説明

水晶振動子の製造方法及びその装置

【課題】 水晶振動子の周波数調整を単純化してその製造の歩留りを大巾に向上させる。
【解決手段】 水晶ウエハ単位で周波数調整を行う水晶振動子の製造方法であって、該水晶ウエハの所定の同心円上における厚みを測定し、該厚み測定結果に基づいて、厚い部分を選択的に水晶を溶解することができる処理液によりエッチングして、該厚い部分の厚みを減じて周波数調整を行う。また、水晶ウエハWをその上面に保持して載置する円形の保持台10と、前記保持台10の上方半径方向の中心手前まで延出し、処理液を前記水晶ウエハ表面に吐出する処理液ノズル13と、前記処理液ノズル13と対向する側から、前記保持台10の上方半径方向の中心まで延出し、前記水晶ウエハWの表面に洗浄液を吐出する洗浄液ノズル14と、から水晶振動子の製造装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエットエッチングにより水晶振動子の周波数を所望の精度を保ってウエハレベルで調整する水晶振動子の製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数安定度に優れる水晶振動子は、多くの通信機器を含む電子機器に周波数および時間の基準源として使用されている。この水晶振動子は、人工水晶から、たとえばATカットによって、切り出された水晶片から形成され、その後、機械的研磨、ウエットあるいはドライエッチングによって、所望の周波数に応答した厚みに成形される。一般に、ATカットでは、振動モードは厚みすべり振動が適用され、その振動周波数は厚みに反比例し、厚みが小さくなればなる程、高くなる。
【0003】
ところで、近年、水晶振動子は、高周波数化に伴って水晶片の厚みが極小さくなっている。製造時の水晶片の厚みを維持するために、より高い加工精度が求められ、加工精度が一定の基準を満たさない場合には、周波数の調整に支障を来たすおそれがある。
【0004】
従来、この種の水晶振動子の周波数調整は、次のようにして行われていた。
【0005】
すなわち、図4に示すように、水晶片101の両主面に、厚みすべり振動を励起する励振電極102a,102b及びこれらに接続した引出電極(図示せず)を一端部両側に延出するように、例えば、蒸着によって一体的に形成する。
【0006】
さらに、積層セラミックからなる凹状容器104a,104bの内底面に、引出電極が延出した水晶片101の端部を導電性接着剤105によって、端子電極107を介して保持し、また、凹状容器104bの外底面には端子電極106を設けて、水晶振動子を構成する。
【0007】
そして、水晶振動子の周波数を所定の周波数に調整する場合には、水晶片101の上面の主面に設けた励振電極102aの表面に周波数調整用の金属を、各水晶振動子毎に、図4に示す矢印の方向から質量付加し、振動周波数を高い方から低い方へ微調整して所定の振動周波数にする。他方、振動周波数を低い方から高い方へ微調整する場合には、励振電極102a表面に、図4に示す矢印の方向から、例えばイオンビームを照射して、その厚みを減じて(質量減少)所定の振動周波数にする。要するに、質量の付加または減少に伴う質量負荷効果によって、水晶振動子の周波数を調整するようになっている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、このような従来の水晶振動子の周波数調整方法によると、各水晶振動子毎に周波数調整を行う必要があるため、周波数調整が複雑であるとともに、水晶振動子の製造の歩留りの向上が期待できなかった。
【0009】
また、本発明者の知見によると、人工水晶から切り出された水晶ウエハは、その中心部が厚く、外縁部に向う程薄くなっている傾向があること、及び水晶ウエハからの水晶片加工工程において、水晶ウエハのメサ部(台地部分)形成後に、水晶ウエハレベルで周波数測定を行うと、水晶ウエハの研磨加工の精度に起因して異なった厚みの分布が同心円上にそれぞれ分布していることが分った。そのため、水晶ウエハ毎に追加処理を行っているが、当該処理時間を水晶ウエハ毎にしか振り当てられないため、周波数調整が依然として複雑であり、水晶振動子の製造の歩留り向上が、同様に、期待できなかった。すなわち、所定の周波数規格内に一回の加工処理で合せ込めないため、処理液(HF)を使って追加エッチングを行っている。さらに、水晶ウエハを浸漬処理によりエッチングしているため、水晶ウエハ面内の一部しか所定の周波数規格を満足することができなかった。
【特許文献1】特開2002−141760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、水晶ウエハの所定の同心円上における厚みを測定し、該厚み測定結果に基づいて、厚い部分を選択的に水晶を溶解することができる処理液によりエッチングして、該厚い部分の厚みを減じて周波数調整を行うことにより、周波数調整を単純にして、水晶振動子の製造の歩留りを向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するため、本発明の水晶振動子の製造方法は、水晶ウエハ単位で周波数調整を行う水晶振動子の製造方法であって、該水晶ウエハの所定の同心円上における厚みを測定し、該厚み測定結果に基づいて、厚い部分を選択的に水晶を溶解することができる処理液によりエッチングして、該厚い部分の厚みを減じて周波数調整を行う。
【0012】
ここで、前記処理液は、フッ化アンモニウムを主成分とするフッ酸、あるいは前記処理液が、有機酸を添加物として含む。
【0013】
また、前記処理液の処理温度が、100℃以下に維持され、かつ、前記水晶ウエハが、5〜500回転/分の回転速度で回転されつつエッチングされるようにする。
【0014】
さらに、前記水晶ウエハが、所定温度(室温から100℃)に加熱されつつエッチングされ、また、前記処理液を希釈洗浄するために、洗浄液を前記水晶ウエハ上にエッチング中及びエッチング後吐出させる。
【0015】
また、本発明の水晶振動子の製造装置は、水晶ウエハその上面に保持して載置する円形の保持台と、前記保持台の上方半径方向の中心手前まで延出し、処理液を前記水晶ウエハ表面に吐出する処理液ノズルと、前記処理液ノズルと対向する側から、前記保持台の上方半径方向の中心まで延出し、前記水晶ウエハの表面に洗浄液を吐出する洗浄液ノズルと、からなる。
【0016】
ここで、前記保持台は、所定温度に加熱できるように構成され、前記処理液ノズルが、前記水晶ウエハの半径方向に、所定の位置まで移動し、かつ、固定された位置からあるいは所定の振幅で繰り返して動作して処理液を吐出できるようにする。
【0017】
さらに、前記洗浄液ノズルが、前記水晶ウエハの中心付近の洗浄液を吐出できる位置に固定されて設けられている。
【0018】
また、前記洗浄液ノズルに超音波発振子が設けられ、洗浄液の吐出の際に、超音波振動を付与して洗浄液を霧化できるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
水晶振動子の周波数調整が単純化されるとともに、水晶振動子の製造の際の歩留りが大巾に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の水晶振動子の製造方法及びその製造装置の実施例について説明する。
【0021】
水晶振動子の製造方法
図1は、本発明の水晶振動子の製造方法の実施例を示す。
【0022】
まず、例えば、水晶ウエハWを受け入れ(工程1)、この水晶ウエハWの表面に、スパッタリングあるいは蒸着により、後工程の水晶ウエハのウエットエッチングのためのマスクとなるCr/Au(クロム/金)膜を形成する(工程2)。次いで、このCr/Au膜上にフォトレジストを塗布してレジスト層を形成し(工程3)。露光/現像によるレジスト層のフォトリソグラフィを行う(工程4)。さらに、メタルエッチングによりCr/Au膜を除去し(工程5)、ウエットエッチングにより水晶ウエハW上に多数のメサ部を形成する(工程6)。
【0023】
またさらに、周波数測定用プローブを用いて水晶ウエハWに形成されたメサ部間のキャビティ部の周波数測定を行い(工程7)、ウエハW面内では同心円上で厚みが異なって分布するという傾向と、この周波数測定の結果に基づいて、図2及び図3に示したウエットエッチング装置により、ウエハWに、点線で示すように厚い部分の選択的(パーシャル)エッチングを同心円毎に行い、所望の範囲のウエハWの厚みを減じ、ウエハW全体の周波数調整を行う(工程8)。最後に、残存するレジスト層及びメタル(Cr/Au)膜の剥離を行い、水晶ウエハWの製造を完了する(工程9)。その後、ダイシング等により、水晶ウエハWを水晶振動子の個片に分割する。
【0024】
とくに、本発明の水晶振動子の製造方法では、水晶ウエハ単位で周波数調整を行い、該水晶ウエハWの所定の同心円上における厚みを測定し、該厚み測定結果に基づいて、厚い部分を選択的に水晶を溶解することができる処理液によりエッチングして、該厚い部分の厚みを減じて周波数調整を行う。
【0025】
ここで、前記処理液は、フッ化アンモニウムを主成分とするフッ酸、あるいは有機酸を添加物として含んでいる。また、前記処理液の処理温度は、100℃以下に維持され、前記水晶ウエハWは、5〜500回転/分の回転速度で回転されつつエッチングされる。さらに、前記水晶ウエハは、所定温度(室温から100℃)に加熱されつつエッチングされる。前記処理液を希釈洗浄するために、洗浄液をエッチング中及びエッチング後、前記水晶ウエハW上に吐出させる。
【0026】
水晶振動子製造装置(ウエットエッチング装置)
図2及び図3は、本発明の水晶振動子の製造装置の実施例である水晶振動子のウエットエッチング装置(以下、“エッチング装置”という)を示す。
【0027】
本発明の水晶振動子の製造装置の、とくに、枚様式製造装置の実施例のエッチング装置1は、図2及び図3に示すように、一枚の水晶あるいはSiO2からなるウエハW(以下、“ウエハ”という)を、その上面に保持して載置するウエハステージ(保持台)10と、このウエハステージ10を5〜500回転/分の範囲で回転させる回転軸11と、ウエハステージ10の外縁に数ヶ所(例えば、120°間隔で3ヶ所)植設されたウエハ保持ピン12と、ウエハステージ10の上方半径方向の中心手前まで延出しフッ化アンモニウムを主成分とするフッ酸処理液等の水晶を溶解可能なエッチング処理液をウエハW表面に滴下する処理液ノズル13と、同じく、処理液ノズル13と対向する側からウエハステージ10の上方半径方向に、その中心付近まで延出した洗浄液(超重水)を吐出する洗浄液ノズル14とから構成されている。
【0028】
ここで、ウエハステージ10には、ヒータ等のウエハステージ10を所定の温度に保温して、エッチングレート等を調整するため、この上面に載置したウエハWを所定温度(室温から100℃)に加熱自在とする加熱機構が内蔵されている。
【0029】
さらに、処理液ノズル13は、フッ化アンモニウム(有機酸を添加物として含ませてもよい)等を主成分とするフッ酸処理液の処理液源に配管により接続されるとともに、水晶を溶解できる温度(例えば、100℃以下)に加熱できるように構成され、かつ、ウエハWの半径方向の任意の位置に移動し、固定された位置または任意の振幅で繰り返し動作をして、処理液をウエハWの表面に滴下できるように構成されている。
【0030】
一方、ウエハWの表面に滴下した処理液を希釈洗浄する洗浄液ノズル14は、超純水等の洗浄液源に配管により接続され、また、ウエハWの中心付近まで半径方向に延出し、この中心付近に洗浄液を吐出して、ウエハW上に滴下できる位置に固定されている。なお、洗浄液ノズル14に、超音波発振子を設けて、洗浄液ノズル14から吐出する洗浄液を霧化して均等にウエハW上に散布し、かつ、ウエハW上のゴミ等を除去できるように構成してもよい。
【0031】
このようにして構成された本発明の水晶振動子の製造の際、図1に示す当該製造工程の工程(7)でウエハWの周波数測定を行い、ウエットエッチングにより、(工程(8))ウエハWの厚みを減ずる場合、まず、ウエハWを、図2及び図3に示す所定の温度に管理されたウエハステージ10上面の3ケのウエハ保持ピン12間に固定して載置し、回転軸11を所定の回転速度(5〜500回転/分)で回転し(この回転速度が500回転/分以上だと、ウエハW上に処理液が定着しない)、予め図1に示す工程(7)で行ったウエハWの周波数測定に基づいて、フッ酸処理液を処理液ノズル13から、所定の処理範囲、処理時間で、ウエハW表面上に吐出しながら掃引して、ウエハWの所望範囲を選択的にウエットエッチングして、ウエハWの厚みを減じ、周波数調整を行うようにする。
【0032】
この処理液の吐出・掃引の際、ウエハWの表面に洗浄液ノズル14から超純水を霧化して散布することにより、所望の範囲以外(厚みを減ずる必要がない部分)の部分がエッチングされるのを抑制することができる。
【0033】
また、不活性を処理チャンバ(図示せず)内のパージに用い、別途設けたノズルより不活性ガスを吐出し、また、排気(酸排気)手段を処理チャンバに設けて処理チャンバ内の排気を行う。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の水晶振動子の製造方法の実施例を示す工程図である。
【図2】本発明の水晶振動子の製造方法の実施例に用いるウエットエッチング装置の正面図である。
【図3】図2に示したウエットエッチング装置の平面図である。
【図4】従来の水晶振動子及びその周波数調整方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ウエットエッチング装置
10 ウエハステージ(保持台)
11 回転軸
12 ウエハ保持ピン
13 処理液ノズル
14 洗浄液ノズル
W ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶ウエハ単位で周波数調整を行う水晶振動子の製造方法であって、該水晶ウエハの所定の同心円上における厚みを測定し、該厚み測定結果に基づいて、厚い部分を選択的に水晶を溶解することができる処理液によりエッチングして、該厚い部分の厚みを減じて周波数調整を行うことを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項2】
前記処理液が、フッ化アンモニウムを主成分とするフッ酸であることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項3】
前記処理液が、有機酸を添加物として含むことを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項4】
前記処理液の処理温度が、100℃以下に維持されることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項5】
前記水晶ウエハが、5〜500回転/分の回転速度で回転されつつエッチングされることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項6】
前記水晶ウエハが、所定温度に加熱されつつエッチングされることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項7】
前記処理液を希釈洗浄するために、洗浄液を前記水晶ウエハ上にエッチング中及びエッチング後吐出させることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項8】
前記エッチング中に、前記処理液を連続して、もしくは前記処理液と前記洗浄液とを交互に所定の周波数を得るまで繰り返し吐出しながら行うことを特徴とする請求項7に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項9】
水晶ウエハその上面に保持して載置する円形の保持台と、
前記保持台の上方半径方向の中心手前まで延出し、処理液を前記水晶ウエハ表面に吐出する処理液ノズルと、
前記処理液ノズルと対向する側から、前記保持台の上方半径方向の中心まで延出し、前記水晶ウエハの表面に洗浄液を吐出する洗浄液ノズルと、からなることを特徴とする水晶振動子の製造装置。
【請求項10】
前記保持台が、所定温度に加熱できるように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の水晶振動子の製造装置。
【請求項11】
前記処理液ノズルが、前記水晶ウエハの半径方向に、所定の位置まで移動し、かつ、固定された位置からあるいは所定の振幅で繰り返して動作して処理液を吐出できるようにしたことを特徴とする請求項9に記載の水晶振動子の製造装置。
【請求項12】
前記洗浄液ノズルが、前記水晶ウエハの中心付近の洗浄液を吐出できる位置に固定されて設けられていることを特徴とする請求項9に記載の水晶振動子の製造装置。
【請求項13】
前記洗浄液ノズルに超音波発振子が設けられ、洗浄液の吐出の際に、超音波振動を付与して洗浄液を霧化できるようにしたことを特徴とする請求項9に記載の水晶振動子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−147963(P2010−147963A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325020(P2008−325020)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】