説明

水浄化用炭素繊維

【課題】本発明は、高い水質浄化能力を持ち、かつ、水との摩擦や固着物の重さによっても繊維が切断されにくい水浄化用炭素繊維を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の水浄化用炭素繊維は、20℃での水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が1.0cm/g以上であり、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差が0.50cm/g以上であり、かつ、平均単繊維強度が5400〜10000MPaの水浄化用炭素繊維である。本発明の水浄化用炭素繊維を、構成する炭素繊維の単繊維が水中で揺動しやすい柔軟な組織体に加工することにより、水質浄化能力の高い水質浄化材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水や、河川、池、湖沼等の水質浄化に用いられる水浄化用炭素繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場排水や河川、池、湖沼等の水質浄化材として炭素繊維を使用する水質浄化方法が提案されている。この方法は、炭素繊維を用いて人工の藻場を形成させるものである。炭素繊維を使用した人工の藻場とは、多数の細い炭素繊維の単繊維の集合体である炭素繊維束を、炭素繊維の単繊維が露出し揺動できる形状で水中に設置したものである。
【0003】
炭素繊維による水質浄化のメカニズムは詳細には解明されていないが、非特許文献1によれば、繊維表面に付着した微生物、活性汚泥及び微生物の集合体であるバイオフィルムなどの働きより、水中の汚濁物が分解され、対象となる水場の水質が浄化されていると考えられている。そのため、より水質浄化能力の高い水質浄化材を得るために、微生物や汚泥が付着しやすく、バイオフィルムの剥離しにくい炭素繊維が求められてきた。
【0004】
一般的に炭素繊維の表面は疎水性が高く、微生物等が固着しにくい。そのため、水質浄化材として用いるためには、炭素繊維表面の親水性を向上させることが必要になる。例えば、特許文献1には炭素繊維の表面を酸化し、親水性を向上させることで、微生物の固着量を向上させた炭素繊維について記載されている。しかし、この方法で得られる炭素繊維の親水性は不十分であり、水質浄化能力は十分満足できるものでは無い。
【0005】
また、特許文献2には、多孔質な表面を有する炭素繊維を水質浄化材に用いることが提案されている。しかし、特許文献2に記載の炭素繊維は、表面に複数のマクロ孔が存在するため、炭素繊維の強度が十分得られないという問題がある。
【0006】
炭素繊維を水質浄化材として使用する場合、微生物や汚泥との接触面積および接触確率を増加させ、水質浄化効率を向上させるため、単繊維が拘束されることなく自由な揺動性のある状態で炭素繊維を設置する。しかし、炭素繊維の揺動性が上がると、水との摩擦により炭素繊維の単繊維に強い応力がかかり、繊維の切断が起きやすくなる。また、繊維上のバイオフィルムが肥大化した場合も、バイオフィルムの重さにより、水中から汚泥を回収する際に、繊維の切断が起きやすくなる。炭素繊維の強度が十分でなく、水中での設置時や汚泥の回収時に繊維が切断されてしまうと、切断された炭素繊維自体が水中に不要物として残存してしまうため問題となる。
そのため、十分な水質浄化能力を持ち、かつ、水との摩擦や固着物の重さによっても繊維が切断されにくい炭素繊維が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−042585号公報
【特許文献2】特開2010−047863号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大谷杉郎,「炭素繊維の水環境設備技術への展開」,炭素,炭素材料学会,平成12年10月5日,第194巻,p.276−287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い水質浄化能力を持ち、かつ、水との摩擦や固着物の重さによっても繊維が切断されにくい水浄化用炭素繊維を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水浄化用炭素繊維は、20℃での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が1.0cm/g以上であり、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差が0.50cm/g以上であり、かつ、平均単繊維強度が5400〜10000MPaであることを特徴とする水浄化用炭素繊維である。
本発明の他の様態は、上述の水浄化用炭素繊維を用いた水質浄化材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、親水性が高いため、微生物や汚泥が固着しやすく、高い水質浄化能力を持ち、さらに水との摩擦や固着物の重さによっても繊維が切断されにくい水浄化用炭素繊維が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水浄化用炭素繊維は、20℃での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.35での吸着量が1.0cm/g以上であり、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差が0.50cm/g以上である水浄化用炭素繊維である。
【0013】
さらに詳しく述べると、本発明の水浄化用炭素繊維において、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量は1.0cm/g以上であり、更に好ましくは1.5cm/g以上である。相対蒸気圧0.35という低圧部での水蒸気吸着量の高さは、親水性の高さを表しており、主に繊維表面の親水性官能基の量及びミクロ孔の存在量に依存している。相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量は、表面処理などの手法により、炭素繊維の表面官能基量およびミクロ孔の存在量を変化させることでコントロールすることができる。
【0014】
相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が1.0cm/g以上であれば、炭素繊維表面に十分な親水性があるため、微生物や汚泥等が固着しやすい。一方、水蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が1.0cm/g未満であると、繊維表面に親水性官能基およびミクロ孔が少なく、親水性が不十分であるため、微生物や汚泥が固着しにくくなる。さらに、水との馴染み難さにより、水中で繊維が広がりにくく分散しにくいため、微生物や汚泥等との接触面積および接触確率が低下し、水質浄化効率が低下する。相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量は高い方が好ましいが、10cm/gを超えると繊維強度が低下する傾向がある。
【0015】
さらに、本発明の水浄化用炭素繊維において、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差は0.50cm/g以上であり、好ましくは0.65cm/g以上である。水蒸気吸着量は、相対蒸気圧が高くなるに従い、サブメソ孔の存在量、比表面積、細孔容積といった表面形状を反映した値となるため、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差は、繊維表面のミクロな凹凸の影響を大きく受ける。具体的には、繊維表面の凹凸が増えるほど、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差も大きくなる。相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差は、表面処理や賦活などの手法により、炭素繊維の表面形状を変化させることでコントロールすることができる。
【0016】
相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差が0.50cm/g以上であれば、炭素繊維表面にサブメソ孔が多数存在し、比表面積も広くなるため、炭素繊維表面にミクロな凹凸が十分に存在している。この炭素繊維表面のミクロな凹凸によるアンカー効果により、繊維表面に付着したバイオフィルムが剥離しにくくなるため、水質浄化効率が向上する。相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差は高い方が好ましいが、5.0cm/gを超えると繊維表面の凹凸が欠陥要因となり、繊維強度が低下する傾向がある。
【0017】
また、本発明の炭素繊維は、平均単繊維強度が5400〜10000MPaの炭素繊維であることが必要である。さらに、平均単繊維強度が5600MPa以上の炭素繊維であることがより好ましい。平均単繊維強度が5400MPa以上あれば、高い揺動性のある形状で水中に設置した場合、または、水中から汚泥を回収する場合でも繊維が切断されにくいため、水質浄化材として好適に使用することができる。平均単繊維強度は高い方が好ましいが、10000MPaを超えると、水中で船舶の推進用プロペラなどの回転体と接触し巻きついた際に、回転体を損傷してしまう可能性がある。
【0018】
本発明の炭素繊維の原料としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ、セルロース、リグニンなど公知の炭素繊維前駆体繊維を用いることができるが、比較的高強度の炭素繊維を得やすいPANを用いるのが好ましい。
【0019】
本発明において、炭素繊維の形態は特に限定されないが、水質浄化材への加工のしやすさから、単繊維直径5〜10μm、繊維長15cm以上の長繊維であることが好ましい。繊維束に含まれる単繊維の数(フィラメント数)は1,000〜100,000であることが加工のしやすさから好ましい。フィラメント数が1,000より少ないと、固着物の重さなどにより繊維が切断されやすくなる傾向がある。一方、フィラメント数が100,000を超えると、加工時に取り扱いにくくなる傾向がある。炭素繊維の比重は、1.75〜1.9であることが好ましい。炭素繊維の比重が、1.75より低いと、炭素化が不十分であるか、繊維内部の欠陥であるボイドが過多である可能性があり、十分な単繊維強度が得られにくい傾向がある。
【0020】
本発明の炭素繊維は、表面官能器量(O/C)が20〜40%であることが好ましく、30〜40%であることがより好ましい。O/Cとは、X線光電子分光器によって測定される繊維表面の酸素原子(O)と炭素原子(C)の存在比を示しており、表面処理によって炭素繊維表面に導入された酸素原子を有する官能基の量を示す指標である。一般的に、O/Cが20%以上の炭素繊維は、繊維強化プラスチックなどに使われる炭素繊維としては、樹脂との接着性が高すぎ、複合材料の物性を低下させるため、好ましくないと言われている。しかし、水浄化用炭素繊維とする場合、O/Cが20%以上であると、微生物や汚泥が固着しやすくなるばかりでなく、水との馴染みやすさにより、水中で繊維が広がりやすく分散しやすくなるため、微生物や汚泥等との接触面積および接触確率が増加し、水質浄化効率が向上する傾向にあり好ましい。O/Cが20%未満であると、繊維表面の親水性が不十分であるため、微生物や汚泥が付着しにくい傾向にある。一方、O/Cが40%を超える場合は、過剰な表面処理により繊維強度の低下が起き易い傾向がある。表面官能基量は、表面処理の電解液、処理電気量、または表面処理装置の電極配置を変更することで調節できる。
【0021】
本発明の水浄化用炭素繊維は、例えば炭素繊維の表面処理条件を調整することで得ることができる。炭素繊維の表面処理には気相処理、液相処理など公知の方法を用いることができるが、工程管理の簡便さと生産性を高める点から、液相処理が好ましい。液相処理のうちでも、液の安全性・安定性の面から、電解液を用いる電解処理が好ましく、表面処理装置の電極と炭素繊維が直接触れることのない、非接触方式の表面処理装置を用いて電解処理を行うことがより好ましい。
【0022】
非接触方式の表面処理装置を用いた場合、異なる電解液槽に設置された陽電極と陰電極の間を電流が、それぞれの電解液槽の電解液と炭素繊維を介して流れている。陽極が設置された陽極槽において、炭素繊維は電解液槽中の陽極に対して陰極として働くため、炭素繊維表面で還元反応が起き、繊維表面の官能基量が減少する。一方、陰極が設置された陰極槽において、炭素繊維は電解液槽中の陰極に対して陽極として働くため、炭素繊維表面で酸化反応が起き、繊維表面の官能基量が増加する。そのため、繊維進行方向に対して、陽極槽の後に陰極槽を設置することで、繊維表面の官能基量を増加させることができ、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量を向上させることができる。
【0023】
電解液に用いる電解質としては無機酸、無機塩基、無機酸塩等を用いることができるが、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸を用いることが好ましく、強酸を用いることがさらに好ましい。電解質として無機酸を用いると、表面処理による繊維のエッチング効果が大きいため、繊維表面の欠陥が除去され、単繊維強度が向上する傾向にある。また、エッチング効果により繊維の比表面積が増加するため、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差が大きくなる傾向がある。
【0024】
電解液の電解質濃度は0.1規定以上が好ましく、0.1〜1規定がより好ましい。電解質濃度が0.1規定未満であると、電気伝導度が低いために、電解に適さない傾向があり、一方で、電解質濃度が高すぎる場合は、電解質が析出し、濃度の安定性が低くなる傾向がある。
【0025】
電解液の温度は、高いほど電気伝導性を向上させるため、処理を促進させることができる。一方で、電解液の温度が40℃を超えると、水分の蒸発による濃度の変動等により、均一な条件を提供するのが難しくなるため、15〜40℃の間が好ましい。
【0026】
電解処理を行う場合の処理電気量については、炭素繊維1g当り総電気量10〜500クーロンの範囲内で処理することが好ましく、50〜250クーロンの範囲内で処理することがより好ましく、120〜250クーロンの範囲内で処理することがさらに好ましい。処理電気量が5クーロン未満の場合は、表面処理の効果が少なく、所定の水蒸気吸着量を得ることはできない。処理電気量が500クーロンを超える場合は、過剰処理により単繊維強度の低下が起こりやすくなる。
【0027】
また、表面処理を均一に行うために、1回あたりの処理電気量を好ましくは炭素繊維1g当り5〜150クーロンの範囲内、さらに好ましくは30〜150クーロンの範囲内とし、前記総電気量の範囲内で2回以上表面処理を行うこともできる。1回あたりの処理電気量が5クーロン未満の場合は、表面処理の効果が少なく、所定の水蒸気吸着量を得ることはできない。一方、1回あたりの処理電気量が150クーロンを超えると処理が均一に行われにくくなる傾向があり、さらに繊維表面のアモルファス部で集中して処理反応が起こるため、過剰処理により単繊維強度の低下が起き易い傾向がある。表面処理の回数に特に制限はないが、処理効率の面から2〜5回が好ましい。
【0028】
本発明の炭素繊維は、必要に応じ、炭素繊維の取扱性改善、形態安定化のためサイジング処理を施すことができる。サイジング方法は、特に限定するものではなく、従来の公知の方法で行うことができる。サイズ剤は、組成を限定するものではないが、水質浄化用途に即して水中での揺動性を高めるため、例えばグリセリン系サイズ剤などの水との親和性に優れた水溶性のサイズ剤を用いることが好ましい。サイズ剤の付着量は、0.5〜10.0%が、加工時の取扱い性と水中での揺動性を兼ね備えた炭素繊維を得るために好ましい。サイズ剤付着量が0.5%より少ない場合は加工時の取扱い性が低下し、一方、サイズ剤付着量が10.0%を超える場合には、水中での揺動性が低下する傾向にある。
【0029】
本発明の水浄化用炭素繊維は、例えば、以下の方法により製造することができる。
本発明の水浄化用炭素繊維に用いる前駆体繊維には、アクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有し、その他の単量体を10質量%以下含有する単量体を単独又は共重合した紡糸溶液を紡糸して製造する、PAN系の粗原料繊維が好ましい。その他の単量体としてはイタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0030】
前駆体繊維の紡糸方法としては湿式、乾湿式又は乾式紡糸方法いずれの方法も用いることができるが、最終的に得られる炭素繊維の表面に襞が形成され、表面積の増加により微生物や汚泥の固着量の増加が期待できるので、湿式紡糸方法がより好ましい。なお、紡糸溶液としては、30〜60質量%の塩化亜鉛溶液に上記アクリル系重合体を溶解したものが好ましい。なお、紡糸原液の不純物を除去するために紡糸原液の濾過を必要に応じて実施しても構わない。紡糸原液の濾過の実施は、工程安定化、強度・弾性率等の品位の改善に寄与する。これらの紡糸工程は、従来公知の工程である。
【0031】
紡糸されたアクリル系繊維に、張力を掛けつつ洗浄処理、湿熱延伸処理を施し、炭素繊維の前駆体繊維が得られる。洗浄工程、湿熱延伸工程を通してのトータル延伸倍率は10〜15倍とすることが好ましい。
【0032】
前駆体繊維を、引き続き加熱空気中220〜300℃、好ましくは230〜260℃で熱処理して耐炎化繊維を得る。この時の処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.30の範囲で処理されるが、高強度・高弾性率の炭素繊維を得るためには、0.95以上がより好ましい。
【0033】
上記耐炎化繊維は、従来の公知の方法を採用して炭素化することができる。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは酸素濃度が0.05体積ppm未満の不活性ガス雰囲気下で昇温し、炭素化炉で徐々に温度を高めると共に、耐炎化繊維の張力を制御して焼成する。不活性ガスとしては、アルゴン等に比べて安価であり大規模連続生産に適しているため、窒素が好ましい。焼成温度については、炭素化炉で温度を高めて、最高温度領域で、600〜2000℃に保つことが好ましく、1000〜1500℃に保つことがより好ましい。
【0034】
炭素化処理後の繊維には、前述のような表面酸化処理およびサイジング処理を施す。
この製造方法により得られた水浄化用炭素繊維は、高い水質浄化能力を持ち、かつ、水との摩擦や固着物の重さによっても繊維が切断されにくいため、水質浄化材として好適に使用することができる。
【0035】
もう一つの本発明である水質浄化材は、汚泥除去用の水質浄化材であって、本発明の水浄化用炭素繊維で構成された水質浄化材である。より具体的には、本発明の水浄化用炭素繊維を繊維方向に平行に並べて平板状にするか、または、織物、編み物、リボン状、ロープ状、網状、フェルト状、不織布などの公知の組織体または、本発明の炭素繊維と他の公知の有機繊維、無機繊維との組み合わせた組織体であって、構成する炭素繊維の単繊維が水中で揺動しやすい柔軟な組織体に加工することにより得られる。本発明の水質浄化材を水中に配置することにより、水質浄化材の固着した微生物や汚泥の働きにより、水中の汚濁物が分解され、対象となる水場の水質を浄化することができる。
【0036】
本発明の水浄化用炭素繊維を用いて藻場を形成する方法は、本発明の水浄化用炭素繊維または水質浄化材を藻場として水中に適当な形態で適当に配置したものであれば特に制約はない。好ましくは、平面上の組織体の上辺端を浮体に、下辺端を重りに固定し魚類が遊回できる面間隔で、池、沼、湖、ダム、海などの必要水域に設置するか、炭素繊維を魚類が通れる大きさの編み目をもつ網として水中に設置する方法である。
【0037】
本発明の水浄化用炭素繊維は、水中に浸積した直後から微生物が極めて速く固着するため早い段階から水中のBOD、COD、SSなどを除去してきれいな水に再生できる。また、本発明の水浄化用炭素繊維を藻場(魚礁も含む)に適用することにより、きれいな水環境を維持して自然のままの生物連鎖を形成して魚介類の人工養殖が出来る。さらに、下水処理に適用した場合には、早い段階から大量の微生物が固着して大きなコロニーを形成し、その外側には好気性微生物が存在し、内部には嫌気性微生物が生息するようになり、水中のアンンモニア性窒素分をも除去できる効果がある。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各実施例及び比較例における処理条件、前駆体繊維、耐炎化繊維、炭素繊維の物性についての評価方法は以下の方法により実施した。
【0039】
<炭素繊維の水蒸気吸着量>
Quantachrome Instruments社製AUTOSORB−1を用いて、吸着等温線の測定を行った。なお、吸着等温線の測定は、吸着ガスとして水蒸気を、死容積としてヘリウムガスを用い、吸着温度20℃、飽和蒸気圧(Po)17.55mmHg、マニホールド温度40℃、平衡バンド幅0.05の条件において、相対蒸気圧(測定圧(P)/Po)0〜1.0の測定範囲で、9mmφ−ペレットショートセルを使用して行った。
得られた吸着等温線から相対蒸気圧0.35での炭素繊維の水蒸気吸着量を求めた。また、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量を吸着等温線からそれぞれ求め、その差を算出した。
【0040】
<炭素繊維の平均単繊維強度>
炭素繊維束から単繊維を取り出し、JIS7606に従い強度測定を実施した。単繊維の測定長さを10mmとして強度測定を行い、n=20の平均値を平均単繊維強度とした。
【0041】
<炭素繊維のサイズ剤付着量>
炭素繊維束のサイズ剤付着量(質量%)を下記の方法で測定した。
炭素繊維束を、約5g採取し、その質量(W1)を秤量後、100mLのアセトン中で10分間洗浄して、脱サイズ剤処理を施した。次いで、この炭素繊維束をアセトン中から取り出し、100℃で20分間乾燥した。その後、デシケーターに入れ室温まで冷却し、その質量(W2)を秤量した。サイズ剤付着量(質量%)は、次式により求めた。
サイズ剤付着量(質量%)=(W1−W2)/(W1)×100
【0042】
<炭素繊維の密度>
密度は、アルキメデス法により測定し、試料繊維はアセトン中にて脱気処理し測定した。
【0043】
<炭素繊維の表面官能器量(O/C)>
日本電子社製X線光電子分光器(ESCA JPS−9000MX)を用いて測定を行った。炭素繊維束を10−6Paに減圧した測定室に入れ、Mgを対極として電子線加速電圧10kV、10mAの条件で発生させたX線を照射した。酸素原子、炭素原子より発生する光電子のスペクトルからその面積比を算出し、表面官能器量O/Cとした。
【0044】
<活性汚泥の固着量>
水中に浸漬する長さが11cmとなるよう切断した繊維束の上端を固定し、繊維重量が300g/mとなるように生物担体を作成した。汚水としては、し尿処理場から入手した汚泥を13倍(汚泥70mL・水930mL)希釈し、曝気槽混合液中の活性汚泥浮遊物(MLSS)が1400mg/Lになるよう調整したものを使用した。前記のように調整した汚水を1Lのビーカに入れ、生物担体を浸漬させた後、24時間曝気した。その後、生物担体を回収し、乾燥させて、生物担体に付着した汚泥の乾燥重量を求めた。
【0045】
[実施例1]
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を、常法により湿式紡糸し、水洗・オイリング・乾燥後、トータル延伸倍率が14倍になるようにスチーム延伸を行い、0.65デニールの繊度を有するフィラメント数12,000の前駆体繊維を得た。
得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、250℃で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、1600℃で炭素化処理をし、未表面処理炭素繊維を得た。
前記未表面処理炭素繊維を、電解液として6.3質量%の硝酸水溶液を用い、電解液温度40℃、総電気量250クーロン/gの電気条件で2回表面処理を行った。表面処理装置としては、陽極槽、陰極層の順に電極が配置された非接触式の電解表面処理装置を用いた。電解処理を施した炭素繊維に常法により、グリセリン系のサイズ剤を用いて付着量が1%となるようサイジング処理を行い、乾燥して密度1.80g/cm、単繊維直径5μm、フィラメント数12,000の炭素繊維の長繊維束を得た。得られた炭素繊維の相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差、平均単繊維強度及び繊維1g辺りの汚泥固着量は表1に示したとおりであり、優れた水浄化能力を示した。
【0046】
[実施例2]
実施例1で得られた未表面処理炭素繊維を、6.3質量%の硝酸水溶液を用い、電解液温度40℃、総電気量120クーロン/gの電気条件で4回表面処理を行った。電解処理を施した炭素繊維に常法により、グリセリン系のサイズ剤を用いて付着量が1%となるようサイジング処理を行い、乾燥して密度1.80g/cm、単繊維直径5μm、フィラメント数12,000の炭素繊維の長繊維束を得た。得られた炭素繊維の相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差、平均単繊維強度及び繊維1g辺りの汚泥固着量は表1に示したとおりであり、優れた水浄化能力を示した。
【0047】
[比較例1]
実施例1で得られた未表面処理炭素繊維を用い、未表面処理状態のままの炭素繊維に常法により、グリセリン系のサイズ剤を用いて付着量が1%となるようサイジング処理を行い、乾燥して密度1.80g/cm、単繊維直径5μm、フィラメント数12,000の炭素繊維の長繊維束を得た。得られた炭素繊維の相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差、平均単繊維強度及び繊維1g辺りの汚泥固着量は表1に示したとおりであった。表面処理を行っていない炭素繊維は、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が低く親水性が不十分であるため、十分な水浄化能力を示さなかった。
【0048】
[比較例2]
実施例1で得られた未表面処理炭素繊維を、10.0質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、電解液温度40℃、総電気量30クーロン/gの電気条件で3回処理を行った。電解処理を施した炭素繊維に常法により、グリセリン系のサイズ剤を用いて付着量が1%となるようサイジング処理を行い、乾燥して密度1.80g/cm、単繊維直径5μm、フィラメント数12,000の炭素繊維の長繊維束を得た。得られた炭素繊維の相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差、平均単繊維強度及び繊維1g辺りの汚泥固着量は表1に示したとおりであった。硝酸に比べ表面処理効果の小さな硫酸アンモニウム水溶液を用い、少ない電気量で表面処理を行った炭素繊維は、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が低く親水性が不十分であるため、十分な水浄化能力を示さなかった。
【0049】
[比較例3]
実施例1で得られた未表面処理炭素繊維を、10.0質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、電解液温度40℃、総電気量15クーロン/gの電気条件で3回表面処理を行った。電解処理を施した炭素繊維に常法により、グリセリン系のサイズ剤を用いて付着量が1%となるようサイジング処理を行い、乾燥して密度1.80g/cm、単繊維直径5μm、フィラメント数12,000の炭素繊維の長繊維束を得た。得られた炭素繊維の相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差、平均単繊維強度及び繊維1g辺りの汚泥固着量は表1に示したとおりであった。比較例2より、さらに少ない電気量で表面処理を行った炭素繊維は、表面処理によるエッチング効果が不十分であったため、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が低く親水性が不十分であり、また相対蒸気圧0.95と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差も小さく、バイオフィルムが剥離しやすかった為、十分な水浄化能力を示さなかった。
【0050】
[比較例4]
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を、常法により湿式紡糸し、水洗・オイリング・乾燥後、トータル延伸倍率が12.5倍になるようにスチーム延伸を行い、0.95デニールの繊度を有するフィラメント数12,000の前駆体繊維を得た。
得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、270℃で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、1420℃で炭素化処理を行い、未表面処理炭素繊維を得た。
前記未表面処理炭素繊維を、電解液として6.3質量%の硝酸水溶液を用い、電解液温度40℃、総電気量15クーロン/gの電気条件で2回表面処理を行った。表面処理装置としては、陽極槽、陰極層の順に電極が配置された非接触式の電解表面処理装置を用いた。電解処理を施した炭素繊維に常法により、グリセリン系のサイズ剤を用いて付着量が1%となるようサイジング処理を行い、乾燥して密度1.78g/cm、単繊維直径7.0μm、フィラメント数12,000の炭素繊維の長繊維束を得た。得られた炭素繊維の相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差、平均単繊維強度及び繊維1g辺りの汚泥固着量は表1に示したとおりであった。表面処理効果の高い硝酸を用いたものの、少ない電気量で表面処理を行った炭素繊維は、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が低く親水性が不十分であるため、十分な水浄化能力を示さなかった。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の炭素繊維は、工場排水や、河川、池、湖沼等の水質浄化材、水処理装置に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃での水蒸気吸着等温線において、相対蒸気圧0.35での水蒸気吸着量が1.0cm/g以上であり、相対蒸気圧0.95での水蒸気吸着量と相対蒸気圧0.65での水蒸気吸着量の差が0.50cm/g以上であり、かつ、平均単繊維強度が5400〜10000MPaであることを特徴とする水浄化用炭素繊維。
【請求項2】
汚泥除去用の水質浄化材であって、請求項1に記載の炭素繊維で構成されていることを特徴とする水質浄化材。

【公開番号】特開2012−130832(P2012−130832A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282972(P2010−282972)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】