説明

水添共役ジエン系重合ゴム及びその製造方法

【課題】ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能な水添共役ジエン系重合ゴムを提供する。
【解決手段】ビニル結合の含有割合が20〜70%であり、アルコキシシリル基がその主鎖に結合した、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する変性共役ジエン系重合体の共役ジエン部分の50%以上が水素添加されたものであり、かつ、同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合したアルコキシル基含有化合物に由来する残基を更に有する水添共役ジエン系重合ゴムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工が容易であり、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能な水添共役ジエン系重合ゴム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴム(NR)をはじめとするジエン系ゴムは、十分な機械特性を有するものであり、疲労特性に優れている。そこで従来、ジエン系ゴムは、防振ゴム等として多用されている。なかでも、防振性部材等の構成材料として有用な分岐状の水添共役ジエン系重合ゴムは、アニオン重合開始剤の存在下、共役ジエン化合物を単独で重合させて、或いは共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を共重合させて得られたリビングポリマーをカップリングした後、水素添加して製造する方法が一般的に知られている。
【0003】
リビングポリマーのカップリングに用いるカップリング剤としては、テトラクロロシラン等のハロゲン化ケイ素化合物が一般的に知られている。これらのカップリング剤にはハロゲン原子が反応部位に含まれているため、カップリング後にLiCl等のハロゲン化合物が副生する。しかしながら、ゴム中に存在するハロゲン成分については可能な限り低減化することが望ましいため、このようなハロゲン化合物がカップリングによって副生することは、好ましいことではない。
【0004】
このため、種々の非ハロゲン系のカップリング剤が提案されている。例えば、カップリング剤としてアルコキシシランを使用し、特定の分岐構造を有する共役ジエン系重合体を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、アルコキシシランをカップリング剤として用いた場合には、時間の経過とともに目的とする分岐構造以外の高分子量成分が生成し易くなり、得られる重合体のムーニー粘度が安定し難くなるという、従来のハロゲン化ケイ素化合物をカップリング剤として用いた場合には見られなかった問題を生ずることがある。
【0005】
この問題を解消すべく、炭化水素溶媒中、有機リチウム化合物を重合開始剤として使用し、共役ジエン系単量体を重合させてリビング重合体を調製した後、アルコキシシラン化合物を用いてカップリングさせ、次いで、所定のルイス塩基を炭化水素溶媒中に添加して処理する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2で提案された方法であっても、得られる重合体のムーニー粘度は十分に安定するとはいえず、ムーニー粘度の経時変化を抑制することは困難であった。
【0006】
また、特許文献2で提案された方法によって得られる重合体を長期間放置した後に加硫して製造される加硫ゴムは、放置前(即ち、製造直後)に加硫して製造される加硫ゴムからみて静動比が大きく変化してしまい、良好な防振性を示す加硫ゴムを製造することが困難になるという問題があった。このため、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性を示す加硫ゴムを製造する方法を開発する必要があった。
【0007】
【特許文献1】特開平7−2958号公報
【特許文献2】特開平10−25313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能な水添共役ジエン系重合ゴム及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能な水添共役ジエン系重合ゴム組成物、及び良好な防振性及び伸びを示すゴム成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成とすることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示す水添共役ジエン系重合ゴム、水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法、水添共役ジエン系重合ゴム組成物、及びゴム成形品が提供される。
【0012】
[1]ビニル結合の含有割合が20〜70%であり、アルコキシシリル基がその主鎖に結合した、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する変性共役ジエン系重合体の共役ジエン部分の50%以上が水素添加されたものであり、かつ、同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合したアルコキシル基含有化合物に由来する残基を更に有する水添共役ジエン系重合ゴム。
【0013】
[2]前記変性共役ジエン系重合体が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を更に有する前記[1]に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
【0014】
[3]保護されていてもよい第一級アミノ基が、その主鎖に更に結合している前記[1]又は[2]に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
【0015】
[4]前記アルコキシル基含有化合物が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
CH(OR ・・・(1)
【0016】
前記一般式(1)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、nは0〜2の整数を示し、mは0〜2の整数を示し、kは2〜4の整数を示し、n+m+k=4である。
【0017】
【化1】

【0018】
前記一般式(2)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基を示し、dは2〜3の整数を示し、eは0〜1の整数を示し、fは0〜1の整数を示し、gは2〜3の整数を示し、hは0〜1の整数を示し、jは0〜1の整数を示し、d+e+f=3であり、g+h+j=3である。
【0019】
[5]前記アルコキシル基含有化合物が、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリn−プロピル、1,1,3,3−テトラエトキシプロパン、及びジエトキシメタンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[4]に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
【0020】
[6](1)炭化水素溶媒中、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくともいずれかを含有する金属化合物を重合開始剤として使用し、共役ジエン化合物を含む単量体成分をアニオン重合させて、重合活性末端を有する共役ジエン系重合体を形成する工程と、(2)前記共役ジエン系重合体の前記重合活性末端と、アルコキシシラン系化合物とを反応させた後、水素添加する工程と、(3)同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合したアルコキシル基含有化合物を反応系に添加して処理する工程と、を有する水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【0021】
[7]前記単量体成分が、芳香族ビニル化合物を更に含む前記[6]に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【0022】
[8]前記アルコキシシラン系化合物が、保護されていてもよい第一級アミノ基をその分子構造中に有するものである前記[6]又は[7]に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【0023】
[9]前記アルコキシル基含有化合物が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される前記[6]〜[8]のいずれかに記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
CH(OR ・・・(1)
【0024】
前記一般式(1)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、nは0〜2の整数を示し、mは0〜2の整数を示し、kは2〜4の整数を示し、n+m+k=4である。
【0025】
【化2】

【0026】
前記一般式(2)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基を示し、dは2〜3の整数を示し、eは0〜1の整数を示し、fは0〜1の整数を示し、gは2〜3の整数を示し、hは0〜1の整数を示し、jは0〜1の整数を示し、d+e+f=3であり、g+h+j=3である。
【0027】
[10]前記アルコキシル基含有化合物が、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリn−プロピル、1,1,3,3−テトラエトキシプロパン、及びジエトキシメタンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[9]に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【0028】
[11]前記単量体成分100質量部に対して、0.005質量部以上の前記アルコキシル基含有化合物を反応系に添加する前記[6]〜[10]のいずれかに記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【0029】
[12]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の水添共役ジエン系重合ゴムと、フィラーとを含有し、前記水添共役ジエン系重合ゴム100質量部に対する、前記フィラーの含有量が、5〜200質量部である水添共役ジエン系重合ゴム組成物。
【0030】
[13]前記フィラーが、シリカ及びカーボンの少なくともいずれかである前記[12]に記載の水添共役ジエン系重合ゴム組成物。
【0031】
[14]前記[12]又は[13]に記載の水添共役ジエン系重合ゴム組成物を架橋して得られる架橋ゴム組成物からなるゴム成形品。
【発明の効果】
【0032】
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムは、ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能であるといった効果を奏するものである。
【0033】
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法によれば、ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能な水添共役ジエン系重合ゴムを簡便に製造することができる。
【0034】
本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物は、ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能であるといった効果を奏するものである。
【0035】
本発明のゴム成形品は、良好な防振性及び伸びを示すといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0037】
1.水添共役ジエン系重合ゴム:
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの一実施形態は、ビニル結合の含有割合が20〜70%であり、アルコキシシリル基がその主鎖に結合した、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する変性共役ジエン系重合体の共役ジエン部分の50%以上が水素添加されたものであり、同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合したアルコキシル基含有化合物に由来する残基を更に有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0038】
(変性共役ジエン系重合体)
変性共役ジエン系重合体(以下、「水添前重合体」ともいう)は、ビニル結合含量が20〜70%であるとともに、アルコキシシリル基がその主鎖に結合しており、かつ、共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(1)ともいう」)を有するものである。
【0039】
変性共役ジエン系重合体のビニル結合含量は、20〜70%、好ましくは30〜60%、更に好ましくは35〜45%である。変性共役ジエン系重合体のビニル結合含量が20%未満であると、耐低温特性が著しく低下する。一方、70%超であると、防振性が低下する。
【0040】
変性共役ジエン系重合体に含まれる構造単位(1)を構成するために用いられる共役ジエン化合物の種類は特に限定されないが、具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等を挙げることができる。なかでも、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらの共役ジエン化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
変性共役ジエン系重合体に含まれる構造単位(1)の割合は、全構造単位中、通常60〜100質量%、好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。構造単位(1)の含有割合が60質量%未満であると、ヒステリシスロスが大きくなる傾向にある。
【0042】
変性共役ジエン系重合体は、構造単位(1)以外の構造単位として、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(2)」ともいう)や、その他の構造単位(以下、「構造単位(3)」ともいう)を更に含むものであってもよい。
【0043】
構造単位(2)を構成するために用いられる芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、tert−ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4−ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N−ジメチルアミノエチルスチレン、2−t−ブチルスチレン、3−t−ブチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。なかでも、スチレンが好ましい。これらの芳香族ビニル化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。変性共役ジエン系重合体に含まれる構造単位(2)の割合は、全構造単位中、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0044】
構造単位(3)を構成するために用いられる化合物(モノマー)の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル等を挙げることができる。これらのモノマーは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。変性共役ジエン系重合体に含まれる構造単位(3)の割合は、全構造単位中、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0045】
(水添率)
水添前重合体である変性共役ジエン系重合体は、その共役ジエン部分の50%以上、好ましくは70%超、更に好ましくは72%以上が水素添加される。水素添加率が50%未満であると、耐熱性が悪化する傾向にある。なお、水素添加率の上限については特に制限されないが、実質的には93%以下である。
【0046】
(アルコキシル基含有化合物に由来する残基)
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムは、アルコキシル基含有化合物に由来する残基をその分子構造中に有するものである。このアルコキシル基含有化合物は、同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合した化合物である。
【0047】
アルコキシル基含有化合物の具体例としては、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう)、又は下記一般式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」ともいう)を挙げることができる。
CH(OR ・・・(1)
【0048】
前記一般式(1)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、nは0〜2の整数を示し、mは0〜2の整数を示し、kは2〜4の整数を示し、n+m+k=4である。
【0049】
【化3】

【0050】
前記一般式(2)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基を示し、dは2〜3の整数を示し、eは0〜1の整数を示し、fは0〜1の整数を示し、gは2〜3の整数を示し、hは0〜1の整数を示し、jは0〜1の整数を示し、d+e+f=3であり、g+h+j=3である。
【0051】
化合物(1)の具体例としては、テトラメトキシメタン、テトラエトキシメタン、テトラ−n−プロポキシメタン、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリ−n−プロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリエチル、オルト−n−酪酸トリメチル、オルト−n−酪酸トリエチル、オルト吉草酸トリメチル、オルト吉草酸トリエチル、トリメチルオルトベンゾエート、トリエチルオルトベンゾエート、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、アセトアルデヒドジメチルアセタール、アセトアルデヒドジエチルアセタール、1,1−ジメトキシプロパン、1,1−ジエトキシプロパン、ベンズアルデヒドジメチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール、2−クロロ−1,1,1−トリメトキシエタン、2−ブロモ−1,1,1−トリメトキシエタン、2−ブロモ−1,1−ジメトキシエタン、2−クロロ−1,1−ジメトキシエタン、3,3−ジメトキシ−1−プロペン等を挙げることができる。なかでも、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリn−プロピル、ジエトキシメタンが好ましい。これらの化合物(1)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
化合物(2)の具体例としては、1,1,3,3−テトラメトキシプロパン、1,1,3,3−テトラエトキシプロパン、1,1,3,3−テトラメトキシブタン、1,1,3,3−テトラエトキシブタン等を挙げることができる。なかでも、1,1,3,3−テトラエトキシプロパンが好ましい。これらの化合物(2)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、化合物(1)と化合物(2)を組み合わせて用いることも好ましい。
【0053】
(変性)
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムを得るために用いられる水添前重合体は、その主鎖、より具体的にはその重合活性末端にアルコキシシリル基が結合しているものである。なお、変性共役ジエン系重合体の主鎖には、アルコキシシリル基以外にも、第一級アミノ基、又は保護された第一級アミノ基(即ち、保護基を有する第一級アミノ基)が更に結合していることが好ましい。
【0054】
第一級アミノ基を保護することが可能な保護基の具体例としては、アルキルシリル基を挙げることができる。アルキルシリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、及びエチルメチルフェニルシリル基を挙げることができる。
【0055】
(分子量)
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの重量平均分子量(Mw)は、通常、20万〜170万、好ましくは20万〜100万、更に好ましくは20万〜60万である。重量平均分子量(Mw)が170万超であると、粘度が高過ぎて加工性が低下し、練り不良の傾向にあり、防振性を十分に発揮させることが困難となる。一方、重量平均分子量(Mw)が万未満であると、高い防振性能の発現が困難となる。なお、本明細書にいう「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定した、ポリスチレン換算の値である。
【0056】
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの分子量分布(Mw/Mn)は、通常、1.0〜3.0であり、好ましくは1.0〜2.5、更に好ましくは1.0〜2.0である。Mw/Mnの値が3.0超であると、防振性が低下する傾向にある。なお、分子量分布は、数平均分子量(Mn)に対する、重量平均分子量(Mw)の比で表されるが、本明細書にいう「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算分子量である。
【0057】
2.水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法:
(工程(1))
次に、本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法の一実施形態について説明する。本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法には、(1)炭化水素溶媒中、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくともいずれかを含有する金属化合物を重合開始剤として使用し、共役ジエン化合物を含む単量体成分をアニオン重合させて、重合活性末端を有する共役ジエン系重合体を形成する工程(工程(1))が含まれる。
【0058】
炭化水素溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。なかでも、シクロヘキサン、ヘプタンが好ましい。炭化水素溶媒の使用量は、重合に用いる全単量体成分の濃度が、通常5〜30質量%、好ましくは7〜20質量%となる量である。
【0059】
重合開始剤として用いられる、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくともいずれかを含有する金属化合物の具体例としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等のアルキルリチウム;1,4−ジリチオブタン等のアルキレンジリチウムの他、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、リチウムナフタレン、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン、n−ブチルマグネシウム、n−ヘキシルマグネシウム、エトキシカルシウム、ステアリン酸カルシウム、t−ブトキシストロンチウム、エトキシバリウム、イソプロポキシバリウム、エチルメルカプトバリウムt−ブトキシバリウム、フェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ステアリン酸バリウム等を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、重合に用いる全単量体成分1gに対し、アルカリ金属原子とアルカリ土類金属原子の合計換算で、通常0.002〜0.1mmol、好ましくは0.005〜0.03mmolである。
【0060】
なお、上記の金属化合物を第二級アミン化合物又は第三級アミン化合物と反応させて得られる反応生成物を、重合開始剤として用いることも好ましい。第二級アミン化合物又は第三級アミン化合物と反応させる金属化合物としては、有機リチウム化合物が好ましく、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウムが更に好ましい。
【0061】
第二級アミン化合物の具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジ−(2−エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、N−メチルベンジルアミン、ジアリルアミン、モルホリン、ピペラジン、2,6−ジメチルモルホリン、2,6−ジメチルピペラジン、1−エチルピペラジン、2−メチルピペラジン、1−ベンジルピペラジン、ピペリジン、3,3−ジメチルピペリジン、2,6−ジメチルピペリジン、1−メチル−4−(メチルアミノ)ピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ピロリジン、2,5−ジメチルピロリジン、アゼチジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、5−ベンジルオキシインドール、3−アザスピロ[5,5]ウンデカン、3−アザビシクロ[3.2.2]ノナン、カルバゾール等を挙げることができる。
【0062】
また、第三級アミン化合物の具体例としては、N,N−ジメチル−o−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ベンジルジメチルアミン、ベンジルジエチルアミン、ベンジルジプロピルアミン、ベンジルジブチルアミン、(o−メチルベンジル)ジメチルアミン、(m−メチルベンジル)ジメチルアミン、(p−メチルベンジル)ジメチルアミン、N,N−テトラメチレン−o−トルイジン、N,N−ヘプタメチレン−o−トルイジン、N,N−ヘキサメチレン−o−トルイジン、N,N−トリメチレンベンジルアミン、N,N−テトラメチレンベンジルアミン、N,N−ヘキサメチレンベンジルアミン、N,N−テトラメチレン(o−メチルベンジル)アミン、N,N−テトラメチレン(p−メチルベンジル)アミン、N,N−ヘキサメチレン(o−メチルベンジル)アミン、N,N−ヘキサメチレン(p−メチルベンジル)アミン等を挙げることができる。
【0063】
共役ジエン化合物を含む単量体成分をアニオン重合に際しては、必要に応じて、得られる共役ジエン系重合体の共役ジエン部分のミクロ構造(ビニル結合含量)を調整可能な調整剤を反応系に添加することも好ましい。添加することのできる調整剤の具体例としては、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2−(ビステトラヒドロフルフリル)プロパン、ビステトラヒドロフルフリルホルマール、テトラヒドロフルフリルアルコールのメチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコールのエチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコールのブチルエーテル、α−メトキシテトラヒドロフラン、ジメトキシベンゼン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;トリエチルアミン、ピリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、N,N−ジエチルエタノールアミンのメチルエーテル、N,N−ジエチルエタノールアミンのエチルエーテル、N,N−ジエチルエタノールアミンのブチルエーテル等の第三級アミン化合物等を挙げることができる。これらの調整剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
また、共役ジエン化合物を含む単量体成分をアニオン重合に際しては、重合開始剤とともにカリウム化合物を反応系に添加することが、重合開始剤の反応性が向上するために好ましい。更には、このカリウム化合物を反応系に添加すると、単量体として芳香族ビニル化合物を用いる場合において、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位をランダムに配列させたり、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の単連鎖を結合させたりすることが容易になるために好ましい。
【0065】
反応系に添加することのできるカリウム化合物の具体例としては、カリウムイソプロポキシド、カリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−アミロキシド、カリウム−n−ヘプタオキシド、カリウムベンジルオキシド、カリウムフェノキシド等のカリウムアルコキシド;カリウムフェノキシド;イソバレリアン酸、カプリル酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレイン酸、安息香酸、フタル酸、2−エチルヘキサン酸等の有機酸のカリウム塩;ドデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸のカリウム塩;亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジラウリル等の有機亜リン酸部分エステルのカリウム塩等を挙げることができる。
【0066】
カリウム化合物の使用量は、重合開始剤に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計1グラム原子当量に対し、通常、0.005〜0.5molである。0.005mol未満であると、カリウム化合物の添加効果が十分に現れなくなる場合がある。一方、0.5mol超であると、重合活性が低下して生産性が低下する傾向にあるとともに、重合活性末端を変性する際の効率(変性効率)が低下する傾向にある。
【0067】
(工程(2))
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法には、上述の工程(1)の次に、共役ジエン系重合体の重合活性末端と、アルコキシシラン系化合物とを反応させた後、水素添加する工程(工程(2))が含まれる。工程(1)で形成された共役ジエン系重合体の重合活性末端にアルコキシシラン系化合物をカップリング反応させることによって、共役ジエン系重合体を変性させ、アルコキシシリル基がその主鎖に結合した変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0068】
カップリング反応に際しての温度は、通常、0〜120℃、好ましくは50〜100℃である。また、カップリング反応の反応時間は、通常、1〜30分、好ましくは5〜20分である。
【0069】
カップリング反応に用いるアルコキシシラン系化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラトルイロキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、アリルトリフェノキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリプロポキシクロロシラン、トリブトキシクロロシラン、トリフェノキシクロロシラン、ジメトキシジクロロシラン、ジプロポキシジクロロシラン、ジフェノキシジクロロシラン等を挙げることができる。これらのアルコキシシラン系化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
また、アルコキシシラン系化合物として、第一級アミノ基、又は保護基を有する第一級アミノ基をその分子構造中に有するアミノ基含有アルコキシシラン系化合物を用いることもできる。このアミノ基含有アルコキシシラン系化合物を共役ジエン系重合体の重合活性末端とカップリング反応させることにより、アルコキシシリル基以外にも、第一級アミノ基、又は保護基を有する第一級アミノ基がその主鎖に更に結合した変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0071】
アミノ基含有アルコキシシラン系化合物の具体例としては、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジエトキシシラン、1−トリメチルシリル−2,2−ジメトキシ−1−アザ−2−シラシクロペンタン、N,N−ジエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(トリエトキシシリルエチル)ピリジン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。これらのアミノ基含有アルコキシシラン系化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
アルコキシシラン系化合物(アミノ基含有アルコキシシラン系化合物を含む)の使用量は、重合開始剤に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計1グラム原子当量に対し、通常、0.05〜5mol、好ましくは0.1〜2molである。0.05mol未満であると、水添共役ジエン系重合ゴムの末端における変性基の量が不足し、動倍率が悪化する傾向にある。一方、5mol超であると、未反応の変性剤が共重合体中に残留し易くなり、動倍率が悪化する傾向にある。
【0073】
工程(2)においては、共役ジエン系重合体の重合活性末端とアルコキシシラン系化合物とを反応させた後、所定割合以上のビニル結合に対して水素を添加すべく水素添加を行う。水素添加する際の方法、反応条件については特に限定はない。通常は、20〜150℃、0.1〜10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で実施される。なお、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、反応時間等を変えることにより、任意に選定することができる。水添触媒として、通常は、元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を水添触媒として用いることができる。より具体的な水添触媒としては、には、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0074】
これらのうち、Ti、Zr、Hf、Co、Niのいずれかを含むメタロセン化合物は、不活性有機溶媒中、均一系で水添反応できる点で好ましい。更に、Ti、Zr、Hfのいずれかを含むメタロセン化合物が好ましい。特に、チタノセン化合物とアルキルリチウムとを反応させた水添触媒は、安価で工業的に特に有用な触媒であるので好ましい。具体的な例として、例えば、特開平1−275605号公報、特開平5−271326号公報、特開平5−271325号公報、特開平5−222115号公報、特開平11−292924号公報、特開2000−37632号公報、特開昭59−133203号公報、特開昭63−5401号公報、特開昭62−218403号公報、特開平7−90017号公報、特公昭43−19960号公報、特公昭47−40473号公報に記載の水添触媒を挙げることができる。なお、これらの水添触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
(工程(3))
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法には、上述の工程(2)の次に、前述のアルコキシル基含有化合物を反応系に添加して処理する工程が含まれる。なお、アルコキシル基含有化合物を反応系に添加するのは、生成した水添共役ジエン系重合ゴムを反応系(重合反応溶液)から取り出して乾燥する前の段階であればよい。従って、例えば、重合反応溶液にアルコキシル基含有化合物を直接添加してもよいし、或いは、スチームストリッピング法等の手法により脱溶媒するに先立ち、重合反応溶液と混合する水にアルコキシル基含有化合物を添加しておいてもよい。
【0076】
変性共役ジエン系重合体に対して水素添加した後、アルコキシル基含有化合物を反応系に添加して処理することにより、共役ジエン系重合体の主鎖に結合したアルコキシシリル基が、加水分解後にシラノール基となって縮合するのを抑制することができる。このため、得られる水添共役ジエン系重合ゴムのムーニー粘度を安定化させ、ムーニー粘度の経時変化の極めて小さい水添共役ジエン系重合ゴムを製造することができる。また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能な水添共役ジエン系重合ゴムを製造することができる。
【0077】
アルコキシル基含有化合物の添加量は、共役ジエン系重合体の重合活性末端と反応させるアルコキシシラン系化合物に対して、通常、0.1倍mol以上、好ましくは1倍mol(当mol)以上、更に好ましくは1〜15倍molである。0.1倍mol未満であると、得られる水添共役ジエン系重合ゴム(乾燥後)のムーニー粘度が高くなる傾向にあり、また、ムーニー粘度の経時変化を抑制する効果も不十分になる場合がある。なお、アルコキシル基含有化合物の添加量は、得られる水添共役ジエン系重合ゴム100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.05〜1質量部である。
【0078】
アルコキシル基含有化合物による処理を行った後、必要に応じて安定剤等を重合反応溶液に添加し、通常の溶液重合法で採用される方法、例えば、直接乾燥法やスチームストリッピング法によってゴムと溶剤を分離して洗浄し、次いで、真空乾燥機、熱風乾燥機、又はロール等を使用して乾燥処理すれば、目的とする水添共役ジエン系重合ゴムを単離することができる。なお、重合反応溶液には、必要に応じて、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等のゴム用伸展油や、重量平均分子量15万以下の液状ポリマー(又はその溶液)を添加してもよい。重合反応溶液にゴム用伸展油を添加した場合には、油展水添共役ジエン系重合ゴムを得ることができる。なお、ゴム用伸展油の使用量は、水添共役ジエン系重合ゴム100質量部に対して、通常、10〜100質量部である。
【0079】
3.水添共役ジエン系重合ゴム組成物:
次に、本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物の一実施形態について説明する。本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物は、前述の水添共役ジエン系重合ゴムと、フィラーとを所定の割合で含有するものである。
【0080】
(フィラー)
水添共役ジエン系重合ゴムとフィラーを配合することによって、得られる水添共役ジエン系重合ゴム組成物の強度を向上させることができる。なお、フィラーのサイズについては特に限定はなく、必要に応じて種々変更することができる。
【0081】
フィラーの含有量は、水添共役ジエン系重合ゴム100質量部に対して、5〜200質量部であり、好ましくは5〜100質量部であり、更に好ましくは5〜60質量部であり、特に好ましくは5〜40質量部である。フィラーの含有量を前記範囲内とすることにより、静動比を低下させ、防振性を向上させるといった効果が発揮される。好ましいフィラーとしては、シリカ、カーボンブラック、ガラスファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズ、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウイスカー、タルク、クレー、硫酸バリウム、ガラスフレーク、フッ素樹脂等を挙げることができる。なかでも、シリカ、カーボンブラック、ガラスファイバー、マイカ、チタン酸カリウムウイスカー、タルク、クレー、硫酸バリウム、ガラスフレーク、フッ素樹脂が好ましい。更には、シリカ、カーボンブラックが好ましく、シリカを含有させることがより好ましく、シリカとカーボンブラックの両者を含有させることが特に好ましい。
【0082】
シリカは、静動比の点から好ましい。また、カーボンブラックは、ゴム組成物、及び架橋ゴムの強度の点から好ましい。シリカには、湿式法ホワイトカーボン、乾式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ等の種類があるが、いずれも使用することができる。なかでも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。カーボンブラックには、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等の種類があるが、いずれも使用することができる。なかでも、ファーネスブラックが好ましく、より具体的には、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF、MT等が更に好ましい。
【0083】
また、ASTM D3037−81に準拠してBET法により測定したカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、特に限定されないが、架橋ゴムの引張強度等を十分に向上させるためには、5〜200m/gであることが好ましく、50〜150m/gであることが更に好ましく、80〜130m/gであることが特に好ましい。また、カーボンブラックのDBP吸着量も特に限定されないが、架橋ゴムの強度等を十分に向上させるためには、5〜300ml/100gであることが好ましく、50〜200ml/100gであることが更に好ましく、80〜160ml/100gであることが特に好ましい。
【0084】
(その他の成分)
本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物には、一種類の水添共役ジエン系重合ゴムが含有されていても、二種類以上の水添共役ジエン系重合ゴムが含有されていてもよい。また、本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、水添共役ジエン系重合ゴム以外のゴム成分を含有させてもよい。このようなゴム成分としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、及びハロゲン化ブチルゴム、並びにこれらの混合物等を挙げることができる。
【0085】
なお、本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物に含有される水添共役ジエン系重合ゴムの割合は、全ゴム成分中、20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0086】
また、本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、アミン化合物を含有させることができる。かかるアミン化合物を含有させることにより、フィラーの濡れ性を改良し、フィラーの水添共役ジエン系重合ゴム組成物中での分散性を向上させ、耐久性及び防振性を向上させることができるので好ましい。なお、アミン化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
アミン化合物は、アミノ基を含んでいれば、その構造については特に限定はなく、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンのいずれでもよい。また、アミノ基の数についても特に限定はなく、モノアミン、ジアミン、トリアミン、テトラアミン、ポリアミンでもよい。更に、アミン化合物の炭素数も特に限定はなく、通常は1〜20、好ましくは1〜15、更に好ましくは3〜15、特に好ましくは3〜10である。また、アルカノールアミン等のように、アミノ基以外の官能基を含んでいてもよい。アミン化合物の具体例としては、2−エチルヘキシルアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。
【0088】
アミン化合物の含有量についても特に限定はなく、必要に応じて種々の範囲とすることができる。アミン化合物の含有量は、水添共役ジエン系重合ゴム100質量部に対して、通常20質量部以下であり、0より大きく15質量部以下とすることが好ましく、0より大きく10質量部以下とすることが更に好ましく、0.01〜10質量部とすることがより好ましく、0.01〜8質量部とすることが特に好ましく、0.01〜5質量部とすることが最も好ましい。
【0089】
更に、本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。このような添加剤としては、例えば、補強剤、充填剤、架橋剤、架橋促進剤、及び架橋活性化剤等を挙げることができる。
【0090】
架橋剤としては、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等の硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄等のハロゲン化硫黄、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のキノンジオキシム、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリン等の有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂等を使用することができる。架橋剤はそれぞれの種類のうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。或いは、異なった種類のものを併用することもできる。架橋剤の使用量は、水添共役ジエン系重合ゴム(他のゴム成分を含む場合には、水添共役ジエン系重合ゴムと他のゴム成分の合計)100質量部に対して、0.1〜20質量部とすることが好ましく、0.5〜10質量部とすることが更に好ましい。この範囲の配合量であれば、架橋ゴムの引張強度等を十分に向上させることができる。
【0091】
架橋促進剤としては、以下の(a)〜(g)に代表される各種のものを使用することができる。
【0092】
(a)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系架橋促進剤。
【0093】
(b)ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系架橋促進剤。
【0094】
(c)チオカルボアニリド、ジオルトトリルチオウレア、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア等のチオウレア系架橋促進剤。
【0095】
(d)2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩、2−メルカプトベンゾチアゾールシクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール系架橋促進剤。
【0096】
(e)テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系架橋促進剤。
【0097】
(f)ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸セレン、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸鉄、ジエチルジチオカルバミン酸ジエチルアミン、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、メチルペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペコリン等のジチオカルバミン酸系架橋促進剤。
【0098】
(g)イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛等のキサントゲン酸系架橋促進剤。
【0099】
架橋促進剤は、それぞれの種類のうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。或いは、異なった種類のものを併用することもできる。架橋促進剤の使用量は、水添共役ジエン系重合ゴム(他のゴム成分を含む場合には、水添共役ジエン系重合ゴムと他のゴム成分の合計)100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることが更に好ましい。なお、架橋剤として有機過酸化物を使用し、これに少量(有機過酸化物100質量部に対して、好ましくは1〜5質量部、更に好ましくは2〜4質量部)の硫黄を架橋助剤として添加することもできる。
【0100】
架橋活性化剤としては、ステアリン酸等の高級脂肪酸、酸化亜鉛等を使用することができる。酸化亜鉛としては、表面活性が高く、数平均粒径が5μm以下のものが好ましい。そのような酸化亜鉛としては、数平均粒径が0.05〜0.2μmの活性亜鉛華、又は0.3〜1μmの亜鉛華等を挙げることができる。また、アミン系の分散剤又は湿潤剤により表面処理した酸化亜鉛等を使用することもできる。これらの架橋活性化剤は、それぞれの種類のうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。或いは、異なった種類のものを併用することもできる。架橋活性化剤の配合量は、その種類等により適宜設定することができる。
【0101】
(水添共役ジエン系重合ゴム組成物の製造方法)
本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物は、水添共役ジエン系重合ゴムとフィラーを定法に従って混合することにより製造することができる。なお、水添共役ジエン系重合ゴムとフィラーを加熱混合することが好ましい。加熱混合することにより、水添共役ジエン系重合ゴムのアルコキシシリル基とフィラーとの間に相互作用を生じさせ、得られる水添共役ジエン系重合ゴム組成物中におけるフィラーの分散性を向上させることができる。加熱混合する場合の条件については特に限定はなく、必要に応じて種々の条件とすることができる。
【0102】
加熱温度は、150〜220℃とすることが好ましく、150〜200℃とすることが更に好ましい。また、混合時間は10分以内とすることが好ましく、1〜5分とすることが更に好ましい。かかる範囲とすることにより、水添共役ジエン系重合ゴムのアルコキシシリル基とフィラー成分との相互作用が好適に進行し、静動比を向上させるとともに、高温時の物性、特に高温時の伸びと伸張疲労性を改善することができるので好ましい。また、混合方法としては、バンバリーミキサー、ミキシングロール等を用いて混合する方法等を挙げることができる。この段階で、必要に応じてその他の成分を添加し、混合してもよい。
【0103】
4.ゴム成形品:
次に、本発明のゴム成形品の一実施形態について説明する。本発明のゴム成形品は、前述の水添共役ジエン系重合ゴム組成物を架橋して得られる架橋ゴム組成物からなるものである。このため、本発明のゴム成形品は、良好な防振性及び伸びを示すものである。
【0104】
本発明の水添共役ジエン系重合ゴム組成物を使用してゴム成形品を製造するには、先ず、水添共役ジエン系重合ゴム組成物に対して、架橋剤(過酸化物等)、及び必要に応じて架橋助剤(硫黄等)等を添加し、配合ゴム組成物を得る。得られた配合ゴム組成物を所定形状に成形しつつ、水添共役ジエン系重合ゴム組成物に含有されるゴム成分(水添共役ジエン系重合ゴム)の架橋を行うことにより、本発明のゴム成形品を製造することができる。
【0105】
本発明のゴム成形品は、例えば、防振ゴム類;ダイヤフラム、ロール、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース類やホースカバー類;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O−リング、オイルシール等のシール類;ベルト、ライニング、ダストブーツ等として好適である。これまで述べてきたように、本発明の水添共役ジエン系重合ゴム、及び水添共役ジエン系重合ゴム組成物は、ムーニー粘度の経時変化が極めて小さく、また、長期間経過後に加硫した場合であっても、静動比の変化が極めて小さく、良好な防振性及び伸びを示す加硫ゴムを得ることが可能なものである。従って、これらの材料によって構成された本発明のゴム成形品は、防振ゴム部材として好適である。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0107】
[ビニル結合含量]:270MHzH−NMRにより測定した。
【0108】
[水添率]:四塩化エチレンを溶媒として使用し、100MHzH−NMRにより測定した。
【0109】
[ムーニー粘度(ML1+4,100℃)]:JIS K6300に準拠し、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件で求めた。
【0110】
[加熱促進試験]:製造した水添共役ジエン系重合ゴムを、温度85℃、湿度90%に調整した恒温槽中に1〜3日間放置した。
【0111】
[引張破断伸び(E)]:JIS K6251に準拠し、3号型試験片を使用して、測定温度23℃、引張速度500mm/minの条件で測定した。
【0112】
[動的弾性率]:JIS K6394に準拠し、ブロック状の試験片を使用して、動的歪1%、温度25℃の条件で70Hzでの動的弾性率を測定した。また、同様にして、動的歪10%、温度25℃の条件で0.1Hzでの動的弾性率を測定した。なお、測定に際しては、レオメトリック社製の粘弾性測定装置(商品名「ARESS」)を使用した。
【0113】
[静動比]:以下に示す式(8)により、静動比を算出した。
静動比=(70Hz時の動的弾性率)/(0.1Hz時の動的弾性率) ・・・(8)
【0114】
(実施例1)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン27.5kg、テトラヒドロフラン35.8g、n−ブチルリチウム1.25g、及び1,3−ブタジエン2500gを入れ、50℃から断熱重合を行った。重合が完結した後、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.92gを反応系内に添加して60分反応させた。水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給し、20分間撹拌し、未反応のポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。水素ガス供給圧力を0.7MPa−Gauge、反応溶液を90℃にし、チタノセンジクロリドを主体とする触媒を使用して水素添加反応を行った。水素の吸収量が目的の水添率となる積算量に達した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻した。オルトギ酸トリエチル15.1gを反応溶液に添加した後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール1.25gを更に添加した。スチームストリッピングにより脱溶媒を行った後、110℃に温度調整された熱ロールを使用して乾燥することにより、水添共役ジエン系重合ゴムを得た。なお、水添前重合体のビニル結合含量は38%であった。また、得られた水添共役ジエン系重合ゴムの水添率は91%、乾燥直後のムーニー粘度は35、加熱促進試験1日後のムーニー粘度は37、及び加熱促進試験3日後のムーニー粘度は40であった。
【0115】
(実施例2〜5、比較例1〜3)
表1に示す配合処方としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして水添共役ジエン系重合ゴムを得た。水添前重合体のビニル結合含量を表1に示す。また、水添共役ジエン系重合ゴムの水添率、並びに乾燥直後、加熱促進試験1日後、及び加熱促進試験3日後のムーニー粘度を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示すように、実施例1〜5で得た水添共役ジエン系重合ゴムのムーニー粘度は、
比較例1〜3で得た水添共役ジエン系重合ゴムのムーニー粘度に比して、加熱促進試験を3日間行った後であっても上昇割合が小さく、安定していることが明らかである。
【0118】
(実施例6)
実施例1で得た水添共役ジエン系重合ゴム(乾燥直後のもの)100部に対して、亜鉛華5部、ステアリン酸0.5部、シリカ30部、カップリング剤3部、SRFカーボン5部、及び軟化剤40部を添加し、容量250mlのプラストミルを使用して、150℃で5分間混練することにより混合物を得た。得られた混合物に対して、架橋剤5部、及び架橋助剤0.2部を添加し、オープンロールで50〜70℃、5分間混練することにより、配合ゴム組成物を得た。なお、各種配合成分としては、以下の(1)〜(9)に示すものを使用した。
【0119】
(1)亜鉛華:商品名「酸化亜鉛2種」(ハクスイテック社製)
(2)ステアリン酸:商品名「ルナックS30」(花王社製)
(3)シリカ:商品名「ニプシールER」(東ソー・シリカ社製)
(4)カップリング剤:商品名「TSL8370」(GE東芝シリコーン社製)
(5)SRFカーボン:商品名「シーストS」(東海カーボン社製)
(6)軟化剤:商品名「ダイアナプロセスPW90」(出光興産社製)
(7)架橋剤:商品名「パークミルD−40」(日本油脂社製)
(8)架橋助剤:商品名「イオウ」(鶴見化学工業社製)
【0120】
得られた配合ゴム組成物を、プレス成型機を使用して、170℃、150kgf/cmのプレス圧力下で20分間加熱し、厚さ2mmの試験片(加硫ゴムシート)を作製した。作製した試験片の引張破断伸び(E)は370%、及び静動比は1.33であった。
【0121】
(実施例7〜15、比較例4〜9)
表2に示す種類の水添共役ジエン系重合ゴムを用いたこと以外は、前述の実施例6と同様にして試験片(加硫ゴムシート)を作製した。作製した試験片の引張破断伸び(E)及び静動比の測定結果を表2に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
表2に示すように、実施例1〜5の水添共役ジエン系重合ゴムについては、乾燥直後と加熱促進試験3日後のいずれのゴムを材料として用いた場合であっても、良好な伸びを示すとともに、静動比の値についても大きな違いのない加硫ゴムシートを製造可能であることが明らかである(実施例6〜15参照)。一方、比較例1〜3の水添共役ジエン系重合ゴムについては、加熱促進試験3日後のゴムを材料として用いた場合には、乾燥直後のゴムを材料として用いた場合に比して、伸びが低下し易くなる傾向にあり、また、静動比の値も大きく変化することが明らかである(比較例4〜9参照)。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の水添共役ジエン系重合ゴムは、防振性及び伸びに優れたゴム成形品を作製可能なものである。従って、この水添共役ジエン系重合ゴムを用いて作製した本発明のゴム成形品は、防振性及び伸びに優れたものであり、例えば、エンジンマウント、マフラーハンガー等の防振ゴム類;ダイヤフラム、ロール、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース類やホースカバー類;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O−リング、オイルシール等のシール類;ベルト、ライニング、ダストブーツ等として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル結合の含有割合が20〜70%であり、アルコキシシリル基がその主鎖に結合した、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する変性共役ジエン系重合体の共役ジエン部分の50%以上が水素添加されたものであり、
同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合したアルコキシル基含有化合物に由来する残基を更に有する水添共役ジエン系重合ゴム。
【請求項2】
前記変性共役ジエン系重合体が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を更に有する請求項1に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
【請求項3】
保護されていてもよい第一級アミノ基が、その主鎖に更に結合している請求項1又は2に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
【請求項4】
前記アルコキシル基含有化合物が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される請求項1〜3のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
CH(OR ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、nは0〜2の整数を示し、mは0〜2の整数を示し、kは2〜4の整数を示し、n+m+k=4である)
【化1】

(前記一般式(2)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基を示し、dは2〜3の整数を示し、eは0〜1の整数を示し、fは0〜1の整数を示し、gは2〜3の整数を示し、hは0〜1の整数を示し、jは0〜1の整数を示し、d+e+f=3であり、g+h+j=3である)
【請求項5】
前記アルコキシル基含有化合物が、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリn−プロピル、1,1,3,3−テトラエトキシプロパン、及びジエトキシメタンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項4に記載の水添共役ジエン系重合ゴム。
【請求項6】
(1)炭化水素溶媒中、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくともいずれかを含有する金属化合物を重合開始剤として使用し、共役ジエン化合物を含む単量体成分をアニオン重合させて、重合活性末端を有する共役ジエン系重合体を形成する工程と、
(2)前記共役ジエン系重合体の前記重合活性末端と、アルコキシシラン系化合物とを反応させた後、水素添加する工程と、
(3)同一の炭素原子に2個以上のアルコキシル基が結合したアルコキシル基含有化合物を反応系に添加して処理する工程と、
を有する水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【請求項7】
前記単量体成分が、芳香族ビニル化合物を更に含む請求項6に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【請求項8】
前記アルコキシシラン系化合物が、保護されていてもよい第一級アミノ基をその分子構造中に有するものである請求項6又は7に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【請求項9】
前記アルコキシル基含有化合物が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される請求項6〜8のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
CH(OR ・・・(1)
(前記一般式(1)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、nは0〜2の整数を示し、mは0〜2の整数を示し、kは2〜4の整数を示し、n+m+k=4である)
【化2】

(前記一般式(2)中、R及びRは、相互に独立に、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、ビニル基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基を示し、dは2〜3の整数を示し、eは0〜1の整数を示し、fは0〜1の整数を示し、gは2〜3の整数を示し、hは0〜1の整数を示し、jは0〜1の整数を示し、d+e+f=3であり、g+h+j=3である)
【請求項10】
前記アルコキシル基含有化合物が、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリn−プロピル、1,1,3,3−テトラエトキシプロパン、及びジエトキシメタンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項9に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【請求項11】
前記単量体成分100質量部に対して、0.005質量部以上の前記アルコキシル基含有化合物を反応系に添加する請求項6〜10のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合ゴムの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の水添共役ジエン系重合ゴムと、フィラーとを含有し、
前記水添共役ジエン系重合ゴム100質量部に対する、前記フィラーの含有量が、5〜200質量部である水添共役ジエン系重合ゴム組成物。
【請求項13】
前記フィラーが、シリカ及びカーボンの少なくともいずれかである請求項12に記載の水添共役ジエン系重合ゴム組成物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の水添共役ジエン系重合ゴム組成物を架橋して得られる架橋ゴム組成物からなるゴム成形品。

【公開番号】特開2009−114297(P2009−114297A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288043(P2007−288043)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】