説明

水熱処理装置の洗浄方法

【課題】水熱処理装置の詰まり発生を抑制し、安定した稼働を実現する。
【解決手段】水熱管を通過させることにより有機性廃棄物を水熱処理し、冷却管を通過させることにより水熱処理液を冷却する水熱処理装置の洗浄方法であって、有機性廃棄物に代えて、油脂を鹸化する鹸化剤を前記水熱管に供給して洗浄運転を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱処理装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物を処理するための手法の一つとして、有機性廃棄物をバイオマス資源とし、有機性廃棄物中の有機成分を原料としてメタン菌等の嫌気性微生物の働きによって消化処理させることにより、各種ボイラや発電設備等のエネルギー源として利用可能なバイオガスを生産してエネルギーの回収を図るものがある。
【0003】
上記のような有機性廃棄物の処理方法の一つとしては、特許文献1に示す有機性廃棄物のバイオガス化処理方法がある。このバイオガス化処理方法では、嫌気性微生物による消化処理の前段階に、水熱処理装置を用いて有機性廃棄物を液体化している。
【特許文献1】特開2003−117526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術で用いられるような水熱処理装置では、稼動1週間程度を経過すると、廃棄物が通過する水熱管や冷却管に詰まりが発生する問題がある。水熱管の詰まりは、廃棄物に含まれる油脂分及び無機分が、管内面に付着し、高温高圧にさらされて固化することにより発生する。冷却管の詰まりは、水熱反応で液体化された油脂分及び有機分が、冷却されることにより析出し、管内面に付着し固化することにより発生する。
従来は、水熱管や冷却管に詰まりが発生すると、水熱処理装置の稼動を停止して管を分解し、ドリルやジェット水流等によって管内面の付着物を除去するという洗浄方法が採られている。このような洗浄方法によると、水熱管及び冷却管の詰まり発生による水熱処理装置の稼動停止から稼動再開まで、3〜7日を要する。つまり、上記のような洗浄方法では、メンテナンス時間が稼働時間と同程度にまでなってしまい、水熱処理装置を有用でなからしめている。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、水熱処理装置の詰まり発生を抑制し、安定した稼働を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、第1の手段として、水熱管を通過させることにより有機性廃棄物を水熱処理し、冷却管を通過させることにより水熱処理液を冷却する水熱処理装置の洗浄方法であって、有機性廃棄物に代えて、油脂を鹸化する鹸化剤を前記水熱管に供給して洗浄運転を行う方法を採用した。
【0007】
また、第2の手段として、上記第1の手段において、前記洗浄運転を、前記通常運転の運転時間が所定時間に達する毎に行う方法を採用した。
【0008】
第3の手段として、上記第1又は2の手段において、前記水熱管の狭まり状況を検知し、前記洗浄運転を、前記水熱管の狭まり状況に応じて行う方法を採用した。
【0009】
第4の手段として、上記第1から3の何れかの手段において、前記洗浄運転に先立って、前記水熱管及び/又は前記冷却管に通水して運転する予洗浄運転を行う方法を採用した。
【0010】
第5の手段として、上記第4の手段において、前記予洗浄運転において、前記水熱管の水圧を急激に変化させる方法を採用した。
【0011】
第6の手段として、上記第1から5の何れかの手段において、前記鹸化剤は、水酸化ナトリウム水溶液である方法を採用した。
【0012】
第7の手段として、上記第1から6の何れかの手段において、前記鹸化剤による洗浄運転後、前記水熱管及び前記冷却管に酸性溶液を供給して洗浄運転を行う方法を採用した。
【0013】
第8の手段として、上記第7の手段において、前記酸性溶液は、クエン酸水溶液である方法を採用した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鹸化剤を水熱管に供給して洗浄運転を行うことにより、水熱処理装置の水熱管及び冷却管を詰まらせる付着物を鹸化剤に溶解させて除去することができるので、水熱処理装置の詰まり発生を抑制し、安定した稼働を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態における水熱処理装置の模式図である。本水熱処理装置は、原料ホッパ1、移送ライン2、原料供給ポンプ3、移送ライン4、分岐管5、分岐管6、水熱液循環路7、移送ライン8、冷却循環路9、移送ライン10、通常運転用ライン11、アングル弁12、水熱処理液タンク13、水タンク14、水酸化ナトリウムタンク15、クエン酸タンク16、洗浄運転用ライン17、ON/OFF弁18、洗浄液貯留タンク19、シール水供給ポンプ20、シール水タンク21、シール水供給ポンプ22、シール水タンク23を備えている。水熱液循環路7は、水熱反応器7a、配管7b、循環ポンプ7cから構成されている。冷却循環路9は、冷却器9a、配管9b、循環ポンプ9cから構成されている。
【0016】
原料ホッパ1は、固形物を含有する有機性の排水(以下、有機性排水とする)を貯留するものであり、底部開口から有機性排水を取出可能に形成されている。移送ライン2は、原料ホッパ1と原料供給ポンプ3とを接続するものである。原料供給ポンプ3は、移送ライン4、分岐管5及び分岐管6により水熱液循環路7に接続されており、原料ホッパ1から取り出される有機性排水を所定圧力(例えば4MPa)まで昇圧させ、移送ライン4及び分岐管5或いは分岐管を介して水熱液循環路7へ送り込むものである。移送ライン4は、上流側端部が原料供給ポンプ3に連結され、下流側端部が分岐管5及び分岐管6に連結されている。分岐管5及び分岐管6は、上流側端部が移送ライン4の下流側端部に連結され、下流側端部が配管7bに連結されている。分岐管5及び分岐管6のそれぞれに設けられた弁が制御されることにより、分岐管5及び分岐管6の何れかから、有機性排水が水熱液循環路7へ送り込まれる。
【0017】
水熱反応器7aは、通常運転において、内部に備える水熱管に有機性排水を通過させることにより、有機性排水を所定温度(例えば220℃)に加熱して、有機性排水に含まれる固形の有機物を液体化し、処理液とする水熱処理を行うものである。水熱処理は、有機性排水を循環ポンプ7cにより水熱液循環路7にて循環させながら行う。
移送ライン8は、水熱液循環路7と冷却循環路9とを接続するものである。
冷却器9aは、通常運転において、水熱処理後の有機性排水である処理液を、内部に備える冷却管に通過させることにより、処理液を所定温度(例えば常温程度)まで冷却する。冷却は、処理液を循環ポンプ9cにより冷却循環路9にて循環させながら行う。
【0018】
移送ライン10は、上流側端部が冷却循環路9に連結され、下流側端部が通常運転用ライン11及び洗浄運転用ライン17に連結されている。通常運転用ライン11及び洗浄運転用ライン17は、上流側端部が移送ライン10に連結され、下流側端部が、水熱処理液タンク13及び洗浄液貯留タンク19に接続する配管に連結されている。通常運転用ライン11は、通常運転時に水熱処理後の有機性排水である処理液を水熱処理液タンク13へ移送する際に用いられる。洗浄運転用ライン17は、洗浄運転時に洗浄液を洗浄液貯留タンク19又は水熱処理液タンク13へ移送する際に用いられる。
アングル弁12は、通常運転用ライン11において、水熱液循環路7及び冷却循環路9の圧力を調節する。ON/OFF弁18は、洗浄運転用ライン17において、水熱液循環路7及び冷却循環路9の圧力を調節する。
水熱処理液タンク13は、冷却循環路9で冷却された処理液を貯留するものである。洗浄液貯留タンク19は、洗浄運転において使用された水酸化ナトリウム水溶液を貯留するものである。
【0019】
水タンク14は、水を貯留するものである。水タンク14に貯留された水は、洗浄運転に先立って行う予洗浄運転において、移送ライン2、移送ライン4、及び、分岐管5又は分岐管6を介して、水熱液循環路7へ注入される。
水酸化ナトリウムタンク15は、本実施形態における鹸化剤の溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を貯留するものである。この水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、水熱管に付着した油脂分を溶解させるに支障なく且つコストパフォーマンスを過剰に損なわない程度に設定され、例えば1%程度である。水酸化ナトリウムタンク15に貯留された水酸化ナトリウム水溶液は、洗浄運転において、移送ライン2、移送ライン4、及び、分岐管5又は分岐管6を介して、水熱液循環路7へ注入され、更に、移送ライン8を介して、冷却循環路9に注入される。
クエン酸タンク16は、本実施形態における酸性溶液であるクエン酸水溶液を貯留するものである。このクエン酸水溶液の濃度は、冷却管に付着した無機分を溶解させるに支障なく且つ水熱処理装置の配管を損傷させない程度に設定され、例えば5%程度である。クエン酸タンク16に貯留されたクエン酸水溶液は、洗浄運転において、移送ライン2、移送ライン4、分岐管5又は分岐管6、水熱液循環路7へ注入され、更に、及び移送ライン8を介して、冷却循環路9へ注入される。
シール水供給ポンプ20は、シール水タンク21に貯留されたシール水を循環ポンプ7cに供給する。シール水供給ポンプ22は、シール水タンク23に貯留されたシール水を循環ポンプ9cに供給する。
【0020】
次に、上記構成の水熱処理装置の動作について説明する。
水熱処理装置の通常運転においては、原料ホッパ1から取り出される有機性排水を原料供給ポンプ3により移送ライン4及び分岐管5或いは分岐管を介して水熱液循環路7へ移送し、有機性排水を循環ポンプ7cにより水熱液循環路7にて循環させながら水熱反応器7aで水熱処理して処理液となし、続いて、この処理液を循環ポンプ9cにより冷却循環路9にて循環させながら冷却器9aで冷却する。冷却後の処理液は、水熱処理液タンク13に貯留される。
なお、本実施形態では、通常運転において、有機性排水が含有する油脂分、無機分及び有機分が、水熱管及び冷却管に固着することを抑制するために、原料ホッパ1に貯留された有機性排水に、3〜5%程度の割合で、水酸化ナトリウムを混入する。
【0021】
水熱処理装置の通常運転の運転性能は、水熱反応器7aの加熱性能を示す水熱反応器7aの伝熱係数と、冷却器9aの冷却性能を示す冷却器9aの伝熱係数とによって、代表される。水熱反応器7aの伝熱係数は、水熱管の内面の油脂分及び無機分の固着が進行するにしたがって低下する。冷却器9aの伝熱係数は、冷却管の内面の水熱処理液中の液化有機物及び油脂分の固着が進行するにしたがって低下する。
図2は、通常運転及び洗浄運転を交互に行う実験での水熱反応器7a及び冷却器9aの伝熱係数の変化を示すグラフである。出願人は、この実験により、通常運転を継続すると、水熱反応器7a及び冷却器9aの伝熱係数が徐々に低下するが、通常運転の継続期間が1週間程度であれば半日程度洗浄運転を行うことにより、水熱反応器7a及び冷却器9aの伝熱係数が回復することを確認した。
以下、洗浄運転について説明する。
【0022】
洗浄運転を行う際には、洗浄運転に先立って、水タンク14に貯留された水を移送ライン2、移送ライン4、及び、分岐管5又は分岐管6を介して、水熱液循環路7へ注入して循環させ、更に、移送ライン8を介して冷却循環路9へ注入して循環させて、予洗浄運転を1時間程度行う。予洗浄運転は、後の洗浄運転の効きを良くするために、水熱管及び冷却管に通水して、水熱管及び冷却管から水によって洗い流されるものを除去する。このとき、水熱管に固着した油脂分及び無機分や、冷却管に固着した油脂分及び有機分を除去する効果を高めるために、ON/OFF弁18を間欠的に開放し、水熱管及び冷却管を流れる水の圧力を急激に変化させる。
【0023】
予洗浄運転に続いて、洗浄運転を行う。洗浄運転においては、まず、水酸化ナトリウムタンク15に貯留された水酸化ナトリウム水溶液を、移送ライン2、移送ライン4、及び、分岐管5又は分岐管6を介して、水熱液循環路7へ注入する。続いて、水酸化ナトリウム水溶液を循環ポンプ7cにより水熱液循環路7にて循環させる。更に、移送ライン8を介して、水酸化ナトリウム水溶液を冷却循環路9へ注入する。続いて、水酸化ナトリウム水溶液を循環ポンプ9cにより冷却循環路9にて循環させる。このようにして、水熱管及び冷却管に固着した油脂分を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて除去する。このとき、油脂分に混じって固着していた有機分も洗い流される。洗浄に用いた後の水酸化ナトリウム水溶液は、洗浄液貯留タンク19に貯留する。
次に、クエン酸タンク16に貯留されたクエン酸水溶液を、移送ライン2、移送ライン4、分岐管5又は分岐管6、水熱液循環路7にて循環させ、水熱管に固着した無機分をクエン酸水溶液に溶解させて除去する。更に、移送ライン8を介して、クエン酸水溶液を冷却循環路9へ注入する。続いて、クエン酸水溶液を循環ポンプ9cにより冷却循環路9にて循環させ、冷却管を中和する。洗浄に用いた後のクエン酸水溶液は、水熱処理液タンク13に貯留する。
【0024】
このように、通常運転と洗浄運転とを交互に行うと、水熱処理装置を分解清掃しなくても、通常運転の運転性能を回復することができる。分解清掃には3〜7日間を要するので、洗浄運転を取り入れることにより、装置洗浄のための通常運転休止期間を短縮することができる。したがって、水熱処理装置の安定した稼動を実現することができる。
また、水酸化ナトリウム水溶液を用いた洗浄運転を先に行い、その後でクエン酸水溶液による洗浄運転を行うようにすることにより、洗浄液が通過する経路の中和が施される。また、クエン酸は、嫌気性消化処理において、嫌気性微生物を活性化するので、クエン酸による洗浄を後にすることにより、嫌気性消化処理に好影響を与えるという副次的効果を得られる。
更に、通常運転において、水酸化ナトリウムを混入することによって、有機性排水の含有成分が水熱管に固着することを抑制し、水熱管の詰まりの進行を遅らせることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、鹸化剤として水酸化ナトリウム水溶液を用いているが、実施にあたっては、他の鹸化剤でもよい。また、本実施形態では、酸性溶液としてクエン酸水溶液を用いているが、実施にあたっては、他の酸性溶液でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態における水熱処理装置の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態における水熱反応器及び冷却器の伝熱係数の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1…原料ホッパ、 2…移送ライン、 3…原料供給ポンプ、 4…移送ライン、 5…分岐管、 6…分岐管、 7…水熱液循環路、 7a…水熱反応器、 7b…配管、 7c…循環ポンプ、 8…移送ライン、 9…冷却循環路、 9a…冷却器、 9b…配管、 9c…循環ポンプ、 10…移送ライン、 11…通常運転用ライン、 12…アングル弁、 13…水熱処理液タンク、 14…水タンク、 15…水酸化ナトリウムタンク、 16…クエン酸タンク、 17…洗浄運転用ライン、 18…ON/OFF弁、 19…洗浄液貯留タンク、 20…シール水供給ポンプ、 21…シール水タンク、 22…シール水供給ポンプ、 23…シール水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱管を通過させることにより有機性廃棄物を水熱処理し、冷却管を通過させることにより水熱処理液を冷却する水熱処理装置の洗浄方法であって、
有機性廃棄物に代えて、油脂を鹸化する鹸化剤を前記水熱管に供給して洗浄運転を行うことを特徴とする水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄運転を、前記通常運転の運転時間が所定時間に達する毎に行うことを特徴とする請求項1に記載の水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項3】
前記水熱管の狭まり状況を検知し、
前記洗浄運転を、前記水熱管の狭まり状況に応じて行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄運転に先立って、前記水熱管及び/又は前記冷却管に通水して運転する予洗浄運転を行うことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項5】
前記予洗浄運転において、前記水熱管の水圧を急激に変化させることを特徴とする請求項4に記載の水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項6】
前記鹸化剤は、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項7】
前記鹸化剤による洗浄運転後、前記水熱管及び前記冷却管に酸性溶液を供給して洗浄運転を行うことを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の水熱処理装置の洗浄方法。
【請求項8】
前記酸性溶液は、クエン酸水溶液であることを特徴とする請求項7の何れかに記載の水熱処理装置の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−301497(P2007−301497A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133709(P2006−133709)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】