説明

水栓装置

【課題】
本発明は、使用者が水栓装置を使用する行為のみを確実に検知し、且つ水栓装置から供給される吐水を使用者が欲するタイミングで供給可能である水栓装置を提供する。
【解決手段】
本発明の水栓装置は、吐水口と、放射した電波の反射波によって被検知体の移動に関する情報を取得するセンサ部と、前記センサ部からの検知信号に基づいて吐水口への吐水供給の有無を切り替えるバルブの開閉制御を行う制御部と、を備えた水栓装置であって、前記制御部は、前記検知信号を記憶するメモリ部を有し、前記センサ部から得られる検知信号が所定の第1状態になったことを判定する第1判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間前の検知信号の状態に基づきバルブの開閉制御を行うことを特徴とする構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検知体の検知精度を向上させつつ、被検知体の挿入に対して最適なタイミングで洗浄水を供給可能な水栓装置に関する。
【0002】
従来、水栓装置において、被検知体の挿入に伴い吐水を開始する水栓装置があった。この水栓装置は、水栓装置に搭載されているセンサ部から所定の距離に達したことを検知して吐水を行うものであり、一般的には吐水口近傍に被検知体を挿入することにより吐水を開始するものであった。
【0003】
さらに、センサ部が、例えば光の投受光にて物体の有無を検知するものであり、被検知体がセンサ部から所定の距離に存在するか否かを判定する水栓装置(特許文献1)や、検知精度を向上させるために被検知体が検知範囲に挿入されたことを確認し、更に所定の閾値を超えた場合に被検知体の存在を認識するような時系列的な判断で被検知体の有無を判定する水栓装置があった。
【特許文献1】特開2007−315041号
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、吐水口近傍に被洗浄物を挿入することにより吐水が開始される水栓装置においては、吐水口近傍における洗い作業にて、手が検知範囲に入ったと同時にバルブを開動作させる制御を行うために、例えば水栓装置近傍にて吐水を行うことを目的としない動作において検知範囲に手が挿入された場合においても吐水を開始してしまう恐れがあった。
【0005】
また、検知精度向上のために被検知体の確認を時系列的に行う構成の場合、一旦被検知体を確認した後に再度確認を行うために、再確認を行うための検知信号の収集や、収集した信号を分析する等の制御を別途設けるために、吐水を行なうタイミングが使用者の吐水を欲するタイミングとは異なり、使用者が吐水が開始されるのを待つといった動作が発生する可能性があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明においては、使用者が水栓装置を使用する行為のみを確実に検知し、且つ水栓装置から供給される吐水を使用者が欲するタイミングで供給可能である水栓装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的達成のために、吐水口と、放射した電波の反射波によって被検知体の移動に関する情報を取得するセンサ部と、前記センサ部からの検知信号に基づいて吐水口への吐水供給の有無を切り替えるバルブの開閉制御を行う制御部と、を備えた水栓装置であって、前記制御部は、前記検知信号を記憶するメモリ部を有し、前記センサ部から得られる検知信号が所定の第1状態になったことを判定する第1判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間前の検知信号の状態に基づきバルブの開閉制御を行うことを特徴とする水栓装置が提供できる。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、前記制御部は、前記センサ部から得られる検知信号が所定の第1状態になったことを判定する第1判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間前の検知信号が所定の第2状態になったことを判定する第2判定を更に実施し、第2判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間後の検知信号の状態に基づきバルブの開閉制御を行うことを特徴とする水栓装置を提供できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検知信号が所定の値を満足した以前の信号から、被検知体の状態を判断して、水栓装置を使用するための動作か否かを判断することにより検知精度が向上し、使用者の意思に沿った吐水を供給することが可能となる。また、検知信号が所定の値を満足した以前の信号を用いることにより、既に取得した検知信号であるために、検知信号から必要な信号を収集し終えるまでに有する時間を削減できるために、使用者の欲する最適なタイミングで吐水を供給することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1に本発明の水栓装置に関する概略構成図を示す。図1は、吐水口1と、放射した電波の反射波によって被検知体の移動に関する情報を取得するセンサ部5と、前記センサ部5からの検知信号に基づいて吐水口1への吐水供給の有無を切り替えるバルブ3の開閉制御を行う制御部4と、を備えた水栓装置である。また、図2に本発明の水栓装置に搭載された制御部4の一例の概略構成図を示す。前記制御部4は、センサ部5からの検知信号を記憶するメモリ部9と、検知信号がどのような状態かを判定してバルブ3への開閉信号を送信する判定部8とを有する構成としている。本発明においては、図2(A)においては、判定部8の内部にメモリ部9を搭載した制御部4についての構成を示す。判定部8は、例えばマイコンのような信号処理、及び外部機器に対して信号を送信できる部材とした場合に、内部に搭載されているメモリをメモリ部9として使用する構成となる。この構成であれば、別途メモリ部を制御部4に搭載することなく本発明の制御部の構成を実施することが可能となり、小型化を図ることが可能となる。また、図2(B)においては、判定部8の外部にメモリ部9を接続した制御部4の構成を示す。センサ部5からの検知信号は一旦判定部8に入力され、判定部内部でメモリ部9に検知信号を送信する構成となる。この構成であれば、例えば長時間の検知信号をメモリ部9にて保存する場合に、判定部8内部に搭載されたメモリであれば保存できないような大容量の検知信号も容易に保存することが可能となり、被検知体の状態をより精度良く識別することが可能となる。また、図2(C)においては、センサ部5からの検知信号を信号処理する信号処理部10を有し、信号処理部の後段にメモリ部9を内蔵した判定部8を設ける構成となっている。このような構成により、例えば検知信号を様々な周波数帯にて分別して、各周波数帯の検知信号の特性を見るような制御を行う場合において、判定部8における信号処理の負荷を低減することが可能となり、そのために判定部からバルブ3に対して送信する開閉信号を送るか否かの判定速度も向上するため、検知したタイミングに対して迅速にバルブ3の開閉動作が可能となる。また、図2(D)においては、信号処理部10の後段にメモリ部9を別途搭載した判定部を接続する構成について記載している。この構成であれば、信号処理部10において、検知信号を様々な信号に分類する等の作業によって発生する大容量の検知信号のように判定部8内部のメモリ部9で処理できない量の信号についても保存可能となるため、被検知体の状態を示す様々な情報を蓄積し、バルブ3の開閉を判定するために使用することが可能なため、より検知精度を向上させることが可能となる。なお、本発明のメモリ部9における検知信号の蓄積方法は、例えば時系列的に随時更新する方法等があるが、メモリ部9に第1、及び第2判定時の前後の検知信号を確実に蓄積可能な方法であれば、同様の効果を得ることが可能となる。
【0011】
次に、本発明の水栓装置において、センサ部5の検知範囲が異なる場合において、制御部4におけるバルブ3の開閉制御について図面を用いて説明する。図3に、吐水口1近傍に被検知体を検知してバルブ3の開動作を判断する検知範囲を設けた水栓装置の構成について示す。本実施例の水栓装置においては、被検知体が吐水口1近傍に存在することによってバルブ3の開動作を行うものである。但し、吐水口1近傍に被検知体があるだけを検知した場合には、水栓装置近傍で作業等を行った場合に、誤って検知範囲に手を挿入してしまい、そのためい誤吐水を行う可能性があった。そこで、本実施例における水栓装置においては、バルブ3を開動作させる判定を行う検知範囲に被検知体が挿入された場合に、それ以前の検知信号に基づいて被検知体がどのようにして検知範囲に挿入されたかを判定して吐水を行う構成としている。なお、本発明の水栓装置では、吐水口1と対峙する方向から電波を放射して、吐水口1近傍に電波を送信する構成としているが、センサ部5を別の場所に設置して、吐水口1近傍に対して電波を放射できる構成であれば、同様の効果を得ることが可能となる。更に、例えば、吐水口1近傍に被検知体が侵入したことを判定する第1判定とした場合に、第1判定以前の被検知体の状態である吐水口1近傍に移動する被検知体の情報を収集する場合には手の挿入軌跡に対して略平行に電波を放射する構成にすることにより、第1判定を行う情報を収集しやすくするだけでなく、第1判定以前の検知信号をより精度良く検知することが可能となる。
【0012】
図3の構成における制御部4での検知信号の識別、及びバルブ3の開閉制御に関する流れを図4に示した被検知体を検知した際の検知信号を用いて説明する。図4には、被検知体が吐水口1方向に接近して、吐水口近傍にて被検知体が略静止の状態になった検知信号を示している。ここで、図4は横軸を時間、縦軸を電圧値で示している。
本実施例においては、制御部4における第1判定を、吐水口1近傍に被検知体が接近したことを判定基準とし、吐水口近傍に接近したか否かを判定するために電圧値を用いて判定を行っている。センサ部5は電波を用いた形式のため、得られる検知信号はある基準値を基準として動きを検知すると被検知体の動きの速度や、進入方向によって周波数が異なる検知信号が出力されるものである。そこで、吐水口1近傍に接近したことを判断するために、基準値に対して高い側と低い側に電圧の閾値を設けて、この閾値を検知信号が基準値に対して離れる方向に超えた場合に、被検知体が吐水口1近傍に接近したと判断するものである。なお、閾値を基準値に対して両側に持たないような方法としては、検知信号を全波整流することにより、基準値よりも高い側のみに閾値を設けることも可能である。更に、閾値を検知信号が超えたと判断する際に、少なくとも所定時間は検知信号が閾値を超えなければ、吐水口1近傍に被検知体が接近したと判断しない方法がある。この方法により、検知信号に瞬間的に発生したノイズにより、被検知体が接近していないにも関わらず第1判定を行うことを抑制することが可能となる。
【0013】
ここで、被検知体が吐水口1近傍に接近したことにより、検知信号が閾値を超え、更に所定時間閾値を越える状態を保持したので、この時点で制御部4は被検知体が吐水口1近傍に接近したと判定して第1判定を行う。制御部4は第1判定を行うと、第1判定よりも以前の検知信号をメモリ部9より引き出す。本実施例においては、第1判定を行う以前の、検知信号が閾値を超えた時点から一定時間の検知信号を引き出す設定としている。制御部4は、引き出した以前の検知信号を分析し、その結果を基にバルブ3の開動作を行うかを決定してバルブ3に開閉信号を送信する。図4においては、ある周波数で振幅値が徐々に増加する傾向を確認することができる。これは被検知体がセンサ部5から放射される電波の進行方向に対して略平行に接近していることが推測される。これにより、被検知体は水栓装置を使用するために吐水口1近傍に対して接近したと判断できる。この第1判定以前の検知信号を用いることで、第1判定を吐水口近傍に被検知体がいることに対する判定とすると、吐水口1近傍に接近するまでの過程を把握することが可能となり、水栓装置を使おうとしているかを判断することが可能となるため、水栓装置を使用しない物体や動作に対する誤検知を防止することが可能となる。更に、第1判定の以前の信号であるすでに収集済みの検知信号を用いることで、第1判定後に別途検知信号の収集を行う必要も無いため、検知してから吐水するまでの時間を短縮することが可能となり、被検知体が水栓装置を使用したいタイミングで吐水を行なうことが可能となる。
【0014】
なお、本実施例においては、第1判定以前の検知信号が、吐水口1近傍に接近してくる動きについて記載したが、それ以外の動きも検知信号の周波数変化や検知信号の振幅値の変化から推測することは可能である。本実施例のように、検知信号に対して何も信号処理せずに傾向を把握できる場合もあるが、それ以外の方法としては、例えば、制御部4に設けた信号処理部10にて所定の周波数帯の検知信号をメモリ部9に蓄積し、蓄積した検知信号を用いて第1判定以前の非検知体の動きを識別する方法もある。詳細としては、例えば、非常に低い周波数帯(0〜10Hz)のフィルタを信号処理部10に設け、被検知体が吐水口1近傍に接近して吐水口近傍で減速する動きを取ることにより、被検知体が吐水口1近傍に差し出されるために停止しようとしていることを判定することが可能となり、吐水口1近傍を通過する動きと識別することが可能となる。このように、第1判定以前の信号をどのように収集して、その収集された検知信号をどのように利用するかによって、水栓装置を利用する被検知体を確実に識別することが可能となる。
【0015】
次に、図3とは異なり、センサ部5の検知範囲を吐水口1からも吐水を受ける受水部11の壁面近傍に設けた場合の水栓装置におけるバルブ3の開閉までの流れを示す。図5に受水部11壁面近傍に吐水を開始するための検知範囲を持った水栓装置の概略構成図を示す。本実施例の水栓装置は、受水部11の壁面近傍に設けられた検知範囲に被検知体を進入させることで吐水が開始されるものである。このような水栓装置は、例えば吐水口1近傍にて様々な動作や検知対象物が混在する場合に誤検知を低減させることが可能であり、例えば、キッチンに備えられた水栓装置のように、シンク内部にて様々な動作があり、更に調理器具等が吐水口1近傍に存在するような環境である。センサ部5設置場所は、図5においては受水部11の側壁面に設置しているが、使用者が意図して操作したことが判断できる場所であれば同様の効果を得ることが可能となる。例えば、シンク壁面の吐水口1に対峙した壁面や、受水部11の側面と連接する受水部11上面などのように、水栓装置近傍や受水部11内部にて作業等を行う際に誤って操作する可能性の低い場所に設置するのが望ましい。
【0016】
図5におけるバルブ3の開閉制御について得られた検知信号図である図6を用いて詳細に記載する。図6においては、被検知体をセンサ部5により構成された吐水検知範囲近傍に接近させ、その後吐水口1から吐出される水の軌跡や吐水口1に対して移動する際の検知信号図である。本実施例においては、第1判定をセンサ部5の近傍への接近による検知信号の振幅値で行うものとしている。図4の検知信号と同様に、第1判定の際には、ノイズによる誤検知を防止するために、所定時間閾値を超えた状態を判断して第1判定が成立する構成としている。ここで、第1判定はセンサ部5に接近したことを判定するものであるため、第1判定以前の検知信号はセンサ部5近傍への被検知体の接近を示すものであり、図6においても検知信号の振幅値が時系列的に増大しているため、確実にセンサ部5に対して被検知体を接近させようとしていることが確認できる。そこで、制御部4はバルブ3に対して開動作を指示して吐水を開始することが可能となる。図3の水栓装置では吐水口1近傍に対する被検知体の有無、及び接近する検知信号を基に吐水の制御を行ったが、本実施例においては、センサ部5が設置された受水部11壁面近傍での被検知体の有無、及び接近する検知信号を基に吐水の制御を行っており、センサ部5の設置場所や被検知体の有無や状態を判定する場所を変更しても、吐水をするための動作か否かを判定することが可能となるため、水栓装置を使用しない様々な動きに対しての誤検知を低減することが可能となる。更に、本実施例のように、吐水口1から離れた場所にて被検知体の有無や状態を識別する構成の場合、被検知体が吐水口1から吐出される水の軌跡上や吐水口近傍に到達する前に吐水を開始することが可能となるため、被検知体を挿入する目標を使用者が明確にすることが可能となるため、吐水を行うための操作後に素早く水栓装置を使用することが可能となる。
【0017】
図5の構成にて、バルブ3の開閉制御について他の手段を記載する。図6において、センサ部5近傍における被検知体の有無を判定する第1判定を行い、第1判定以前のセンサ部5に対する被検知体の状態を判断する構成となっていたが、更に被検知体がセンサ部5に接近したことを判断する判定を第2判定とするものである。センサ部5への接近を判定する第2判定を行うと、本発明の水栓装置においては、第2判定を行うと、第1判定より所定時間以降の検知信号を用いて、バルブ3の開閉動作を決定するものである。第2判定後に第1判定以降の検知信号を用いてバルブ3の開閉動作を判定するのは、例えば、図5の水栓装置において、被検知体がセンサ部5に接近して、その後被検知体が受水部11内部に置いたままになっていることや、被検知体を受水部11外部に移動させた場合等の使用があるためである。詳細としては、例えばキッチンにおいて、受水部11であるシンク内部に鍋を置いて、鍋をセンサの設置された側壁近傍にずらした場合においては、センサに対して被検知体が接近して、更にセンサの近傍に存在することになるため、第1判定のみの開閉制御においては鍋をずらす等の作業において誤吐水を起こす可能性が高い。そこで、本実施例のように、更に第2判定後に第1判定以降の検知信号から、更に被検知体がどのような動作を行ったかを識別する手法を用いることで、更に検知精度を向上させる構成としたものである。
【0018】
第2判定を用いたバルブ3の開閉制御に関して、図6を用いて説明する。上記に記載のように被検知体がセンサの近傍に存在することを判定する第1判定の後に、第1判定よりも以前の検知信号を用いて、センサ部5へ被検知体が接近していることを判定している。センサ部5への接近を判定できたら第2判定を行い、第2判定後、第1判定よりも以降の検知信号を基に、センサ部5からどのような状態になったかを吐水操作以降の被検知体の動きを用いて分析を行う。例えば、図6のように、非常に低い周波数帯で、且つ大きな検知信号を検出でき、その後ある周波数帯で検知信号の振幅値が減少する傾向にあることが確認された場合には、非常に低い周波数で大きな検知信号の振幅値を得られえた箇所は、被検知体がセンサ部5の近傍にて略静止の状態になっていると判断でき、これはセンサ部5近傍にて被検知体をセンサ部に対してかざしている状態であることが判断できる。更に、ある周波数にて検知信号の振幅値が減少するような動きを行っているが、これはセンサ部5から離遠する動きで、吐水口1や吐水軌跡近傍に向かって移動していると判断できる。これにより、先程示した鍋をずらした後に鍋を置いたままにする動作との識別が可能となり、吐水操作を行った後に水栓装置を使用しようとしているのかを判断することが可能となるため、吐水操作における検知精度をより向上させることが可能となる。但し、第2判定後に更に検知信号を識別する時間を有するため、本実施例のように、吐水口1近傍に検知範囲を持たず、吐水口や吐水軌跡から離れた場所に検知範囲を持つ水栓装置に最も適している。
【0019】
第2判定後に、第1判定以降の検知信号を用いる手法を行っているが、この第1判定以降の検知信号についてもメモリ部9にて検知信号の蓄積を行うのが望ましい。第1判定が終了した後に、第1判定以前の検知信号を用いて第2判定を行うが、その間も検知信号は時系列的にセンサ部5から出力されているため、第2判定が終了するまでの検知信号を漏れなく検出するためには、メモリ部9を用いることが望ましい。なお、第2判定後に使用する第1判定以降の検知信号に関しても、第1判定以前の検知信号と同様に、検知信号のまま使用することも可能であるが、周波数変動や振幅値の変動を確認するためには信号処理部10を介してメモリ部9に検知信号を蓄積することにより、判定部8における信号処理の負荷を低減し、より厳密な検知信号により被検知体の状態を判断することが可能となる。
【0020】
なお、図5におけるセンサ部5は、受水部11壁面に対して電波を放射させて検知することが可能であるため隠蔽することが可能である。これにより、センサ部5を吐水が散乱する受水部11に露出することなく設置可能であるため、防水構造を取ることなくセンサ部5を設置することが可能である。しかしながら、使用者からの目視が不能となるため、使用者がセンサ部5に対して吐水操作を行うために目印となるものが必要である。そのためにセンサ部5が設置された受水部11壁面近傍に、センサ部が設置されたことを示すマーカーを設置することが望ましい。マーカーとしては、例えば受水部11とは異なる色調にて印刷する方法や、LED等の照明装置を用いて使用者に報知する方法がある。また、マーカーに対して被検知体を挿入するため、被検知体の大面積部分をセンサ部5から放射される電波の軌跡上に誘導することにより検知信号を大きく取ることが可能である。そのために、マーカーとセンサ部5との配置を考慮することで、より大きな検知信号を取得可能であり、検知精度を向上させることも可能となる。例えば、被検知体が掌である場合には、掌と同等のマーカーを設置することで、使用者が掌をかざしやすくなるため、容易に手の大面積を占める掌をセンサ部5近傍に誘導することも可能である。この場合には、マーカーをセンサ部5の設置された壁面近傍に設置するのが望ましい。
【0021】
更に、別の方式としては、図7に記載のように、吐水口1に対峙するようにセンサ部5を設けた構成がある。この構成の場合には、センサ部5にて第1判定を行う動作を、吐水口1近傍に被検知体が存在するか、又はセンサ部5が設置される受水部11壁面近傍に被検知体が存在するかの両方の判定を行なうことが可能となる。その場合、本発明の水栓装置がどのような使われ方をするのか、例えば公共施設等の洗面器に設置された水栓装置のように、手洗いを行うことを主とした水栓装置の場合には、吐水口1近傍での被検知体の有無を第1判定に用いた方がより迅速に吐水を行なうことが可能となり、またキッチンのように様々な動きを受水部11内部にて行う水栓装置においては、受水部11壁面近傍の被検知体の有無を第1判定にすることによって、受水部11内部における様々な動作による誤検知を低減して吐水を行なうことが可能となる。
【0022】
ここで、バルブ3の開閉制御を決定するために使用する第1判定以前、及び以降の検知信号について詳細に説明する。センサ部5に対して被検知体の動作の仕方は、電波センサの場合、光のセンサのように有無や距離を判定するだけでなく、被検知体の動きを識別することが可能なため、様々な動きを分析することが可能であり、幾つかのパターンに識別することが可能となる。まずはセンサ部5からの電波の放射方向に対して略平行に接近する「接近動作」、また電波の放射方向に対して略平行に離遠する「離遠動作」、またセンサの電波の放射方向に対して略直交する方向に移動する「横切り動作」、またセンサ部の近傍にて略静止状態となる「静止動作」、以上の4つの動作に大別される。「接近動作」及び「離遠動作」に関しては、図4や図6の検知信号図からも分かるように、「接近動作」ではある周波数にて検知信号の振幅値が時系列で増大する検知信号となるものである。周波数の変化に対しては、被検知体の動く速度に起因して変化するが、最も特徴的な動きとしては検知信号の振幅値が時系列的に増大することである。これにより、被検知体がセンサ部5に接近している速度やおよその距離を判断することが可能となる。また「離遠動作」については、検知信号と逆に、検知信号の振幅値が時系列的に減少する動きとなることである。周波数の変動については「接近動作」と同様に被検知体の速度に起因して変化するが、振幅値の時系列的な減少により、被検知体の離遠する速度やおよその距離を把握することが可能となる。
【0023】
次に、電波を用いたセンサ部5の特徴である「横切り動作」について記載する。電波センサは、電波の送信方向と略直交する方向に移動する場合には、速度に応じて検知信号の周波数が変動するドップラ信号を検出することが可能であるが、電波の進行方向に対して略直交する方向においては、電波を横切るように移動するため被検知体の速度に応じた検知信号を識別できず、センサ部5から放射された電波の送信方向と略直交する方向にある被検知体の動きは速度がない状態で検知でき、電波の広がりによって被検知体の動きと同じベクトルを持つ電波がある場所においては、ある程度の速度成分を検出できる検知信号を出力することができる。そのため、被検知体がセンサ部5から放射される電波の送信方向と略直交した方向に移動する場合には、センサ部5から遠い場所においてはある程度の速度成分を持ち、且つ検知信号の振幅値が小さな信号が出力され、電波センサと対峙する方向に移動すると速度成分を持たず、大きな検知信号を出力でき、その後センサ部5を通過して、センサ部から遠い場所に移動すると、また速度成分を持ち且つ振幅値が小さな検知信号を出力することが可能となる。この検知信号の特徴より、センサ部5の前を横切る動作、例えば受水部11壁面にセンサ部5を設置した場合に、受水部11に被検知体を置くためにセンサ部5の直前を通過したことを検知することが可能となる。
【0024】
更に、「静止動作」について記載する。電波の送受信を行うセンサ部5においては、静止したものを検知することは困難である。しかしながら、使用者が被検知体を所持した状態でセンサ部5に対して動作を行うと、使用者が静止したつもりでも揺らぎのように非常に低い周波数にて検知信号を導出することができる。このとき、検知信号としては非常に低い周波数(0〜10Hz程度)でセンサ部5からの距離に応じた検知信号の振幅値を導出することが可能となるため、略静止状態を検知できると共に、どの程度の距離において被検知体が存在しているかを識別することが可能となる。
【0025】
以上のような動作パターンにより、図4や図6の検知信号をパターン化することが可能となる。例えば、図4のように、第1判定以前の検知信号は「接近動作」と識別でき、第1判定以降の動作は周波数としては非常に低く、且つ検知信号が大きいため、被検知体がセンサ部5の近傍にて「静止動作」を行っていることが判断できる。又、図6のように第1判定以前の動きは、振幅値の時系列的な増大により「接近動作」と判断でき、更に第1判定以降の非常に低い周波数帯で大きな検知信号を出力する部分に関しては、センサ部5の近傍にて被検知体が略静止状態となっている「静止動作」であり、それ以降の検知信号で、時系列的に検知信号の振幅値が低減している動作に関しては「離遠動作」と判定することが可能である。このように、検知信号の特性により動きをパターン化することによって制御部4における検知信号からの動作の識別に複雑な信号処理等を行うことなく識別できるため、制御部4における信号処理時間を短縮でき、吐水供給タイミングをより早く行なうことが可能となる。
【0026】
以上のように、本発明の水栓装置において、制御部4でのバルブ3の開閉制御を行う際に、第1判定以前、又は以降の検知信号から被検知体の状態を検知して、その被検知体の情報から水栓装置を使用するか否かの判定を行うことで、被検知体をセンシングする検知精度をより向上させることが可能となる。また、第1判定以前の検知信号を用いる場合には、第1判定以降の検知信号を収集する時間を短縮できるため、検知精度の向上に加えて、更に吐水を行うタイミングをより早く行なうことが可能となり、使用者の欲するタイミングで吐水を供給することが可能となる。更に、吐水検知範囲を吐水口1近傍ではなく、吐水口から離れた場所に設定した場合においても、吐水タイミングを早く維持することができ、且つ検知精度を向上させることが可能となり、更に検知精度を向上させるために、第2判定を設けることで、センサ部5から吐水口1や吐水軌跡に対して被検知体を移動させるか否かの確認を行うことも可能となるため、吐水に関する検知精度をより高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明における水栓装置の概略構成図
【図2】制御部の構成図
【図3】本発明の水栓装置において、第1判定を吐水口近傍の被検知体の状態に対し て行う場合の構成図
【図4】図3における水栓装置でのセンサ部からの検知信号図
【図5】本発明の水栓装置において、第1判定を受水部壁面近傍の被検知体の状態に 対して行う場合の構成図
【図6】図5における水栓装置でのセンサ部からの検知信号図
【図7】本発明の水栓装置におけるセンサ部を別の場所に設置した場合の概略構成図
【符号の説明】
【0028】
1:吐水口、2:スパウト、3:バルブ、4:制御部、5:センサ部、6:給水管、7:信号線、8:判定部、9:メモリ部、10:信号処理部、11:受水部、12:第1判定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐水口と、
放射した電波の反射波によって被検知体の移動に関する情報を取得するセンサ部と、
前記センサ部からの検知信号に基づいて吐水口への吐水供給の有無を切り替えるバルブの開閉制御を行う制御部と、
を備えた水栓装置であって、
前記制御部は、前記検知信号を記憶するメモリ部を有し、
前記センサ部から得られる検知信号が所定の第1状態になったことを判定する第1判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間前の検知信号の状態に基づきバルブの開閉制御を行うことを特徴とする水栓装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記センサ部から得られる検知信号が所定の第1状態になったことを判定する第1判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間前の検知信号が所定の第2状態になったことを判定する第2判定を更に実施し、第2判定が行われた際に、前記メモリ部に記憶された前記第1判定より所定時間後の検知信号の状態に基づきバルブの開閉制御を行うことを特徴とする請求項1記載の水栓装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−150765(P2010−150765A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327940(P2008−327940)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】