説明

水硬性アルミナ、それを用いた含水土用中性固化材、水硬性アルミナの製造方法、重金属溶出防止方法、及び高含水土の脱水固化処理方法

【課題】 硬化体が中性を示し、十分な強度を有するように、含水土を固化することができる手段を提供する。
【解決手段】
非晶質の水酸化アルミニウム含水物50℃〜400℃で恒量となるまで加熱し、水硬性アルミナを生成する。この水硬性アルミナは、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=22°±5°にブロードなピークの頂点を有し、ブロードなピークのベースラインを基準とした半値幅が6〜20°である。この水硬性アルミナを65〜98質量%、炭酸リチウムを2〜20質量%及び酸化マグネシウムを0〜15質量%含有させて含水土用中性固化材を作製する。この固化材により、硬化体が中性を示し、十分な強度を有するようにすることができ、汚染土から重金属の溶出防止が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫底泥や建設汚泥等の含水土を固化するために適した含水土用中性固化材、その含水土用中性固化材を構成する水硬性アルミナ、その水硬性アルミナの製造方法、含水土用中性固化材を用いた重金属溶出防止方法及び高含水土の脱水固化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱土の土質改良には、固化材を使用する固化処理が施される。また、土木工事等に伴って発生する建設汚泥等を搬出する際、流動性が高くそのままでの搬送が困難な場合があるので、固化材を使用して建設汚泥等を固化処理した後、搬出するという方法が採用される。何れの目的においても、固化材には、固化後の土が目的に合った十分な強度を有していること、適度の固化速度を有していること、固化材が化学的に安定であり有害物質が溶出しないこと等の特性が要求される。
【0003】
これら複数の特性が要求される固化材に関し、既に多くの技術が開示されている。このうちセメントを主成分とするセメント系固化材では高強度は得られるものの、セメント自体のアルカリにより固化処理土のpH値が高くなり、これが問題となる場合がある。また、鉛汚染土等の処理においては、両性金属である鉛が高アルカリ側で可溶化することから、セメント系固化材での処理が困難である等の問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するために、セメント、石膏双方を成分とした固化材或いは石膏系及びマグネシア系固化材等が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、半水石膏、セメント、石灰及び高炉スラグ等の混合材より成る固化材が開示され、特許文献3には、石膏、ポルトランドセメント及び硫酸アルミニウムより成る固化材が開示されている。また、特許文献4には、無水又は半水石膏、セメント及び硫酸基を有する無機塩よりなる固化材が開示されている。
【0006】
これらのセメントと石膏を併用した中性固化材は、pH値としては中性領域の指標として排水基準に規定される5.8〜8.6の範囲となるものが多いものの、改良後、土が十分な強度を示さないなどの問題がある。
【0007】
一方、特許文献5〜7では、酸化マグネシウムとpH調整剤として酸性材料を組合せたマグネシア系固化材が開示されている。マグネシア系固化材は、前述の半水石膏系の中性固化材に比較して高い強度が得られるのに加え、セメント系固化材では処理が困難な鉛、六価クロム、セレン、砒素等の不溶化効果が大きい等の利点がある。しかし、セメント系固化材に比較して未だ十分な強度は得られず、また、硬化の主体となるマグネシアの特性上、改良土がpH10程度の低アルカリを示す場合が多く、中性とはなり難い等の問題がある。このpH調整を行うため、酸性材料を添加することも開示されているが、この場合、固化強度の低下を伴う問題がある。
【0008】
一方、高含水の浚渫底泥や建設汚泥を機械脱水により減容化させ、その脱水ケーキにセメント系固化材や石灰系固化材を添加するか、或いは、予めセメント系固化材や石灰系固化材を添加したものに脱水処理を加えて、強度を確保する方法が採られる。
【0009】
前者の方法では、脱水処理後の脱水ケーキがある程度の強度を有しているため、脱水ケーキと固化材との混合が困難であり、均一な改良土が得られない欠点を有する。一方、後者の方法では、固化強度の向上が図られるだけではなく、固化材の混合が容易であることから、均一な改良土を得ることが可能である。しかし、セメントや石灰分が濾布に侵入し硬化することにより目詰まりが生じ、処理の繰返しによる脱水速度の低下が避けられない。また、添加固化材に含まれるアルカリ成分の作用により、浚渫底泥や建設汚泥に含まれる有機物が濾水に溶出しCODが増加することから、その処理に費用がかさむ欠点を有する。
【0010】
【特許文献1】特開平8−302346号公報
【特許文献2】特開平8−311446号公報
【特許文献3】特開平6−220451号公報
【特許文献4】特開平7−179854号公報
【特許文献5】特開2002−206090号公報
【特許文献6】特開2002−167582号公報
【特許文献7】特開2002−249774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、硬化体が中性を示し、十分な強度を有するように、含水土を固化することができる含水土用中性固化材、その含水土用中性固化材を構成する水硬性アルミナ、その水硬性アルミナの製造方法、含水土用中性固化材を用いた重金属溶出防止方法及び高含水土の脱水固化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る水硬性アルミナは、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=22°±5°にブロードなピークの頂点を有し、該ブロードなピークのベースラインを基準とした半値幅が6°〜20°であることを特徴とする。
【0013】
あるいは本発明に係る水硬性アルミナは、アルミニウムの陽極酸化処理工程の中和・凝集により副生した非晶質の水酸化アルミニウム化合物を、50℃〜400℃で恒量となるまで加熱して製造されたことを特徴とする。
【0014】
これらの構成の水硬性アルミナを固化材の構成成分として用いると、その固化材により硬化された硬化体は中性を示し、かつ極めて高い強度を有するようになる。
【0015】
本発明に係る含水土用中性固化材は、上記の水硬性アルミナを65質量%〜98質量%、炭酸リチウムを2質量%〜20質量%、及び酸化マグネシウムを0質量%〜15質量%含むことを特徴とする。
【0016】
この含水土用中性固化材によれば、含水土の存在下で炭酸リチウム及び酸化マグネシウムが優れた固化助剤(固化強度増進材)として作用し、中性領域において、半水石膏系中性固化材に比較して高い強度が得られる。ここで、炭酸リチウムの添加量が2質量%より小さいと、十分な固化強度が得られない傾向にあり、一方、炭酸リチウムを20質量%より大きくしてもそれ以上の添加効果が発現せず、むしろ改良土のpHが上昇するうえ、経済的にも好ましくない。また、酸化マグネシウムは任意成分であるが、これを添加することにより、高価な炭酸リチウムの使用量を削減することが可能なため、15質量%以下の範囲で使用が望ましい。15質量%以上添加した場合、改良土のpHが上昇することから好ましくない。
【0017】
また、本発明に係る水硬性アルミナの製造方法は、アルミニウムの陽極酸化処理工程の中和・凝集により副生した非晶質の水酸化アルミニウム化合物を、50℃〜400℃で恒量となるまで加熱し、水硬性アルミナを製造することを特徴とする。なお、この方法によって得られる生成物は、厳密にはアルミナではないが、本発明では水硬性アルミナと称する。
【0018】
この製造方法により、非晶質の水硬性アルミナが得られ、この水硬性アルミナを固化材の構成成分として用いれば、含水土を、中性で十分な強度を有する硬化体に固化することができる。ここで、加熱温度が50℃よりも低いと、水酸化アルミニウムの反応性が十分でなく、固化材とした場合、十分な固化強度を得ることができない。また、恒量(乾燥する)となるまでに長時間がかかり、製造コストの増加を招くことになる。一方、400℃よりも高い温度で長時間加熱すると、同様に水酸化アルミニウムの反応性が低下し、固化強度が低下する。
【0019】
また、本発明に係る重金属溶出防止方法は、重金属を含有する汚染土1m当たり、上記の含水土用中性固化材を50kg〜350kg混合することにより、汚染土からの重金属の溶出を防止することを特徴とする。
【0020】
この方法により、既存のセメント系固化材では不溶化処理が困難な六価クロム、鉛、砒素、セレン等の重金属によって汚染された汚染土であっても、重金属を固定化し、汚染土から重金属の溶出を十分防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る高含水土の脱水固化処理方法は、含水比100質量%以上の高含水土に対し、上記の含水土用中性固化材を、高含水土の固形成分1t当たり50kg〜200kg混合した後、脱水機により脱水してケーキとすることを特徴とする。
【0022】
これにより、高含水土であっても、pH値が中性領域でケーキ状に形成することができ、処理し易くすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、含水土を中性状態で十分な強度を有するように固化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る水硬性アルミナ、それを用いた含水土用中性固化材、水硬性アルミナの製造方法、重金属溶出防止方法、及び高含水土の脱水固化処理方法の好適な実施形態について説明する。
【0025】
<水硬性アルミナ>
本発明に係る水硬性アルミナの好適な実施形態について説明する。水硬性アルミナは、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=22°±5°、好ましくは22°±2°、あるいは17°≦2θ<20°とすることが好ましく、そのブロードなピークのベースラインを基準とした半値幅が6°〜20°、好ましくは9°〜12°である。このような特性を有すると、炭酸リチウムと好適に反応して水硬性が得られる。また、この構成の水硬性アルミナを固化材の構成成分として用いると、その固化材により硬化された硬化体は中性を示し、かつ極めて高い強度を有するようになる。
【0026】
また、水硬性アルミナの反応性は粒度に影響されるため、レーザー回折式粒度分布計により測定される水硬性アルミナの平均粒径は1μm〜20μmのものが好ましく、2μm〜15μmものの使用は更に望ましい。平均粒径が20μm以下の場合、十分な固化強度が得られ易く材料分離を生じにくい傾向がある。1μm以上であると、粉体流動性が好ましく輸送時のハンドリング性や固化助剤との混合性に問題が生じにくい。
【0027】
固化助剤として使用する炭酸リチウムは、純度90質量%以上のものが望ましい。90質量%未満の製品も使用可能であるが、その場合、水硬性アルミナに対する割合を調整する必要がある。また、その粒度は平均粒径で2μm〜20μmのものが好ましく、2μm〜15μmのものが更に好ましい。20μm以下では十分な促進効果が得られ、材料分離を生じにくい傾向があり、また、2μm以上では、上述の水硬性アルミナと同様に、粉体流動性が好ましく輸送時のハンドリング性や固化助剤との混合性に問題が生じにくい。なお、固化助剤として、炭酸リチウムの他に、塩化リチウム、硝酸リチウム等の無機塩等も使用可能である。ただし、入手の容易さで炭酸リチウムの使用が最も好ましい。
【0028】
また、固化助剤としての任意成分として用いられる酸化マグネシウムは、か焼温度により軽焼マグネシアと硬焼マグネシアの2種に大別できるが、本発明においては、軽焼マグネシアを使用するのが好ましい。硬焼マグネシアは水和活性に乏しいことから、非晶質な水硬性アルミナの固化助剤として使用した場合に目標強度への到達に時間がかかるためである。この軽焼マグネシアは、粒度の細かいものが好ましく、そのBET比表面積は25m/g程度である。なお、ハンドリング性を悪化させない範囲で更に粒度の細かい軽焼マグネシアを使用するとより好ましい結果が得られる。
【0029】
固化材として混合されたこれらの材料、すなわち水硬性アルミナ、炭酸リチウム及び酸化マグネシウムは何れも粉末状であればよく、その調製に当たっては特別な機器、手段を必要とせず、ミキサー等公知の粉体混合用の機器を使った公知の粉体混合方法が適用できる。更に好ましくは、これらの粉体の混合と粉砕をボールミル等公知の粉砕機で同時に行うことで、より固化特性に優れた混合物を得ることが出来る。
【0030】
<含水土用中性固化材>
本発明に係る含水土用中性固化材の好適な実施形態について説明する。含水土用中性固化材は、水硬性アルミナが65質量%〜98質量%、好ましくは80質量%〜95質量%、炭酸リチウムが2質量%〜20質量%、好ましくは2.5質量%〜10質量%、酸化マグネシウムが0質量%〜15質量%、好ましくは5質量%〜10質量%の割合で混合されている。炭酸リチウムの添加量が2質量%より小さいと硬化体に十分な固化強度が得られず、一方、炭酸リチウムが20質量%を超えて添加しても、それ以上の添加効果が発現せず、改良土のpHが上昇するうえ、経済的にも好ましくない。
【0031】
また、酸化マグネシウムは任意成分であるが、これを添加することにより、高価な炭酸リチウムの使用量を削減することが可能なため、15質量%以下の範囲で使用が望ましい。15質量%を超えて添加した場合、改良土のpHが上昇することから好ましくない。
【0032】
<水硬性アルミナの製造方法>
次に、本発明に係る水硬性アルミナの製造方法の好適な実施形態について説明する。水硬性アルミナを製造するに当たっては、アルミニウム製造産業の副産物として生成する非晶質の水酸化アルミニウム含水物等(アルミニウムの陽極酸化処理工程の中和・凝集により副生する水酸化アルミニウム)を主成分とするスラッジを原料とする。このスラッジを50℃〜400℃、好ましくは110℃〜350℃で恒量になるまで加熱する。これにより、水硬性アルミナが得られる。加熱温度が50℃よりも低いと、水酸化アルミニウムの反応性が十分でなく、固化材とした場合、十分な固化強度を得ることができない。また、恒量(乾燥する)となるまでに長時間がかかり、製造コストの増加を招くことになる。一方、400℃よりも高い温度で長時間加熱すると、同様に水酸化アルミニウムの反応性が低下し、固化強度が低下する。なお、水硬性アルミナの製造装置としては、通常の各種の電気加熱式、熱風式乾燥機、或いはロータリーキルン等の加熱装置を好適に使用することができる。
【0033】
このようにして得られた水硬性アルミナに、炭酸リチウムや酸化マグネシウム等の固化助剤(固化強度増進材)を含有させることにより、含水土用の中性固化材として使用することができる。
【0034】
<重金属溶出防止方法>
次に、本発明に係る重金属溶出防止方法の好適な実施形態について説明する。重金属で汚染された汚染土から重金属の溶出を防止するためには、汚染土1m当たりに対し、上記の含水土用中性固化材を50kg〜350kg、好ましくは50kg〜150kgの範囲で、目標強度、処理コスト等を考慮して混合する。これにより、既存のセメント系固化材では不溶化処理が困難な六価クロム、鉛、砒素、セレン等による汚染土を処理し、重金属の溶出を防止することができる。この場合、予め溶出試験等を行って適正な固化材添加量を選定するのが好ましい。更に、鉛等の重金属汚染土において溶出防止に最適なpH値、例えばpH10程度に調整する場合は、酸化マグネシウムを多めに加えることで対応が可能である。この場合、酸化マグネシウムの所要量は通常15質量%〜50質量%である。
【0035】
<高含水土の脱水固化処理方法>
次に、本発明に係る高含水土の脱水固化処理方法の好適な実施形態について説明する。含水比100質量%以上、好ましくは300質量%〜500質量%の浚渫底泥や建設汚泥等の高含水土と上記の含水土用中性固化材とを、高含水土の固形成分1t当たり含水土用中性固化材50kg〜200kgの割合で混合する。さらに、脱水機により脱水してケーキにする。脱水処理に当たっては、脱水前の高含水土に含水土用中性固化材を添加・混合し、その後、フィルタープレス等の公知の脱水機で脱水処理する。これにより、濾布の目詰まりや有機物の溶出がなく、且つ、土木材料として再利用するに必要なコーン指数400kN/m以上の強度を得ることができる。含水土用中性固化材の添加量は、50kg/t・固形成分〜200kg/t・固形成分の範囲で、ケーキ強度、処理コスト等を考慮して設定する。
【0036】
含水土用中性固化材を使用して含水土の改良を行うに当たっては、含水土にさらに余分な水を加えないようにするため、含水土用中性固化材を粉末状態にして混合するのが望ましい。その際、一般に行なわれている改良プラントを用いて混合するプラント混合法やバックホウやスタビライザー等を用いる方法が効果的に適用できる。また、状況に応じて予めスラリー状態にした含水土用中性固化材を含水土に混合することも可能である。
【0037】
この場合、含水土用中性固化材の添加は脱水直前に行うのが望ましく、含水土用中性固化材と併用して、脱水速度を向上させる目的で従来公知のPAC(ポリ塩化アルミニウム)と消石灰を組合せた凝集剤や、ポリアクリルアミド等の有機系の高分子凝集剤を併用添加しても良い。また、状況によっては炭酸リチウムがろ液側に流失し、十分な固化強度が得られない場合があるため、予め、炭酸リチウムを含ませていない水硬性アルミナからなる固化材を添加し、脱水した後、脱水ケーキに炭酸リチウムを添加し、混合する方法を採用することも出来る。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示し本発明を具体的に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
(1)水硬性アルミナの製造
アルミニウムの陽極酸化処理工程の中和・凝集により副生した非晶質の水酸化アルミニウム含水物をPasolina(株)製(TYO-300)乾燥機またはヤマト科学(株)製の電気炉を用いて、JIS R 5202 「ポルトランドセメントの化学分析方法」 8.強熱減量の定量方法に則り、15分間ずつ加熱を繰返し、恒量(50〜400℃における最後の15分間の加熱前後の質量差が乾燥前の水酸化アルミニウム含有物の0.05重量%以下)になるまで加熱した後、通常のボールミルを用いて粉砕することにより、粉体状の水硬性アルミナを得た。そして、得られた水硬性アルミナを、(株)堀場製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置LA−500Aによって測定したところ、非晶質な水硬性アルミナの平均粒径は15μmであった。
【0040】
ここで、図1に、原料に使用した副生水酸化アルミニウムの自然乾燥(天日乾燥)におけるX線回折測定結果を示し、図2、図3および図4に、その副生水酸化アルミニウムを加熱温度110℃、200℃および400℃として得られた非晶質な水硬性アルミナのX線回折測定結果を示す。また、表1に、副生水酸化アルミニウムの110℃乾燥後の化学分析結果、並びに強熱減量を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、X線回折測定には、X線回折装置として理学電気(株)製RINT−2500Vを用いた。X線回折装置における測定条件は次の通りとした。
【0043】
管球:Cu、管電流:130mA、管電圧:50kV、サンプリング幅:0.02°、走査速度:4°/min、波長:1.5405Å、測定回折角範囲(2θ):5°〜70°
【0044】
図1に示すX線回折の結果、加熱前の副生水酸化アルミニウムには、少量のギブサイト(Al(OH)):Gi及びバイヤライト(Al):Baのピークが確認されるものの、副生水酸化アルミニウムの大半は非晶質のアルミニウム化合物であることが確認された。図2に示すX線回折の結果では、副生水酸化アルミニウム含水物を110℃で加熱することによって得られた水硬性アルミナには、2θ=約13°〜33°にブロードなピークが認められ、2θ=20°にその頂点を有している。さらに、このブロードなピークの左右のボトムにベースラインBを引き(ブロードなピークの裾野を線で結び)、このベースラインBからのブロードなピークの高さを基準にして半値幅を求めたところ、2θ=17°と2θ=26°で半値となり、半値幅は9°であった。図3に示すX線回折の結果でも、副生水酸化アルミニウム含水物を200℃の温度で加熱することによって得られた水硬性アルミナには、2θ=約14°〜38°にブロードなピークが認められ、2θ=22°にその頂点を有している。また、ベースラインBからのブロードなピークの高さを基準にして半値幅を求めたところ、2θ=18°と2θ=29°で半値となり、半値幅は11°であった。図4に示すX線回折の結果でも、副生水酸化アルミニウム含水物を400℃の温度で加熱することによって得られた水硬性アルミナには、2θ=約13°〜40°にブロードなピークが認められ、2θ=24°にその頂点を有している。また、ベースラインBからのブロードなピークの高さを基準にして半値幅を求めたところ、2θ=19°と2θ=31°で半値となり、半値幅は12°であった。
【0045】
(2)固化材等の調製
非晶質の副生水酸化アルミニウム含水物を表2に示す温度で恒量になるまで加熱することにより水硬性アルミナを得た。そして、これらの水硬性アルミナを固化材とし、本荘ケミカル(株)製工業品の炭酸リチウム、及び中国産の軽焼マグネシアを固化助剤(固化強度増進材)として、固化材及び固化助剤を表2に示す割合で混合して調製した(実施例1〜11)。また、比較用の中性固化材として、水硬性アルミナ単味(比較例1)、炭酸リチウムを過剰添加した固化材(比較例2)さらに軽焼マグネシア(酸化マグネシウム)単味(比較例7,9)および過剰添加した固化材(比較例3)、副生水酸化アルミニウム含水物を40℃及び500℃で調製した固化材(比較例4,5)、宇部三菱セメント(株)製セメント系固化材ユースタビラー10をそれぞれ用意した(比較例6,8)。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
(3)供試体の調製
(i)固化試験用供試体の調整:上記(2)において調製した固化材(固化助剤が混合されているものも含む)を、表3に示すように試料土(参照表3「試料土」欄)1mに対し100kgの割合で添加した後(参照表2「固化材の配合割合」欄)、ホバート型ミキサーで3分間混合して改良土壌を調製した。このとき、土質の異なる2種の粘性土A(含水比36.1%、pH7.64),粘性土B(含水比100.1%、pH7.49)を対象とした。その後、地盤工学会基準JGS0812−2000「安定処理土の静的締固めによる供試体作製方法」或いはセメント協会標準試験方法JCAS L−01−2003「セメント系固化材による安定処理土の試験方法」に則り、改良土壌から、直径5cm×高さ10cmの成型体を得た。成型体は、温度20℃、湿度96%の恒温恒湿槽内で7日間養生して供試体を得た。
【0049】
(ii)重金属溶出試験用供試体の調整:非晶質の副生水酸化アルミニウム含水物を表4に示す温度で恒量になるまで加熱することにより水硬性アルミナを得た。そして、これらの水硬性アルミナを固化材とし、固化助剤として本荘ケミカル(株)製工業品の炭酸リチウムを表4に示す割合「固化材配合」で混合して調製した。一方、処理対象土として、含水比36.1質量%の粘性土である各試料土に六価クロム、鉛、砒素、セレンの各重金属を夫々添加した模擬汚染土を使用した。表4の「重金属種類」の欄及び「含有量」の欄それぞれに、試料土に添加した重金属の種類及び添加した結果の重金属の含有量を示す。さらに、表5に示すように、模擬汚染土1mに対し、固化助剤が添加された固化材を100kgの割合で混合し、供試体を試製した(実施例12〜15)。供試体の試製方法は、上記(3)(i)に示した方法と同じ方法とした。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
(iii)脱水・固化試験用供試体の調整:表6の「水硬性アルミナ」欄に示すように、非晶質の副生水酸化アルミニウム含水物を表6に示す温度で恒量になるまで加熱することにより水硬性アルミナを得た。そして、表6の「固化材配合」欄に示すように、実施例16では、この水硬性アルミナを固化材とし、炭酸リチウムを固化助剤として、水硬性アルミナと炭酸リチウムとを質量比9:1の割合で混合した。比較例10では、固化助剤を混合せずに、水硬性アルミナを固化材として用いた。比較例11では、固化材として宇部三菱セメント(株)製のセメント系固化材を用いた。比較例12では、参考のため、固化材を添加しないものを用意した。
【0053】
これらの固化材を浚渫底泥(高含水土)に添加、混合し、小型フィルタープレス(400mm×400mm×15mm×9室(15リットル)、ポンプ圧力:0.4MPa、流量:0.8m/hr)で、表7に示す脱水時間にて脱水して脱水ケーキを得た。固化材と浚渫底泥との混合割合は、浚渫底泥の固形成分1t当たり固化材100kgである。さらに、この脱水ケーキを温度20℃、湿度96%の恒温恒湿槽内で7日間養生して供試体を得た。また、この処理工程で発生する濾水も分析の対象とした。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
(4)改良土壌の評価:一軸圧縮試験
上記(3)の(i)(ii)で得られた供試体を、JIS A1216:1998「土の一軸圧縮試験方法」に則り一軸圧縮試験を行った。一軸圧縮強さについては、第3種改良土相当であるコーン指数400kN/mを一軸圧縮強さに換算した値である160kN/m以上を目標とした。コーン指数の一軸圧縮強さへの換算は以下のとおりとした。表3及び表5の「一軸圧縮強さ」の欄に測定結果を示す。
〔一軸圧縮強さ換算値=400(コーン指数)/10(一軸換算係数)/0.5(現場室内強度比)/0.5(ときほぐし・締固めによる強度低下)〕
【0057】
(5)改良土壌の評価:pH測定
上記(3)で得られた改良土壌について材齢7日で、地盤工学会基準JGS0211−2000「土懸濁液のpH試験方法」に則りpHを測定した。pH値については、一般に中性の指標とされる排水基準5.8〜8.6の範囲内に在ることを目標とした。表3の「改良土のpH」の欄に測定結果を示す。
【0058】
(6)改良土壌の評価:重金属溶出量の測定
上記(3)の(ii)で得られた改良土壌について材齢7日で、環告第46号の方法に則り溶出操作を行った後、六価クロム、鉛、砒素、セレン量を測定した。表5の「溶出量」の欄に測定結果を示す。なお、例えば「<0.02」とあるのは、溶出量が0.02mg/L未満であったことを示す。
【0059】
(7)改良土壌の評価:脱水時間及び脱水ケーキのコーン指数の測定
脱水時間として、上記(3)の(iii)における脱水開始から脱水終了までの時間を測定した。表7の「脱水時間」の欄にその結果を示す。また、得られた脱水ケーキを解きほぐし、9.5mm篩を通した後、直径10cm、容量1リットルのモールドに締固め、JIS A 1228「締固めた土のコーン指数試験方法」に則った方法でコーン指数を測定した。コーン指数については、第3種改良土相当であるコーン指数400kN/m以上を目標とした。表7の「コーン指数」の欄にその測定結果を示す。
【0060】
(8)改良土壌の評価:有機物溶出量の測定
上記(3)の(iii)で得られた濾水をJIS K 0102 17「工業排水試験方法(100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn))」にてCODを測定した。表7の「濾水COD」の欄にその測定結果を示す。
【0061】
(9)濾布への目詰まり評価:目視観察
上記(3)の(iii)の脱水操作を50回繰返し、その後、濾布を水で洗浄し、濾布の目詰まり状況を観察した。表7の「目詰まり状況」の欄にその観察結果を示す。
【0062】
[固化試験について]
(3)(i)で述べたように、水硬性アルミナ、炭酸リチウム及び酸化マグネシウムより成る固化材を調製し、土質の異なる2種の粘性土A,Bを対象とした場合の固化試験結果を表3に示している。
【0063】
比較例1に示すように、水硬性アルミナ単独で構成される固化材を用いた供試体の一軸圧縮強さは、98kN/mと低い値を示した。一方、実施例1〜9に示すように、固化助剤である炭酸リチウムおよび酸化マグネシウムが添加、混合された水硬性アルミナを土壌固化材として使用した場合、得られた供試体の一軸圧縮強さは、目標とする160kN/mを十分超えていた。実施例1〜9で用いた粘性土Aと同じ粘性土を特許請求範囲を越えた炭酸リチウムおよび酸化マグネシウムで固化した供試体(比較例2、3)の一軸圧縮強さは高くなるが、改良土のpHが中性領域(5.8〜8.6)を逸脱する。
【0064】
そして、実施例1〜11によれば、固化材には、水硬性アルミナが70質量%〜98質量%、炭酸リチウムが2質量%〜20質量%、酸化マグネシウムが0質量%〜10質量%程含まれていることがわかった。
【0065】
[重金属溶出試験について]
(3)(ii)で述べたように、粘性土Aに所定量の各種重金属を添加して作製した模擬汚染土に、水硬性アルミナ及び炭酸リチウムより成る固化材を添加し、材齢7日で溶出試験を行った結果を表5に示す。この結果、水硬性アルミナ及び炭酸リチウムより成る固化材を用いた改良土からの重金属溶出量は、いずれの重金属においても環境基準値を下回った(実施例12〜15)。
【0066】
[脱水・固化試験について]
表6に示すように含水比400質量%の浚渫底泥に固化材を添加した後、機械で脱水した場合の脱水時間、ケーキ強度、濾水COD、pH試験及び目詰まりの目視観察結果を表7に示す。実施例16の水硬性アルミナ及び炭酸リチウムを含有する固化材を浚渫底泥に添加して試製した供試体は、比較例11のセメント系固化材を浚渫底泥に添加して試製した供試体と同等の脱水時間で、コーン指数は510kN/mであり、目標とする400kN/mを十分超えていた。さらに、実施例16の濾水CODの測定値は、浚渫底泥に固化材を添加していない未処理土(比較例12)の濾水CODと同等であることから、固化材添加による有機物の溶出はないことが確認された。また、実施例16における繰返し脱水試験後の濾布付着物は水で簡単に除去されることから目詰まりがないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】副生水酸化アルミニウムを自然乾燥(天日乾燥)した後のX線回折測定結果を示したグラフである。
【図2】副生水酸化アルミニウムを110℃で加熱した後のX線回折測定結果を示したグラフである。
【図3】副生水酸化アルミニウムを200℃で加熱した後のX線回折測定結果を示したグラフである。
【図4】副生水酸化アルミニウムを400℃で加熱した後のX線回折測定結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0068】
Ba…バイヤライト(Al)、Gi…ギブサイト(Al(OH))、B…ベースライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=22°±5°にブロードなピークの頂点を有し、該ブロードなピークのベースラインを基準とした半値幅が6°〜20°であることを特徴とする水硬性アルミナ。
【請求項2】
アルミニウムの陽極酸化処理工程の中和・凝集により副生した非晶質の水酸化アルミニウム化合物を、50℃〜400℃で恒量となるまで加熱して製造されたことを特徴とする水硬性アルミナ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水硬性アルミナを65質量%〜98質量%、炭酸リチウムを2質量%〜20質量%、及び酸化マグネシウムを0質量%〜15質量%含むことを特徴とする含水土用中性固化材。
【請求項4】
アルミニウムの陽極酸化処理工程の中和・凝集により副生した非晶質の水酸化アルミニウム化合物を、50℃〜400℃で恒量となるまで加熱し、水硬性アルミナを製造することを特徴とする水硬性アルミナの製造方法。
【請求項5】
重金属を含有する汚染土1m当たり、請求項3に記載の含水土用中性固化材を50kg〜350kg混合することにより、前記汚染土からの前記重金属の溶出を防止することを特徴とする重金属溶出防止方法。
【請求項6】
含水比100質量%以上の高含水土に対し、請求項3に記載の含水土用中性固化材を、前記高含水土の固形成分1t当たり50kg〜200kg混合した後、脱水機により脱水してケーキとすることを特徴とする高含水土の脱水固化処理方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−193387(P2006−193387A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8054(P2005−8054)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】