説明

水性防炎処理剤、これを用いた防炎加工プリント布帛、及びその製造方法

【課題】ノンハロゲンで、防炎性能とその耐水持続性に優れた水性防炎処理剤であって、これを用いたプリント布帛の印刷の発色性や摩擦堅牢度も優れるポリエステル製布帛用水性防炎処理剤、これを用いて得られる防炎加工プリント布帛、及びその防炎加工プリント布帛の製造方法を提供する。
【解決手段】有機リン系化合物5〜15重量%(固形分換算、以下同様)、水溶性バインダー樹脂1〜5重量%、ノニオン系界面活性剤1〜5重量%、及び合成糊料1〜2重量%以下を含有してなる水性防炎処理剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性防炎処理剤、これを用いた防炎加工プリント布帛及びその製造方法に関し、特に染料の発色性が向上し、摩擦堅牢度及び防炎性能とその耐水性にも優れたプリント布帛が得られるノンハロゲンの水性防炎処理剤、その防炎加工プリント布帛、及びそのプリント布帛が従来より少ない工程で効率的に得られる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旗、幟、幕、テーブルクロス等の模様や文字が付されたプリント布帛の製造には、近年インクジェット方式によるプリントを行うのが一般的であり、発色性の向上や滲みの防止に種々の工夫がなされている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0003】
このようなプリント布帛にも防炎性能付与の要求が高まっており、従来は臭素化合物等を含有するハロゲン系防炎剤が多く用いられていたが、環境への配慮から、ハロゲンを含有する防炎剤の不使用(ノンハロゲン)への要請が強くなっている。
【0004】
この課題に対し、リン酸塩系防炎剤が使用されるようになってきているが、防炎性能を付与するために使用されるリン酸エステル塩は、一般にポリアクリル酸エステル系バインダーやウレタン系バインダーのような一般的なバインダーとの相溶性に劣るため、布帛に十分に固着せず、防炎性能が洗濯や雨に曝されて低下するという耐水性の問題があった。
【0005】
また、防炎性能を優先させると印刷の色相が白化して充分な鮮明性が得られなかったり、あるいは印刷面の摩擦堅牢性が低下するという問題もあった。
【0006】
すなわち、ノンハロゲンで、防炎性能とその耐水持続性に優れた水性防炎処理剤であって、これを用いたプリント布帛の印刷の発色性や摩擦堅牢度も優れる水性防炎処理剤は未だ得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−68372号公報
【特許文献2】特開平9−279490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、ノンハロゲンで、防炎性能とその耐水持続性に優れた水性防炎処理剤であって、これを用いたプリント布帛の印刷の発色性(白化防止)や摩擦堅牢度も優れる水性防炎処理剤を提供することを目的とする。また、これを用いて得られる、印刷の鮮明性や摩擦堅牢度に優れた防炎加工プリント布帛、及びその防炎加工プリント布帛が少ない工程で容易に得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水性防炎処理剤は、ポリエステル製布帛用水性防炎処理剤であって、有機リン系化合物5〜15重量%(固形分換算、以下同様)、水溶性バインダー樹脂1〜5重量%、ノニオン系界面活性剤1〜5重量%、及び合成糊料1〜2重量%以下を含有してなるものとする。
【0010】
また、本発明の防炎加工プリント布帛の製造方法は、ポリエステル製布帛に上記した本発明の水性防炎処理剤を付着させ、乾燥させた後、この布帛に分散染料を用いてインクジェットプリントを行い、180〜220℃で加熱するものとする。
【0011】
さらに、本発明の防炎加工プリント布帛は、上記本発明の製造方法により得られるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性防炎処理剤(以下、単に防炎処理剤という場合もある)によれば、分散染料の発色のための加熱工程(サーモゾル発色工程)で発色と同時に防炎成分を布帛に固着させることにより、耐水性に優れた防炎性能を布帛に付与することができる。
【0013】
また、これを用いて得られる防炎加工プリント布帛は、インクの滲みも極めて少なく、白化現象のない鮮明な発色を有するものとなる。
【0014】
さらに、本発明の防炎加工プリント布帛の製造方法は、上記のように本発明の防炎処理剤を用いることにより染料の発色と防炎成分の固着が同時に行われるため、工程が少なくて済み、従ってコストやエネルギーの節減も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で使用する有機リン系化合物は、リン酸エステル又はその誘導体であり、中でもジメチル・メチル・ホスホネートオリゴマーが好ましい。市販されているものでは、クラリアントジャパン(株)製;PEKOFLAM PES−J、明和化成工業(株)製;ホスコンFR−3931、FR−510N等が好適に使用できる。有機リン系化合物の含有量は処理剤(水溶液又は水分散液)中5〜15重量%であり、含有量がこれより少ないと十分な防炎性能が得られず、これを越えるとインクジェットプリント時に滲み現象が生じる。
【0016】
水溶性バインダー樹脂は、染料の摩擦堅牢度及び防炎性能の耐水性の向上を目的として使用する。水溶性バインダー樹脂は、好ましくは水溶性ポリエステル樹脂であり、より好ましくはアニオン性ポリエステルオリゴマーであり、市販されているものでは、明成化学工業(株)の「メイバインダーNS」を好適に使用することができる。水溶性バインダー樹脂の含有量は1〜5重量%であり、含有量がこれより少ないと所望の効果が得られず、これを越えると風合いが悪化する(固くなる)。
【0017】
ノニオン系界面活性剤は、発色性の向上(白化の防止)を目的として使用する。ノニオン系界面活性剤は、脂肪酸エステル誘導体の水系乳化物であることが好ましく、市販されているものでは、明成化学工業(株)の「テリールキャリヤーFC」を好適に使用することができる。ノニオン系界面活性剤の含有量は1〜5重量%であり、含有量がこれより少ないと発色性の改善効果が不十分であり、これを越えると分散染料の引き出しによる堅牢度の低下が起こる。
【0018】
合成糊料は、インクの滲み防止を目的として使用する。合成糊料の例としては、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。合成糊料の含有量は1〜2重量%であり、含有量がこれより少ないとインクの滲み防止効果が不十分となり、これを越えると処理液の粘度が上昇し、処理が困難になる。
【0019】
本発明の防炎処理剤は、上記各成分を水に溶解又は分散させることにより調製することができる。溶解及び分散は通常行われる操作により行うことができる。なお、本発明の目的を外れない範囲であれば上記以外の成分、例えばpH調整剤、蛍光分散染料、分散染料等を添加することも可能である。
【0020】
本発明の適用対象となる布帛はポリエステル繊維製布帛であり、その組織等は特に限定されず、スエード、ポンジ、トロピカル等の通常の布帛、帆布等の厚手の布帛、ジョーゼット等の薄手の布帛のいずれにも適用可能である。処理剤の布帛に対する目付は、布帛の種類や用途にもよるが、通常は55〜90g/mであることが好ましい。
【0021】
本発明の防炎処理剤を布帛に付着させるには、処理剤に含浸して絞ったり(パッド・ニップ)したり、処理剤をスプレー、各種コーティング法等で布帛に塗布すればよく、溶液の粘度等により適当な方法を特に限定なく使用することができる。含浸(パディング)には染色整理仕上げ用のパッド・ニップ(マングル)を使用することができる。コーティングには、コンマコーター、グラビアコーター、リップコーター、ロータリースクリーン捺染機等を使用することができる。
【0022】
布帛に処理剤を付着させた後は、室温又は加熱下で乾燥させればよい。但し、本発明においては、後述するように発色工程の加熱により防炎成分の固着を同時に行うので、この段階では高温で加熱する必要はなく、例えば熱風加熱方式ピンテンタードライで加工する場合は、一般的な温度条件である140〜160℃で行えばよい。
【0023】
上記処理剤で処理した布帛に染色を行う。染色は、分散染料インクをインクジェットプリンタでプリントした後、室温又は加熱下で乾燥し、次いで180〜220℃、好ましくは190〜200℃で、数秒〜数十秒間、乾熱処理を行うサーモゾル法が好適に使用可能である。温度が180℃未満であると十分な発色及び防炎成分の固着が困難となり、220℃を越えると、ポリエステル生地の収縮、分散染料の昇華が起こるようになる。本発明は、この乾熱処理により、染料の発色と同時に防炎成分の布帛への固着ができる点に最大の特長を有する。従来は別々に行っていた高温での処理を一工程で済ませることにより、製造に要する時間及びエネルギーを大幅に削減でき、それに従いコストも削減することが可能となる。
【0024】
染料は従来使用されている各種分散染料インクを特に制限なく使用することができる。
【0025】
乾熱処理は、効率的な発色及び防炎成分の固着のために、放射波長3μ以上の遠赤外線領域の放射が可能な遠赤外線ヒーターを用いて行うことが好ましい。遠赤外線ヒーターは、従来より、加熱、乾燥、焼成等の用途に各種産業分野で使用されているものを適宜選択して使用することができる。
【0026】
本発明では水溶性バインダー樹脂の使用により優れた摩擦堅牢度が実現できるので、乾熱処理後の水洗の必要はない。但し、布帛の用途等に応じ、水洗を行うことにより、摩擦堅牢度をさらに向上させることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の配合量における「%」は「重量%」を示す。
【0028】
[実施例1]
次の配合で、各成分を水に投入して攪拌した後、pH調整剤(安水)でpH6に調整し、水性防炎処理剤1を調製した。
【0029】
〈水性防炎処理剤1〉
有機リン系防炎剤
(クラリアント・ジャパン(株)製、ペコフレームPES−J)10%
水溶性バインダー樹脂
(明成化学工業(株)製、メイバインダーNS) 2.0%
ノニオン系界面活性剤
(明成化学工業(株)製、テリールキャリヤーFC) 2.0%
ヒドロキシエチルセルロース
(ダイセル化学工業(株)製、SP500、5%水溶液)30%(固形分換算1.5%)
【0030】
上記により得られた水性防炎処理剤に試験布であるポリエステルトロピカルを含浸させ(目付75g/m)、次いでピックアップ率75%で絞って布帛に付着させ(付着量56g/m)、巾出しテンターで150℃で乾燥した。
【0031】
得られた防炎加工布帛に以下の条件でインクジェットプリントを行い、200℃で0.5m/分の速度で加熱して、防炎加工プリント布帛を得た。
【0032】
得られたプリント布帛につき、発色性、インクの滲み、摩擦堅牢度、防炎性及びその耐水性を以下の試験方法で調べた。結果を表1に示す。
【0033】
発色性:目視で7段階(×、×−△、△、△−○、○、○−◎、◎)で評価した。
インクの滲み:インク滴を生地に落とし、その広がり程度を次の基準で評価した;
◎:インク滴が滲まず、生地に浸透した
○:インク滴が直径2倍以内の広がりで生地に浸透した
△:インク滴が直径3倍以内の広がりで生地に浸透した
×:インク滴が直径3倍を越えて拡散した
摩擦堅牢度、摩擦変色:(株)大栄科学精器製作所製、染色物摩擦堅牢度試験機RT−200を用いて乾式及び湿式でそれぞれ試験し、1〜5級で評価した。
防炎性:45°ミクロバーナー法で燃焼試験を行い、燃焼した面積(cm)を測定した。
防炎性の耐水性:45°ミクロバーナー法(温水浸漬)で燃焼試験を行い、燃焼した面積(cm)を測定した。
【0034】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
防炎性処理剤の組成を表1に示したものに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエステル試験布の防炎加工処理を行い、インクジェットプリント及び乾熱処理を行って、発色性、摩擦堅牢度、防炎性及びその耐水性を調べた。結果を表1に併記する。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル製布帛用水性防炎処理剤であって、以下を含有してなることを特徴とする水性防炎処理剤;
有機リン系化合物5〜15重量%、
水溶性バインダー樹脂1〜5重量%、
ノニオン系界面活性剤1〜5重量%、及び
合成糊料1〜2重量%。
【請求項2】
ポリエステル製布帛に請求項1に記載の水性防炎処理剤を付着させ、乾燥させた後、この布帛に分散染料を用いてインクジェットプリントを行い、180〜220℃で加熱することを特徴とする防炎加工プリント布帛の製造方法。
【請求項3】
請求項2の製造方法により得られる防炎加工プリント布帛。

【公開番号】特開2010−222742(P2010−222742A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72527(P2009−72527)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(398074326)株式会社新日本プロセス広芸社 (3)
【Fターム(参考)】