説明

水性黒色インク組成物、これを用いるインクジェット記録方法、及び着色体

【課題】インクジェット記録用、筆記用具用として用いた場合、記録物の印字濃度、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性、耐水性、センサー対応特性に優れ、かつ溶解性に優れているため記録液としての保存安定性が良好な水性黒色インク組成物の提供、及びこれを用いるインクジェット記録方法、着色体の提供。
【解決手段】色素成分として、近赤外線吸収性の鉄トリ7−スルホ−3−ニトロソ−2−ナフトキサイド、またはその塩を含有することを特徴とする水性黒色インク組成物。より好ましくは、上の鉄化合物に加えて、色素として下記化学式で表される黒色染料またはその塩を含有する水性黒色組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性黒色インク組成物、これを用いるインクジェット記録方法、及び着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録方法の中でも代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材料とが直接接触しないため音の発生が少なく静かであり、また小型化、高速化が容易という特長の為近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。
従来、万年筆、フェルトペン等用のインク及びインクジェットプリント用インクとしては、水溶性色素を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性有機溶剤が添加されている。そしてこれらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また使用される水溶性色素には、特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、形成される画像には耐水性、耐光性等の画像堅牢性、色再現性が求められており、また単に画像堅牢性が高いだけでなくそれぞれの色のバランスが重要となる。
【0003】
近年のインクジェット技術の発達により、インクジェット印刷における印刷スピードの向上がめざましい。このため、商業印刷やオフィス環境での主用途である普通紙へのドキュメントの印刷に、電子トナーを用いたレーザープリンタと同じ様に、インクジェットプリンタを用いる動きがある。インクジェットプリンタは記録紙の種類を選ばない、機械の価格が比較的安いという利点があり、特にSOHO等の小〜中規模オフィス環境での普及が進んでいる。このように普通紙への印刷を用途としてインクジェットプリンタを使用する場合、印刷物に求められる品質の中でも発色性や耐水性がより重視される傾向がある。これらの性能を満たす為には顔料インクを用いるという方法が提案されている。しかしながら、顔料インクは溶液ではなく固体の顔料を分散させた分散液であるために、顔料インクを用いるとそのインクの保存安定性が不良であるという問題や、プリンターヘッドのノズルが詰まるという問題などが染料インクと比較して起こりやすい。また、顔料インクを使用した場合、印刷画像の耐擦性が低いことも問題とされることが多い。染料インクの場合、色素成分である染料はインク中に溶解しているため、このような顔料インクであるがゆえに生じる問題は比較的起こりにくいとされる。しかし、染料インクは特に発色性、耐光性、耐水性において顔料インクと比較して一般に著しく劣るため、その改良が強く望まれている。
【0004】
更に、商業印刷分野で求められる性能の1つとしては、特に可視光領域外の近赤外光領域での光の吸収性(反射特性)が挙げられる。これは、近赤外光センサーなどの様々なセンサーの読み取りの対応をする必要がある為である。
【0005】
また、普通紙への印刷を目的とするインク組成物に求められる性能としては、上記の他に色再現性(発色性、すなわち彩度や明度)、保存安定性、耐オゾン性(酸化性ガス耐性)、耐湿性などが挙げられるが、そのいずれにおいても十分に満足できるインク組成物は未だ提案されていない。
【0006】
従って、今後、インクを用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録用に用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、耐光性、耐オゾンガス性、耐水性、耐湿性、センサー読み取り対応の更なる向上が強く求められている。
【0007】
種々の色相のインクが種々の染料から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。しかし、濃色域と淡色域共に色相がニュートラルで且つ色濃度が高く、堅牢性にも優れた色素の開発は技術的に困難な点が多く、多大な研究開発が行われているがまだ十分な性能を有するものが少ない。その為、一般には複数の多様な色素を混合して黒色インクを調製することが行われている。しかし複数の色素を混合してインクを調製すると、単一色素でインクを調製した場合に比べて、メディア(被記録材料)によって色相が異なる、光やオゾンガスによる色素の分解、水による滲みによって特に変色が大きくなる等の問題が起こりやすい。
【0008】
黒色インク用の染料として提案されている色素の多くはアゾ色素であり、そのうちC.I.Direct Black 19等のアゾ色素については、画像の光学濃度が低い、耐水性や、耐光性および耐ガス性が十分でない等の問題がある。また、同様に数多く提案されているアゾ含金色素は、耐光性が良好なものもあるが、金属イオンを含むため生物への安全性や環境に対し好ましくないこと、耐オゾンガス性が極めて弱いこと等の問題がある。これら多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
【0009】
黒色染料に色調整用の染料を更に配合した黒色インクとしては例えば特許文献1〜3のもの等が提案されているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
【0010】
本発明で使用する染料は特許文献4に記載されているが、インクジェット記録に関する記載はなく、さらには黒色の調色に用いられてはいない。
【0011】
インクジェット記録用染料インクに適したブラックの着色剤としては、例えば上記のC.I.Direct Black 19や特許文献6に記載の本願式(2)の化合物などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−122044号公報
【特許文献2】特許第3178200号
【特許文献3】特開平9−255906号公報
【特許文献4】特開2009−299249号公報
【特許文献5】特開2000−327941号公報
【特許文献6】国際公開2006/051850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、溶液状で長期間保存した場合でも安定であり、色味のないニュートラルなグレー〜黒色を呈し、印字された画像の光学濃度、堅牢性、耐光性、耐オゾンガス性、耐水性がいずれも優れる黒色の記録画像を与える水性黒色インク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、黒色インクの色素成分(成分(I))として特定の色素である、下記式(1)で表される化合物を使用することにより、色相が向上し、さらに各種の特性が良好であり、特に近赤外光領域のセンサー対応を向上させた水性黒色インク組成物が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は、
1)
(I)色素成分として、(i)下記式(1)で表される水溶性化合物またはその塩を含有することを特徴とする水性黒色インク組成物、
【化1】

2)
更に、(I)色素成分として、(ii)分子内にアゾ結合(−N=N−)を3つ以上有する染料を含有する上記1)に記載の水性黒色インク組成物、
3)
前記分子内にアゾ結合(−N=N−)を3つ以上有する染料が下記式(2)で表される黒色染料またはその塩である上記2)に記載の水性黒色インク組成物、
【化2】

(式(2)中、R1、R2、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)を、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基または(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されても良い)を、nは0または1をそれぞれ表す。)
4)
式(2)中、R1がカルボキシ基又はスルホ基、R2が水素原子、R6がカルボキシ基又はスルホ基であり、nが1である上記3)に記載の水性黒色インク組成物、
5)
1がスルホ基であり、R1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位である上記3)又は4)に記載の水性黒色インク組成物、
6)
3がスルホ基、R4が水素原子、R5が水素原子又はカルボキシ基又はスルホ基、R7が水素原子である上記3)乃至5)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物、
7)
前期式(2)で表される黒色染料が、下記式(3)で表される黒色染料またはその塩である上記3)に記載の水性黒色インク組成物、
【化3】

(式(3)中、R1はスルホ基でありR1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位である。)
8)
更に、(I)色素成分として、(iii)C.I. Direct Yellow 86、132、142、C.I. Direct Orange 17、39、C.I. Direct Red 80、227、C.I. Direct Brown 106、C.I. Acid Orange 95、C.I. Acid Red 249、254から選択される1又は2以上の染料を含有する上記2)乃至7)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物、
9)
(I)色素成分総質量中、前記(i)を5〜40質量%、前記(ii)を20〜80質量%、(iii)を10〜60質量%含有する請求項8に記載の水性黒色インク組成物、
10)
更に(II)水溶性有機溶剤を含有する上記1)乃至9)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物、
11)
更に(III)尿素を含有する上記1)乃至10)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物、
12)
上記1)乃至11)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物を用いるインクジェット記録方法、
13)
インクジェット記録方法における被記録材が情報伝達用シートである上記12)に記載のインクジェット記録方法、
14)
上記1)乃至11)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ、
15)
上記1)乃至11)のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物で着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性黒色インク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。また、本発明の水性黒色インク組成物は、インクジェット記録用、筆記用具用などに用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙に記録した場合の記録画像の色相がニュートラルで、色素濃度の薄いインクを調製した場合でも黒色の色相の印字物が得られる。また印字濃度が高く、さらに耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性、耐水性、近赤外光領域のセンサー対応に優れている。
さらにマゼンタ、シアン及びイエロー染料と共に用いることで高発色、耐光性、耐オゾンガス性、及び耐水性に優れたフルカラーのインクジェット記録が可能である。このように本発明のインク組成物はインクジェット記録用ブラックインクとして極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を詳細に説明する。
本発明の水性黒色インク組成物は、色素成分(I)として(i)上記式(1)で表される水溶性化合物またはその塩を含有する。この化合物を含有することによって、従来の黒色インク組成物と比較して、色相及び、特に近赤外光領域でのセンサー対応を、格段に向上することができる。
【0018】
上記式(1)で表される化合物又はその塩は、水溶性の色素である。本明細書においては特に断りがない限り、スルホ基、カルボキシ基等の酸性官能基は遊離酸の形で表す。また、本発明は、上記の通り、式(1)で表される化合物又は該化合物の塩の両者を含むものであるが、両者を常に「式(1)で表される化合物又はその塩」等と併記するのは煩雑である。このため特に断りがない限り、便宜上、両者を含めて単に「式(1)で表される化合物」と簡略して、以下記載する。
【0019】
上記式(1)で表される化合物はC.I.Acid Green 1として公知の化合物であり、生化学用途の染色剤として東京化成株式会社等より入手することができる。
【0020】
上記式(1)で表される化合物の塩としては、それぞれ独立に無機または有機の陽イオンの塩を意味する。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩である。又、有機の陽イオンの塩としては例えば下記一般式(4)で示される化合物の塩があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0021】
【化4】

【0022】
一般式(4)におけるZ1、Z2、Z3及びZ4 のアルキル基としては(C1〜C4)アルキル基が好ましく、具体例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられる。
ヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられる。
ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシ(C1〜C4)アルコキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、これらのうちではヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が好ましい。特に好ましいものとしては水素原子;メチル;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基;ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられる。
【0023】
一般式(4)のZ1、Z2、Z3及びZ4の具体例を下記表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
有機陽イオンの塩として好ましいものとしては、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩が挙げられる。
【0026】
上記の無機及び有機陽イオンの塩のうち、特に好ましいものは、リチウムおよびナトリウムの塩である。
【0027】
本発明の黒色インク組成物は、色素成分(I)として、上記式(1)の化合物以外の様々な染料を配合して、黒色とすることができるが、特に分子内にアゾ結合(−N=N−)を3つ以上有する染料(ii)が好ましい。該染料を使用した場合、耐水性、耐光性に非常に優れる黒色インク組成物とすることができる。また、該染料として分子内にアゾ結合(−N=N−)を3つ以上有する黒色染料を用いる場合が特に好ましく、更に、黒色染料として、上記式(2)で表される黒色染料を用いた場合には、発色性と耐光性、耐オゾン性、耐水性の両立を図ることができ、非常に優れた水性黒色インク組成物を実現することができる。
【0028】
上記式(2)で表される黒色染料において、特に炭素数の記載のないアルキル基、アルコキシ基、アシル基等における炭素数は、本発明の効果を達成しうる範囲で特に限定は無いが、通常炭素数1〜20程度であり、好ましくは炭素数1〜10程度であり、更に好ましくはアルキル基、アルコキシ基又は脂肪族のアシル基の場合、炭素数1〜4程度であり、芳香族のアシル基の場合は炭素数7〜11であり、具体的にはベンゾイル基、ナフトイル基などが挙げられる。
【0029】
上記式(2)におけるR1、R2、R5、R6及びR7において、N−アルキルアミノスルホニル基の例としては例えば、N−メチルアミノスルホニル基、N−エチルアミノスルホニル基、N−(n−ブチル)アミノスルホニル基、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジ(n−プロピル)アミノスルホニル基等が挙げられる。
【0030】
上記式(2)におけるR1、R2、R5、R6及びR7において、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基の例としては例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ヒドロキシエチルスルホニル、2−ヒドロキシプロピルスルホニル等が挙げられる。
【0031】
上記式(2)におけるR1、R2、R5、R6及びR7において、アシル基の例としては例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ベンゾイル、ナフトイル等が挙げられる。
【0032】
上記式(2)におけるR1からR7において、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基の例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、メトキシエチル、2−エトキシエチル、n−プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、n−ブトキシエチル、メトキシプロピル、エトキシプロピル、n−プロポキシプロピル、イソプロポキシブチル、n−プロポキシブチル等が挙げられる。
【0033】
上記式(2)におけるR1からR7において、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基又はスルホ基又はカルボキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基の例としては例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−ヒドロキシプロポキシ、3−ヒドロキシプロポキシ、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、n−プロポキシエトキシ、イソプロポキシエトキシ、n−ブトキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシプロポキシ、n−プロポキシプロポキシ、イソプロポキシブトキシ、n−プロポキシブトキシ、2−ヒドロキシエトキシエトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、3−カルボキシプロポキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ等が挙げられる。
【0034】
上記式(2)におけるR1からR7において、アシルアミノ基の例としては例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、イソブチリルアミノ、ベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等が挙げられる。
【0035】
上記式(2)におけるR1からR7において、アルキルスルホニルアミノ基の例としては例えば、メチルスルホニルアミノ、エチルスルホニルアミノ、プロピルスルホニルアミノ等が挙げられる。
【0036】
上記式(2)におけるR1からR7において、ハロゲン原子若しくはアルキル基若しくはニトロ基で置換されても良いフェニルスルホニルアミノ基の例としては例えば、ベンゼンスルホニルアミノ、トルエンスルホニルアミノ、クロロベンゼンスルホニルアミノ、ニトロベンゼンスルホニルアミノ等が挙げられる。
【0037】
上記式(2)における好ましいR1及びR2は、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、塩素原子、シアノ基、スルファモイル基、アセチル基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基であり、より好ましくは、水素原子、カルボキシ基、スルホ基である。
さらに好ましいR1は、カルボキシ基またはスルホ基であり、スルホ基が特に好ましい。R2は水素原子が特に好ましい。
置換位置は、R1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位であることが好ましい。
【0038】
上記式(2)における好ましいR3及びR4は、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基であり、より好ましくは、水素原子、カルボキシ基、スルホ基、メチル基、メトキシ基、3−スルホプロポキシ基であり、更に好ましくは、水素原子、スルホ基である。また、R3がスルホ基、R4が水素原子の組み合わせが特に好ましい。
【0039】
上記式(2)における好ましいR5からR7は、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、塩素原子、シアノ基、スルファモイル基、アセチル基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基であり、より好ましくは、水素原子、カルボキシ基、スルホ基である。
特に好ましいR5は水素原子、カルボキシ基又はスルホ基、特に好ましいR6はカルボキシ基又はスルホ基、特に好ましいR7は水素原子である。
【0040】
上記式(2)で表される黒色染料について、R1からR7は上記好ましいものとして挙げた置換基同士の組み合わせはより好ましく、好ましい置換基とより好ましい置換基の組み合わせは更に好ましく、より好ましい置換基同士を組み合わせたものは最も好ましい。
【0041】
上記式(2)で表される黒色染料として、最もこの好ましいものは上記式(3)で表される黒色染料であり、特に耐光性、耐オゾン性、耐水性に効果を有する。
【0042】
上記式(2)で表される黒色染料、上記式(3)で表される黒色染料のいずれも、上記式(1)で表される化合物と同様に、その塩としても使用し得る。この場合の塩は、上記式(1)の化合物の場合と、好ましいものを含め同じである。
【0043】
上記式(2)で示される黒色染料は、例えば次のような方法で合成することができる。各工程における化合物の構造式は遊離酸の形で表すこととする。
【0044】
下記式(5)
【化5】

(式中nは上記式(2)と同じ意味を有する。)
とp−トルエンスルホニルクロライドとのアルカリ存在下での反応により得られる下記式(6)
【0045】
【化6】

(式中nは上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を、常法によりジアゾ化し、4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸と酸性下カップリング反応し、生成した下記式(7)
【0046】
【化7】

(式中nは上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物に、式(8)
【0047】
【化8】

(式中R1及びR2は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリング反応させ、得られる式(9)
【0048】
【化9】

(式中R1、R2及びnは上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物をアルカリ条件下、加水分解し、式(10)
【0049】
【化10】

【0050】
(式中R1、R2及びnは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を得る。ここに下記式(11)
【0051】
【化11】

(式中R3〜R7は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表されるモノアゾ化合物を常法によりジアゾ化したものを、カップリング反応させる事で、上記式(2)又は(3)で表される黒色染料またはその塩を得ることができる。
【0052】
上記式(11)のモノアゾ化合物は常法により合成できる。例えば下記式(12)
【化12】

(式中R5、R6及びR7は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものと下記式(13)
【0053】
【化13】

(式中R3及びR4は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物とカップリング反応させるか、或いは下記式(14)
【0054】
【化14】

【0055】
(式中R3及びR4は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものと下記式(15)
【0056】
【化15】

(式中R5〜R7は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物とカップリング反応させた下記式(16)
【0057】
【化16】

(式中R3〜R7は上記式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を酸性或いはアルカリ性で加水分解する事によって得ることができる。
【0058】
式(5)の化合物とp−トルエンスルホニルクロリドとのエステル化反応はそれ自体公知の方法で実施され、水または水溶性有機溶剤中、例えば20〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度ならびに中性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは中性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH7〜10で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩などが使用できる。式(5)の化合物とp−トルエンスルホニルクロリドは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0059】
式(6)の化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、例えば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜15℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(6)の化合物のジアゾ化物と4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水または水溶性有機溶剤中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から中性のpH値で行うことが有利である。カップリング浴は酸性化するが、好ましくは酸性から弱酸性のpH値、例えばpH1〜4で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、アンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(6)の化合物と4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0060】
式(8)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、例えば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(8)の化合物のジアゾ化物と式(7)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水または水溶性有機溶剤中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(7)と(8)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0061】
式(9)の化合物の加水分解による一般式(10)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。有利には水性アルカリ性媒質中で加熱する方法であり、例えば一般式(9)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを加えpHを9.5以上としたのち、例えば20〜150℃の温度、好ましくは30〜100℃の温度に加熱することによって実施される。このとき反応溶液のpH値は9.5〜11.5に維持することが好ましい。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基は前記したものを用いることができる。
【0062】
式(11)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、例えば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(11)の化合物のジアゾ化物と式(10)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水または水溶性有機溶剤中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(10)と(11)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0063】
上記式(2)又は(3)で示される黒色染料は、カップリング反応後、鉱酸の添加により遊離酸の形で単離する事ができ、これから水または酸性化した水による洗浄により無機塩を除去する事が出来る。次に、この様にして得られる低い塩含有率を有する酸型色素は、水性媒体中で所望の無機又は有機の塩基により中和することで対応する塩の溶液とすることが出来る。無機の塩基の例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられ、有機の塩基の例としては、有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0064】
上記式(2)に示した化合物の好適な具体例を表2〜4に挙げる。しかし上記式(2)で表される化合物としては、特にこれらに限定されるものではない。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
本発明の水性黒色インク組成物は、(i)上記式(1)で表される化合物を0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%、更に好ましくは1〜4質量%含有し、水を主要な媒体とするインク組成物である。また、(ii)黒色染料として上記式(2)又は(3)で表される化合物を含有する場合には、0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有する。
【0069】
本発明の黒色インク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、上記式(1)で表される化合物や上記式(2)、(3)で表される化合物としては、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば1質量%以下(対色素原体)程度である。無機物の少ない本発明の化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明の化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過分取、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0070】
本発明の水性黒色インク組成物は、色調調整を目的として、更に他の色相を有する染料(iii)を含有しても良い。他の染料としては、染料の被記録材への染着性の観点から、反応染料、酸性染料又は直接染料が好ましく、直接染料がより好ましい。
【0071】
本発明の水性黒色インク組成物に含有する反応染料の具体例としては、例えばC.I.Reactive Yellow 2、3、18、81、84、85、95、99、102等のイエロー系の染料;C.I.Reactive Orange 5、9、12、13、35、45、99等のオレンジ系の染料;C.I.Reactive Brown 2、8、9、17、33等のブラウン系の染料;C.I.Reactive Red 3、3:1、4、13、24、29、31、33、125、151、206、218、226、245等のレッド系の染料;C.I.Reactive Violet 1、24等のバイオレット系の染料;C.I.Reactive Blue 2、5、10、13、14、15、15:1、49、63、71、72、75、162、176等のブルー系の染料;C.I.Reactive Green 5、8、19等のグリーン系の染料;C.I.Reactive Black 1、8、23、39等のブラック系の染料;等が挙げられる。
【0072】
本発明の水性黒色インク組成物に含有する酸性染料の具体例としては、例えばC.I.Acid Yellow 1、3、11、17、18、19、23、25、36、38、40、40:1、42、44、49、59、59:1、61、65、72、73、79、99、104、110、159、169、176、184、193、200、204、207、215、219、219:1、220、230、232、235、241、242、246等のイエロー系の染料;C.I. Acid Orange 3、7、8、10、19、24、51、56、67、74、80、86、87、88、89、94、95、107、108、116、122、127、140、142、144、149、152、156、162、166、168等のオレンジ系の染料;C.I.Acid Brown 2、4、13、14、19、28、44、123、224、226、227、248、282、283、289、294、297、298、301、355、357、413等のブラウン系の染料;C.I.Acid Red 1、6、8、9、13、18、27、35、37、52、54、57、73、82、88、97、97:1、106、111、114、118、119、127、131、138、143、145、151、183、195、198、211、215、217、225、226、249、251、254、256、257、260、261、264、265、266、274、276、277、289、296、299、315、318、336、337、357、359、361、362、364、366、399、407、415等のレッド系の染料;C.I.Acid Violet 17、19、21、42、43、47、48、49、54、66、78、90、97、102、109、126等のバイオレット系の染料;C.I.Acid Blue 1、7、9、15、23、25、40、61:1、62、72、74、80、83、90、92、103、104、112、113、114、120、127、127:1、128、129、138、140、142、156、158、171、182、185、193、199、201、203、204、205、207、209、220、221、224、225、229、230、239、249、258、260、264、277:1、278、279、280、284、290、296、298、300、317、324、333、335、338、342、350等のブルー系の染料;C.I.Acid Green 9、12、16、19、20、25、27、28、40、43、56、73、81、84、104、108、109等のグリーン系の染料;C.I.Acid Black 1、2、3、24、24:1、26、31、50、52、52:1、58、60、63、107、109、112、119、132、140、155、172、187、188、194、207、222等のブラック系の染料;等が挙げられる。
【0073】
本発明の水性黒色インク組成物に含有する直接染料の具体例としては、例えばC.I. Direct Yellow 8、11、12、21、28、33、39、44、49、50、85、86、87、88、89、98、100、110、132、142、144、146等のイエロー系の染料;C.I. Direct Orange17、26、39、102等のオレンジ系の染料;C.I.Direct Red2、4、6、9、17、23、26、28、31、39、54、55、57、62、63、64、65、68、72、75、76、79、80、81、83、83:1、84、89、92、95、99、111、141、173、180、184、207、211、212、214、218、221、223、224、225、226、227、232、233、240、241、242、243、247等のレッド系の染料;C.I.Direct Violet 7、9、47、48、51、66、90、93、94、95、98、100、101等のバイオレット系の染料;C.I.Direct Blue 1、15、22、25、41、76、77、80、86、87、90、98、106、108、120、158、163、168、199、200、201、202、226等のブルー系の染料;C.I.Direct Brown 106等のブラウン系の染料;C.I.Direct Black 17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等のブラック系の染料;等が挙げられる。
【0074】
これら調色用の染料のうち、C.I. Direct Yellow 86、132、142、C.I. Direct Orange 17、39、C.I. Direct Red 80、227、C.I. Direct Brown 106、C.I. Direct Acid 95、C.I. Acid Red 249、254から選択される1又は2以上の染料を含有する場合、本発明の黒色インク組成物はさらに色再現性の幅を広げられ、好適である。
【0075】
他の染料(iii)を含有する場合、(I)色素成分総質量中、上記(i)を5〜40質量%、上記(ii)を20〜80質量%、(iii)を10〜60質量%含有する場合が好ましく、更には、上記(i)を10〜30質量%、上記(ii)を40〜70質量%、(iii)を10〜40質量%含有する場合が特に好ましい。
【0076】
本発明の水性黒色インク組成物は水を媒体として調製され、本発明の効果を害しない範囲内において必要に応じ、水溶性有機溶剤(水と混和可能な有機溶剤)(成分(II))やインク調製剤を適宜含有しても良い。なお、インク組成物のpHとしては、保存安定性を向上させる点で、pH6〜10が好ましく、pH7〜10がより好ましい。また、着色組成物の表面張力としては、25〜70mN/mが好ましく、25〜60mN/mがより好ましい。さらに、着色組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。
【0077】
上記水性黒色インク組成物の調整において用いられる水溶性有機溶剤(成分(II))としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノマー、オリゴマーまたはポリアルキレングリコールまたはチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル、γーブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。これら水溶性有機溶剤の中で、好ましくは2−ピロリドン、イソプロピルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ブチルカルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールであり、更に好ましくは、2−ピロリドン、イソプロピルアルコール、グリセリン、ブチルカルビトールである。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0078】
本発明の水性黒色インク組成物の総量に対し、水溶性溶剤の好ましい含有率は、0〜50質量%、更に好ましくは、25〜50質量%である。
【0079】
上記水性黒色インク組成物の調製において用いられるインク調製剤は、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤などがあげられる。
【0080】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらは着色組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0081】
防腐剤としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、(ダブり)ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤として、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム等があげられる。
【0082】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば5〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その例として、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア)、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、酢酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
【0083】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0084】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0085】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
【0086】
水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
【0087】
染料溶解剤としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネート、尿素などが挙げられる。特に尿素(成分(III))を含有する場合は、本発明の好ましい態様の一つである。
【0088】
酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類、等が挙げられる。
【0089】
界面活性剤としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などがある。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどのアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノールRTM104、105、82、420、440、465、オルフィンRTMSTGなど)、などが挙げられる。このうち、サーフィノールRTM420、440、465は好ましく用いられ、サーフィノールRTM440は特に好ましく用いられる。なお、本明細書中において、上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0090】
これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0091】
本発明の水性黒色インク組成物の製造において、添加剤等の各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。黒色インク組成物の調製に用いる水は、イオン交換水、蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。また、必要に応じインク組成物の調製後に、メンブランフィルター等を用いて精密濾過を行って、インク組成物中の夾雑物を除いても良い。特に、本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用する場合には、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は通常1〜0.1μm、好ましくは0.8〜0.1μmである。
【0092】
本発明の水性黒色インク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、該インク組成物を含有してなるインクジェット用インクとして用いることが、特に好ましく、後述する本発明のインクジェット記録方法において好適に使用される。
【0093】
次に、本発明のインクジェット記録方法について説明する。本発明のインクジェット記録方法は、本発明の水性黒色インク組成物をインクジェット用インクとして記録を行うことを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法においては、本発明の水性黒色インク組成物を用いて受像材料に記録を行うが、その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等を用いることができる。なお、前記インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0094】
本発明の着色体は前記の本発明の水性黒色インク組成物で着色されたものであり、より好ましくは本発明の水性黒色インク組成物を用いてインクジェットプリンタによって着色されたものである。着色されうるものとしては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層には、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれ、例えば代表的な市販品としてはピクトリコ(旭硝子(株)製)、プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー、光沢ゴールド、プラチナグレード(いずれもキヤノン(株)製)、写真用紙(光沢)、フォトマット紙、写真用紙クリスピア(高光沢)(いずれもセイコーエプソン(株)製)、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙、アドバンストフォトペーパー(いずれも日本ヒューレット・パッカード(株)製)、フォトライクQP(コニカ(株)製)、画彩写真仕上げPro(富士フィルム(株)製)等がある。なお、普通紙、上質紙、コート紙も当然に使用できる。
【0095】
これらのうち、特に多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録した画像がオゾンガスによって変退色が大きくなることが知られているが、本発明の水性黒色インク組成物は耐オゾンガス性も優れているため、このような被記録材への記録の際にも効果を発揮する。
【0096】
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。本発明のインクジェット記録方法では、黒色の本発明のインク組成物、公知公用のマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、イエローインク組成物、必要に応じて、グリーンインク組成物、ブルー(又はバイオレット)インク組成物及びレッド(又はオレンジ)インク組成物と併用される。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、その容器を、本発明のインクジェット記録用水性黒色インク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定位置に装填されて使用される。インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式のプリンタや加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式のプリンタ等があげられる。
【0097】
本発明の水性黒色インク組成物は、普通紙及びインク受容層を有する情報伝達用シートといった被記録材上で非常に鮮明で、彩度及び印字濃度が高く、理想的な色相の黒色の記録画像を与える。このため、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。また、本発明の水性黒色インク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が極めて良好である。
本発明の水性黒色インク組成物はインクジェット記録用、筆記具用として用いられ、特にインクジェットインクとして使用しても、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体析出は非常に起こりにくく、噴射器(記録ヘッド)を閉塞することもない。また、本発明の水性黒色インク組成物は連続式インクジェットプリンタを用い、比較的長い時間間隔においてインクを再循環させて使用する場合においても、又はオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても、物理的性質の変化を起こさない。
さらに、本発明の水性黒色インク組成物により、インク受容層を有する情報伝達用シートに記録された画像は、耐水性、耐湿性、耐オゾンガス性、耐擦性、耐光性等の各種堅牢性、特に耐水性、耐オゾンガス性が良好であり、この理由から、写真調の画像の長期保存安定性にも優れている。また、従来のインクと比較して、普通紙上での彩度、明度、及び印字濃度等の発色性、演色性、特に近赤外光領域のセンサー対応特性および発色性の高さにも優れている。
このように、本発明の水性黒色インク組成物は、各種の記録インク用途、特にインクジェット記録用のインク用途に極めて有用である。
【実施例】
【0098】
以下に本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準であり、また反応温度は内温である。また、実施例中で得た化合物の各構造式において、カルボキシ基、スルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形で記載した。また、実施例1〜3は式(2)で表される化合物の合成例である。
[(A)黒色染料の合成]
[実施例1]
(工程1)
2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸20.1部とp−トルエンスルホニルクロライド12.6部とをpH8.0〜8.5、70℃で1時間反応させた後、酸性にて塩析、ろ過分取して得られる式(17)の化合物28.4部を水300部中に、炭酸ナトリウムでpH6.0〜8.0に調製しながら溶解し、35%塩酸18.7部の添加後、0〜5℃とし、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.7部を添加し、ジアゾ化した。
【0099】
【化17】

【0100】
このジアゾ懸濁液に4−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−1,7−ジスルホン酸 19.1部を水200部に懸濁した液を添加した後、10〜20℃で溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて2.4〜2.8に保持しながら12時間攪拌した。次いで、pH値を炭酸ナトリウムにて7.0〜8.5として溶解し、式(18)のモノアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0101】
【化18】

【0102】
(工程2)
水150部に4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム14.4部を溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸18.8部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、上記反応にて得られた式(18)のモノアゾ化合物を含む溶液に10〜20℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化ナトリウムの添加により塩析し、濾過分取することで式(19)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0103】
【化19】

【0104】
上記で得られたウェットケーキを水400部に溶解し、70℃に加熱後、水酸化ナトリウムにてpH値を10.5〜11.0に保持しながら1時間攪拌した。室温まで冷却後、35%塩酸によりpH7.0〜8.0とし、塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過分取して式(20)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0105】
【化20】

【0106】
(工程3)
水170部に式(21)の化合物17.0部を水酸化リチウムの添加によりpH7.0〜8.0として溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸17.4部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液8.7部を添加しジアゾ化した。
【0107】
【化21】

【0108】
このジアゾ懸濁液を、水400部に式(20)の化合物を含むウェットケーキを溶解させた溶液に、10〜25℃、溶液のpH値を水酸化リチウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化リチウムの添加により塩析し、濾過分取した。得られたウェットケーキを水400部に溶解し、2−プロパノール1000部の添加により晶析、ろ過分取した。更に得られたウェットケーキを水300部に溶解後、2−プロパノール900部の添加により晶析し、ろ過分取、乾燥して式(22)のアゾ化合物(表2におけるNo.1の化合物)49.0部をリチウム塩として得た。この化合物のpH9の水溶液中での最大吸収波長(λmax)は590nmであり、室温における水に対する溶解度は100g/L以上であった。
【0109】
【化22】

【0110】
[実施例2]
実施例1の(工程2)における4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム14.4部を2−ニトロアニリン−4−スルホン酸ナトリウム14.4部とする以外は実施例と同様にして、式(23)のアゾ化合物(表2におけるNo.3の化合物)47.0部をリチウム塩として得た。この化合物のpH9での水溶液中での最大吸収波長(λmax)は592nmであり、室温における水に対する溶解度は100g/L以上であった。
【0111】
【化23】

【0112】
[実施例3]
(工程1)
水100部に4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム11.5部を溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸14.1部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液8.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液に水100部に、特許文献4の実施例2に記載の方法によって得られた式(24)の化合物12.3部を水酸化ナトリウムの添加によりpH5.0〜6.0として溶解した溶液を、10〜15℃に保持しながら滴下した。滴下終了後、炭酸ナトリウムの添加により1時間かけpH6.0〜7.0とした後、15〜20℃で2時間、pH6.0〜7.0で攪拌した。塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過分取して式(25)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0113】
【化24】

【0114】
【化25】

【0115】
(工程2)
実施例1の(3)における式(21)の化合物17.0部の代わりに上記反応で得られた式(25)の化合物を含むウェットケーキを用いる以外は実施例1と同様にして、式(26)のアゾ化合物(表4におけるNo.16の化合物)50.1部をリチウム塩として得た。この化合物のpH9の水溶液中での最大吸収波長(λmax)は615nmであり、室温における水に対する溶解度は100g/L以上であった。
【0116】
【化26】

【0117】
[(B)黒色インク組成物の調製]
[実施例4〜6]
本発明の黒色インク組成物は下記表5に示した組成比で各成分を混合し、固形分が溶解するまでおおよそ1時間攪拌した後、0.45μmのメンブランフィルター(商品名、セルロースアセテート系濾紙、アドバンテック社製)で濾過することにより試験用の黒色インク組成物を調製した。染料としては、下記実施例4〜6に記載の組み合わせで調製した。
【0118】
【表5】

【0119】
[実施例4]
C.I.Acid Green 1(X=1.5部)
実施例(1)の化合物(X=3.5部)
合計X=5.0部
【0120】
[実施例5]
C.I.Acid Green 1(X=1.5部)
実施例(1)の化合物(X=3.0部)
C.I.Direct Orange 39(X=0.5部)
合計X=5.0部
【0121】
[実施例6]
C.I.Acid Green 1(X=1.5部)
実施例(1)の化合物(X=2.5部)
C.I.Direct Red 80(X=0.5部)
C.I.Direct Orange 39(X=0.5部)
合計X=5.0部
【0122】
これら水性黒色インク組成物は、貯蔵中、沈殿分離が生ぜず、また長期間保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0123】
比較例1、2として実施例4〜7と同様に比較例用の染料を表5に示した組成比で混合し、同様の方法で比較例用の黒色インク組成物を作成した。
【0124】
[比較例1]
実施例(1)の化合物(X=3.0)
C.I.Direct Red 80(X=1.0)
C.I.Direct Orange 39(X=1.0)
合計X=5.0
【0125】
[比較例2]
C.I.Direct Black 19(X=5.0部)
合計X=5.0部
【0126】
[(C)インクジェットプリント]
上記実施例4〜6、比較例1、2で得られたそれぞれのインク組成物を使用し、インクジェットプリンタ(商品名 Canon社 IP4100 )により、上質普通紙(三菱製紙社 DL9084)にインクジェット記録を行った。
印刷の際は、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの黒色印字物を得た。印刷時はグレースケールモードを用いているため、黒色記録液以外のイエロー、シアン、マゼンタの各記録液は併用されていない。以下に記す試験方法のうち、測色機を用いて評価する項目である印字濃度評価では、印刷物の印刷濃度(反射濃度D値)を測色する際に、このD値が最も高い部分を用いた。また、分光光度計を用いて近赤外領域の反射率を評価する際も同様に、印刷物のD値が最も高い階調部分を用いて測定を行った。
【0127】
[(D)記録画像の評価]
本発明の水性インク組成物による記録画像につき、印字濃度(DB値)、反射率(%)の2点について評価を行った。その結果を表6に示した。試験方法は下記に示す。
1)印字濃度(DB値)評価
記録画像の印字濃度(DB値)はGRETAG・SPM50(GRETAG社製)を用いて測色し、印字濃度DB値を算出した。以下に判定基準を示す。

○:DB>1.60
△:1.60≧DB>1.30
×:DB≦1.30

2)反射率評価
記録画像の反射率は、紫外可視近赤外分光光度計UV3150(島津製作所株式会社製)を用いて測定し、近赤外光領域の反射率%を算出した。なお反射率1は700nmの反射率、反射率2は800nmの反射率を測定したものである。以下に判定基準を示す。

○:反射率≦20%
△:20%<反射率≦50%
×:反射率>50%

【0128】
【表6】

【0129】
表6より、本発明の水性黒色インク組成物は印字濃度が高く、従来の黒色インク(比較例)と比較して近赤外光領域の反射率が低く、近赤外光の吸収性が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の水性黒色インク組成物は、印刷濃度、センサー対応特性に優れる。従ってインクジェット記録用、筆記用具用黒色インク液として好適に用いられる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)色素成分として、(i)下記式(1)で表される水溶性化合物またはその塩を含有することを特徴とする水性黒色インク組成物。
【化1】

【請求項2】
更に、(I)色素成分として、(ii)分子内にアゾ結合(−N=N−)を3つ以上有する染料を含有する請求項1に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項3】
前記分子内にアゾ結合(−N=N−)を3つ以上有する染料が下記式(2)で表される黒色染料またはその塩である請求項2に記載の水性黒色インク組成物。
【化2】

(式(2)中、R1、R2、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)を、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基または(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されても良い)を、nは0または1をそれぞれ表す。)
【請求項4】
式(2)中、R1がカルボキシ基又はスルホ基、R2が水素原子、R6がカルボキシ基又はスルホ基であり、nが1である請求項3に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項5】
1がスルホ基であり、R1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位である請求項3又は請求項4に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項6】
3がスルホ基、R4が水素原子、R5が水素原子又はカルボキシ基又はスルホ基、R7が水素原子である請求項3乃至5のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項7】
前期式(2)で表される黒色染料が、下記式(3)で表される黒色染料またはその塩である請求項3に記載の水性黒色インク組成物。
【化3】

(式(3)中、R1はスルホ基でありR1の置換位置がアゾ基に対しオルト位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しパラ位であり、R1の置換位置がアゾ基に対しパラ位の場合、ニトロ基の置換位置がアゾ基に対しオルト位である。)
【請求項8】
更に、(I)色素成分として、(iii)C.I. Direct Yellow 86、132、142、C.I. Direct Orange 17、39、C.I. Direct Red 80、227、C.I. Direct Brown 106、C.I. Acid Orange 95、C.I. Acid Red 249、254から選択される1又は2以上の染料を含有する請求項2乃至7のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項9】
(I)色素成分総質量中、前記(i)を5〜40質量%、前記(ii)を20〜80質量%、(iii)を10〜60質量%含有する請求項8に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項10】
更に(II)水溶性有機溶剤を含有する請求項1乃至9のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項11】
更に(III)尿素を含有する請求項1乃至10のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物を用いるインクジェット記録方法。
【請求項13】
インクジェット記録方法における被記録材が情報伝達用シートである請求項12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ。
【請求項15】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の水性黒色インク組成物で着色された着色体。

【公開番号】特開2013−32469(P2013−32469A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169906(P2011−169906)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】