説明

水滑落性層およびその製造方法

【課題】微小水滴であっても比較的小さな傾斜角度で滑落させることができ、耐久性にも優れた表面処理基材を得る。
【解決手段】親水性材料からなる領域と疎水性材料からなる領域を表面に有した水滑落性層であり、親水性材料が無機多孔性構造である水滑落性層、及び該層を表面に有する水滑落性構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に付着した水滴の滑落性に優れた平滑な表面処理基材およびその製造方法に関する。更に詳しくは車両用、船舶用、航空機用の窓ガラスなどに適した水滴滑落性に優れた表面処理ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチックス、セラミックス、金属等の表面において水やほこり等の汚れが付着することによるガラスの機能低下が問題となっている。電車、自動車、船舶、航空機等の輸送機器物品の表面に雨滴、ほこり、汚れの付着や、大気中の湿度、温度の影響で水分が凝縮すると、その美観が損なわれるばかりかガラスが本来有する視野の確保などの機能を低下させてしまう。
特に輸送機器物品の中でも自動車用途はその数量が大きく一般の使用者が多数存在することから雨天時の視界確保は「安全装備」として重要である。
近在、ワイパーなどを用いて機械的に水滴を除去する方法以外に、雨滴を自重あるいは風圧でガラス面から除去する撥水コートしたガラスを自動車用のガラスに用いて前方および後方の視界を確保する方法も活用されてきている。ガラス面に簡易に撥水コートできるタイプなどもあり利用されている。しかし長期間性能が保持しないため何度も塗りなおしが必要であった。
【0003】
従来、ガラス表面への付着水滴の除去を目的として、撥水ガラスなどに代表されるガラス表面に撥水性を付与することが盛んに行われている。ガラスの撥水性を付与するために、フルオロアルキル基含有化合物やジメチルシロキサン等の化合物に代表される疎水性化合物をガラス表面に塗布する試みがなされている。例えば、これまでにガラスなどのガラス上に、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物を塗布した処理基板が各種出願されている特許文献1。また特許文献2には、透視性等を損なうことなく、低反射率及び撥水撥油性を両立した厚さ1μm 以下のポリフルオロアルキル基含有シラン化合物または該化合物の部分加水分解縮合物の薄膜をガラス表面に形成することが記載されている。
【0004】
しかしながら、このような化合物を塗布しただけではガラス表面との結合力が弱く、耐候性や耐摩耗性が充分ではなかった。また従来のフルオロアルキル基含有化合物での処理では付着水滴が小さくなればなるほど、水とフルオロアルキル基含有化合物の相互作用が強く働くため水滴の除去が難しくなってしまっていた。
【0005】
一方、撥水性を向上させるために粒子含有溶液を塗布するあるいは表面を加工するなどの方法によって表面に微細な凹凸構造を設ける試みも行なわれている(特許文献3、特許文献5)。しかしこれらのガラスは透明性を確保することが難しくわずかな報告例しかない。例えば非特許文献1では、アルミニウムアルコキシドの加水分解によりできたアルミナ膜を熱水中で処理し、スポンジ状のベーマイトを表面に析出させた表面に撥水処理を行ない透明な撥水膜を得ている。また特許文献6では微細な凹凸を有するゾルゲル膜上に撥水層を設けて撥水膜を得ている例もある。また非特許文献2では、有機フッ素化合物を用いたCVDにより透明性の高い撥水性膜を作製している。
しかしこれらのガラスは透明性を確保することが難しい上、耐摩耗性が十分では無い。さらには撥水表面の補修が困難な点などからいまだ実用とはなっていない。
【0006】
また、一定の親水性化合物と一定の疎水性化合物とを混合し、表面の接触角は低くとも、微小水滴であっても比較的小さな傾斜角度で滑落させることを目的として撥水素材で改善し得なかった耐摩耗性の向上に取り組んだ出願もされている(特許文献4、特許文献7)が、いまだ十分な耐摩耗性付与できていない。
特に、車の運転者からは安全性のためフロントガラスへの適用が望まれているが、ワイパーブレードに対する耐摩擦性や高度な耐候性などの問題があり長寿命の撥水ガラスは実用化されていない。従来の技術では長期間、撥水性および水滴除去性を維持することは困難であり、屋外での使用は難しい状況であった。
【特許文献1】特公平2−39555号公報
【特許文献2】特開昭58−167448号公報
【特許文献3】特許第3418286号公報
【特許文献4】特開2000−144056号公報
【特許文献5】特開2002−299339号公報
【特許文献6】特開2005−281132号公報
【特許文献7】特開2005−154520号公報
【非特許文献1】Journal of American Ceramic Society, 80, 3213 (1997) 南
【非特許文献2】Journal of Materials Science, 32, 4253 (1997) 高井
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の通り、従来の技術では撥水性を高めることに主眼を置いた発明がなされてきたが、微小水滴の除去および耐摩耗性のという面からは必ずしも成功はしていない。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の欠点を解消しようとするものであり、微小水滴であっても比較的小さな傾斜角度で滑落させることを可能とし、かつ耐久性にも優れた表面処理基材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
基材、特にガラス上に設ける滑水層において、該滑水層が親水性材料からなる領域と疎水性材料からなる領域を表面に有した水滑落性層であり、親水性材料が無機多孔性構造とすることにより、上記課題を解決することを見出した。より具体的には、空隙を疎水性の有機化合物で覆われた無機材料の多孔質構造体であり、かつ無機材料の表面を表面に露出させることにより、平滑で水滴滑落性に優れた表面処理基材が得られることを見出したものである。すなわち、本発明は下記の構成によりなるものである。
【0010】
(1)親水性材料からなる領域と疎水性材料からなる領域を表面に有した水滑落性層であり、親水性材料が無機多孔性構造である水滑落性層。
(2)親水性材料が酸化ケイ素もしくは酸化チタンからなる上記(1)記載の水滑落性層。
【0011】
(3)疎水性材料がシロキサン基を有する有機物からなる上記(1)又は(2)に記載の水滑落性層。
(4)疎水性材料がフッ素を含む上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水滑落性層。
【0012】
(5)親水性領域の平均間隔が0.1μm以上100μm以下である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水滑落性層。
(6)親水性領域が0.5%以上50%以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水滑落性層。
【0013】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水滑落性層を表面に有する水滑落性構造体。
(8)基材表面に実質的に親水性材料からなる多孔性層を形成し、実質的に疎水性材料からなる素材を空隙部に充填する上記(1)記載の水滑落性層の製造方法。
(9)微粒子を凝集させて多孔性層を形成する上記(8)記載の水滑落性層の製造方法。
(10)50〜250℃で加熱処理を行う上記(8)又は(9)記載の水滑落性層の製造方法。
(11)表面研磨を行う上記(8)〜(10)のいずれかに記載の水滑落性層の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
付着水滴の滑落性に優れたガラス、特に微小水滴であっても小さな傾斜角度で滑落させることを可能とし、かつ耐久性にも優れた表面処理基材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水滑落性層10は、図1に示すように、ガラス等の基材1上に無機多孔性構造3を形成し(a)、該多孔性構造に有機疎水性材料5を充填し(b)、必要に応じて、表面処理をする(c)ことにより、得ることができる。
【0016】
基材1としてはガラス、アルミナなどの無機物、あるいは塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロースなどの樹脂等の透明構造物、不透明構造物いずれも使用することができる。好ましくは透明構造物、特にガラスが好ましく用いられる。処理されるガラスとして特に好ましくは車用の窓ガラス等である。例えば自動車、鉄道車両、航空機、船舶、雪上車などの装備としての窓ガラスである。片面もしくは両面に反射性のコーティングが施されたガラスまたはプラスチックで形成されていてもよい。
使用する基材としては、表面に官能基を有している基材でもよい。
【0017】
本発明においては、上述した構成からなる滑水層を基材表面に形成することによって、基材表面と付着水滴間に働く相互作用の制御を行うことができ、微小付着水滴の滑落性能と耐久性の両立が可能となる。
【0018】
本発明では、水滑落性層10の表面には、親水性材料領域と疎水性材料領域が存在するため、良好な水滑落性が達成される。ここで、水滴の滑落を促すためには、疎水性領域と親水性領域がバランスよく存在することが必要であり、SEM、AFM等の形態表面観測機器を用いて表面を観測した際に、親水性領域の平均間隔が0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3μm以上10μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以上5μm以下である。また、親水性領域が表面の0.1%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以上30%以下である。
【0019】
多孔性構造3を構成する無機材料としては多孔質を形成し得る化合物であれば何れも用いることが可能であるが好ましくは金属あるいは金属酸化物が好ましい。具体的には、SiO2、SiO−TiO、SiO−Al3、SiO−ZrO2、Alなどが挙げられる。
【0020】
金属あるいは金属酸化物の多孔質構造体は既知の方法によって作成される。
たとえば、「多孔性セラミックスの新展開 40-49頁」((株)東レリサーチセンター・1998年)には焼結法、分相法、ゾルゲル法、凍結乾燥法などが示されている。いずれの方法も用いることができるが容易に高純度で、低温合成が可能であり、形状付与性も好適なゾルゲル法が好ましい
【0021】
SiO系、SiO−TiO系、SiO−Al系またはSiO−ZrO系の透明なゾルゲル膜を用いることができる。例えば金属アルコキシドを混合したテトラアルコキシシランを加水分解ならびに脱水縮合させた溶液と、アルキルを有するトリアルコキシシランを加水分解と同時に脱水縮合した溶液とを混合した混合物を用いて形成可能される、制御されかつ再現性よく安定した形状と性能の微細な多孔質膜が好ましい。前記金属アルコキシドの金属は、格別特定するものではないが、入手の容易さ、再現性の得やすさからTi、Al、SnまたはZrを選択するのが好ましく、具体的なものとしては、例えばTi(OR'')4(R''はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、TiCl4、Zn(OR'')2、Zn(CH3COCHCOCH32、Sn(OR'')4、Sn(CH3COCHCOCH34、Sn(OCOR″)4、SnCl4、Zr(OR'')4、Zr(CH3COCHCOCH34、Al(OR'')3、Al(CH3COCHCOCH33等が挙げられる。
【0022】
さらにシラン化合物、更には併用する前記の金属化合物の加水分解及び重縮合反応を促進するために、酸性触媒又は塩基性触媒を併用することが好ましい。触媒は、酸あるいは塩基性化合物をそのままか、あるいは水またはアルコールなどの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒という)を用いる。そのときの濃度については特に限定しないが、濃度が濃い場合は加水分解、重縮合速度が速くなる傾向がある。但し、濃度の濃い塩基性触媒を用いると、ゾル溶液中で沈殿物が生成する場合があるため、塩基性触媒の濃度は1N(水溶液での濃度換算)以下が望ましい。
【0023】
酸性触媒あるいは塩基性触媒の種類は特に限定されないが、濃度の濃い触媒を用いる必要がある場合には、焼結後に触媒結晶粒中にほとんど残留しないような元素から構成される触媒がよい。具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素または置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸など、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。以上述べたように、ゾル−ゲル法によって作成される画像記録層は、本発明の平版印刷版用原版にとくに好ましい。上記のゾル−ゲル法のさらに詳細は、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年)、平島碩「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作成技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述されている。
【0024】
上記ゾルゲル法で多孔質体を形成する際に金属酸化物の粒子を混入し構造の制御を行うこともできる。金属酸化物の粒子としては、特に限定されないが、好ましくはシリカ、アルミナ、酸化チタン、水酸化チタン、水酸化鉄、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウムでありゾルゲル膜の強化などに用いることができる。たとえば市販のさまざまな粒径の粒子、たとえば粒子径10nm〜10μmのSiO粒子を混入することも可能である。
【0025】
また、ゾル状粒子を添加することもできる。例えばシリカゾル、アルミナゾル、アルギン酸カルシウムゾル又はこれらの混合物である。
シリカゾルは、表面に多くの水酸基を持ち、内部はシロキサン結合(−Si−O−Si)を構成している。粒子径1〜100nmのシリカ超微粒子が、水もしくは、極性溶媒中に分散したものであり、コロイダルシリカとも称されているものである。具体的には、加賀美敏郎、林瑛監修「高純度シリカの応用技術」第3巻、(株)シーエムシー(1991年)に記載されている。又アルミナゾルは、5〜200nmのコロイドの大きさをもつアルミナ水和物(ベーマイト系)で、水中の陰イオン(例えば、フッ素イオン、塩素イオン等のハロゲン原子イオン、酢酸イオン等のカルボン酸アニオン等)を安定剤として分散されたものである。上記親水性ゾル状粒子は、平均粒径が10〜50nmのものが好ましいが、より好ましい平均粒径は10〜40nmのものである。これら親水性ゾル状粒子は、いずれも、市販品として容易に入手できる。
【0026】
またさらにはこのゾルゲル法で金属あるいは金属酸化物の多孔質構造体を作成する際に疎水性を示す有機化合物との親和性を向上させるために有機/無機複合化合物を含むこともできる。たとえばアルコキシシリル基を有する有機化合物であり、具体的にはコンポセランE102(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE102B(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE103(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE103A(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE201(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE202(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE222(荒川化学工業(株)製)などである。
【0027】
このようにして形成された該処理膜の空隙率は1〜80%が好ましい。空隙率が1%より低いと有機層が含浸しにくくなり、80%より大きいと十分な膜の強度が得られなくなる。また膜厚としては10nm以上1mm以下であることが好ましい。50nm以上500μmがより好ましい。10nm以下の膜厚では膜強度が得られず。1mmを超える膜厚になると均一な膜が得にくくなるためである。
【0028】
多孔質の構造体3は上記ゾルゲル方法以外にもSiO微粒子の高温での焼結、アルミナ膜の陽極酸化法などの既存の方法によっても得ることが出来る。
【0029】
本発明における疎水性を示す有機化合物としては特に限定されないが、表面エネルギーの小さな化合物、おおよそ水との接触角が90度以上の化合物を好適に用いることができる。シリコーン化合物、またはシリコーン化合物とフルオロアルキル基を有する有機ケイ素化合物の混合物のいずれかが好ましく選ばれる。使用する有機ケイ素化合物は、一番構造の単純な分子量200 程度のものから分子量数万ものまでいずれでも構わないが、低分子量では滑落性能が低くなり、また高分子量では他の構成物との相溶性が低下することから、分子量としては1,000〜10,000の範囲が好ましい。
フルオロアルキル基を有する有機ケイ素化合物も様々なものが使用可能となるが、中でもフルオロアルキル基としてC817なる構造を持つものが最も望ましい。処理膜の製膜には、膜形成成分を有機溶媒等にて希釈して塗布溶液として用いることができる。この膜形成成分の濃度は0.1質量%〜5質量%の範囲での処理が望ましい。0.1質量%より少ないと十分な滑落性を発現する処理膜が得られず、逆に5質量%の範囲より多くなっても膜の性能向上が認められない。
【0030】
疎水性を示す有機化合物の例としてはX22−173D(信越化学工業(株)製)とKBM−603(信越化学工業(株)製)の反応物が挙げられる。さらに例えば、商品名X−22−173D(信越化学工業(株)製)の代わりには、商品名X−22−163A(信越化学工業(株)製)、商品名X−22−163B(信越化学工業(株)製)、商品名X−22−163C(信越化学工業(株)製)、商品名KF−101(信越化学工業(株)製)、商品名KF−1001(信越化学工業(株)製)、商品名X−22−2000(信越化学工業(株)製)、商品名サイラプレーンFM−0411(チッソ(株)製)、商品名サイラプレーンFM−0421(チッソ(株)製)、商品名FM−0425(チッソ(株)製)、商品名FM−4411(チッソ(株)製)、商品名FM−4421(チッソ(株)製)、商品名FM−4425(チッソ(株)製)などが挙げられる。商品名KBM−603(信越化学工業(株)製)の代わりにはKBM−903(信越化学工業(株)製)、KBE−903(信越化学工業(株)製)、TSL8331(東芝シリコーン(株)製)、TSL8340(東芝シリコーン(株)製)などが挙げられる。
【0031】
フルオロアルキル基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば商品名TSL8262、TSL8261、TSL8356、TSL5257、TSL8232、TSL8233、TSL8229、TSL8231(東芝シリコーン(株)製)または、商品名E−5644(タイキン工業(株)製)とKBM−603(信越化学工業(株)製)とを反応させて得られる生成物等が挙げられる。
【0032】
また疎水表面作成のためにフッ素系シランカップリング剤を混入させることもできる。フッ素系シランカップリング剤としては、例えば、一般式(1)で示されるフルオロアルキルシラン化合物が挙げられる。
【0033】
Z−Y−Si(X)(X)(X) (1)
【0034】
(式中、Zは炭素数1〜12のフッ素化アルキル基を、Yは炭素数2〜4のアルキレン基を、Xは、炭素数1〜4のアルコキシ基、塩素原子のいずれかを示す。X、X、Xは同一でも異なってもよい。)
【0035】
具体的には、例えば、CF3CF2CH2CH2Si(OCH)3、CF3(CF2)2CH2CH2Si(OC)3、CF3(CF2)CH2CH2Si(OC)3、CF3(CF2)CH2CH2SiCl、CF3(CF2)CH2CH2Si(OC37)、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OC25)3、CF3(CF2)5CH2CH2SiCl(OC37)2などのパーフルオロアルキルアルキレンアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0036】
また疎水性を示す有機物には有機/無機複合化合物を含むこともできる。たとえばアルコキシシリル基を有する有機化合物であり、具体的にはコンポセランE102(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE102B(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE103(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE103A(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE201(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE202(荒川化学工業(株)製)、コンポセランE222(荒川化学工業(株)製)などである。
【0037】
上記の疎水性材料5を、無機材料から実質的になる多孔質体3に含浸させることにより、本発明の水滑落性層10を得ることができる。疎水性材料を含浸させる方法としては、浸漬引き上げ、スプレー、スピンコート、カーテンコート等既知の塗布手段を用いることができる。
【0038】
含浸に用いる塗布溶液は、塗布方法などの必要に応じて有機溶媒などで希釈して用いることができる。使用する有機溶媒としては、塗布溶液中に含まれる化合物が均一に溶解するものであれば単独で用いてもあるいは2種以上混合して用いても、いずれの方法でもよい。例えばメタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール等の一級アルコール類、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどの二級アルコール、ターシャリーブチルアルコールなどの三級アルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジタ−シャリーブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類などの一般的な溶媒が挙げられる。
【0039】
また、前記有機材料5を基材10上に含浸させ、定着させる温度としては、該処理膜を構成する分子の分解を抑制しつつ、各化合物の官能基とガラスとの化学結合を促進するために80〜200℃に加熱定着することが好ましい。
【0040】
本発明では、基材1と滑水層10の間に下地層を設けてもよい。基材表面の影響を受けにくくするあるいは、基材表面での官能基の増加が期待できる下地層が、滑水層の耐久性を向上させる面から一層望ましい。下地層は、例えばシリカ、アルミナ等の無機材料から構成される。
【0041】
基材の表面に有機材料と無機材料を適度に露出させるためには、研磨、切削等の方法を適用することが好ましい。なかでも研磨処理によって平滑面として機械的な強度を向上させることが出来る。研磨処理の方法としては一般的な金属研磨、レンズ研磨の方法を用いることが出来る。
【実施例】
【0042】
以下、本発明をより明確にするため、実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
実施例1
下記塗布液Aを作成し、続いて塗布液Bを調整した。
(塗布液A:室温、2時間熟成)
テトラエトキシシラン 75g
エタノール 300g
0.1規定硝酸 25g
【0044】
(塗布液B組成)
シリカゲル分散物20%水溶液(X-41(株)トクヤマ製粒径3.9μm) 15g
塗布液A 24g
水 77g
【0045】
調整した塗布液Bをアルカリ洗滌した厚さ0.700mmの白ガラス(松浪ガラス社製)上に200rpm 30秒の条件でスピンコート、風乾した後、200℃で30分乾燥し厚さ0.710mmの表面処理ガラスPを得た。
【0046】
トリメトキシシリル基を持つシリコーン化合物(X22−173D(信越化学工業(株)製)とKBM−603(信越化学工業(株)製)の1:1モル比反応物)をイソピルアルコールに溶解し、固形分濃度が2重量%となるように塗布液Cを調整した。
【0047】
塗布液Cを表面処理ガラスP上に200rpm 30秒の条件でスピンコートした。室温で風乾した後、120℃で30分乾燥し厚さ0.715mmの表面処理ガラスQを得た。
【0048】
得られた表面処理ガラスQの表面を表面研磨機(ML-150P(株)マルトー社製)を用いて厚さ0.706mmに研磨して、表面を蒸留水で洗滌、室温で乾燥させて表面処理ガラスRを得た。
このサンプルの親水性領域は2%、その平均間隔は1μmであった。
得られた表面処理ガラスR表面の水滴滑落性と接触角を評価した。水滴の滑落性は規定量の水滴を水平に設置した処理済みの構造物表面に滴下し、構造物を傾け水滴が滑り出したときの角度を滑落角度と規定する。この滑落角度の大小で水滴滑落性を判断した。また、併せて水滴接触角も測定した。
また得られた表面処理ガラスRを屋外に2週間曝露して耐候性試験を行った後、水滴滑落性を測定した結果も表1に示す。
【0049】
比較例1
塗布液Cを表面処理ガラスP上に塗布する代わりにアルカリ洗滌した白ガラス(松浪ガラス社製)上に塗布した以外は実施例1と同様に処理膜をガラス表面に形成した。結果を表1に示す。
得られた処理膜を持つガラスは、実施例と比べて耐候性試験後で水滴滑落角度が大きく増加することが認められ、水滴滑落性の面からは実用に耐えるものとはいえなかった。
【0050】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の水滑落性層を製造する方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1 基材
3 多孔質体
4 (露出した)無機材料部分
5 有機疎水性材料
10 水滑落性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性材料からなる領域と疎水性材料からなる領域を表面に有した水滑落性層であり、親水性材料が無機多孔性構造である水滑落性層。
【請求項2】
親水性材料が酸化ケイ素もしくは酸化チタンである請求項1記載の水滑落性層。
【請求項3】
疎水性材料がシロキサン基を有する有機物から実質的になる請求項1または2に記載の水滑落性層。
【請求項4】
疎水性材料がフッ素を含む請求項1〜3のいずれかに記載の水滑落性層。
【請求項5】
親水性領域の平均間隔が0.1μm以上100μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の水滑落性層。
【請求項6】
親水性領域が0.5%以上50%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の水滑落性層。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水滑落性層を表面に有する水滑落性構造体。
【請求項8】
基材表面に実質的に親水性材料からなる多孔性層を形成し、実質的に疎水性材料からなる素材を空隙部に充填する請求項1記載の水滑落性層の製造方法。
【請求項9】
微粒子を凝集させて多孔性層を形成する請求項8記載の水滑落性層の製造方法。
【請求項10】
50〜250℃で加熱処理を行う請求項8または9記載の水滑落性層の製造方法。
【請求項11】
表面研磨を行う請求項8〜10のいずれかに記載の水滑落性層の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−204351(P2007−204351A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28815(P2006−28815)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】