説明

水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリート

【課題】 セメント量が少ない、またはセメントを含まないにもかかわらず、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリートを提供する。
【解決手段】 水硬性組成物において、セメントおよび消石灰のいずれか一種以上を全体の10〜40重量%配合する。セメントおよび消石灰の含有量は各々全体の20重量%以下とする。また、フライアッシュと高炉スラグ微粉末を合計で、全体の40〜90重量%配合する。フライアッシュの配合量は全体の15重量%以上となるようにする。さらに、必要に応じシリカヒューム、無水石膏などを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント量が少ない、またはセメントを含まないにもかかわらず、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の高層化・高耐久化が進んでおり、高強度コンクリートの需要は今後一層高まることが予想される。一般にコンクリートに高い強度発現性を付与させるためには、大量のセメントが必要とされている。
【0003】
しかし、大量のセメントを使用した場合、発熱による高い温度上昇が起こり、それに伴う温度ひび割れがコンクリート構造物を劣化させることが懸念されている。
【0004】
また、セメント量の増加に伴い、顕著になる自己収縮によるコンクリート構造体の変形もひび割れや劣化の原因となってしまう。
【0005】
高強度コンクリートに関する先行技術文献としては、例えば、特許文献1には、低発熱性であり熱によるひびわれ防止効果が大きい高炉スラグ微粉末を用いた高強度セメント組成物として、アルカリ刺激剤と高炉スラグ微粉末との合計量100重量部に対し42重量部以上70重量部未満の高炉スラグ微粉末と、高炉スラグ微粉末よりも少なくとも1オーダー細かい超微粉、石膏または石膏とポルトランドセメントからなるアルカリ刺激剤、高性能減水剤を配合した低水セメント比のセメント組成物が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、製造時における炭素排出量原が少なく、圧縮強度が高く、水和発熱量が小さい低環境負荷型高強度コンクリートとして、普通ポルトランドセメントと、pHが4.5以下の産業副産物として発生する無水石膏とを配合し、材齢28日の圧縮強度が60N/mm2以上、炭素排出量の原単位が85kgN/m3以下の高強度コンクリートが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、環境負荷の低減を図りつつ、耐久性にも優れる高強度コンクリートとして、ビーライトを35〜90重量%含有するセメントと、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、メタカオリンなどのポゾラン質混和材を配合し、水/結合材(セメント+ポゾラン質混和材)比が35%以下で、圧縮強度が60N/mm2以上の高強度コンクリートが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平05−238787号公報
【特許文献2】特許第3976452号公報
【特許文献3】特開2001−064066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のような高強度コンクリートにおける大量のセメントの使用に起因する問題を解決するため、本願の発明者らはセメントの配合量を20重量%以下に低減し、ポゾラン反応や自硬性を有するフライアッシュおよび高炉スラグ微粉末を主材料とした高強度コンクリートを開発すべく、各種フレッシュ性状試験および圧縮強度試験等を行った。その結果、ポゾラン反応の促進を図ることにより、セメント量が少ない、またはセメントを含まないにもかかわらず、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度が得られる水硬性組成物の開発に成功した。
【0010】
すなわち、本発明は、セメント量が少ない(全体の20重量%以下)、またはセメントを含まないにもかかわらず、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリートを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係る水硬性組成物は、セメントおよび消石灰のいずれか一種以上を全体(水硬性組成物全体を意味し、以下においても水硬性組成物について言う場合は水硬性組成物全体の意味である。)の10〜40重量%含むとともに、前記セメントおよび消石灰の含有量が各々全体の20重量%以下であり、かつフライアッシュと高炉スラグ微粉末を合計で全体の40〜90重量%含むとともに、前記フライアッシュの含有量が全体の15重量%以上であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、カルシウム源としてのセメントの配合を20重量%以下に抑えていることで、セメントの水和反応に起因した発熱(水和発熱)を抑え、発熱に伴う温度ひび割れや硬化後の自己収縮に伴うコンクリート構造体の変形によるひび割れ、劣化を抑制することができる。
【0013】
カルシウム源として、水和発熱の起こらない消石灰を用いることにより、セメントを配合しない場合やセメントと消石灰を併用する場合もあり、セメントおよび消石灰のいずれか一種以上からなるカルシウム源の配合が全体の10〜40重量%、セメントおよび消石灰の含有量が各々全体の20重量%以下となるようにする。
【0014】
カルシウム源の配合が全体の10重量%未満では十分な強度が得られない。また、40重量%を超えると上記ひび割れや劣化が生じやすくなる。また、上記理由により、セメントの含有量は全体の20重量%以下でなければならない。消石灰の含有量も全体の20重量%でなければならない。20重量%を超えると十分な強度が得られ難くなる。
【0015】
さらに、カルシウム源を上記範囲にすることにより、潜在水硬性(自硬性)を有する高炉スラグ微粉末に対する刺激剤としての効果が得られやすくなる。
【0016】
セメントは普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントの他、本発明の効果を阻害しない限り、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカヒュームセメント等の混合セメントも使用できる。
【0017】
消石灰は工業用石灰でよいが、高純度、超微粉の方が好ましい。すなわち、本発明では、セメントの配合量を非常に低く抑えるため、代わりにカルシウム源として消石灰を用いるが、消石灰として多孔性高比表面積消石灰を使用することでポゾラン反応の促進が図れる。
【0018】
多孔性高比表面積消石灰は、排ガス中の酸性物質除去に用いるものが知られているが(例えば、特開2003−026421号公報、特開2003−081631号公報等参照)、これらを流用すれば良い。市販のものとしては、例えば、奥多摩工業株式会社の商品名「タマカルクスポンジアカル」などが挙げられる。
【0019】
なお、本発明で言うカルシウム源とは、水硬やポゾラン反応に必要なカルシウムイオンの供給源としてとらえた物質を意味する。
【0020】
一方、本発明では、圧縮強度が、例えば60N/mm2以上となる高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られることを目標としており、そのための水硬性組成物の配合として、シリカ・アルミナ源となり、ポゾラン反応や自硬性を有するフライアッシュと高炉スラグ微粉末を併用する。
【0021】
フライアッシュと高炉スラグ微粉末は合計で全体の40〜90重量%となるようにする。40重量%未満ではポゾラン反応性や自硬性による効果が十分得難い。90重量%を超えると高性能減水剤の効きが悪くなったり、安定して高強度が得られなくなる。
【0022】
また、フライアッシュおよび高炉スラグ微粉末の個々については、フライアッシュの含有量が全体の15重量%以上となるようにする。
【0023】
本発明の配合ではフライアッシュが高強度化に寄与しており、15重量%より少ないと高強度コンクリート以上の十分な強度が得難い。また、フライアッシュが少ないと、フレッシュ性状における練混ぜも困難となる傾向がある。
【0024】
高炉スラグ微粉末は、セメント、消石灰、石膏などのカルシウム源を刺激剤として、強度の増進、耐久性の向上に効果を発揮する潜在水硬性(自硬性)を有することが知られているが、本発明では多量のフライアッシュとともに使用することにより、セメント量を抑えながら、ポゾラン反応や自硬により、硬化物の高強度化、高耐久性に寄与する。
【0025】
高炉スラグ微粉末の含有量については、全体の10重量%とするのが望ましい。10重量%より少ないと、高強度コンクリート以上の十分な強度が得難い。より好ましくは高炉スラグ微粉末の含有量が全体の20重量%以上となるようにする。
【0026】
このように、フライアッシュと高炉スラグ微粉末を特定の配合割合で併用することにより、ポゾラン反応性や潜在水硬性(自硬性)の効果を最大限に引き出し、セメント量が少なくても高強度のコンクリートを得ることができる。
【0027】
フライアッシュは、従来からセメント・コンクリートの分野で使用されているフライアッシュが使用できるが、ポゾラン反応促進の面などからは、フライアッシュ微粉末を用いることが好ましい。
【0028】
すなわち、フライアッシュは、ポゾラン反応による強度向上の他、フレッシュ性状における練混ぜ性の向上にも寄与していると考えられるが、フライアッシュの微粉末を用いれば、より活性が高くなるので、さらにこれらの効果が向上する。
【0029】
また、高炉スラグ微粉末はブレーン8000cm2/g以上の微粉末を用いることが、水和活性、ポゾラン反応促進の面から好ましい。
【0030】
なお、フライアッシュの代わりに組成が類似する焼却灰を使用することもできる。
【0031】
請求項2は、請求項1に係る水硬性組成物において、さらに、他のポゾラン物質が全体の20重量%以下含まれていることを特徴とするものである。
【0032】
本発明では、ポゾラン反応や自硬を起こすシリカ・アルミナ源として、上述したフライアッシュと高炉スラグ微粉末が主材となっているが、これらが上述の範囲にあれば、他のポゾラン物質を全体の20重量%以内で配合しても、硬化物の高強度化、高耐久性が図れる。
【0033】
他のポゾラン物質の配合量が全体の20重量%を超えると主材である上記カルシウム源やフライアッシュ、高炉スラグ微粉末の量が少なくなるので、フレッシュ性状が悪くなったり十分な強度が得られなくなったりする。なお、本願発明において、他のポゾラン物質は必須ではないため、請求項2における下限は特になく、0より大ということになる。
【0034】
これらのポゾラン物質としては、シリカヒューム、ケイソウ土、モミガラ灰、水ガラス等の活性シリカ、メタカオリン、アロフェン等の活性粘土鉱物、焼却灰、シラスバルーン、ゼオライト、パーライト、高炉ヒューム、溶融スラグ等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、ポゾラン反応を起こしやすい物質であれば良い。
【0035】
請求項3は、請求項2に係る水硬性組成物において、前記ポゾラン物質が、シリカヒュームおよび/またはメタカオリンであることを特徴とするものである。
【0036】
シリカヒュームは上記カルシウム源との反応性が高く、ポゾラン反応による強度増進効果を得やすいので好ましい。
【0037】
メタカオリンはカオリンを焼成することによって得られる非晶質のカオリンであり、緩やかであるが、上記カルシウム源とポゾラン反応等の反応をする。シリカヒュームはほとんどシリカ分であるが、メタカオリンはシリカ分とともにアルミナ分も含むのでシリカ・アルミナ源となる。
【0038】
請求項4は請求項1、2または3に係る水硬性組成物において、さらに、無水石膏が10重量%以下含まれていることを特徴とするものである。
【0039】
無水石膏は、刺激剤として、高炉スラグ微粉末が有する潜在水硬性の促進に寄与する他、エトリンガイトの形成や、高性能減水剤との相剰作用により強度発現に寄与する。配合量が10重量%を超えると過配合となり、他の配合成分の効果が不十分となる。
【0040】
なお、本願発明においては、無水石膏も必須ではないため、請求項4における下限は特になく、0より大ということになる。
【0041】
請求項5に係るコンクリートは、請求項1〜4に係る水硬性組成物と、粗骨材と、細骨材と、高性能減水剤と、水/水硬性組成物の重量比が30%以下となる混練水とを混練してなることを特徴とするものである。
【0042】
請求項1〜4に係る水硬性組成物は、セメントの配合量を非常に低く抑えつつ、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートを実現するものであるが、その場合の水/水硬性組成物の重量比は30%以下とすることで、高強度コンクリート以上の強度、耐久性が得られる。
【0043】
さらに好ましくは、水/水硬性組成物の重量比が25%以下となるようにする。ただし、水量が減少するにつれ、硬練りとなり、練り混ぜ性やワーカビリティーに関連する流動性の低下が問題となり、高性能減水剤の必要量等も増すことになる。
【0044】
水/水硬性組成物の重量比の下限の考え方の一つは、練り混ぜが可能であるかであり、また高性能減水剤の必要量との関係もあり、これらが問題とならない範囲であればよい。
【0045】
なお、粗骨材、細骨材、高性能減水剤等は、基本的に一般の高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートの場合と同様の材料と配合を用いることができる。また、コンクリートの硬化組織をより緻密化するため、消泡剤を用いることは好ましい。消泡剤の種類は「特に限定されず、従来からコンクリートに用いられているものでよい。
【0046】
請求項6は、請求項5に係るコンクリートにおいて、前記コンクリートが、圧縮強度60N/mm2以上の強度を発現する高強度コンクリートであることを特徴とするものである。
【0047】
本発明は、もともと高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる水硬性組成物を得ることを目標としたものであるが、各材料の配合割合によって、通常の強度のコンクリートから超高強度コンクリートまで幅広い範囲の強度のコンクリートを得ることが可能である。
【0048】
請求項6は請求項5に示すコンクリートの圧縮強度を60N/mm2以上に限定したものである。
【0049】
例えば、請求項1〜4のいずれかに示す水硬性組成物を用い、水/水硬性組成物の重量比20%程度、砂/水硬性組成物の重量比32%程度、スランプフロー490〜650mm、空気量2%以下のコンクリートにすれば容易に得られる。養生方法は通常のコンクリート養生方法でよいが、加温養生の方が強度は出やすい。
【0050】
本願発明の水硬性組成物の製造方法は従来の方法で行えばよい。プレミックスタイプにすることも、現場調合タイプにすることも可能である。
【0051】
本願発明の水硬性組成物は高強度コンクリート等の高強度水硬製品の他、耐酸材料、低アルカリ材料、中性固化材等への適用も可能である。使用方法は従来のセメント材料と同様である。
【0052】
本願発明の水硬性組成物による水和メカニズムは、通常のセメントによる水和メカニズムと異なりポゾラン反応が大きく関与するので得られる水和生成物もC−S−Hが多く、CH(水酸化カルシウム)は少ない。
【0053】
そのため、これを用いたものは低熱、低PHで高耐久・高強度となるので、高アルカリ、酸に弱いといったセメントの欠点を改善した新たな水硬性結合材としての意義は大きい。また、セメントを全く用いなくても、フライアッシュや高炉スラグ微粉末の自硬性とポゾラン反応を利用することにより、+高強度のコンクリートが得られる知見が得られた意義は大きい。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、水硬性組成物におけるセメントの含有量が全体の20重量%以下と、セメントの配合割合が非常に小さい、あるいはセメントが全く配合されないにもかかわらず、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度を有するコンクリートが製造可能である。
【0055】
セメントの配合割合が非常に小さいことで、従来、高強度コンクリートの製造のために大量のセメントを使用した場合に問題となっていた、発熱による温度ひび割れの問題や、自己収縮に起因するコンクリート構造体の変形、ひび割れ、劣化の問題が解消される。
【0056】
オートクレーブ養生、その他、特殊な養生を行なわなくてもよく、従来のコンクリートと同様、一般的な養生での高強度コンクリートの製造が可能であるとともに、特殊な材料は用いていないため、汎用性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明の最良の実施形態(最良の配合を決めるためのモルタル実験および、最良の配合によるコンクリートでの性能確認試験)を、その試験方法および試験結果とともに説明する。
【0058】
1.モルタル実験
本発明の本来の対象はコンクリートであるが、本発明の目的にかなう水硬性組成物のおよその配合を決定するため、まずモルタル実験を行なった。
【0059】
(1) 使用材料
使用材料を表1に示す。
結合材(水硬性組成物を構成する結合材)はPと表記する。
【0060】
【表1】

【0061】
まず、ポゾラン反応の主材料にはポゾラン物質であり、シリカ・アルミナ源となるフライアッシュ微粉末(以下、FAと表記する)および潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末(BSと表記する)、カルシウム源としての普通ポルトランドセメント(NCと表記する)および多孔性高比表面積消石灰(TKと表記する)を用いた。
【0062】
消石灰については、セメントの混和量を低減した場合、カルシウムイオンの供給量が減少してしまうため、ポゾラン反応が抑制されてしまう可能性があり、そこで、ポゾラン反応の促進を図るべく用いた。
【0063】
また、強度やフレッシュ性状の改善のため、追加ポゾラン物質としてシリカヒューム(SFと表記する)とメタカオリン(Kと表記する)を用いた。加えて、カルシウム源かつエトリンガイト形成による強度増進の観点から無水石膏(AGと表記する)を用いた。
【0064】
さらに、緻密化を図るため、減水剤(SPと表記する)と消泡剤(DFと表記する)を用いた。
【0065】
(2) 製造条件および材料構成
モルタルの製造条件を表2、水硬性組成物(結合材)の材料構成を表3に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
モルタルの製造条件は超高強度コンクリートの配合を考慮して、水結合材比(重量比)を20%、砂結合材比(重量比)を32%とした。また、高性能減水剤はモルタルフロー値250±20mm、消泡剤は空気量が2.0%以下になるように添加量を調整した。
【0069】
水硬性組成物(結合材)の材料構成は、No.1を基本配合とし、No.2、No.3ではメタカオリンのみを、No.4ではシリカヒュームのみを、No.5ではシリカヒュームおよびメタカオリンを、No.6、No.7ではシリカヒュームと高炉スラグ微粉末をフライアッシュと置換させた。
【0070】
また、No.8、No.9では多孔性高比表面積消石灰の割合を増やし、No.10ではセメントの混和量をさらに減少させた。
【0071】
さらに、No.11、No.12、No.13ではセメント量が0(無混和)である配合にした。モルタルの製造は、「JSCE-F 505-1999 試験室におけるモルタルの作り方」に準じて行った。
【0072】
(3) 試験内容
(a) 練り時間
結合材と細骨材(砂)を空練りし、水と減水剤を加えて練り混ぜてから、モルタルが形成されるまでの時間を測定し、練り時間とした。
【0073】
(b) モルタルフロー試験
「JIS R 5201-1997 セメントの物理試験方法」に準拠した。
【0074】
(c) 空気量試験
「JIS A 1116−1998フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法および空気量の質量による試験方法(質量法)」に準拠した。
【0075】
(d) 圧縮強度試験
「JSCE-G 505-1999 円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準拠し、60℃温水養生材齢7日および20℃水中養生材齢7日に測定した。
【0076】
(4) 試験結果
(4)-1
モルタルのフレッシュ性状試験結果を表4に示し、SP(減水剤)の添加量および練り時間の比較を図1に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
図1より、メタカオリンの添加量を変化させたNo.1〜No.3を比較すると、添加量の増加とともにSP添加量および練り時間が増加した。これは、ボールベアリング効果の得られるフライアッシュの混和量が減少した影響だと考えられる。
【0079】
また、No.1〜5を比較すると、シリカヒュームを混和させることで、SP添加量および練り時間が減少する傾向がみられた。
【0080】
さらに、No.4,6,7より、高炉スラグ微粉末のフライアッシュに対する置換量を変化させてもSP添加量および練り時間に変化はなかった。
【0081】
さらに、No.4,8,9より、消石灰のフライアッシュに対する置換量を増加させると、SP添加量および練り時間が増加する傾向がみられた。
【0082】
また、No.1,10,11より、セメント量を減少させるとSP添加量は若干減少し、練り時間は増加する傾向がみられた。SP添加量が減少した原因としては、セメント量を削減することでセメント粒子の界面活性に必要なSP量が減少したためであると考えられる。特に、No.4,6,7,8で満足すべきフレッシュ性状のものが得られた。
【0083】
(4)-2圧縮強度試験
60℃温水および20℃水中養生材齢7日での圧縮強度試験結果を、表4および図2〜6(図中の番号は、表4における配合No.である)に示す。
【0084】
(a) 60℃温水養生
まず、図2よりメタカオリンの混和の有無による比較をすると、メタカオリンの添加量の増加とともに強度が減少する傾向がみられた。さらに、従来の知見通り、シリカヒュームを混和することで強度が増加した。
【0085】
また、図3より、高炉スラグ微粉末の置換率の増加とともに強度が低下する傾向があった。これは高炉スラグ微粉末の置換率を増加させることで、高い養生温度での強度増進が著しいとされているフライアッシュの混和量が減少したためだと考えられる。
【0086】
図4より、消石灰の置換率を増加させると強度は低下する傾向があった。
【0087】
図5より、セメント混和率の減少とともに強度は若干低下する傾向がみられた。
【0088】
練り混ぜが可能であった全ての配合で、セメント量が少ないにもかかわらず、圧縮強度60N/mm2以上の高強度が得られた。また、No.1,2,4,5,6,7,8,9,11では、圧縮強度100N/mm2以上の超高強度となった。
【0089】
(b) 20℃水中養生
水中養生では、図2よりメタカオリンの混和の有無を比較すると、メタカオリンの添加率の増加とともに強度が増加する傾向がみられた。
【0090】
温水養生の場合と比較すると、メタカオリンは高い温度で養生するとポゾラン反応等が抑制される傾向があると推察される。
【0091】
また、従来の知見通り、シリカヒュームを混和することで強度が増加した。さらに、図3より、高炉スラグ微粉末の置換率の変化に対しての強度への影響はなかった。
【0092】
また、図4より、消石灰の置換率を増加させても強度は変わらずもしくは若干低下する傾向があった。
【0093】
さらに、図5より、セメント混和率の減少による影響も小さいといえる。そして、セメント混和率が0(無混和)の場合においても、消石灰の使用およびシリカヒュームの混和によりセメント混和率20%の場合と同程度の強度が得られた。
【0094】
練り混ぜが可能であった全ての配合で、セメント量が少ないにもかかわらず、圧縮強度60N/mm2以上の高強度が得られた。また、No.5では、圧縮強度100N/mm2以上の超高強度となった。
【0095】
以上のモルタル実験からは、本発明の目的達成において、特に、No.4,5,7,8の配合が最も好ましい配合となり得るとの知見を得た。
【0096】
2.コンクリート実験
一般的にモルタル強度が高ければ、同様の結合材を用いた場合、コンクリートも高強度となることが十分予想できるが、さらに前述のモルタル実験の結果をもとに結合材の配合を決め、コンクリートでの性能確認実験を行なった。
【0097】
(1) 使用材料
使用材料を表5に示す。
【0098】
結合材(水硬性組成物を構成する結合材)はPと表記する。使用材料、試験項目等は、モルタル実験の場合とほぼ同じである。粗骨材としては、大月市初狩町産砕石を用いた。
【0099】
【表5】

【0100】
(2) 製造条件および材料構成
製造条件を表6、水硬性組成物(結合材)の材料構成を表7に示す。
【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
製造条件は、モルタルでの条件と同様、水結合材比(重量比)を20%、砂結合材比(重量比)を32%、粗骨材絶対容積割合を37.5%とした。
【0104】
水硬性組成物(結合材)の配合は、モルタル実験の結果を参考に、フライアッシュ35重量%、シリカヒューム5重量%、無水石膏9重量%、多孔性高比表面積消石灰10重量%に固定し、ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末の配合量を変化させた。
【0105】
なお、高性能減水剤の添加量も1.1重量%に固定した。コンクリートの製造は、従来のコンクリート製造方法と同様の方法で行った。結合材は事前にプレミックスしたものを用いた。
【0106】
(3) 試験内容
(3)-1 フレッシュ性状試験
フレッシュ性状試験としては、スランプフロー(「JIS A 1150 コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠)、練り時間および練り上がりの温度を測定した。
【0107】
(3)-2 圧縮強度試験
「JIS A 1108 コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠し、60℃温水養生材齢7日および20℃水中養生材齢7日に測定した。
【0108】
(4) 試験結果
フレッシュ性状試験結果および圧縮強度試験結果を表8に示す。
【0109】
【表8】

【0110】
(4)-1 フレッシュ性状試験
フレッシュ性状試験に関しては、スランプフロー値が最も小さいNo.1の場合で、495mmであり、練り時間に関しても、従来の高強度コンクリートあるいは超高強度コンクリートにおけるスランプフロー値と比較して遜色ないものである。
【0111】
また、練り上がりの温度に関しては、温度上昇が従来のセメントの配合割合の大きい高強度コンクリートあるいは超高強度コンクリートに比べて明らかに少なく、温度ひび割れや自己収縮によるコンクリート構造体の変形もひび割れや劣化について、大きな改善効果が期待できる。
【0112】
(4)-2 圧縮強度試験
圧縮強度試験は、60℃温水養生材齢7日および20℃水中養生材齢7日について行った。20℃水中養生材齢7日については、セメントの配合量を変化させたNo.1〜No.3の間で顕著な差はみられず、何れも70N/mm2前後の高強度が得られた。
【0113】
また、60℃温水養生材齢7日については、102〜125N/mm2の超高強度が得られた。
【0114】
以上から、本発明の水硬性組成物(結合材)を用いれば、セメント量が少ない、またはセメントを含まないにもかかわらず、良好なフレッシュ性状を有しつつ、圧縮強度が60N/mm2以上の高強度コンクリートが、養生条件等によっては、圧縮強度が100N/mm2以上の超高強度コンクリートが得られることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】フレッシュ性状試験において、各配合について高性能AE減水剤の添加量と練り時間との関係を比較した棒グラフである。
【図2】60℃温水および20℃水中養生材齢7日での圧縮強度試験結果を、高炉スラグ微粉末の置換率により比較した棒グラフである。
【図3】60℃温水および20℃水中養生材齢7日での圧縮強度試験結果を、消石灰の置換率により比較した棒グラフである。
【図4】60℃温水および20℃水中養生材齢7日での圧縮強度試験結果を、メタカオリンの混和の有無により比較した棒グラフである。
【図5】60℃温水および20℃水中養生材齢7日での圧縮強度試験結果を、セメント混和率より比較した棒グラフである。
【図6】60℃温水および20℃水中養生材齢7日での圧縮強度試験結果を、メタカオリンの混和の有無により比較した棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントおよび消石灰のいずれか一種以上を全体の10〜40重量%含むとともに、前記セメントおよび消石灰の含有量が各々全体の20重量%以下であり、かつフライアッシュと高炉スラグ微粉末を合計で全体の40〜90重量%含むとともに、前記フライアッシュの含有量が全体の15重量%以上であることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
さらに、他のポゾラン物質が全体の20重量%以下含まれていることを特徴とする請求項1記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記他のポゾラン物質が、シリカヒュームおよび/またはメタカオリンであることを特徴とする請求項2記載の水硬性組成物。
【請求項4】
さらに、無水石膏が10重量%以下含まれていることを特徴とする請求項1、2または3記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の水硬性組成物と、粗骨材と、細骨材と、高性能減水剤と、水/水硬性組成物の重量比が30%以下となる混練水とを混練してなることを特徴とするコンクリート。
【請求項6】
前記コンクリートが、圧縮強度60N/mm2以上の強度を発現する高強度コンクリートであることを特徴とする請求項5記載のコンクリート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−269786(P2009−269786A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121440(P2008−121440)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人日本コンクリート工学協会 関東支部 栃木地区 研究発表会講演概要集 頒布日:平成20年3月3日、(2)第35回土木学会関東支部 技術研究発表会講演概要集(CD−ROM)頒布日:平成20年3月10日,平成20年3月11日
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【出願人】(591037960)日本シーカ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】