説明

水溶性シラン誘導体の製造方法

【課題】 生成物の分離精製が容易であり、さらには工業的に実用可能な90℃以下の温度条件下で行なうことのできる水溶性シラン誘導体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性シラン誘導体の製造方法、特に多価アルコールを置換した水溶性シラン誘導体の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシシランは、アルコキシ基の加水分解によりシラノール基を生成し、さらにその脱水縮合によってシリカを形成する。このため、アルコキシシランはゾル−ゲル法のシリカ前駆体として様々な用途に用いられている。従来、このようなアルコキシシランとして、テトラエトキシシランが広く用いられているが、これは水に不溶であり、水中に添加してもそのままでは加水分解反応が進行しないため、酸あるいはアルカリ水溶液中で用いられており、また、しばしば溶解補助剤としてエタノール等の水溶性有機溶媒を添加して用いられている。このため、水不溶性のテトラエトキシシランをシリカの前駆体として用いる場合、酸あるいはアルカリ、さらには有機溶媒の添加及び除去が必要とされ、プロセス上及びコスト上、さらには環境への負荷の観点からも望ましくなかった。
【0003】
これに対して、近年、多価アルコールを置換したシラン誘導体が報告されており、これは水溶性の化合物であるため、前述のような使用目的に対して非常に有用である。しかしながら、このような多価アルコール置換シラン誘導体の製造方法は、通常、テトラアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応によるものであり、塩酸やp−トルエンスルホン酸等の均一系触媒(溶媒に溶解させて用いる触媒)を用いて反応させるため、生成物中に触媒が溶解して残存してしまい、生成物と触媒との分離が非常に困難であるという問題があった。また、触媒を用いずに、100℃以上の高温条件下で反応させる方法も報告されているが、非常に高温で反応を行なうために実用性に乏しく、また高沸点溶媒の残存が懸念されるという問題があった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】PCT国際公開WO03/102001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、生成物の分離精製が容易であり、さらには工業的に実用可能な90℃以下の温度条件下で行なうことのできる水溶性シラン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来技術の課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、固体触媒の共存下、テトラアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応を行なうことによって水溶性シラン誘導体が生成することを見出した。そして、この製造方法によれば、生成物からの触媒の分離が非常に容易であり、さらには90℃以下の温度条件下で反応を行なうことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかる水溶性シラン誘導体の製造方法は、テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることを特徴とするものである。また、前記水溶性シラン誘導体の製造方法において、5〜90℃の温度条件下で反応させることが好適である。た、前記水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記固体触媒がイオン交換樹脂であることが好適である。また、前記水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記テトラアルコキシシランがテトラエトキシシランであることが好適である。また、前記水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記多価アルコールがエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかであることが好適である。また、前記水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記多価アルコールがエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのいずれかであり、5〜35℃の温度条件下で反応させることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる水溶性シラン誘導体の製造方法によれば、固体触媒を用いて反応を行なうことにより、生成物からの触媒の分離が容易である。さらに、工業的に実用可能な90℃以下の温度条件下で反応を行なうことができるため、実用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかる水溶性シラン誘導体の製造方法は、テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下、常温で反応させることを特徴とするものである。
本発明に用いられるテトラアルコキシシランは、ケイ素原子に4つのアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではない。本発明に用いられるテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び反応副生成物の安全性の点から、テトラエトキシシランを用いるのが最も好ましい。
【0010】
なお、本発明に用いられるテトラアルコキシシランの代替化合物として、モノ、ジ、トリハロゲン化アルコキシシラン、例えばモノクロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、モノブロモトリエトキシシラン等、あるいはテトラハロゲン化シラン、例えばテトラクロロシラン等を用いる事も考えられるが、これらの化合物は、多価アルコールとの反応において、塩化水素、臭化水素などの強酸を生成するため、反応装置の腐食が生じたり、さらには反応後の分離除去が困難であるため、実用的であるとは言い難い。このため、本発明にかかる水溶性シラン誘導体の製造方法においては、テトラアルコキシシランが用いられる。
【0011】
本発明に用いられる多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。本発明に用いられる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかを用いるのが好ましい。
【0012】
本発明に用いられる固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0013】
本発明において固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0014】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0015】
本発明において固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いられる固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0017】
また、本発明の製造方法において、反応の際の温度条件は特に限定されるものではないが、5〜90℃の温度条件下で行なうことが好ましい。90℃を超える温度条件下で反応を行なう場合、反応装置の耐久性等の実使用上の問題があり、さらに反応溶媒として高沸点溶媒を用いる必要があり、溶媒の完全な分離除去が困難となる。また、本発明の製造方法においては、常温条件下、すなわち5〜35℃の温度条件下で反応を行なうことがより好適である。ここで、常温条件下で反応を行なう場合には、多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのいずれかを用いることが好ましい。その他の多価アルコール、例えば、グリセリンを用いた場合には、常温条件下では反応生成物を生じない場合がある。
【0018】
なお、本発明においては、反応時に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0019】
以上説明した本発明の製造方法により、下記一般式(1)に示す水溶性シラン誘導体が得られる。
【化1】

(式中、R〜Rは、アルキル基、あるいは−R−OHで示される多価アルコール残基であり(Rはアルキレン基,直鎖又は分岐鎖のポリオキシアルキレン基、あるいは糖残基である。)、少なくとも1つが多価アルコール残基である。)
【0020】
なお、上記一般式(1)において、−R−OHで示される多価アルコール残基は、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、マルチトール等の多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。使用する多価アルコールの種類によって異なるが、例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、−CH−CH−OHとなる。
【0021】
また、R〜Rが多価アルコール残基である場合に、末端の−OH基が同一のSi原子あるいは連結したSi原子と連結した下記一般式(2)〜(4)に示す構造の水溶性シラン誘導体であってもよく、本発明の製造方法では、これらの水溶性シラン誘導体の混合物として得られる。
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
本発明の製造方法により得られる水溶性シラン誘導体としては、より具体的には、Si−(O−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CHOH−CH、Si−(O−CH−CHOH−CH−OH)等が挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法により得られる水溶性シラン誘導体は、水中での加水分解・脱水縮合反応により、ゲル状シリカと多価アルコールとを生成する。この性質により、例えば、クロマトグラフィー用の多孔質シリカの前駆体、無機又は有機化合物表面へのシリカコーティング剤、あるいは触媒や酵素等を構造中に固定化したシリカマトリックスの形成剤等に用いることができる。また、本発明により得られる水溶性シラン誘導体は、水に溶解するものであるため、加水分解・脱水縮合反応において酸・アルカリあるいは有機溶媒を用いる必要性が無く、さらに加水分解によってエチレングリコール等の多価アルコールを副生成するため、従来用いられてきたテトラエトキシシラン(エタノールを副生成)と比較して、人体に対する安全性の点で有用性が高い。
【実施例1】
【0026】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0027】
本発明者らは、まず最初に、テトラエトキシシランとエチレングリコールを用い、各種条件にて、エチレングリコールを置換したシラン誘導体の調製を試みた。
エチレングリコール置換シラン誘導体
比較例1
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)とエチレングリコール24.9g(0.4モル)を混合攪拌した。静置状態では完全に二層に分離していた。これを無溶媒、無触媒にて、室温で24時間激しく攪拌したが、反応は全く起こらなかった。
【0028】
比較例2
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)と、エチレングリコール24.9g(0.4モル)とをトルエン80ml中に添加し、無触媒にて24時間加熱還流したが、共沸によるエタノールの生成は認められず、反応は全く起こらなかった。
【0029】
実施例1
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)と、エチレングリコール24.9g(0.4モル)とをアセトニトリル150ml中に添加し、さらに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.8gを添加した後、室温で混合攪拌した。当初、二層に分離していた反応液は約一時間後に均一に溶解した。その後、5日間攪拌を続けた後、固体触媒をろ過分離し、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体39gを得た。H−NMR分析の結果、生成物が目的とするエチレングリコール置換体(テトラ(2−ヒドロキシエトキシ)シラン)であることを確認した(収率:72.5%)。生成物のH−NMR測定結果を図1に示す。
【0030】
実施例2
テトラエトキシシラン4.19g(0.02モル)と、エチレングリコール4.97g(0.08モル)とをアセトニトリル50ml中に添加し、さらに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)0.5gを添加した後、室温で48時間混合攪拌した。固体触媒をろ過分離した後、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体4.0gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:73%)。
【0031】
実施例3
テトラエトキシシラン41.7g(0.2モル)と、エチレングリコール49.7g(0.8モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.08gを添加した後、85℃で混合攪拌した。当初、反応液は二層に分離し、攪拌により乳濁状を呈していたが、その後、一層透明溶液となった。4時間反応を続けた後、固体触媒をろ過分離した。終夜室温で静置した後、エタノールを減圧下留去して、透明の粘性液体47.6gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:87%)。
【0032】
実施例4
テトラエトキシシラン41.7g(0.2モル)と、エチレングリコール49.7g(0.8モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(アンバーライトCG−120:ロームアンドハース社製)1gを添加した後、85℃で混合攪拌した。当初、反応液は二層に分離し、攪拌により乳濁状を呈していたが、その後、一層透明溶液となった。4時間反応を続けた後、固体触媒をろ過分離した。終夜室温で静置した後、エタノールを減圧下留去して、透明の粘性液体47.6gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:87%)。
【0033】
上記比較例1,2より、触媒を用いない場合には、常温あるいは加熱条件下であっても置換反応は全く起こらず、エチレングリコール置換シラン誘導体を得ることはできなかった。
これに対して、固体触媒としてイオン交換樹脂を用いた実施例1〜4においては、高い収率でエチレングリコール置換体を得ることができた。また、反応終了後、ろ過により固体触媒を容易に分離することができた。さらに実施例1,2においては、常温条件下であるにもかかわらず、エチレングリコール置換シラン誘導体を調製できることが確認された。
【0034】
つづいて、本発明者らは、各種の多価アルコール(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びグリセリン)を用いて、同様に多価アルコール置換シラン誘導体の調製を試みた。
プロピレングリコール置換シラン誘導体
比較例3
テトラエトキシシラン11.7g(0.085モル)とプロピレングリコール12.09g(0.16モル)とをトルエン100ml中に添加、攪拌した。静置状態では完全に二層に分離していた。これを無溶媒、無触媒にて、加熱還流条件下で24時間激しく攪拌したが、反応は全く起こらなかった。
【0035】
実施例5
テトラエトキシシラン11.7g(0.056モル)とプロピレングリコール12.01g(0.16モル;TEOSに対して2.9倍モル)とをアセトニトリル100ml中に添加し、透明一層の溶液を得た。これに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)0.8gを添加した後、室温で30時間混合攪拌した。固体触媒をろ過分離し、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明のカラメル状物質14.5gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:86%)。
【0036】
実施例6
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)とプロピレングリコール30.6g(0.4モル)とをアセトニトリル20ml中に添加し、透明一層の溶液を得た。これに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gを添加した後、室温で75時間混合攪拌した。固体触媒をろ過分離し、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体33.2gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:99%)。
【0037】
実施例7
アセトニトリル102.8gに、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.03gを添加した。これにテトラエトキシシラン41.8g(0.2モル)を溶解し、攪拌下にプロピレングリコール59.8g(0.8モル)を室温で約2時間かけて滴下した。その後、室温で1時間攪拌混合した。得られた透明溶液を終夜室温で静置した後、固体触媒をろ過分離し、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体69.0gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(残留溶媒を含むため、理論収量65gを上回った)。
【0038】
実施例8
プロピレングリコール120.3g(1.6モル)に、テトラエトキシシラン83.2g(0.4モル)を添加した。これに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)2.0gを添加した後、無溶媒下、室温で約5時間混合攪拌した。得られた透明溶液を終夜室温で静置した後、固体触媒をろ過分離し、エタノールを減圧下留去して、透明の粘性液体140gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(残留溶媒を含むため、理論収量130gを上回った)。
【0039】
1,3−ブチレングリコール置換シラン誘導体
実施例9
アセトニトリル55gに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.1gを添加し、テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)を溶解した。これに1,3−ブチレングリコール36.2g(0.4モル)を添加した後、室温で75時間攪拌混合した。約5時間経過した後、溶液がやや白濁し、若干の粘度上昇が認められた。75時間反応させた後、固体触媒をろ過分離し、次いでエタノールとアセトニトリルを減圧留去して、透明流動性の液体37.7gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:97%)。
【0040】
実施例10
アセトニトリル80gに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)0.5gを添加し、1,3−ブチレングリコール72.2g(0.8モル)を溶解した。この際、若干の吸熱が認められた。これにテトラエトキシシラン41.7g(0.2モル)とアセトニトリル30gとを加え、室温で50時間攪拌混合した。反応後、固体触媒をろ過分離し、次いでエタノールとアセトニトリルを減圧留去して、透明流動性の液体75.6gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(収率:98%)。
【0041】
上記実施例5〜10より、多価アルコールとしてエチレングリコール、プロピレングリコール、及びブチレングリコールを用いた場合、固体触媒を用いることにより、高い収率で多価アルコール置換シラン誘導体を得ることができた。また、反応終了後、ろ過により固体触媒を容易に分離することができた。さらに常温条件下であるにもかかわらず、これらの各種多価アルコールを置換した水溶性のシラン誘導体を調製できることが明らかとなった。
【0042】
グリセリン置換シラン誘導体
実施例11
アセトニトリル100gにグリセリン36.9g(0.4モル)を添加した後、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)0.6gを添加、混合した。次いでテトラエトキシシラン20.9g(0.1モル)を加え、室温で攪拌した。液は二層に分離し、強い攪拌で白濁状態となった。終夜室温で攪拌混合したが変化は認められず、オイルバス中にて温度を85℃に設定し、加熱還流下さらに48時間攪拌した。冷却後、固体触媒をろ過分離し、次いでエタノールとアセトニトリルを減圧留去したところ、生成物は二層に分離した。さらに両者を分離静置したところ、上層の生成物は少量の透明液体と白色ペースト状液体(6.6g)に分離した。下層の透明粘性液体の収量は22.9gであった。上層から分離した透明液体は水に溶解せず、ゲルの生成も認められなかった。一方で、上層からの白色ペースト状の生成物、及び下層の透明粘性液体は、同量の水と室温中で混合することにより、均一で透明なゲルを形成した(白色ペースト状生成物及び下層生成物の収率:75%)。
【0043】
実施例12
テトラエトキシシラン60.1g(0.28モル)と、グリセリン106.33g(1.16モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.1gを添加した後、85℃で混合攪拌した。約3時間の後、混合物は一層透明溶液となった。さらに5時間30分反応を続けた後、得られた溶液を終夜静置した。減圧下、固体触媒をろ過分離した後、少量のエタノールで洗浄した。さらにこの溶液からエタノールを留去して、透明の粘性液体112gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、やや発熱し、均一で透明なゲルを形成した(収率:97%)。
【0044】
上記実施例11,12より、多価アルコールとしてグリセリンを用いた場合、固体触媒を用いることによって、高い収率でグリセリン置換シラン誘導体を得ることができた。また、反応終了後、ろ過により固体触媒を容易に分離することができた。
【0045】
多価アルコール置換シラン誘導体の溶解性
つづいて、本発明者らは、以上のようにして得られた多価アルコール置換シラン誘導体について、各種溶媒への溶解性の評価を行なった。結果を下記表1に示す。
なお、溶解度の評価は、多価アルコール置換シラン誘導体が5質量%となるように各種溶媒中に添加し、室温で混合攪拌、静置した後、状態を目視にて評価した。評価基準は以下の通りである。
○:完全溶解
△:部分溶解
×:不溶
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1より、本発明により得られた多価アルコール置換シラン誘導体は、いずれも水への溶解性に優れていることが確認された。また、プロピレングリコール置換体、及び1,3−ブチレングリコール置換体においては、他の有機溶媒に対しても優れた溶解性を示すことが明らかとなった。
【0048】
多価アルコール置換シラン誘導体のゲル化能
本発明者らは、上記多価アルコール置換シラン誘導体の水中でのゲル化能について検討するため、1,3−ブチレングリコール置換体とグリセリン置換体を用い、それぞれのゲル化の進行状態について、目視で評価を行なった。
なお、ゲル化能の評価は、多価アルコール置換シラン誘導体が各種濃度となるように、水あるいはKGM培地に添加し、室温で混合攪拌、静置した後、状態を目視にて評価した。結果を下記表2及び表3に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
上記表2,3より、本発明により得られる多価アルコール置換シラン誘導体は、水溶性であるため、水あるいは水系の媒体中に添加するだけで、容易に系をゲル化することができる。さらに、シラン誘導体の添加濃度を変えることで、系の固さを適宜調整することも可能である。
また、本発明により得られる多価アルコール置換シラン誘導体は、従来の水不溶性のシリル化化合物(例えば、テトラエトキシシラン)のように、酸やアルカリ、あるいは有機溶媒の添加及び除去の必要が無く、プロセス上及びコスト上、さらには環境への負荷の観点から、非常に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1により得られたエチレングリコール置換シラン誘導体(テトラ(2−ヒドロキシエトキシ)シラン)のH−NMR測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性シラン誘導体の製造方法において、5〜90℃の温度条件下で反応させることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記固体触媒がイオン交換樹脂であることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記テトラアルコキシシランがテトラエトキシシランであることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記多価アルコールがエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかであることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の水溶性シラン誘導体の製造方法において、前記多価アルコールがエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのいずれかであり、5〜35℃の温度条件下で反応させることを特徴とする水溶性シラン誘導体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−70353(P2007−70353A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219900(P2006−219900)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】