説明

水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物およびその製造方法

【課題】水に難溶解性のたんぱく質を高含有しても水に容易に、かつ、透明に溶解し、経口的な栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態の患者に投与しやすくした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を提供すること。
【解決手段】乳清たんぱくを85重量%以上含有する高たんぱく粉末栄養組成物に、デカグリセリンと炭素数12〜14の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤をたんぱく質原料1重量部に対して、0.002〜0.02重量部添加することにより、水に容易に、かつ、透明に溶解することを可能とした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口的に栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態などの患者が摂取することを目的とした高たんぱく粉末栄養組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、水に難溶解性の乳清たんぱくに、特定の界面活性剤を添加することにより、水に容易に、かつ、透明に溶解することを可能とした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消化器外科手術患者や高齢者では、たんぱく質、エネルギー、ビタミンあるいは微量元素などの摂取不足状態が長く続くと、免疫機能の低下や新たな疾患の発症を誘引することがある。特に、たんぱく質は、生命を維持し、健康的な生活を営むために、必要不可欠な栄養素の一つであり、外科手術患者や高齢者あるいは経口摂取が不十分な低栄養状態などの患者は、良質のたんぱく質を摂取することが重要となる。このため、余病の併発防止や体力の増強のために、このような患者は、多量に良質のたんぱく質が必要とされる。そこで、たんぱく質を効率よく摂取させるために、日常の食事に追加して与えるたんぱく質原料として、良質の乳たんぱくである乳清たんぱくが必要となる。
たんぱく質原料は、患者などに投与するために、通常、水、牛乳、ジュース、スープなどに溶解させたり、あるいは、ゼリー、プリンなどのデザートや食事に混ぜることが行われている。しかしながら、この場合、粉末状のものは、たんぱく質を高含有できるものの、溶解しにくく、調製に非常に手間がかかるのを免れないという問題がある。このため、水に容易に、かつ、混ぜた食品にできるだけ影響しないようにするため、透明に溶解するたんぱく質を高含有する粉末の栄養補助食品が要望されていた。
【0003】
従来より、難溶解性のたんぱく質原料の多くは乾燥させた粉末原料である場合が多いが、これらを水に添加した場合、粉末自身が水中に分散しながら溶解するよりも、水との接触面で表面だけが水和する方が早く、粉末の表面だけが濡れて内部まで水が浸透しない、いわゆる「ままこ」や「だま」が発生して溶解し難いという問題があった。この問題点を解決するために、水に分散し難い粉末を造粒したり、該粒を多孔質化したりして、構造的に水を早く粉末全体に浸透させる方法が取られたりする。これらの方法により得られた粉末原料は、水に対する溶解性がある程度改善されるが、粉末の水濡れが依然として悪いため、上記処理をした粉末を水に添加した場合、一部の小さい粉末塊は水面に浮き、沈降するのに時間がかかったり、やはり、沈降したままで容易に溶解しない粉末塊も存在することとなっていた。粉末原料の種類にもよるが、一度できてしまった「ままこ」や「だま」を完全に溶解させることは非常に困難であり、この「ままこ」や「だま」を防ぐには、粉末原料を使用の際、高速撹拌しながら徐々に添加する方法、数倍以上の「ままこ」や「だま」にならない粉体と混合して用いる方法、粉体の粒径を大きくする方法或いは粉体の表面を被覆する方法が挙げられるが、手間および溶解性の点で全てを満足させるものではない。
【0004】
一方、たんぱく質原料と同様に難溶性であるキサンタンガムを易溶性にする製造方法は、既に文献に記載されており(特許文献1参照)、これにはキサンタンガムをHLB8以上のポリグリセリンまたはショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチンを乳化剤として処理することによって、キサンタンガムの水和性・分散性を改善した方法が記載されている。しかしながら、この方法は、上記問題を完全に解決したものではなく、また、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンの乳化剤は、溶液が白濁してしまうという問題があった。
また、水溶性多糖類の水への溶解性、作業性を改善するために、水溶性多糖類の粉体に、乳化剤として、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、テトラグリセリンモノラウレート、テトラグリセリンモノオレエートなどの乳化剤の混合液をバインダーとして使用し、造粒する水溶性多糖類の製造方法がある(特許文献2参照)が、これらの乳化剤を使用した場合、乳化剤自体に風味の問題があり、添加量を多くすると風味に影響を与えたり、乳化剤自身を溶解した場合、白濁したり、もしくは、長期保存により乳化剤が結晶化するなどの問題があり、透明性が必要とされる用途や長期保存を行う用途では使用できなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−230703号公報
【特許文献2】特開2000−63402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の状況を鑑みてなされたもので、水に難溶解性の乳清たんぱくに、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することにより、水に容易に、かつ、透明に溶解することを可能とし、経口的な栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態の患者などが摂取しやすくした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、水に難溶解性の乳清たんぱくを85重量%以上含有する高たんぱく粉末栄養組成物に、特定の界面活性剤をたんぱく質原料1重量部に対して、0.002〜0.02重量部添加すると、水に容易に、かつ、透明に溶解することができ、経口的な栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態の患者などが摂取しやすくした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物が得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)に示したものである。
(1)たんぱく質豊富に含むたんぱく質原料を主成分とする粉末に界面活性剤を添加した高たんぱく粉末栄養組成物であって、前記たんぱく質原料が乳清たんぱくを85重量%以上含有し、デカグリセリンと炭素数12〜14の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤をたんぱく質1重量部に対して、0.002〜0.02重量部添加されていることを特徴とする水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物。
(2)該高たんぱく粉末栄養組成物のたんぱく質含量が10gになるように、水300mLに添加し、500rpmで30秒間の攪拌条件で溶解したときの水に対する透過率が50〜100%の範囲である上記(1)に記載の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物。
(3)該高たんぱく粉末栄養組成物にビタミンまたは微量元素の中から選ばれる少なくとも1種を配合する上記(1)または(2)に記載の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物。
(4)乳清たんぱくを85重量%以上含有するたんぱく質原料を流動もしくは揺動させながら、デカグリセリンと炭素数12〜14の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤をたんぱく質1重量部に対して、濃度0.3〜15重量%に溶解したバインダー液を噴霧してから、該高たんぱく粉末栄養組成物を乾燥させる上記(1)から(3)のいずれかに記載の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物は、水に難溶解性の乳清たんぱくを85重量%以上含有する高たんぱく粉末栄養組成物に、特定の界面活性剤をたんぱく質1重量部に対して、0.002〜0.02重量部添加することにより、水に容易に、かつ、透明に溶解することが可能となり、経口的な栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態の患者などが摂取しやすくした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を詳細に説明する。
本発明において水易溶解とは、該高たんぱく粉末栄養組成物のたんぱく質含量が10gになるように水300mLに添加し、攪拌速度500rpmで30秒間攪拌することで溶解することを意味する。
本発明において透明とは、水300mLに対して、該高たんぱく粉末栄養組成物のたんぱく質含量が10gになるように溶解したときの透過率が50〜100%の範囲である状態を意味する。
本発明において透過率は、分光光度計(HITACHI U−2000 Spectrophotometer)を用い、波長660nmで測定した値をいう。
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物で使用する乳清たんぱく原料としては、市販されている脱乳糖ホエイ、低乳糖ホエイ、脱塩ホエイ、乳清たんぱく濃縮物(WPC)、乳清たんぱく単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンなどこれらの中から1種類以上ないし数種類の原料の組み合わせで用いることができるが、好ましくは、WPI、特に乳清たんぱくを85重量%以上含有するものであり、より好ましくは、90重量%含以上有するWPIである。
乳清たんぱく原料中の乳清たんぱくの含有量が、85重量%より少ないと、水に溶解した際に透明性を保持できなくなるため、好ましくない。
本発明に使用することのできる具体的な乳清たんぱく質原料(WPI)としては、WPI 895(フォンテラジャパン(株))、Lacprodan DI−9224(アーラフーズイングリディエンツジャパン(株))、エンラクト YYY(日本新薬(株))が挙げられる。
【0010】
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物に用いる界面活性剤は、親水基部位がデカグリセリンであり、さらに、炭素数12〜14の脂肪酸の炭素数が混合脂肪酸の平均炭素数によって特定された親水性の非イオン界面活性剤で、このような界面活性剤として、脂肪酸部位は飽和脂肪酸であることが好ましく、具体的にはデカグリセリンモノラウレートやデカグリセリンモノミリステートなどが例示できる。
前記デカグリセリンとは、界面活性剤の親水基部位が混合ポリグリセリンの数平均重合度が4であるテトラグリセリンや6であるヘキサグリセリンと区別され、混合ポリグリセリンの数平均重合度が10以上のものである.
【0011】
本発明に使用することのできる界面活性剤として、具体的には、SYグリスター ML―750やSYグリスター MM―750(阪本薬品工業(株))、サンソフト Q−12Sやサンソフト Q−14S(太陽化学(株))が挙げられる。
本発明に用いる界面活性剤の混合ポリグリセリンの数平均重合度が10未満では、水に溶解した際に透明性を保持できなくなるため、好ましくない。また、本発明に用いる界面活性剤の脂肪酸成分の炭素数が12未満では、風味が悪くなり、炭素数が14を超える場合は水に対する溶解性が不十分となる。
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物中の界面活性剤の添加量は、たんぱく質1重量部に対して、0.002〜0.02重量部、好ましくは、0.0025〜0.015重量部が適当である。添加量がたんぱく質1重量部に対して0.002重量部未満の場合、粉末の溶解性を改善する効果が不十分であり、また、0.02重量部を超えると、風味が悪くなるので、食品として好ましくない。
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を製造する際には、製品の種類に応じて通常用いられる適宜なビタミンや微量元素などの成分を配合することが出来る。
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物に用いるビタミンとしては、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビオチン、パントテン酸、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンKなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。
ビタミンの配合量としては、高たんぱく粉末栄養組成物10gあたり、下記の範囲が適当である。
【0012】
ビタミンB1 0〜40mg、好ましくは0.1〜25mg
ビタミンB2 0〜20mg、好ましくは0.1〜12mg
ビタミンB6 0〜60mg、好ましくは0.1〜10mg
ビタミンB12 0〜100μg、好ましくは0.2〜60μg
ナイアシン 0〜300mg、好ましくは1.5〜60mg
パントテン酸 0〜55mg、好ましくは0.6〜30mg
葉酸 0〜1000μg、好ましくは20〜200μg
ビオチン 0〜1000μg、好ましくは3〜500μg
ビタミンC 0〜2000mg、好ましくは10〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg、好ましくは60〜600μg
ビタミンD 0〜50μg、好ましくは0.3〜5μg
ビタミンE 0〜800mg、好ましくは1〜150mg
ビタミンK 0〜1000μg、好ましくは2〜700μg
【0013】
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物に用いる微量元素としては、鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン、クロム、ヨウ素、モリブデンなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。
微量元素の配合量としては、高たんぱく粉末栄養組成物10gあたり、下記の範囲が適当である。
鉄 0〜55mg、好ましくは0.1〜10mg
亜鉛 0〜30mg、好ましくは0.1〜15mg
銅 0〜10mg、好ましくは0.01〜6mg
マンガン 0〜11mg、好ましくは0.01〜8mg
セレン 0〜450μg、好ましくは0.1〜35μg
クロム 0〜40μg、好ましくは0.1〜35μg
ヨウ素 0〜3000μg、好ましくは0.1〜150μg
モリブデン 0〜320μg、好ましくは0.1〜25μg
【0014】
以上、本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、上記の成分の他に、製品の種類に応じて、通常食品の分野で広く用いられている成分を適宜使用することができる。例えば、糖類、甘味料、高甘味度甘味料、油脂、起泡性素材、酸味料、調味料、中和剤、カラメル、色素、香料、果汁、ピューレ、保存料、エキス、pH調整剤、糊料なども、本発明の効果を損なわない範囲で任意に添加することができる。
【0015】
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物で使用する糖類としては、従来から、食品に慣用されるものでよく、例えば、澱粉、デキストリンやブドウ糖および果糖などの単糖類、マルトースおよび乳糖などの二糖類、砂糖、グラニュー糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖など)、粉飴、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトールなど)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
また、従来公知もしくは将来知られうる甘味成分も糖類の代わりに用いることができる。具体的には、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末などの甘味成分を用いても良い。
【0016】
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物に用いる油脂としては、従来使用されているものはいずれも可能であり、例えば、大豆油、なたね油、コーン油、サフラワー油、キャノーラ油、パーム油、ココヤシ油、ヒマワリ油、オリーブ油、シソ油、エゴマ油などの植物性油脂、牛脂、ラードなどの動物性油脂、魚油、MCT油などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
本発明において得られる水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物は、その後に使用される水溶液での腐敗を考慮すると保存剤あるいは防腐剤などを添加することができる。保存剤あるいは防腐剤の添加方法としては、高たんぱく粉末栄養組成物の製造時にあらかじめ添加しておくか、あるいは本発明の造粒工程中でバインダー液中に添加することができ、水溶性のものであれば直接添加でよいが、水懸濁性のものであれば、高たんぱく粉末栄養組成物の製造工程中で懸濁するか懸濁液を添加する方法、あるいは、本発明の造粒工程におけるバインダー液調製段階でバインダー液に懸濁する方法が使用できる。また、揮発性を有するものや耐熱性に劣るものを使用する場合は、乳化させてマイクロカプセル化したものを懸濁させる方が好ましい。
保存剤あるいは防腐剤としては、エタノール、グリシン、グルコノデルタラクトン、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸、デヒドロ酢酸、次亜塩素酸およびその塩類、低級脂肪酸エステル、ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、芥子抽出物、ワサビ抽出物、晒粉、キトサンなどを用いるのが適当である。
【0017】
本発明に係る水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物の造粒方法としては、常法により製造できる。例えば、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、噴霧乾燥造粒法、転動造粒法、撹拌造粒法などがあり、乳清たんぱくにバインダー液を噴霧して、粉体にバインダー液成分を被覆できる方法が挙げられる。なかでも流動層造粒法により製造するのが好ましい。
流動層造粒法による製造方法として、以下の方法を例示することができる。例えば、乳清たんぱくを85重量%以上含有するたんぱく質原料を造粒機にいれ、下方から熱風を送り込むことで、粉体を流動させる。この流動層にデカグリセリンと炭素数12〜14の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤をたんぱく質1重量部に対して、0.002〜0.02重量部になるように濃度0.3〜15重量%に溶解したバインダー液をノズル噴霧し、粉体表面に均一に界面活性剤液を付着させ、凝集粒をつくり、これを乾燥させることにより高たんぱく粉末栄養組成物を製造する方法を挙げることができる。
【0018】
バインダー液に溶解する界面活性剤の濃度が、0.3重量%未満の場合、乾燥させる際に手間がかかり、また、15重量%を超えると、バインダー液に界面活性剤を溶解させることが困難となるので、好ましくない。
バインダー液は、界面活性剤とこれらを溶解あるいは懸濁させる溶媒により構成される。使用される溶媒としては、水単独が好ましいが、エチルアルコールなどの水溶性の溶剤を添加してもよい。
該高たんぱく粉末栄養組成物にビタミンまたは微量元素を混合する方法としては、たんぱく質と一緒に造粒機に入れ、混合したり、界面活性剤と一緒にバインダー液に溶解して、噴霧したり、また、バインダー液を噴霧後または乾燥後、混合する方法が挙げられる。
【0019】
本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を栄養補給の目的で適宜添加して使用することができる対象食品として、例えば、たんぱく質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、ミキサー食、およびキザミ食などの特殊食品や治療食や牛乳、豆乳、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、果汁飲料、菜汁飲料、コーヒー飲料、茶飲料、アミノ酸飲料、澱粉飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、粉末飲料、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープなどの各種スープ、味噌汁、シチュウ、カレー、グラタンなどのスープ類などを挙げることができる。
更には、各種加工食品の製造時に本発明の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を添加することもできる。例えば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓などの冷菓類やカスタードプリン、ミルクプリンおよび果汁入りプリンなどのプリン類、ゼリー、ババロアおよびヨーグルトなどのデザート類など、種々の食品およびこれらの食品を更に加工した、加工食品などの一般食品も挙げることができる。
【0020】
このようにして得られた水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物は、水に難溶解性の乳清たんぱくの高たんぱく粉末栄養組成物を水に容易に、かつ、透明に溶解することを可能とし、経口的な栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態の患者などが摂取しやすくすることができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
乳清たんぱく(たんぱく質含量:94重量%)10.6kgを流動造粒乾燥機(フロイント産業(株)、フローコーター FLO−15)にいれ、入口温度70℃、排風温度60℃、造粒時間5分間の条件下で、粉体を流動させる。この流動層にデカグリセリンモノミリステート50gを水1500gに溶解したバインダー液をノズル噴霧し、粉体表面に均一に界面活性剤液を付着させ、凝集粒をつくり、これを25分間乾燥処理を行って水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を得た。この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物10.6gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率(分光光度計、HITACHI U−2000 Spectrophotometer、波長660nm)は90%であった。
(実施例2)
実施例1において、乳清たんぱく(たんぱく質含量:94重量%)10.6kgを乳清たんぱく(たんぱく質含量:88重量%)11.4kgにした以外は実施例1と全く同じ調製法を繰り返して水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を得た。この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物11.4gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は83%であった。
【0022】
(比較例1)
実施例1において、乳清たんぱく(たんぱく質含量:94重量%)10.6kgを乳清たんぱく(たんぱく質含量:80重量%)12.5kgにした以外は実施例1と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。この高たんぱく粉末栄養組成物12.5gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解したが、そのときの透過率は1%であった。
(比較例2)
実施例1において、乳清たんぱく(たんぱく質含量:94重量%)10.6kgを乳清たんぱく(たんぱく質含量:76重量%)13.2kgにした以外は実施例1と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。この高たんぱく粉末栄養組成物13.2gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解したが、そのときの透過率は0%であった。
【0023】
(実施例3)
乳清たんぱく(たんぱく質含量:94重量%)10.6kgおよび表1に示す配合でミネラルミックス98gを流動造粒乾燥機にいれ、入口温度70℃、排風温度60℃、造粒時間5分間の条件下で、粉体を流動させる。この流動層にデカグリセリンモノラウレート50gとシアノコバラミン(デキストリンによる1000倍散)0.8gを水1500gに溶解したバインダー液をノズル噴霧し、粉体表面に均一に界面活性剤液を付着させ、凝集粒をつくり、これを25分間乾燥処理を行った。その後、表2に示すビタミンミックス120.4gを流動造粒乾燥機にいれ、5分間混合処理を行って水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、下記評価法1〜3では、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は57%であった。また、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.8であり、ほとんどの被験者は、界面活性剤の臭味がせず、おいしく食べられた。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
(評価法1:溶解性試験)
実施例3〜6の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物および比較例3〜12の高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌した後の溶解性を評価した。結果を表3に示す。
○:溶解した。
△:わずかに不溶解物が残った。
×:溶解しなかった。
(評価法2:透明性試験)
実施例3〜6の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物および比較例3〜12の高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに溶解したときの透過率を吸光分光光度計により測定した。結果を表3に示す。
(評価法3:風味試験)
実施例3〜6の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物および比較例3〜12の高たんぱく粉末栄養組成物10.82gをスープ粉末(クノール食品(株)、チキンコンソメ)10.2gとともに70℃のお湯150mLに溶解し、10名の被験者に食してもらい、風味を官能評価した。評価は次に示す5点で行い、平均点を算出した。結果を表3に示す。
5点:界面活性剤の臭味がせず、おいしく食べられる。
4点:界面活性剤の臭味があまりせず、食べられる。
3点:どちらともいえない。
2点:界面活性剤の臭味がわずかにあり、あまり食べられない。
1点:界面活性剤の臭味があり、食べられない。
【0027】
【表3】

【0028】
(実施例4)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをデカグリセリンモノミリステートにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は55%であった。また、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.9であり、ほとんどの被験者は、界面活性剤の臭味がせず、おいしく食べられた。
(比較例3)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをテトラグリセリンモノラウレートにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解したが、そのときの透過率は14%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.3であり、被験者は、界面活性剤の臭味がせず、おいしく食べられた、もしくは、界面活性剤の臭味があまりせず、食べられた。
【0029】
(比較例4)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをヘキサグリセリンモノラウレートにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解したが、そのときの透過率は21%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.1であり、ほどんどの被験者は、界面活性剤の臭味があまりせず、食べられた。
(比較例5)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをデカグリセリンモノカプリレートにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は58%であった。しかしながら、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は1.0であり、被験者全員が、界面活性剤の臭味があり、食べられなかった。
(比較例6)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをデカグリセリンモノオレエートにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、わずかに不溶解物が残り、そのときの透過率は38%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は2.2であり、ほとんどの被験者全員は、界面活性剤の臭味がわずかにあり、あまり食べられなかった。
(比較例7)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをデカグリセリンモノステアレートにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌では、溶解せず、さらに時間をかけて溶解したときの透過率は3%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は2.8であり、ほとんどの被験者全員は、界面活性剤の臭味がわずかにあり、食べることについてはどちらともいえなかった。
【0030】
(比較例8)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートを酵素分解レシチンにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、わずかに不溶解物が残り、そのときの透過率は0%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は1.4であり、被験者全員は、界面活性剤の臭味がわずかにあり、あまり食べられなかった、もしくは、界面活性剤の臭味があり、食べられなかった。
(比較例9)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをキラヤサポニンにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌では、溶解せず、さらに時間をかけて溶解したときの透過率は58%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は1.0であり、被験者全員が、界面活性剤の臭味があり、食べられなかった。
(比較例10)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレートをショ糖ラウリン酸エステルにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、わずかに不溶解物が残り、そのときの透過率は5%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は3.3であり、ほとんどの被験者全員は、界面活性剤の臭味がわずかにあり、食べることについてはどちらともいえなかった。
【0031】
(実施例5)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレート50gを160gにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は56%であった。また、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.0であり、ほとんどの被験者は、界面活性剤の臭味があまりせず、食べられた。
(実施例6)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレート50gを25gにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は57%であった。また、この水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.9であり、ほとんどの被験者は、界面活性剤の臭味がせず、おいしく食べられた。
【0032】
(比較例11)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレート50gを250gにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌することにより、容易に溶解し、そのときの透過率は55%であった。しかしながら、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は1.2であり、ほとんどの被験者は、界面活性剤の臭味があり、食べられなかった。
(比較例12)
実施例3において、デカグリセリンモノラウレート50gを15gにした以外は実施例3と全く同じ調製法を繰り返して高たんぱく粉末栄養組成物を得た。
なお、上記評価法1〜3では、この高たんぱく粉末栄養組成物10.82gを水300mLに添加し、500rpmで30秒間攪拌では、溶解せず、さらに時間をかけて溶解したときの透過率は58%であった。また、この高たんぱく粉末栄養組成物をスープに溶解した際の風味試験の評価は4.9であり、ほとんどの被験者は、界面活性剤の臭味がせず、おいしく食べられた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、水に難溶解性の乳清たんぱくに、特定の界面活性剤を添加することにより、水に容易に、かつ、透明に溶解することを可能とし、経口的に栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者あるいは低栄養状態などの患者が摂取しやすくした水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物に関するものであって、産業上十分に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質を豊富に含むたんぱく質原料を主成分とする粉末に界面活性剤を添加した高たんぱく粉末栄養組成物であって、前記たんぱく質原料が乳清たんぱくを85重量%以上含有し、デカグリセリンと炭素数12〜14の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤をたんぱく質1重量部に対して、0.002〜0.02重量部添加されていることを特徴とする水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物。
【請求項2】
該高たんぱく粉末栄養組成物のたんぱく質含量が10gになるように、水300mLに添加し、500rpmで30秒間の攪拌条件で溶解したときの水に対する透過率が50〜100%の範囲である請求項1に記載の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物。
【請求項3】
該高たんぱく粉末栄養組成物にビタミンまたは微量元素の中から選ばれる少なくとも1種を配合する請求項1または2に記載の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物。
【請求項4】
乳清たんぱくを85重量%以上含有するたんぱく質原料を流動もしくは揺動させながら、デカグリセリンと炭素数12〜14の脂肪酸とのモノエステルの中から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤をたんぱく質1重量部に対して、濃度0.3〜15重量%に溶解したバインダー液を噴霧してから、該高たんぱく粉末栄養組成物を乾燥させる請求項1から3のいずれかに記載の水易溶解性高たんぱく粉末栄養組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−242308(P2009−242308A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91615(P2008−91615)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】