説明

水溶性ポリサッカライドの脱重合

ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を水性媒体に添加することを含む、1,000mPa.s以下の粘度を有するポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの溶液を製造する方法。また、ポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を含む固体組成物も開示される。好ましくは、脱重合剤が、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩基と組み合わせた過酸化カルバミド、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウム、塩基と組み合わせた3−クロロパーオキシ安息香酸およびそれらの混合物から成る群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,000mPa.s以下の粘度を有するポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの溶液を製造する方法およびポリサッカライドエーテルを含む固体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量の水溶性ポリサッカライド、特に水溶性ポリサッカライドエーテル、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース(しばしば、カルボキシメチルセルロースと呼ばれる)は、種々の用途において、例えば製紙業、および鉱物分離のための泡沫浮遊選鉱において使用される。紙の用途に関して、特に薄葉紙(tissue)業では、高い固形含量を有する、低粘性カルボキシメチルセルロース含有組成物の要求がある。そのような組成物は、低分子量の水溶性ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルからのみ製造され得る。泡沫浮遊選鉱は、役に立たない脈石鉱物から貴金属を分離する鉱物高品位化のために通常使用される方法である。低分子量ポリサッカライドおよびポリサッカライドエーテル、例えば低粘性カルボキシメチルセルロースは、上記脈石鉱物の降下(depressing)において、高分子量ポリサッカライドよりも有効であると考えられる。
【0003】
低分子量ポリサッカライドは、より高分子量のポリサッカライドから、分子量を低下させることによって得られ得る。低分子量の水溶性ポリサッカライドエーテルは、ポリサッカライドエーテルの製造のための出発物質を適切に選択することによって得ることができ、またはより高分子量のポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルから、その合成中または後に分子量を低下させることにより製造することができる。
【0004】
従来技術では、ポリサッカライドおよびポリサッカライドエーテルの分子量を低下させるために、水性過酸化水素溶液が一般に使用される。例えば、米国特許第6,054,511号は、高固形分で低粘性の水性ポリサッカライド組成物の製造法を開示しており、上記方法は、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルを過酸化水素と徐々にまたは連続して反応させて、5重量%より高い固形含量および9,500mPa.sより下の粘度(25℃)を有する水性組成物を製造することを含む。好ましくは、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの脱重合のために、30〜50%の水性過酸化水素溶液が使用される。
【0005】
欧州特許EP0136722号は、腸のコーティングでの使用に適するカルボキシメチルエチエルセルロースの製造法を開示している。上記方法は、カルボキシメチルエチルセルロースを塩基性化合物の水性溶液中に溶解し、そしてその溶液に過酸化物を添加することによってカルボキシメチルエチルセルロースを脱重合することを含む。脱重合の後、得られた塩基性溶液は酸で中和される。塩基性化合物の好ましい例は、アンモニア、水溶性アミンおよびアルカリ金属水酸化物である。好ましい水溶性過酸化物は過酸化水素である。脱重合は、エステル結合の数を減少させるために、すなわちエステル化度を低下させるために、塩基性化合物の存在下で行われる。
【0006】
過酸化水素を使用することの欠点は、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの脱重合に数時間を要し、典型的には、米国特許第6,054,511号の実施例では約4〜7時間を要することである。欧州特許EP0136722号の実施例では、約5〜6時間の脱重合反応時間が報告されている。更なる欠点は、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルが回収される前に、残りの過酸化水素が破壊されなければならないことであり、これは安全性の問題を呈する。また、過酸化水素は、水性溶液の形でのみ利用可能であり、これは、取り扱い、貯蔵、および輸送の問題を呈する。
【0007】
過酸化水素の別の欠点は、その使用が、製紙業によって所望される脱重合度をいつももたらすとは限らないことであり、ポリサッカライドエーテルがいわゆる乾式法で製造されるときには特にそうである。
【0008】
米国特許第5,708,162号は、低分子量ポリサッカライドエーテルの製造法を開示しており、上記方法は、比較的高分子量のポリサッカライドエーテルを懸濁物、例えばスラリーで最初に導入し、パーボレートを添加し、そして25℃〜90℃の温度でアルカリ性媒体中で酸化的分解を行うことを含む。典型的には、ポリサッカライドエーテル出発物質、特にセルロースエーテルも懸濁物で製造される。脱重合されたポリサッカライドエーテル生成物は、乾燥形態で単離される。
【0009】
この方法の欠点は、脱重合が懸濁物中で、典型的にはイソプロパノールまたはイソプロパノールと水との混合物を使用して行われることである。有機溶媒、例えばイソプロパノールの使用は望ましくなく、廃棄物および環境上の問題を呈する。それはまた、出発物質および最終生成物の体積を増加させ、従って、製造、貯蔵および輸送コストを高める。さらに、米国特許第5,708,162号の方法の際に形成される低分子量ポリサッカライドエーテル懸濁物は特に、低粘度で高い固形含量を有する水性溶液を要求する製紙業での使用には適しない。脱重合されたポリサッカライドエーテル生成物を最初に単離し乾燥させた後、それを水に溶解することはもちろん不利である。
【0010】
国際出願公開WO01/07485は、ポリサッカライドまたはポリサッカライド誘導体の高められた温度での脱重合法を開示しており、上記方法は、(i)少なくとも1のポリサッカライドを所定の量の少なくとも1のパーオキソ化合物と混合すること、および(ii)所望により、ポリサッカライド誘導体を形成するために混合物のポリサッカライドを誘導試薬と反応させることを含む。この特許文献は、少なくとも1のポリサッカライドおよび少なくとも1のパーオキソ化合物を含む混合物をさらに開示している。開示された方法は、1工程でポリサッカライドを脱重合すること、および所望の重合度を有する誘導体を同時にまたは続いて製造することを可能にすることが言及されている。適するポリサッカライドは、澱粉、セルロース、イヌリン、キチン、アルギン酸、およびグアーガム(guar gum)である。適するパーオキソ化合物は、尿素過酸化水素塩(すなわち、「パーカルバミド」または過酸化カルバミド)、過炭酸塩、および過ホウ酸塩である。この特許文献における全ての実施例は、尿素および尿素過酸化水素塩を使用する低分子量セルロースカルバメートの製造に関する。国際出願公開WO01/07485の方法に従う脱重合または脱重合/誘導は、キシレンの懸濁物中で行われ、これは、上記したようないくつかの欠点を呈する。さらに、過酸化カルバミドをそのままで使用することは、妥当な時間内にポリマーの粘度の所望の低下をもたらさないことが分かった。従って、この理由のためにも、この特許文献に記載された技術は、商業的使用に適しない。
【0011】
V.N.KislenkoおよびE.I.Kuryatnikov, Russian Journal of General Chemistry, Vol.70, 2000,pp.1410-1412は、過硫酸アンモニウムの作用下での水溶性セルロースエーテル、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルセルロースの分解の動力学を記載している。この文献は、本発明の方法を開示も示唆もしていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題への解決を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、1,000mPa.s以下の粘度を有するポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの溶液を製造する方法が提供され、上記方法は、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を水性媒体に添加することを含む。
【0014】
本発明はさらに、ポリサッカライドエーテルおよび、脱重合剤1モルにつき0.25〜15モル当量の塩基を含むアルカリ性脱重合剤を含む固体組成物に関する。
【発明の効果】
【0015】
上記欠点を回避することとは別に、本発明は、水性媒体中に溶解されたときに所望の低粘度および高い固形含量を有する組成物を上記産業に提供する。本発明方法は、許容可能な時間内に、脱重合剤のほぼ完全な消費を伴って、容易に入手可能で比較的高分子量のポリサッカライドエーテルを使用して、1工程で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書の文脈において、用語「水性媒体」は、本質的に水を含む液体媒体を意味し、本発明方法から得られた脱重合されたポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルはその媒体中に完全に溶解する。なお、得られる脱重合されたポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルがその媒体中に溶解され得る限り、水に加えて他の溶媒が使用され得る。水は環境上の問題を与えないので、他の溶媒を何ら伴うことなく水のみを使用することが最も好ましい。
【0017】
さらに、用語「固形含量」は、溶液の総重量に基づく、溶液中の、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルを含む溶解された化合物の重量%を意味する。この含量は、溶液の重量を測定し、そして、例えば固形分の重量が一定になるまで140℃で加熱することにより乾燥させることによって、溶液から水性媒体を除去した後に固形分の重量を測定し、その後、乾燥後の固形分の重量を溶液の重量で割って100倍することにより決定され得る。
【0018】
本発明によれば、好ましくは、脱重合剤1モルにつき0.25〜10モル当量、より好ましくは0.25〜5モル当量、さらにより好ましくは0.5〜2モル当量の塩基を含むアルカリ性脱重合剤が使用される。
【0019】
アルカリ性脱重合剤は一般に、室温で固体状であり、本発明の方法において使用される温度で水に可溶である。脱重合剤は、それ自体アルカリ性であり得、例えば過酸化物1モルにつき約0.7モル当量の炭酸ナトリウムを含む過炭酸ナトリウムであり得る。その剤は、パーオキソ化合物および追加の塩基をも含み得る。そのような場合には、アルカリ性脱重合剤が好ましくは、パーオキソ化合物1モルにつき0.25〜15モル当量の塩基を含む。
【0020】
アルカリ性脱重合剤およびその中に含まれるパーオキソ化合物の適する例は、N. Steiner および W. Eulによって、Kirk-Othmer Encyclopedia of ChemicalTechnology, John Wiley & Sons, Inc. 2001 (オンライン公表日2001年7月13日)における過酸化物および過酸化物化合物、無機過酸化物において、特に、13族(IIIB)過酸化物に関する第3章、16族(VIB)過酸化物に関する第6章およびパーオキソハイドレートに関する第8章に記載され、およびJ.SanchezおよびT.N. Myersによって、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,John Wiley & Sons, Inc. 1996 (オンライン公表日2000年12月4日)における過酸化物および過酸化物化合物、有機過酸化物において、特に、パーオキシ酸に関する第6章に記載されている。
【0021】
本発明に従う使用に適するアルカリ性脱重合剤の例は、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩基と組み合わせた過酸化カルバミド、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウム、塩基と組み合わせた3−クロロパーオキシ安息香酸(m−CPBA)およびそれらの混合物を包含する。本発明に従って任意の塩基が使用され得る。適する例は、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを包含する。好ましい塩基は炭酸ナトリウムである。
【0022】
本発明によれば、好ましくは、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウムが使用される。最も好ましくは、過炭酸ナトリウムまたは塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウムが使用される。
【0023】
15重量%未満の固形含量を有する溶液では、過炭酸ナトリウムが最も好ましい。15重量%以上の固形含量を有する溶液に特に適するのは、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウムである。
【0024】
なお、アルカリ性脱重合剤の他の塩、例えばカリウムまたはアンモニウム塩も同様に本発明における使用に適する。
【0025】
本発明に従って使用され得る適するアルカリ性脱重合剤の上記した例は、商業的に入手可能であり、比較的安価な物質である。これは、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルとアルカリ性脱重合剤との固体混合物が調製され得るという利点を有する。水性ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテル溶液の任意の所望の最終粘度は、固体組成物中のアルカリ性脱重合剤の必要な量を、型通りの(routine)実験を使用して決定することによって得られ得る。
【0026】
上記固体組成物は、容易に貯蔵され、輸送され、および取り扱われることが分かった。上記ポリマーの脱重合は、ポリサッカライドエーテルとアルカリ性脱重合剤との固体組成物を水、典型的には生水に添加し、得られた混合物を適切な時間の間、所望ならば高められた温度で撹拌することによって開始され得る。ポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤は、別々に同時に水に添加することもできる。
【0027】
しかし、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルがアルカリ性脱重合剤の水性溶液に添加されるときには、脱重合剤が、ポリマーを脱重合することができる前に分解する可能性があり、これは、脱重合反応の効率を低下させる。したがって、好ましくは、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤が、別々にまたは、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルとアルカリ性脱重合剤との固体組成物の形状でのいずれであっても、水に同時に添加される。ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの脱重合は一般に、ポリマーおよびアルカリ性脱重合剤を水性媒体に添加した後に生じる。
【0028】
本発明に従う、ポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を含む固体組成物の使用の利点は、ポリサッカライドエーテルの脱重合が、例えば、低粘性で高固形含量の水性溶液が必要とされる直前に製紙業の供給者または製紙業者自身によって行われ得ることである。
【0029】
本発明に従う脱重合は、通常の装置、例えば撹拌総ガラス製またはステンレス鋼製反応器を使用して行われ得る。
【0030】
本発明の方法は、広い温度範囲、実際的には25〜95℃の範囲、にわたって、典型的には選択された温度で、ある時間の間、最終のまたは所望の粘度が得られるまで撹拌することによって行われ得る。上記産業では、カルボキシメチルセルロースなどの化学物質を投入するために使用されるポンプが、典型的には1,000mPa.s(ブルックフィールドLVレオメーター、25℃、30rpm)までの粘度を取り扱うことができる。最適な時間、温度および撹拌条件は、型通りの実験および本明細書およびガイドラインとして以下に記載した実施例を使用して当業者により決定され得る。上記産業では、一般に少なくとも1mPa.s、好ましくは少なくとも10mPa.s、より好ましくは少なくとも20mPa.s、最も好ましくは少なくとも50mPa.sであり、かつ一般に高々1,000mPa.s、好ましくは高々800mPa.s、より好ましくは高々600mPa.s、最も好ましくは高々400mPa.s(ブルックフィールドLVレオメーター、25℃、30rpm)である粘度を有する水性溶液が使用される。
【0031】
本発明に従う脱重合を高められた温度で行うことが有利である。好ましくは、選択される温度が少なくとも35℃、より好ましくは少なくとも40℃であり、かつ高々80℃、好ましくは高々75℃、最も好ましくは高々70℃である。
【0032】
温度は、全脱重合プロセスの間、変更されまたは同じレベルに維持され得る。例えば、所望の反応条件に依存して、温度が最初は比較的低く、そして、全プロセスの間、同じ脱重合速度を維持するために、その後高められ得る。しかし、いくつかの脱重合プロセスでは、溶液の温度が、溶液を積極的に加熱することなく上昇する。そのようなプロセスでは、温度を同じレベルに積極的に維持することが望ましくあり得る。
【0033】
本発明の方法に従って得られる水性溶液は、上記産業においてすぐに使用することができ、更なる処理を何ら受ける必要はない。
【0034】
本発明によれば、任意のポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルが使用され得る。適する例は、J.N. BeMillerによって、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,John Wiley & Sons, Inc. 1992 (オンライン公表日2000年12月4日)における炭水化物において、特に第5章において、ガムとして記載されている。これらのポリマーの工業用等級または精製された等級のものも使用され得る。
【0035】
ポリサッカライドの適する例は、グアーガム、デキストリン、キサンタンガム、カラゲナン、およびアラビアゴムを包含する。ポリサッカライドエーテルの適する例は、セルロース(C)、グアール(G)および澱粉(S)のカルボキシメチル(CM)、ヒドロキシプロピル(HP)、ヒドロキシエチル(HE)、エチル(E)、メチル(M)、疎水的に変性された(HM)、第4級アンモニウム(QN)および混合エーテル誘導体を包含し、例えばHEC、HPC、EHEC、CMHEC、HPHEC、MC、MHPC、MHEC、MEHEC、CMC、CMMC、CMG、HEG、HPG、CMHPG、HMCMC、HMHEC、HMHPC、HMEHEC、HMCMHEC、HMHPHEC、HMMC、HMMHPC、HMMHEC、HMCMMC、HMG、HMCMG、HMHEG、HMHPG、HMCMHPG、QNCMC、およびHPSが挙げられる。これらのポリサッカライドおよびポリサッカライドエーテルは従来公知であり、商業的に入手可能であり、または自体公知の方法を使用して製造され得る。カルボキシメチル誘導体は一般に、アルカリ金属塩の形態、通常はそのナトリウム塩の形態で使用される。
【0036】
好ましくは、ポリサッカライドエーテルが本発明に従って使用される。好ましくは、ポリサッカライドエーテルがCMC、HMCMC、HEC、HMHEC、EHECおよびHMEHECから成る群から選択される。より好ましくは、ポリサッカライドエーテルがCMCまたはカルボキシメチルセルロースである。
【0037】
本発明に従って使用されるべきポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの分子量(MW)は、広範囲にわたって変わり得る。分子量は典型的には25,000〜3,000,000ダルトン、好ましくは25,000〜500,000ダルトン、より好ましくは50,000〜250,000ダルトンの範囲である。
【0038】
本発明に従って使用されるべきポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの量は、広範囲にわたって変わり得る。典型的には、得られる水性溶液の所望の固形含量に依存する。一般には、溶液の固形含量が、水性組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%であり、かつ高々40重量%、好ましくは高々30重量%、最も好ましくは高々25重量%である。製紙業では、好ましくは5〜15重量%、より好ましくは7〜10重量%の固形含量が使用される。
【0039】
本発明に従って使用されるべきアルカリ性脱重合剤の量も広範囲にわたって変わり得る。典型的には、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテル水性溶液の所望の最終粘度によって決定される。使用されるべき実際的な量は、ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの重量に基づいて0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは2〜10重量%である。脱重合されたポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの分子量は典型的には、10,000から250,000ダルトンの範囲である。
【0040】
過酸化物反応が、生水中に通常存在する遷移金属イオンなどの不純物によって触媒され得ることは当業者に公知である。必要ならば、そのような不純物が通常の量で本発明方法に添加され得る。所望により、米国特許第5,708,162号に過ホウ酸ナトリウムに関して言及されている公知の活性剤のいずれかが、通常の量で本発明の方法において使用され得る。
【0041】
ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの脱重合は、水性溶液の粘度を決定することによって容易に追跡され得る。反応混合物中のアルカリ性脱重合剤の量は、任意の慣用のやり方で時間の関数として決定され得る。例えば、過酸化物の量は、ヨウ素滴定によってまたは、商業的に入手可能である過酸化物試験スティックを使用して決定され得る。脱重合されたポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルを含む得られた水性溶液は、最終のまたは所望の粘度が達成されたときに使用され得る。少量のアルカリ性脱重合剤が溶液中に残っているならば、脱重合剤は、当業者に公知の方法によって中和され得る。好ましくは、アルカリ性脱重合剤が完全に反応除去されて中和を不必要にする。こうして、安全かつ取り扱いの容易な水性溶液が得られる。
【0042】
本発明を、以下の実施例によって説明する。
【実施例1】
【0043】
撹拌ステンレス鋼反応器中で、32.5gのCMC(Akucell AF 0305、Akzo Nobel製、7.6%の水含量を有し、かつ上記CMCの6重量%水性溶液に関して、10rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定されるとき、4,757mPa.sの粘度を有する)を65℃で467.5gの生水に溶解して6重量%の水性CMC溶液を得た。この水性溶液に、0.60gの過炭酸ナトリウム(Aldrich製)、すなわちCMCの量に対して2重量%、を激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25、0.5、および1時間の撹拌の後にサンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、297、200および212mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ96、100および100%であると計算された。MWは、出発時の132,000ダルトンから、1時間の撹拌の後に82,700ダルトンに低下した。
【実施例2】
【0044】
撹拌総ガラス製反応器中で、37.5gのCMC(Akupure 0310、Akzo Nobel製、8.8%の水含量を有し、かつ上記CMCの6.9重量%水性溶液に関して、10rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定されるとき、2,843mPa.sの粘度を有する)を50℃の462.5gの生水に添加した。次いで、1.875gの過炭酸ナトリウム、すなわちCMCの量に対して5重量%、を激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25および0.5時間の撹拌の後にサンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、388および239mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ78および95%であると計算された。脱重合の後、MWは、94,000ダルトンから61,000ダルトンに低下した。
【実施例3】
【0045】
32.5gのCMC(Akucell AF 0305、実施例1を参照)および0.60gの過炭酸ナトリウムのドライブレンドをスパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、ステンレス鋼反応器中の65℃の生水467.5gに、激しく撹拌しながら1分で添加した。サンプルを0.25および0.5時間の撹拌後に採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、365および330mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ99および100%であると計算された。
【実施例4】
【0046】
脱重合を55℃、50℃または45℃で行ったとき、過炭酸ナトリウムの完全な消費の後に実施例3と同様の結果が得られた。温度が低いほど、過炭酸ナトリウムの消費は遅かった。50℃の反応温度での過炭酸ナトリウムの完全な消費は0.5時間後に生じた。
【実施例5】
【0047】
32.0gのCMC(Akucell AF 0305、実施例1を参照、ただし、6.2%の水を含む)および0.88gの過ホウ酸ナトリウム(Aldrich製)のドライブレンドを、スパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、総ガラス製反応器中の50℃の生水468gに、激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25、0.5、1および2時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、564、369、264および202mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ58、75、90および98%であると計算された。
【実施例6】
【0048】
40.0gの工業用等級のCMC(Gabrosa PA 386、5.8%の水含量を有し、かつ上記CMCの7.5重量%水性溶液に関して、1rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定されるとき、7,049mPa.sの粘度を有する)および0.80gの過炭酸ナトリウムのドライブレンドを、スパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、ステンレス鋼反応器中の67℃の生水460.0gに、激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25および0.5時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、251および233mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、過酸化物試験スティック(Quantofic(商標)Peroxide25)を使用して決定し、それぞれ99および100%であることが分かった。MWの、165,800ダルトンから63,700ダルトンへの低下が認められた。
【実施例7】
【0049】
32.0gのCMC(Akucell AF 0305、実施例1を参照、ただし、6.2%の水を含む)、1.37gの過硫酸ナトリウム(Aldrich製)および0.40gの炭酸ナトリウム(Aldrich製)のドライブレンドを、スパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、撹拌総ガラス製反応器中の50℃の生水468.0gに、激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25、0.5および1.0時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、563、178および63mPa.sであった。
【0050】
比較例A
32.0gのCMC(Akucell AF 0305、実施例1を参照、ただし、6.2%の水を含む)を、撹拌総ガラス製反応器中の60℃の生水468.0gに1分で添加した。CMCの添加後直ちに1.40gの3−クロロパーオキシ安息香酸(AkzoNobel製、71%活性含量)を、激しく撹拌しながら1分で添加した。0.5、1.0および2.0時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、859、592および388mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ45、64および80%であると計算された。
【実施例8】
【0051】
32.0gのCMC(Akucell AF 0305、実施例1を参照、ただし、6.2%の水を含む)を、撹拌総ガラス製反応器中の60℃の生水468.0gに1分で添加した。CMCの添加後直ちに1.40gの3−クロロパーオキシ安息香酸(AkzoNobel製、71%活性含量)および0.40gの炭酸ナトリウムを、激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25、0.5および1.0時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、495、295および205mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ78、91および97%であると計算された。脱重合の後、MWの、126,400ダルトンから80,500ダルトンへの低下が認められた。
【0052】
比較例Aおよび実施例8の結果を比較すると、後者の実施例は、より短い時間でより高い過酸化物消費およびより低い粘度を示す。すなわち反応速度がより速い。
【実施例9】
【0053】
撹拌総ガラス製反応器中で、32.2gのEHEC(Bermocoll E270、Akzo Nobel製、6.8%の水含量を有し、かつ上記EHECの6重量%水性溶液に関して、0.5rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定されるとき、104,000mPa.sの粘度を有する)を50℃で467.8gの生水に溶解して6重量%の水性EHEC溶液を得た。この水性溶液に、1.50gの過炭酸ナトリウム(Aldrich製)、すなわちEHECの量に対して5重量%、を激しく撹拌しながら1分で添加した。0.5および1.0時間の撹拌の後にサンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(それぞれ10および30rpmでおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、2,693および1,128mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ95および98%であると計算された。
【実施例10】
【0054】
撹拌総ガラス製反応器中で、21.5gのEHEC(Bermocoll E320G、Akzo Nobel製、6.9%の水含量を有し、かつ上記EHECの4重量%水性溶液に関して、1rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定されるとき、39,000mPa.sの粘度を有する)を55℃で4787.5gの生水に溶解して4重量%の水性EHEC溶液を得た。この水性溶液に、1.00gの過炭酸ナトリウム(Aldrich製)、すなわちEHECの量に対して5重量%、を激しく撹拌しながら1分で添加した。0.25、0.5および1.0時間の撹拌の後にサンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmでおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、460、329および267mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ87、97および99%であると計算された。MWの、854,700ダルトンから1.0時間の撹拌後の141,900ダルトンへの低下が認められた。
【実施例11】
【0055】
11.2gのグアーガム(Dinesh Enterprises製、10.3%の水含量を有し、かつ上記グアーガムの2重量%水性溶液に関して、1rpmおよび20℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定されるとき、350,000mPa.sの粘度を有する)および0.50gの過炭酸ナトリウムのドライブレンドを、スパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、撹拌総ガラス製反応器中の70℃の生水488.9gに、激しく撹拌しながら1分で添加した。1.0および2.0時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、301および158mPa.sであった。消費された過酸化物の割合(%)は、ヨウ素滴定の後、それぞれ80および95%であると計算された。脱重合の後、MWの、1,914,000ダルトンから180,200ダルトンへの低下が認められた。
【実施例12】
【0056】
75.0gのCMC(Akucell AF 0310、実施例2を参照)、7.50gの過硫酸ナトリウム(Aldrich製)および7.50gの炭酸ナトリウム(Aldrich製)のドライブレンドを、スパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、撹拌総ガラス製反応器中の50℃の生水425.0gに、激しく撹拌しながら5分で添加して、CMCの15%(w/w)溶液を得た。
【0057】
0.5、2、4および5時間の撹拌の後、サンプルを採取した。これらのサンプルの粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)はそれぞれ、650、69、39および33mPa.sであった。ヨウ素滴定によれば、全ての過硫酸塩が5時間後に消費された。
【実施例13】
【0058】
125gのCMC(Gabrosa PA 186)、12.5gの過硫酸ナトリウム(Aldrich製)および12.5gの炭酸ナトリウム(Aldrich製)のドライブレンドを、スパチュラを用いて混合することにより作った。上記ブレンドを、撹拌総ガラス製反応器中の50℃の生水375.0gに、激しく撹拌しながら5分で添加して、CMCの25%(w/w)溶液を得た。
【0059】
1時間内に粘度が1000mPa.sより下に下がった。ヨウ素滴定によれば、全ての過硫酸塩が4時間後に消費された。溶液はチキソトロピー性の挙動を示した。十分せん断されたサンプルの4時間後の粘度(30rpmおよび25℃で操作するブルックフィールドLVレオメーターを用いて測定)は625mPa.sであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を水性媒体に添加することを含む、1,000mPa.s以下の粘度を有するポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルの溶液を製造する方法。
【請求項2】
ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤が同時に水性媒体に添加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリサッカライドまたはポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を含む固体組成物が水性媒体に添加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
アルカリ性脱重合剤が、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩基と組み合わせた過酸化カルバミド、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウム、塩基と組み合わせた3−クロロパーオキシ安息香酸(m−CPBA)およびそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
塩基が水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
アルカリ性脱重合剤が過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムまたは、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
ポリサッカライドエーテルが、カルボキシメチルセルロース、疎水的に変性されたカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、疎水的に変性されたヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、および疎水的に変性されたエチルヒドロキシエチルセルロースから成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ポリサッカライドエーテルおよびアルカリ性脱重合剤を含む固体組成物。
【請求項9】
アルカリ性脱重合剤が、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、塩基と組み合わせた過酸化カルバミド、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウム、塩基と組み合わせた3−クロロパーオキシ安息香酸(m−CPBA)およびそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項8記載の組成物。
【請求項10】
脱重合剤が過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムまたは、塩基と組み合わせた過硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項9記載の組成物。
【請求項11】
ポリサッカライドエーテルが、カルボキシメチルセルロース、疎水的に変性されたカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、疎水的に変性されたヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、および疎水的に変性されたエチルヒドロキシエチルセルロースから成る群から選択されることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
カルボキシメチルセルロースおよび過炭酸ナトリウムを含む、請求項8〜11のいずれか1項記載の組成物。

【公表番号】特表2006−507373(P2006−507373A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−520521(P2004−520521)
【出願日】平成15年7月7日(2003.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007327
【国際公開番号】WO2004/007559
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】