン銅、銅ピリチオンなどの銅系防汚剤、亜鉛ピリチオンなどの亜鉛系防汚剤、テトラメチルチラウムジスルジド、テトラエチルチラウムジスルフィドなどのチラウム系化合物、4,5−ジクロロ−2−オクチル−3−イソチアゾリンなどのイソチアゾリン系防汚剤、マレイミド系化合物、ニトリル化合物、ジ−ターシャリーノニル多硫化物など公知の防汚剤をさらに含むことができる。他の海洋防汚剤をさらに含む場合には、ジチオカルバミン酸化合物の重量に対して、1重量%から100重量%の範囲で添加することが好ましい。
【0040】
本発明の水性防汚塗料組成物には、必要に応じて、顔料や染料などの着色剤、陰イオン性、陽イオン性、両イオン性または非イオン性の界面活性剤、粘性調整剤、造膜助剤など各種の塗料用添加剤を添加することができる。本発明の水性防汚塗料組成物は、溶媒としてアルコール系化合物などの揮発性有機溶媒を含まないことが好ましく、水のみを溶媒として用いてもよい。ここで、溶媒とは、前記した成分を分散または溶解するための液体をいう。
【0041】
本発明の一態様として、魚網に本発明の水性防汚塗料組成物を適用する場合には、魚網に対して本発明の組成物をハケ塗りや直接吹き付け、または魚網を本発明の組成物に浸漬するなど通常の塗布方法により適用し、室温乾燥または加熱乾燥することにより塗膜を形成することが可能である。一般的には、乾燥後の塗膜が3μmから30μm、好ましくは5μmから10μmの間の厚さになるように塗付される。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
エマルジョン1(比較)
アクリル共重合体水性エマルジョンの調製
次の単量体を、77gのラウリル硫酸ナトリウム28%溶液を2600gの脱イオン水中に添加し撹拌した溶液中に、順次徐々に添加して乳化モノマー混合物を準備した。
ブチルアクリレート (BA) 3184g
メチルメタクリレート(MMA) 3184g
メタクリル酸 (MAA) 707g
【0044】
温度計、凝縮器および撹拌器を有する適当な反応容器に、176gのラウリル硫酸ナトリウム28%溶液と5150gの脱イオン水との溶液に充填し80℃から85℃に加熱した。164gの上記の乳化モノマー混合物を反応容器に一度に添加し、温度を80℃から82℃に調整した。200gの水に41.5gの過硫酸アンモニウムを溶解した触媒溶液を一度に添加した。重合開始後約5分以内に、温度が3℃から5℃上昇し反応混合物の外観(色および透明度)が変化した。発熱が停止したとき、モノマー混合物の残部と触媒溶液(600gの脱イオン水に20.7gの過硫酸アンモニウムを溶解したもの)とを、反応容器に徐々に添加した。添加速度は、重合反応による熱を冷却により除去できるような速度で、2から3時間の反応時間で行われた。重合反応温度は、冷却により、80℃から84℃に維持された。添加が終了したとき、モノマー混合物および触媒などは容器中の水によりリンスされた。バッチは、保管のため周囲温度まで冷却され、または2価金属化合物との反応のため適当な温度に維持された。得られた共重合体は17℃のガラス転移温度および22℃の最低造膜温度を有していた。
【0045】
最低造膜温度(MFT)の測定方法は、最低造膜温度バー、温度測定用電熱対をその長さ方向に一定の間隔をあけて有する平行で長方形の板もしくはテーブル、を用いる。テーブルに設けられた加熱手段と一方端に設けたドライアイス/アセトン溶液を保有できる容器とによりバーに沿って0℃から100℃までの温度変化を維持できる。約0.79mmの深さの溝がバーの長手方向に設けられ、全温度範囲にわたっている。試料が非連続的な膜から連続的な膜に変化した点のバーの温度が最低造膜温度である。
【0046】
エマルジョン2
エマルジョン1で調製した非架橋の共重合体100g(Tg=17℃、MFT=22℃、固形分43.6%)を50℃に加熱し、15gの水に0.62gの酸化亜鉛(7.60ミリモル、共重合体の酸性官能基に対して理論上化学量論的に30%)を添加した分散液を、1回当たり3ccの量で5回、共重合体エマルジョンに添加した。各添加において混合物は不透明になったが、5分以内に不透明さは消滅した。得られたエマルジョン組成物のpHを、アンモニアにより7.3から8.3に調製し、脱イオン水を添加し固形分38%とした。エマルジョン組成物は沈殿物がなく、38℃から40℃の最低造膜温度を有していた。
不透明さが消滅したこと、沈殿物がないことおよび最低造膜温度が上昇したことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応し、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物となったことを示している。
【0047】
エマルジョン3
反応温度を67℃に加熱したことを除き、エマルジョン2と同様にエマルジョン組成物を調製した。酸化亜鉛の添加による不透明度は、より速やかに消滅した。このことは、反応速度がより速かったことを意味する。得られたエマルジョン組成物は、沈殿物がなく、40℃から42℃の最低造膜温度を有していた。不透明さが消滅したこと、沈殿物が消滅したことおよび最低造膜温度が上昇したことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応し、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物となったことを示している。
【0048】
エマルジョン4
反応温度を70℃にし、酸化亜鉛の量を0.83g(10.14ミリモル;理論的化学量論的に40%)としたことを除き、エマルジョン2と同様にエマルジョン組成物を調製した。酸化亜鉛の添加による混合物の不透明度は、約1分後に消滅した。得られたエマルジョン組成物は、沈殿物がなく、45℃から48℃の最低造膜温度を有していた。不透明さが消滅したこと、沈殿物がないことおよび最低造膜温度が上昇したことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応し、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物となったことを示している。
【0049】
エマルジョン5(比較)
エマルジョン1で調製した非架橋の共重合体エマルジョン(Tg=17℃、MFT=22℃、固形分43.6%)100gに、1.69gの酸化亜鉛分散液(固形分49.8%:10.14ミリモル:理論的化学量論的に40%)と15.24gの水を添加した。混合物を室温(22℃)で1時間撹拌した。しかし、混合物の不透明度は消滅せず、静置した後に、多量の沈殿物が発生した。ろ過したエマルジョン組成物は、20℃から24℃の最低造膜温度を有しており最低造膜温度に変化がなかった。不透明さが消滅していないこと、多量の沈殿物が存在することおよび最低造膜温度に変化がなかったことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応していないことを示している。
【0050】
エマルジョン6
共重合体エマルジョンを60℃に維持し、1.24gの酸化亜鉛(15.21ミリモル:理論的化学量論的に60%)としたことを除き、エマルジョン2と同様にエマルジョン組成物を調製した。結果は、同様であり、不透明さが消滅し、沈殿物がなく、MFTが54℃から56℃のエマルジョン組成物を得た。不透明度さが消滅したこと、沈殿物がないことおよび最低造膜温度が上昇したことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応し、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物となったことを示している。
【0051】
エマルジョン7
酸化亜鉛を1.65g(20.28ミリモル:理論的化学量論的に80%)としたことを除き、エマルジョン6と同様にエマルジョン組成物を調製した。得られたエマルジョン組成物は、沈殿物がなく、58℃から60℃のMFTを有していた。沈殿物がないことおよび最低造膜温度が上昇したことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応し、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物となったことを示している。
【0052】
エマルジョン8
酸化亜鉛を2.06g(25.35ミリモル:理論的化学量論的に100%)としたことを除き、エマルジョン6と同様にエマルジョン組成物を調製した。得られたエマルジョン組成物は、沈殿物が若干存在するのみで、沈殿物はほぼ消滅していた。ろ過されたエマルジョン組成物は、66℃から69℃のMFTを有していた。沈殿物がほぼ消滅していることおよび最低造膜温度が上昇したことは、いずれも共重合体と酸化亜鉛が反応し、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物となったことをしめしている。
【0053】
水性防汚塗料組成物の調製
実施例1
下記の各種のエマルジョン組成物100g(固形分20%)および海洋防汚剤としてビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(以下、「TOC」という)粉末10gを混合した。海洋防汚剤の添加していないエマルジョン組成物と添加した組成物の粘度の変化を観察した。その結果を表1に示す。なお、粘度は、B型粘度計2番ローターを用い、室温(25℃)、60ppmで1分間測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、海洋防汚剤の添加により得られた組成物の粘度が低下したが、他のエマルジョン組成物を用いたものでは、粘度の上昇が見られた。本発明の金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物以外の2種のエマルジョン組成物は、高粘度であるため、魚網を対象とする防汚塗料組成物を調製することは困難であった。
【0056】
耐水性試験
実施例2
53.8gの水に、鉱物油由来の消泡剤を0.1gを添加した後、撹拌しながら、分散剤(85%ナフタレンスルホン酸ポリマーのナトリウム塩)を1gと粘性調整剤(キサンタンガム)を0.1gとを徐々に添加した。すべてが溶解した溶液を撹拌しながら、45gのTOC粉末を徐々に添加した。すべてを添加した後、さらに10分間、2000rpmで撹拌することによりTOC水性分散体を得た。
52.7gの上記エマルジョン6(固形分38%)、44.4gのTOC水性分散体および5.0gの造膜助剤(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)とを97.9gの水に混合した。ポリエチレン網を、十分な時間、得られた水溶液中に浸漬し、その後乾燥した。処理されたポリエチレン網の全重量に基づき9.5重量%の塗膜を形成した。処理されたポリエチレン網を5%塩化ナトリウム水溶液に2週間浸漬し、ポリエチレン網の重量変化により塗膜の溶出量を測定した。処理直後のポリエチレン網の全重量に基づき9.3重量%の塗膜が溶出していた。
【0057】
実施例3
200gの上記エマルジョン6(固形分38%)にポリエチレン網を浸漬し、その後乾燥し、9.3重量%の塗膜を形成した。実施例2と同様の浸漬試験により、5.8重量%の塗膜が溶出した。
【0058】
比較例1
エマルジョン6に代えてエマルジョン1(固形分38%)を用いたことを除き、実施例2と同様の処理を行った。処理直後のポリエチレン網の全重量に基づき9,9重量%の塗膜を形成し、浸漬試験により4.2重量%の塗膜が溶出した。
【0059】
比較例2
26.0gの上記エマルジョン6(固形分38%)、19.8gのポリブテン、44.1gのTOC水性分散体および2.0gの造膜助剤(トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)とを108.2gの水に混合した。ポリエチレン網を、十分な時間、得られた水溶液中に浸漬し、その後乾燥した。処理されたポリエチレン網の全重量に基づき10.1重量%の塗膜を形成した。処理されたポリエチレン網を5%塩化ナトリウム水溶液に2週間浸漬し、ポリエチレン網の重量変化により塗膜の溶出量を測定した。処理直後のポリエチレン網の全重量に基づき3.3重量%の塗膜が溶出していた。
【0060】
本発明の実施例2および3は、比較例1および2の水溶液組成物と比較すると、優れた自己研磨性を有していることがわかった。
【0061】
実施例4−5、比較例3−9
下記の表2中に示した各成分により水性防汚塗料組成物を調製した。海洋防汚剤として実施例2のTOC水性分散体(固形分45%)、海洋防汚剤2としてジ−ターシャリーノニル多硫化物、造膜助剤としてトリメチルペンタンジオールモノイソブチレートおよび粘性調整剤としてローム・アンド・ハース社製プライマル(商標)RM−12W(水溶性ウレタンブロックポリマー)を用いた。なお表2中の数値は、グラムを意味する。
【0062】
【表2】

【0063】
調製した各水性防汚塗料組成物に、30cm×30cmのポリエチレン製魚網(30mm角目:100本縒り)を浸漬し、室温(25℃)で1時間乾燥した後、60℃において1時間強制乾燥させた。処理した魚網を懸垂式試験枠に貼り付け、神奈川県小田原市石橋沖水深2mのところに2ヶ月間浸漬した。各塗料組成物の物性と生物付着状況の結果を表3および表4に示す。なお、水性防汚塗料と塗布していない試験枠の結果を比較例9として示す。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
本発明の水性防汚塗料組成物は、粘度が高くなく密着性に優れ、かつ、海水中での自己研磨性による防汚効果に優れたものである。また、海水中でのヒドラに対して特に優れた防汚効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジチオカルバミン酸化合物、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物および水を含む水性防汚塗料組成物であって;
該水性防汚塗料組成物はポリブテンを含まず、
前記金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、
(i)(a)単量体の全重量を基準として3〜90重量%の、酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体またはそのアルカリ金属塩と(b)単量体の全重量を基準として10〜97重量%の、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和単量体とを乳化重合することにより調製されたアクリル水性エマルジョン組成物中の、共重合体と、
(ii)2価金属化合物
とを、当該共重合体のガラス転移温度より10℃高い温度を超え、かつ当該共重合体の分解温度未満の温度で反応させることにより得られるものである;
水性防汚塗料組成物。
【請求項2】
2価金属が、銅、亜鉛、錫、マグネシウム、カルシウムまたはマンガンから選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2価金属化合物が、水酸化物、酸化物、炭酸塩または酢酸塩である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アクリル水性エマルジョン組成物が、(a)酸性官能基としてカルボキシル基のみを、単量体の全重量を基準として3〜90重量%含有するエチレン性不飽和単量体またはそのアルカリ金属塩と(b)単量体の全重量を基準として10〜97重量%の、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和単量体とを乳化重合することにより調製されたアクリル水性エマルジョン組成物であって、
水性防汚塗料組成物が有機溶媒を含まない請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ジチオカルバミン酸化合物を含む防汚剤、金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物、界面活性剤、粘性調整剤、造膜助剤、着色剤および水からなる水性防汚塗料組成物であって;
該水性防汚塗料組成物はポリブテンを含まず、
前記金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物は、
(i)(a)単量体の全重量を基準として3〜90重量%の、酸性官能基を含有するエチレン性不飽和単量体またはそのアルカリ金属塩と(b)単量体の全重量を基準として10〜97重量%の、酸性官能基を含有しないエチレン性不飽和単量体とを乳化重合することにより調製されたアクリル水性エマルジョン組成物中の、共重合体と、
(ii)2価金属化合物と
を、当該共重合体のガラス転移温度より10℃高い温度を超え、かつ当該共重合体の分解温度未満の温度で反応させることにより得られるものである;
水性防汚塗料組成物。
【請求項6】
2価金属が、銅、亜鉛、錫、マグネシウム、カルシウムまたはマンガンから選択される請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
金属架橋アクリル水性エマルジョン組成物に含まれる以外の重合体を含まない、請求項1から6のいずれかに1項に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項8】
ジチオカルバミン酸化合物がビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートである請求項1から7のいずれか1項に記載の水性防汚塗料組成物。

【公開番号】特開2008−195831(P2008−195831A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32535(P2007−32535)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】