説明

水溶性ポテトペプチドを含む、生活習慣病の予防食品又は生活習慣病の改善食品

【課題】 不適切な食生活又は運動不足に起因する生活習慣病を予防又は改善する作用を有する食品素材の提供
【解決手段】 水溶性ポテトペプチドを含む、生活習慣病の予防食品又は生活習慣病の改善食品

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポテトペプチドの機能性食品としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病には、さまざまな病気や症状があり、どんな病気が発症するか、また発症後にどのような速さで進行するかは、個人の体質や生活習慣によって異なる。生活習慣病の恐ろしい点は、その多くが長い期間にわたって自覚症状がほとんどなく、知らず知らずのうちに症状が進行していくことであり、たとえば、「高脂血症」「高血圧」「糖尿病」を挙げることができる。これらの病気は、そのまま放置しておくと、たとえば「動脈硬化」という血管の不調を引き起こし、やがて心臓病や脳卒中などの生命に関わる重大な病気につながる危険性が高まる。また、この3つの病気は単独で発症することもあるが、それぞれが原因とも結果ともなることで合併症を誘発することもあり、そうなると治療は困難の度合いを増し、いわゆる「生活の質(QOL)」を極端に引き下げることになる。
【0003】
したがって、高血糖、高インスリン血症、高脂血症等の生活習慣病発症のリスクファクターを改善するような生理機能性を有する食品成分の開発が広く待ち望まれている。
【0004】
ダイズタンパク質は、血中のコレステロールやトリグリセリド濃度を低下させる脂質代謝調節作用を有することが古くから知られている。また、ジャガイモ由来のペプチド混合物(ポテトペプチド)がアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有することも知られている(特許文献1)。しかし、ポテトペプチドの別の生理機能は知られていなかった。
【特許文献1】特開2000−4799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不適切な食生活又は運動不足に起因する生活習慣病を予防又は改善する作用を有する食品素材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、水溶性ポテトペプチドが、生活習慣病を予防又は改善する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、水溶性ポテトペプチドを含む、生活習慣病の予防食品又は生活習慣病の改善食品に関する。
【0007】
すなわち、本発明の水溶性ポテトペプチドは、ジャガイモ由来タンパク質をタンパク質分解酵素で消化して得ることができる。本発明の水溶性ポテトペプチドの分子量は、最大10kDaである。
【0008】
本発明の水溶性ポテトペプチドの製造原料であるポテトプロテインとしては、馬鈴薯でん粉製造時に副成するポテトプロテインなど、従来公知のポテトプロテインであればどのようなものでも使用することができる。
【0009】
本発明の水溶性ポテトペプチドは、ポテトプロテインを、タンパク質分解酵素で処理することによって得ることができる。タンパク質分解酵素は、任意の従来公知のタンパク質分解酵素を用いることができるが、好ましくは、「アルカラーゼ2.4L」(登録商標)や「フレーバーザイム」(登録商標)(ノボノルディスクインダストリー)を用いることができる。
【0010】
本発明におけるポテトプロテインを原料に用いた水溶性ペプチドの製造においては、まずポテトプロテインの5〜15重量%の水懸濁液にアルカリ剤、好ましくは、水酸化ナトリウムを加えてpHを6.0〜12.0、好ましくは7.5〜8.0に調節する。
【0011】
pHを調節後80〜90℃に加熱することが、雑菌の混入防止及びポテトペプチドの変性による酵素反応促進の面から望ましい。
【0012】
「アルカラーゼ2.4L」(登録商標)は、40〜60℃、好ましくは50〜55℃で作用させる。pHが7付近まで低下した時点で、「フレーバーザイム」(登録商標)を添加して、これらの酵素を継続的に作用させる。
【0013】
アルカリを加えてpH7.5〜8.0に調節した10重量%のポテトペプチドの水懸濁液を酵素処理する場合、まず80〜90℃に加熱後液温を50℃まで冷却し、「アルカラーゼ2.4L」をポテトプロテイン1kgあたり、10アンソン単位以上添加して50℃で1〜5時間反応させpHが7付近まで低下させ、続いて「フレーバザイムL」をポテトプロテイン1kgあたり1500u(ユニット)以上添加し、さらに50℃で15時間以上反応させることにより、本発明の水溶性ポテトペプチドを得ることができる。
【0014】
酵素処理後の反応液を80℃以上に加熱し、反応液中の酵素を失活させた後、反応液中の不溶分を濾過によって除去する。得られた濾液中にはポテトペプチド中に混在する馬鈴薯特有のポリフェノールが含まれているため、濾液は緑がかった暗色を呈しており、このままでは外観上多様な用途に好ましく適用することができないことから、さらに精製することが望ましい。混在するポリフェノールは、微量金属、特に鉄と反応して呈色している場合が多く、活性炭による吸着脱色はほとんど効果がない。
【0015】
そこで、イオン交換樹脂を利用すると、緑がかった暗色が除かれて、淡褐色の液が得られ、この液に少量の活性炭を加えて濾過すると、ほとんど無色に精製することができる。
【0016】
このようにして得られた精製液を噴霧乾燥することにより、白〜淡黄色の粉末状の本発明の水溶性ポテトペプチドが高収率で得られる。得られた水溶性ポテトペプチドの分子量分布は、分子量100〜500のペプチドが約20〜30%、分子量500〜3000のペプチドが約70〜80%である。また、この水溶性ポテトペプチドをゲル濾過剤を用いて分画処理することにより所望の画分を得ることができる。
【0017】
本発明の食品素材は、上記本発明に係るペプチド混合物を含むものであり、不適切な食生活または運動不足に起因する生活習慣病を予防および改善する作用を有する。上記生活習慣病としては、肥満、高脂血症、高血圧症または糖尿病の少なくともいずれかであればよい。
【0018】
本発明の機能性食品は、上記本発明に係るポテトペプチドを含むものであればよい。したがって、当該ポテトペプチドのみからなる食品でもよく、当該ポテトペプチド以外の成分を含む食品でもよい。本発明のポテトペプチド以外の成分としては、脂質代謝調節作用を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、当該ポテトペプチド以外のジャガイモ成分、植物および動物性タンパク質、炭水化物、食物線維、脂質、各種ビタミン、ミネラル類等を挙げることができる。食品の形状についても特に限定されるものではなく、固体状、液体状、粉末状、ペースト状等様々な形状とすることができる。
【0019】
本発明の機能性食品素材は、上記ポテトペプチドを含むものであるため、脂質代謝改善効果を有している食品である。したがって、当該食品は、不適切な食生活または運動不足に起因する生活習慣病を予防および改善する作用を有する。上記不適切な食生活または運動不足に起因する生活習慣病としては、肥満、高脂血症、高血圧症、糖尿病を挙げることができ、本発明の食品は肥満、高脂血症、高血圧症または糖尿病の少なくともいずれかを予防および改善する作用を有する。また、この生活習慣病予防改善効果は、具体的には
血中HDLコレステロール濃度の上昇、血中LDLコレステロール濃度の減少、血中中性脂肪濃度の低下の少なくともいずれかの作用、すなわち脂質代謝調節作用により得られる効果である。
【0020】
本発明に係る食品の具体例としては、例えば、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)として本発明に係る食品素材を含む錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等を挙げることができる。これ以外に、当該食品素材を含む調味料、菓子、パン、惣菜、飲料水等を挙げることができる。
【0021】
本発明に係る食品素材および食品、並びに医薬品はヒトを対象とするものであることはいうまでもないが、ヒトに限定されるものではなく、広く動物全般を対象とすることができる。特に、不適切な食生活や運動不足に陥っているイヌやネコ等の愛玩動物は対象として好適である。
【0022】
また、本発明は、本発明に係るペプチド混合物を含み、肥満、高脂血症、高血圧症または糖尿病の少なくともいずれかを予防および改善する作用を有する医薬品にも関する。当該ペプチド混合物以外に含まれる成分としては、特に限定されるものではない。本発明の医薬品は経口的に投与できる剤形であることが好ましい。具体的には、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤、シロップ剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0023】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
実施例1(ポテトペプチドの製造)
ポテトプロテイン450kgに水4500L及び水酸化ナトリウム2kgを加え、50℃で10分間攪拌して懸濁させた。この懸濁液を10分間放置し、上清約3000Lを廃棄し、新たに水約3000Lを加え、50℃で10分間攪拌して懸濁させ、この懸濁液を10分間放置した。この懸濁液を10分間放置し、上清約3000Lを廃棄し、新たに水約3000Lを加えた。この懸濁液を90〜95℃で15分間加熱することによって、懸濁液を殺菌した。次いで、水2000Lを加えた。
【0025】
これに「アルカラーゼ2.4L」3gを加えて、攪拌しながら50〜52℃で4時間反応させたところ、反応液のpHは6.9であった。この反応液に、「フレーバザイム1000L」)0.75gを加え、攪拌しながら50〜52℃で、16時間反応させた。反応終了後、90〜95℃に加熱し15分間保持して酵素を失活させて18時間静置放冷した。放冷後の反応液は、上澄部分が約1/3で、残余は軽質のコロイド様の不溶分であり、またそのpHは6.8であった。
【0026】
上記放冷後の反応液に濾過助剤としてケイソウ土105kgを加えて15分間攪拌した後吸引濾過して、残渣を水洗し、黒ずんだ灰褐色の濾液700mlを得た。濾液を攪拌しながら酢酸1.2mlを加えてpH5.5に調整し、活性炭20gを加えて15分間攪拌した後吸引濾過し、残渣を水洗して濾液740mlが得られたが、濾過途中から清澄だったものが徐々に黒ずんだ灰色に変わり、かつ、わずかに濁りを生じていた。この濾液を200mlになるまで減圧濃縮した後、凍結乾燥して灰色の乾燥物113kgを得た。この乾燥物は水分0.83重量%、強熱残分4.3重量%、全窒素12.3重量%であった。
【0027】
実施例2(ラットへの影響)
使用動物:7週齢のF344/DuCrj雄ラット15匹を日本チャールズリバー株式会社から購入した。飼育条件は、室温23±1℃、湿度60±5%、明暗周期12時間(明07:00、暗19:00)とした。ラットはプラスチックケージ内で個別に飼育した。ラットは、Guide of the Care and Use of Laboratory Animalsに従って飼育した。
【0028】
順化及び投与:AIN93Gを基本とし,試験食は20%ポテトペプチド投与群、10%ポテトペプチド+10%カゼインタンパク質投与群、20%大豆ペプチド投与群、10%大豆ペプチド+10%カゼインタンパク質投与群及び10%ポテトタンパク質+10%カゼインタンパク質投与群について4週間経口投与した。対照群では20%カゼインタンパク質を経口投与した。投与期間終了後、ラットをネンブタール麻酔により殺して,迅速に心臓採血し、肝臓及び盲腸を摘出した。摘出した肝臓及び盲腸を冷生理食塩水で洗浄し、乾燥した濾紙で水分を除去して重量を測定した後、−80℃で凍結保存した。
【0029】
【表1】

【0030】
血清脂質(測定方法及び結果)
血漿総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロール、VLDL−コレステロール、中性脂肪を測定した。血漿総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロールおよびVLDL−コレステロールは酵素法(コレステロールオキシダーゼ・DAOD法)で、中性脂肪は酵素法(クリニメイトTG−2試薬キット、第一化学薬品)により測定した。VLDL+IDL+LDLコレステロール濃度を総コレステロール濃度とHDLコレステロール濃度の差から求めた。それぞれのデータは平均値±標準偏差で表した。データ間の有意差検定はダンカンの多重検定で行った。
【0031】
盲腸重量及び糞便脂質(測定方法及び結果)
糞便中の中性ステロール、胆汁酸、および肝臓コレステロールをGrundyらの方法で測定した。
【0032】
結果
1)体重、摂食量、肝臓重量及び盲腸重量
表1に投与期間中のラットの体重増加量、摂食量、肝臓重量及び盲腸重量を示した。体重増加量は、20%ポテトペプチド投与群において対照群と比較して有意に少ない値を示した。しかし、その他の投与群では対照群との比較で有意な差は見られなかった。また、摂食量に関しても、20%ポテトペプチド投与群では、対照群と比較して有意に少なく、10%ポテトペプチド投与群でも少ない値を示す傾向が見られた。その他の投与群においては対照群と比較して有意な差は見られなかった。食餌効率では20%ポテトペプチド投与群で対照群と比べて値が低い傾向が見られたが、その他の投与群では有意な差は見られないか、増加傾向もしくは有意な増加が見られた。肝臓重量は各投与群間で有意な差は見られなかったが、盲腸重量においては20%ポテトペプチド投与群及び10%ポテトタンパク質投与群で有意に増加しており、10%ポテトペプチド投与群及び10%大豆ペプチド投与群でも増加する傾向が見られた。
【0033】
【表2】

【0034】
2)血清脂質濃度の変動
図1に血清脂質濃度の変動を示した。血清総コレステロール濃度では20%ポテトペプチド投与群では対照群と比較して、投与2週目から低い値を示す傾向が見られた。20%大豆ペプチド投与群では投与期間後半で有意に低下した。しかしながら、10%ポテトペプチド投与群、10%大豆ペプチド投与群及び10%ポテトタンパク質投与群では対照群と同様な挙動を示していた。
【0035】
血清HDL−コレステロール濃度では20%ポテトペプチド投与群では投与期間を通して常に他の投与群と比較して有意に増加しており、10%ポテトペプチド投与群でも2週目から対照群と比較して増加する傾向が見られ、4週目では有意に増加していた。しかし、20%及び10%大豆ペプチド投与群及び10%ポテトタンパク質投与群では対照群との有意な差はみられなかった。
【0036】
血清VLDL+IDL+LDL−コレステロール濃度では20%ポテトペプチド投与群では対照群と比較して、投与期間を通して常に有意に低い値を示した。また20%大豆ペプチド投与群でも、20%ポテトペプチド投与群ほどではないが同じような傾向で低い値を示した。10%大豆ペプチド投与群、10%ポテトタンパク質投与群及び10%ポテトペプチド投与群では対照群と比較して有意な差はみられなかった。
【0037】
血清中性脂肪濃度では20%ポテトペプチド投与群では2週目から対照群と比較して有意に低い値を示した。また、10%ポテトタンパク質投与群でも2週目から対照群と比較して減少する傾向が見られ、4週目では有意に低い値を示した。しかし、20%及び10%大豆ペプチド投与群では対照群と比較して有意な差はみられなかった。
【0038】
3)各組織における脂質濃度
表2に投与最終日の各組織における脂質濃度を示した。肝臓ではコレステロール濃度は各投与群において有意な差は見られなかった。しかし、全脂質濃度は20%及び10%大豆ペプチド投与群、10%ポテトタンパク質投与群において対照群と比較して有意に低下していた。また、20%及び10%ポテトペプチド投与群では対照群と比較して有意な差は認められなかった。
【0039】
【表3】

【0040】
糞便中の全脂質排泄量では対照群に比べて20%大豆ペプチド投与群及び20%ポテトペプチド投与群で有意に排泄を増加しており、特に20%ポテトペプチド投与群では最も排泄を増加させていた。また、中性ステロール排泄では、コプロスタノール排泄が20%ポテトペプチド投与群及び10%ポテトタンパク質投与群において対照群と比較して有意に増加していた。コレステロール排泄はいずれの投与群においても有意な差はみられなかった。
【0041】
糞便中への胆汁酸排泄量では、20%大豆ペプチド投与群で他の投与群に比べ有意に排泄を増加させていた。その他の投与群間では差はみられなかった。
【0042】
今回我々が用いたポテトペプチドはアミノ酸配列を決定していないが、大豆ペプチドと比較してアミノ酸組成が非常に類似していた(表3)。そのため、大豆ペプチドと同様な効果が期待できた。事実、糞便中への脂質排泄が増加することによって血清のVLDL+IDL+LDL−コレステロール濃度及び中性脂肪濃度をカゼインタンパク質投与より有意に低下させる結果となった。さらにポテトペプチドでは大豆ペプチドと異なる作用として、血清HDL−コレステロール濃度の有意な上昇作用がみられた。ラットの場合、血液内の主要なコレステロール輸送体はHDLであるため、LDLが低下したことによりHDLが相対的に増加した可能性が考えられる。
【0043】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0044】
得られたポテトペプチドは水溶性であることから、加工し易く、オリゴアミノ酸であることから、呈味性が強く、お菓子、タレ等の味の強化剤として利用することができる。また、機能性を生かした健康食品用素材として利用することができ、食素材として幅広い用途を有する。
【0045】
本発明の食品は、不適切な食生活又は運動不足に起因する生活習慣病を予防又は改善のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】水溶性ポテトペプチド投与ラットの血清脂質への影響

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポテトペプチドを含む、生活習慣病の予防食品又は生活習慣病の改善食品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−295832(P2007−295832A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125677(P2006−125677)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(596075417)財団法人十勝圏振興機構 (20)
【Fターム(参考)】