説明

水晶体線維症疾患の治療および予防用の組成物と方法

【解決手段】水晶体線維症疾患の治療組成物および方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法U.S.C.35に基づき2008年12月4日付で出願された米国特許仮出願第61/119,750号に対して優先権を主張する。前記仮出願は、ここに参照によって本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、水晶体線維症疾患の技術分野に関する。詳細には、線維化特に水晶体線維症疾患の抑止、治療および/または予防用の組成物と方法が開示される。
【背景技術】
【0003】
本発明に関連する当技術水準を記載すべく、本明細書全般にわたって幾つかの刊行物および特許文献が引用されている。これらの引用は、参照により、それぞれその全体が記載されたように本明細書に組み込まれる。
【0004】
筋線維芽細胞は、例えば、後嚢混濁(posterior capsule opacification:PCO)および前嚢下白内障(anterior subcapsular cataract:ASC)のような、視力の低下を来す水晶体の線維症疾患の原因である可能性が高いとされている。PCOは、白内障手術の一般的な合併症である。ASCおよびPCOにおける、筋線維芽細胞の起源は分かっていない。現在までに、PCOのような水晶体線維症疾患の発症を効果的に抑制するのに用いられる方法は見つかっていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、線維症疾患、特に水晶体線維症疾患を抑制する方法を提供する。特定の実施形態において、前記方法は、係る治療を必要とする患者の水晶体に、少なくとも1種類の細胞傷害性分子を共役(conjugate)結合させた、少なくとも1種類の、骨格筋幹細胞を標的指向する分子と、少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体とを、含む組成物を治療有効量投与することを含む。別の実施形態において、水晶体線維症疾患は後嚢混濁または前嚢下白内障である。さらに別の実施形態において、本発明の組成物は、水晶体または周囲の組織に直接投与される。
【0006】
本発明の別の実施形態によれば、水晶体線維症疾患の治療組成物が提供される。特定の実施形態において、前記組成物は、少なくとも1種類の細胞傷害性分子と、少なくとも1種類の細胞傷害性分子が共役結合されている少なくとも1種類の骨格筋幹細胞を標的指向する分子と、少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1Aおよび図1Bは、後嚢混濁を誘発するためのニワトリの水晶体嚢袋の模擬白内障手術後における、それぞれ0日目と2日目水晶体の骨格筋幹細胞の画像を示すものである。
【図2】図2Aは、補体のみでまたはG8抗体と補体中で培養した後嚢混濁誘導水晶体(1日目)由来のα−平滑筋アクチンおよびβ−アクチンのウェスタンブロット画像である。図2Bは図2Aのウエスタンブロットのシグナル強度比のグラフである。
【図3】図3は、G8とMyoD mRNA標識マウスの水晶体細胞の画像である。
【図4】図4は、水晶体上皮内ニッチ(niche)に存在するG8pos細胞亜集団の画像を示す。水晶体は、上皮外植片の調製前、胚齢E15日固定し、in situ(原位置)局在G8pos細胞を保存した。外植片は、ローダミン−共役結合二次抗体でタグ付けしたG8抗原に対してmAbで標識し、F−アクチン(Alexa Fluor−488ファロイジン、phalloidin)および核(に対して共染色したTO−PRO(登録商標)−3、ブルー)。XYタイル(図4A)(図4に、サイズバー20μmでより高い倍率で示す)としてデジタル処理で取得した単一光学面の共焦点イメージングは、G8pos細胞が、水晶体上皮細胞間で囲まれたニッチ(矢印)に局在することを示すものである。図4Aの挿入図は、水晶体上皮関連G8pos細胞は、また、MyoD mRNAを発現していることを示し、これは、培地でT0(試験開始時)に固定した植片中に、Cy3でタグ付けしたMyoDアンチセンス オリゴヌクレオチド配列に共役結合したDNAデンドリマーズ(dendrimers)で検出され,核はHoechst色素で対比染色した。さらにG8pos細胞のニッチ位置を定める光学切片のZ−スタックから、直交カット(上部パネル、図4B)を作成した。当該直交カットは主要光学部の水平線に沿って作成した(下部パネル、図4B)。G8posのニッチは、水晶体上皮細胞の頂面と関連していた(矢印、図4B)。
【図5−1】図5は、G8pos前駆細胞が上皮の傷害に反応して、拡大し、創傷端に移動したこと示すものである。(図5A)にモデル化した、模擬白内障手術を実施し、生体外で創傷した上皮外植片を調製した。当該繊維細胞塊を水晶体嚢(基底膜、BM)から剥離し、前記繊維細胞に当接していた水晶体上皮(lens epithelium:LE)に、創傷したリーディングエッジ部(leading edge)を作成した。外植片を平たくするよう前嚢にカットを施し、創傷カットエッジ部(cut edge)を作成した。図5B〜5Fで、創傷に対するG8pos細胞の初期反応は、培地中1時間で、G8cmAbで免疫標識することによって測定した。Alexa Fluor 488−ファロイジンでF−アクチンを染色して水晶体上皮細胞の輪郭を決めた。模擬白内障手術で加えた創傷で誘導されて、G8posの細胞集団が出現、拡大し(図5B、5C)、次いでリーディングエッジ部(図5D〜5E)およびカットエッジ部(図5F)両方の創傷端に向かって移動した。水平線の位置(図5E、下のパネル)で共焦点Z−スタックを通してなした直交カット(図5E、上のパネル)は、水晶体上皮細胞の頂面に沿ってG8pos細胞(矢印)がリーディングエッジ部に移動したことを示した。図5G〜5IでG8pos細胞の間葉表現型は、G8とビメンチン(vimentin)に対する二重標識で実証されおり、図5Iにオーバーレイして(重ね合わせて)ある。サイズバーは20μm。
【図5−2】図5は、G8pos前駆細胞が上皮の傷害に反応して、拡大し、創傷端に移動したこと示すものである。(図5A)にモデル化した、模擬白内障手術を実施し、生体外で創傷した上皮外植片を調製した。当該繊維細胞塊を水晶体嚢(基底膜、BM)から剥離し、前記繊維細胞に当接していた水晶体上皮(lens epithelium:LE)に、創傷したリーディングエッジ部(leading edge)を作成した。外植片を平たくするよう前嚢にカットを施し、創傷カットエッジ部(cut edge)を作成した。図5B〜5Fで、創傷に対するG8pos細胞の初期反応は、培地中1時間で、G8cmAbで免疫標識することによって測定した。Alexa Fluor 488−ファロイジンでF−アクチンを染色して水晶体上皮細胞の輪郭を決めた。模擬白内障手術で加えた創傷で誘導されて、G8posの細胞集団が出現、拡大し(図5B、5C)、次いでリーディングエッジ部(図5D〜5E)およびカットエッジ部(図5F)両方の創傷端に向かって移動した。水平線の位置(図5E、下のパネル)で共焦点Z−スタックを通してなした直交カット(図5E、上のパネル)は、水晶体上皮細胞の頂面に沿ってG8pos細胞(矢印)がリーディングエッジ部に移動したことを示した。図5G〜5IでG8pos細胞の間葉表現型は、G8とビメンチン(vimentin)に対する二重標識で実証されおり、図5Iにオーバーレイして(重ね合わせて)ある。サイズバーは20μm。
【図6】図6は、水晶体上皮の創傷に反応するG8pos細胞が創傷時に存在していたG8pos細胞の子孫であったことを示す追跡調査を提供するものである。水晶体上皮の生体外外植片(ex vivo explants)のG8pos細胞は、T0(試験開始時)において、G8 mAbおよびローダミン−共役結合二次抗体でタグ付けされた。タグ付けしたG8細胞を有する外植片は、培養され、傷害時の後24時間(図6A〜6F)または72時間(図6G〜6I)追跡したが、その時点毎にで外植片を固定し、G8 mAbで再び標識し、今回はAlexa Fluor 488−共役結合二次抗体でタグ付けした。図6A〜6Cおよび図6G〜6Iは拡大したニッチであり、図6D〜6Fはリーディングエッジ部にある細胞である。重ね合わせ(overlays)に見られるように(図6C、6F、6I)、Alexa Fluor 488−タグ付きG8で標識した細胞(図6B、6E、6H)も、すべて追跡したローダミン−タグ付きG8で標識されていた(図6A、6D、6G)。これらの結果で、水晶体上皮を治癒するのに加わった前記G8pos細胞は、傷害時に存在していたG8posの前駆細胞から派生したものであって、後にG8の系統に動員された細胞が含まれていないことが実証された。サイズバーは20μm。
【図7−1】図7はG8pos細胞が筋線維芽細胞の前駆体であることを示す。6日間培養した創傷水晶体上皮(図7A〜7C)はG8抗原(図7A)とα−SMA(図7B)に対して二重標識し、図7Cに重ねあわせてある。G8pos細胞のコロニー内で、G8pos細胞から筋線維芽細胞へ進行した、すなわち、α−SMAを発現していないか僅少であるG8pos細胞(白矢じり)、未だストレスファイバーに組織化していないα−SMAを発現しているG8pos細胞(矢印)、ストレスファイバーを含むα−SMAを有するG8pos細胞(開矢じり)、およびG8抗原を失なった(破線矢印)筋線維芽細胞である。外植片はまた、上記と同様な経過でG8pos細胞が剛性の培養皿に移動できる条件下生育させると、G8細胞が3日以内に筋線維芽細胞へ分化するのが促進された(図7D〜7F)。サイズバーは20μm。
【図7−2】図7G、7Hは、G8pos細胞をG8 mAbによりタグ付けし、補体Cで溶解することで、該細胞が培養1日目に上皮外植片中で切除(ablated)されたことを示す。図7Gは、Cと比較してG8+Cでは、切除後1日目の細胞の消失によって確認された、溶解細胞(○で囲まれた領域)のトリパンブルー(trypan blue)の取り込みマークのエリアを示す。図7Hは、培養1日目にG8+C、G8のみ、Cのみで処理または未処理(U)で、更に5日間培養し、α−SMAおよびβ−アクチンに対して免疫ブロットした上皮外植片を示す。G8細胞の切除は、α−SMAの発現を抑制したのである。
【図8】図8Aは、パラフィンに包埋し、切片化し、ヘマトキシリン(hematoxylin)とエオシンで染色した成体マウス眼球の画像である。当該矢印は、図8Bと8Cに蛍光顕微鏡画像で高倍率で示される領域を指す。前記G8抗体で標識した細胞は、図8Bと8Cに矢印で示してある。細胞核も染色される。
【図9】図9A〜9Dはそれぞれ、G8抗原、α平滑筋アクチン(SMA)、ミオシン、およびMyoDタンパク質の存在に対して染色された横紋筋肉腫細胞の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
水晶体は、単一細胞型である上皮細胞から成ると推定される。したがって、水晶体内の筋線維芽細胞は、上皮から間葉への移動を遂げる、水晶体上皮細胞から発生するという仮説を立てることが出来る。このトランス分化は、α−平滑筋アクチン(α−SMA)の発現によって同定することができる。
【0009】
水晶体線維症疾患のモデルが本明細書において提供されるが、該モデルにおいて、培養したニワトリ胚水晶体が嚢混濁後の水晶体線維性障害、すなわち、増殖、後嚢全体にわたる移動、および間葉系マーカーの発現の主要な特徴を反復する。このモデルを使用して線維症を引き起こす原因となる細胞を同定した。特に、骨格筋幹細胞(skm幹細胞)は、MyoD mRNAおよびG8抗原を発現する、新たに同定された水晶体細胞の集団であって、水晶体線維症疾患の発症に大きな役割を果たすことが確認された。
【0010】
以下に実証するように、水晶体には、骨格筋系統のマーカーを発現する幹細胞の独特な亜集団(下位個体群)が含まれている。これらskm幹細胞は、赤道上皮内ニッチに存在する。創傷時に、skm幹細胞は活性化され、上皮から出現し、α−平滑筋アクチン(α−SMA)を発現する。skm幹細胞は、筋線維芽細胞のマーカーである、α−平滑筋アクチン(α−SMA)発現の原因である。これらの結果は、skm幹細胞の前記亜集団は、水晶体の線維症疾患の原因であることを示すものである。
【0011】
後嚢混濁(PCO)は白内障手術後の患者の20〜40%に発症する疾患である。白内障手術実施後に残る水晶体上皮細胞は、クリアになった水晶体後嚢へ移動する。上皮から出現する細胞の亜集団は、PCOの発症時に視力を損なう線維性変化の原因である。ここに実証するように、筋線維芽細胞的特性を有する前記細胞は、水晶体の上皮に包埋されている骨格筋幹細胞に由来する。水晶体内の骨格筋幹細胞は、骨格筋特異転写因子MyoD(例えば、MyoD mRNA)およびG8抗原の発現に基づいて同定することができる。骨格筋幹細胞は、タンパク質ノギン(Noggin)を表すこともある。
【0012】
本発明によれば、線維症疾患/線維症、特に眼の線維症疾患を、抑制、予防、リスク低減、および/または、治療する方法が提供される。特定の実施形態において、本発明の方法は、臓器または組織(例えば、心臓、皮膚、腸、肺、肝臓、および/または腎臓に存在)の線維症を抑制する。特定の実施形態において、前記方法は、眼球、特に水晶体内の骨格筋幹細胞を減少、および/または除去する工程を含む。好ましい実施形態では、眼の線維症疾患は、水晶体線維症疾患である。眼の線維症疾患には、先天性眼線維症症候群、眼アレルギー性疾患(例えば、眼アレルギー性炎症)、角膜線維症、小柱網線維症、網膜線維症、および水晶体線維症疾患が含まれるが、これらに限定されない。水晶体線維症疾患には、後嚢混濁および白内障(例えば、前嚢下白内障)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
骨格筋幹細胞の切除は、種々の手段で達成することができる。特定の実施形態において、本発明の方法は、骨格筋幹細胞が、他の細胞、特に水晶体上皮細胞とは異なる分子(例えば、細胞膜において)を有するという事実を利用する。本発明の特定の実施態様では、水晶体の線維症疾患を抑制、予防、リスク低減、および/または治療する前記方法は、選択的に少なくとも1種類の細胞傷害性分子を有する(例えば共役結合して)、少なくとも1種類の、骨格筋幹細胞を標的指向する分子を投与する工程を含む。本発明の分子(複数を含む)は少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体に含める。特定の実施形態において、当該標的指向部分は、選択的に連結ドメインを介して、細胞傷害性分子に共有結合されている。別の実施形態において、細胞傷害性分子は、標的指向部分(例えば、G8抗体を認識する抗体)に対して特異的親和性を有する分子に結合されている。さらに別の態様において、標的指向部分および細胞傷害性分子が共有結合されていない。例えば、本発明の方法は、G8抗体(skm幹細胞を標的指向する分子)と補体とを、一つの医薬組成物で、または順次または同時に投与する別々の医薬組成物で投与することを含む。
【0014】
特異的に骨格筋幹細胞を標的指向するのは、細胞表面分子と、例えば水晶体上皮細胞に比べて骨格筋幹細胞にとって独特なリガンドおよび/または抗体とを、特異的に結び付けることよって達成できる。骨格筋幹細胞に対する細胞表面の標的は、G8抗原、シンデカン類(syndecans)(シンデカン1〜4)、c−Met(間葉上皮移動因子、肝細胞増殖因子受容体(HGFR))、CD34、およびM−カドヘリン(M−cadherin)を包含するが,これらに限定されない。特定の実施形態において、細胞表面の標的は、G8抗原である。従って、本発明の前記標的指向部分は、他の水晶体の細胞、例えば、水晶体上皮細胞を普遍的に排除して、特異的に骨格筋幹細胞の細胞表面の標的と結合する。
【0015】
骨格筋幹細胞は、前記標的指向部分を細胞死に誘導する試薬(例えば、細胞傷害性分子)と結合させることによって除去/減少させることができる。細胞傷害性分子は、補体(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ウマ、およびヒト;例えば、補体を含む血液/血清分画;例えば、補体成分(等)/タンパク質(等);例えば補体の活性剤)、ナノ粒子とナノチューブ(例えば、感熱性炭素ナノクリスタル)を包含するが、これらに限定されず;例えば、次を参照:Chakravartyら(2008)PNAS 105:8697〜8702)およびChoら(2008)Clin.Cancer Res.,14:1310〜1316)、細胞傷害性抗生物質(例えば、カリケアマイシン calicheamicin)、カチオン性両親媒性溶解性ペプチド(例えば、KLA(アミノ酸配列:KLAKLAKKLAKLAK(配列番号:2))およびPTP(前立腺特異的膜抗原を標的指向するペプチドCQKHHNYLC(配列番号:3)))、放射性核種、および毒素。毒素は各種の供給源に由来することができる、例えば、植物、細菌、動物、およびヒト、または合成毒素(薬剤)であり、例えば、サプリン(saprin)、リシン(ricin)(例えば、リシンA)、アブリン(abrin)、エチジウムブロマイド(ethidiumbromide)、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(pseudomonas)、PE40、PE38、サポリン(saporin)、ゲロニン(gelonin)、RNAse、ペプチド核酸(PNAs)、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)タイプ1またはタイプ2、ヨウシュヤマゴボウ(pokeweed)抗ウイルスタンパク質(PAP)、ブリオジン(Bryodin)、モモルジン(momordin)、化学療法剤,およびボーガニン(bouganin)を包含するが、これらに限定されない。本発明の放射性核種は、陽電子放出同位体およびα−、β−、γ−、オージェと低エネルギーの電子エミッタを包含するが、これらに限定されない。特定の実施形態においては、放射性核種は、α−エミッタ(放射体)またはオージェエミッタである。放射性同位元素は、13N、18F、32P、64Cu、66Ga、67Ga、68Ga、67Cu、77Br、80mBr、82Rb、86Y、90Y、95Ru、97Ru、99mTc、103Ru、105Ru、111In、113mIn、113Sn、121mTe、122mTe、125mTe、123I、124I、125I、126I、131I、133I、165Tm、167Tm、168Tm、177Lu、186Re、188Re、195mHg、211At、212Bi、213Bi、および225Acを包含するが、これらに限定されない。さらに別の実施形態においては、放射性核種含有分子は、放射線増感剤と共に投与する。
【0016】
本発明は、1)選択的に少なくとも1つの細胞毒を有する(例えば、共役結合されて)少なくとも1つの標的指向部分と、2)少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体と、を含む組成物を包含する。係る組成物は、線維症疾患、特に水晶体線維症疾患の治療を必要とする患者に、治療上有効な量を投与する。本発明の組成物(等)はキット内に含められる。
【0017】
本発明の組成物は、例えば、注射(例えば、局部に(直接、眼内水晶体を含めて)または、全身投与)、経口、肺、局所、経鼻または他の投与形式などの、如何なる適切な経路によっても投与することができる。前記組成は、非経口、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、局所、吸入、肺内、眼内皮下、アレテリアル(Areterial)内、直腸内、筋肉内、および鼻腔内投与を含む任意の適節な手段によって投与される。好ましい実施形態では、前記組成物は、眼球、特に水晶体に直接投与される。該組成物の薬学的に許容され得る担体は、希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、補助剤、および/または担体の群から選択される。前記組成物は、種々の緩衝剤(例えば、Tris塩酸、酢酸塩、リン酸塩)、pHおよびイオン強度の希釈剤;界面活性剤と可溶化剤(例えば、Tween80、Polysorbate80)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)等の添加剤、保存剤(例えば、Thimersol、ベンジルアルコール)および増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)を含むことができる。該組成物はまた、例えば、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリラクチド/グリコリド共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などの高分子化合物の粒子状製剤に、またはリポソームに組み込むことができる。係る組成物は、本発明の医薬組成物成分の物理的状態、安定性、生体内放出速度、および生体内クリアランス速度に影響を与える可能性がある。例えば、参照により本明細書中に組み入れられる(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Ed.(1990,Mack Publishing Co.,Easton,ペンシルバニア州、18042)1435から1712頁を参照。本発明の医薬組成物は例えば、液体または乾燥粉末の形態(例えば、後に再調製用に凍結乾燥)に調製することができる。
【0018】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、点眼剤、注射用溶液、または眼軟膏を含む。注射用溶液は、細い注射針を使用して直接水晶体または、隣接する組織に注入することができる。前記組成物はまた、コンタクトレンズ、またはより好ましくは、眼内レンズ(例えば、白内障手術で使用する眼内レンズ)を介して眼球に投与する。前記レンズは、前記組成物を塗布および/または包埋するか、または該組成物中に浸漬させる。
【0019】
さらに別の態様において、本発明の組成物は、線維症(例えば、PCOを起こす線維症)の予防用に白内障手術時、白内障手術後、または白内障手術前に投与にすることができる。さらに別の態様において、本発明の組成物は、当該繊維細胞塊の除去後、水晶体嚢袋に直接注入することができる。水晶体は無血管であるため、本発明(例えば、結合抗体)の分子が全身循環に進入することは予想されない。
【0020】
本明細書に記載の手法は、水晶体上皮の骨格筋幹細胞を特異的に標的し、除去/減少させるのに使用される。しかし、本発明の方法は、他の組織中の骨格筋幹細胞を除去するのに使用出来る可能性があり、骨格筋幹細胞の異常な行動および/または量、および/または異常な線維症に関連する他の疾患および障害を治療、抑制、および/または防止する。係る疾患および障害としては、例えば、瘢痕組織形成(例えば、皮膚、心臓、または肝臓の)が含まれる。
【0021】
定義
以下の定義は、本発明の理解を助けるために提供される:
用語「線維症」は、細胞外マトリックス蛋白質の過剰な産生や堆積を指す。線維症には線維組織の異常プロセシング、または類線維(フィブロイド)または線維変性が包含される。線維症は、様々な創傷や病気に起因することがある。用語「眼球の線維症」は、眼球またはその一部を冒す線維症を指す。「抗体」または「抗体分子」は、特定の抗原に結合する任意の免疫グロブリンであって、抗体およびその断片を包含する。当該用語には、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単一ドメイン(Dab)および二重特異性抗体が含まれる。本明細書中で使用する場合に、抗体または抗体分子は、組換え的に生成した完全な免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を意図し、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、F(v)、scFv、scFv、scFv−Fc、ミニボディ(minibody)、ダイアボディ(diabody二重特異性抗体)、テトラアボディ(tetrabody)、単一可変ドメイン(例えば、可変重鎖ドメイン、可変軽鎖ドメイン)、および二重特異性等であるが、これらに限定されない。ドメイン抗体(Dabs)は、単一の可変軽鎖または重鎖ドメインで構成することができる。本発明はまた、Affibody(登録商標)分子(Affibody、スウェーデン国ブロンマ)とpeptabodies(Terskikhら(1997)PNAS 94:1663〜1668)も包含する。本発明の特定の実施形態では、骨格筋幹細胞上の標的分子に特異的な可変軽鎖ドメインおよび/または可変重鎖ドメインは、上記抗体構造のバックボーンに挿入される。組換え的に抗体を産生する方法は当技術分野において周知である。「Fv」は、抗原認識および抗原結合部位を含む抗体フラグメントである。この領域は、タイトな、非共有結合会合で1つの重鎖と1つの軽鎖可変ドメインの二量体で構成されている。この構成で,各可変ドメインの3つのCDRs(相補性決定領域)が相互作用してV−Vダイマーの表面上に抗原−結合部位を規定するのである。まとめて言えば、6つのCDRsが前記抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に対して特異的な3つだけのCDRsを含むFvの半分)でさえも、多くの場合前記結合部位全体でよりも低い親和性においてであるが、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0022】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体の前記VおよびVドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。一般に、前記Fvポリペプチドは、更に前記VおよびVドメイン間にポリペプチドリンカーを含み、それによって前記scFvは抗原結合に目的とする構造を形成する。用語「ダイアボディ」は、抗原結合部位を有する、小さな抗体断片を指し、当該断片は同一ポリペプチド鎖(V−V)上の軽鎖可変ドメイン(V)に接続した重鎖可変ドメイン(V)を含む。短すぎて同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成が出来ないリンカーを使用することで、当該ドメインは別の鎖の相補ドメインとの対形成を強いられ、2つの抗原結合部位を形成する。ダイアボディについては、例えば、EP404,097、WO93/111611;およびHolligerら,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444〜6448によって詳しく説明されている。さらに別の態様において、抗体はヒト化されている。
【0023】
抗体に関して、用語「免疫学的に特異の」は、対象となるタンパク質や化合物の一種またはそれ以上のエピトープ(抗原決定基)と結合するが、抗原性生体分子の混合集団を含むサンプルにおいて他の分子を実質的に認識および結合しない抗体を指す。用語「特異的に結合する」は、目的のポリペプチドあるいはタンパク質を標的ポリペプチドあるいはタンパク質に結合させるが、生体分子の混合集団を含む試料中の他の分子を実質的に認識および結合しないことを指す。例えば、用語「特異的結合対」は、互いに特定の特異性を持ち、通常の状態で他の分子よりも優先的に互いに結合する、特異的結合メンバーと結合相手を含む。
【0024】
用語「共役結合した(conjugated)」は、本発明の二つの分子または化合物を共有結合または非共有結合によって結合することを指す。当該分子は、リンカー・ドメインで連結することが可能である。
【0025】
用語「リンカー・ドメイン」は、細胞毒に標的指向部分を共有結合で連結させる共有結合または原子鎖を有する化学的部分を指す。特定の実施形態において、リンカーは、0(すなわち、1つの化学結合から約500個の原子、約1個〜約100個の原子、または約1〜約50個の原子を含み得る。代表的なリンカーは、選択的に少なくとも1つの置換、飽和または不飽和、直鎖、分岐または環状アルキル、アルケニル、またはアリール基を含み得る。前記リンカーは、またポリペプチド(例えば、約1〜約20個のアミノ酸)であり得る。
【0026】
本明細書中で用いる場合、「放射線増感剤は」、放射線に対する細胞の感度を高めるように治療的有効量動物に投与する分子として定義される。放射線増感剤は、細胞の放射線の毒性作用に対する感度を増大させることが知られている。放射線増感剤は、2−ニトロイミダゾール化合物およびベンゾトリアジン ジオキシド化合物、ハロゲン化ピリミジン、メトロニダゾール(metronidazole)、ミソニダゾール(misonidazole)、デスメチルミソニダゾール(desmethylmisonidazole)、ピモニダゾール(pimonidazole)、エタニダゾール(etanidazol)、ニモラゾール(nimorazole)、マイトマイシンC、RSU 1069SR 4233、E09、RB 6145、ニコチンアミド、5−ブロモデオキシウリジン(BUdR)、5−ヨードデオキシウリジン(IUdR)、ブロモデオキシシチヂン(bromodeoxycytidine)、フルオロデオキシシチヂン(fluorodeoyuridine)(FudR)、ヒドロキシ尿素、シスプラチン、および治療上有効な類縁体およびその誘導体を包含するが、これらに限定されない。
【0027】
「薬学的に許容され得る」は、動物、特にヒトでの使用に対する連邦または州政府の規制当局による承認、または米国薬局方または他の一般に認められている薬局方に記載されていることを示す。
【0028】
「担体」は、本発明の有効成分と共に投与される、例えば,希釈剤、補助剤、保存剤(例えば、Thimersol、ベンジルアルコール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)可溶化剤(例えば、Tween80、Polysorbate80)、乳化剤、緩衝剤(例えば、Tris塩酸、酢酸塩、リン酸塩)、抗菌剤、増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、補助剤または成形剤を指す。薬学的に許容され得る担体は、石油、動物、植物または合成源のものを包含する、水や油などの無菌の液体である。水または食塩水溶液およびデキストロースおよびグリセロール水溶液は、担体として好ましく、特に注射可能な溶液に採用される。適節な薬剤担体は次に記載されている:"Remington's Pharmaceutical Sciences"著者E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,PA 18042);Gennaro,A.R.,Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,(Lippincott,Williams and Wilkins),2000;Libermanら編集、Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.,1980;およびKibbeら編集、Handbook of Pharmaceutical Excipients(3rd Ed.),American Pharmaceutical Association,Washington,1999。
【0029】
以下の実施例は、本発明を実施する説明的な方法を提供するが、いかなる方法も本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例1】
【0030】
模擬白内障手術後、ニワトリの水晶体嚢袋は、以前記載のように培養皿に固定した(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)骨格筋幹細胞(skm幹細胞)は、G8抗原の免疫蛍光局在(図1)、MyoD mRNAに対するin situハイブリダイゼーション(図3)並びに、共焦点および落射蛍光顕微鏡によって同定した。G抗体は、ニワトリ胚や胎児(Gerhartら(2001)J.Cell Biol.,155:381〜391;Gerhartら(2004)J.Cell Biol.,164:739〜746;Stronyら(2005)Gene Expr.Patterns,5:387〜395)および成体マウスの組織(図3)において、MyoD mRNAを発現する細胞中で特異的に発現される表面抗原を認識する。MyoDのメッセンジャーRNAは、DNAデンドリマーズ(参照、たとえばGerhartら(2004)Biol.Proced.Online 6:149〜156)にCy3を共役結合させたものと以下のアンチセンスオリゴヌクレオチド配列:ニワトリのMyoD,5'−TTCTCAAGAGCAAATACTCACCATTTGGTGATTCCGTGTAGTA−3'(L34006;Dechesneら(1994)Mol.Cell.Biol.,14:5474〜5486)とで検出した。蛍光デンドリマーズはGenisphere,Inc.(Hatfield,PA)から取得した。デンドリマーズと抗体による二重標識は、以前記載のように行った:Gerhartら(2001)J.Cell.Biol.,155:381〜391;Gerhartら(2004)J.Cell.Biol.,164:739〜746;Stronyら(2005)Gene Expr.Patterns,5:387〜395);Gerhartら(2004)Biol.Proced.Online 6:149〜156)。
【0031】
1日目PCOの培地のskm幹細胞の切除は、G8抗体(例えば、(G.,Gerhartら(2001)J.Cell Biol.,155:381〜391;Gerhartら(2004)J.Cell Biol.,164:739〜746;Stronyら(2005)Gene Expr.Patterns,5:387〜395;Gerhartら(2007)J.Cell Bio.,178:649〜660;Gerhartら(2006)J.Cell Biol.175:283〜292;Gerhartら(2008)Biol.Proced.Online 10:74〜82)で標識した細胞を補体中で培養することによって実施した(図2)。より具体的には、前記水晶体を0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有ハンクス(Hanks')緩衝生理食塩水で1対20で希釈したG8抗体と共に37℃で1時間培養、洗浄し、次いで0.1%BSA含有ハンクス緩衝生理食塩水で1対40に希釈した、幼齢ウサギ補体(Cedarlane Laboratories,ノースカロライナ州バーリントン,Burlington,NC)中室温で30分培養した。α−SMAの発現は、ウェスタンブロット分析により測定した(図2)。
【0032】
G8/MyoD mRNA陽性skm幹細胞の亜集団は、水晶体上皮細胞間に囲まれた水晶体の赤道帯(EQ)にあるニッチ内で検出された。この発見は、初めて幹細胞の諸特性と、水晶体上皮細胞とは全く異なる表現型と、を有する細胞集団が水晶体上皮内にあることを実証するものである。模擬白内障手術によって誘発された創傷時に、skm細胞は速やかにそのニッチから間葉形態を伴って出現するこれらskm幹細胞は立方水晶体上皮細胞の単層上を這い回って、集団的に移動中の上皮細胞シートのリーディングエッジ部に移動する。skm幹細胞の切除は、後嚢混濁培地でのα−SMA発現の発現を抑制する。
【0033】
骨格筋幹細胞は、またG8抗原の免疫局在、MyoD mRNAに対するin situハイブリダイゼーション、および落射蛍光顕微鏡(図3)でも同定した。したがって、skm幹細胞は、哺乳動物を含む他の動物にも存在するので、水晶体における骨格筋幹細胞の存在はニワトリに限定されるものではないことは明らかである。
【実施例2】
【0034】
間葉系細胞は、上皮創傷治癒、線維症、および癌において中心的な役割を果たす(Radiskyら(2007)J.Cell Biochem.,101:830〜9;Eyden,B.(2008)J.Cell Mol.Med.,12:22〜37;Polyakら(2009)Nat.Rev.Cancer 9:265〜273)。間葉系表現型を有する細胞の上皮シート内での出現は、主に内因性上皮細胞の、通常上皮間葉転換(EMT)と呼ばれている、形質転換に起因すると考えられる(Baumら(2008)Semin.CellDev.Biol.,19:294〜308;Leeら(2006)J.Cell Biol.172:973〜81)。本研究では、上皮が、上皮創傷の治癒において機能し、筋線維芽細胞に分化するように信号を出すことができる、間葉系前駆細胞の亜集団を含んでいる可能性を調べた。これらの研究のモデルは、後嚢混濁(PCO)として知られている水晶体線維症疾患の研究用に元々開発された生体外培養系である(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)。この培養モデルで、自然状態(native)のマイクロ環境内で臨床的に関連する創傷に対する、無傷(intact)上皮の反応を追跡することが可能である。前記上皮の創傷は、胎齢15日のニワトリ水晶体の模擬白内障手術の結果である。このマイクロ手術法は、水晶体嚢内から水晶体繊維細胞塊、即ち、水晶体全体を囲む厚い基底膜を除去し、細胞を剥離された水晶体嚢の後部側面を残す事に関わる(図5Aに図示)。前記水晶体上皮はそのまま残り、その主な傷端が前記繊維細胞が取り付けられいたエリアに接して、前記嚢に付着したままになる(リーディングエッジ部、図5A)。その前面の領域に数箇所の切れ込みをいれて、さらに傷端を創る(カットエッジ部、図5A)ことによって、当該組織を平たくし、培養皿に細胞面を上にして固定し、生体外外植片として培養する(図5Aでモデル化)。この手法で創傷上皮の創傷に対する反応を高分解能共焦点顕微鏡で追跡することが可能になる。この創傷モデルにおいて、前記上皮細胞は、速やかに、剥離した基底膜の嚢細胞に亘って創傷領域中に集団移動を開始し、該傷は、培地中で数日以内に上皮細胞で満たされる(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)。創傷治癒のプロセスが完了した後で初めて筋線維芽細胞の出現に関連する分子マーカーの発現が生化学的に検出されて、(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)、この生体外モデルでは、線維症の発症は主として移動後と創傷閉鎖後に起こる出来事であることを実証している。
【0035】
本研究で検討した仮説は、1)間葉系前駆体の亜集団が成熟水晶体の上皮細胞の間に存在していたこと、2)これらの細胞は、創傷治癒過程を調節するために、傷害時に活性化し得たこと、および3)これらの細胞の子孫は、線維症疾患の発症に関連する表現型である、筋線維芽細胞になる可能性を有することであった。水晶体の損傷モデルにおける間葉系前駆細胞の候補として検討した細胞型は、細胞表面抗原G8の発現によって同定される。G8モノクローナル抗体(mAb)で標識の細胞は、胚の三つの胚葉すべてを生じる組織である、胚盤葉上層(epiblast)の亜集団である(Bellairs,R.(1986)Anat Embryol(Berl)174:1〜14)。これらG8pos細胞はまた、筋原性転写因子myoDのmRNAを発現する(George−Weinsteinら(1996)Dev.Biol.,173:279〜91;Gerhartら(2000)J.Cell.Biol.,149:825〜34)。発症の際、大抵のG8pos/MyoDpos前記胚盤葉上層は、体節中に組み込まれ、当該細胞の機能は筋肉の分化を調節することである(Gerhartら(2006)J.Cell.Biol.,175:283〜92)が、G8pos/MyoDpos胚盤葉上層の細胞は、分離し、培養皿で増殖させた場合、それ自身が筋原性の潜在能力を有する(Gerhartら(001)J.Cell.Biol.,155:381〜92;Stronyら(2005)Gene Expr.Patterns,5:387〜395;Gerhartら(2004)J.Cell.Biol.,164:739〜46)。興味深いことに、胚水晶体を含めて(E5,Gerhartら(2009)Developmental Biology 336:30〜41),G8抗原発現細胞とMyoD発現細胞の両方の亜集団が、非筋肉組織の細胞間でも検出されている(Gerhartら(2001)J.Cell.Biol.,155:381〜92;Asakuraら(1995)Dev.Biol.,171:386〜98;Chenら(2005)Genesis 41:116〜21;Groundsら(1992)Exp.Cell.Res.,198:357〜61)ことであるが、これらの組織におけるそれら細胞の機能は知られていない。
【0036】
材料および方法
生体外での上皮外植片の調製
生体外での上皮外植片を調製するために、胎齢(E)15日のニワトリ胚(Truslow Farms,メリランド州チェスタータウン,Chestertown,MD)眼球から水晶体を解剖して取り出した(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)。次いで水晶体を囲む厚い基底膜である、前水晶体嚢に切開を入れ、該水晶体から水晶体繊維細胞の塊を加水溶出(ハイドロエルーション)(hydroelution)で除去した。このプロセスは、水晶体上皮が嚢にしっかりと付着したままであって、白内障手術を模倣するのである。前記上皮の主な創傷縁(リーディングエッジ部)は、前記繊維細胞が取り付けられいたエリアに接する(モデル図5A)。この組織の前面の領域に数箇の切れ込みを入れて、さらに傷端を創り、それによって外植片を平たくし、細胞側を上にして培養皿に固定させることができた(図5A)。自然状態のマイクロ環境内における、創傷に対する水晶体上皮の反応は、顕微鏡イメージングで追跡した。生体外上皮外植片は、1%ペニシリンースレプトマイシン(pen−strep)(Mediatech−Cellgro,Manassas,VA),1%L−グルタミン(Mediatech−Cellgro、Manassas,VA)含有Media 199(Invistrogen)中、10%ウシ胎児血清(Invistrogen)の有無にかかわらず,指定されたように培養した。生体内で存在するままにG8pos細胞の位置を維持するよう設計された実験では、水晶体は上皮片を調製する前に、3.7%ホルムアルデヒドで1分間固定した。
【0037】
免疫蛍光法およびin situハイブリダイゼーション
免疫蛍光法による研究のため、上皮外植片は以前記載したように免疫染色した(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)。簡単に言えば、免疫染色前に外植片をPBS(燐酸緩衝液)中3.7%ホルムアルデヒドで固定し、0.25%Triton Xー100のPBS中で透過処理した。細胞は一次抗血清で培養し、次いでローダミン−(Jackson Laboratories,West Chester,PAおよびMilliporeCorp.,Bedford,MA)、フルオレセインー(Jackson Laboratories,West Chester,PA)、またはAlexa Fluor 488(Invitrogen−Molecular Probes社、Eugene,OR)共役結合−二次抗体と共に培養した。以下の一次抗体を免疫蛍光研究のために使用した:G8 mAb(Gerhartら(2001)J.Cell.Biol.,155:381〜92),ビメンチン(ポリクローナル)抗体(University of California,Davis,CAのPaul FitzGerald氏からの貴重な寄贈)、およびフルオレセイン−(FITC)共役結合α−SMA mAb(Sigma社、St.Louis,MO)。一部の外植片は、Alexa Fluor 488−を共役結合した,繊維状アクチンと結合するファロイジン(phalloidin),および核染色剤であるTRO−PRO(登録商標)3(Invitrogen−Molecular Probes社、Eugene,OR)で対比染色した。免疫染色した試料は、in situハイブリダイゼーションでも処理されたものを除いて、すべて共焦点顕微鏡(LSM 510;Carl Zeiss社、Oberkochen,Germany)で調べた。単一画像またはZ−スタックスを収集し、分析した。提示したたデータは、頂点から基底方向へイメージした単一光学面または直交セクションを表わす。
【0038】
in situハイブリダイゼーションの研究において、MyoDのmRNAsは、Cy3を共役結合させたDNAデンドリマーズと次のアンチセンスオリゴヌクレオチド:ニワトリのMyoD、5’−TTCTCAAGAGCAAATACTCACCATTTGGTGATTCCGTGTAGTAー3’(配列番号:1)と、で検出された(Genisphere,Inc.(Hatfield,PA)(Gerhartら(2006)J.Cell iol.,175:283〜292;Gerhartら(2004)Biol.Proced.Online 6:149〜156)。外植片は、以前記載のように、G8抗原とMyoD mRNAに対して二重標識し、ヘキストI(Hoechst)で対比染色し、(Gerhartら(2001)J.Cell.Biol.,155:381〜92)落射蛍光顕微鏡(エクリプスE800、ニコン,Eclipse E800,Nikon)で調べた。画像は、ビデオカメラ(Evolution QE;Media Cybernetics)とImage−Pro Plus ソフトウェア(Phase 3 Imaging Systems)とで捕獲した。
【0039】
細胞トラッキング
以前記載の手順にしたがって追跡(トラッキング)するために、G8細胞を標識した(Gerhartら(2006)J.Cell.Biol.,175:283〜92)。簡単に言えば、水晶体生体外上皮外植片はT0時にG8 mAb(1:40)を含むMedia 199中、室温で45分間培養し、Media 199でリンスし、次いでローダミンを共役結合したIGM抗体(MilliporeCorp.,Bedford,MA)と30分間室温で培養した。当該標識した外植片は、Media 199でリンスし、無血清培地(SFM:1%ペニシリンースレプトマイシン(pen−strep)およびL−グルタミンを含む:Media 199)に入れ、37℃で培養した。培地24時間または72時間後に上皮外植片を3.7%ホルムアルデヒドで固定した。創傷24時間または72時間後の上皮の損傷治癒に反応したG8pos細胞が実際にT0に存在していたG8pos細胞の子孫であったかどうかを確認するために、前記固定外植片を再びG8 mAb(1:40)で、次いで今回は、Alexa Fluor 488(Invitrogen−Molecular Probes社、Eugene,OR)に共役結合したIGM二次抗体で標識した。外胚葉から胚組織までG8pos細胞を追跡した、以前の運命マッピング調査では、胚盤葉上層のG8posをタグするG8 mAbが当該調査の間、これらの細胞との関連を維持し、周辺の細胞に移動しないことが示されてている(Gerhartら(2006)J.Cell.Biol.,175:283〜92)。
【0040】
上皮細胞外植片のG8pos細胞の切除
上皮外植片のG8pos細胞の切除は、ニワトリ胚の胚盤葉上層内でのG8pos細胞切除について以前記載した手法に従って行った(Gerhartら(2006)J.Cell.Biol.,175:283〜92)。これらの研究には、生体外の水晶体上皮外植片は無血清培地(SFM)で調製された。培養1日目に、上皮外植片は、ハンクス緩衝生理食塩水で希釈したG8抗原(1:20)と1時間37℃で培養し、ついで0.1%BSAを含むハンクス緩衝生理食塩水で希釈した、幼齢ウサギ補体(1:40;Cedar Lane,Inc,Burlington,Ontario,Canada)中30分間室温で培養した。幼齢ウサギ補体は、製造元のプロトコルに従って調製した(Cedar Lane,Inc,カナダ,オンタリオ州バーリントンBurlington,Ontario,Canada)。対照群の外植片は、未処理のままか、またはG8 mAbと、または補体とだけで培養した。処理後、外植片は、リンスし、SFM(無血清)で培養した。溶解したG8細胞の存在は、処理直後に37℃で15分間0.2%トリパンブルー(trypan blue)PBS中,該生体外上皮外植片を培養することにより、確定し、解剖顕微鏡(SMZ800、ニコン社、日本、東京)とニコンDigital Sight DS−Filカメラで可視化し、画像は、NikonNIS−Elwementsイメージングソフトウェアを使用して獲得した。
【0041】
ウェスタンブロット分析
6日目に、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma,St.Louis,MO)を含む、OGT緩衝液(44.4mMのn−オクチルβーDグルコピラノシド、1% Triton X−100、100mM NaCl、1mM MgCl、5mM EDTA、10mM イミダゾール)で上皮外植片を抽出し溶解した。タンパク質濃度はBCA assay(Pierce、イリノイ州ロックフォード,Rockford,Il)を用いて測定した。タンパク質はTris−glycine ゲル(Novex,Sandiego,CA)上で分離、電気泳動的に膜(Immobilon−p;Millipore Corp.,Bedford,MA)に転写し、免疫ブロットした。検出には、ECL試薬(Amersham Life Sciences,Arlington Heights,IL)を用いた。すべてのゲルは還元条件下で実験した。ウェスタンブロッティングで使用した抗体はβ−アクチンとα−平滑筋アクチン(Sigma,St Louis,MO)を包含していた。
【0042】
結果
G8pos細胞が成熟した水晶体(E15)(幼齢15日)に存在していることを確認し、生体位における(in situ)所在を水晶体上皮との関連に注目して確定した。生体内にあるがままにG8pos細胞の位置を保持するために、該水晶体は、水晶体上皮外植片の調製前に固定した。外植片内G8pos細胞はG8抗原に対するmAbで標識し、次いでローダミンを共役結合した二次抗体で標識した。繊維状アクチン(F−アクチン)をタグ付けし、外植片内細胞の細胞構造を明らかにするために、培養物をフルオレセインを共役結合したファロイジンで共染色した。標識した外植片は、高分解能共焦点顕微鏡で調べた(図4)。G8pos細胞が水晶体上皮細胞(図4A)間に囲まれたニッチに局在しているのが見出された(図4A)。代表的なG8pos細胞のニッチ(図4Bに下部パネルにより高倍率で示す)は、平均7個の細胞(7.57+/−0.66、平均+/−標準誤差(SEM))を含んでいた。上皮外植片においてそのようなニッチは最大14箇検出された。水晶体上皮内のG8pos細胞ニッチの位置は無傷(intact)の水晶体の赤道域に相当した。以前の研究では、G8pos細胞がしばしば筋原性転写因子MyoDのmRNAを共発現することが示されている。E15(幼齢15日)水晶体上皮内でのG8pos細胞によるMyoD mRNAの発現は、前記上皮外植片をフルオレセインでタグ付けしたG8 mAbと、MyoD mRNAのアンチセンスオリゴヌクレオチド配列および蛍光色素Cy3の両方に共役結合したDNAデンドリマーズとで、二重標識することによって調査した(Gerhartら(2000)Journal.Cell.Biol.,149:825〜34;Gerhartら(2004)Biol.Proced.Online 6:149〜156)。蛍光イメージングで、水晶体上皮内にあるG8pos細胞も、MyoD mRNAを発現したことが示された(挿入図、図4A)。
【0043】
水晶体上皮内G8pos細胞ニッチのマイクロ環境を調べるために、レーザー走査型共焦点顕微鏡で収集したZ−スタックスの直交部分を作成した。Z−スタックスは、ニッチの領域で頂端から基底方向に1ミクロン厚さの光学切片として取得した。直交部分の解析によって、G8pos細胞のニッチは、G8pos細胞が水晶体の基底膜に関連している証拠は余りなく、水晶体上皮細胞の頂端面に沿って局在していることが分かった(図4B、上部パネルの矢印参照)。G8pos細胞のニッチの独的な位置によって、これらの細胞は、上皮の創傷に対して迅速に反応するものとして機能するように配置されている。
【0044】
本研究の焦点は、水晶体上皮の傷害に対するG8pos前駆細胞の反応を調べることであった。これらの研究において水晶体上皮は、模擬白内障手術によって創傷され、生体外外植片として培地中に配置された(図5A)。上皮の傷害に対するG8pos前駆細胞の反応は、血清含有培地で培養1時間後に測定した。この時点で培養物を固定し、G8抗原の抗体で免疫染色し、F−アクチンに対して共染色し、共点顕微鏡で調べた(図5B〜F)。画像解析で、傷害後この短時間内に前記G8pos前駆細胞はそのニッチから出現していて、その集団の大きさは拡大していたことが判明した(図5B、C)。さらに、G8pos細胞は急速に創傷端(edges)に移動していた(図5D〜F)、つまり繊維細胞が除去されていた場所に隣接するリーディングエッジ部(前縁)(図5D、E)と、上皮が平たくなっていたカットエッジ部(図5F)との両方への移動である。共焦点イメージングでZ−スタックスを通して収集された直交部分は、G8pos細胞が上皮の頂面に沿って移動することで、創傷端(edges)に移行したことを明らかにした(図5E、矢印、上部パネル)。移動したG8pos細胞は、間葉系マーカービメンチンの発現によって確認された表現型である、間葉形態を示した(図5G〜I)。これらの結果で、水晶体上皮内のG8pos間葉系前駆細胞の亜集団は、それらのニッチから出現し、拡大し、創傷端に移動することで上皮の傷害に迅速に反応したことが実証された。
【0045】
約3日かかる創傷治癒の過程の間中、G8pos細胞は水晶体上皮の頂面に沿ったクラスターズ(clusters)の中でも、創傷端ででも見出された。上皮創傷に反応したG8pos細胞が実際に時点0(T0、マイクロ手術の直後)で存在していたG8pos細胞の子孫であったかどうかを調べるために、G8pos細胞をT0でG8抗体およびローダミンを共役結合した二次抗体でタグ付けし、創傷が閉鎖する期間中追跡した。培地24時間(図6A〜F)および72時間(図6G〜I)の両時点で、外植片を固定し、これらの時間に存在していたG8pos細胞をAlexa Fluor 488−共役結合二次抗体でタグ付けしたG8 mAbで免疫染色した。共焦点解析は、創傷の有効治癒中(24時間)において、G8pos細胞が上皮に沿ったクラスターズに位置していたか(図6A〜C)、リーディング創傷エッジ部(図6D〜F)に移動していたかに関わらず、G8pos/Alexa Fluor 488標識細胞はすべてG8−ローダミンタグでも標識化していたことを示した。創傷治癒が完了した時(72時間)でも、すべてのG8pos/Alexa Fluor 488−で標識した細胞はG8−ローダミンタグで共通に標識されていたのである(図6G〜I)。これらの結果は、水晶体上皮の創傷治癒反応に参加したG8pos細胞は、T0で存在していたG8pos細胞の集団から由来したものであることを示した。
【0046】
創傷した水晶体上皮の治癒(創傷閉鎖)は、α平滑筋アクチン(α−SMA)およびフィブロネクチン(fibronectin)などの線維症に関連する分子類が生化学的に検出される前に起こるのである(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)。しかし、創傷治癒完了後数日以内にこれら分子両方の発現が誘導される。この時点で、新生筋線維芽細胞の代表的な間葉系形態を有する、α−SMA陽性細胞が水晶体上皮細胞の間に現れる(Walkerら(2007)Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,48:2214〜23)。さて、前記水晶体上皮の傷害に反応した際に活性化したG8pos細胞は、生体外での創傷モデルにおいて後に現れた筋線維芽細胞の前駆体であるかどうかを、高分解能共焦点イメージングを使用して調べた。筋線維芽細胞とは、α−SMAをストレス線維に組織化した間葉系細胞であって、これらの細胞に、それらをPCOのような線維症疾患に関連させる、収縮機能を提供する機能を有するものとして定義される(Tomasekら(2002)Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.,3:349〜63;Hinzら(2007)Am.J.Pathol.,170:1807〜16)。G8pos細胞が前記培養モデルで出現する筋線維芽細胞の前駆体であったかどうかを調べるために、無血清条件下で培養し、培養6日目に固定し、G8 mAbおよびローダミン−共役結合二次で免疫標識し、次いでフルオレセインに直接共役結合したα−SMA抗体で共通標識した、生体外植片について画像解析を行った(図7A〜C)。共焦点顕微鏡画像で、α−SMA陽性ストレスファイバーを含んでいた細胞の存在が明らかになり、G8pos細胞が実際にこの創傷モデルにおける筋線維芽細胞の源であることが実証された。さらに、上皮に関連するG8pos細胞の小さなクラスターズ内でG8pos前駆細胞から筋線維芽細胞への発達があったことが見出された。移行細胞のタイプは、α−SMAの発現が僅か乃至全くないG8pos細胞(白矢じり)、未だストレスファイバーに組織化されていないα−SMAを発現したG8pos細胞(矢印)、そしてα−SMA陽性ストレスファイバーを含むG8pos細胞(開矢じり)である、G8発現筋線維芽細胞を包含した。本研究はまた、G8細胞が筋線維芽細胞へ分化する際の最後の工程は、前駆細胞抗原G8の消失であることを実証した(破線矢印)。化時の前駆細胞マーカーの消失は、これらの細胞が多くの前駆細胞集団の分化した子孫と共有する機能である(Cattaneoら(1990)Nature 347:762〜5;Baiら(2009)Neuroreport.,20:918〜22)。
【0047】
次にG8pos細胞を強制的に筋線維芽細胞に分化させることが可能であるかどうかを調べた。これらの研究では、筋線維芽細胞の発達が硬質環境で向上することが知られているという事実を利用し(Hinz,B.(2007)J.Invest.Dermatol.,127:526〜37)、前記生体外培養物を、カットエッジ部のG8pos細胞が水晶体嚢から硬質培養皿に移動可能な培池含む血清中で増殖させた。この集団のG8pos細胞について、培養3日目、即ち、α−SMA陽性筋線維芽細胞が水晶体上皮の自然マイクロ環境内で出現した以前の時点で、G8pos細胞におけるα−SMAの発現を調べた。その結果、G8pos細胞が硬質物質と接触した時にG8pos前駆細胞からα−SMA陽性筋線維芽細胞への移動が促進されることが実証された(図7D〜F)。G8pos細胞から筋線維芽細胞への移行プロセスは、水晶体嚢上での筋線維芽細胞の出現について上記したことと同一であった。これらのデータは、G8pos細胞が筋線維芽細胞を発生することを実証している。
【0048】
最後に、G8pos細胞を生体外培養初日にG8抗体で標識し、補体で溶解することによって除去した場合にα−SMAの発現が抑制されたかどうかを調べた。前記処理培養物中の細胞溶解は、生細胞から除外される色素である、トリパンブルーの取り込みにより確認された。細胞の小さなコロニー群にトリパンブルー染色が検出された(図7G、G8+C、および切除。リーディングエッジ部に○印を付けた大きなコロニーを参照)。トリパンブルー標識コロニーの分布は、培養1日目に通常存在しているG8pos細胞の拡大したコロニーの分布と似ていた。トリパンブルで染色していた領域から細胞がその後消失したことによって、切除後24時間で溶解が確認された(図7G、G8+C、切除後1日目)。同様な細胞の消失は、補体だけで培養した対照培養では観察されなかった(図7G、C)。G8細胞の切除後、生体外外植片(切除済および対照群)を6日間培養したが、この時までに、イムノブロット分析でここに示すように、未処理の対照培養物は、通常α−SMAを発現する(図7H、U)。G8pos細胞が培養1日目(図7H、G8+C)で切除したときには、α−SMAの発現抑制されたが,培地でG8抗体(G8)または補体(C)だけに接触させた場合、α−SMAの発現に余り影響がなかった。これらの結果は、G8pos細胞が筋線維芽細胞の前駆体であることを確認するものである。
【0049】
本研究は、間葉系前駆細胞の特異的な亜集団が、水晶体上皮の細胞の間に局在したニッチに存在していたという発見を報告する。この細胞型は急速に前記上皮の傷害に反応し、筋線維芽細胞に分化する潜在能力を有していた。これらの細胞の独特な特徴は、細胞表面抗原G8とMyoD mRNAの発現を包含していたが、これは、種々の胚組織(Gerhartら(2001)J.Cell.Biol.,155:381〜92)に組み込まれることが以前同定されていた外胚葉の亜集団と該細胞が共有する特性であって、水晶体などのように筋原性潜在能力を欠いているものを包含する。水晶体上皮の創傷後、前記G8pos亜集団は、そのニッチから出現し、集団の大きさが拡大し、間葉表現型を示し、そして創傷端に移動した。創傷端における間葉系細胞の存在は、多くの上皮創傷治癒のモデルの特徴であるが、その出現は通常、上皮間葉転換(EMT)に起因する。創傷水晶体上皮の本研究では、G8pos/MyoDpos前駆体細胞は、傷害に反応し、創傷端に局在した間葉系細胞の前駆細胞であるという別のパラダイムを提案した。この同じ前駆体集団は、筋線維芽細胞に分化することができ、それが創傷後出現することが線維症疾患の発症に関連している。白内障手術時の水晶体上皮創傷の結果である、水晶体線維症疾患PCOの発生にとって、この知見は、特に重要であった。しかし、肺、肝臓や腎臓などのように線維症を起こしやすい他の組織におけるG8抗原および/またはMyoDを発現する細胞の小亜集団の存在(Gerhartら(2001)J.Cell.Biol.,155:381〜92;Mayerら(1997)J.Cell.Biol.,139:1477〜84)は、筋線維芽細胞に分化するように活性化されたG8pos/MyoDposの能力が、多くの組織で線維化の発生に寄与することを意味する。
【実施例3】
【0050】
成体マウスの眼球をパラフィンに包埋し、切片化し、ヘマトキシリン(hematoxylin)とエオシンで染色した(図8A)。矢印は、図8Bと8Cの蛍光顕微鏡写真において高倍率で示される領域を示す。水晶体の赤道付近の細胞は、G8抗体で標識される(図8Bおよび8Cの矢印)。細胞核は色素で染色する。これらの結果で、骨格筋幹細胞は、成体マウスの水晶体に存在することが実証される。
【0051】
横紋筋肉腫は骨格筋細胞に似た細胞を含む腫瘍である(図9A〜9D)。前記G8抗体はまた、ヒト横紋筋肉腫細胞の培養においてその抗原を認識する。横紋筋肉腫細胞はまた、G8抗原、アルファ平滑筋アクチン(SMA)、ミオシン、およびMyoDタンパク質を包含する筋線維芽細胞に存在する分子を合成する。これらの結果で、G8抗体は、ヒト水晶体の筋線維芽細胞を検出するのに使用可能である。
【0052】
以上本発明の幾つかの好適な実施形態を記載し、特定して例示したが、本発明は係る実施形態に限定されることを意図していない。本発明に対して、種々の修正が以下の請求項に記載する本発明の範囲および精神から逸脱することなく行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶体線維症疾患を抑制する方法であって、当該方法は、少なくとも1種類の骨格筋幹細胞を標的指向する分子と、少なくとも1種類の細胞障害性分子とを、治療を必要とする患者の水晶体に治療有効量投与する工程を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記少なくとも1種類の骨格筋幹細胞を標的指向する分子は、前記少なくとも1種類の細胞障害性分子に共役結合されている、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記少なくとも1種類の骨格筋幹細胞を標的指向する分子および前記少なくとも1種類の細胞障害性分子は、少なくとも1種類の薬学的に許容され得る担体を更に有する組成物に含まれるものである、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記水晶体線維症疾患は、後嚢混濁若しくは前嚢下白内障である、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記骨格筋幹細胞を標的指向する分子は、G8抗原、シンデカン、c−Met、CD34、およびM−カドヘリンからなる群より選択される分子と特異的に結合するものである、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記細胞傷害性分子は、補体、感熱炭素ナノクリスタル、細胞傷害性抗生質、カチオン性両親媒性溶解性ペプチド、放射性核種、および毒素からなる群より選択されるものである、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記組成物は、水晶体若しくは水晶体を取り囲む組織に直接投与されるものである、方法。
【請求項8】
請求項5記載の方法において、前記骨格筋幹細胞を標的指向する分子は、G8抗体である、方法。
【請求項9】
請求項6記載の方法において、前記細胞傷害性分子は、補体である、方法。
【請求項10】
水晶体線維症疾患を抑制する組成物であって、当該組成物は、少なくとも1種類の骨格筋幹細胞を標的指向する分子と、少なくとも1種類の細胞障害性分子と、少なくとも1種類の薬学的に許容され得る担体と、を有する組成物。
【請求項11】
請求項10記載の組成物において、前記少なくとも1種類の骨格筋幹細胞を標的指向する分子は、前記少なくとも1種類の細胞障害性分子に共役結合されているものである、組成物。
【請求項12】
請求項10記載の組成物において、前記骨格筋幹細胞を標的指向する分子は、G8抗体である、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−511025(P2012−511025A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539760(P2011−539760)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/066859
【国際公開番号】WO2010/065920
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(510140663)ランケナー インスティテュート フォー メディカル リサーチ (2)
【Fターム(参考)】