水溶液から導電性または半導電性表面上に有機フィルムを形成する方法
本発明は、表面コーティングの分野に関し、前記コーティングは、有機フィルムの形態である。本発明は、より詳細には、少なくとも1種のプロトン性溶媒、このプロトン性溶媒に可溶性である少なくとも1種のラジカル重合開始剤、少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、および少なくとも1種の界面活性剤を含有する電解水溶液から導電性または半導電性表面上への電気化学的グラフティングによって、コポリマー有機フィルムを形成する方法に関する。本発明はまた、この方法を実施することによって得られる表面、特にマイクロ電子部品、生体医用装具またはスクリーニングキットの作製のためのその表面の適用、およびまたこの方法の間に用いられる電解液に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面コーティングの分野に関し、前記コーティングは、有機フィルムの形態である。本発明は、具体的には、単純で再現性のある様式でこれらの有機フィルムの形成を可能にするために適切に選択された前駆体の水溶液を用いて、導電性または半導電性表面上に電気化学的グラフティングによってコポリマー有機フィルムを形成するための方法、この方法を用いることによって得られる表面、および、特にマイクロ電子部品、生体医用装具またはスクリーニングキットの作製のためのその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、基材上に有機薄膜を形成するための、いくつかの技法が利用可能であり、それぞれは、適応した分子の系統または分類に基づく。
【0003】
英語名「スピンコーティング」で知られる遠心法を用いるコーティング方法または浸漬(ディップコーティング)もしくは蒸発(スプレーコーティング)に関連する方法は、堆積される分子と対象の基材との間のいずれの特定の親和性を必要としない。実際、堆積されるフィルムの粘着性は、フィルムの成分同士間の相互作用に本質的に基づいており、これは例えば、堆積された後に架橋することによって安定性を向上させることができる。これらの技法は、非常に万能で、覆われることになるすべての種類の表面に適用可能であり、非常に再現性がある。しかし、これらは、フィルムと基材との間のいかなる有効なグラフティング(これは単純な物理吸着の場合である)も可能にせず、生成する厚さは、特に最も薄い堆積物(20ナノメートル未満)に対して、制御することが困難である。さらに、スピンコーティング技法では、覆われる表面が本質的に平坦でない限り、均一な堆積物が可能にならない。「スプレーコーティング」によって得られるフィルムの品質は、スプレーによる表面の濡れに依存するが、これは、堆積物は、液滴が融合するまでフィルム様に本質的にならないためである。したがって、所与のポリマーに対して、堆積物の厚さおよび均一性を制御することに関して満足な結果をもたらすことのできる有機溶媒は、一般に1つか2つしか存在しない。
【0004】
支持体の表面上に有機コーティングを形成するための他の技法、例えば、M.Konuma、「Film deposition by plasma techniques」、(1992)Springer Verlag、Berlin;H.BiedermanおよびY.Osada、「Plasma Polymerization processes」、1992、Elsevier、Amsterdamによる論文に記載されている、プラズマ蒸着、または光化学活性化は、同様の原理に基づいており、覆われる表面に接近した所与の前駆体の不安定な誘導体を生成し、これは、基材上にフィルムを形成することによって発生する。プラズマ蒸着は、これらの前駆体のいずれの特定の性質も必要としないが、光活性化は、感光性前駆体の使用を必要とし、その構造は、光放射の影響下で進展する。これらの技法は、一般に付着性のフィルムの形成を生じさせるが、この付着性が、物体周囲の位相的に閉じたフィルムの架橋によるものか、界面結合の実際の形成によるものかを識別することは通常不可能である。
【0005】
単分子膜の自己組織化は、用いることが非常に簡単な技法である(A.Ulman、「An introduction to ultrathin organic films from Langmuir−Blodgett films to self−assembly」、1991、Boston、Academic Press)。やはり、この技法も、被覆される対象の表面に対して十分な親和性を有する分子前駆体の使用を必要とする。次に、前駆体−表面の組合せ、例えば、金または銀に対して親和性を有する硫黄化合物、シリカまたはアルミニウムのような酸化物に対するトリハロゲノシラン、グラファイトまたはカーボンナノチューブに対する多環芳香族などについて述べる。すべての場合において、フィルム形成は、分子前駆体の一部(例えば、チオールの場合の硫黄原子)と表面上のいくつかの「受容体」部位との間の特定の化学反応に基づく。化学吸着反応は、結合を確実なものにする。したがって、周囲温度および溶液中で、分子厚さ(10nm未満)のフィルムが得られる。しかし、酸化物表面を伴う組合せは、非常に堅固にグラフトされたフィルムの形成を生じさせる(シリカ上のトリハロゲノシランの化学吸着に関与するSi−O結合は、化学において最も安定なものの1つである。)が、これは、酸化物のない金属または半導体に興味がある場合、役に立たない。この場合、導電性表面と単分子膜との間の界面の結合は、脆弱である。したがって、金上のチオールの自己組織化単分子膜は、60℃超に加熱される場合、または周囲温度で良好な溶媒の存在下、またはそれが酸化もしくは還元液体媒体と接触する場合でも脱離する。同様の様式で、Si−O−Si結合は、それが水媒体、すなわち、特に熱の効果を伴った湿気の中にある場合、弱められる。
【0006】
ポリマーのエレクトログラフティング(electrografting)は、電極の役割および重合開始剤の役割を同時に果たす、対象の表面上の電気活性モノマーの電気的に誘発された連鎖の伝搬による開始および重合に基づく技法である(S.Palacinら、「Molecule−to−metal bonds:electrografting polymers on conducting surfaces.」、ChemPhysChem、2004、10、1468)。エレクトログラフティングは、還元による開始の機構および伝搬の機構に適応し、一般にアニオン性である前駆体の使用を必要とするが、これは、貴金属にのみ適用可能なアノードのエレクトログラフティングよりも、貴金属および非貴金属に適用可能なカソードのエレクトログラフティングが、多くの場合好ましいためである。「欠乏ビニル(depleted vinyl)」分子、すなわち、アクリロニトリル、アクリレート、ビニルピリジンなどのような、官能性電子誘引基(electro−attractor group)の担体は、この方法に特に適応しており、これは、マイクロエレクトロニクスの領域および生物医学の領域においていくつかの用途を生み出す。エレクトログラフトされたフィルムの付着性は、炭素−金属型共有結合によって確実にされる(G.Deniauら、「Carbon−to−metal bonds:electrochemical reduction of 2−butenenitrile」、Surface Science、2006、600、675〜684)。
【0007】
このエレクトログラフティング技法によれば、重合は、炭素/金属界面結合の形成に不可欠であり、実際に(G.Deniauら、「Coupled chemistry revisited in the tentative cathodic electropolymerization of 2−butenenitrile.」、Journal of Electroanalytical Chemistry、1998、451、145〜161)、エレクトログラフティングの機構は、表面上のモノマーの電解還元により進行して、不安定なラジカルアニオンを生じ、これは、他の重合可能な分子に接近していない場合、溶液へ脱着することが示された(前掲書中)。脱着反応に加えて、遊離モノマー上に最初に化学吸着したラジカルアニオンの付加反応(マイケル付加型の)は、過渡的な化学種のための安定化経路を提供し、実際にこの付加の生成物は、新しいラジカルアニオンを生じ、その電荷はその時表面から「ある距離を置いて」存在し、吸着された構造を安定化するのに寄与する。二量体のラジカルアニオン自体は、別の遊離モノマーなどに再び付加されることができ、それぞれの新しい付加は、電荷/分極表面の反発の緩和によってさらなる安定性を与え、これは、最初の一時的なラジカルアニオンの界面結合は、重合が広がるにつれてますます安定になることを意味する。言い換えれば、重合することのできないビニルモノマーは、エレクトログラフトすることができないことが仮定された。
【0008】
上述した様々な技法の中で、エレクトログラフティングは、界面結合の特定の制御を伴った、グラフトフィルムを作製することを可能にする唯一の技法である。さらに、プラズマまたは光誘導性技法と対照的に、エレクトログラフティングは、対象の表面の隣接領域以外で反応化学種を生成しない(二重電気化学層において、その厚さは、大抵の場合、数ナノメートルである)。
【0009】
導電性表面上の活性化されたビニルモノマーのエレクトログラフティングによって、グラフトポリマーフィルムを得ることは、表面を発端とする重合反応のエレクトロイニシエーション(electro−initiation)とそれに続くモノマーごとの鎖の成長によって進行することが、現在では認められているように思われる。エレクトログラフティングの反応機構は、特にC.Bureauら、Macromolecules、1997、30、333;C.BureauおよびJ.Delhalle、Journal of Surface Analysis、1999、6(2)、159ならびにC.Bureauら、Journal of Adhesion、1996、58、101の論文において記載されてきた。
【0010】
例として、カソード分極によるアクリロニトリルのエレクトログラフティングの機構は、以下の図式Aによって表すことができる。
【0011】
【化1】
【0012】
この図式において、グラフティング反応はステップ1に対応し、ここで表面を発端として成長が起こる。ステップ2は、主要な寄生反応であり、非グラフトポリマーを導く。この反応は、高いモノマー濃度を用いることによって制限される。
【0013】
したがって、グラフト鎖の成長は、純粋に化学重合によって、すなわち、グラフティングを生じさせた導電性表面の分極とは無関係に行われる。したがって、このステップは、成長の化学阻害剤の存在、特にプロトンによって影響されやすい(および特に中断される)。
【0014】
カソード分極を用いるアクリロニトリルのエレクトログラフティングが考察される、上記の図式Aにおいて、グラフト鎖の成長は、アニオン重合によって行われる。この成長は、特にプロトンによって中断される。プロトンの量は、溶液中のポリマーの形成を制御する主要なパラメーターであることも実証された。合成の過程で得られる情報、特に合成に伴うボルタモグラムの形状がそれを示す(特に、C.Bureau、Journal of Electroanalytical Chemistry、1999、479、43による論文を参照されたい)。微量の水、およびより一般的にはプロトン性溶媒の不安定なプロトンが、グラフト鎖の成長に有害なプロトン源である。
【0015】
したがって、有機溶液を用いた、様々な前駆体のエレクトログラフティングによって、導電性または半導電性基材上に化学結合を生成する方法が知られているとしても、水溶液からエレクトログラフトフィルムを得ることは依然として困難であり、これは、対応する機構(アニオン型重合)が、水中での作用を妨げるためである。現在までのところ、アリールジアゾニウム塩のみが、この問題に対する解決に取り組むことを可能にしている。
【0016】
実際、例えば、仏国特許出願FR−A−2804973において記載されているように、正電荷を担持するアリールジアゾニウム塩などの前駆体のエレクトログラフティングは、カチオンの還元後の開裂反応に起因して行われることによって、表面上で化学吸着するラジカルを生じることができる。ポリマーのエレクトログラフティングと同じように、アリールジアゾニウム塩のエレクトログラフティング反応は、電気的に開始され、界面化学結合の形成を導く。ビニルポリマーのエレクトログラフティング反応と対照的に、アリールジアゾニウム塩のエレクトログラフティングは、電荷移動によって形成される化学吸着種を安定化するための、連動した化学反応を必要としないが、これはこの種が、電気的に中性であり、ビニルモノマーの場合のように負に荷電しないためである。したがって、これは、演繹的に、安定な表面/アリール基付加体を導く。
【0017】
しかし、特に仏国特許出願FR−A−2829046において、アリールジアゾニウム塩は、それ自体で成長することのできる有機フィルムを導くことが示された。初期表面にグラフティングが、電解開裂(electro−cleaving)および化学吸着反応によって行われたら、フィルムは、分極誘起反応(polarisation−induced reaction)によって導電性ポリマーとして成長するが、カソードにおいてである。これにより、アリールジアゾニウム塩のエレクトログラフティングから生じる有機フィルムの厚さを制御することが困難になる。一方、ジアゾニウム塩の水溶液とビニルモノマーの組合せは、ビニルモノマーが水に可溶性である条件下で、グラフトフィルムの形成を導くことができる。しかし、グラフトフィルムを得るこの方法は、一部のアクリル酸、一部のヒドロキシル化またはアミノ化ビニルモノマーのような、水に可溶性である希有なビニルモノマーに限られ、一般に低品質のフィルムになる(BellおよびZhang、Journal of Applied Polymer Science、1999、73、2265〜272による論文を参照されたい)。
【0018】
したがって、従来技術によって現在利用可能であるエレクトログラフティング反応は、有機溶液を用いて、様々な導電性および半導電性基材上に、ある特定の様々な有機フィルムを容易に得ることを可能にする。それにもかかわらず、産業の要求に応えるためにこの範囲を拡張すること、このような物質の利用特性およびしたがってその用途の可能性を多様化することが必要となろう。さらに、産業で用いられる手順は、周知のように有毒で高価な有機溶媒を使用する。したがって、産業にとって汚染がより少なく、より利益となる新規な方法を提案することも望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
現在、導電性または半導電性表面上に良好な品質のグラフト有機フィルムを作製することを可能にし、多種多様な重合可能なモノマーを用いて、プロトン性環境において、特に水性媒体において容易に実施することのできる方法は存在しない。
【0020】
本発明者らが、本発明の目的であることを実施したのは、この技術的問題を解決するためである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、多種多様なモノマー、特にビニルモノマー、好ましくは疎水性モノマーを用いて、プロトン性媒体、および特に水性媒体において、導電性または半導電性表面上にコポリマー有機フィルムを作製することが可能であることを、驚いたことに、また予想外に発見した。
【0022】
本発明者らは、以下の化学種:プロトン性溶媒、媒体に可溶性の開始剤、フリーラジカル機構に従って重合することのできるモノマーを含む電解液の電気分解による、導電性または半導電性表面上のコポリマー有機フィルムのための調製方法であって、重合可能なモノマーは、ミセル型で可溶化されることを特徴とする方法を実際に実施した。
【0023】
したがって、本発明は、導電性または半導電性表面上にグラフトコポリマー有機フィルムが得られるまで、電解液の電気分解によって、前記表面上に前記コポリマー有機フィルムを形成するための方法であって、
a)電解液は、
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)フリーラジカル重合のための、少なくとも1種のモノマー、
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含有し、
b)電解液の電気分解は、前記開始剤の還元電位(reducing potential)に少なくとも等しい還元電位で行われることを特徴とする方法を第1の目的として有する。
【0024】
本発明の意味において、「コポリマー」有機フィルムは、異なる化学種のいくつかのモノマーユニットから得られる任意のポリマーフィルム、特に、重合可能であり、特にフリーラジカル機構に従う、少なくとも1種のモノマー、およびやはり重合可能であり、プロトン性溶媒中に可溶性である、少なくとも1種の開始剤を用いて調製される任意のフィルムを意味する。
【0025】
本発明の意味において、「開始剤」は、電気化学反応によって導電性または半導電性表面上に化学吸着することができ、化学吸着後に炭素ラジカルに対して反応性である官能基を有する任意の有機分子として理解される。したがって、例えば、開始剤は、共役系、ハロゲノアルカン、およびアリールジアゾニウム塩の中で選択することができ、重合可能なモノマーは、ビニルモノマーの中で選択することができる。
【0026】
制限することなく、導電性または半導電性表面は、ステンレス鋼、鋼、鉄、銅、ニッケル、コバルト、ニオブ、アルミニウム、銀、チタン、酸化物を含むかまたは含まないシリコン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、タンタル、窒化タンタル、ならびに金、白金、イリジウム、および白金イリジウムの中で選択される少なくとも1種の金属で構成される貴金属表面の中で選択される。本発明の好ましい実施形態によれば、用いられる表面は、鋼、特にステンレス鋼、例えば、タイプ316、好ましくは316Lのステンレス鋼の表面である。
【0027】
本発明の意味において、開始剤は、最大0.5Mの濃度まで可溶性のままである、すなわち、その溶解度が、常温常圧条件下で少なくとも0.5Mに等しい場合、プロトン性溶媒中で可溶性であると見なされる。溶解度は、所与の溶媒中の溶質の比率の関数としての飽和溶液の分析組成として定義され、モル濃度で表すこともできる。所与の濃度の化合物を含有する溶液は、その濃度が、その溶媒中のその化合物の溶解度と等しい場合、飽和していると見なされるだろう。したがって、溶解度は、無限であってもよいのと同様に有限であってもよく、無限である場合、化合物は、考慮される溶媒中で任意の比率で可溶性である。
【0028】
プロトン性溶媒は、水、酢酸、メタノールおよびエタノールのようなヒドロキシル化溶媒、エチレングリコールなどの低分子量を有する液体グリコール、ならびにそれらの混合物の中で有利に選択される。本発明の特定の実施形態によれば、プロトン性溶媒は、非プロトン性溶媒との混合物中で用いることができ、得られる混合物は、プロトン性溶媒の特性を示すと理解されている。水は好ましいプロトン性溶媒であり、この水は、蒸留または脱イオン化されることは、特に興味深い。
【0029】
本発明によるフリーラジカル重合に対して好ましい開始剤は、アリールジアゾニウム塩である。
【0030】
アリールジアゾニウム塩の中で、以下の式(I)の化合物
R−N2+,A− (I)
(式中、
− Aは、一価のアニオンを表し、
− Rは、アリール基を表す)
を特に挙げることができる。
【0031】
上記式(I)の化合物のアリール基として、場合により一置換または多置換されており、それぞれが3から8個の原子を含む、1個または数個の芳香族環またはヘテロ芳香族環で構成されている、芳香族またはヘテロ芳香族の炭酸塩化された構造を特に挙げることができ、ヘテロ原子については、N、O、PまたはSとすることができる。1つまたは複数の置換基は、1個もしくは数個のヘテロ原子、例えば、N、O、F、Cl、P、Si、BrまたはSなど、ならびにアルキル基を含有することができる。
【0032】
上記式(I)化合物の中で、Aは、無機アニオン、例えば、I−、Br−、およびCl−のようなハロゲン化物、テトラフルオロボランなどのハロゲノボラン、ならびに有機アニオン、例えば、アルコラート、カルボキシレート、パークロレートおよびスルフェートの中で特に選択することができる。
【0033】
上記式(I)化合物の中で、Rは、電子求引基、例えば、NO2、CO、CN、CO2Hなど、エステルおよびハロゲンによって置換されているアリール基の中で選択されることが好ましい。特に好ましいアリール型の基Rは、ニトロフェニル基である。
【0034】
式(I)の化合物として、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロレート、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロリド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートおよびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートを用いることが特に有利である。
【0035】
本発明の方法によって用いられる電解液中に存在する開始剤の量は、実験者の要望に応じて変更することができる。この量は、所望のコポリマー有機フィルムの厚さ、ならびにフィルム中に取り込まれるのに望ましい開始剤の量に特に関係がある。したがって、用いられる全体の表面上にグラフトフィルムを得るために、空間充填計算によって推定することのできる、最小量の開始剤を用いることが必要である。本発明の特定の有利な一実施形態によれば、電解液内の開始剤の濃度は、約10−4と0.5Mの間である。
【0036】
「ラジカル的に(radically)重合可能な」モノマーは、開始剤による開始後にフリーラジカル機構に従って重合することのできるモノマーに相当する。これらのモノマーの中で、ビニルモノマーが特に関係し、特に仏国特許出願FR0502516ならびにFR0311491の番号で発行された仏国特許出願FR−A−2860523に記載されたモノマーが特に関係する。特に関係するモノマーは、考慮される溶媒中で任意の比率で可溶性である化合物と対照的に、溶媒中で最大ある一定の比率まで可溶性である、すなわちこの溶媒中でのその溶解度の値が有限であるものである。したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、「ラジカル的に重合可能な」モノマーは、プロトン性溶媒中での溶解度が有限であるモノマーの中で選択される。
【0037】
本発明の特に有利な実施形態によれば、1種または複数種のビニルモノマーは、以下の式(II)を有するモノマー
【0038】
【化2】
【0039】
[式中、基R1からR4は、同一であるか異なっており、ハロゲン原子もしくは水素原子などの一価の非金属原子、または飽和もしくは不飽和の化学基、例えば、アルキル、アリール基、−COOR5基(R5は、水素原子またはC1〜C6アルキル基を表す)、ニトリル、カルボニル、アミンまたはアミドを表す]
の中で選択される。
【0040】
上記式(II)の化合物の中で、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル;クロトノニトリル、ペンテンニトリル、クロトン酸エチルおよびそれらの誘導体;アクリルアミドならびに特にアミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルメタクリルアミド、シアノアクリレート、ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリアクリレートおよびトリメタクリレート、テトラアクリレートおよびテトラメタクリレート(ペンタエリトリトールテトラメタクリレートなど)、スチレンおよびその誘導体、パラクロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ビニル、アクリロイルまたはメタクリロイルハロゲン化物、ジビニルベンゼン(DVB)、ならびにより一般的にビニル架橋剤またはアクリレートもしくはメタクリレート基に基づいたもの、ならびにそれらの誘導体を特に挙げることができる。
【0041】
クロトノニトリル、ペンテンニトリル、およびクロトン酸エチルの誘導体の中で、他の化合物、例えば、エステル、対応する酸または当業者に知られている単純な化学反応によって容易に得られるそれらのアミン官能基によって結合されたアミノ化酸などを想定することが可能である。
【0042】
本発明による好ましいモノマーは、プロトン性溶媒中での溶解度が低いものである。したがって、本発明の方法によって用いることのできるモノマーは、プロトン性溶媒中でのその溶解度が、0.1M未満、最も好ましくは10−2と10−6Mの間である化合物の中で選択されることが好ましい。そのようなモノマーの中で、例えば、ブチルメタクリル酸を挙げることができ、常温常圧条件下で測定されるその溶解度は、約4.10−2Mである。本発明によれば、別段の指定のない限り、常圧常温条件(NPTC)は、25℃の温度および1.105Paの圧力に相当する。
【0043】
電解液中に存在する重合可能なモノマーの量は、実験者の要望に応じて変更することができる。この量は、用いられるプロトン性溶媒中での考慮されるモノマーの溶解度より多くてもよく、例えば、所与の温度で、前記モノマーの最大溶解度の18から40倍に相当してもよい。有利な実施形態によれば、この濃度は、約0.1Mと5Mの間である。
【0044】
界面活性剤は、親油性部分(無極性)および親水性部分(極性)を含有する分子である。本発明によって用いることのできる界面活性剤の中で、以下のものを挙げることができる。
【0045】
i)親水性部分が負に荷電しているアニオン性界面活性剤;それらは、好ましくは式(III)の化合物
R6−A−,Cat+ (III)
(式中、
− R6は、C1〜C20、好ましくはC1〜C14のアルキル基またはアリールを表し、
− A−は、スルホネート、スルフェート、ホスフェート、カルボキシレート、スルホスクシネートなどの中で選択されるアニオンであり、
− Cat+は、好ましくはアンモニウムイオン(NH4+)、テトラブチルアンモニウムなどの四級アンモニウム、ならびにNa+、Li+およびK+などのアルカリカチオンの中で選択される、カチオン性対イオンである)
の中から選択される。
【0046】
ii) 親水性部分が正に荷電しているカチオン性界面活性剤;それらは、好ましくは以下の式(IV)を有する四級アンモニウム
(R7)4−N+,An− (IV)
(式中、
− 基R7は、同一であるか異なっており、脂肪族鎖、例えばC1〜C20アルキル鎖、好ましくはC1〜C14アルキル鎖を表し、
− An−は、特に、テトラフルオロボレートなどのホウ素の誘導体、またはF−、Br−、I−もしくはCl−などのハロゲン化物イオンの中で選択される、アニオン性対イオンである)
の中で選択される。
【0047】
iii)同様の値で反対の符号の形式電荷を有する中性の化合物である、双性イオン界面活性剤;それらは、好ましくは以下の式(V)の化合物
Z−−R8−Z+ (V)
(式中、
− R8は、C1〜C20アルキル鎖、好ましくはC1〜C14アルキル鎖であり、
− Z−は、R8によって保有される負に荷電した官能基を表し、好ましくはスルフェートおよびカルボキシレートから選択され、
− Z+は、正に荷電した官能基、好ましくはアンモニウムを表す)
の中で選択される。
【0048】
iv)置かれている媒体に応じて、酸のように、または塩基のように同時に挙動する化合物である、両性界面活性剤;これらの化合物は、双性イオンの性質を有することができ、アミノ酸は、この系統の具体的な例である。
【0049】
v)中性界面活性剤(非イオン性):この界面活性剤の特性、特に親水性は、窒素や酸素などのヘテロ原子を含有する、無電荷の官能基、例えば、アルコール、エーテル、エステルまたはさらにアミドなどによって提供される。これらの官能基の親水性の寄与が小さいため、非イオン性界面活性剤の化合物は、最も通常には多官能性である。
【0050】
荷電界面活性剤は、もちろんいくつかの電荷を有することができる。
【0051】
上記式(III)の化合物の基R6のアリール基の様々な意味の中で、特に、置換されているか置換されていない、フェニル環を挙げることができ、アルキル基R6についての様々な意味の中で、C1〜C20アルキル鎖、および好ましくはC1〜C14アルキル鎖を挙げることができる。
【0052】
式(III)の化合物として、好ましくは、テトラエチルアンモニウムパラトルエンスルホネート、ドデシル硫酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウムスルホスクシネート、メチルベンゼンスルホネートおよびエチルベンゼンスルホネートが用いられる。
【0053】
上記式(IV)の四級アンモニウムにおけるR7基の様々な意味の中で、特に、メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびテトラデシル基を挙げることができる。
【0054】
式(IV)の化合物として、好ましくは、アンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド(TTAB)、C1〜C18脂肪族鎖を有するアルキルピリジニウムハロゲン化物、およびアルキルアンモニウムハロゲン化物が用いられる。
【0055】
双性イオン界面活性剤として、特に、N,N−ジメチルドデシルアンモニウムブタン酸ナトリウム、ジメチルドデシルアンモニウムプロパン酸ナトリウム、およびアミノ酸を挙げることができる。
【0056】
両性界面活性剤として、特に、ラウロアンホ二酢酸二ナトリウム(disodium lauroamphodiacetate)、アルキルアミノジプロピルベタインまたはラウリルヒドロキシスルホベタインのようなベタインを挙げることができる。
【0057】
非イオン性界面活性剤として、特に、ポリエトキシ化界面活性剤、例えばポリエチレングリコールラウリルエーテル(POE23またはBrij(登録商標)35)などのようなポリエーテル、ポリオール(糖から得られる界面活性剤)、特にグルコースアルキレート、例えば、グルコースヘキサネートなどを挙げることができる。
【0058】
本発明によって用いることのできる界面活性剤は、乳化剤でもあり、すなわち、それらが少量で存在する場合、それらはエマルジョンの形成を促進するか、凝集速度または融合速度またはその両方を減少させることによってコロイドの安定性を増大させる。光の拡散による液滴の大きさの測定のような、当業者に知られている技法による1つまたは他の速度の測定により、それぞれの場合において推奨される界面活性剤の中で、最良の乳化剤を決定することが可能になり得る。
【0059】
本発明による好ましい界面活性剤の中で、スルホネートなどのアニオン性界面活性剤、四級アンモニウム、およびポリオキシエチレンのような非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0060】
電解液中に存在することのできる界面活性剤の量は、調節可能であり、特にコポリマー有機フィルムの形成を可能にするのに十分でなければならない。界面活性剤の最小量は、同一組成であるが、多様な界面活性剤濃度を伴った電解液をサンプリングすることによって容易に決定することができる。一般的様式において、界面活性剤濃度は、臨界ミセル濃度(CMC)が達成されることになり、したがってミセルが形成されることになるようなものである。界面活性剤のCMCは、当業者に知られている方法によって、例えば、表面張力の測定によって決定することができる。
【0061】
電解液内の界面活性剤の濃度は、典型的には少なくともCMCに等しく、一般に約0.5mMと5Mの間、好ましくは約0.1mMと150mMの間である。推奨される界面活性剤の濃度は、通常10mMである。
【0062】
界面活性剤への関心は、溶媒中でミセルを形成するその能力に基づき、このミセルは、外部媒体からマクロラジカルを隔離することによって、マクロラジカルの成長を促進し、したがってフィルムの成長を確実にする。
【0063】
有利には、電解液のpHは、7未満であり、典型的には、2以下である。開始剤がジアゾニウム塩である場合、作業は、1.6と2.2の間のpHで行われることが推奨される。必要な場合、電解液のpHは、当業者に周知の1種または数種の酸性化剤を用いて、例えば、塩酸、硫酸などの鉱酸または有機酸を用いて、所望の値に調節することができる。
【0064】
媒体中のプロトンの存在は、水素ラジカルの形成を特に促進する。
【0065】
電解液の電気分解は、撹拌下で、例えば、機械的撹拌で、および典型的には磁気棒を用いて、または場合によって気体を通気することによって行われることが好ましい。
【0066】
この方法は、電気分解ステップの前に、特にサンディングおよび/またはポリッシングによって、コポリマー有機フィルムを形成することが望まれている表面を浄化する、追加のステップを含むことも好ましく、エタノールのような有機溶媒を用いての超音波を用いた補助的な処理も推奨される。プロトン性溶媒が、この方法を実施する前に脱気されるか、アルゴンのような不活性ガスを用いてパージされる場合も有利である。
【0067】
電解液に印加される電位は、重合の開始に対応する電気分解を可能にするために、少なくとも開始剤の電位に相当する必要がある。この電位は、プロトン性溶媒の電位より高くすることができ、したがってプロトン性溶媒が、多数のプロトンを含有する場合、媒体中で水素ラジカルが形成されることになり、これは、形成されたミセルの活性化により、フィルムの形成を促進することになる。
【0068】
本発明の第1の有利な実施形態によれば、電解液は、少なくとも1種の界面活性剤を含有し、pHは酸性であり、印加される電位は、水素ラジカルの形成を生じさせるのに十分である(すなわち、少なくも−0.8Vよりもカソード性である)。この場合、電解液が、かなりの比率の開始剤を含有する必要はなく、理論的に十分な量は、表面全体にわたる、開始剤のグラフティングによって得られる、「一次フィルム」と呼ばれる、有機フィルムを形成するのに必要な量に相当する。開始剤がジアゾニウム塩である場合、1回の電位走査は、ポリニトロフェニレン副層の形成を伴ったジアゾニウムの還元、次いでミセル中でラジカル重合を刺激する水素ラジカルの大量形成を伴ったH+の還元を伴うことになる。印加される電流は、mA.cm−2の程度であることが推奨され、有効電流密度は、好ましくは、10−4A.cm−2以下である。最適値は、考慮される表面上のグラフティング部位の平均数を用いて推定することができる。
【0069】
本発明の別の有利な実施形態によれば、開始剤の濃度は、例えば最大10−2Mまでかなり増加され、その結果、開始剤は、ミセル内での開始剤として、および表面上への一次付着のために同時に作用することができる。この場合、用いられる有効電位は、最大で、電解液内に存在する、考慮される開始剤の還元の電位値の5%より大きく、−0.8V以下のカソード性であることが好ましい。実際、表面反応を促進するために、有効電位を、表面上で反応する化合物の還元閾値に近い値にすることは有利である。
【0070】
電解液の電気分解は、リニアまたはサイクリックボルトアンペロメトリー(voltamperometry)条件下、定電位、動電位、インテンシオスタティック(intensiostatic)、定電流、動電流(galvanodynamic)下、あるいは単独またはパルスクロノアンペロメトリー条件下での分極によって独立して行うことができる。有利には、電気分解は、サイクリックボルトアンペロメトリー条件下での分極によって行われる。この場合、サイクルの数は、好ましくは1と100の間、さらにより好ましくは1と10の間となろう。
【0071】
導電性または半導電性表面上に形成されるコポリマー有機フィルムの厚さは、用いられる重合可能なモノマーおよび開始剤によって、当業者にとって経験的な様式で利用できる実験パラメーターの単純な変化によって制御される。したがって、限定的な様式で、サイクリックボルトアンペロメトリーの場合、膜厚は、走査の数によって制御することができる。膜厚は、電解活性種の初期濃度、課される最大電位値および分極時間によっても制御することができ、分極時間については、直接に、すなわち電気分解の時間で、またはボルトアンペロメトリーでの走査速度のバイアスによってのいずれかで変更することが可能である。
【0072】
したがって、本発明に適合する方法は、特に、フィルムを受けることを意図された表面を構成する第1の作用電極、対電極および参照電極の3つの電極を含む電気分解セル中で行うことができる。
【0073】
本発明は、その目的として、上述した方法を実施することによって得られる導電性または半導電性表面を有し、前記表面は、少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能な」モノマーおよび少なくとも1種のフリーラジカル開始剤でグラフトされたコポリマー有機フィルムによって少なくとも部分的に覆われている、少なくとも1つの面を含み、前記開始剤は、前記方法の過程において用いられる電解液に可溶性であるという事実を特徴とする。
【0074】
本発明によって得られるコポリマー有機フィルムは、有利には、5と1000nm(両端を含む)の間、さらにより好ましくは10と200nm(両端を含む)の間の厚さを有する。
【0075】
本発明によって得られる表面は、任意の種類の産業において、特に電子工学およびマイクロエレクトロニクス産業において(例えば、マイクロ電子部品の作製のために)、生体医用装具、例えば生体に埋め込み可能な装具(例えば、ステント)、スクリーニングキットなどの作製のために用いることができる。
【0076】
本発明によって用いられる電解液は新規であり、このため本発明の別の目的を構成する。
【0077】
したがって本発明は、目的として、
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」、および
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含むことを特徴とする電解液を有する。
【0078】
上記に定義したような式(II)、(IV)または(V)のうちの少なくとも1種の界面活性剤を含有する電解液は、本発明によって好ましい。
【0079】
そのような溶液の中で、特に好ましい電解液は、
i)水、エチレングリコール、エタノール、酢酸、およびそれらの混合物の中で選択されるプロトン性溶媒、
ii)アリールジアゾニウム塩の中で選択される、少なくとも1種の可溶性の開始剤、
iii)前記プロトン性溶媒中で有限の溶解度を有するビニルモノマーの中で選択される、少なくとも1種の重合可能なモノマー、および
iv)上記に定義したような式(III)、(IV)または(IV)のうちの少なくとも1種の界面活性剤
を含むものの中で選択される。
【0080】
最後に、本発明は、その目的として、導電性または半導電性表面上にグラフトされるコポリマー有機フィルムを作製するための、上記に定義したような少なくとも1種の電解液の使用を有する。
【0081】
先の条項に加えて、本発明は、引き続く記載に由来する他の条項も含み、これは、本発明の方法による鋼表面上のコポリマー有機フィルムの形成の実施例ならびに添付された図1から12を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
すべてのこれらの実施例は、本発明の例示のためだけに提供され、任意のいかなる制限も決して構成しないことを理解する必要がある。
実施例
上記に示した実施例は、約6cm2のステンレス鋼プレート上で行った。
【実施例1】
【0083】
ステンレス鋼表面上でグラフトされるポリアクリロニトリルの薄膜の水中での合成
この実施例および以下では、電気分解は、電解液2で満たされ、3つの電極を含むテフロン(登録商標)容器1中で、図1に示したアセンブリーに従って行った。上記に示したような、飽和カロメル電極(SCE)である参照電極5、白金の対電極4およびステンレス鋼の作用電極3。これらの電極は、PAR社(Princetown Applied Research)によって販売されているEG&G 273Aブランドの電位差計6に接続した。
【0084】
この実施例では、以下の電解液を調製した。
【0085】
プロトン性溶媒は、5mol.l−1の(a)アクリロニトリル(脱イオン水中でのその溶解度は、約1mol.l−1である)、1.45mol.l−1の(b)パラトルエンスルホネートテトラエチルアンモニウム(アニオン性界面活性剤)および1.8 10−3mol.l−1の(c)4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート(開始剤)を含有する脱イオン水である。この溶液のpHは、硫酸溶液を添加することによって2に調節した。用いた分子(a)、(b)および(c)を以下に表す。
【0086】
【化3】
【0087】
使用前に数時間、鋼のプレート(作用電極)を10μmのサンドペーパーで研き、次いで2μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末の溶液を用いて研磨した。
【0088】
次いでこのプレートをエタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0089】
電解液を、3つの電極を有する電気分解セル中に入れた。電解液をマグネチックスターラー(図1に示していない)によって撹拌し、電極の分極は、サイクリックボルタメトリーによって実施した。この系の平衡電位である0V付近と−1.1Vの間で、10mV/sの走査速度で10サイクルを行った。
【0090】
得られたボルタモグラムを、添付した図2に示す。
【0091】
主に、最初の走査で、プロトンの還元の傾向が観察され(約−0.6Vで始まる)、これは、ジアゾニウム塩のカチオンの還元(一般に−0.2V付近に位置する)を隠し、約−1Vを中心とした還元ピークが続く。これらのピークおよびその傾向は、ポリマーフィルムによるその漸進的な被覆の間の、電極の不動態化現象の特徴である。このフィルムは、実際には電解質中での可溶性が乏しく、したがって酸化還元反応に対するバリアに相当する。これは、電気分解セル中の電流の減少をもたらす。
【0092】
次いで、改変した表面を、超音波処理下でジメチルホルムアミド(DMF)中に3分間浸漬する。DMFは、ポリアクリロニトリル(PAN)の最善の溶媒の1つであると主張されている。この処理によって、金属の表面にグラフトされていない恐れのある任意のポリマーが除去される。次いでこの表面を、50/50(v/v)水/エタノールの混合物中に撹拌しながら浸漬することによって、あらゆる可能な微量のDMFを除去し、最後にアセトンですすぐ。
【0093】
次いで、このように処理した試料を、赤外分光法を用いて分析することによって、分子構造を決定する。得られた赤外線スペクトルを、添付した図3に示す。
【0094】
このスペクトルで、ポリアクリロニトリル(PAN)に特有である吸収バンドが見出され、特に2240cm−1付近のニトリル基の特性バンドが見出された。その強度は、1.5%の透過率に近く、これは約50ナノメートルの厚さに等しい。ポリニトロフェニレンの吸収バンドも、1530および1350cm−1に見える。
【0095】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、このコポリマーフィルムは、9割のPAN(約50nm)に対して1割のポリニトロフェニレン(約5nmの厚さに相当)を含むと推定することができる。この推定は、別々に調製し、IRおよびプロフィロメトリーによって特性を明らかにした、純粋なポリニトロフェニレンおよびPANの試料に基づく。
【0096】
ESCA分光法(化学分析のための電子分光法、これは、XPS:X線での光電子分光法と呼ばれる技法を伴う)も、この試料に対して行った。これにより、金属表面上にグラフトされたポリマーの外側層が、ビニルポリマー、この場合PANに実際に相当することを検証することが可能になった。実際、この技法は、試料の最後の15ナノメートル超で感度はよくないが、ポリニトロフェニレンのXPSマーカーであるNO2基は、この区域内に見出されない。実際、NO2基は、407eVに中心があるN 1sピークを示すが、ニトリル基のN 1sピークは、400eVに中心がある。添付されている図4は、先の試料のN 1sスペクトルを示す。
【0097】
フィルムの形成について提案される機構は、以下の図式Bによる、ジアゾニウム塩を用いた、ラジカルを生成する電流に基づく。
【0098】
【化4】
【0099】
このラジカルは、以下の図式Cによって、金属(作用電極)上にグラフトを形成した。
【0100】
【化5】
【0101】
過剰のニトロフェニルラジカルは、
− 以下の図式Dに示した機構によってグラフト層を厚くすることに関与するか、
【0102】
【化6】
【0103】
− または添付した図5に示した図式Eによって、モノマーのミセル7に取り込まれ、マクロラジカルを導くフリーラジカル重合反応を刺激する
ことができる。
【0104】
酸性媒体の場合、電流は、以下の反応によって水素ラジカルを形成することもできる。
【0105】
【化7】
【0106】
平衡状態は、化学種間で依然として存在する。重要性はより低いが、水素ラジカルの形成は、より小さい酸性pH値で観察される。ここでは同じ機構を適用することができる。
【0107】
このラジカルの一部は二量体化し、気体水素を生じる。
【0108】
【化8】
【0109】
ニトロフェニルラジカルのように、他の部分は、以下の図式Fに示した反応によって、アクリロニトリルのミセル中で重合を刺激することができる。
【0110】
【化9】
【0111】
したがって、ミセル中のマクロラジカルは、以下の図式Gに示した反応によって得られる。
【0112】
【化10】
【0113】
以下の図式Hによる停止反応は、ミセル中で起こり得る。
【0114】
【化11】
【0115】
その時、ポリマーは溶液中に残存することになる。
【0116】
これらのマクロラジカルは、電極表面上にグラフトされたポリニトロフェニレン上でも反応することによって、以下の図式Iによってフィルムを形成することもできる。
【0117】
【化12】
【0118】
ハメット則に従って、ラジカルは、メソメリック誘引物質NO2基のオルト位を攻撃し、次いで以下の図式Jに示した反応によって水素ラジカルを失うために、6炭素原子環の再芳香環化をもたらす。
【0119】
【化13】
【実施例2】
【0120】
エマルジョン(アニオン性界面活性剤)中での電解重合による、ステンレス鋼表面上のポリメタクリル酸ブチル(PBuMA)フィルムのグラフティング
表面を、予め10μmのサンドペーパー、次いで3μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末の溶液で研いた。次いでこの表面を、エタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0121】
反応媒体は、0.69mol.l−1のメタクリル酸ブチル(BuMA、水中での溶解度<0.1mol.l−1)、8mmol.l−1のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および2mmol.l−1の4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートの電解水溶液で構成した。溶液のpHは、純粋な硫酸を添加することによって1.70に調節した。電気分解の時点で、アルゴンを溶液に通気することによって、撹拌を維持した。この実施例に用いた分子を、以下に表す。
【0122】
【化14】
【0123】
ここで選択した電気化学パラメーターは、アルゴンを通気することによって撹拌しながら、10mV/sの速度で、−1.1Vの平衡状態での2サイクルであった。
【0124】
得られたボルタモグラムを、添付した図6に示す。
【0125】
このボルタモグラム上で、ジアゾニウムカチオンの還元は、−0.1V/SCE付近で識別することができ、−0.6V/SCE付近で始まるプロトンの還元傾向が続く。
【0126】
次いでこの試料を、超音波を用いたDMFでのすすぎに3分間かけ、最後に赤外分光法を用いて分析した。こうして得られたIRスペクトル(すすぎ前(7a):カルボニル結合:13%の透過率、およびすすぎ後(7b):カルボニル結合:12.5%の透過率)を、添付した図7に示す。
【0127】
1740cm−1のバンドは、エステル官能基COOC4H9のカルボニル基COに相当する。
【0128】
したがって、電極の表面上にグラフトされたポリBuMaが存在する。その透過率は、約13%であり、これは、約100ナノメートルの膜厚に相当する。
【0129】
1530cm−1および1350cm−1のバンドの存在が注目され、これらは、NO2基に相当する。1600cm−1のバンドは、ベンゼンの二重結合に相当する。
【0130】
ポリ(ニトロフェニレンブロックBuMA)コポリマーのスペクトルは、このように証明される。
【0131】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、グラフトされた層は、約15nmのポリニトロフェニレン(金属上にグラフトされた)およびポリニトロフェニレン上にグラフトされた約100nmのPAA(全体の厚さ115nm)から構成されると推定することができる。
【0132】
この試料に対してESCA(XPS)分析も行った(示していない)。これにより、金属の表面上にグラフトされたポリマーの外側層が、ビニルポリマー、この場合ポリBuMAに十分に相当することを検証することが可能になる。実際、この技法は、試料の最後の15ナノメートルまでしか感度はよくないが、それでもなお窒素のXPSマーカーは、この区域内に見出されない。これにより、この試料の外側層は、ポリBuMAだけを含有することを確認することが可能になる。
【0133】
電解液中に、開始剤、すなわちジアゾニウム塩を加えることなく、同じ実験を行った。
【0134】
これらの条件下で得られたフィルムの赤外線スペクトルを、添付した図8に示す。
【0135】
これらの条件下で、ポリマーフィルムは構築されない(開始剤の副層の不在)ことがわかる。この実験は、このグラフト層構築の一般的な機構を確証する。
【0136】
XPS分析も行った(示していない)。窒素レベル1sの不在により、試料の外側層(少なくとも最後の15ナノメートル)は、pBuMAのみを含有することを確認することが可能になる。
【0137】
これらの2つの最初の実施例は、本発明による方法により、ステンレス鋼基材上にグラフトされる有機フィルムを形成するための、水中で非常に異なる溶解度を有するモノマーの使用が可能になることを示す。
【0138】
以下の2つの実施例は、界面活性剤の性質の影響に専念されており、異なる系統の界面活性剤は、上述したような水中でのポリマーフィルムの形成を可能にすると結論づけることを可能にする。
【実施例3】
【0139】
エマルジョン(カチオン性界面活性剤)中での電解重合による、ステンレス鋼表面上のポリメタクリル酸ブチル(PBuMA)のフィルムのグラフティング
3つの電極を有するテフロン(登録商標)セル中で電気分解を行った。参照電極はSCEであり、対電極は炭素のプレートであり、作用電極はステンレス鋼(316L)であった。この電極を、EG&G273Aブランドの電位差計に接続した。
【0140】
表面を、予め10μmのサンドペーパー、次いで3μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末で研いた。次いでこの表面を、エタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0141】
反応媒体は、0.69mol.l−1のメタクリル酸ブチル、8mmol.l−1のアンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド(TTAB)、および4mmol.l−1の4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを含有する電解水溶液から構成した。溶液のpHは、純粋な硫酸を添加することによって1.7に調節した。電気分解時の間、アルゴンを溶液中に通気することによって、撹拌を維持した。
【0142】
ここで選択した電気化学パラメーターは、−1.1Vでの平衡電位、10mV/sの速度で、さらにアルゴンを通気することによって撹拌しながらの5サイクルであった。
【0143】
得られたボルタモグラムを、添付した図9に示す。
【0144】
このボルタモグラム上で、−0.3V/SCE前後でジアゾニウムカチオンの還元を識別することができ、約−0.5V/SCEから始まるプロトンの還元傾向が続く。
【0145】
次いで、この試料を、実施例1で上述したのと同じすすぎ処理にかけ、最後に赤外反射分光(IRRAS)を用いて分析した。これらの条件下で得られたフィルムのIRRAS赤外線スペクトルを、添付した図10に示す。
【0146】
1740cm−1のバンドは、エステル官能基COOC4H9のカルボニルCO基に相当する。
【0147】
したがって、電極の表面上にグラフトされたポリBuMAフィルムが実際に存在する。その透過率は、2%に近く、これは、約20ナノメートルのPBuMAの厚さに相当する。
【0148】
1530cm−1および1350cm−1のバンド(約3%の透過率)の存在に注目することができ、これはNO2基に相当する。
【0149】
1600cm−1のバンドは、ベンゼンの二重結合に相当する。
【0150】
このように、ポリ(ニトロフェニレンBuMA)コポリマーのスペクトルを認識することができる。
【0151】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、グラフトされた層は、約5nmのポリニトロフェニレン(金属上にグラフトされた)およびポリニトロフェニレン上にグラフトされた約20nmのPBuMAから構成されると推定することができる。
【0152】
この試料の少ない厚さは、ボルタモグラム上で確認される不動態化のピークの不在を説明することができる。−0.8V前後で、最初の走査での還元においてプラトーのみが観察される(添付した図9を参照されたい)。
【実施例4】
【0153】
エマルジョン(中性界面活性剤)中での電解重合による、ステンレス鋼表面上のポリメタクリル酸ブチル(PBuMA)のフィルムのグラフティング
3つの電極を有するテフロン(登録商標)セル中で電気分解を行った。参照電極はSCEであり、対電極は炭素のプレートであり、作用電極はステンレス鋼(316L)であった。この電極を、EG&G273Aブランドの電位差計に接続した。
【0154】
表面を、予め10μmのサンドペーパー、次いで3μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末の溶液で研いた。次いでこの表面を、エタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0155】
反応媒体は、0.69mol.l−1のメタクリル酸ブチル、8mmol.l−1のポリエチレングリコールラウリルエーテル(Aldrich社によって販売されているBrij(登録商標)35)、および4mmol.l−1の4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートの電解水溶液で構成した。溶液のpHは、純粋な硫酸を添加することによって1.7に調節した。電気分解時の間、アルゴンを溶液中に通気することによって、撹拌を維持した。
【0156】
この実施例に用いたBrij(登録商標)35は、以下の構造を有する。
【0157】
CH3−(CH2)11−O−(CH2−CH2−O)23−H
ここで選択した電気化学パラメーターは、アルゴン通気で撹拌しながら、10mV/sの速度で、−1.1Vの平衡電位での1サイクルであった。
【0158】
こうして得られたフィルムのボルタモグラムを、添付した図11に示す。
【0159】
このボルタモグラム上で、約−0.3V/SCEでジアゾニウムカチオンの還元を識別することができ、約−0.6V/SCEから始まるプロトンの還元傾向が続く。
【0160】
約−0.85Vに中心がある還元ピークも観察することができる。このピークは、ポリマーフィルムでのその被覆による、電極の不動態化現象の特徴である。このフィルムは、電解質中での可溶性が乏しく、したがって酸化還元反応に対するバリアに相当し、これは、電気分解セル中の電流を低下させる。
【0161】
次いで、この試料を、実施例1について上述したのと同じすすぎ処理にかけ、最後にIRRASを用いて分析した。これらの条件下で得られたフィルムの赤外線IRRASスペクトルを、添付した図12に示す。
【0162】
1740cm−1のバンドは、エステル官能基COOC4H9のカルボニルCO基に相当する。
【0163】
したがって、電極の表面上にグラフトされたポリBuMAフィルムが存在する。その透過率は、15%付近であり、これは、約120ナノメートルのPBuMAの厚さに相当する。
【0164】
1530cm−1および1350cm−1のバンド(約10%の透過率)の存在に注目することができ、これはNO2基に相当する。
【0165】
1600cm−1のバンドは、ベンゼンの二重結合に相当する。
【0166】
このように、ポリ(ニトロフェニレンBuMA)コポリマーのスペクトルを認識することができる。
【0167】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、グラフトされた層は、約15nmのポリニトロフェニレン(金属上にグラフトされた)およびポリニトロフェニレン上にグラフトされた約120nmのPBuMAから構成されると推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】上記実施例1において用いられる電気分解セルを表す。この電気分解セルは、電解液2で満たされた電気分解容器1で構成されており、この中に、1つのステンレス鋼の作用電極3、炭素のプレートで構成された対電極4および飽和カロメル電極(SCE)である、参照電極5の3つの電極が配置されている。この3つの電極は、電位差計6に接続されている。
【図2】アクリロニトリル(5M)、パラトルエンスルホネートテトラエチルアンモニウム(1.46M)、および4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート(0.0018M)の水溶液、pH=2.02、撹拌、ステンレス鋼作用電極、10mV/sの走査速度を用いて記録した、ボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;10サイクル)を表す。
【図3】水/エタノール溶液(50/50 v/v)、次いでアセトンですすいだ後の、図2について上述した電解液を用いて得られたコポリマー有機フィルムの赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))を表す。
【図4】図2について上述した電解液を用いて得られたコポリマー有機フィルムのX線光電子分光法(XPS)におけるN 1sスペクトルを表す。
【図5】マクロラジカルを保有している水溶液中のパラトルエンスルホネートテトラエチルアンモニウム(界面活性剤8)および4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートの存在下でのアクリロニトリルのミセルフリーラジカル重合(ミセル7)の図式Eを表す。
【図6】ブチルメタクリル酸(BuMA)0.69M、ドデシル硫酸ナトリウム8mM、および4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート2mMを含有する水溶液、pH=1.70、アルゴン通気による撹拌、ステンレス鋼の作用電極、走査速度10mV/sを用いて記録したボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;最初のサイクル)を表す。
【図7】超音波とともにジメチルホルムアミドで3分間すすぐ前(7a)とすすいだ後(7b)の、図6について上述した電解液を用いて得られた有機コポリマーフィルムの赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))を表す。
【図8】図6に施した条件と同じ条件においたが、ブチルメタクリル酸(BuMA)0.69Mおよびドデシル硫酸ナトリウム8mMのみを含有する、本発明の一部ではない(開始剤なし)電解水溶液を用いた、作用電極の赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))を表す。
【図9】0.69MのBuMA、8mMのアンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド、および2mMの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを含有する電解水溶液、pH=1.70、アルゴン通気での撹拌、ステンレス鋼の作用電極、10mV/sの走査速度を用いて記録したボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;最初と最後のサイクル)を表す。
【図10】水/エタノール溶液(50/50 v/v)、次いでアセトンですすいだ後の、図9について上述した電解液を用いて得られた有機コポリマーフィルムの反射による赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))(IRRAS)を表す。
【図11】0.69Mのメタクリル酸ブチル、8mMのBrij(登録商標)35、および2mMの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを含有する電解水溶液、pH=1.70、アルゴン通気での撹拌、ステンレス鋼の作用電極、10mV/sの走査速度を用いて記録したボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;単一サイクル)を表す。
【図12】水/エタノール溶液(50/50 v/v)、次いでアセトンですすいだ後の、図11について上述した電解液を用いて得られた有機コポリマーフィルムの反射による赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))(IRRAS)を表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面コーティングの分野に関し、前記コーティングは、有機フィルムの形態である。本発明は、具体的には、単純で再現性のある様式でこれらの有機フィルムの形成を可能にするために適切に選択された前駆体の水溶液を用いて、導電性または半導電性表面上に電気化学的グラフティングによってコポリマー有機フィルムを形成するための方法、この方法を用いることによって得られる表面、および、特にマイクロ電子部品、生体医用装具またはスクリーニングキットの作製のためのその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、基材上に有機薄膜を形成するための、いくつかの技法が利用可能であり、それぞれは、適応した分子の系統または分類に基づく。
【0003】
英語名「スピンコーティング」で知られる遠心法を用いるコーティング方法または浸漬(ディップコーティング)もしくは蒸発(スプレーコーティング)に関連する方法は、堆積される分子と対象の基材との間のいずれの特定の親和性を必要としない。実際、堆積されるフィルムの粘着性は、フィルムの成分同士間の相互作用に本質的に基づいており、これは例えば、堆積された後に架橋することによって安定性を向上させることができる。これらの技法は、非常に万能で、覆われることになるすべての種類の表面に適用可能であり、非常に再現性がある。しかし、これらは、フィルムと基材との間のいかなる有効なグラフティング(これは単純な物理吸着の場合である)も可能にせず、生成する厚さは、特に最も薄い堆積物(20ナノメートル未満)に対して、制御することが困難である。さらに、スピンコーティング技法では、覆われる表面が本質的に平坦でない限り、均一な堆積物が可能にならない。「スプレーコーティング」によって得られるフィルムの品質は、スプレーによる表面の濡れに依存するが、これは、堆積物は、液滴が融合するまでフィルム様に本質的にならないためである。したがって、所与のポリマーに対して、堆積物の厚さおよび均一性を制御することに関して満足な結果をもたらすことのできる有機溶媒は、一般に1つか2つしか存在しない。
【0004】
支持体の表面上に有機コーティングを形成するための他の技法、例えば、M.Konuma、「Film deposition by plasma techniques」、(1992)Springer Verlag、Berlin;H.BiedermanおよびY.Osada、「Plasma Polymerization processes」、1992、Elsevier、Amsterdamによる論文に記載されている、プラズマ蒸着、または光化学活性化は、同様の原理に基づいており、覆われる表面に接近した所与の前駆体の不安定な誘導体を生成し、これは、基材上にフィルムを形成することによって発生する。プラズマ蒸着は、これらの前駆体のいずれの特定の性質も必要としないが、光活性化は、感光性前駆体の使用を必要とし、その構造は、光放射の影響下で進展する。これらの技法は、一般に付着性のフィルムの形成を生じさせるが、この付着性が、物体周囲の位相的に閉じたフィルムの架橋によるものか、界面結合の実際の形成によるものかを識別することは通常不可能である。
【0005】
単分子膜の自己組織化は、用いることが非常に簡単な技法である(A.Ulman、「An introduction to ultrathin organic films from Langmuir−Blodgett films to self−assembly」、1991、Boston、Academic Press)。やはり、この技法も、被覆される対象の表面に対して十分な親和性を有する分子前駆体の使用を必要とする。次に、前駆体−表面の組合せ、例えば、金または銀に対して親和性を有する硫黄化合物、シリカまたはアルミニウムのような酸化物に対するトリハロゲノシラン、グラファイトまたはカーボンナノチューブに対する多環芳香族などについて述べる。すべての場合において、フィルム形成は、分子前駆体の一部(例えば、チオールの場合の硫黄原子)と表面上のいくつかの「受容体」部位との間の特定の化学反応に基づく。化学吸着反応は、結合を確実なものにする。したがって、周囲温度および溶液中で、分子厚さ(10nm未満)のフィルムが得られる。しかし、酸化物表面を伴う組合せは、非常に堅固にグラフトされたフィルムの形成を生じさせる(シリカ上のトリハロゲノシランの化学吸着に関与するSi−O結合は、化学において最も安定なものの1つである。)が、これは、酸化物のない金属または半導体に興味がある場合、役に立たない。この場合、導電性表面と単分子膜との間の界面の結合は、脆弱である。したがって、金上のチオールの自己組織化単分子膜は、60℃超に加熱される場合、または周囲温度で良好な溶媒の存在下、またはそれが酸化もしくは還元液体媒体と接触する場合でも脱離する。同様の様式で、Si−O−Si結合は、それが水媒体、すなわち、特に熱の効果を伴った湿気の中にある場合、弱められる。
【0006】
ポリマーのエレクトログラフティング(electrografting)は、電極の役割および重合開始剤の役割を同時に果たす、対象の表面上の電気活性モノマーの電気的に誘発された連鎖の伝搬による開始および重合に基づく技法である(S.Palacinら、「Molecule−to−metal bonds:electrografting polymers on conducting surfaces.」、ChemPhysChem、2004、10、1468)。エレクトログラフティングは、還元による開始の機構および伝搬の機構に適応し、一般にアニオン性である前駆体の使用を必要とするが、これは、貴金属にのみ適用可能なアノードのエレクトログラフティングよりも、貴金属および非貴金属に適用可能なカソードのエレクトログラフティングが、多くの場合好ましいためである。「欠乏ビニル(depleted vinyl)」分子、すなわち、アクリロニトリル、アクリレート、ビニルピリジンなどのような、官能性電子誘引基(electro−attractor group)の担体は、この方法に特に適応しており、これは、マイクロエレクトロニクスの領域および生物医学の領域においていくつかの用途を生み出す。エレクトログラフトされたフィルムの付着性は、炭素−金属型共有結合によって確実にされる(G.Deniauら、「Carbon−to−metal bonds:electrochemical reduction of 2−butenenitrile」、Surface Science、2006、600、675〜684)。
【0007】
このエレクトログラフティング技法によれば、重合は、炭素/金属界面結合の形成に不可欠であり、実際に(G.Deniauら、「Coupled chemistry revisited in the tentative cathodic electropolymerization of 2−butenenitrile.」、Journal of Electroanalytical Chemistry、1998、451、145〜161)、エレクトログラフティングの機構は、表面上のモノマーの電解還元により進行して、不安定なラジカルアニオンを生じ、これは、他の重合可能な分子に接近していない場合、溶液へ脱着することが示された(前掲書中)。脱着反応に加えて、遊離モノマー上に最初に化学吸着したラジカルアニオンの付加反応(マイケル付加型の)は、過渡的な化学種のための安定化経路を提供し、実際にこの付加の生成物は、新しいラジカルアニオンを生じ、その電荷はその時表面から「ある距離を置いて」存在し、吸着された構造を安定化するのに寄与する。二量体のラジカルアニオン自体は、別の遊離モノマーなどに再び付加されることができ、それぞれの新しい付加は、電荷/分極表面の反発の緩和によってさらなる安定性を与え、これは、最初の一時的なラジカルアニオンの界面結合は、重合が広がるにつれてますます安定になることを意味する。言い換えれば、重合することのできないビニルモノマーは、エレクトログラフトすることができないことが仮定された。
【0008】
上述した様々な技法の中で、エレクトログラフティングは、界面結合の特定の制御を伴った、グラフトフィルムを作製することを可能にする唯一の技法である。さらに、プラズマまたは光誘導性技法と対照的に、エレクトログラフティングは、対象の表面の隣接領域以外で反応化学種を生成しない(二重電気化学層において、その厚さは、大抵の場合、数ナノメートルである)。
【0009】
導電性表面上の活性化されたビニルモノマーのエレクトログラフティングによって、グラフトポリマーフィルムを得ることは、表面を発端とする重合反応のエレクトロイニシエーション(electro−initiation)とそれに続くモノマーごとの鎖の成長によって進行することが、現在では認められているように思われる。エレクトログラフティングの反応機構は、特にC.Bureauら、Macromolecules、1997、30、333;C.BureauおよびJ.Delhalle、Journal of Surface Analysis、1999、6(2)、159ならびにC.Bureauら、Journal of Adhesion、1996、58、101の論文において記載されてきた。
【0010】
例として、カソード分極によるアクリロニトリルのエレクトログラフティングの機構は、以下の図式Aによって表すことができる。
【0011】
【化1】
【0012】
この図式において、グラフティング反応はステップ1に対応し、ここで表面を発端として成長が起こる。ステップ2は、主要な寄生反応であり、非グラフトポリマーを導く。この反応は、高いモノマー濃度を用いることによって制限される。
【0013】
したがって、グラフト鎖の成長は、純粋に化学重合によって、すなわち、グラフティングを生じさせた導電性表面の分極とは無関係に行われる。したがって、このステップは、成長の化学阻害剤の存在、特にプロトンによって影響されやすい(および特に中断される)。
【0014】
カソード分極を用いるアクリロニトリルのエレクトログラフティングが考察される、上記の図式Aにおいて、グラフト鎖の成長は、アニオン重合によって行われる。この成長は、特にプロトンによって中断される。プロトンの量は、溶液中のポリマーの形成を制御する主要なパラメーターであることも実証された。合成の過程で得られる情報、特に合成に伴うボルタモグラムの形状がそれを示す(特に、C.Bureau、Journal of Electroanalytical Chemistry、1999、479、43による論文を参照されたい)。微量の水、およびより一般的にはプロトン性溶媒の不安定なプロトンが、グラフト鎖の成長に有害なプロトン源である。
【0015】
したがって、有機溶液を用いた、様々な前駆体のエレクトログラフティングによって、導電性または半導電性基材上に化学結合を生成する方法が知られているとしても、水溶液からエレクトログラフトフィルムを得ることは依然として困難であり、これは、対応する機構(アニオン型重合)が、水中での作用を妨げるためである。現在までのところ、アリールジアゾニウム塩のみが、この問題に対する解決に取り組むことを可能にしている。
【0016】
実際、例えば、仏国特許出願FR−A−2804973において記載されているように、正電荷を担持するアリールジアゾニウム塩などの前駆体のエレクトログラフティングは、カチオンの還元後の開裂反応に起因して行われることによって、表面上で化学吸着するラジカルを生じることができる。ポリマーのエレクトログラフティングと同じように、アリールジアゾニウム塩のエレクトログラフティング反応は、電気的に開始され、界面化学結合の形成を導く。ビニルポリマーのエレクトログラフティング反応と対照的に、アリールジアゾニウム塩のエレクトログラフティングは、電荷移動によって形成される化学吸着種を安定化するための、連動した化学反応を必要としないが、これはこの種が、電気的に中性であり、ビニルモノマーの場合のように負に荷電しないためである。したがって、これは、演繹的に、安定な表面/アリール基付加体を導く。
【0017】
しかし、特に仏国特許出願FR−A−2829046において、アリールジアゾニウム塩は、それ自体で成長することのできる有機フィルムを導くことが示された。初期表面にグラフティングが、電解開裂(electro−cleaving)および化学吸着反応によって行われたら、フィルムは、分極誘起反応(polarisation−induced reaction)によって導電性ポリマーとして成長するが、カソードにおいてである。これにより、アリールジアゾニウム塩のエレクトログラフティングから生じる有機フィルムの厚さを制御することが困難になる。一方、ジアゾニウム塩の水溶液とビニルモノマーの組合せは、ビニルモノマーが水に可溶性である条件下で、グラフトフィルムの形成を導くことができる。しかし、グラフトフィルムを得るこの方法は、一部のアクリル酸、一部のヒドロキシル化またはアミノ化ビニルモノマーのような、水に可溶性である希有なビニルモノマーに限られ、一般に低品質のフィルムになる(BellおよびZhang、Journal of Applied Polymer Science、1999、73、2265〜272による論文を参照されたい)。
【0018】
したがって、従来技術によって現在利用可能であるエレクトログラフティング反応は、有機溶液を用いて、様々な導電性および半導電性基材上に、ある特定の様々な有機フィルムを容易に得ることを可能にする。それにもかかわらず、産業の要求に応えるためにこの範囲を拡張すること、このような物質の利用特性およびしたがってその用途の可能性を多様化することが必要となろう。さらに、産業で用いられる手順は、周知のように有毒で高価な有機溶媒を使用する。したがって、産業にとって汚染がより少なく、より利益となる新規な方法を提案することも望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
現在、導電性または半導電性表面上に良好な品質のグラフト有機フィルムを作製することを可能にし、多種多様な重合可能なモノマーを用いて、プロトン性環境において、特に水性媒体において容易に実施することのできる方法は存在しない。
【0020】
本発明者らが、本発明の目的であることを実施したのは、この技術的問題を解決するためである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、多種多様なモノマー、特にビニルモノマー、好ましくは疎水性モノマーを用いて、プロトン性媒体、および特に水性媒体において、導電性または半導電性表面上にコポリマー有機フィルムを作製することが可能であることを、驚いたことに、また予想外に発見した。
【0022】
本発明者らは、以下の化学種:プロトン性溶媒、媒体に可溶性の開始剤、フリーラジカル機構に従って重合することのできるモノマーを含む電解液の電気分解による、導電性または半導電性表面上のコポリマー有機フィルムのための調製方法であって、重合可能なモノマーは、ミセル型で可溶化されることを特徴とする方法を実際に実施した。
【0023】
したがって、本発明は、導電性または半導電性表面上にグラフトコポリマー有機フィルムが得られるまで、電解液の電気分解によって、前記表面上に前記コポリマー有機フィルムを形成するための方法であって、
a)電解液は、
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)フリーラジカル重合のための、少なくとも1種のモノマー、
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含有し、
b)電解液の電気分解は、前記開始剤の還元電位(reducing potential)に少なくとも等しい還元電位で行われることを特徴とする方法を第1の目的として有する。
【0024】
本発明の意味において、「コポリマー」有機フィルムは、異なる化学種のいくつかのモノマーユニットから得られる任意のポリマーフィルム、特に、重合可能であり、特にフリーラジカル機構に従う、少なくとも1種のモノマー、およびやはり重合可能であり、プロトン性溶媒中に可溶性である、少なくとも1種の開始剤を用いて調製される任意のフィルムを意味する。
【0025】
本発明の意味において、「開始剤」は、電気化学反応によって導電性または半導電性表面上に化学吸着することができ、化学吸着後に炭素ラジカルに対して反応性である官能基を有する任意の有機分子として理解される。したがって、例えば、開始剤は、共役系、ハロゲノアルカン、およびアリールジアゾニウム塩の中で選択することができ、重合可能なモノマーは、ビニルモノマーの中で選択することができる。
【0026】
制限することなく、導電性または半導電性表面は、ステンレス鋼、鋼、鉄、銅、ニッケル、コバルト、ニオブ、アルミニウム、銀、チタン、酸化物を含むかまたは含まないシリコン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、タンタル、窒化タンタル、ならびに金、白金、イリジウム、および白金イリジウムの中で選択される少なくとも1種の金属で構成される貴金属表面の中で選択される。本発明の好ましい実施形態によれば、用いられる表面は、鋼、特にステンレス鋼、例えば、タイプ316、好ましくは316Lのステンレス鋼の表面である。
【0027】
本発明の意味において、開始剤は、最大0.5Mの濃度まで可溶性のままである、すなわち、その溶解度が、常温常圧条件下で少なくとも0.5Mに等しい場合、プロトン性溶媒中で可溶性であると見なされる。溶解度は、所与の溶媒中の溶質の比率の関数としての飽和溶液の分析組成として定義され、モル濃度で表すこともできる。所与の濃度の化合物を含有する溶液は、その濃度が、その溶媒中のその化合物の溶解度と等しい場合、飽和していると見なされるだろう。したがって、溶解度は、無限であってもよいのと同様に有限であってもよく、無限である場合、化合物は、考慮される溶媒中で任意の比率で可溶性である。
【0028】
プロトン性溶媒は、水、酢酸、メタノールおよびエタノールのようなヒドロキシル化溶媒、エチレングリコールなどの低分子量を有する液体グリコール、ならびにそれらの混合物の中で有利に選択される。本発明の特定の実施形態によれば、プロトン性溶媒は、非プロトン性溶媒との混合物中で用いることができ、得られる混合物は、プロトン性溶媒の特性を示すと理解されている。水は好ましいプロトン性溶媒であり、この水は、蒸留または脱イオン化されることは、特に興味深い。
【0029】
本発明によるフリーラジカル重合に対して好ましい開始剤は、アリールジアゾニウム塩である。
【0030】
アリールジアゾニウム塩の中で、以下の式(I)の化合物
R−N2+,A− (I)
(式中、
− Aは、一価のアニオンを表し、
− Rは、アリール基を表す)
を特に挙げることができる。
【0031】
上記式(I)の化合物のアリール基として、場合により一置換または多置換されており、それぞれが3から8個の原子を含む、1個または数個の芳香族環またはヘテロ芳香族環で構成されている、芳香族またはヘテロ芳香族の炭酸塩化された構造を特に挙げることができ、ヘテロ原子については、N、O、PまたはSとすることができる。1つまたは複数の置換基は、1個もしくは数個のヘテロ原子、例えば、N、O、F、Cl、P、Si、BrまたはSなど、ならびにアルキル基を含有することができる。
【0032】
上記式(I)化合物の中で、Aは、無機アニオン、例えば、I−、Br−、およびCl−のようなハロゲン化物、テトラフルオロボランなどのハロゲノボラン、ならびに有機アニオン、例えば、アルコラート、カルボキシレート、パークロレートおよびスルフェートの中で特に選択することができる。
【0033】
上記式(I)化合物の中で、Rは、電子求引基、例えば、NO2、CO、CN、CO2Hなど、エステルおよびハロゲンによって置換されているアリール基の中で選択されることが好ましい。特に好ましいアリール型の基Rは、ニトロフェニル基である。
【0034】
式(I)の化合物として、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロレート、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロリド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートおよびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートを用いることが特に有利である。
【0035】
本発明の方法によって用いられる電解液中に存在する開始剤の量は、実験者の要望に応じて変更することができる。この量は、所望のコポリマー有機フィルムの厚さ、ならびにフィルム中に取り込まれるのに望ましい開始剤の量に特に関係がある。したがって、用いられる全体の表面上にグラフトフィルムを得るために、空間充填計算によって推定することのできる、最小量の開始剤を用いることが必要である。本発明の特定の有利な一実施形態によれば、電解液内の開始剤の濃度は、約10−4と0.5Mの間である。
【0036】
「ラジカル的に(radically)重合可能な」モノマーは、開始剤による開始後にフリーラジカル機構に従って重合することのできるモノマーに相当する。これらのモノマーの中で、ビニルモノマーが特に関係し、特に仏国特許出願FR0502516ならびにFR0311491の番号で発行された仏国特許出願FR−A−2860523に記載されたモノマーが特に関係する。特に関係するモノマーは、考慮される溶媒中で任意の比率で可溶性である化合物と対照的に、溶媒中で最大ある一定の比率まで可溶性である、すなわちこの溶媒中でのその溶解度の値が有限であるものである。したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、「ラジカル的に重合可能な」モノマーは、プロトン性溶媒中での溶解度が有限であるモノマーの中で選択される。
【0037】
本発明の特に有利な実施形態によれば、1種または複数種のビニルモノマーは、以下の式(II)を有するモノマー
【0038】
【化2】
【0039】
[式中、基R1からR4は、同一であるか異なっており、ハロゲン原子もしくは水素原子などの一価の非金属原子、または飽和もしくは不飽和の化学基、例えば、アルキル、アリール基、−COOR5基(R5は、水素原子またはC1〜C6アルキル基を表す)、ニトリル、カルボニル、アミンまたはアミドを表す]
の中で選択される。
【0040】
上記式(II)の化合物の中で、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル;クロトノニトリル、ペンテンニトリル、クロトン酸エチルおよびそれらの誘導体;アクリルアミドならびに特にアミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルメタクリルアミド、シアノアクリレート、ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリアクリレートおよびトリメタクリレート、テトラアクリレートおよびテトラメタクリレート(ペンタエリトリトールテトラメタクリレートなど)、スチレンおよびその誘導体、パラクロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ビニル、アクリロイルまたはメタクリロイルハロゲン化物、ジビニルベンゼン(DVB)、ならびにより一般的にビニル架橋剤またはアクリレートもしくはメタクリレート基に基づいたもの、ならびにそれらの誘導体を特に挙げることができる。
【0041】
クロトノニトリル、ペンテンニトリル、およびクロトン酸エチルの誘導体の中で、他の化合物、例えば、エステル、対応する酸または当業者に知られている単純な化学反応によって容易に得られるそれらのアミン官能基によって結合されたアミノ化酸などを想定することが可能である。
【0042】
本発明による好ましいモノマーは、プロトン性溶媒中での溶解度が低いものである。したがって、本発明の方法によって用いることのできるモノマーは、プロトン性溶媒中でのその溶解度が、0.1M未満、最も好ましくは10−2と10−6Mの間である化合物の中で選択されることが好ましい。そのようなモノマーの中で、例えば、ブチルメタクリル酸を挙げることができ、常温常圧条件下で測定されるその溶解度は、約4.10−2Mである。本発明によれば、別段の指定のない限り、常圧常温条件(NPTC)は、25℃の温度および1.105Paの圧力に相当する。
【0043】
電解液中に存在する重合可能なモノマーの量は、実験者の要望に応じて変更することができる。この量は、用いられるプロトン性溶媒中での考慮されるモノマーの溶解度より多くてもよく、例えば、所与の温度で、前記モノマーの最大溶解度の18から40倍に相当してもよい。有利な実施形態によれば、この濃度は、約0.1Mと5Mの間である。
【0044】
界面活性剤は、親油性部分(無極性)および親水性部分(極性)を含有する分子である。本発明によって用いることのできる界面活性剤の中で、以下のものを挙げることができる。
【0045】
i)親水性部分が負に荷電しているアニオン性界面活性剤;それらは、好ましくは式(III)の化合物
R6−A−,Cat+ (III)
(式中、
− R6は、C1〜C20、好ましくはC1〜C14のアルキル基またはアリールを表し、
− A−は、スルホネート、スルフェート、ホスフェート、カルボキシレート、スルホスクシネートなどの中で選択されるアニオンであり、
− Cat+は、好ましくはアンモニウムイオン(NH4+)、テトラブチルアンモニウムなどの四級アンモニウム、ならびにNa+、Li+およびK+などのアルカリカチオンの中で選択される、カチオン性対イオンである)
の中から選択される。
【0046】
ii) 親水性部分が正に荷電しているカチオン性界面活性剤;それらは、好ましくは以下の式(IV)を有する四級アンモニウム
(R7)4−N+,An− (IV)
(式中、
− 基R7は、同一であるか異なっており、脂肪族鎖、例えばC1〜C20アルキル鎖、好ましくはC1〜C14アルキル鎖を表し、
− An−は、特に、テトラフルオロボレートなどのホウ素の誘導体、またはF−、Br−、I−もしくはCl−などのハロゲン化物イオンの中で選択される、アニオン性対イオンである)
の中で選択される。
【0047】
iii)同様の値で反対の符号の形式電荷を有する中性の化合物である、双性イオン界面活性剤;それらは、好ましくは以下の式(V)の化合物
Z−−R8−Z+ (V)
(式中、
− R8は、C1〜C20アルキル鎖、好ましくはC1〜C14アルキル鎖であり、
− Z−は、R8によって保有される負に荷電した官能基を表し、好ましくはスルフェートおよびカルボキシレートから選択され、
− Z+は、正に荷電した官能基、好ましくはアンモニウムを表す)
の中で選択される。
【0048】
iv)置かれている媒体に応じて、酸のように、または塩基のように同時に挙動する化合物である、両性界面活性剤;これらの化合物は、双性イオンの性質を有することができ、アミノ酸は、この系統の具体的な例である。
【0049】
v)中性界面活性剤(非イオン性):この界面活性剤の特性、特に親水性は、窒素や酸素などのヘテロ原子を含有する、無電荷の官能基、例えば、アルコール、エーテル、エステルまたはさらにアミドなどによって提供される。これらの官能基の親水性の寄与が小さいため、非イオン性界面活性剤の化合物は、最も通常には多官能性である。
【0050】
荷電界面活性剤は、もちろんいくつかの電荷を有することができる。
【0051】
上記式(III)の化合物の基R6のアリール基の様々な意味の中で、特に、置換されているか置換されていない、フェニル環を挙げることができ、アルキル基R6についての様々な意味の中で、C1〜C20アルキル鎖、および好ましくはC1〜C14アルキル鎖を挙げることができる。
【0052】
式(III)の化合物として、好ましくは、テトラエチルアンモニウムパラトルエンスルホネート、ドデシル硫酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウムスルホスクシネート、メチルベンゼンスルホネートおよびエチルベンゼンスルホネートが用いられる。
【0053】
上記式(IV)の四級アンモニウムにおけるR7基の様々な意味の中で、特に、メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびテトラデシル基を挙げることができる。
【0054】
式(IV)の化合物として、好ましくは、アンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド(TTAB)、C1〜C18脂肪族鎖を有するアルキルピリジニウムハロゲン化物、およびアルキルアンモニウムハロゲン化物が用いられる。
【0055】
双性イオン界面活性剤として、特に、N,N−ジメチルドデシルアンモニウムブタン酸ナトリウム、ジメチルドデシルアンモニウムプロパン酸ナトリウム、およびアミノ酸を挙げることができる。
【0056】
両性界面活性剤として、特に、ラウロアンホ二酢酸二ナトリウム(disodium lauroamphodiacetate)、アルキルアミノジプロピルベタインまたはラウリルヒドロキシスルホベタインのようなベタインを挙げることができる。
【0057】
非イオン性界面活性剤として、特に、ポリエトキシ化界面活性剤、例えばポリエチレングリコールラウリルエーテル(POE23またはBrij(登録商標)35)などのようなポリエーテル、ポリオール(糖から得られる界面活性剤)、特にグルコースアルキレート、例えば、グルコースヘキサネートなどを挙げることができる。
【0058】
本発明によって用いることのできる界面活性剤は、乳化剤でもあり、すなわち、それらが少量で存在する場合、それらはエマルジョンの形成を促進するか、凝集速度または融合速度またはその両方を減少させることによってコロイドの安定性を増大させる。光の拡散による液滴の大きさの測定のような、当業者に知られている技法による1つまたは他の速度の測定により、それぞれの場合において推奨される界面活性剤の中で、最良の乳化剤を決定することが可能になり得る。
【0059】
本発明による好ましい界面活性剤の中で、スルホネートなどのアニオン性界面活性剤、四級アンモニウム、およびポリオキシエチレンのような非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0060】
電解液中に存在することのできる界面活性剤の量は、調節可能であり、特にコポリマー有機フィルムの形成を可能にするのに十分でなければならない。界面活性剤の最小量は、同一組成であるが、多様な界面活性剤濃度を伴った電解液をサンプリングすることによって容易に決定することができる。一般的様式において、界面活性剤濃度は、臨界ミセル濃度(CMC)が達成されることになり、したがってミセルが形成されることになるようなものである。界面活性剤のCMCは、当業者に知られている方法によって、例えば、表面張力の測定によって決定することができる。
【0061】
電解液内の界面活性剤の濃度は、典型的には少なくともCMCに等しく、一般に約0.5mMと5Mの間、好ましくは約0.1mMと150mMの間である。推奨される界面活性剤の濃度は、通常10mMである。
【0062】
界面活性剤への関心は、溶媒中でミセルを形成するその能力に基づき、このミセルは、外部媒体からマクロラジカルを隔離することによって、マクロラジカルの成長を促進し、したがってフィルムの成長を確実にする。
【0063】
有利には、電解液のpHは、7未満であり、典型的には、2以下である。開始剤がジアゾニウム塩である場合、作業は、1.6と2.2の間のpHで行われることが推奨される。必要な場合、電解液のpHは、当業者に周知の1種または数種の酸性化剤を用いて、例えば、塩酸、硫酸などの鉱酸または有機酸を用いて、所望の値に調節することができる。
【0064】
媒体中のプロトンの存在は、水素ラジカルの形成を特に促進する。
【0065】
電解液の電気分解は、撹拌下で、例えば、機械的撹拌で、および典型的には磁気棒を用いて、または場合によって気体を通気することによって行われることが好ましい。
【0066】
この方法は、電気分解ステップの前に、特にサンディングおよび/またはポリッシングによって、コポリマー有機フィルムを形成することが望まれている表面を浄化する、追加のステップを含むことも好ましく、エタノールのような有機溶媒を用いての超音波を用いた補助的な処理も推奨される。プロトン性溶媒が、この方法を実施する前に脱気されるか、アルゴンのような不活性ガスを用いてパージされる場合も有利である。
【0067】
電解液に印加される電位は、重合の開始に対応する電気分解を可能にするために、少なくとも開始剤の電位に相当する必要がある。この電位は、プロトン性溶媒の電位より高くすることができ、したがってプロトン性溶媒が、多数のプロトンを含有する場合、媒体中で水素ラジカルが形成されることになり、これは、形成されたミセルの活性化により、フィルムの形成を促進することになる。
【0068】
本発明の第1の有利な実施形態によれば、電解液は、少なくとも1種の界面活性剤を含有し、pHは酸性であり、印加される電位は、水素ラジカルの形成を生じさせるのに十分である(すなわち、少なくも−0.8Vよりもカソード性である)。この場合、電解液が、かなりの比率の開始剤を含有する必要はなく、理論的に十分な量は、表面全体にわたる、開始剤のグラフティングによって得られる、「一次フィルム」と呼ばれる、有機フィルムを形成するのに必要な量に相当する。開始剤がジアゾニウム塩である場合、1回の電位走査は、ポリニトロフェニレン副層の形成を伴ったジアゾニウムの還元、次いでミセル中でラジカル重合を刺激する水素ラジカルの大量形成を伴ったH+の還元を伴うことになる。印加される電流は、mA.cm−2の程度であることが推奨され、有効電流密度は、好ましくは、10−4A.cm−2以下である。最適値は、考慮される表面上のグラフティング部位の平均数を用いて推定することができる。
【0069】
本発明の別の有利な実施形態によれば、開始剤の濃度は、例えば最大10−2Mまでかなり増加され、その結果、開始剤は、ミセル内での開始剤として、および表面上への一次付着のために同時に作用することができる。この場合、用いられる有効電位は、最大で、電解液内に存在する、考慮される開始剤の還元の電位値の5%より大きく、−0.8V以下のカソード性であることが好ましい。実際、表面反応を促進するために、有効電位を、表面上で反応する化合物の還元閾値に近い値にすることは有利である。
【0070】
電解液の電気分解は、リニアまたはサイクリックボルトアンペロメトリー(voltamperometry)条件下、定電位、動電位、インテンシオスタティック(intensiostatic)、定電流、動電流(galvanodynamic)下、あるいは単独またはパルスクロノアンペロメトリー条件下での分極によって独立して行うことができる。有利には、電気分解は、サイクリックボルトアンペロメトリー条件下での分極によって行われる。この場合、サイクルの数は、好ましくは1と100の間、さらにより好ましくは1と10の間となろう。
【0071】
導電性または半導電性表面上に形成されるコポリマー有機フィルムの厚さは、用いられる重合可能なモノマーおよび開始剤によって、当業者にとって経験的な様式で利用できる実験パラメーターの単純な変化によって制御される。したがって、限定的な様式で、サイクリックボルトアンペロメトリーの場合、膜厚は、走査の数によって制御することができる。膜厚は、電解活性種の初期濃度、課される最大電位値および分極時間によっても制御することができ、分極時間については、直接に、すなわち電気分解の時間で、またはボルトアンペロメトリーでの走査速度のバイアスによってのいずれかで変更することが可能である。
【0072】
したがって、本発明に適合する方法は、特に、フィルムを受けることを意図された表面を構成する第1の作用電極、対電極および参照電極の3つの電極を含む電気分解セル中で行うことができる。
【0073】
本発明は、その目的として、上述した方法を実施することによって得られる導電性または半導電性表面を有し、前記表面は、少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能な」モノマーおよび少なくとも1種のフリーラジカル開始剤でグラフトされたコポリマー有機フィルムによって少なくとも部分的に覆われている、少なくとも1つの面を含み、前記開始剤は、前記方法の過程において用いられる電解液に可溶性であるという事実を特徴とする。
【0074】
本発明によって得られるコポリマー有機フィルムは、有利には、5と1000nm(両端を含む)の間、さらにより好ましくは10と200nm(両端を含む)の間の厚さを有する。
【0075】
本発明によって得られる表面は、任意の種類の産業において、特に電子工学およびマイクロエレクトロニクス産業において(例えば、マイクロ電子部品の作製のために)、生体医用装具、例えば生体に埋め込み可能な装具(例えば、ステント)、スクリーニングキットなどの作製のために用いることができる。
【0076】
本発明によって用いられる電解液は新規であり、このため本発明の別の目的を構成する。
【0077】
したがって本発明は、目的として、
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」、および
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含むことを特徴とする電解液を有する。
【0078】
上記に定義したような式(II)、(IV)または(V)のうちの少なくとも1種の界面活性剤を含有する電解液は、本発明によって好ましい。
【0079】
そのような溶液の中で、特に好ましい電解液は、
i)水、エチレングリコール、エタノール、酢酸、およびそれらの混合物の中で選択されるプロトン性溶媒、
ii)アリールジアゾニウム塩の中で選択される、少なくとも1種の可溶性の開始剤、
iii)前記プロトン性溶媒中で有限の溶解度を有するビニルモノマーの中で選択される、少なくとも1種の重合可能なモノマー、および
iv)上記に定義したような式(III)、(IV)または(IV)のうちの少なくとも1種の界面活性剤
を含むものの中で選択される。
【0080】
最後に、本発明は、その目的として、導電性または半導電性表面上にグラフトされるコポリマー有機フィルムを作製するための、上記に定義したような少なくとも1種の電解液の使用を有する。
【0081】
先の条項に加えて、本発明は、引き続く記載に由来する他の条項も含み、これは、本発明の方法による鋼表面上のコポリマー有機フィルムの形成の実施例ならびに添付された図1から12を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
すべてのこれらの実施例は、本発明の例示のためだけに提供され、任意のいかなる制限も決して構成しないことを理解する必要がある。
実施例
上記に示した実施例は、約6cm2のステンレス鋼プレート上で行った。
【実施例1】
【0083】
ステンレス鋼表面上でグラフトされるポリアクリロニトリルの薄膜の水中での合成
この実施例および以下では、電気分解は、電解液2で満たされ、3つの電極を含むテフロン(登録商標)容器1中で、図1に示したアセンブリーに従って行った。上記に示したような、飽和カロメル電極(SCE)である参照電極5、白金の対電極4およびステンレス鋼の作用電極3。これらの電極は、PAR社(Princetown Applied Research)によって販売されているEG&G 273Aブランドの電位差計6に接続した。
【0084】
この実施例では、以下の電解液を調製した。
【0085】
プロトン性溶媒は、5mol.l−1の(a)アクリロニトリル(脱イオン水中でのその溶解度は、約1mol.l−1である)、1.45mol.l−1の(b)パラトルエンスルホネートテトラエチルアンモニウム(アニオン性界面活性剤)および1.8 10−3mol.l−1の(c)4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート(開始剤)を含有する脱イオン水である。この溶液のpHは、硫酸溶液を添加することによって2に調節した。用いた分子(a)、(b)および(c)を以下に表す。
【0086】
【化3】
【0087】
使用前に数時間、鋼のプレート(作用電極)を10μmのサンドペーパーで研き、次いで2μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末の溶液を用いて研磨した。
【0088】
次いでこのプレートをエタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0089】
電解液を、3つの電極を有する電気分解セル中に入れた。電解液をマグネチックスターラー(図1に示していない)によって撹拌し、電極の分極は、サイクリックボルタメトリーによって実施した。この系の平衡電位である0V付近と−1.1Vの間で、10mV/sの走査速度で10サイクルを行った。
【0090】
得られたボルタモグラムを、添付した図2に示す。
【0091】
主に、最初の走査で、プロトンの還元の傾向が観察され(約−0.6Vで始まる)、これは、ジアゾニウム塩のカチオンの還元(一般に−0.2V付近に位置する)を隠し、約−1Vを中心とした還元ピークが続く。これらのピークおよびその傾向は、ポリマーフィルムによるその漸進的な被覆の間の、電極の不動態化現象の特徴である。このフィルムは、実際には電解質中での可溶性が乏しく、したがって酸化還元反応に対するバリアに相当する。これは、電気分解セル中の電流の減少をもたらす。
【0092】
次いで、改変した表面を、超音波処理下でジメチルホルムアミド(DMF)中に3分間浸漬する。DMFは、ポリアクリロニトリル(PAN)の最善の溶媒の1つであると主張されている。この処理によって、金属の表面にグラフトされていない恐れのある任意のポリマーが除去される。次いでこの表面を、50/50(v/v)水/エタノールの混合物中に撹拌しながら浸漬することによって、あらゆる可能な微量のDMFを除去し、最後にアセトンですすぐ。
【0093】
次いで、このように処理した試料を、赤外分光法を用いて分析することによって、分子構造を決定する。得られた赤外線スペクトルを、添付した図3に示す。
【0094】
このスペクトルで、ポリアクリロニトリル(PAN)に特有である吸収バンドが見出され、特に2240cm−1付近のニトリル基の特性バンドが見出された。その強度は、1.5%の透過率に近く、これは約50ナノメートルの厚さに等しい。ポリニトロフェニレンの吸収バンドも、1530および1350cm−1に見える。
【0095】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、このコポリマーフィルムは、9割のPAN(約50nm)に対して1割のポリニトロフェニレン(約5nmの厚さに相当)を含むと推定することができる。この推定は、別々に調製し、IRおよびプロフィロメトリーによって特性を明らかにした、純粋なポリニトロフェニレンおよびPANの試料に基づく。
【0096】
ESCA分光法(化学分析のための電子分光法、これは、XPS:X線での光電子分光法と呼ばれる技法を伴う)も、この試料に対して行った。これにより、金属表面上にグラフトされたポリマーの外側層が、ビニルポリマー、この場合PANに実際に相当することを検証することが可能になった。実際、この技法は、試料の最後の15ナノメートル超で感度はよくないが、ポリニトロフェニレンのXPSマーカーであるNO2基は、この区域内に見出されない。実際、NO2基は、407eVに中心があるN 1sピークを示すが、ニトリル基のN 1sピークは、400eVに中心がある。添付されている図4は、先の試料のN 1sスペクトルを示す。
【0097】
フィルムの形成について提案される機構は、以下の図式Bによる、ジアゾニウム塩を用いた、ラジカルを生成する電流に基づく。
【0098】
【化4】
【0099】
このラジカルは、以下の図式Cによって、金属(作用電極)上にグラフトを形成した。
【0100】
【化5】
【0101】
過剰のニトロフェニルラジカルは、
− 以下の図式Dに示した機構によってグラフト層を厚くすることに関与するか、
【0102】
【化6】
【0103】
− または添付した図5に示した図式Eによって、モノマーのミセル7に取り込まれ、マクロラジカルを導くフリーラジカル重合反応を刺激する
ことができる。
【0104】
酸性媒体の場合、電流は、以下の反応によって水素ラジカルを形成することもできる。
【0105】
【化7】
【0106】
平衡状態は、化学種間で依然として存在する。重要性はより低いが、水素ラジカルの形成は、より小さい酸性pH値で観察される。ここでは同じ機構を適用することができる。
【0107】
このラジカルの一部は二量体化し、気体水素を生じる。
【0108】
【化8】
【0109】
ニトロフェニルラジカルのように、他の部分は、以下の図式Fに示した反応によって、アクリロニトリルのミセル中で重合を刺激することができる。
【0110】
【化9】
【0111】
したがって、ミセル中のマクロラジカルは、以下の図式Gに示した反応によって得られる。
【0112】
【化10】
【0113】
以下の図式Hによる停止反応は、ミセル中で起こり得る。
【0114】
【化11】
【0115】
その時、ポリマーは溶液中に残存することになる。
【0116】
これらのマクロラジカルは、電極表面上にグラフトされたポリニトロフェニレン上でも反応することによって、以下の図式Iによってフィルムを形成することもできる。
【0117】
【化12】
【0118】
ハメット則に従って、ラジカルは、メソメリック誘引物質NO2基のオルト位を攻撃し、次いで以下の図式Jに示した反応によって水素ラジカルを失うために、6炭素原子環の再芳香環化をもたらす。
【0119】
【化13】
【実施例2】
【0120】
エマルジョン(アニオン性界面活性剤)中での電解重合による、ステンレス鋼表面上のポリメタクリル酸ブチル(PBuMA)フィルムのグラフティング
表面を、予め10μmのサンドペーパー、次いで3μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末の溶液で研いた。次いでこの表面を、エタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0121】
反応媒体は、0.69mol.l−1のメタクリル酸ブチル(BuMA、水中での溶解度<0.1mol.l−1)、8mmol.l−1のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および2mmol.l−1の4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートの電解水溶液で構成した。溶液のpHは、純粋な硫酸を添加することによって1.70に調節した。電気分解の時点で、アルゴンを溶液に通気することによって、撹拌を維持した。この実施例に用いた分子を、以下に表す。
【0122】
【化14】
【0123】
ここで選択した電気化学パラメーターは、アルゴンを通気することによって撹拌しながら、10mV/sの速度で、−1.1Vの平衡状態での2サイクルであった。
【0124】
得られたボルタモグラムを、添付した図6に示す。
【0125】
このボルタモグラム上で、ジアゾニウムカチオンの還元は、−0.1V/SCE付近で識別することができ、−0.6V/SCE付近で始まるプロトンの還元傾向が続く。
【0126】
次いでこの試料を、超音波を用いたDMFでのすすぎに3分間かけ、最後に赤外分光法を用いて分析した。こうして得られたIRスペクトル(すすぎ前(7a):カルボニル結合:13%の透過率、およびすすぎ後(7b):カルボニル結合:12.5%の透過率)を、添付した図7に示す。
【0127】
1740cm−1のバンドは、エステル官能基COOC4H9のカルボニル基COに相当する。
【0128】
したがって、電極の表面上にグラフトされたポリBuMaが存在する。その透過率は、約13%であり、これは、約100ナノメートルの膜厚に相当する。
【0129】
1530cm−1および1350cm−1のバンドの存在が注目され、これらは、NO2基に相当する。1600cm−1のバンドは、ベンゼンの二重結合に相当する。
【0130】
ポリ(ニトロフェニレンブロックBuMA)コポリマーのスペクトルは、このように証明される。
【0131】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、グラフトされた層は、約15nmのポリニトロフェニレン(金属上にグラフトされた)およびポリニトロフェニレン上にグラフトされた約100nmのPAA(全体の厚さ115nm)から構成されると推定することができる。
【0132】
この試料に対してESCA(XPS)分析も行った(示していない)。これにより、金属の表面上にグラフトされたポリマーの外側層が、ビニルポリマー、この場合ポリBuMAに十分に相当することを検証することが可能になる。実際、この技法は、試料の最後の15ナノメートルまでしか感度はよくないが、それでもなお窒素のXPSマーカーは、この区域内に見出されない。これにより、この試料の外側層は、ポリBuMAだけを含有することを確認することが可能になる。
【0133】
電解液中に、開始剤、すなわちジアゾニウム塩を加えることなく、同じ実験を行った。
【0134】
これらの条件下で得られたフィルムの赤外線スペクトルを、添付した図8に示す。
【0135】
これらの条件下で、ポリマーフィルムは構築されない(開始剤の副層の不在)ことがわかる。この実験は、このグラフト層構築の一般的な機構を確証する。
【0136】
XPS分析も行った(示していない)。窒素レベル1sの不在により、試料の外側層(少なくとも最後の15ナノメートル)は、pBuMAのみを含有することを確認することが可能になる。
【0137】
これらの2つの最初の実施例は、本発明による方法により、ステンレス鋼基材上にグラフトされる有機フィルムを形成するための、水中で非常に異なる溶解度を有するモノマーの使用が可能になることを示す。
【0138】
以下の2つの実施例は、界面活性剤の性質の影響に専念されており、異なる系統の界面活性剤は、上述したような水中でのポリマーフィルムの形成を可能にすると結論づけることを可能にする。
【実施例3】
【0139】
エマルジョン(カチオン性界面活性剤)中での電解重合による、ステンレス鋼表面上のポリメタクリル酸ブチル(PBuMA)のフィルムのグラフティング
3つの電極を有するテフロン(登録商標)セル中で電気分解を行った。参照電極はSCEであり、対電極は炭素のプレートであり、作用電極はステンレス鋼(316L)であった。この電極を、EG&G273Aブランドの電位差計に接続した。
【0140】
表面を、予め10μmのサンドペーパー、次いで3μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末で研いた。次いでこの表面を、エタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0141】
反応媒体は、0.69mol.l−1のメタクリル酸ブチル、8mmol.l−1のアンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド(TTAB)、および4mmol.l−1の4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを含有する電解水溶液から構成した。溶液のpHは、純粋な硫酸を添加することによって1.7に調節した。電気分解時の間、アルゴンを溶液中に通気することによって、撹拌を維持した。
【0142】
ここで選択した電気化学パラメーターは、−1.1Vでの平衡電位、10mV/sの速度で、さらにアルゴンを通気することによって撹拌しながらの5サイクルであった。
【0143】
得られたボルタモグラムを、添付した図9に示す。
【0144】
このボルタモグラム上で、−0.3V/SCE前後でジアゾニウムカチオンの還元を識別することができ、約−0.5V/SCEから始まるプロトンの還元傾向が続く。
【0145】
次いで、この試料を、実施例1で上述したのと同じすすぎ処理にかけ、最後に赤外反射分光(IRRAS)を用いて分析した。これらの条件下で得られたフィルムのIRRAS赤外線スペクトルを、添付した図10に示す。
【0146】
1740cm−1のバンドは、エステル官能基COOC4H9のカルボニルCO基に相当する。
【0147】
したがって、電極の表面上にグラフトされたポリBuMAフィルムが実際に存在する。その透過率は、2%に近く、これは、約20ナノメートルのPBuMAの厚さに相当する。
【0148】
1530cm−1および1350cm−1のバンド(約3%の透過率)の存在に注目することができ、これはNO2基に相当する。
【0149】
1600cm−1のバンドは、ベンゼンの二重結合に相当する。
【0150】
このように、ポリ(ニトロフェニレンBuMA)コポリマーのスペクトルを認識することができる。
【0151】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、グラフトされた層は、約5nmのポリニトロフェニレン(金属上にグラフトされた)およびポリニトロフェニレン上にグラフトされた約20nmのPBuMAから構成されると推定することができる。
【0152】
この試料の少ない厚さは、ボルタモグラム上で確認される不動態化のピークの不在を説明することができる。−0.8V前後で、最初の走査での還元においてプラトーのみが観察される(添付した図9を参照されたい)。
【実施例4】
【0153】
エマルジョン(中性界面活性剤)中での電解重合による、ステンレス鋼表面上のポリメタクリル酸ブチル(PBuMA)のフィルムのグラフティング
3つの電極を有するテフロン(登録商標)セル中で電気分解を行った。参照電極はSCEであり、対電極は炭素のプレートであり、作用電極はステンレス鋼(316L)であった。この電極を、EG&G273Aブランドの電位差計に接続した。
【0154】
表面を、予め10μmのサンドペーパー、次いで3μmの粒度分布を有するダイヤモンド粉末の溶液で研いた。次いでこの表面を、エタノール中、次いでアセトン中で、超音波を用いて5分間処理した。
【0155】
反応媒体は、0.69mol.l−1のメタクリル酸ブチル、8mmol.l−1のポリエチレングリコールラウリルエーテル(Aldrich社によって販売されているBrij(登録商標)35)、および4mmol.l−1の4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートの電解水溶液で構成した。溶液のpHは、純粋な硫酸を添加することによって1.7に調節した。電気分解時の間、アルゴンを溶液中に通気することによって、撹拌を維持した。
【0156】
この実施例に用いたBrij(登録商標)35は、以下の構造を有する。
【0157】
CH3−(CH2)11−O−(CH2−CH2−O)23−H
ここで選択した電気化学パラメーターは、アルゴン通気で撹拌しながら、10mV/sの速度で、−1.1Vの平衡電位での1サイクルであった。
【0158】
こうして得られたフィルムのボルタモグラムを、添付した図11に示す。
【0159】
このボルタモグラム上で、約−0.3V/SCEでジアゾニウムカチオンの還元を識別することができ、約−0.6V/SCEから始まるプロトンの還元傾向が続く。
【0160】
約−0.85Vに中心がある還元ピークも観察することができる。このピークは、ポリマーフィルムでのその被覆による、電極の不動態化現象の特徴である。このフィルムは、電解質中での可溶性が乏しく、したがって酸化還元反応に対するバリアに相当し、これは、電気分解セル中の電流を低下させる。
【0161】
次いで、この試料を、実施例1について上述したのと同じすすぎ処理にかけ、最後にIRRASを用いて分析した。これらの条件下で得られたフィルムの赤外線IRRASスペクトルを、添付した図12に示す。
【0162】
1740cm−1のバンドは、エステル官能基COOC4H9のカルボニルCO基に相当する。
【0163】
したがって、電極の表面上にグラフトされたポリBuMAフィルムが存在する。その透過率は、15%付近であり、これは、約120ナノメートルのPBuMAの厚さに相当する。
【0164】
1530cm−1および1350cm−1のバンド(約10%の透過率)の存在に注目することができ、これはNO2基に相当する。
【0165】
1600cm−1のバンドは、ベンゼンの二重結合に相当する。
【0166】
このように、ポリ(ニトロフェニレンBuMA)コポリマーのスペクトルを認識することができる。
【0167】
2つのポリマーの吸収バンドの相対強度を考慮すると、グラフトされた層は、約15nmのポリニトロフェニレン(金属上にグラフトされた)およびポリニトロフェニレン上にグラフトされた約120nmのPBuMAから構成されると推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】上記実施例1において用いられる電気分解セルを表す。この電気分解セルは、電解液2で満たされた電気分解容器1で構成されており、この中に、1つのステンレス鋼の作用電極3、炭素のプレートで構成された対電極4および飽和カロメル電極(SCE)である、参照電極5の3つの電極が配置されている。この3つの電極は、電位差計6に接続されている。
【図2】アクリロニトリル(5M)、パラトルエンスルホネートテトラエチルアンモニウム(1.46M)、および4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート(0.0018M)の水溶液、pH=2.02、撹拌、ステンレス鋼作用電極、10mV/sの走査速度を用いて記録した、ボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;10サイクル)を表す。
【図3】水/エタノール溶液(50/50 v/v)、次いでアセトンですすいだ後の、図2について上述した電解液を用いて得られたコポリマー有機フィルムの赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))を表す。
【図4】図2について上述した電解液を用いて得られたコポリマー有機フィルムのX線光電子分光法(XPS)におけるN 1sスペクトルを表す。
【図5】マクロラジカルを保有している水溶液中のパラトルエンスルホネートテトラエチルアンモニウム(界面活性剤8)および4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートの存在下でのアクリロニトリルのミセルフリーラジカル重合(ミセル7)の図式Eを表す。
【図6】ブチルメタクリル酸(BuMA)0.69M、ドデシル硫酸ナトリウム8mM、および4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート2mMを含有する水溶液、pH=1.70、アルゴン通気による撹拌、ステンレス鋼の作用電極、走査速度10mV/sを用いて記録したボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;最初のサイクル)を表す。
【図7】超音波とともにジメチルホルムアミドで3分間すすぐ前(7a)とすすいだ後(7b)の、図6について上述した電解液を用いて得られた有機コポリマーフィルムの赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))を表す。
【図8】図6に施した条件と同じ条件においたが、ブチルメタクリル酸(BuMA)0.69Mおよびドデシル硫酸ナトリウム8mMのみを含有する、本発明の一部ではない(開始剤なし)電解水溶液を用いた、作用電極の赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))を表す。
【図9】0.69MのBuMA、8mMのアンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド、および2mMの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを含有する電解水溶液、pH=1.70、アルゴン通気での撹拌、ステンレス鋼の作用電極、10mV/sの走査速度を用いて記録したボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;最初と最後のサイクル)を表す。
【図10】水/エタノール溶液(50/50 v/v)、次いでアセトンですすいだ後の、図9について上述した電解液を用いて得られた有機コポリマーフィルムの反射による赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))(IRRAS)を表す。
【図11】0.69Mのメタクリル酸ブチル、8mMのBrij(登録商標)35、および2mMの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレートを含有する電解水溶液、pH=1.70、アルゴン通気での撹拌、ステンレス鋼の作用電極、10mV/sの走査速度を用いて記録したボルタモグラム(サイクリックボルタメトリー;単一サイクル)を表す。
【図12】水/エタノール溶液(50/50 v/v)、次いでアセトンですすいだ後の、図11について上述した電解液を用いて得られた有機コポリマーフィルムの反射による赤外線スペクトル(cm−1での波数の関数としての透過率(%))(IRRAS)を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性または半導電性表面上にグラフトコポリマー有機フィルムが得られるまで、電解液の電気分解によって、前記表面上に前記コポリマー有機フィルムを形成するための方法であって、
a)前記電解液は、
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)フリーラジカル重合のための、少なくとも1種のモノマー(「ラジカル的に重合可能なモノマー」)、
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含有し、
b)前記電解液の電気分解は、前記開始剤の還元電位に少なくとも等しい還元電位で行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記導電性または半導電性表面が、ステンレス鋼、鋼、鉄、銅、ニッケル、コバルト、ニオブ、アルミニウム、銀、チタン、酸化物を含むかまたは含まないシリコン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、タンタル、窒化タンタル、ならびに金、白金、イリジウムおよび白金イリジウムの中で選択される少なくとも1種の金属で構成される貴金属表面の中で選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロトン性溶媒が、水、酢酸、ヒドロキシル化溶媒、低分子量の液体グリコール、およびそれらの混合物によって構成される群の中で選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロトン性溶媒が、非プロトン性溶媒との混合物で用いられ、得られる混合物は、プロトン性溶媒の特性を示すと理解されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プロトン性溶媒が、蒸留水または脱イオン水であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フリーラジカル重合開始剤が、共役系、ハロゲノアルカンおよびアリールジアゾニウム塩の中から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アリールジアゾニウム塩が、以下の式(I)の化合物
R−N2+,A− (I)
(式中、
− Aは、一価のアニオンを表し、
− Rは、アリール基を表す)
の中から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Rがニトロフェニル基であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ラジカル重合開始剤が、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロレート、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロリド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートおよびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートの中で選択されることを特徴とする、前記請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解液内の前記開始剤の濃度が、10−4と0.5Mの間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ラジカル的に重合可能なモノマーが、前記プロトン性溶媒中の溶解度が有限であるモノマーの中から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記「ラジカル的に重合可能なモノマー」が、ビニルモノマーの中で選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ビニルモノマーが、以下の式(II)のモノマー
【化1】
[式中、基R1からR4は、同一であるか異なっており、ハロゲン原子もしくは水素原子などの一価の非金属原子、または飽和もしくは不飽和の化学基、例えば、アルキル、アリール基、−COOR5基(R5は、水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す)、ニトリル、カルボニル、アミンまたはアミドを表す]
の中で選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記式(II)の化合物が、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル;クロトノニトリル、ペンテンニトリル、クロトン酸エチルおよびそれらの誘導体;アクリルアミドならびに特にアミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルメタクリルアミド、シアノアクリレート、ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリアクリレートおよびトリメタクリレート、テトラアクリレートおよびテトラメタクリレート(ペンタエリトリトールテトラメタクリレートなど)、スチレンおよびその誘導体、パラクロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ビニル、アクリロイルまたはメタクリロイルハロゲン化物、ジビニルベンゼン(DVB)、ならびにより一般的にビニル架橋剤またはアクリレート基もしくはメタクリレート基に基づいたもの、ならびにそれらの誘導体の中で選択されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記重合可能なモノマーが、プロトン性溶媒中の溶解度が0.1M未満である化合物の中で選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記電解液中に存在する重合可能なモノマーの量が、所与の温度で、前記プロトン性溶媒中の前記モノマーの最大溶解度の18から40倍に相当することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
「ラジカル的に重合可能なモノマー」の量が、0.1Mと5Mの間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記界面活性剤が、以下の式(III)のアニオン性界面活性剤
R6−A−,Cat+ (III)
(式中、
− R6は、C1〜C20、好ましくはC1〜C14のアルキル基またはアリールを表し、
− A−は、スルホネート、スルフェート、ホスフェート、カルボキシレート、スルホスクシネートなどの中から選択されるアニオンであり、
− Cat+は、好ましくはアンモニウムイオン(NH4+)、テトラブチルアンモニウムなどの四級アンモニウム、ならびにNa+、Li+およびK+などのアルカリカチオンの中で選択される、カチオン性対イオンである)
であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記式(III)の界面活性剤が、テトラエチルアンモニウムパラトルエンスルホネート、ドデシル硫酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウムスルホスクシネート、メチルベンゼンスルホネートおよびエチルベンゼンスルホネートの中で選択されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記界面活性剤が、以下の式(IV)のカチオン性界面活性剤
(R7)4−N+,An− (IV)
(式中、
− 基R7は、同一であるか異なっており、脂肪族鎖、例えばC1〜C20、好ましくはC1〜C14のアルキル鎖を表し、
− An−はアニオン性対イオンである)
であることを特徴とする、前記請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記カチオン性界面活性剤が、アンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド(TTAB)、C1〜C18の脂肪族鎖を有するアルキルピリジニウムハロゲン化物、およびアルキルアンモニウムハロゲン化物の中で選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記界面活性剤が、以下の式(V)の化合物
Z−−R8−Z+ (V)
(式中、
− R8は、C1〜C20のアルキル鎖を表し、
− Z−は、R8によって担持される負に荷電した官能基を表し、
− Z+は、R8によって担持される正に荷電した官能基を表す)
の中で選択される双性イオン界面活性剤であることを特徴とする、前記請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記双性イオン界面活性剤が、N,N−ジメチルドデシルアンモニウムブタン酸ナトリウム、ジメチルドデシルアンモニウムプロパン酸ナトリウムおよびアミノ酸の中で選択されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記界面活性剤が非イオン性であり、ポリエトキシ化界面活性剤およびポリオールの中で選択されることを特徴とする、前記請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記電解液内の前記界面活性剤の濃度が、0.5mMと5Mの間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記電解液のpHが、1.6と2.2の間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる導電性または半導電性表面であって、少なくとも1種のフリーラジカル重合開始剤および少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」でグラフトされたコポリマー有機フィルムによって覆われた少なくとも一部分を有する、少なくとも1つの面を含み、前記開始剤は、前記方法の過程において用いられる前記電解液に可溶性であることを特徴とする導電性または半導電性表面。
【請求項28】
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」、および
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含有することを特徴とする電解液。
【請求項29】
i)水、エチレングリコール、エタノール、酢酸、およびそれらの混合物の中から選択されるプロトン性溶媒、
ii)アリールジアゾニウム塩の中で選択される、少なくとも1種の可溶性のフリーラジカル重合開始剤、
iii)前記プロトン性溶媒中で有限の溶解度を有するビニルモノマーの中で選択される、少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」、および
iv)請求項18から23に記載の式(III)、(IV)または(IV)のうちの少なくとも1種の界面活性剤
を含有することを特徴とする、請求項28に記載の電解液。
【請求項30】
導電性または半導電性表面上にグラフトされるコポリマー有機フィルムの作製のための、請求項28または請求項29に記載の少なくとも1種の電解液の使用。
【請求項1】
導電性または半導電性表面上にグラフトコポリマー有機フィルムが得られるまで、電解液の電気分解によって、前記表面上に前記コポリマー有機フィルムを形成するための方法であって、
a)前記電解液は、
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)フリーラジカル重合のための、少なくとも1種のモノマー(「ラジカル的に重合可能なモノマー」)、
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含有し、
b)前記電解液の電気分解は、前記開始剤の還元電位に少なくとも等しい還元電位で行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記導電性または半導電性表面が、ステンレス鋼、鋼、鉄、銅、ニッケル、コバルト、ニオブ、アルミニウム、銀、チタン、酸化物を含むかまたは含まないシリコン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、タンタル、窒化タンタル、ならびに金、白金、イリジウムおよび白金イリジウムの中で選択される少なくとも1種の金属で構成される貴金属表面の中で選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロトン性溶媒が、水、酢酸、ヒドロキシル化溶媒、低分子量の液体グリコール、およびそれらの混合物によって構成される群の中で選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロトン性溶媒が、非プロトン性溶媒との混合物で用いられ、得られる混合物は、プロトン性溶媒の特性を示すと理解されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プロトン性溶媒が、蒸留水または脱イオン水であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フリーラジカル重合開始剤が、共役系、ハロゲノアルカンおよびアリールジアゾニウム塩の中から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アリールジアゾニウム塩が、以下の式(I)の化合物
R−N2+,A− (I)
(式中、
− Aは、一価のアニオンを表し、
− Rは、アリール基を表す)
の中から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Rがニトロフェニル基であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ラジカル重合開始剤が、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロレート、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロリド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートおよびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートの中で選択されることを特徴とする、前記請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解液内の前記開始剤の濃度が、10−4と0.5Mの間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ラジカル的に重合可能なモノマーが、前記プロトン性溶媒中の溶解度が有限であるモノマーの中から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記「ラジカル的に重合可能なモノマー」が、ビニルモノマーの中で選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ビニルモノマーが、以下の式(II)のモノマー
【化1】
[式中、基R1からR4は、同一であるか異なっており、ハロゲン原子もしくは水素原子などの一価の非金属原子、または飽和もしくは不飽和の化学基、例えば、アルキル、アリール基、−COOR5基(R5は、水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す)、ニトリル、カルボニル、アミンまたはアミドを表す]
の中で選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記式(II)の化合物が、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル;クロトノニトリル、ペンテンニトリル、クロトン酸エチルおよびそれらの誘導体;アクリルアミドならびに特にアミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルメタクリルアミド、シアノアクリレート、ジアクリレートおよびジメタクリレート、トリアクリレートおよびトリメタクリレート、テトラアクリレートおよびテトラメタクリレート(ペンタエリトリトールテトラメタクリレートなど)、スチレンおよびその誘導体、パラクロロスチレン、ペンタフルオロスチレン、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、ビニル、アクリロイルまたはメタクリロイルハロゲン化物、ジビニルベンゼン(DVB)、ならびにより一般的にビニル架橋剤またはアクリレート基もしくはメタクリレート基に基づいたもの、ならびにそれらの誘導体の中で選択されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記重合可能なモノマーが、プロトン性溶媒中の溶解度が0.1M未満である化合物の中で選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記電解液中に存在する重合可能なモノマーの量が、所与の温度で、前記プロトン性溶媒中の前記モノマーの最大溶解度の18から40倍に相当することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
「ラジカル的に重合可能なモノマー」の量が、0.1Mと5Mの間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記界面活性剤が、以下の式(III)のアニオン性界面活性剤
R6−A−,Cat+ (III)
(式中、
− R6は、C1〜C20、好ましくはC1〜C14のアルキル基またはアリールを表し、
− A−は、スルホネート、スルフェート、ホスフェート、カルボキシレート、スルホスクシネートなどの中から選択されるアニオンであり、
− Cat+は、好ましくはアンモニウムイオン(NH4+)、テトラブチルアンモニウムなどの四級アンモニウム、ならびにNa+、Li+およびK+などのアルカリカチオンの中で選択される、カチオン性対イオンである)
であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記式(III)の界面活性剤が、テトラエチルアンモニウムパラトルエンスルホネート、ドデシル硫酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウムスルホスクシネート、メチルベンゼンスルホネートおよびエチルベンゼンスルホネートの中で選択されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記界面活性剤が、以下の式(IV)のカチオン性界面活性剤
(R7)4−N+,An− (IV)
(式中、
− 基R7は、同一であるか異なっており、脂肪族鎖、例えばC1〜C20、好ましくはC1〜C14のアルキル鎖を表し、
− An−はアニオン性対イオンである)
であることを特徴とする、前記請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記カチオン性界面活性剤が、アンモニウムテトラデシルトリメチルブロミド(TTAB)、C1〜C18の脂肪族鎖を有するアルキルピリジニウムハロゲン化物、およびアルキルアンモニウムハロゲン化物の中で選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記界面活性剤が、以下の式(V)の化合物
Z−−R8−Z+ (V)
(式中、
− R8は、C1〜C20のアルキル鎖を表し、
− Z−は、R8によって担持される負に荷電した官能基を表し、
− Z+は、R8によって担持される正に荷電した官能基を表す)
の中で選択される双性イオン界面活性剤であることを特徴とする、前記請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記双性イオン界面活性剤が、N,N−ジメチルドデシルアンモニウムブタン酸ナトリウム、ジメチルドデシルアンモニウムプロパン酸ナトリウムおよびアミノ酸の中で選択されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記界面活性剤が非イオン性であり、ポリエトキシ化界面活性剤およびポリオールの中で選択されることを特徴とする、前記請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記電解液内の前記界面活性剤の濃度が、0.5mMと5Mの間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記電解液のpHが、1.6と2.2の間であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる導電性または半導電性表面であって、少なくとも1種のフリーラジカル重合開始剤および少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」でグラフトされたコポリマー有機フィルムによって覆われた少なくとも一部分を有する、少なくとも1つの面を含み、前記開始剤は、前記方法の過程において用いられる前記電解液に可溶性であることを特徴とする導電性または半導電性表面。
【請求項28】
i)少なくとも1種のプロトン性溶媒、
ii)フリーラジカル重合のための、前記プロトン性溶媒に可溶性である、少なくとも1種の開始剤、
iii)少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」、および
iv)少なくとも1種の界面活性剤
を含有することを特徴とする電解液。
【請求項29】
i)水、エチレングリコール、エタノール、酢酸、およびそれらの混合物の中から選択されるプロトン性溶媒、
ii)アリールジアゾニウム塩の中で選択される、少なくとも1種の可溶性のフリーラジカル重合開始剤、
iii)前記プロトン性溶媒中で有限の溶解度を有するビニルモノマーの中で選択される、少なくとも1種の「ラジカル的に重合可能なモノマー」、および
iv)請求項18から23に記載の式(III)、(IV)または(IV)のうちの少なくとも1種の界面活性剤
を含有することを特徴とする、請求項28に記載の電解液。
【請求項30】
導電性または半導電性表面上にグラフトされるコポリマー有機フィルムの作製のための、請求項28または請求項29に記載の少なくとも1種の電解液の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−528420(P2009−528420A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556813(P2008−556813)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000336
【国際公開番号】WO2007/099218
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク (85)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000336
【国際公開番号】WO2007/099218
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク (85)
【Fターム(参考)】
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