説明

水溶性架橋剤を用いた高親水性高分子共連続体

【課題】疎水性物質に対する非選択的吸着を抑制した親水性の高い高分子共連続体を提供すること。
【解決手段】少なくとも2個以上の重合可能な基及び少なくとも3個以上の水酸基を分子内に有し、分子内に−O−CH2−CH(OH)−CH2−で示される繰り返し単位を少なくとも3個以上含む水溶性架橋剤を光又は熱を用いたラジカル重合することにより得られる多孔性高分子共連続体であり、該多孔性高分子共連続体に目的物質を含む試料を接触させることを含む、目的物質を分離、分析、除去又は精製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性架橋剤を用いた高親水性高分子共連続体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機高分子共連続体(以下、有機ポリマーモノリス)としては、例えば、特許文献1などに記載されているものが知られている。即ち、特許文献1には、分離用媒体が入っている管である高性能液体クロマトグラフィーに適切なカラムにおいて、上記管が硬質管であり、そして該分離用媒体が、該硬質管内に配置されておりそしてこの硬質管の断面領域全体を横切って伸びているマクロ細孔有機ポリマーのワンピース連続プラグカラムであり、ここで、上記プラグカラムの厚さは少なくとも5mmであり、そして上記プラグカラムは、200nm未満の直径を有する小さい孔と、600nm以上の直径を有する大きな孔の両方を有しており、ここで、上記大きな孔が、このプラグカラムの全細孔容積の少なくとも10%を与えており、そしてここで、上記プラグカラムをポロゲン存在下の重合反応で製造することを特徴とするカラムが記載されている。しかしながら、従来報告されている有機ポリマーモノリスは、疎水性を有するモノリスであるか、又は無機モノリスである。
【0003】
一方、本発明者らは、非特許文献1に示すようなポリマーモノリスを報告している。非特許文献1では、水溶性架橋剤を用いてポリマーモノリスを製造することを報告しているが、非特許文献1に記載された水溶性架橋剤では、通水可能なモノリスを製造することは不可能である。
【0004】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, 45 (2007) 3811
【特許文献1】特許第3168006号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、疎水性物質に対する非選択的吸着を抑制した親水性の高い高分子共連続体を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、疎水的な相互作用を大幅に低減することを目的として、少なくとも1種類の水溶性架橋剤を用いて高分子共連続体を製造した結果、通水性,通気性に優れ,かつ極めて高い親水性を示す多孔性高分子共連続体できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、少なくとも2個以上の重合可能な基及び少なくとも3個以上の水酸基を分子内に有する水溶性架橋剤を重合することにより得られる、多孔性高分子共連続体が提供される。
好ましくは、水溶性架橋剤は、分子内に−O−CH2−CH(OH)−CH2−で示される繰り返し単位を少なくとも3個以上含む化合物である。
【0008】
好ましくは、水溶性架橋剤は、式(1)で示される化合物である。
【化1】

【0009】
好ましくは、多孔質化溶媒として、水、水溶性高分子、水溶性有機溶媒、及び非水溶性有機溶媒から選ばれる少なくとも1種以上の溶媒の存在下で水溶性架橋剤の重合を行う。
好ましくは、本発明の多孔性高分子共連続体は、光又は熱を用いたラジカル重合により製造される。
【0010】
本発明によればさらに、分子内に少なくとも3個以上の水酸基を有する水溶性架橋剤を重合することを含む、本発明の多孔性高分子共連続体の製造方法が提供される。
本発明によればさらに、本発明の多孔性高分子共連続体に目的物質を含む試料を接触させることを含む、目的物質を分離、分析、除去又は精製する方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明による多孔性高分子共連続体(ポリマーモノリス)は、高親水性を有し、生体関連物質の分離や精製のためのクロマトグラフィー用カラム、前処理剤、又は除去剤等として広く応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の多孔性高分子共連続体は、少なくとも2個以上の重合可能な基及び少なくとも3個以上の水酸基を分子内に有する水溶性架橋剤を重合することにより得られるものである。
【0013】
本発明で用いる水溶性架橋剤における重合可能な基としては、エチレン性二重結合が好ましい。
【0014】
本発明で用いる水溶性架橋剤としては、(メタ)アクリレート系架橋剤、(メタ)アクリルアミド系架橋剤、芳香族架橋剤などが挙げられる
【0015】
本発明で用いる水溶性架橋剤としては、特に好ましくは、分子内に−O−CH2−CH(OH)−CH2−で示される繰り返し単位を少なくとも3個以上含む化合物であり、具体的には、式(1)で示される化合物などを挙げることができる。
【化2】

【0016】
本発明では、多孔質化溶媒として、水、水溶性高分子、水溶性有機溶媒、及び非水溶性有機溶媒から選ばれる少なくとも1種以上の溶媒の存在下で水溶性架橋剤の重合を行うことができる、水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、ポリエチレングリコール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、などを挙げることができる。水溶性高分子溶媒の具体例として、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。また、非水溶性有機溶媒の具体例としては、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、ドデカノール、シクロヘキサノールなどを挙げることができる。
【0017】
多孔質化溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、水溶性架橋剤の使用量に対して、一般的には50重量%から500重量%、好ましくは50重量%から200重量%の量で使用することができる。
【0018】
本発明では、上記した水溶性架橋剤を、多孔質化溶媒及び重合開始剤の存在下において重合させることによって多孔性高分子共連続体(有機ポリマーモノリス)を製造することができる。重合は、水溶性架橋剤、多孔質化溶媒及び重合開始剤を混合して得られる溶液又は懸濁液を、重合容器内に充填して行うことができる。
【0019】
本発明で用いることができる重合開始剤としては、熱重合開始剤(ラジカル性熱重合開始剤など)、光重合開始剤、レドックス重合開始剤などが挙げられる、熱重合開始剤が好ましい。重合開始剤としては、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(AIPD)などのアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル又は過酸化ジクロロベンゾイルなどの有機過酸化物を用いることができる。重合開始剤の比率は、モノマー混合物100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。
【0020】
本発明において重合温度は、熱重合、光重合、又はレドックス重合などの重合の種類などに応じて適宜設定されるが、熱重合の場合は、40〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。
【0021】
本発明において重合時間は、重合の種類、重合開始剤の種類と使用量、重合温度などに応じて適宜設定されるが、一般的には30分〜48時間程度であり、1〜24時間がより好ましい。
【0022】
本発明の多孔性高分子共連続体には、必要に応じて表面修飾してもよい。表面修飾の具体例としては、例えば、モノリス表面の水酸基などの官能基との反応、モノリス表面に残存する二重結合を用いたグラフト化、モノリス表面への吸着を利用したコーティングなどを挙げることができる。これらの表面修飾により、多孔性高分子共連続体に官能基を導入したり、多孔性高分子共連続体の疎水性を制御することができる。
【0023】
本発明の多孔性高分子共連続体は、例えば、カラム、キャピラリー、マイクロチャネル、カートリッジ、ディスク、フィルター、プレートなどの形態で使用することができる。本発明の多孔性高分子共連続体の具体的な用途としては、液体クロマトグラフィー、電気クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどをが挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また本発明者らは、水溶性架橋剤を用いて、分子インプリント法を用いた高分子分離媒体を開発している(特開2006−137805号公報 )。即ち、特開2006−137805号公報には、少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができるモレキュラーインプリンテッドポリマー(MIP)であって、水溶性ポリマー部分と、少なくとも1つの錯体形成部分であって、該錯体形成部分の各々が、該対象化合物の該イオン性官能基のいずれかとイオン結合による相互作用をすることができ、該錯体形成部分と該対象化合物の該イオン性官能基との間の各相互作用を介して、該MIPと該対象化合物とがイオン性錯体を形成し、該対象化合物を捕捉することができる位置で、該水溶性ポリマー部分に結合された少なくとも1つの錯体形成部分とを有するMIPが記載されている。本発明の多孔性高分子共連続体にモレキュラーインプリンテッドポリマーを形成させることにより、さらに優れた分離媒体を提供することができる。
【0025】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1:
以下に構造を示す水溶性架橋剤(エポキシエステル80MFA、共栄社化学株式会社製)と表1に示す組成により、キャピラリーカラムを調製した。
【0027】
【表1】

PEG:10%ポリエチレングリコール水溶液(分子量20,000)
【0028】
重合条件は以下に示す。
架橋剤:80MFA(0.50g)
開始剤:2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(AIPD)(13.0mg)
重合温度:50℃
重合時間:2時間
【0029】
キャピラリーカラム内に上記架橋剤、多孔質化溶媒、開始剤の混合溶液を充てんし、ウォーターバスを用いて重合した。重合後、クロマトグラフィー用送液ポンプを用いて、キャピラリーカラム内の溶媒及び未反応架橋剤を洗い流した。その際の洗浄溶媒には、水及びメタノールを使用した。
【0030】
実施例2:調製したポリマーモノリスの走査型電子顕微鏡写真
調製したキャピラリーカラムを切断し、その断面を走査型電子顕微鏡により評価し、モノリス型構造の変化を確認した。実施例1で調製したポリマーモノリスの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0031】
実施例3:調製したポリマーモノリスによる核酸塩基類の分離
調製したキャピラリーカラムを200 mmに切断し、液体クロマトグラフィー用カラムとして評価を行った。分析条件は図2、図3に示すとおりであるが、評価物質としては高親水性物質である核酸塩基類を使用した。図2では核酸塩基類の分離が達成されていないが、クロマトグラフィーにおける移動相(溶離液)のpHを変化することで、図3のように4種の核酸塩基を分離することが可能となった。これは、ポリマーモノリスの水酸基の効果によるものと予想され、極めて親水性の高いカラムで達成された結果であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、調製したポリマーモノリスの走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図2】図2は、調製したポリマーモノリスによる核酸塩基類の分離例を示す。(移動相のpHが7)
【図3】図3は、調製したポリマーモノリスによる核酸塩基類の分離例を示す。(移動相のpHが2.5)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個以上の重合可能な基及び少なくとも3個以上の水酸基を分子内に有する水溶性架橋剤を重合することにより得られる、多孔性高分子共連続体。
【請求項2】
水溶性架橋剤が、分子内に−O−CH2−CH(OH)−CH2−で示される繰り返し単位を少なくとも3個以上含む化合物である、請求項1に記載の多孔性高分子共連続体。
【請求項3】
水溶性架橋剤が、式(1)で示される化合物である、請求項1又は2に記載の多孔性高分子共連続体。
【化1】

【請求項4】
多孔質化溶媒として、水、水溶性高分子、水溶性有機溶媒、及び非水溶性有機溶媒から選ばれる少なくとも1種以上の溶媒の存在下で水溶性架橋剤の重合を行う、請求項1から3の何れかに記載の多孔性高分子共連続体。
【請求項5】
光又は熱を用いたラジカル重合により製造される、請求項1から4の何れかに記載の多孔性高分子共連続体。
【請求項6】
分子内に少なくとも3個以上の水酸基を有する水溶性架橋剤を重合することを含む、請求項1から5の何れかに記載の多孔性高分子共連続体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5の何れかに記載の多孔性高分子共連続体に目的物質を含む試料を接触させることを含む、目的物質を分離、分析、除去又は精製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−91503(P2009−91503A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265340(P2007−265340)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】