説明

水溶性重合体板状含水ゲルの製造方法

【課題】 (メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体などの水溶性重合体板状含水ゲルのベルト基材への付着を防止しながら安定に連続的に水溶性重合体板状含水ゲルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ステンレス製ベルト基材を有するベルト重合機を用いて、該ベルト基材面上で重合性単量体を重合させることにより連続的に水溶性重合体板状含水ゲルを製造するに際して、ベルト重合機の終端部において、該含水ゲルに水平ないし下方方向の引っ張りテンションをかけながら、往復運動する剥離用部材により、該含水ゲルとベルト基材面との接点に向けて間欠的に応力を与えて、当該ベルト基材面から板状含水ゲルを剥離させて水溶性重合体板状含水ゲルを製造方法する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性重合体板状含水ゲルのベルト重合機での効率的な製造方法に関する。より具体的には、(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体の板状含水ゲルの製造方法に関する。より詳しくは、医薬、塗料、製造プロセス、土木・建築等の種々の分野で多岐にわたって使用されている(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体の乾燥前段階である含水ゲルを剥離用部材を用いてベルト基材からの剥離を促す装置を設置した効率的なベルト重合機での製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水溶性重合体は、凝集性や増粘性等の特性を発揮することが知られており、特に(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体は、これらの特性に優れた重合体として工業的に有用なものである。例えば、医薬分野においては、湿布薬、パップ剤の粘着性や保水性の向上を目的とした添加剤や親水性軟膏基材として使用され、塗料分野においては、カーペット用コンパウンドの増粘剤、塗料の増粘剤や粘着剤、粘着性向上剤として使用されている。また、製造プロセスの分野においては、アルミナ製造時の赤泥沈降剤、ソーダ工業における塩水精製用凝集剤として多用されている。更に、土木・建築分野においては、掘削土処理剤や浚渫土処理剤、加泥剤として使用され、その他一般工業分野において、食品添加物、吸湿剤、乾燥剤、表面改質剤、各種増粘剤としても使用されている。このように(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体は種々の分野で多岐にわたって使用されている。
【0003】
このような(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体は、例えば、重合工程、ゲル解砕工程、乾燥工程等を経て製造され、通常では水溶液重合により(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体板状含水ゲル(以下、単に「含水ゲル」、「ゲル」ともいう)を製造することになる。(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体板状含水ゲルは、付着性があるので、重合により得られた含水ゲルが重合容器底面等に強く付着してしまうことがあり、この場合、含水ゲルを引き剥がす工程が必須となる。
【0004】
特に、このような(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体が、光ベルト重合法等の、ベルト重合機により連続的に水溶性重合体板状含水ゲルを製造する方法にあっては、板状含水ゲルが、ベルト基材に付着等を起こしてしまう場合があり、そのような場合は、含水ゲルをベルト基材から剥離するために引き剥がす工程が必須となり、連続的に生産することができない。更に付着の程度が強い場合、水溶性重合体板状含水ゲルが、ベルト基材終端部で重合機の下側まで巻き込まれ、工程がストップする等の多大な問題が発生する。
従来のベルト重合機にはゲルを剥離させる目的で、固定されたスクレーパーなどを設置する場合があるが、粘着牲の板状含水ゲルではスクレーパーとベルト基材との間のクリアランスから板状含水ゲルがベルト基材の進行方向に入り込んでしまうという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−45357号公報(第2、11−13頁等)
【特許文献2】特開2007−56222号公報(第2、13−18頁等)
【特許文献3】特開2006−213773号公報(第2頁等)
【特許文献4】特開2003−261626号公報(第2頁等)
【特許文献5】特開2002−3509号公報(第2、6頁等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、例えば(メタ)アクリル酸(塩)系水溶性重合体などの水溶性重合体板状含水ゲルのベルト基材への付着を防止しながら安定に連続的に水溶性重合体板状含水ゲルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究によれば、板状含水ゲルがベルト基材から持ち上がるところに固定されたスクレーパーを設置するのではなく、ベルト重合機の終端部において、水平ないし下方方向の引っ張りテンションをかけられた板状含水ゲルの下面であって板状含水ゲルとステンレス製ベルト基材との接点に向けて、前後に可動可能な剥離用部材を用いて少なくともどこか1点を突っつくようにして応力を与えれば前記目的が達成できることを知り、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ステンレス製ベルト基材を有するベルト重合機を用いて、該ベルト基材面上で重合性単量体を重合させることにより連続的に水溶性重合体板状含水ゲルを製造するに際して、ベルト重合機の終端部において、該含水ゲルに水平ないし下方方向の引っ張りテンションをかけながら、往復運動する剥離用部材により、該含水ゲルとベルト基材面との接点に向けて間欠的に応力を与えて、当該ベルト基材面から板状含水ゲルを剥離させることを特徴とする水溶性重合体板状含水ゲルの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明を採用することで、当該板状含水ゲルが金属ベルトに付着しても適宜、剥離が促されるのでベルト重合装置で長期にわたって連続的な製造が可能になる。これにより、製造効率が向上され、設備費、人件費等の費用を低減して経済的に有利なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ステンレス製ベルト基材を有するベルト重合機を用いて本発明の製造方法を実施する一態様を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、「ベルト」を「ベルト基材」又は「連続ベルト基材」ともいい、「ベルト面」を「ベルト基材面」ともいう。ベルト基材は、言い換えれば、基材ベルトでもある。例えば、「金属ベルト基材」を「金属基材ベルト」ともいい、「連続ベルト基材」を「連続基材ベルト」ともいう。ベルト重合機は、ベルト重合装置ともいう。「終端部」とは、ベルト基材上において、板状含水ゲルをベルト基材面より水平ないし下方にテンションをかける箇所であり、厳密にベルト重合機におけるベルト基材の折り返し部に限られるものではない。「クリアランス」は、本明細書中、ベルト基材とスクレーパーの間のすきまを意味する。連続ベルト基材とは、含水ゲルの連続的な製造を可能にするベルト重合機上のベルト基材であればよい。
【0012】
図1を用いて、本発明を説明する。ロール(1)はベルト重合機の終端部に設けられてなるものであり、ベルト基材上を運ばれてきた含水ゲル(G)は、ゲル自身の自重あるいはゲルに下向きのテンションをかけられて搬送用ロール(2)をかけて次工程(ゲルの切断、粉砕、乾燥工程など)に運ばれる。その際、本発明では剥離用部材(3)を設置し、該部材を連続的ないし間欠的に往復運動させながら、その先端部分で該含水ゲルとベルト基材面との接点を間欠的に押すなどの応力をかける。こうすることにより、長期にわたり、円滑にベルト基材面から含水ゲルを剥離させるというものである。
【0013】
水平ないし下方方向にゲル(G)を引っ張る角度は、回転軸(4)の中心をとおる鉛直面と該ゲルの平面が形成する角度をθ°とすれば、θ=5〜180、好ましくは10〜90、更に好ましくは15〜60、特に好ましくは20〜45である。また、ゲル(G)にかけるテンションは0.1〜5N/cm、好ましくは0.5〜3N/cmであり、最も好ましくはゲルの自重によるものである。
【0014】
剥離用部材が、間欠的に板状含水ゲルの下面に、すなわち板状含水ゲルの下面であって板状含水ゲルとステンレス製ベルト基材との接点に向けて応力を与えるので、ベルト重合機を用いて含水ゲルを該含水ゲルと接するベルト面から連続的に剥がし続けることになる。当該ベルト基材への付着が発生するか等の観測をする手間を省くには、製造中に連続的にその応力を付与することが好ましい。
【0015】
引き剥がすための形態は、特に限定されないが、重合の初期、すなわちベルト基材面に付着している含水ゲルの末端部分を初めにベルト基材面から剥離させる際には、ベルトの終端部で板状含水ゲルを人力、又は、なんらかの装置等で剥離させる。
【0016】
好ましくは、上記連続的な往復運動が、ベルト重合機のベルト基材の進行方向に沿ったもの、又は、進行方向に略平行の向きである形態である。言い換えれば、ベルト重合機のベルト基材の進行方向に略平行の向きで往復運動する剥離用部材により応力を与える形態が本発明の製造方法の好ましい実施形態である。ここで、「ベルト重合機のベルト基材の進行方向に略平行の向きで往復運動する」とは、ベルト重合機のベルト基材の進行方向に沿って往復運動することである。
【0017】
この剥離用部材の当該ベルト基材上の上記往復運動であるが、ベルト重合機の出口または終点部に、付設された剥離用部材(突っつき棒)の稼動用装置を介して行う形態が好ましい。稼動用装置とは、部材に往復運動を付与できる装置であれば特に限定しない。例えば、モーターからの回転軸が延長したクランク軸でありその一部架台に固定されたもので、モーターからの回転運動がクランクにより横方向の運動に変換され当該剥離用部材に往復運動をさせることができる。
【0018】
また、当該剥離用部材が油圧式のピストン装置に接続されていてもよい。その場合は、剥離用部材の動作時期、間隔等を油圧ピストンで適宜設定する。勿論これ以外の公知の稼動装置を使用してもよい。
【0019】
また、当該剥離用部材がベルト面を左右に移動する形態を併用してもよい。なお本明細書では、ベルト基材の両側に設置されたエッジロープの片方を左、もう一方の片方を右というようにして、この左右に移動する形態とすることも可能である。このように剥離用部材が移動することで、効率的に、当該板状ゲルの先端面あるいは板状含水ゲルの下面に対して間欠的に応力を与えることができる。
【0020】
上記剥離用部材の大きさは、本発明の製造方法におけるベルト重合機や含水ゲルの大きさ等に応じて適宜設定することができるが、例えば上記剥離用部材の幅の最大値は、1cm以上が好ましく、2cm以上のものがより好ましく、3cm以上のものが更に好ましい。上限は、例えば10cmが好ましい。また例えば上記剥離用部材の長さは、20cm以上のものが好ましく、30cm以上のものがより好ましく、50cm以上のものが更に好ましい。上限は、例えば200cmが好ましい。
【0021】
上記ベルト基材の大きさは、本発明の製造方法における生産規模に応じて適宜設定することができる。実製造装置におけるベルト基材の横幅は、例えば30cm以上が好ましく、50cm以上がより好ましく、100cm以上が更に好ましい。上限は、例えば200cmが好ましく、180cmがより好ましく、160cmが更に好ましい。
【0022】
本発明にかかる、剥離用部材の含水ゲル面に対する突っつき動作(往復運動)がなければ、人手による監視が必要となる場合があり工程を煩雑にする。また一旦連続生産の最中に、当該板状含水ゲルがベルト基材上に付着し、ベルト重合機の下部等への巻き込み現象や、ベルト基材上への持ち上がり現象等が発生すると、連続生産が不可能になり多大な問題が生じる。
【0023】
しかし、本発明にかかる、剥離用部材の含水ゲル面に対する突っつき動作(往復運動)を付与できる装置を採用した板状含水ゲルの製造装置を採用することで、上記問題点が解決できる。
【0024】
本発明の水溶性重合体板状含水ゲルの製造方法において、上記剥離用部材は、板状含水ゲルより表面硬度が高く、ステンレス製ベルト基材より表面硬度が低いことが好ましい。
すなわち、上記剥離用部材の材質であるが、剥離用部材の材質が、板状含水ゲルより表面硬度が高い材質であれば、本発明の製造方法が本発明の効果を発揮するうえで好適な形態となる。また、ベルト重合機の含水ゲルと接するベルト面(ベルト基材)より硬度がやわらかい材料であれば、すなわち、剥離用部材の材質が、ステンレス製基材より柔らかい材質であれば、ベルト面への傷がつきにくいので好ましく使用可能である。
例えば、ベルト基材の材質がSUS(ビッカース硬度で、およそ550N/mm2)である場合には、上記剥離用部材は、ビッカース硬度で400N/mm2以下、好ましくは300N/mm2以下の材料の使用が好ましい。より好ましくは、200N/mm2以下である。更に好ましくは、150N/mm2以下である。下限としては、10N/mm2以上が好ましく、20N/mm2以上がより好ましく、50N/mm2以上が更に好ましい。
【0025】
例えば、軟質金属の代表である真鍮は、ビッカース硬度で100N/mm2程度であり、より好ましい材質といえる。なお、ビッカース硬度の測定は,JIS Z2251で定められている。これは原理的には圧子痕の対角線長さを測定して計算される表面積で材料に負荷された荷重量を除したものである。また、ビッカース硬度は、対面角136°のダイヤモンド四角錐(圧子)を測定物に一定荷重で押し込み、出来たくぼみの大きさで硬さを測定するものである。
【0026】
本発明の水溶性重合体板状含水ゲルの製造方法において、上記剥離用部材は、樹脂及び軟質金属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
これにより、上記剥離用部材により間欠的に充分な応力を与えることが可能となるとともに、剥離用部材が連続的な使用に耐え得る強度を有するものとすることができ、またベルト基材等への傷をほぼ防止することが可能となり、本発明の製造方法がより効率的かつ安全なものとなる。
【0027】
上記軟質金属は、上述したように、板状含水ゲルより表面硬度が高く、ステンレス製ベルト基材より表面硬度が低いものであればよく、金属硬度の一般的な定義に従ってステンレスよりも軟質であると評価されるものであればよい。具体的には、その軟質金属の表面硬度が、JIS Z2251に規定されるビッカース硬度で、50N/mm2以上であるものを採用すれば、含水ゲルに充分な応力を与えることができ、300N/mm2以下であるものを採用すれば、SUS金属ベルト基材に傷がつきにくくなる。すなわち、上記軟質金属は、JIS Z2251に規定されるビッカース硬度による表面硬度が50〜300N/mm2であることが本発明の好ましい実施形態である。下限としては、より好ましくは、60N/mm2であり、更に好ましくは、80N/mm2である。上限としては、より好ましくは280N/mm2であり、更に好ましくは260N/mm2である。上記軟質金属としては、例えば、銅、錫、亜鉛、鉛、アルミニウム又は真鍮等のこれらの合金等が挙げられる。中でも、真鍮が好ましい。
【0028】
また、上記剥離用部材の材質が樹脂である形態もまた本発明の好ましい形態である。上記樹脂としては、例えばポリスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル/エチレン−プロピレン−ジエン/スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂等のスチレン系樹脂;メタクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;等が挙げられる。中でも、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂等が好ましく採用できる。比較的、耐溶剤性のある樹脂を採用することが好ましい。中でも、フッ素樹脂がより好ましく、テフロン(登録商標)が更に好ましい。フッ素樹脂であれば、硬度も適度で、更に樹脂表面への、板状含水ゲルの付着等の問題も発生しにくいので好ましい材質と言える。上記樹脂の好ましい表面硬度は、上述した軟質金属の好ましい表面硬度と同様である。
【符号の説明】
【0029】
1.ロール
2.ロール
3.剥離用部材
4.回転軸
G.ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス製ベルト基材を有するベルト重合機を用いて、該ベルト基材面上で重合性単量体を重合させることにより連続的に水溶性重合体板状含水ゲルを製造するに際して、ベルト重合機の終端部において、該含水ゲルに水平ないし下方方向の引っ張りテンションをかけながら、往復運動する剥離用部材により、該含水ゲルとベルト基材面との接点に向けて間欠的に応力を与えて、当該ベルト基材面から板状含水ゲルを剥離させることを特徴とする水溶性重合体板状含水ゲルの製造方法。
【請求項2】
剥離用部材は、ベルト重合機のベルト基材の進行方向と略平行の向きで往復運動する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
剥離用部材の表面硬度は、板状含水ゲルより高く、ステンレス製ベルト基材より低い請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
剥離用部材は、樹脂及び軟質金属からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
軟質金属は、JIS Z2251に規定されるビッカース硬度による表面硬度が50〜300N/mm2である請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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