説明

水晶片の製造方法及びこの方法により製造した水晶振動子

【課題】水晶ウェハレベルでの周波数調整作業時間を短縮する。
【解決手段】水晶片の周波数を水晶片を構成する水晶板の厚みを2段階にパーシャル・ウェットエッチングで調整して行う際、第1段階で多数の水晶片の厚みをまとめてパーシャル・ウェットエッチングして粗調整し、次いで、少数の水晶片毎に厚みをパーシャル・ウェットエッチングして微調整するか、あるいは第1段階で微調整で同時に調整を行う水晶片間の厚みのバラツキをパーシャル・ウェットエッチングして粗調整して揃え、次いで、多数の同等の厚みをもつグループに属する水晶片をまとめてパーシャル・ウェットエッチングして微調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハレベル(ウェハ工法)で、ウェットエッチング、とくにパーシャル・エッチングにより、水晶片の周波数を、所定の精度を保って効率良く調整して製造する水晶片の製造方法及びこの方法により製造した水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基準周波数に対してバラツキ等のない周波数安定度に優れた水晶振動子が、多くの通信機器を含む電子機器に周波数及び時間の基準源として広く使用されている。
【0003】
この種の水晶振動子は、人工水晶から、例えばATカット(一般に、Z軸に対して約35°15′の角度で切り出す)によって切り出された水晶板、水晶ウェハから形成され、その後、機械的研磨、ウェットあるいはドライエッチングによって、所望の周波数に応じた厚みを保つように形成される。
【0004】
一般に、ATカットの水晶片では、その振動モードに、厚みすべり振動が適用され、その振動周波数は、水晶片の厚みに反比例し、水晶片の厚みが小さくなればなる程、高くなる。
【0005】
ところで、近年、水晶振動子は、その高周波化の進展が極めて顕著になりつつあり、この高周波化に伴って、水晶片の厚みが益々極小化されつつある。そのため、製造時の水晶片の厚みを適正に維持するため、高い加工精度と生産性が求められ、加工精度が一定の基準を満たさない場合には、水晶片の周波数調整に支障を来たすとともに、その製造時の生産性が低下する。
【0006】
例えば、特許文献1に記載されている水晶振動子の製造方法では、まず、図4及び図5に示すように、水晶ウェハ1を用意し、水晶ウェハ1の表面2と裏面3のうち、表面2のみに、多数の(例えば、1000個以上)段差部2a及び突起部2b及び底部2cをもつ、いわゆる逆メサ部をウェットエッチング等の工法により形成する。
【0007】
そして、図6に示すような水晶振動子の製造装置に、このように逆メサ部を形成した水晶ウェハ1を載置して、周波数を調整する。すなわち、水晶ウェハ1に形成した段差部2aを上向きにし、ウェットエッチングに先立って隣接する段差部2a内にエッチング液が流入することを阻止するため、仕切板10を水晶ウェハ1の表面2上に接着剤等を用いて接着固定する。そして、ディスペンサ15のノズル15aから、仕切板10に設けた貫通孔11を介して、エッチング液16を順次、段差部2a内に滴下してエッチングを行った後、別途設けたディスペンサから段差部2a内に中和液を滴下してウェットエッチングの進行を停止させる。
【0008】
次いで、別途設けた周波数測定装置により段差部2a内に形成した振動部(水晶片)の周波数を測定して、基準周波数と比較し、偏差がある場合には、さらに、振動部の肉厚を減少させて所望の周波数にするように調整する。
【0009】
しかしながら、このような従来の水晶振動子の周波数調整方法では、例えば、水晶ウェハに形成された1000個以上の段差部(水晶片形成部)毎に個別に周波数調整を行うとともに、水晶片の周波数特性を安定させるために、水晶片毎の周波数のバラツキを抑制することが不可欠となる。そのために周波数調整を粗調整(例えば、基準(目標)周波数の200ppmまで)と微調整(例えば、目標周波数の50ppmまで)の2段階調整を水晶片毎に行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−102654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前出の特許文献1に記載された水晶振動子の製造方法では、その周波数調整を、水晶ウェハに形成された1000個以上にも及ぶ段差部(水晶片形成部)毎に、それも粗調整と微調整の2段階に分けてウェットエッチングにより行っていたため、ウェットエッチング、とくにパーシャル・エッチング工程での作業時間(タクト)が大きくなり、製造工程全体の生産性が低下し、水晶片毎の周波数の目標周波数に対するバラツキが依然として生じていた。
【0012】
そこで、本発明は、従来の水晶振動子の製造方法の有する、前述のような問題点を解決するためになされたもので、水晶ウェハの両面に大きさの異なる段差部(逆メサ部)を形成して、ウェットエッチングにより水晶片の周波数の粗調整を行うとともに、水晶ウェハの表面または裏面の段差部毎に、あるいは段差部を多数まとめて、または、少数の段差部をまとめてパーシャル・ウェットエッチングを行って、パーシャル・ウェットエッチングのタクト(作業時間)を大巾に改善した水晶片の製造方法及びこれにより製造した水晶振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決するため、本発明の水晶片の製造方法は、複数の水晶片を水晶ウェハレベルで製造する方法において、該水晶片の周波数を水晶片を構成する水晶板の厚みを2段階にパーシャル・ウェットエッチングで調整して行う際、第1段階で多数の前記水晶片の厚みをまとめてパーシャル・ウェットエッチングして粗調整し、次いで、少数の前記水晶片毎に厚みをパーシャル・ウェットエッチングして微調整することを特徴とする。
【0014】
また、同様に、本発明の水晶片の製造方法は、複数の水晶片を水晶ウェハレベルで製造する方法において、該水晶片の周波数を前記水晶片を構成する水晶板の厚みをパーシャル・ウェットエッチングで2段階に調整して行う際、第1段階で微調整で同時に調整を行う前記水晶片間の厚みのバラツキをパーシャル・ウェットエッチングして粗調整し、次いで、多数の同等の厚みをもつグループに属する前記水晶片の厚みをまとめてパーシャル・ウェットエッチングして微調整することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、前記水晶ウェハの表面及び裏面に前記水晶片を形成する所定個数の仕切部に囲まれた段差部をウェットエッチング及びパーシャル・ウェットエッチングして形成したことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は、前記水晶ウェハの前記裏面にウェットエッチング及びパーシャル・ウェットエッチングして形成した前記段差部の面積が、前記表面に形成した前記段差部の面積より大であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
水晶ウェハの表裏面に面積の異なる段差部を形成して、各段差部をまとめてパーシャル・ウェットエッチングし、次いで所定の段差部を個別にパーシャル・ウェットエッチングすることにより、パーシャル・ウェットエッチングのタクト(作業時間)が大巾に短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の水晶片の製造方法で加工する水晶ウェハの表裏面に多数の段差部を形成したものの模式図であって、図1(a)は、水晶ウェハの表面の平面図、また、図1(b)は、水晶ウェハの裏面の平面図を示す。
【図2】図1(a)に示した水晶ウェハのY−Y線矢視断面図を示す。
【図3】本発明の水晶片の製造方法の工程図(フローチャート)を示す。
【図4】従来の水晶片の製造方法で加工する水晶ウェハの表面に多数の段差部を形成したものの模式的な平面図である。
【図5】図4に示した水晶ウェハのY−Y線矢視断面図である。
【図6】図4に示した従来の水晶片の製造に用いる製造装置のウェットエッチング部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0019】
図1(a)は、本発明の水晶片を製造する水晶ウェハの表面の平面図、また図1(b)は、水晶ウェハの裏面の平面図を模式的に図示したものであって、例えば4インチ径の水晶ウェハから1mm×1mmの方形状の水晶片を1000個以上製造できるように構成されている。なお、図1では、オリフラをもつ円形の水晶ウェハ1を図示したが、非円形(例えば方形)の水晶ウェハを用いてもよい。また、図2は、図1(a)に示した水晶ウェハ1のY−Y矢視断面図を示す。
【0020】
ここで、図1及び図2に示した水晶ウェハ1は、図3に示した工程により水晶ウェハ1の両面に段差部(いわゆる逆メサ部)を形成し、パーシャル・ウェットエッチングにより水晶ウェハ1の段差部の水晶片の厚みを微調整して基準周波数に整合するようにする。
【0021】
まず、図3の本発明の水晶片の製造工程に示すように、工程1(S1)で、所定寸法の水晶ウェハ1を準備し、洗浄した後、工程2(S2)で、水晶片(例えば、1000個)を形成する段差部2a,3a(図1及び図2参照)形状をフォトリソグラフィーにより水晶ウェハ1の両面にパターニングする。
【0022】
次いで、工程3(S3)で、例えば、50μm厚の水晶ウェハ1の表面2に図1(a)及び図2に示すように、例えば、1000個の方形の段差部(凹陥部)2aを、例えば、深さが10μmになるようにフッ酸系エッチング液を用いてウェットエッチングにより、形成する。この際、エッチングする水晶ウェハ1をエッチング液槽に浸して段差部2aを形成してもよいし、また、シリンジからエッチング液を個別に段差部2aの形成部に滴下して形成してもよい。この段差部2aの形成により、各段差部2a間に仕切り部2bが形成されて、隣接する段差部2a内にエッチング液が溢流することが防止され、適正なエッチングが行なわれる。
【0023】
他方、図1(b)及び図2に示すように、水晶ウェハ1の裏面に、水晶ウェハ1の表面に形成した段差部2aよりもその面積が大きい、例えば、深さが10μm程度の段差部2aの4個分の大きさの段差部3aを形成する。すなわち、水晶ウェハ1の裏面に形成する段差部3aの面積を水晶ウェハ1の表面に形成する段差部2aの面積よりも大きくする。この段差部3aの形成により、水晶ウェハ1の表面2と同様に、水晶ウェハ1の裏面3に、各段差部3a間に仕切り部3bが形成されて、隣接する段差部3a内にエッチング液が溢流するのが防止され、適正なウェットエッチングが行われる。
【0024】
さらに、工程4及び5(S4,S5)で、各段差部2a内の水晶片形成部の周波数をプローブ等の周波数測定装置により、個別に測定し、基準(目標)周波数と比較し、基準周波数との偏差を水晶片の厚みに変換して工程6(S6)で、多数の水晶片形成部(段差部2a,3a)をまとめて、例えば4個の段差部2aの底部2cをパーシャル・エッチングにより、水晶片の厚みの粗調整をする。この際、水晶ウェハ1の裏面に形成した段差部2aの面積よりも大き目の段差部3aのみを水晶片の厚みの粗調整に用いてもよい。
【0025】
また、第1段階の粗調整で、第2段階の微調整で同時に周波数調整を行う水晶片形成部(段差部)間の厚みのバラツキをパーシャル・ウェットエッチングして粗調整して同等になるよう調整し、次いで、多数の同等の厚み(例えば、0.1μm以下の厚みの偏差に入るもの)をもつグループに属する水晶片の厚みをまとめてパーシャル・ウェットエッチングして周波数を微調整してもよい。
【0026】
次いで、工程7及び8(S7,S8)、前出の工程4及び5(S4,S5)と同様に、各水晶片形成部(段差部)の周波数を周波数測定装置で測定し、基準周波数と比較し、その偏差を水晶片の厚みに変換し、工程9(S9)で、1個あるいは少数の水晶片毎に主に水晶ウェハ1の表面に形成した段差部2aの底部2cを、パーシャル・エッチングし、水晶片の厚みの微調整を行う。
【0027】
この粗調整及び微調整の2段階の周波数調整により、水晶片のパーシャル・ウェットエッチング工程での作業時間(タクト)が大幅に短縮される。
【0028】
さらに、水晶片の厚み(周波数)の微調整後、工程10(S10)でフォトリソグラフィーにより水晶振動子の外形形状のパターニングをし、工程11(S11)で、エッチングにより各水晶片の支持部を水晶ウェハ1に連接するようにして残し、各水晶片の周囲を打ち貫いて外形加工を行う。その後、各水晶片形成部に電極及び配線を蒸着、スパッタリング等により形成し(工程12、S12)、さらに周波数調整をした後、ダイシング等により水晶ウェハ1を個片に分断して(工程13、S13)、個々の水晶片を構成する。
【0029】
最後に、個々の水晶片をパッケージに格納・封止して、水晶振動子を構成する。また、水晶発振器を構成するには、水晶片に加え、ICチップをパッケージに格納・封止する。
【符号の説明】
【0030】
1 水晶ウェハ
2 水晶ウェハの表面
2a 段差部(凹陥部:逆メサ部)
2b 突起部(仕切部)
3 水晶ウェハの裏面
3a 段差部(凹陥部:逆メサ部)
3b 突起部(仕切部)
10 仕切板
11 貫通孔
15 ディスペンサ
15a ノズル
16 エッチング液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の水晶片を水晶ウェハレベルで製造する方法において、該水晶片の周波数を前記水晶片を構成する水晶板の厚みを2段階にパーシャル・ウェットエッチングで調整して行う際、第1段階で多数の前記水晶片の厚みをまとめてパーシャル・ウェットエッチングして粗調整し、次いで、少数の前記水晶片毎にその厚みをパーシャル・ウェットエッチングして微調整することを特徴とする水晶片の製造方法。
【請求項2】
複数の水晶片を水晶ウェハレベルで製造する方法において、該水晶片の周波数を前記水晶片を構成する水晶板の厚みをパーシャル・ウェットエッチングで2段階に調整して行う際、第1段階で微調整で同時に調整を行う前記水晶片間の厚みのバラツキをパーシャル・ウェットエッチングして粗調整して揃えて同等の厚みにし、次いで、多数の同等の厚みをもつグループに属する前記水晶片をまとめてパーシャル・ウェットエッチングして微調整することを特徴とする水晶片の製造方法。
【請求項3】
前記水晶ウェハの表面及び裏面に前記水晶片を形成する所定個数の仕切部に囲まれた段差部をパーシャル・ウェットエッチングして形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の水晶片の製造方法。
【請求項4】
前記水晶ウェハの前記裏面にパーシャル・ウェットエッチングして形成した前記段差部の面積が、前記表面に形成した前記段差部の面積より大であることを特徴とする請求項3に記載の水晶片の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4に記載の製造方法により製造した水晶片を用いた水晶振動子。
【請求項6】
請求項5に記載の水晶振動子を用いた水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−10204(P2011−10204A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153904(P2009−153904)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】