説明

水硬性組成物及び構造体

【課題】建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う行う場合に、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れた水硬性組成物を提供することを目的とした。特に、各種建築物などの構造物の下地表面の凹部や隙間の充填に使用でき、鏝塗り作業性と、すり合わせ施工性と、速硬性と、寸法安定性とに優れる水硬性組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、無機粉末とを含み、細骨材及び流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜90mmであることを特徴とする水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物等の構造物の下地表面に施工する際の作業性と、速硬性と、寸法安定性とに優れる水硬性組成物、及びその水硬性組成物を用いて得られる構造体に関する。特に、本発明は、各種建築物等の構造物の下地表面の凹部や隙間の充填にすり合わせ施工する際の、鏝塗り作業性と、速硬性と、寸法安定性とに優れる水硬性組成物、及びその水硬性組成物を用いて得られる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面のモルタル塗仕上げは、施工が簡易であり経済的にも安価であることから多種多様な箇所で用いられている。一般的にモルタル塗仕上げ工法は、使用材料としてポルトランド系セメントと砂を用いて、これに適当量の水を加えたセメントモルタルをコンクリートの表面に鏝を用いて塗り付ける方法である。
【0003】
モルタル塗仕上げに用いる組成物として、特許文献1には、主に左官工法によってモルタルやコンクリート系の構造物の修復に用いるのに好適なセメント系の厚付けモルタルに関し、軽量骨材と普通骨材からなる細骨材又は軽量骨材からなる細骨材、ポルトランドセメント、アルミナセメント、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、膨張材、増粘剤及び減水剤を含有してなる厚付けモルタルが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、可使時間が長く、しかも可使時間内での流動性の変動が小さいため施工性に優れるとともに、超速硬性で早期開放が可能なモルタルに関し、アルミナセメント100重量部に対して、ポルトランドセメント20〜300重量部、石膏10〜100重量部、硬化促進剤0.1〜5重量部及び硬化遅延剤0.1〜5重量部を含有するモルタルが開示されている。
【0005】
特許文献3には、道路舗装やトンネルコンクリートの補修等の覆工時に使用する急硬性組成物として、セメント、カルシウムアルミネート、石膏、凝結調整剤、及びアクリル酸エステル共重合体エマルションを含有してなる急硬性セメント組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−320783号公報
【特許文献2】特開2002−356363号公報
【特許文献3】特開2007−217212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建設工事現場でも機械化による各種の省力化工法が開発・実用化されつつあるが、モルタル仕上げを行う工程については、依然として左官職人に依存しているのが現状である。モルタル仕上げ作業は、微妙な調整に熟練度が要求されるが、一方で、それを担える左官職人については、高齢化や就業者数の減少により左官職人が不足する状況となっている。このため、より短工期で効率的にモルタル仕上げが可能な左官材料が求められている。
【0008】
本発明は、建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う行う場合に、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、すり合わせ施工性と、速硬性・早期強度発現性とに優れた水硬性組成物を提供することを目的とする。特に、本発明は、各種建築物等の構造物の下地表面の凹部や隙間の充填に使用でき、鏝塗り作業性と、すり合わせ施工性と、速硬性・早期強度発現性と、寸法安定性とに優れる水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究開発に取組んだ結果、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、特定の樹脂成分とを含む水硬性組成物を用いることによって、ハンドリング性が良好(可使時間が長く)、良好な鏝塗り作業性を有し、施工後の保形性が良好で、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現に優れた水硬性組成物を見出して本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、無機粉末とを含み、細骨材及び流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜90mmであることを特徴とする水硬性組成物である。
【0011】
本発明の水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)水硬性成分が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる。
(2)樹脂成分が再乳化型樹脂粉末であり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化型樹脂粉末である。
(3)水硬性組成物が、軽量骨材を含まない。
(4)水硬性組成物が、さらに凝結調整剤及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含む。
(5)水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを硬化させた水硬性モルタル硬化体表面のショア硬度が、水硬性モルタルを鏝塗り施工したのち6時間後に5以上である。
(6)水硬性組成物が、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて構造物の下地表面に鏝塗り施工するための水硬性組成物である。また、このときの鏝塗り施工が、好ましくは、鏝塗りすり合わせ施工である。
【0012】
また、本発明は、上記の水硬性組成物を用いて得られた水硬性モルタルを硬化させた水硬性モルタル硬化体を、構造物の下地表面の少なくとも一部に有する構造体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、建築工事において左官職人がモルタル仕上げやモルタル下地処理を行う場合に、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、すり合わせ施工性と、速硬性・早期強度発現性と、寸法安定性とに優れた水硬性組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分とを含み、細骨材及び流動化剤を含まない水硬性組成物である。また、本発明の水硬性組成物を、水と混合して調製して水硬性モルタルとした場合に、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜90mmである。また、本発明の水硬性組成物は、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を好適に用いることができる。本発明の水硬性組成物は、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れるため、建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う場合のモルタルとして好適に用いることができる。
【0015】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0016】
本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合することによって、着色した水硬性モルタルの硬化体(水硬性モルタル硬化体)を得ることができる。本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合する場合には、アルミナセメントとして、高い白色度を有する白色アルミナセメントを用いることが好ましい。
【0017】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0018】
本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合し、着色した水硬性モルタル硬化体を得る場合には、ポルトランドセメントとして、高い白色度を有する白色ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0019】
石膏は、無水石膏、半水石膏及び二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は、水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0020】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが好ましい。水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計質量を100質量部とした場合に、好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜70質量部、ポルトランドセメント15〜60質量部及び石膏10〜40質量部からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント35〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部からなる組成、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント25〜40質量部及び石膏17〜27質量部からなる組成を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすいために好ましい。
【0021】
本発明の水硬性組成物で使用する樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、市販のポリマーエマルションや再乳化型樹脂粉末などから適宜選択して使用することができる。本発明の水硬性組成物では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため樹脂成分については、粉末状の再乳化型樹脂粉末を好適に使用することができる。
【0022】
本発明の水硬性組成物は、水硬性モルタルを施工した場合の水硬性モルタル硬化体表面の乾燥による皺や気泡跡の発生や、材料分離によるブリーディング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果と、硬化体と下地との接着強度を向上させる効果とを付与するために再乳化型樹脂粉末を使用する。再乳化型樹脂粉末を用いることによって前記の効果が得られ、耐久性及び耐候性に優れたモルタル硬化体を得ることができる。
【0023】
樹脂成分の製造方法については、特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。また樹脂成分としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂成分の表面に付着しているものを用いることができる。また樹脂成分としては、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化型の樹脂粉末を用いることができる。
【0024】
本発明では、樹脂成分として保護コロイドアクリルエマルションから製造されたアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができ、特に、保護コロイドアクリルエマルションから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
【0025】
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末などの樹脂成分の1次粒子(エマルションの粒子)の平均粒径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、より好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、さらに好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることができる。このような1次粒子の平均粒径を有する再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物は、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得ることができることから好ましい。
【0026】
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲のアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好な鏝送り性と、鏝伸び性とを得ることができる。
【0027】
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、その樹脂成分を有する水硬性組成物を用いたモルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下する恐れがある。また、樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時の鏝送り性と鏝伸び性が低下して作業性が悪くなる恐れがある。これらのことから、本発明の水硬性組成物に含まれる樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明では、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末100質量%中に再乳化型樹脂粉末の1次粒子の粒径が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、より好ましくは、0.15〜0.9μmの粒子を95質量%以上含み、さらに好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75質量%以上含むものを選択して用いることができる。このような1次粒子の粒径分布によって、本発明の水硬性組成物を用いた場合の良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
【0029】
前記範囲の粒径の1次粒子を前記質量割合の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好な鏝塗り特性(鏝切れ性、鏝送り性、鏝伸び性、鏝離れ性)を得ることができる。
【0030】
樹脂成分の1次粒子の粒径が前記分布の範囲より粒径の大きいものが多い傾向にある場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下する恐れがある。また、樹脂成分の1次粒子の粒径が前記分布の範囲より粒径の小さいものが多い傾向にある場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時の鏝塗り特性が低下して作業性が悪くなる恐れがある。これらのことから、樹脂成分の1次粒子の粒径が前記分布の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルションの状態(樹脂粉末化前の1次粒子の状態)、すなわち、水硬性モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0032】
本発明では、前記範囲の粒径の1次粒子を前記質量割合の範囲で含み、且つ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を選択して用いることによって、モルタル施工時に優れた作業性を得ることができるとともに、モルタル硬化体においては接着性や耐候性、耐水性及び耐アルカリ性に優れた特性を得ることができる。
【0033】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、噴霧乾燥処理などの工程を経て、1次粒子が凝集した2次粒子の形態で用いられる。本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、より好ましくは30〜90μmの範囲であり、さらに好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲である。再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径がこのような範囲であると、再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物と水とを混練してモルタル化する過程で、再乳化型樹脂粉末の2次粒子が水硬性組成物に含まれている他の粒子によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすい。そのため前記範囲の2次粒子径を有する再乳化型樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0034】
再乳化型樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より大きくなるとモルタル化の過程で再分散されにくくなり、1次粒子が均一に分散した状態になり難くなることから、前記範囲の上限以下であることが好ましい。また、再乳化型樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より小さくなると、工場においてプレミックスして水硬性組成物を製造する際に、再乳化型樹脂粉末が飛散して作業環境が悪化するなどのハンドリング性が悪くなることから、前記範囲の下限以上であることが好ましい。
【0035】
本発明で使用する再乳化型樹脂粉末を、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは2〜15質量部、より好ましくは3〜12質量部、特に好ましくは5〜8質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と高耐久な硬化体特性を併せ持つ水硬性組成物を得ることができる。
【0036】
再乳化型樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、水硬性組成物に水を加えて得られるモルタルの粘度が高くなり、施工性及び鏝作業性が低下し、表層の乾燥による皺や気泡跡が発生し易くなるとともに、硬化体の圧縮強さが低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、モルタル硬化体の弾性向上によるひび割れ抑制効果が小さくなり、モルタル硬化体の表面仕上りも悪くなる傾向がある。そのため、本発明で使用する再乳化型樹脂粉末の配合割合は、1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0037】
本発明の水硬性組成物は、建築物等の構造物の下地表面の凹凸をスムースに均す、凹部に充填して平滑に補修する、或いはひび割れ部分に充填する等の補修することを主な目的とするものであり、下地表面と補修部分との境界部分を可能な限りスムースにすり合わせ仕上げすることが重要である。
【0038】
「すり合わせ」とは、図1に一例を示すように、下地表面に段差14がある場合に、鏝等を用いて水硬性モルタルを塗り付けて、段差14の下段から上段に対して緩やかなスロープを形成して段差をなくして平坦化する過程で、水硬性モルタルを連続的に薄く施工し、特に段差の下面に鏝が接する部分を、水硬性モルタルを極めて薄層を形成するように施工することをいう。「すり合わせ」施工された水硬性モルタルの硬化体表面と、段差の下段の表面とは、あたかも一体化した表面が形成されることになる。この結果、図1に模式的に示すような形状の水硬性モルタル硬化体21aを形成することができる。また、「すり合わせ仕上げ」とは、「すり合わせ」により施工された表面仕上げのことをいう。段差が凸状(図2に示すような凸部15)の場合、すなわち両側に段差がある場合でも、両方の段差に対してすり合わせ仕上げを施工することによって平坦化し、図2に示すような水硬性モルタル硬化体21aを形成することができる。すり合わせにより平坦化できる段差とは、例えば20mm程度以下の段差である。鏝塗りによってすり合わせ仕上げを施工することを、「鏝塗りすり合わせ施工」という。
【0039】
水硬性組成物が細骨材を含む場合、鏝塗りすり合わせ施工をすると、細骨材中の粗い粒子が下地表面と補修部分との境界部分のスムースな仕上がり部分で、鏝と下地表面との間に噛み合って、良好な仕上がり面を形成することができない。このような理由から、本発明の水硬性組成物には、細骨材の添加は不要である。したがって、本発明の水硬性組成物は、細骨材を含まない。
【0040】
なお、細骨材とは、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類であって、粒径30〜850μmのものである。細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定することができる。本発明の水硬性組成物は、特に150μmを超える粒径の細骨材を全く含まない。
【0041】
また、本発明の水硬性組成物には、パーライトや発泡骨材などの軽量骨材を含まないことが好ましい。パーライトなどの軽量骨材を本発明の水硬性組成物に用いた場合、鏝塗り作業性をより向上させることができることもある反面、水硬性モルタル硬化体は、高い強度特性を得にくく、長期供用時の耐久性に乏しくなる傾向があることから好ましくない。
【0042】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末とを含み、さらに無機粉末を含み、凝結調整剤(凝結遅延剤及び/又は凝結促進剤)及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含み、並びに細骨材及び流動化剤を含まないものである。さらに、本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末とを含み、さらに無機粉末含み、凝結調整剤(凝結遅延剤及び/又は凝結促進剤)及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含み、並びに細骨材及び流動化剤を含まないものである。
【0043】
本発明では、水硬性モルタルを施工する場合に、良好な鏝塗り作業性とすり合わせ施工性とを得るために、細骨材を用いずに無機粉末を使用する。本発明では、水硬性モルタルを用いて鏝塗り作業により、施工面の凹凸部を平滑に仕上げるためのすり合わせ施工に好適に対応できるように、粒子径が150μmより大きい粒子を含まない、すなわち粒子径が150μm以下の粒子のみを含む無機粉末を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石微粉末(炭酸カルシウム微粉末)及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機粉末を含むことが好ましく、特に石灰石微粉末を含むことにより、良好な鏝塗り作業性を得ることができ、特に鏝塗り施工によってすり合わせ部(すり合わせ仕上げにより平坦にした部分)を形成する場合に滑らかにすり合わせ部を形成することができることから好ましい。また、無機粉末として石灰石微粉末を用いた場合、鏝塗り施工した水硬性モルタルの保形性が高まり、水硬性モルタルのダレを防止する効果も高めることができる。
【0045】
本発明の水硬性組成物において、無機粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは150〜350質量部、より好ましくは180〜300質量部、さらに好ましくは200〜270質量部、特に好ましくは210〜250質量部とするのが好ましい。
【0046】
本発明の水硬性組成物において、石灰石微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは150〜350質量部、より好ましくは180〜300質量部、さらに好ましくは200〜270質量部、特に好ましくは210〜250質量部とするのが好ましい。石灰石微粉末の添加量が、少なすぎると水硬性モルタルを鏝塗り施工する際の鏝塗り特性が悪くなることがあり、多すぎると鏝塗り施工に適した水硬性モルタルの流動性を得るための水量が増加し、長期強度の低下を招くことがある。
【0047】
本発明の水硬性組成物に添加する石灰石微粉末は、特に限定されるものではなく市販のものを用いることができる。石灰石微粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。ブレーン比表面積が3,000cm/g以上の場合、鏝塗り作業を行った水硬性モルタルの保形性を高める効果が十分であることから好ましく、5,000cm/g以下であると水硬性モルタルの粘性が高くなる傾向が顕著になって鏝塗り作業性を阻害するという問題が生じないため好ましい。
【0048】
本発明の水硬性組成物では、水硬性モルタルの流動性を向上させるために用いられる流動化剤(或いは減水剤)を使用しない。一般的に、流動化剤を用いることによって、水硬性モルタルを調製する場合に少ない水量で良好な流動性状を得ることができるが、建築物などの構造物の下地表面に水硬性モルタルを鏝塗り施工して、層状の水硬性モルタル施工部を形成したり、構造物の下地表面の凹部に水硬性モルタルを充填した場合、その流動性によってダレが発生し、スムースな施工面を保形できないことがある。本発明の水硬性組成物には、流動化剤(或いは減水剤)を用いないことにより、鏝塗り施工によって建築物などの構造物の下地表面に層状の水硬性モルタル施工部を形成したり、下地表面の凹部に水硬性モルタルを充填する場合でも、施工された水硬性モルタルの保形性を高めることができる。特に本発明の水硬性組成物を用いてすり合わせ施工を行った場合には、下地部分と水硬性モルタルとの境界部分の仕上がり性を高めることができる。
【0049】
凝結調整剤(凝結遅延剤及び凝結促進剤)は、使用する水硬性成分や水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。凝結遅延剤の成分、又は凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択することによって、水硬性組成物の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、水硬性組成物としての使用が非常に容易になるため好ましい。本発明の水硬性組成物では、凝結調整剤として凝結遅延剤のみを使用することにより、良好なハンドリング性を確保した上で、適度な速硬性を緩やかに発現させることができる。
【0050】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0051】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0052】
凝結遅延剤は、1種又は2種以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.0質量部であり、より好ましくは0.1〜1.5質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.25〜0.5質量部の範囲で用いることにより好適な流動性を得ることができる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0053】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、例えば、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩を用いることが好ましい。リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0054】
本発明の水硬性組成物が、凝結促進効果を必要とする場合には、上記リチウム塩に硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等の凝結促進成分を併用することが、更に凝結促進効果が発揮されることから、さらに好ましい。特に、本発明の水硬性組成物に対して凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩と硫酸アルミニウムとを併用することでより高い凝結促進効果を得ることができる。
【0055】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテル等の化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることができる。
【0056】
増粘剤は、本発明の特性を損なわない範囲の添加量で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1.5質量部、さらに好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0057】
本発明の水硬性組成物では、上記の成分のほかに、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など消泡剤や、有機系繊維や無機系繊維などの繊維成分や、有機質顔料や無機質顔料などの着色成分などを適宜選択して用いることができる。
【0058】
本発明の水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、特定の粒度構成を有する無機粉末、増粘剤及び凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)を含むものである。
【0059】
また、本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合し、着色した水硬性モルタル硬化体を得る場合、特に好適な成分構成は、白色アルミナセメント、白色ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、特定の粒度構成を有する無機粉末、増粘剤、凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)及び顔料を含むものである。
【0060】
本発明の水硬性組成物では、水硬性成分、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末、無機粉末、増粘剤及び凝結調整剤(凝結遅延剤、又は、凝結遅延剤と凝結促進剤)などを混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0061】
本発明の水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、水硬性モルタルを製造することができ、その水硬性モルタルを硬化させて、水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
【0062】
本発明の水硬性組成物は、水と混合・攪拌して水硬性モルタルを製造することができる。水硬性組成物に対する水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、可使時間、鏝塗り特性、保形性、水硬性モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
【0063】
本発明の水硬性組成物を用いた水硬性モルタルは、水硬性組成物(S)と水(W)とを質量比(W/S)が、好ましくは0.15〜0.45の範囲、より好ましくは0.20〜0.40の範囲、さらに好ましくは、0.25〜0.35の範囲、特に好ましくは0.28〜0.32の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0064】
本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製した混練直後の水硬性モルタルのJIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の15打フロー値が、好ましくは100〜270mm、さらに好ましくは120〜240mm、特に好ましくは150〜220mmに調整されていることが好ましい。良好な鏝塗り作業性と、優れたすり合わせ施工性と、施工後の良好な保形性とが得られ、ダレのない良好な仕上りの水硬性モルタル硬化体表面を得られやすいという理由のためである。
【0065】
さらに、本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製したのち60分経過した水硬性モルタルのJIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)の15打フロー値が、好ましくは100〜270mm、さらに好ましくは120〜240mm、特に好ましくは150〜220mmに調整されていることが好ましい。水硬性モルタルを調製したのち充分な可使時間(ハンドリングタイム)を確保しながら、良好な鏝塗り作業性と、優れたすり合わせ施工性と、施工後の良好な保形性とが得られ、ダレのない良好な仕上りの水硬性モルタル硬化体表面を得られやすいという理由のためである。
【0066】
本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したセルフレベリング材のフロー試験で測定したフロー値が、55〜90mm、好ましくは58〜85mm、より好ましくは60〜80mmに調整されていることが、施工の容易さ及び適正な鏝塗り作業性が得られ、ダレのないモルタル施工体を得られやすいという理由により好ましい。フロー値が、90mmを超えると、構造物の下地表面に水硬性モルタルを鏝塗り施工した場合に、良好な保形性が得られずモルタル施工体にダレを生じることがあることから、フロー値は90mm以下であることが好ましい。
【0067】
水硬性モルタルをコンクリートなどの構造物の下地表面に鏝塗り施工する場合の施工厚さは、下地表面(施工面)の凹凸状態などによって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができる。具体的には、下地表面(施工面)の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ0.1mm〜20mmの範囲、より好ましくは施工厚さ0.11mm〜15mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ0.12mm〜10mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ0.15mm〜5mmの範囲で鏝塗り施工することが好ましい。特に本発明の水硬性組成物は、施工厚さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、最も好適な作業性を安定して得ることができる。
【0068】
また、水硬性モルタルをコンクリートなどの構造物の下地表面の凹部や亀裂に鏝塗り充填施工する場合の施工深さは、特に限定されるものではなく、個々の施工現場毎に適宜塗り付け深さを設定することができる。例えば、下地表面(施工面)を基準にして、好ましくは施工深さ30mm以下、より好ましくは施工深さ15mm以下、さらに好ましくは施工深さ10mm以下、特に好ましくは施工深さ5mm以下の充填部に鏝塗り施工することが好ましい。特に本発明の水硬性組成物は、施工深さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、好適な作業性と良好な表面仕上がり性とを得ることができる。
【0069】
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて構造物の下地表面に鏝塗り施工するための水硬性組成物として用いることが好ましい。また、その場合、本発明の水硬性組成物は、特に鏝を用いて構造物の下地表面に鏝塗りすり合わせ施工するための水硬性組成物として用いることが好ましい。
【0070】
本明細書では、本発明の水硬性組成物を含む水硬性モルタルを、構造物の下地表面に施工し、硬化させた部分のことを、「モルタル硬化体」という。モルタル硬化体は、構造物の下地表面の少なくとも一部に施工することができる。また、上述のように、構造物の下地表面の凹部や亀裂に鏝塗り充填施工するだけでなく、それ以外の下地表面全体にわたって層状にモルタル硬化体を設けることもできる。本発明の水硬性組成物を用いてモルタル硬化体を有する構造体を得る場合には、好適な作業性と良好な表面仕上がり性とを得ることができる。
【0071】
本発明の水硬性組成物用いた水硬性モルタルは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。水硬性モルタルの可使時間は、水硬性モルタル調製から好ましくは60分間であり、さらに好ましくは90分間であり、特に好ましくは120分間である。本発明の水硬性組成物を用いた水硬性モルタルは、前記の好ましい可使時間(ハンドリングタイム)で、良好な鏝塗り作業性(鏝切れ、鏝送り、鏝伸び、鏝離れ)を安定して得ることができる。
【0072】
本発明の水硬性組成物用いた水硬性モルタルは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後0.5時間〜2時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。水硬性モルタル硬化体表面のショア硬度は、水硬性モルタルを打設してモルタル表面を鏝仕上げしてから、好ましくは6時間後に5以上、より好ましくは6時間後に5.5以上、さらに好ましくは5時間後に5以上、特に好ましくは4時間後に2以上のショア硬度を有し、モルタル施工(打設・鏝仕上げ)が終了した後、速やかに硬化が進行することによって本発明の水硬性組成物用いたモルタル硬化体を有するコンクリート構造体を短期間に形成させることができる。
【0073】
本発明の水硬性組成物用いた水硬性モルタル硬化体の曲げ強さは、材齢7日のモルタル硬化体では、好ましくは2N/mm以上、さらに好ましくは2.5N/mm以上、特に好ましくは3N/mm以上の曲げ強さを発現する。
【0074】
また、本発明の水硬性組成物用いた水硬性モルタル硬化体の圧縮強さは、材齢7日のモルタル硬化体では、好ましくは8N/mm以上、さらに好ましくは10N/mm以上、特に好ましくは12N/mm以上の圧縮強さを発現する。
【0075】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れた特性を有しており、速やかに良好な硬化状態及び表面乾燥状態を得ることができ、次工程への移行が翌日〜3日後には可能となる。
【0076】
水硬性モルタル硬化体の長さ変化は、材齢7日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.1%、さらに好ましくは0〜−0.07%、特に好ましくは0〜−0.05%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.15%、さらに好ましくは0〜−0.10%、特に好ましくは0〜−0.05%の範囲であり、前記の長さ変化の特性をもたらす水硬性組成物が、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地との間で高い接着力を恒久的に保持できることから好ましい。また、上記の長さ変化の範囲を外れた場合には、モルタル硬化体の硬化収縮によってクラックが生じたり、モルタル硬化体と下地との接着面が剥離したりすることがあるため好ましくない。
【0077】
本発明の水硬性組成物と水と混合して調製した水硬性モルタルは、左官鏝などを用いて各種建築物の床面、壁面及び天井面など、構造物の下地表面に塗付け施工することができる。本発明の水硬性モルタル硬化体の上面には、各種タイルなどの仕上げ層を適宜選択して施工することができる。
【0078】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れるアルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分とを含む水硬性組成物である。本発明の水硬性組成物と、水とを混練して得られる水硬性モルタルは、ハンドリング性(可使時間)が長く、良好な鏝塗り作業性を有しながら、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現が良好で、優れた寸法安定性を有するモルタル硬化体を得ることができるものである。本発明の水硬性組成物を用いることにより、左官職人の施工性をより向上させるとともに、短工期のモルタル施工を可能とし、耐久性・耐候性に優れたモルタル硬化体を提供するものである。
【0079】
また、本発明の水硬性組成物は、上記性質を有するため、壁などのひび割れや窪みを補修するためのパテ材としても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0081】
(特性の評価方法)
【0082】
1)15打フロー値(mm):
15打フロー値は、混練した水硬性モルタルについて、混練直後、混練30分後、混練60分後にJIS R 5201 セメントの物理試験方法のフロー試験に準じて測定した。
【0083】
2)SLフロー値(mm):
SLフロー値は、混練した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に記載の方法に準拠して測定した。
【0084】
3)鏝塗り作業性 :鏝塗り作業性[1]は、以下の説明のように、鏝塗り作業性[1]〜[3]のように行った。
【0085】
3―1)鏝塗り作業性[1]の評価
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS A 5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板にモルタルを約3〜5mmの厚みで塗り付けて、鏝塗り作業時のモルタルの送り、伸び、切れ及び離れの5項目について、水硬性モルタルを調製した直後、30分後、60分後に評価を行った(鏝塗り作業性[1])。評価は、以下のように行った。その結果を表2に示す。表2の所定の欄の3つの数字は、左から、混練直後、30分後及び60分後の評価を示す。
(i)鏝切れ(鏝残り)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
(ii)鏝送り(重さ)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行った。
(iii)鏝伸び(塗り面積)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行った。
(iv)鏝離れ(塗面の仕上げ易さ)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行った。
【0086】
3―2)鏝塗り作業性[2]:「すり合わせ性」(すり合わせ部の形成)の評価
コンクリート平板の表面にモルタルを約1mmの厚みで塗り付けたのち、左官鏝を用いてすりあわせ部を形成し、鏝塗りすり合わせ性について評価を行った(鏝塗り作業性[2])。評価は、以下のように3段階で行った。
○:良好、△:実用上問題あり、×:実用不可。
【0087】
3―3)鏝塗り作業性[3]:「保形性」(仕上り面の保形性:ダレによる変形)の評価
保形性の評価として、3mmの段差を形成したコンクリート平板の段差部分にモルタルを塗りつけてスムースな仕上り面を形成した後、60分後にスムースな仕上がり面が保たれているかを評価した(鏝塗り作業性[3])。評価は、以下のように3段階で行った。
○:良好、△:実用上問題あり、×:実用不可。
【0088】
4)硬化体表面のショア硬度:
水硬性モルタル打設後からの所定の経過時間において、水硬性モルタルの硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とした。
【0089】
5)曲げ強さ(N/mm)及び圧縮強さ(N/mm):
水硬性モルタル硬化体の曲げ強さ及び圧縮強さを測定するための試験に用いた試験体の大きさは、断面が40mm平方、長さが160mmの角柱の試験体(4cm×4cm×16cm)であり、JIS R 5201に準じて材齢1日、材齢7日及び材齢28日の曲げ強さ並びに圧縮強さを測定した。
【0090】
6)接着強さの評価:
水硬性モルタル硬化体の接着強さは、JIS A 6916の付着強さ試験方法に準拠して測定した。JIS A 5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板に、水硬性モルタルを約3〜5mmの厚みで塗り付けて層状の水硬性モルタル硬化体を設けた。材齢7日後及び材齢28日後の水硬性モルタル硬化体に付着面が40mm×40mmの正方形の鋼製ジグを接着剤にて5ヶ所に接着させた。接着剤が硬化した後、鋼製ジグの周囲に沿ってコンクリート平板に達するまでダイヤモンドカッターなどで切り込みを入れ、鋼製ジグを建研式接着試験機に取り付けて、徐々に引張り荷重を加え、破断するまで加圧を行った。破断するまでの最大荷重を最大引張り荷重とし、5ヶ所の平均値を接着強さとして評価した。
【0091】
7)長さ変化:
水硬性モルタル硬化体の長さ変化の測定試験については、JIS A 1129−1に規定するコンタクトゲージ法に準じて行った。
【0092】
(使用材料):
水硬性組成物は、以下の材料を使用して調製した。すなわち、下記の原材料を表1又は表2に示す配合割合で混合した水硬性組成物を使用した。
・アルミナセメントA : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・アルミナセメントB : ターナルホワイト(白色アルミナセメント)、ケルネオス社製、ブレーン比表面積4100cm/g。
・ポルトランドセメントA : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・ポルトランドセメントB : 白色セメント、太平洋セメント社製。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・樹脂成分 : アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステルの共重合体、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化型樹脂粉末、ニチゴー・モビニール社製、DM7100P。
・無機微粉末 : 石灰石微粉末(炭酸カルシウム微粉末)、有恒鉱業社製、TM−1号、ブレーン比表面積4830cm/g、100メッシュ篩(篩目開き=150μm)全通。
・細骨材A : 6号珪砂、宇部サンド社製。(粒度分布を表3に示す。)
・細骨材B : 5号珪砂、宇部サンド社製。(粒度分布を表3に示す。)
・凝結遅延剤A : L−酒石酸ナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結遅延剤B : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・増粘剤 : ME250T、松本油脂社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
【0093】
(水硬性組成物のモルタル調製)
表1に示す配合割合で水硬性組成物を調製し、水硬性組成物100質量部に対して表1に示す所定量の水を配合し、回転数1100rpmのハンドミキサーを用いて3分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
【0094】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
表1に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて水硬性モルタルを調製した。モルタルの流動性等の性状、鏝塗り作業性及び硬化特性を評価した結果を表2に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
(1)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、粒子径150μmを超える粒子を含む細骨材を用いた比較例1及び2の場合、左官鏝を用いたすり合わせ施工で良好なすり合わせ性は得られなかった。
(2)水硬性成分として早強セメントを用い、細骨材を用いず石灰石微粉末を使用した比較例3の場合、モルタルを調製・施工後、4時間では硬化が進行しておらず、ショア硬度を測定することができなかった。
(3)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、石灰石微粉末細骨材と、流動化剤とを用いた比較例4の場合、速硬性、鏝作業性及びすり合わせ施工性について優れた特性を示したが、水硬性モルタルは流動性に富んでいるために、施工した水硬性モルタルが、すり合わせ施工した直後の形状を完全に保持することができなかった。
(4)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び無水石膏からなる水硬性成分と、粒子径150μmを超える粒子を含まない石灰石微粉末を用い、流動化剤を用いなかった実施例1及び2の場合、速硬性、鏝作業性及びすり合わせ施工性について優れた特性を示し、すり合わせ施工した水硬性モルタルの保形性についても良好であった。また、水硬性モルタル硬化体は、曲げ強さ、圧縮強さ及び接着強さについて優れた特性を示し、特に長さ変化においては、材齢7日及び材齢28日の両方で−0.05〜0の範囲の値であり、優れた寸法安定性を有していた。さらに、実施例2の水硬性組成物の場合、実施例3及び4に示すように、試験温度35℃の高温条件や試験温度5℃の低温条件においても優れた鏝塗り作業性を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の水硬性組成物の施工の一例であって、水硬性組成物を段差にすり合わせ施工をした場合を模式的に示す部分断面図である。
【図2】本発明の水硬性組成物の施工の一例であって、水硬性組成物を凸部にすり合わせ施工をした場合を模式的に示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0100】
10 床レベル
11 構造物
14 段差
15 凸部
21a 水硬性モルタル硬化体(すり合わせ仕上げ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂成分と、無機粉末とを含み、細骨材及び流動化剤を含まない水硬性組成物であって、水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、55〜90mmであることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分が、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる、請求項1記載の水硬性組成物。
【請求項3】
樹脂成分が再乳化型樹脂粉末であり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化型樹脂粉末である、請求項1又は2記載の水硬性組成物。
【請求項4】
水硬性組成物が、軽量骨材を含まない、請求項1〜3のいずれか1項記載の水硬性組成物。
【請求項5】
水硬性組成物が、さらに凝結調整剤及び増粘剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを硬化させた水硬性モルタル硬化体表面のショア硬度が、水硬性モルタルを鏝塗り施工したのち6時間後に5以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の水硬性組成物。
【請求項7】
水硬性組成物が、水硬性組成物と、水とを混練して調製した水硬性モルタルを、鏝を用いて構造物の下地表面に鏝塗り施工するための水硬性組成物である、請求項1〜6のいずれか1項記載の水硬性組成物。
【請求項8】
鏝塗り施工が、鏝塗りすり合わせ施工である、請求項7記載の水硬性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の水硬性組成物を用いて得られた水硬性モルタルを硬化させた水硬性モルタル硬化体を、構造物の下地表面の少なくとも一部に有する構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18491(P2010−18491A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181237(P2008−181237)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】