説明

水田作業機

【課題】 乗用田植え機等の水田作業車において、植付け条止め装置用の操作手段と施肥条止め用の操作手段の操作性を向上させると共に、走行機体に対し植付け装置を近接して配置することを可能にする。
【解決手段】 乗用田植え機1の走行機体11に配置された座席シート26の後方に配設されたガード32に、該座席シート26の後部の左右両側に、ユニット取り付け座33を介して一対の条止め操作ユニット71、71を配置する。各条止め操作ユニット71、71には、植付けする各条に対応する植付け条止めバー72と施肥条止めレバー73、75が近接するように、上下方向(矢印B方向)に操作可能に配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の条に苗を植付ける植付け装置と、各条に対応する多数の施肥ノズルを備えた水田作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
水田作業機、例えば、複数条の苗を同時に植付けるための乗用田植え機として、圃場への肥料の注入と苗の植付けを同時に行うものが知られている。複数条の苗を同時に植える水田作業機においては、圃場の畔際で苗の植付けをする場合、植付け装置の一部を停止させる(植付け条止め)と共に、停止させた植付け装置に対応する施肥ノズルへの肥料の供給を停止させる(施肥条止め)ことが行われている。
【0003】
前記植付け条止めと施肥条止めを確実に行うものとして、植付け条止め装置用の操作手段と施肥条止め用の操作手段とを1組として、植付け装置に対応して並列に配置し、植付け条止めと施肥条止めを確実に行うようにしたものがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−89121号公報(第3頁、図2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植付け条止め装置用の操作手段と施肥条止め用の操作手段とを並列に配置することにより植付け条止め操作に併せて施肥条止め操作を忘れることなく確実に行うことができる。しかし、植付け条止め装置用の操作手段と施肥条止め用の操作手段が、運転席の座席シートの真後ろに配置されているため、操作時に座席シートから立ち上がりリアステップに移動しなければならず操作し難いだけでなく、操作手段の操作方向が前後方向であり、その操作スペースを確保するために、植付け装置を走行機体から離れた位置に配置せざるを得なかった。
【0006】
前記の事情に鑑み、本発明は、植付け条止め装置用の操作手段と施肥条止め用の操作手段の操作性を向上させると共に、走行機体に植付け装置を近接して配置すること可能にした水田作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、走行機体(11)と該走行機体(11)に昇降自在に支持される植付け装置(51)と、を備え、前記植付け装置(51)は、多数の条に対応する各苗のせ台(53)の内の所定の苗のせ台(53)の苗を止める植付け条止め装置と、前記各条に対応して配置された多数の施肥ノズルと、を有する水田作業機(1)において、
前記植付け条止め装置用の操作手段(72)と前記施肥ノズルへの肥料の供給を止める施肥条止め用の操作手段(73、75)とを、これら両操作手段により操作される各条が対応するようにそれぞれ近接して前記走行機体(11)の後部に配置し、
前記植付け条止め装置用の操作手段(72)及び前記施肥条止め用の操作手段(73、75)を、それぞれ上下方向に操作可能に配置してなる、
ことを特徴とする水田作業機にある。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記走行機体(11)の前記植付け装置(51)側の両側端部分に設置されたステップ(31)に亘って、ループ状のガード部材(32)を設け、
該ガード部材(32)に、前記植付け条止め装置用の操作手段(72)及び前記施肥条止め用の操作手段(73、75)を取り付けてなる、
請求項1記載の水田作業機にある。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記植付け条止め装置用の操作手段(72)及び施肥条止め用の操作手段(73、75)をまとめて配置して2個の条止め操作ユニット(71、71)を構成し、
これら条止め操作ユニット(71、71)を、前記走行機体(11)の座席(26)の左右に離間して配置してなる、
請求項1又は2記載の水田作業機にある。
【0010】
なお、前述した括弧内の符号等は、図面を参照するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によると、植付け条止め装置用の操作手段と、施肥条止め用の操作手段とを、それぞれ両操作手段により操作される各条が対応するように近接して配置したので、条止め操作する際、近接する両操作手段を操作することにより誤操作をすることなく、正確かつ確実に行うことができる。更に、前記両操作手段を上下方向に操作可能に走行機体の後部に配置したので、操作手段の操作スペースが前後方向に短くて足り、植付け装置を走行機体に近接して配置することが可能となり、水田作業機の全長を短くすることが可能となる。
【0012】
請求項2に係る本発明によると、両操作手段をガード部材に取り付けたので、該ガード部材により両操作手段が保護されると共に、操作手段の操作時に、片手でガード部材に掴まることにより身体が安定し、操作手段の操作性を向上させることができる。
【0013】
請求項3に係る本発明によると、植付け条止め装置用の操作手段及び施肥止め用の操作手段をまとめた2個の条止め操作ユニットを、座席の左右に配置したので、座席に邪魔されることなく、操作を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る水田作業車としての8条タイプの乗用田植え機の斜視図、図2は、図1の側面図、図3は、図1の平面図、図4は、図1に示す乗用田植え機の走行機体のフレームの平面図、図5は、図4の背面図、図6は、条止め操作ユニットの正面図、図7は、条止め操作ユニットの側面図、図8は、条止めレバーと植付け装置との接続状態を示す側面図、図9は、施肥系統を示す系統図である。
【0016】
図1乃至図3に示すように、水田作業機としての乗用田植え機1は、走行機体11と圃場に苗を植付ける植付け装置51とにより構成される。
【0017】
前記走行機体11は、前輪12及び後輪13で支持されたフレーム15を有し、該フレーム15には、図4、図5に示すように、ステップフレーム16と座席フレーム17が配設されている。
【0018】
前記フレーム15の前部に配置されたエンジン18は、図1乃至図3に示すように、ボンネット20で覆われている。図4に示すように、フレーム15の前記エンジン18の後方には、トランスミッション21が配設され、エンジン18から出力された動力を変速する。該トランスミッション21で変速された動力は、前記前輪12を支持するフロントアクスルケース(図示せず)に伝達され、前輪12を駆動すると共に、図2に示すように、走行PTO軸22を介して前記後輪13を支持するリアアクスルケース23に伝達され、後輪13を駆動する。また、前記トランスミッション21の出力は、植付けPTO軸(図示せず)を介して前記植付け装置51に伝達される。
【0019】
前記フレーム15の中央部には、ステップ25が配設され、前記座席フレーム17には、座席シート26が配設され運転席27を形成している。この運転席27には、ステアリングハンドル28の他、水田田植え機1の運転操作に必要な各種操作レバーと、ブレーキペダル30、クラッチペダル(図示せず)の他、水田田植え機1の運転操作に必要な各種ペダルが配置されている。
【0020】
前記ステップフレーム16には、前記運転席27の両側から前記後輪13の上方にかけて、後方が高くなる階段状に延設されたリアステップ31が配設されている。また、図4、図5に示すように、該リアステップ31の後端には、略矩形に形成されたガード32が配設されている。該ガード32には、前記座席シート26の後方の左右側に位置するようにユニット取付け座33が所定の間隔で配設されている。該ユニット取付け座33は、図6、図7に示すように、前記ガードに固定された固定プレート35と、該固定プレート35に搖動可能に支持された取付けプレート36とを有し、取付けプレート36はピン37を介して固定プレート35に揺動可能に支持され、該固定プレート35と取付けプレート36を貫通する止めねじ37で、取付けプレート36を固定プレート35に固定する構成になっている。
【0021】
図1に示すように、前記走行機体11のボンネット20の左右両側方には、補助苗のせ台40が設けられており、走行機体11の後部左右両端側には、トレースマーカ41が配置されている。
【0022】
図2、図8に示すように、前記走行機体11の後方には、昇降リンク機構42が揺動自在に配設され、該昇降リンク機構42の後端に揺動自在に接続されたリンクホルダ43を介して前記植付け装置51のフレーム52が搖動自在に連結されている。即ち、前記植付け装置51は、昇降リンク機構42及びリンクホルダ43を介して、走行機体11に揺動自在に連結されている。
【0023】
図1乃至図3、図8に示すように、前記植付け装置51は、マット苗を載置する苗のせ台53と、苗を圃場に植付けるプランターケース(移植装置)61とを有している。また、植付け装置51は、植付け条の側部に施肥する側条施肥ノズル(図示せず)と、隣接する植付け条の深部に施肥する深層施肥ノズル(図示せず)とを備えている。また、植付け装置51に下端には、圃場面を滑走する複数のフロート65が所定の間隔で配置されている。
【0024】
図8に示すように、前記苗のせ台53の下面側には、苗縦送り装置55が配設され、該苗縦送り装置55は、苗のせ台53上に載置されたマット苗を前記プランターケース61に向けて搬送するゴムベルト56と、該ゴムベルト56への動力の伝達を入り切する縦送りクラッチ57とを備えている。そして、縦送りクラッチ57を切り、ゴムベルト56を停止させることにより、マット苗の搬送を停止させることができるようになっている。
【0025】
図2、図3に示すように、前記プランターケース61は、前記PTO軸から動力を受ける動力伝達装置62と、該動力伝達装置62の出力により回転し、苗を圃場に植付ける植付け杆63を有している。前記動力伝達装置62の出力側には、植付け条止めクラッチ(図示せず)が配設され、該植付け条止めクラッチを切ることにより植付け杆63の回転を停止させ、苗の植付けを停止させることができるようになっている。
【0026】
なお、植付け装置51には、苗を植付ける植付け条の左右側部に施肥する側条施肥ノズル(図示せず)と、隣接する植付け条の深部に施肥する深層施肥ノズル(図示せず)が配設されている。
【0027】
前記側条施肥ノズルと深層施肥ノズルへの肥料の供給は、図9に示すように、前記座席シート26の後方下部に配置された肥料タンク45から肥料を汲み上げる施肥ポンプ46と、該施肥ポンプ46から吐出される肥料を前記側条施肥ノズル及び深層施肥ノズルへ導く配管47により行われる。
【0028】
前記苗縦送り装置55及び植付け杆63の動作を停止させると共に、前記各側条施肥ノズル及び深層施肥ノズルからの肥料の吐出を停止させるための条止め操作ユニット61は、図6、図7に示すように、前記ユニット取付け座33の前記取付けプレート36に固定され、前記ガード32に支持されている。従って、図2に破線で示すように、ピン37を支軸として前後方向(矢印A方向)に向けて揺動させることができる。
【0029】
前記条止め操作ユニットは、前記プランターケース61(図3参照)の各々に対応して、各プランターケース61に配置された植付け杆63に対する苗の供給を止めると共に、前記深層施肥ノズルへの肥料の供給を停止させる植付け条止めレバー72と、前記側条施肥ノズルへの肥料の供給を停止させる施肥条止めレバー73、75とを有している。これら植付け条止めレバー72と施肥止めレバー73、75により操作される各条が対応するようにそれぞれ近接させるように配置されている。なお、前記植付け条止めレバー72と施肥条止めレバー73、75は、それぞれ軸76に搖動可能に支持され、上下方向(図2の矢印B方向)に揺動操作するように構成されている。
【0030】
図8に示すように、前記植付け条止めレバー72の一端には、作用側が分岐された操作用のワイヤ76が接続され、その一方は前記苗縦送り装置55の縦送りクラッチ57に接続され、他方は前記動力伝達装置62の植付け条止めクラッチに接続されている。従って、植付け条止めレバー72を停止操作することにより、マット苗の縦送りと植付け杆63の回転を同時に停止させ、苗の植付けを停止させることができる。なお、条止めレバー72は、マット苗の縦送り及び植付け杆63の回転と共に、前記深層施肥ノズルへの肥料の供給を停止するようになっている。
【0031】
植付け装置51の苗のせ台53にマット苗を搭載し、条止め操作ユニット71の植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75を作業位置に設定することにより、圃場に対する苗の植付けと施肥作業を行うことができる。
【0032】
また、畔際で植付け装置51の一部の植付け杆63の作動を停止させる場合には、条止め操作ユニット71の停止させるべき植付け条(植付け杆63)に対応する植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75を、例えば、下方(矢印B方向)に揺動させ停止操作する。このとき、条止め操作ユニット71が、座席シート26の後方の左右両側に配置されているので、作業者は座席シート26上で後ろを振り向くことにより、座席シート26に邪魔されることなく、植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75の確実な操作が可能になる。
【0033】
前記のように、植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75を上下方向に操作する構成とすることにより、走行機体11と植付け装置51の近接して配置することができ、乗用田植え機1の操作性を向上させることができる。また、補助苗のせ台40から植付け装置51の苗のせ台53へのマット苗の移し変えが容易になり、作業性を向上させることができる。
【0034】
植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75を操作する際、片手でガード32に掴ることにより、身体の姿勢を安定させ確実な操作を行うことができる。また、植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75が近接配置されているので、施肥条止めレバー73、75等の操作を忘れることもなくなる。
【0035】
停止操作された植付け条止めレバー72に接続されたワイヤ76により、該植付け条止めレバー72に対応する植付け装置51の縦送りクラッチ57が切り操作されて、マット苗の縦送りが停止されると共に、該植付け条止めレバー72に対応するプランターケース61のクラッチも切り操作されて、植付け杆63の回転も停止される。従って苗に植付けが停止されることになる。
【0036】
なお、操作された植付け条止めレバー72、施肥条止めレバー73、75に対応する施肥ポンプ46から吐出された肥料は、側条施肥ノズルと深層施肥ノズルへ送られることなく肥料タンク45に戻される。
【0037】
なお、ユニット取付け座33の止めねじ38を取外し、条止め操作ユニット71を図2に破線で示すように後方(矢印A方向)へ搖動させることにより、走行機体11のメンテナンス等の際に機体カバー(図示せず)の取外しを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る水田作業車としての8条タイプの乗用田植え機の斜視図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】図1に示す乗用田植え機の走行機体のフレームの平面図である。
【図5】図4の背面図である。
【図6】条止め操作ユニットの正面図である。
【図7】条止め操作ユニットの側面図である。
【図8】条止めレバーと植付け装置との接続状態を示す側面図である。
【図9】施肥系統を示す系統図である。
【符号の説明】
【0039】
1 水田作業機(乗用田植え機)
11 走行機体
26 座席(座席シート)
31 ステップ(リアステップ)
32 ガード部材(ガード)
51 植付け装置
53 苗のせ台
71 条止め操作ユニット
72 操作手段(植付け条止めレバー)
73 操作手段(施肥条止めレバー)
75 操作手段(施肥条止めレバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体と該走行機体に昇降自在に支持される植付け装置と、を備え、前記植付け装置は、多数の条に対応する各苗のせ台の内の所定の苗のせ台の苗を止める植付け条止め装置と、前記各条に対応して配置された多数の施肥ノズルと、を有する水田作業機において、
前記植付け条止め装置用の操作手段と前記施肥ノズルへの肥料の供給を止める施肥条止め用の操作手段とを、これら両操作手段により操作される各条が対応するようにそれぞれ近接して前記走行機体の後部に配置し、
前記植付け条止め装置用の操作手段及び前記施肥条止め用の操作手段を、それぞれ上下方向に操作可能に配置してなる、
ことを特徴とする水田作業機。
【請求項2】
前記走行機体の前記植付け装置側の両側端部分に設置されたステップに亘って、ループ状のガード部材を設け、
該ガード部材に、前記植付け条止め装置用の操作手段及び前記施肥条止め用の操作手段を取り付けてなる、
請求項1記載の水田作業機。
【請求項3】
前記植付け条止め装置用の操作手段及び施肥条止め用の操作手段をまとめて配置して2個の条止め操作ユニットを構成し、
これら条止め操作ユニットを、前記走行機体の座席の左右に離間して配置してなる、
請求項1又は2記載の水田作業機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−55036(P2006−55036A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238775(P2004−238775)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】