説明

水溶性抽出液の製造方法

【課題】
可食性材料から抽出して得られた油溶性液体から、必要な有効成分を豊富に含み、かつ、水に容易に透明に溶解し、その後の保存においても透明性が安定な水溶性抽出液を効率よく得ること。
【解決手段】
可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を、以下の(A)〜(C)の混合溶剤で抽出することを特徴とする、水溶性抽出液の製造方法。
(A)エタノール
(B)水
(C)水混和性有機溶剤(エタノールを除く)および/または電解質

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体からの、水溶性抽出液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可食性材料から抽出して得られた油溶性液体は油脂等の油性媒体には溶解するが、水には溶解しない。一方、飲料や食品類は水を多く含む形態が食しやすいため、多くの飲食品は水分を多量に含有している。したがって、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を飲食品に配合する場合、そのままの状態では、飲料や食品に配合できないか、または、製造時には一旦混合した状態となっても、その後に分離してしまい、その利用範囲が限定されたものとなってしまう。そこで、例えば、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を、可溶化あるいは乳化するなどの方法により水に可溶化または分散する方法が提案されている。このような可溶化または乳化の方法としては、例えば、非水溶性物質1〜70重量部にポリグリセリン脂肪酸エステル1〜90重量部と水0.1〜50重量部および多価アルコール1〜90重量部を混合し乳化至可溶化することを特徴とする乳化至可溶化液の製造法(特許文献1)、(a)可食性油性材料、(b)精製ポリグリセリン脂肪酸エステル、(c)多価アルコール、(d)水からなる組成物を乳化処理して得られることを特徴とする耐アルコール性透明乳化組成物(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体には、油脂などの、風味や機能にはあまり寄与しない成分が多く含まれていることが多い。したがって、これらの油脂などを含めて可溶化または乳化などを行う場合、可溶化または乳化に必要な乳化剤の量が多量に必要となってしまう。また、油脂などが可溶化、乳化の妨げとなるため、水に希釈した場合においても透明とすることは極めて困難である。
【0003】
一方、水や有機溶媒による抽出は、天然物、その他の混合物から、目的とする用途に必要な成分を抽出するために広く用いられており、さまざまな状態の原料からさまざまな溶剤を用いて行われている(非特許文献1)。
【0004】
このような抽出を、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体に応用した方法として、例えば、柑橘類精油などから含酸素成分を80w/w%以上の含水エタノールで抽出し、テルペン炭化水素を低減させた抽出物を配合した低アルコール飲料(特許文献3、請求項3)、シトラスオイルをプロピレングリコールとC1〜C4のアルカノールの混合液で処理することを特徴とする、洗浄されたシトラスオイルフレーバーの製造方法(特許文献4)などが提案されている。しかしながら、特許文献3のように柑橘類精油を高濃度のエタノール水溶液で抽出した場合、含酸素成分は良く抽出されるがテルペン炭化水素も多く抽出されてしまい、アルコールを含まない飲料に使用した場合にまで、その透明性、安定性が保証されるものではない。また、特許文献4はシトラスオイルから、水を含まない溶剤系による抽出方法であるが、やはり含酸素成分は良く抽出されるがテルペン炭化水素も多く抽出されてしまい(特許文献4の表1および表2のリモネンの割合を参照)、飲料等の水分の多い飲食品に使用した場合、その透明性、安定性が保証されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−250941号公報
【特許文献2】特開2007−116930号公報
【特許文献3】特開2000−245431号公報
【特許文献4】特表2003−535207号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】周知・慣用技術集(香料)第I部 香料一般 p.66〜p.70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体から、必要な有効成分を豊富に含み、透明で、かつ、水や透明基材に添加しても濁りを生じない水溶性抽出液を効率よく得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を、エタノール、水、および、エタノール以外の水混和性有機溶剤の混合溶剤で抽出することにより、必要とする成分、例えば、香気成分、呈味成分、風味成分、辛味成分、色素成分などが効率よく抽出でき、さらに、得られた抽出液が、水や糖酸溶液添加しても透明に溶解することを見出した。また、前記混合溶剤による抽出の際、混合溶剤に電解質を加えたところ、必要とする香気成分、呈味成分、風味成分、辛味成分、色素成分などの抽出効率が上がり、さらに、抽出残渣となる油性液体との分離が良好で、製造工程が容易となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は、以下のものを提供する。
(1)可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を、以下の(A)〜(C)の混合溶剤で抽出することを特徴とする、水溶性抽出液の製造方法。
【0010】
(A)エタノール
(B)水
(C)水混和性有機溶剤(エタノールを除く)および/または電解質
(2)(C)水混和性有機溶剤がプロパノールおよび/またはイソプロパノールであることを特徴とする(1)の水溶性抽出液の製造方法。
(3)混合溶剤における(B)水の濃度が、混合溶剤を基準として20質量%〜80質量%であることを特徴とする(1)または(2)の水溶性抽出液の製造方法。
(4)(A)エタノールと(C)水混和性有機溶剤(エタノールを除く)の比率が質量換算で9:1〜1:9の範囲内であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの水溶性抽出液の製造方法。
(5)可食性材料から抽出して得られた油溶性液体が精油、香辛料抽出物、天然色素抽出物および柑橘油から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの水溶性抽出液の製造方法。
(6)(C)電解質の濃度が、混合溶剤を基準として0.01質量%〜5質量%であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの水溶性抽出液の製造方法。
(7)(C)電解質が塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムおよびリン酸三マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上である(1)〜(6)のいずれかの水溶性抽出液の製造方法。
(8)(1)〜(7)のいずれかの製造方法により得られる水溶性抽出液。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体から、水溶性抽出液を簡便、かつ、容易に製造することができる。本発明により得られた水溶性抽出液は、必要な有効成分を豊富に含み、かつ、水に容易に透明に溶解し、その後の保存においても透明性が保たれるという有利な効果をもたらすものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体とは、可食性材料から、例えば、水蒸気蒸留、有機溶剤抽出、超臨界二酸化炭素抽出などにより得られる、油溶性で液状の抽出物を指す。具体的には、例えば各種動植物原料を水蒸気蒸留し、その留出液の油層を分離して得られる油層、または、その留出液の水層を水非混和性有機溶剤抽出した後、有機溶剤を除去して得られる濃縮物等の精油類;動植物原料を米サラダ油などの油脂で浸漬または攪拌抽出などして得られたオイル類;動植物原料を有機溶剤抽出や超臨界二酸化炭素抽出し、溶剤を留去して得られたオレオレジンやレジノイド;柑橘類の外果皮から、圧搾法、蒸留法などにより得られる柑橘油類(柑橘精油類)などが挙げられる。
【0013】
これらの具体例としては、例えば、シンナモン油、クローブ油、オールスパイス油、ナツメグ油、メース油、レモングラス油、アンジェリカ油、和種ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、ウコン油、クミン油、クベバ油、ディル油、ハッカ油、パセリ油、バジル油、カナンガ油、シトロネラ油、ユーカリ油、ウイキョウ油、ジンジャー油、ペリラ油、セダーウッド油、ジャスミン油、ジュニパー油、セロリシード油、セロリハーブ油、ホワイトペッパー油、ブラックペッパー油、ローズ油、パルマローザ油、チュベローズ油、ネロリ油、タラゴン油、エストラゴン油、ウインターグリーン油、グアヤクウッド油、トルーバルサム油、ペルーバルサム油、コパイアバルサム油、カナディアンバルサム油、パチョリ油、パルマローザ油、ヒノキ油、ヒバ油、ビャクダン油、プチグレン油、ベイ油、ベチバー油、ゼラニウム油、ボワドローズ油、ラベンダー油、クロモジ油、松葉油、アイリス油、イランイラン油、ティーツリー油、茶油、ニンニク油、オニオン油、リナロエ油などの精油類;バターオイル、乳脂リパーゼ分解物、焙煎ゴマ油などの風味油脂類;トウガラシオレオレジン、ジンジャーオレオレジン、ジャンブーオレオレジン、サンショウオレオレジン、ブラックペッパーオレオレジン、ホワイトペッパーオレオレジン、オランダセンニチオレオレジン、タイムオレオレジン、セージオレオレジン、クローブオレオレジン、シナモンオレオレジン、ナツメグオレオレジンなどの香辛料抽出物類;パプリカオレオレジン、マリーゴールドオレオレジン、キャロットオレオレジン、トマトオレオレジン、デュナリエラオレオレジン、フィフィアオレオレジン、クロレラオレオレジンなどの天然色素抽出物類;レモン油、オレンジ油、ライム油、グレープフルーツ油、マンダリン油、タンジェリン油、ダイダイ油、ベルガモット油、温州みかん油、カボス油、スダチ油、ハッサク油、イヨカン油、ユズ油、シークワーサー油、金柑油などの柑橘油類(柑橘精油類)などを例示することができる。
【0014】
本発明における混合溶剤はエタノールと水を必須とする。エタノールおよび/または水からなる混合溶剤は、従来から、さまざまな天然原料(茎、花、蕾、葉、根、樹皮、樹脂およびそれらの乾燥物)や、前述の可食性材料から抽出して得られた油溶性液体などの抽出に広く用いられている。
【0015】
可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を、水を混合しないエタノールのみ(あるいは、水を混合しない、エタノールと水混和性有機溶剤のみの混合溶剤)で抽出した場合、有効成分の抽出効率は良いが、油脂などの油溶性物質も多く抽出されてしまう。その結果、得られた抽出液を飲料などの水溶液に添加した場合、懸濁してしまったり、油溶性液体が分離してしまい好ましくない。したがって、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体から、水溶性抽出物を得る場合、水を混合した抽出溶剤を使用する。
【0016】
混合溶剤における水の濃度は、有効成分が抽出され、かつ、残渣としての油溶性液体が分離する濃度であれば特に限定されるものではない。しかしながら、混合溶剤中の水濃度が高すぎると必要とする有効成分が抽出されづらく、また、混合溶剤中の水分濃度が低すぎると、得られた抽出液を飲料等の水分の多い系に添加した場合、濁りが生じてしまう。したがって、混合溶剤中の水濃度は混合溶剤の全体量を基準として20質量%〜80質量%、好ましくは30質量%〜70質量%、より好ましくは35質量%〜65質量%の範囲内を例示することができる。
【0017】
本発明では、(A)成分であるエタノールと、(B)成分である水に、さらに、(C)成分である水混和性有機溶剤および/または電解質、を混合した混合溶剤を使用する点に特徴がある。エタノールと水のみの混合溶剤よりも、エタノール、水に加えて、(C)成分である水混和性有機溶剤(エタノールを除く)および/または電解質を併用することにより、含酸素成分などの香気に寄与する成分の抽出効率が格段に上がり、風味的に好ましい抽出物が得られる。特に、精油からのエッセンスの製造においては、精油が本来持つ、オイリーまたはピーリーな風味やボリューム感を抽出することができる。また、得られた抽出物は水溶液に添加しても、透明性が保たれる。なお、オイリーな風味とは、舌から喉の奥にかけて風味がやや後残りするような油脂をイメージさせるような好ましい風味を意味し、ピーリーな風味とは柑橘その他の果皮を剥いたりつぶしたりしたときに生じる、フレッシュな皮をイメージさせるような好ましい風味を意味し、ボリューム感とは全体的な厚みや濃厚感が豊富で、好ましい感覚を意味する。
【0018】
また、抽出に際して、エマルジョンが生成しにくく、濾過性が良いという製造面における極めて重要な効果が得られる。従来、有効成分としての油溶性有機物を含有する水層から水非混和性有機溶媒抽出を行う際に、塩析のため、水層に10%〜飽和の食塩水を添加する方法はよく知られている。しかしながら、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を原料として、水性媒体を用いて有効成分を抽出する際、水性媒体そのものの中に電解質を溶解し、得られた抽出液をそのままフレーバーなどとして使用する方法は全く知られていない。
【0019】
本発明で使用することのできる水混和性有機溶剤としては、水と任意の割合で混和する有機溶剤を指し、例えばメタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを例示することができる。なお、エタノールは本発明における混合溶剤の必須成分であるため、本発明における混和性有機溶剤は、エタノール以外の水混和性有機溶剤を示すものとする。これらの水混和性有機溶剤のうち、特に、食品への使用の観点から、プロパノールおよびイソプロパノールが好ましい。
【0020】
混合溶剤中におけるエタノールとこれらの水混和性有機溶剤の混合割合は、特に限定されるものではなく、任意に設定できるが、抽出液を水に希釈した時の透明性を考慮すると例えば、質量換算で9:1〜1:9の範囲内、好ましくは8:2〜2:8の範囲内、より好ましくは7:3〜3:7の範囲内を例示することができる。
【0021】
また、本発明において特に好ましい水混和性有機溶剤は、プロパノールおよびイソプロパノールであるが、これらはそれぞれ単独で、または、混合して使用することができる。混合する際のプロパノールおよびイソプロパノールの混合比は特に限定されるものではなく、任意に設定でき、プロパノールのみ、あるいは、イソプロパノールのみでも良いが、例えば、質量換算で1:9〜9:1の範囲内、好ましくは2:8〜8:2の範囲内、より好ましくは3:7〜7:3の範囲内を例示することができる。
【0022】
混合溶剤中に溶解する電解質としては、例えば、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三マグネシウムなどが例示でき、これらは1種または2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。これらのうち、食品に一般的に多く含まれている塩類である、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸ナトリウムが特に好ましい。
【0023】
また、混合溶剤中に溶解する電解質の濃度は混合溶剤全体に対し0.01質量%〜5質量%が好ましく、特に0.02質量%〜1質量%が好ましい。電解質の濃度が0.01%より低い場合、電解質を加えた効果が得られず、また、電解質の濃度が5%より高い場合、抽出物に電解質の風味が感じられるようになってしまうため好ましくない。
【0024】
本発明における可食性材料から抽出して得られた油溶性液体に対する混合溶剤の比率は、使用する可食性材料から抽出して得られた油溶性液体の性質や、混合溶剤の組成・濃度などにより異なるため、特に限定されるものではないが、例えば、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体1質量部に対し、混合溶剤を1質量部〜200質量部、好ましくは、2質量部〜100質量部、より好ましくは5〜50質量部の範囲内を例示することができる。
【0025】
抽出方法としては、混合溶剤をあらかじめ調整しておき、混合溶剤と、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を接触させ、攪拌する方法が例示できる。また、別の抽出方法として、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体とエタノールおよび/または水混和性有機溶剤を混合後、該混合物に水(必要に応じて電解質をあらかじめ溶解)を加え、攪拌する方法が例示できる。この際の抽出温度としては、−10℃〜75℃、好ましくは−5℃〜50℃を例示でき、また、攪拌時間としては10秒〜5時間、好ましくは30秒〜30分を例示することができる。
【0026】
抽出後、適当な分離手段を用いて、混合溶剤の層と、可食性材料から抽出して得られた油溶性液体の層を分離し、混合溶剤の層からなる水溶性抽出液を得ることができる。分離の手段としては、冷却、静置、遠心分離、濾過などを用いることが可能である。これらの分離手段により、抽出液を透明とすることができ、波長680nmにおける吸光度を0.3未満とすることができる。
【0027】
得られた水溶性抽出液は、そのまま、あるいは、さらに必要に応じて、冷却、濾過などを繰り返し、水溶性抽出液を水に質量換算で0.1%の添加率で希釈した溶液の波長680nmにおける吸光度が0.05未満とすることができる。
【0028】
このようにして得られた水溶性抽出液は、必要な有効成分を豊富に含有し、水に添加した場合にも透明感を維持している。また、このようにして得られた水溶性抽出液は、濃縮しないことが好ましい。濃縮により、溶剤濃度の低減、または、溶剤を除去することによる有効成分の濃縮により、有効成分が不溶化し、析出してしまい、再溶解困難となってしまう可能性がある。
【0029】
かくして得られた水溶性抽出液は、例えば、茶類飲料、スポーツ飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、酒類などの飲料に、例えば、0.02質量%〜2質量%配合することにより、透明で、長期間安定で、かつ、有効成分(香気成分、呈味成分、風味成分、辛味成分、色素成分など)が豊富に含まれる飲料が得られる。
【0030】
また、上記飲料以外にも、例えば、ヨーグルト、ゼリー、プディング及びムースなどのデザート類;ケーキや饅頭などといった洋菓子、和菓子、蒸菓子などの製菓類;ポテトチップス、煎餅、クッキーなどの菓子スナック類;アイスクリームやシャーベットなどの冷菓類および氷菓類;チューインガム、ハードキャンディー、ヌガーキャンディー、ゼリービーンズなどのその他の菓子類;果実フレーバーソースやチョコレートソースなどのソース類;バタークリームや生クリームなどのクリーム類;イチゴジャムやマーマレードなどのジャム類;菓子パンなどのパン類;味噌、醤油、だし、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料類;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼きなどに用いられるタレやトマトケチャップなどのソース類;お吸い物、出汁類(牛、豚、魚介類)、コンソメスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ、ポタージュ、みそ汁などのスープ類;麺・パスタ類(そば、うどん、ラーメン、パスタなど)のつゆ類;おかゆ、雑炊、お茶漬けなどの米調理食品類;ハム、ソーセージ、チーズなどの畜産加工品類;蒲鉾などの練り製品類;レトルト食品、佃煮、総菜類および冷凍食品類;干物、塩辛、珍味などの水産加工品類;漬物などの野菜加工品類;以上の他、その他にも、煮物、揚げ物、焼き物、カレーなどのあらゆる加工食品に配合することができ、これらの飲食品に0.02質量%〜2質量%配合することにより、飲食品に有効成分(香気成分、呈味成分、風味成分、辛味成分、色素成分など)による効果を付与することができる。
【0031】
本発明を以下の実施例により更に具体的に述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下の参考例、実施例および比較例における、ガスクロマトグラフィーの分析は以下の条件にて行った。
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
希釈溶媒:エタノール(99.5%)
ガラスキャピラリーカラム:PEG20m(1μm)、内径0.5mm×長さ30m
カラム温度:50℃で5分保持した後、2.5℃/分で200℃まで昇温
注入口温度:200℃
検出器:FDI
検出器温度:220℃
キャリアガス:ヘリウム
流量:5mL/分
スプリット比:1:10
注入量:1μL
【0033】
参考例1
(ブラックペッパーオイルの調製)
インド産ブラックペッパー(ホール)20Kgをハンマーミル(スクリーン3mm)にて粉砕し、50Lカラムに仕込み、カラム下部より水蒸気を送り込み水蒸気蒸留し、留出液40Kgを得た。留出液上部に分離したオイル部を採取し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した後、濾紙濾過して、ブラックペッパーオイル(精油)540gを得た(参考品1:対ブラックペッパー収率2.7%)。得られたブラックペッパーオイルは、甘く清涼感があり、松葉やレモンを思わせるフレッシュでシャープなトップノート、ウッディーでスパイシーなミドルノート、暖かくウッディーなベースノートを持っていた。また、ガスクロマトグラフィー法により、成分を分析した。主な成分を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
なお、以下のブラックペッパーオイルに関する実施例1〜3および比較例1、2の抽出液の評価において、テルペン炭化水素としてリモネン濃度を、含酸素成分としてエレモール濃度を指標とした。
【0036】
実施例1
エタノール500g、水400gおよびイソプロパノール100gを混合し、混合溶剤とした。これに、参考品1(100g)を加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(混合溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、清澄な濾液(本発明品1)968gを得た(濾過所要時間6分30秒)。
本発明品1の物性;リモネン濃度:0.205%、エレモール濃度:0.168%、680nmにおける吸光度:0.025、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.011
【0037】
実施例2
実施例1において、混合溶剤の組成をエタノール600g、0.25%硫酸ナトリウム水溶液400gとする以外は、実施例1と全く同じ操作を行い、本発明品2(970g)を得た。濾過所要時間は、1分56秒であった。
本発明品2の物性;リモネン濃度:0.213%、エレモール濃度:0.180%、680nmにおける吸光度:0.018、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.006
【0038】
実施例3
実施例1において、混合溶剤の組成をエタノール300g、水400gおよびイソプロパノール300gとする以外は、実施例1と全く同じ操作を行い、本発明品3(975g)を得た。濾過所要時間は、7分15秒であった。
本発明品3の物性;リモネン濃度:0.318%、エレモール濃度:0.180%、680nmにおける吸光度:0.037、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.032
【0039】
比較例1
実施例1において、混合溶剤の組成をエタノール600gおよび水400g、とする以外は、実施例1と全く同じ操作を行い、比較品1(959g)を得た。濾過所要時間は、10分25秒であった。
比較品1の物性;リモネン濃度:0.183%、エレモール濃度:0.156%、680nmにおける吸光度:0.034、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.025
【0040】
比較例2
実施例1において、混合溶剤の組成をエタノール750gおよび水250g、とする以外は、実施例1と全く同じ操作を行い、比較品2(974g)を得た。濾過所要時間は、4分18秒であった。
比較品2の物性;リモネン濃度:0.579%、エレモール濃度:0.186%、680nmにおける吸光度:0.046、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.123
【0041】
官能評価
本発明品1〜3および比較品1、2を、糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加し、良く訓練されたパネラー10名により、外観及び官能の評価を行った。その平均的な評価結果を表2に示す。
【0042】
また、本発明品1〜3および比較品1、2のブラックペッパーオイルからのリモネンおよびエレモールの抽出率を示した。
【0043】
抽出率:(抽出液重量×抽出液中の濃度)/(オイル重量×オイル中の濃度)×100(%)
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示した通り、抽出溶剤として、エタノール、水およびイソプロパノールの混合溶剤を用いた本発明品1は、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品1と比べ、エレモールの抽出率が1.09倍となり、リモネンの抽出率も1.13倍となっていたが、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。風味的にはブラックペッパー香気の力価が全体的に強く、フレッシュ感、スパイシー感、ウッディー感があった。濾過時間については比較品1よりやや短縮された。
【0046】
抽出溶剤として、エタノール、水および食塩の混合溶剤を用いた本発明品2は、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品1と比べ、エレモールの抽出率が1.17倍となり、リモネンの抽出率も1.17倍となっていたが、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。また、風味的にも、ブラックペッパーの香気が全体的に強く、特に、トップの軽いフレッシュ感が強く、ややスパイシー感、ウッディー感があった。濾過については極めてスムーズにでき、濾過時間は本発明品1と比べて1/3以下であり、従来の通常の製法である比較品1と比べると1/5以下に短縮された。
【0047】
本発明品1の溶剤組成としてイソプロパノールを増やした本発明品3は、比較品1と比べエレモールの抽出率が1.17倍となり、リモネンの抽出率も1.77倍となっていた。しかしながら、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。また、風味的にも、ブラックペッパーの香気が全体的にかなり強く、特に、トップの軽いフレッシュ感が強く、スパイシー感およびウッディー感がいずれもかなり強かった。濾過時間については比較品1と比べやや短縮された。
【0048】
比較品2は、比較品1のエタノール濃度を高めたものであり、エレモールの抽出率は比較品1の1.21倍に上がっていた。しかしながら、リモネンの抽出率は3.22倍となり、抽出物中に炭化水素が多量に含まれてしまった結果、糖酸溶液に添加したときに、濁り、油浮きが生じてしまった。また、風味的には全体のまとまりがないものであった。
【0049】
以下の実施例4〜8および比較例3、4においてはレモンオイルを原料としたが、抽出液の評価において、テルペン炭化水素としてリモネン濃度を、含酸素成分としてシトラール濃度を指標とした。
【0050】
実施例4
エタノール500g、水400gおよびプロパノール100gを混合し、混合溶剤とした。ここに、イタリア産レモンコールドプレスオイル(リモネン濃度68%、シトラール濃度3.5%)100gを加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、清澄な濾液(本発明品4)971gを得た(濾過所要時間7分35秒)。
本発明品4の物性;リモネン濃度:0.63%、シトラール濃度:0.29%、680nmにおける吸光度:0.031、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.016
【0051】
実施例5
実施例4において、混合溶剤の組成をエタノール400g、水400gおよびプロパノール200gとする以外は、実施例4と全く同じ操作を行い、本発明品5(968g)を得た。濾過所要時間は、8分05秒であった。
本発明品5の物性;リモネン濃度:0.96%、シトラール濃度:0.30%、680nmにおける吸光度:0.035、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.025
【0052】
実施例6
実施例4において、混合溶剤の組成をエタノール300g、水400gおよびプロパノール300gとする以外は、実施例4と全く同じ操作を行い、本発明品6(972g)を得た。濾過所要時間は、8分24秒であった。
本発明品6の物性;リモネン濃度:1.25%、シトラール濃度:0.31%、680nmにおける吸光度:0.029、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.042
【0053】
実施例7
実施例4において、混合溶剤の組成をエタノール200g、水500gおよびプロパノール300gとする以外は、実施例4と全く同じ操作を行い、本発明品7(964g)を得た。濾過所要時間は、8分35秒であった。
本発明品7の物性;リモネン濃度:0.77%、シトラール濃度:0.31%、680nmにおける吸光度:0.033、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.021
【0054】
実施例8
実施例4において、混合溶剤の組成をエタノール100g、水600gおよびプロパノール300gとする以外は、実施例4と全く同じ操作を行い、本発明品8(957g)を得た。濾過所要時間は、7分29秒であった。
本発明品8の物性;リモネン濃度:0.53%、シトラール濃度:0.30%、680nmにおける吸光度:0.028、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.013
【0055】
比較例3
実施例4において、混合溶剤の組成をエタノール600gおよび水400gとする以外は、実施例4と全く同じ操作を行い、比較品3(959g)を得た。濾過所要時間は、10分23秒であった。
比較品3の物性;リモネン濃度:0.49%、シトラール濃度:0.26%、680nmにおける吸光度:0.034、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.025
【0056】
比較例4
実施例4において、混合溶剤の組成をプロパノール600gおよび水400gとする以外は、実施例4と全く同じ操作を行い、比較品4(958g)を得た。濾過所要時間は、17分56秒であった。
比較品4の物性;リモネン濃度:3.77%、シトラール濃度:0.35%、680nmにおける吸光度:0.033、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.156
【0057】
官能評価
本発明品4〜8および比較品3、4を、糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加し、良く訓練されたパネラー10名により、外観及び官能の評価を行った。その平均的な評価結果を表3に示す。
【0058】
また、本発明品4〜8および比較品3、4のレモンオイルからのシトラールおよびリモネンの抽出率を示した。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示した通り、抽出溶剤として、エタノール、プロパノールおよび水の混合溶剤を用いた本発明品4は、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品3と比べ、シトラールの抽出率が1.13倍となり、また、リモネンの抽出率も1.30倍となっていた。しかしながら、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。風味的には、ややレモンの香気が強く、オイリー感およびピーリー感が強く、トップにフレッシュ感があり、また、ボリューム感があった。濾過時間については比較品3よりやや短縮された。
【0061】
また、抽出溶剤として、エタノール、水およびプロパノールの混合比率を変えた混合溶剤を用いた本発明品5〜8はいずれも、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品3と比べ、シトラールおよびリモネンの抽出率が上がっていたが、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。また、風味的にも、レモンの香気が全体的に強く、特に、トップの軽いフレッシュ感およびオイリー感、ボリューム感が強かった。濾過時間については、いずれも、比較品3より短縮された。
【0062】
比較品4は、比較品3のエタノールをすべてプロパノールに置き換えたものであり、シトラールの抽出率は比較品1の1.27倍に上がっていた。しかしながら、リモネンの抽出率は7.7倍となり、抽出物中に炭化水素が多量に含まれてしまった結果、糖酸溶液に添加したときに、濁り、油浮きが生じた。また、風味的に全体のまとまりがなかった。
【0063】
以下の実施例9〜11および比較例5においてはオレンジオイルを原料としたが、抽出液の評価において、テルペン炭化水素としてリモネン濃度を、含酸素成分としてデカナール濃度を指標とした。
【0064】
実施例9
エタノール500g、水400gおよびイソプロパノール100gを混合し、混合溶剤とした。これに、オレンジコールドプレスオイル(リモネン濃度94%、デカナール濃度1.25%)100gを加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、清澄な濾液(本発明品9)985gを得た(濾過所要時間7分35秒)。
本発明品9の物性;リモネン濃度:0.75%、デカナール濃度:0.100%、680nmにおける吸光度:0.028、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.016
【0065】
実施例10
実施例9において、混合溶剤の組成をエタノール500g、水400g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gとする以外は、実施例9と全く同じ操作を行い、本発明品10(979g)を得た。濾過所要時間は、8分32秒であった。
本発明品10の物性;リモネン濃度:0.88%、デカナール濃度:0.105%、680nmにおける吸光度:0.026、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.018
【0066】
実施例11
実施例9において、混合溶剤の組成をエタノール500g、水400gおよびプロパノール100gとする以外は、実施例9と全く同じ操作を行い、本発明品11(983g)を得た。濾過所要時間は、9分55秒であった。
本発明品11の物性;リモネン濃度:0.97%、デカナール濃度:0.110%、680nmにおける吸光度:0.025、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.021
【0067】
比較例5
実施例9において、混合溶剤の組成をエタノール600gおよび水400gとする以外は、実施例9と全く同じ操作を行い、比較品5(966g)を得た。濾過所要時間は、11分23秒であった。
比較品5の物性;リモネン濃度:0.54%、デカナール濃度:0.095%、680nmにおける吸光度:0.035、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.026
【0068】
官能評価
本発明品9〜11および比較品5を、糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加し、良く訓練されたパネラー10名により、外観及び官能の評価を行った。その平均的な評価結果を表4に示す。
【0069】
また、本発明品9〜11および比較品5のオレンジオイルからのデカナールおよびリモネンの抽出率を示した。
【0070】
【表4】

【0071】
表4に示した通り、抽出溶剤として、エタノール、水およびイソプロパノールの混合溶剤を用いた本発明品9は、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品5と比べ、デカナールの抽出率が1.07倍となり、リモネンの抽出率も1.4倍となっていたが、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。風味的にも、力値が強く、トップに軽いフレッシュ感があり、また、ボリューム感があった。濾過時間については比較品5よりやや短縮された。
【0072】
抽出溶剤として、エタノール、水、イソプロパノールおよびプロパノールの混合溶剤を用いた本発明品10は、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品5と比べ、デカナールの抽出率が1.12倍となり、リモネンの抽出率も1.65倍となっていたが、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。風味的にも、オレンジの香気が全体的に強く、特に、トップの軽いフレッシュ感が強く、また、ややオイリーであるがボリューム感があった。濾過時間については比較品5よりやや短縮された。
【0073】
抽出溶剤として、エタノール、水およびプロパノールの混合溶剤を用いた本発明品11は、抽出溶剤として、エタノールおよび水の混合溶剤を用いた比較品5と比べ、デカナールの抽出率が1.17倍となり、リモネンの抽出率も1.82倍となっていた。しかしながら、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。風味的にも、オレンジの香気が全体的にかなり強く、特に、トップの軽いフレッシュ感が強く、また、ややオイリーであるがボリューム感があった。濾過時間については比較品5よりやや短縮された。
【0074】
参考例2
(ジンジャーオイルの調製)
インド産乾燥ジンジャー(ホール)20Kgをハンマーミル(スクリーン3mm)にて粉砕し、50Lカラムに仕込み、カラム下部より水蒸気を送り込み水蒸気蒸留し、留出液40Kgを得た。留出液上部に分離したオイル部を採取し、無水硫酸ナトリウムにて脱水した後、濾紙濾過して、ジンジャーオイル(精油)420gを得た(参考品2:対乾燥ジンジャー収率2.1%)。得られたジンジャーオイルは、ねっとりとし甘さと、さわやかな清涼感があり、レモンを思わせるフレッシュでシャープなトップノート、ウッディーでスパイシーなミドルノート、暖かくウッディーなベースノートを持っていた。また、ガスクロマトグラフィー法により、成分を分析した。主な成分を表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
なお、以下のジンジャーオイルに関する実施例12〜15の抽出液の評価において、テルペン炭化水素としてジンギベレン濃度を、含酸素成分としてゲラニアール濃度を指標とした。
【0077】
実施例12
エタノール500g、水400g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gを混合し、混合溶剤とした。これに、参考品2(100g)を加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、清澄な濾液(本発明品12)972gを得た(濾過所要時間8分45秒)。
本発明品12の物性;ジンギベレン濃度:0.191%、ゲラニアール濃度:0.207%、680nmにおける吸光度:0.025、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.017
【0078】
実施例13
実施例12において、混合溶剤の組成をエタノール500g、0.25%塩化カリウム水溶液400g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gとする以外は、実施例12と全く同じ操作を行い、本発明品13(974g)を得た。濾過所要時間は、1分35秒であった。
本発明品13の物性;ジンギベレン濃度:0.198%、ゲラニアール濃度:0.226%、680nmにおける吸光度:0.021、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.014
【0079】
実施例14
実施例12において、混合溶剤の組成をエタノール500g、0.05%塩化カリウム水溶液400g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gとする以外は、実施例12と全く同じ操作を行い、本発明品14(967g)を得た。濾過所要時間は、3分57秒であった。
本発明品14の物性;ジンギベレン濃度:0.193%、ゲラニアール濃度:0.213%、680nmにおける吸光度:0.023、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.015
【0080】
実施例15
実施例12において、混合溶剤の組成をエタノール500g、10%塩化カリウム水溶液400g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gとする以外は、実施例12と全く同じ操作を行い、本発明品15(976g)を得た。濾過所要時間は、1分13秒であった。
本発明品15の物性;ジンギベレン濃度:0.203%、ゲラニアール濃度:0.232%、680nmにおける吸光度:0.019、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度:0.008
【0081】
官能評価
本発明品12〜15を、糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加し、良く訓練されたパネラー10名により、外観及び官能の評価を行った。その平均的な評価結果を表6に示す。
【0082】
また、本発明品12〜15のジンジャーオイルからのジンギベレンおよびゲラニアールの抽出率を示した。
【0083】
【表6】

【0084】
表6に示した通り、抽出溶剤として、エタノール、水、イソプロパノールおよびプロパノールの混合溶剤を用いた本発明品12は、風味的に香気の力価が強く、軽いフレッシュ感が強く、また、ややスパイシー感、ウッディー感があった。また、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。
【0085】
抽出溶剤として、本発明品12に、さらに塩化カリウム(混合溶剤全体に対して0.1%)を加えた混合溶剤を用いた本発明品13は、本発明品12と比べ、ゲラニアールの抽出率が1.08倍となり、ジンギベレンの抽出率も1.02倍となっていた。しかしながら、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。また、風味的にも、ジンジャーの香気が全体的に強く、トップの軽いフレッシュ感、スパイシー感、ウッディー感のいずれもが強かった。濾過については極めてスムーズにでき、濾過時間は本発明品12と比べて1/5以下に短縮された。
【0086】
また、塩化カリウム添加量を混合溶剤全体に対して0.02%とした本発明品14でも、本発明品12と比べ、ゲラニアールおよびジンギベレンの抽出率は本発明品12よりもやや増加し、また糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。また、風味的にも、本発明品12と比べジンジャーの香気、トップの軽いフレッシュ感、スパイシー感、ウッディー感のいずれもがやや強かった。濾過時間についても本発明品12の1/2以下であった。
【0087】
一方、塩化カリウム添加量を混合溶剤全体に対して4%使用した本発明品15は、本発明品12と比べ、ゲラニアールおよびジンギベレンの抽出率は本発明品12より多く本発明品13よりもさらに多かった。また、糖酸溶液に添加しても、特に濁りや油浮きを生じることはなかった。また、風味的にも、本発明品12と比べジンジャーの香気、トップの軽いフレッシュ感、スパイシー感、ウッディー感のいずれもがかなり強かった。濾過時間についても本発明品12の1/7以下であり、極めて速かった。
【0088】
実施例16〜実施例30
実施例2において、0.25%硫酸ナトリウム水溶液400gに替えて、0.05%塩化ナトリウム水溶液400g(実施例16)、0.1%塩化ナトリウム水溶液400g(実施例17)、1%塩化ナトリウム水溶液400g(実施例18)、15%塩化ナトリウム水溶液400g(実施例19)、0.1%塩化カリウム水溶液400g(実施例20)、0.25%塩化カリウム水溶液400g(実施例21)、1%塩化カリウム水溶液400g(実施例22)、0.025%塩化カルシウム水溶液400g(実施例23)、0.1%塩化カルシウム水溶液400g(実施例24)、1%塩化カルシウム水溶液400g(実施例25)、0.1%塩化マグネシウム水溶液400g(実施例26)、0.1%炭酸マグネシウム水溶液400g(実施例27)、0.25%乳酸カルシウム水溶液400g(実施例28)、0.25%乳酸ナトリウム水溶液400g(実施例29)または0.25%クエン酸三ナトリウム水溶液400g(実施例30)を使用する以外は、実施例2と同じ操作を行い、本発明品16〜30を得た。
【0089】
それぞれにおける、濾過所要時間、リモネン濃度、エレモール濃度、リモネン抽出率、エレモール抽出率、680nmにおける吸光度、0.1%水溶液の680nmにおける吸光度および、糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加した時の、10名のパネラーによる外観および官能評価の平均的な評価を表7に示す。
【0090】
【表7】

【0091】
表7に示したとおり、いずれの電解質を使用しても、リモネンおよびエレモールの抽出率が上がり、それに伴い、風味が強まり、それにもかかわらず、吸光度は低下した。また、濾過時間はいずれの電解質を使用しても電解質濃度が高いほど短縮された。
【0092】
比較例6
エタノール500gおよび水500gを混合し混合溶剤とした。これに、シナモンオレオレジン16gを加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)に珪藻土20gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、懸濁した濾液(比較品6)935gを得た(濾過所要時間4時間5分10秒)。
【0093】
実施例31
比較例6において、混合溶剤の組成をエタノール400g、水500g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gとする以外は比較例6と全く同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品31)968gを得た(濾過所要時間36分25秒)。
【0094】
実施例32
比較例6において、エタノール400g、1%塩化カルシウム水溶液500g、イソプロパノール50gおよびプロパノール50gとする以外は比較例6と全く同じ操作を行い、清澄な濾液(減圧度13.33KPa)を行い、清澄な濾液(本発明品32)968gを得た(濾過所要時間10分38秒)。
【0095】
実施例33
比較例6において水500gに替えて1%塩化カルシウム水溶液500gを使用する以外は比較例6と同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品33)978gを得た(濾過所要時間22分15秒)。
【0096】
実施例34
比較例6において、混合溶剤の組成をエタノール400g、水500gおよびイソプロパノール100gとする以外は、比較例6と全く同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品34)978gを得た(濾過所要時間47分13秒)。
【0097】
比較例7
エタノール600gおよび水400gを混合し、混合溶剤とした。これに、ローズアブソリュート20gを加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、清澄な濾液(比較品7)966gを得た(濾過所要時間22分21秒)。
【0098】
実施例35
比較例7において水400gに替えて0.25%塩化カルシウム水溶液400gを使用する以外は比較例7と同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品35)982gを得た(濾過所要時間3分8秒)。
【0099】
実施例36
比較例7において、混合溶剤の組成をエタノール500g、水400gおよびプロパノール100gとする以外は、比較例7と全く同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品36)983gを得た(濾過所要時間7分35秒)。
【0100】
比較例8
エタノール500gおよび水500g混合溶剤とした。これに、ペパーミントオイル50gを加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、わずかに濁りのある濾液(比較品8)966gを得た(濾過所要時間35分38秒)。
【0101】
実施例37
比較例8において水500gに替えて0.2%塩化カルシウム水溶液500gを使用する以外は比較例8と同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品37)988gを得た(濾過所要時間5分24秒)。
【0102】
実施例38
比較例8において混合溶剤の組成をエタノール400g、水500gおよびプロパノール100gとする以外は、比較例8と全く同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品38)981gを得た(濾過所要時間9分13秒)。
【0103】
比較例9
エタノール600gおよび水400g混合溶剤とした。これに、ジンジャーオレオレジン20gを加え、25±2℃にて10分間攪拌抽出を行った。1時間静置後、下層(抽出溶剤層)を採取し、冷蔵庫にて4℃に冷却(16時間静置)し、4℃の温度を維持したまま、No.2濾紙(8cm)にセルロースパウダー10gをプレコートしたヌッチェを使用して一定圧力にて吸引濾過(減圧度13.33KPa)を行い、濁りのある濾液(比較品9)945gを得た(濾過所要時間2時間13分26秒)。
【0104】
実施例39
比較例9において水400gに替えて1%塩化カルシウム水溶液400gを使用する以外は比較例9と同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品39)977gを得た(濾過所要時間20分18秒)。
【0105】
実施例40
比較例9において混合溶剤の組成をエタノール500g、1%食塩水400gおよびイソプロパノール100gとする以外は、比較例9と全く同じ操作を行い、清澄な濾液(本発明品40)985gを得た(濾過所要時間6分24秒)。
【0106】
官能評価
本発明品31〜40および比較品6〜9を糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加し、良く訓練されたパネラー10名により、外観及び官能の評価を行った。その平均的な評価結果を表8に示す。
【0107】
【表8】

【0108】
表8に示した通り、いずれの原料(可食性材料から抽出して得られた油性液体)を使用したものも、本発明品は風味が2割程度強く、また、原料の風味の特徴的な部分がよく抽出されていた。また、本発明品は、いずれも、比較品と比べ、濾過時間が短縮されていた。シナモンオレオレジン、ペパーミントオイル、ジンジャーオレオレジンでは、特に比較品(コントロール)は濾過が非常に困難で、濾液に濁りがでてしまい、また、それを糖酸溶液に添加しても、濁っていたが、本発明品はいずれも濾液においても、糖酸溶液に添加しても透明であった。
【0109】
実施例41
本発明品31〜40および比較品6〜9を50℃にて1ヶ月および2ヶ月保存試験を行った。それぞれ保存後、糖酸溶液(6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液)に0.1%添加し、良く訓練されたパネラー10名により、外観及び官能の評価を行った。なお、比較品は5℃冷蔵庫に保存したものを使用した。その平均的な評価結果を表9に示す。
【0110】
【表9】

【0111】
表9に示した通り、いずれの原料(可食性材料から抽出して得られた油性液体)を使用したものにおいても、比較品に対して、本発明品は透明性、風味の保存安定性が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性材料から抽出して得られた油溶性液体を、以下の(A)〜(C)の混合溶剤で抽出することを特徴とする、水溶性抽出液の製造方法。
(A)エタノール
(B)水
(C)水混和性有機溶剤(エタノールを除く)および/または電解質
【請求項2】
(C)水混和性有機溶剤が、プロパノールおよび/またはイソプロパノールであることを特徴とする請求項1に記載の水溶性抽出液の製造方法。
【請求項3】
混合溶剤における(B)水の濃度が、混合溶剤を基準として20質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水溶性抽出液の製造方法。
【請求項4】
(A)エタノールと(C)水混和性有機溶剤(エタノールを除く)の比率が質量換算で9:1〜1:9の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性抽出液の製造方法。
【請求項5】
可食性材料から抽出して得られた油溶性液体が精油、香辛料抽出物、天然色素抽出物および柑橘油から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性抽出液の製造方法。
【請求項6】
(C)電解質の濃度が、混合溶剤を基準として0.01質量%〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水溶性抽出液の製造方法。
【請求項7】
(C)電解質が塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムおよびリン酸三マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶性抽出液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる水溶性抽出液。

【公開番号】特開2012−24(P2012−24A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135893(P2010−135893)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】