説明

水硬性組成物

【課題】高い保水性を有するとともに、鏝の操作が軽くなる等の作業性にも優れ、且つ、アスベスト(石綿)を使用せずとも十分な保形性を有し、左官又は押出成形等のいずれの成形方法においても表面平滑性に優れたモルタル又はコンクリート等を得ることのできる水硬性組成物を提供する。
【解決手段】水溶性セルロースエーテルとともに、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤、特定の2種類の繰り返し単位を特定のモル比で含む水溶性ポリウレタン、水硬性無機粉体を含む水硬性組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物に関する。更に詳しくは、セメント板押出成形用モルタル、左官用モルタル、補修用モルタル、タイル接着(圧着)用モルタル、マソンリーモルタル、ポンプアップ用モルタル、スプレー用モルタル、壁の下地用モルタル、壁の仕上げ用モルタル、オートクレーブトライトウェートコンクリート(ALC)目地充填用モルタル、床仕上げ用モルタル(セルフレベリング材)、高流動コンクリート、水中コンクリート、高靭性コンクリート等の広範囲の用途に好適に使用できる水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント、砂等の細骨材、繊維、水等から構成される各種モルタルは、水とその他成分との分離によるブリージング現象が起こることから、従来より、保水性向上(ブリージング防止)等の目的で、水溶性のセルロースエーテル系増粘剤を添加し、増粘させて用いられてきた(特許文献1参照)。
【0003】
また、成形直後の形状を保持する必要があるため、モルタルには、ある程度の保形性が要求される。モルタルに保形性を付与するためには、モルタルが高いチクソ性を示すことが必要となるが、水溶性セルロースエーテル系増粘剤を添加するのみでは、十分な保形性を得ることは困難であった。このため、水溶性セルロースエーテル系増粘剤を使用する際には、チクソ性付与を目的としてアスベスト(石綿)を併用することが多く(特許文献2参照)、これにより、モルタルの保水性と保形性とを同時に満足させていた。
【特許文献1】特開昭58−015053号公報
【特許文献2】特開平01−282142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの水溶性セルロースエーテル系増粘剤は、モルタルに高い保水性を与える一方で、モルタルの粘りが強くなりすぎる問題が生じていた。このため、左官においては、鏝離れが悪く、鏝の操作が重くなる等の作業性の低下をもたらすとともに、得られるモルタル表面の平滑性の低下をもたらしていた。また、押出成形によるセメント板の製造においては、得られるセメント板の表面状態が平滑でなくなり、加工性の低下をもたらしていた。
【0005】
また、近年の環境問題から、アスベスト(石綿)の人体への有害性が明らかにされており、アスベスト(石綿)を使用しない組成物の使用が望まれていた。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、高い保水性を有するとともに、鏝の操作が軽くなる等の作業性にも優れ、且つ、アスベスト(石綿)を使用せずとも十分な保形性を有し、左官又は押出成形等のいずれの成形方法においても表面平滑性に優れたモルタル又はコンクリート等を得ることのできる水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、水溶性セルロースエーテルと併用でき、保水性及び保形性の両者の機能を有し、且つ、左官における鏝の操作性に影響を与えることなく、更に、成形方法によらず表面平滑性に優れたモルタル又はコンクリート等を得ることのできる化合物について鋭意研究を重ねた。その結果、水溶性セルロースエーテルとともに、特定の水溶性ポリウレタンと、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤とを併用す
れば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1)房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)、水溶性セルロースエーテル(C)、及び、水硬性無機粉体(D)を含む水硬性組成物であって、前記房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)は、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位(b)とを含み、前記繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)の総モル数に対する前記繰り返し単位(a)のモル数の比は、0.5以上0.99以下である水硬性組成物。
【0009】
【化1】

(式中、
Aは、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールHO−A−OHの脱アルコール残基である2価の連結基を示し、
Bは、ジイソシアナートOCN−B−NCOの脱NCO残基である2価の連結基を示す。)
【0010】
【化2】

(式中、
Dは、分子内に炭素数4から21の1価炭化水素基を少なくとも2個以上有する櫛形ジオールHO−D−OHの脱アルコール残基である2価の連結基を示し、
Bは、ジイソシアナートOCN−B−NCOの脱NCO残基である2価の連結基を示す。)
【0011】
(1)の水硬性組成物は、房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)、水溶性セルロースエーテル(C)、及び、水硬性無機粉体(D)を必須成分として含むものである。ここで「水硬性組成物」とは、水を加えて練り混ぜると、水と反応して硬化が進む組成物のことをいう。また、本発明の水硬性組成物は、上記の必須成分が含まれていればよく、必須成分以外にも、砂等の細骨材や繊維等の各種任意成分を含んでいてもよい。
【0012】
(1)の水硬性組成物は、櫛形ジオールを構成成分とする水溶性ポリウレタン(A)を用いる。櫛形ジオールの炭化水素基は極性が低いため、水中においては炭化水素基同士の相互作用により、水溶性ポリウレタン(A)の高分子鎖間に疎水的相互作用が生じる。このため、櫛形ジオールを構成成分とすれば、比較的分子量の低いポリウレタンであっても十分な保水性を発揮することができる。
【0013】
また、(1)の水硬性組成物は、水溶性ポリウレタン(A)と水溶性セルロースエーテル(C)との両者を併用するものである。したがって、水溶性セルロースエーテルに由来する高い保水性を有するとともに、水溶性セルロースエーテルの配合量に起因する鏝の操作が重くなる等の作業性の低下の問題を生じさせることなく、また、成形方法によらず表面平滑性に優れ、且つ、アスベスト(石綿)を使用せずとも十分な保形性を有するモルタル又はコンクリート等を得ることができる。
【0014】
(2) 前記水硬性組成物100質量%に対する前記房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)の含有量は0.1質量%以上2質量%以下、前記高性能減水剤及び高性能AE減水剤(B)の総含有量は固形分量で0.01質量%以上1質量%以下、前記水溶性セルロースエーテル(C)の含有量は0.1質量%以上2質量%以下、前記水硬性無機粉体(D)の含有量は10質量%以上99.79質量%以下である(1)記載の水硬性組成物。
【0015】
(2)の水硬性組成物は、水溶性ポリウレタン(A)、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)、水溶性セルロースエーテル(C)、及び、水硬性無機粉体(D)の含有量を、それぞれ特定範囲とするものである。それぞれの含有量がこの範囲にあれば、保水性と鏝の操作性がともに優れ、また、成形方法によらず表面平滑性に優れ、且つ、アスベスト(石綿)を使用せずとも十分な保形性を有する組成物を得ることができる。
【0016】
(3) 前記櫛形ジオールHO−D−OHは、下記一般式(III)及び/又は下記一般
式(IV)で表わされる櫛形ジオールである(1)又は(2)記載の水硬性組成物。
【0017】
【化3】

(式中、
1は、炭素原子数1から20の炭化水素基又は窒素含有炭化水素基であり、
2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数4から21の炭化水素基であり、
ここで、R1、R2、及びR3における水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子、塩素
原子、臭素原子、及び沃素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子で置換されていてもよく、
Y及びY’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、及びCH2Cl基
からなる群より選ばれるいずれかであり、
Z及びZ’は、同一でも異なっていてもよく、酸素原子、硫黄原子、及びCH2基から
なる群より選ばれるいずれかであり、
n及びn’は、同一でも異なっていてもよく、
nは、Zが酸素原子の場合には0から15の整数であり、Zが硫黄原子又はCH2基の
場合には0であり、
n’は、Z’が酸素原子の場合には0から15の整数であり、Z’が硫黄原子又はCH2基の場合には0である。)
【0018】
【化4】

(式中、
4は、全炭素原子数2から4のアルキレン基であり、
5は、炭素原子数1から20の炭化水素基であり、
6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数4から21の炭化水素基であり、
ここで、R4、R5、及びR6における水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子、塩素
原子、臭素原子、又は沃素原子で置換されていてもよく、
S、S’、及びS’’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、及びCH2Cl基からなる群より選ばれるいずれかであり、
T及びT’は、同一でも異なっていてもよく、酸素原子、硫黄原子、及びCH2基から
なる群より選ばれるいずれかであり、
P及びP’は、同一でも異なっていてもよく、
Pは、Tが酸素原子の場合には0から15の整数であり、Tが硫黄原子又はCH2基の
場合には0であり、
P’は、T’が酸素原子の場合には0から15の整数であり、T’が硫黄原子又はCH2基の場合には0であり、
Qは、0から15の整数である。)
【0019】
(3)の水硬性組成物は、特定構造を有する櫛形ジオールを用いるものである。特定構造を有するジオールを用いることにより、より短時間の混練で十分な保水性を発現することができる。
【0020】
(4) 前記水硬性組成物は、モルタル用組成物である(1)から(3)いずれか記載の水硬性組成物。
【0021】
「モルタル」とは、セメント等の無機粉体、砂等の細骨材、繊維、水等から構成される各種建材用材料をいう。本発明の水硬性組成物は、上記(1)の効果を有していることから、「モルタル」として好適に使用することができる。
【0022】
(5) 前記水硬性組成物は、セメント板押出成形用モルタル組成物である(1)から(4)いずれか記載の水硬性組成物。
【0023】
一般に、「押出成形用」の組成物は、分子量が大きく、粘度を大きくすることにより押出成形加工を容易とする。本発明の水硬性組成物は、櫛形ジオールを構成成分とする水溶性ポリウレタン(A)を用いるため、比較的分子量の低いポリウレタンであっても十分な保水性を発揮するが、その分子量或いは組成物への添加量を適宜設定することにより、セメント板押出成形用として好適に使用することができる。
【0024】
(6) 前記水硬性組成物は、コンクリート用組成物である(1)から(3)いずれか記載の水硬性組成物。
【0025】
「コンクリート」とは、セメント等の無機粉体、砂等の細骨材、繊維、水等から構成される「モルタル」に、更に、石(砂利)等の粗骨材を含有させたものである。本発明の水硬性組成物は、上記(1)の効果を有していることから、「コンクリート」として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の水硬性組成物によれば、高い保水性を有するとともに、鏝の操作が重くなる等の作業性の低下の問題を生じさせることなく、また、左官又は押出成形等のいずれの成形方法においても表面平滑性に優れ、且つ、アスベスト(石綿)を使用せずとも十分な保形性を有するモルタル又はコンクリート等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)、水溶性セルロースエーテル(C)、及び、水硬性無機粉体(D)を、必須成分として含むものである。
【0028】
水硬性組成物における各成分の配合比は、特に限定されるものではない。好ましくは、水硬性組成物100質量%に対する房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)の含有量は0.1質量%以上2質量%以下、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)の含有量は固形分量で0.01質量%以上1質量%以下、水溶性セルロースエーテル(C)の含有量は0.1質量%以上2質量%以下、水硬性無機粉体(D)の含有量は10質量%以上99.79質量%以下の範囲である。
【0029】
尚、本発明の水硬性組成物においては、房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)と水溶性セルロースエーテル(B)との配合比率を、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは20:80〜80:20とすることが望ましい。
【0030】
[水溶性ポリウレタン(A)]
本発明に用いられる水溶性ポリウレタン(A)は、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位(b)とを必須構成単位とするものである。繰り返し単位(a)と、繰り返し単位(b)とを含むものであれば、その他の任意の繰り返し単位を少量含んでいてもよい。
【0031】
【化5】

(式中、
Aは、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールHO−A−OHの脱アルコール残基である2価の連結基を示し、
Bは、ジイソシアナートOCN−B−NCOの脱NCO残基である2価の連結基を示す。)
【0032】
【化6】

(式中、
Dは、分子内に炭素数4から21の1価炭化水素基を少なくとも2個以上有する櫛形ジオールHO−D−OHの脱アルコール残基である2価の連結基を示し、
Bは、ジイソシアナートOCN−B−NCOの脱NCO残基である2価の連結基を示す。)
【0033】
また、前記繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)の総モル数に対する前記繰り返し単位(a)のモル数の比は、通常0.5以上0.99以下であり、好ましくは0.70以上0.99以下、更に好ましくは0.80以上0.90以下である。
【0034】
〔ポリオキシアルキレンポリオール:HO−A−OH〕
上記一般式(I)で表される繰り返し単位(a)の構成材料となる、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールHO−A−OHとしては、特に限定されるものではないが、炭素数2から6のアルキレン基を有するポリオキシアルキレンポリオールを好適に用いることができる。
【0035】
より具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとの共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等を好ましく用いることができる。ポリウレタンが水溶性であることから、特に好ましくはポリエチレングリコール(PEG)が用いられる。
【0036】
繰り返し単位(a)の構成材料となる、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールHO−A−OHの数平均分子量(Mn)は、好ましくは400以上100,000以下、より好ましくは400以上20,000以下、更に好ましくは900以上9,000以下の範囲内にある。数平均分子量が400以上であれば、十分な保水性を有する水溶性ポリウレタン(A)を得ることができる。一方で、数平均分子量が100,000以下であれば、充分な重合反応を行ことができる。
【0037】
尚、繰り返し単位(a)の構成材料となる、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールHO−A−OHとしては、1種の単独使用のみならず、2種類以上のポリオキシアルキレンポリオールを組み合わせて用いてもよい。例えば、ポリエチレングリコールと、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレンエーテルグリコールとを、組み合わせて用いることも可能である。ポリウレタンが水溶性であることから、より好ましくはポリエチレングリコール(PEG)を70重量%以上用いることである。
【0038】
また、全グリコール類の20質量%までであれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の低分子量グリコールを、上記のポリオキシアルキレンポリオール類と併用してもよい。
【0039】
〔ジイソシアナート:OCN−B−NCO〕
上記一般式(I)及び一般式(II)で表される繰り返し単位(a)及び(b)の構成材料となる、ジイソシアナートOCN−B−NCOとしては、特に限定されるものではない。例えば、鎖状脂肪族ジイソシアナート類、環状脂肪族ジイソシアナート類、及び芳香族ジイソシアナートよりなる群から選ばれるジイソシアナート化合物を挙げることができる。これらの中では、全炭素原子数が(NCO基の炭素原子を含めて)3から18のジイソシアナート類を用いることが好ましい。
【0040】
鎖状脂肪族ジイソシアナート類とは、NCO基の間を、直鎖もしくは分岐鎖を有するアルキレン基で繋いだ構造をもつポリイソシアナート化合物である。具体例としては、メチレンジイソシアナート、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、1−メチルエチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ペンタメチレンジイソシアナート、2−メチルブタン−1,4−ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDI)、ヘプタメチレンジイソシアナート、2,2’−ジメチルペンタン−1,5−ジイソシアナート、リジンジイソシアナートメチルエステル(LDI)、オクタメチレンジイソシアナート、2,5−ジメチルヘキサン−1,6−ジイソシアナート、2,2,4−トリメチルペンタン−1,5−ジイソシアナート、ノナメチルジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアナート、デカメチレンジイソシアナート、ウンデカメチレンジイソシアナート、ドデカメチレンジイソシアナー
ト、トリデカメチレンジイソシアナート、テトラデカメチレンジイソシアナート、ペンタデカメチレンジイソシアナート、ヘキサデカメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等のジイソシアナートが挙げられる。
【0041】
環状脂肪族ジイソシアナート類とは、NCO基の間を、環状構造をもつアルキレン基で繋いだ構造を持つポリイソシアナート化合物である。具体例としては、シクロヘキサン−1,2−ジイソシアナート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアナート、1−エチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアナート、4,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3−ジイソシアナート、1,2−ジメチルシクロヘキサン−ω,ω’−ジイソシアナート、1,4−ジメチルシクロヘキサン−ω,ω’−ジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメチルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアナート、2,2’−ジメチルジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、4,4’−メチレン−ビス(イソシアナトシクロヘキサン)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)(IPCI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、水素化トリレンジイソシアナート(H−TDI)、水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(H−MDI)、水素化キシリレンジイソシアナート(H−XDI)、ノルボルナンジイソシアナートメチル(NBDI)等のジイソシアナートが挙げられる。
【0042】
芳香族ジイソシアナート類とは、NCO基の間を、フェニレン基、アルキル置換フェニレン基、及びアラルキレン基等の芳香族基、又は芳香族基を含有する炭化水素基で繋いだ構造を持つポリイソシアナート化合物である。具体例としては、1,3−及び1,4−フェニレンジイソシアナート、1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアナート(2,4−TDI)、1−メチル−2,6−フェニレンジイソシアナート(2,6−TDI)、1−メチル−2,5−フェニレンジイソシアナート、1−メチル−3,5−フェニレンジイソシアナート、1−エチル−2,4−フェニレンジイソシアナート、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジイソシアナート、1,3−ジメチル−2,4−フェニレンジイソシアナート、1,3−ジメチル−4,6−フェニレンジイソシアナート、1,4−ジメチル−2,5−フェニレンジイソシアナート、m−キシレンジイソシアナート、ジエチルベンゼンジイソシアナート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアナート、1−メチル−3,5−ジエチルベンゼン−2,4−ジイソシアナート、3−メチル−1,5−ジエチルベンゼン−2,4−ジイソシアナート、1,3,5−トリエチルベンゼン−2,4−ジイソシアナート、ナフタリン−1,4−ジイソシアナート、ナフタリン−1,5−ジイソシアナート、1−メチルナフタリン−1,5−ジイソシアナート、ナフタリン−2,6−ジイソシアナート、ナフタリン−2,7−ジイソシアナート、1,1−ジナフチル−2,2’−ジイソシアナート、ビフェニル−2,4’−ジイソシアナート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、1,3−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(MDI)、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート(XDI)等のジイソシアナートが挙げられる。
【0043】
〔櫛形ジオール:HO−D−OH〕
上記一般式(II)で表される繰り返し単位(b)の構成材料となる、櫛形ジオールHO−D−OHは、分子内に炭素原子数4から21の1価炭化水素基を少なくとも2個以上有するジオール類である。ここで、1価炭化水素基は、ジオール類の分子骨格に側鎖として
複数個がグラフトしており、このような形状から「櫛形ジオール」と称している。
【0044】
炭素原子数4から21の1価炭化水素基としては特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0045】
また、櫛形ジオールHO−D−OHにおいて、炭素原子数4から21の1価炭化水素基のグラフト位置は、ジオール類の分子骨格に直接グラフトする場合であっても、また、メチレン基、エーテル基、チオエーテル基、ポリエーテル基等を介して分子骨格に結合する場合であってもよい。
【0046】
櫛形ジオールHO−D−OHの分子骨格は、炭化水素のみからなっていてもよいが、エーテル基(−O−)、ポリエーテル基、或いは、3級アミノ基(−N(R)−)等の極性基を分子骨格に有するジオールも、本発明においては好適に用いられる。
【0047】
このような櫛形ジオールの製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により得ることができる。公知の方法としては、例えば、特開平11−343328号や特開平12−297133号に記載されている方法、特開2004−169011号に記載されている方法を挙げることができる。
【0048】
本発明に好ましく用いられる櫛形ジオールHO−D−OHとしては、例えば、下記一般式(III)及び下記一般式(IV)で表わされる櫛形ジオールを挙げることができる。下記
一般式(III)及一般式(IV)で表される櫛形ジオールは、1種単独であっても、また複
数種を同時に併用してもよい。例えば、一般式(III)で表される櫛型ジオールの複数種
を使用する場合、一般式(IV)で表される櫛型ジオールの複数種を使用する場合、一般式(III)で表される櫛型ジオールと一般式(IV)で表される櫛型ジオールとを混在させる
場合のいずれであってもよい。
【0049】
【化7】

(式中、
1は、炭素原子数1から20、より好ましくは炭素原子数4から12の炭化水素基又
は窒素含有炭化水素基であり、
2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数4から21、より好ましくは炭素原子数4から12の炭化水素基であり、
ここで、R1、R2、及びR3における水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子、塩素
原子、臭素原子、及び沃素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子で置換されていてもよく、
Y及びY’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、及びCH2Cl基
からなる群より選ばれるいずれかであり、
Z及びZ’は、同一でも異なっていてもよく、酸素原子、硫黄原子、及びCH2基から
なる群より選ばれるいずれかであり、
n及びn’は、同一でも異なっていてもよく、
nは、Zが酸素原子の場合には0から15の整数であり、Zが硫黄原子又はCH2基の
場合には0であり、
n’は、Z’が酸素原子の場合には0から15の整数であり、Z’が硫黄原子又はCH
2基の場合には0である。)
【0050】
【化8】

(式中、
4は、全炭素原子数2から4のアルキレン基であり、
5は、炭素原子数1から20、より好ましくは炭素原子数4から12の炭化水素基で
あり、
6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数4から21、より好ましくは炭素原子数4から12の炭化水素基であり、
ここで、R4、R5、及びR6における水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子、塩素
原子、臭素原子、又は沃素原子で置換されていてもよく、
S、S’、及びS’’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、及びCH2Cl基からなる群より選ばれるいずれかであり、
T及びT’は、同一でも異なっていてもよく、酸素原子、硫黄原子、及びCH2基から
なる群より選ばれるいずれかであり、
P及びP’は、同一でも異なっていてもよく、
Pは、Tが酸素原子の場合には0から15の整数であり、Tが硫黄原子又はCH2基の
場合には0であり、
P’は、T’が酸素原子の場合には0から15の整数であり、T’が硫黄原子又はCH2基の場合には0であり、
Qは、0から15の整数である。)
【0051】
〔水溶性ポリウレタン(A)の製造方法〕
本発明に用いられる水溶性ポリウレタン(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用することができる。水溶性ポリウレタン(A)の製造方法としては、例えば、特開平11−343328号や特開平12−297133号に記載されている方法、或いは、特開2004−169011号に記載されている方法を用いることができる。なかでも、特開2004−169011号に記載されている方法は、得られるポリウレタンの粒子径が揃っており、且つ、平均粒子径を容易に200μm以下にできる点で、特に優れている。
【0052】
〔水溶性ポリレタン樹脂(A)の物性〕
本発明に用いられる水溶性ポリウレタン(A)の粘度は、B型粘度計(100,000mPa・sまではBL型粘度計を用い6rpmで、それ以上の粘度ではBH型粘度計を用い4rpm)で測定した20℃での2%水溶液の粘度が、好ましくは10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以上300,000mPa・sの範囲であることが適当である。
【0053】
特に、本発明の水硬性組成物をセメント板押出成形に用いる場合には、15,000mPa・s以上300,000mPa・s以下の範囲のものが最適である。2%水溶液の粘度が15,000mPa・s以上あれば、保水性を十分高めることができ、一方で、300,000mPa・s以下であれば、成形品の表面状態を平滑とすることができる。
【0054】
また、本発明に用いられる水溶性ポリウレタン(A)の粉体の粒子径は、モルタルを捏ねやすい観点から、細かい方が好ましい。ただし、あまりに細かいと取り扱いにくいことから、平均粒子径が好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは50μm以上200μm以下程度であることが好適である。
【0055】
[高性能減水剤・高性能AE減水剤(B)]
本発明に用いられる高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)としては、特に限定されるものではなく、モルタル用として使用されている公知の高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤を用いることができる。例えば、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の各種の化合物を用いることができる。
【0056】
本発明における高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)としては、例えば、特開2003−252669号公報に記載された高性能減水剤や高性能AE減水剤を好適に用いることができる。
【0057】
具体的には、花王社製、商品名「マイティ200」シリーズ、商品名「マイティ21」シリーズ、エヌエムビー社製、商品名「レオビルドSP8」シリーズ、グレースケミカルズ社製、商品名「ダーレックススーパー100」シリーズ、サンフロー社製、商品名「サンフローHS」シリーズ、第一工業製薬社製、商品名「セルフロー120」シリーズ、日本シーカ社製、商品名「シーカメント」シリーズなどが挙げられる。
【0058】
本発明の水硬性組成物に高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤を配合した場合には、スランプやスランプスロー値が大きくなることに起因して単位水量の増加を少なくすることができ、このため、所要のコンシステンシーやワーカビリティーを確保することができる。また、単位水量の増加を抑えることにより、コンクリート等の乾燥収縮量を低減するとともに、耐久性を向上させることができる。セメント板押出成形に用いた場合には、単位水量が少なくできるのでセメント板の強度が向上し、かつモルタルの流動性が向上するので成形品の表面の平滑さも向上する。
【0059】
また、本発明の水硬性組成物に高性能AE減水剤を配合した場合には、コンクリート等の凍結融解作用やコンシステンシーを向上させることができる。また、フレッシュコンクリートの場合には、その高流動性を長時間保たせることができる。
【0060】
[水溶性セルロースエーテル(C)]
本発明に用いられる水溶性セルロースエーテル(C)としては、特に限定されるものではなく、モルタル用の増粘剤として公知の水溶性セルロースエーテルを用いることができる。
【0061】
本発明に用いられる水溶性セルロースエーテル(C)の具体例としては、例えば、メチルセルロース(MC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、エチルヒドロキシエチルセルセロロース(EHEC)等が挙げられる。市販の水溶性セルロースエーテルを用いることも可能であり、市販品としては、例えば、ダイセルファインケム社製のセルブレン、信越化学社製のメトローズやhi−メトローズ、松本油脂製薬社製のマーポローズ、ダウ社製のメトセル、アクゾノーベル社製のベルモコール、ハークレス社製のアクアロン等が挙げられる。
【0062】
[水硬性無機粉体(D)]
本発明に用いられる水硬性無機粉体(D)は、特に限定されるものではなく、公知の水
硬性無機粉体を用いることができる。本発明においては、例えば、各種ポルトラントセメント、アルミナセメント、高炉セメント、珪酸カルシウム等が挙げられる。
【0063】
[その他成分]
本発明の水硬性組成物には、任意成分として、細骨材を配合することが可能である。細骨材としては、特に限定されるものではなく、例えば、砂、粉砕ケイ石紛、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、パーライト、軽石、発泡コンクリート破砕物、発泡ピラスチック破砕物、中空ポリマー粒子等が挙げられる。
【0064】
細骨材を本発明の水硬性組成物に含める場合には、その後得られるモルタルの用途により様々であるが、通常、水硬性無機粉体(D)と細骨材との比率を、細骨材が水硬性無機粉体(D)の0.5倍以上5倍以下程度となるように配合し、水硬性無機粉体(D)と細骨材との合計量が、水硬性組成物全体の55質量%以上99.79質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0065】
また、本発明の水硬性組成物を各種コンクリート用途として用いる場合には、石(砂利)等の粗骨材を配合する。
【0066】
更には、水溶性ポリマーである、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、グアーガム、キサンタンガム、ウェランガム等を本発明の水硬性組成物に配合使用することもできる。
【0067】
更に、本発明の水硬性組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、エマルション樹脂、界面活性剤、空気連行剤(AE剤)、消泡剤、収縮低減剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、各種繊維類(ロックウール、ガラス繊維、カーボン繊維、セルロース繊維、パルプ繊維、各種合成樹脂繊維)等の公知の添加剤を、その用途に応じて適宜配合してもよい。特に押出成形セメント板の製造に用いる場合には、パルプ繊維等の繊維類を数%添加することが好ましい。
【0068】
本発明の水硬性組成物は、各種のモルタル又はコンクリート等、用途に応じて、適宜、適当な量の水を加えて混練し、施工に用いることができる。水は、水硬性組成物100質量%に対して、5質量%以上100質量%、より好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲で配合することが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<水溶性ポリウレタンPU−1の合成>
[櫛形ジオール−1の合成]
500mLの丸底フラスコに、マグネチックスターラー、温度計、及び滴下ロートを設置し、2−エチルヘキシルアミン(光栄化学社製)64.6gを仕込み、フラスコ内を窒素で置換した。引き続き、フラスコをオイルバスで90℃に加熱し、攪拌しながら、滴下ロートを用いて2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(旭電化社製、商品名:アデカグリシロールED518S、エポキシ価:186)190.0gを40分かけて滴下した。滴下終了後、オイルバスの温度を120℃に上げて、フラスコを10時間加熱した。続いて、オイルバスの温度を150℃に上げて、真空ポンプを用いて、3mmHgの真空度で少量の未反応物を減圧留去した。これにより、2−エチルヘキシルアミン1モルに対して2−エチルヘキシルグリシジルエーテルが2モルの比率で付加した櫛形ジオール−1(OH価からの平均分子量:510)を収率95%で得た。
【0071】
[プレポリマー−1の合成]
100mLガラス製フラスコに、上記で得られた櫛形ジオール−1を20g、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を45.5g加えた。フラスコを80℃に8時間加熱し、プレポリマー−1を得た。
【0072】
[水溶性ポリウレタンPU−1の合成]
特開2004−169011の実施例8に記載された方法に準じて合成した。
2,000mLのガラス製セパラブルフラスコに、市販のポリエチレングリコール(三洋化成社製、商品名:PEG#6000、数平均分子量:8,630)を500g仕込み、窒素シール下で150℃にて溶融した。これを攪拌しながら、減圧下(3mmHg)で3時間乾燥した。乾燥後、70℃まで温度を下げ、フラスコ内を1気圧の窒素で満たした。引き続き、上記で得られたプレポリマー−1を16.4g、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を0.10g、酸化防止剤としてBHT(ジ−ter−ブチルヒドロキシトルエン)を1,000ppm加えて攪拌後、溶剤としてのイソオクタン(和光純薬社製)を350g、分散剤を1.5g加え、ディスパーで分散させた。フラスコ内を攪拌しながら、触媒としてジブチルスズジラウレート(DBTDL)を0.05g添加し、90℃で6時間反応させた。引き続き、40℃まで温度を下げ、フラスコから生成物を取り出し、ろ過乾燥することにより、水溶性ポリウレタン(PU−1)を得た。得られた樹脂粉末の平均粒子径は100μm、2%水溶液の20℃での粘度は42,000mPa・s(BL型粘度計、6rpm)であった。
【0073】
<水溶性ポリウレタンPU−2の合成>
[櫛形ジオール−2の合成]
500mLの丸底フラスコに、マグネチックスターラー、温度計、及び滴下ロートを設置し、3−ラウリルオキシプロピルアミン(光栄化学社製)64.6gを仕込み、フラスコ内を窒素で置換した。引き続き、フラスコをオイルバスで90℃に加熱し、攪拌しながら、滴下ロートを用いて2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(旭電化社製、商品名:アデカグリシロールED518S、エポキシ価:186)100.7gを40分かけて滴下した。滴下終了後、オイルバスの温度を120℃に上げて、フラスコを10時間加熱した。続いて、オイルバスの温度を150℃に上げて、真空ポンプを用いて、3mmHgの真空度で少量の未反応物を減圧留去した。これにより、3−ラウリルオキシプロピルアミン1モルに対して2−エチルヘキシルグリシジルエーテルが2モルの比率で付加した櫛形ジオール−2(OH価からの平均分子量:630)を収率95%で得た。
【0074】
[プレポリマー−2の合成]
100mLガラス製フラスコに、上記で得られた櫛形ジオール−2を20g、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を44g加えた。フラスコを80℃に6時間加熱し、プレポリマー−2を得た。
【0075】
[水溶性ポリウレタンPU−2の合成]
特開2004−169011の実施例8に記載された方法に準じて合成した。
2,000mLのガラス製セパラブルフラスコに、市販のポリエチレングリコール(三洋化成社製、商品名:PEG#6000、数平均分子量:8,630)を500g仕込み、窒素シール下で150℃にて溶融した。これを攪拌しながら、減圧下(3mmHg)で3時間乾燥した。乾燥後、70℃まで温度を下げ、フラスコ内を1気圧の窒素で満たした。引き続き、上記で得られたプレポリマー−2を16.0g、酸化防止剤としてジ−ter−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)を1,000ppm加えて攪拌後、溶剤としてのイソオクタン(和光純薬社製)を350g、分散剤を1.5g加え、ディスパーで分散させた。フラスコ内を攪拌しながら、触媒としてジブチルスズジラウレート(DBTDL
)を0.05g添加し、90℃で6時間反応させた。引き続き、40℃まで温度を下げ、フラスコから生成物を取り出し、ろ過乾燥させ、水溶性ポリウレタン(PU−2)を得た。得られた樹脂粉末の平均粒子径は120μm、2%水溶液の20℃での粘度は200,000mPa・s(BH型粘度計、4rpm)であった。
【0076】
<実施例1>
[水硬性組成物の調製−1]
普通ポルトラントセメント(C)、粉砕ケイ石紛(S)、水溶性セルロースエーテル(MC)(松本油脂製薬社製、商品名:マーポローズ90MP−100000)、及び、上記で得られた水溶性ポリウレタン(PU−1)、高性能AE減水剤(WR)(花王社製、商品名:マイティ21P、粉体)、及びパルプ繊維を、表1に記載した処方によりミキサーで1分間混合し、続いて、水道水(W)を表1に記載した処方量加え、1分間混練した。得られた混合物をニーダーにより更に混練し、試験用モルタルを得た。
このモルタルは水比(水以外の原料の重量に対する水の重量の比率)が比較的大きく、モルタルは比較的軟らかであり、いわゆる窯業系セメント板の押出成形に用いられる。
【0077】
<評価−1>
評価にあたっては、得られたモルタルにつき真空押出成形機を用いて、板状に押出成形を実施し、幅25mm厚さ10mmのセメント板を成形した。
【0078】
[モルタル組成物の粘性]
得られたモルタルの粘性については、押し出し時のダイス(入口が直径が30mmの円形、出口が幅25mm、厚さ10mmの矩形)直前での圧力(吐出圧力)を測定した。モルタルの粘度が高く流れにくいほど、吐出圧力は大きくなる。
【0079】
[モルタル組成物の保水性評価]
得られたモルタルの保水性については、押出成形時のダイス部分からの漏水の有無により判定した。
○:漏水は無かった
×:漏水した
【0080】
[成形品の表面平滑性]
成形品の表面平滑性評価にあたっては、得られたセメント板につき、目視により、下記の基準で評価を行った。評価結果を表1に示す。
◎:表面に皺も凹凸もない
○:表面に皺はないが僅かに凹凸がある
×:表面に皺がよって凹凸がある
【0081】
<実施例2>
上記で得られた水溶性ポリウレタン(PU−2)を用いて、表1に記載した処方により、実施例1と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例1と同様に、各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0082】
<比較例1>
高性能AE減水剤(WR)を用いることなく、表1に記載した処方により、実施例1と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例1と同様に、各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
<比較例2>
水溶性セルロースエーテル(MC)を用いることなく、表1に記載した処方により、実
施例1と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例1と同様に、各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0084】
<比較例3>
水溶性ポリウレタン(PU)及び高性能AE減水剤(WR)を用いることなく、表1に記載した処方により、実施例1と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例1と同様に、各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0085】
<比較例4>
水溶性ポリウレタン(PU)を用いることなく、表1に記載した処方により、実施例1と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例1と同様に、各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
<実施例3>
[水硬性組成物の調製−2]
普通ポルトラントセメント(C)、粉砕ケイ石紛(S1、ブレーン値7500)、豊浦砂(S2)、水溶性セルロースエーテル(MC)(信越化学社製、商品名:メトローズS
HV−WF)、及び、上記で得られた水溶性ポリウレタン(PU−1)、高性能AE減水剤(WR)(花王社製、商品名:マイティ21VS、固形分20%の水溶液)、及びパルプ繊維を、表2に記載した処方によりミキサーで1分間混合し、続いて、水道水(W)を表2に記載した処方量加え、1分間混練した。得られた混合物をニーダーにより更に混練し、試験用モルタルを得た。
このモルタルは水比(水以外の原料の重量に対する水の重量の比率)が比較的小さく、モルタルは比較的硬く、所謂中空押出セメント板の押出成形に用いられる。
<評価−2>
評価にあたっては、得られたモルタルにつき真空押出成形機を用いて、板状に押出成形を実施し、幅25mm厚さ10mmのセメント板を成形した。
【0088】
[モルタル組成物の粘性]
得られたモルタルの粘性については、押し出し前に粘土硬度計(日本ガイシ社製)によりモルタルの硬度を測定し、押し出し時にはダイス直前での圧力(吐出圧力)を測定した。モルタルの粘度が高く流れにくいほど、吐出圧力は大きくなる。またモルタルの硬度が硬過ぎるとセメント板の表面がささくれ立って平滑でなくなる。
【0089】
[モルタル組成物の保水性評価]
得られたモルタルの保水性については、押出成形時のダイス部分からの漏水の有無により判定した。
○:漏水は無かった
×:漏水した
【0090】
[成形品の表面平滑性]
成形品の表面平滑性評価にあたっては、得られたセメント板につき、目視により、下記の基準で評価を行った。評価結果を表2に示す。
◎:表面にささくれも凹凸もない
○:表面に僅かにささくれか凹凸がある
×:表面がささくれ立っている。
【0091】
<実施例4>
上記で得られた水溶性ポリウレタン(PU−1)を用いて、表2に記載した処方(PU:MC=80:20)により、実施例3と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例3と同様に、各種評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0092】
<実施例5>
上記で得られた水溶性ポリウレタン(PU−1)を用いて、表2に記載した処方(PU:MC=40:60)により、実施例3と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例3と同様に、各種評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0093】
<比較例5>
減水剤(WR)を用いることなく、表2に記載した処方(PU:MC=50:50)により、実施例3と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例3と同様に、各種評価を行った。評価結果を表2に示す。成形品の表面にはささくれがあった。
【0094】
<比較例6>
水溶性ポリウレタン(PU)を用いることなく、表2に記載した処方により、実施例3と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例3と同様に、各種評価を行った。評価結果を表2に示す。成形品の表面には僅かにささくれがあった。
実施例3、4、5および比較例5、6より、モルタルの硬度が13以下になると成形品の表面にささくれが生じないことが分った。
【0095】
<比較例7>
水溶性セルロースエーテル(MC)を用いることなく、表2に記載した処方により、実施例3と同様に試験用モルタルを得た。得られた試験用モルタルを用いて、実施例3と同様に、各種評価を行った。評価結果を表2に示す。成形品の表面には僅かに凹凸があった。また、モルタルの硬度を13に調整するために水量を増やしたため、成形品の密度が低下した。
【0096】
【表2】

【0097】
<まとめ>
表1および表2に示されるように、水溶性ポリウレタン(A)、高性能AE減水剤(B)、水溶性セルロースエーテル(C)、を全て添加した場合に、押し出し時の吐出圧力が最も低くなり、成形品の表面も最も平滑になった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の水硬性組成物は、セメント板押出成形用モルタル、左官用モルタル、補修用モ
ルタル、タイル接着(圧着)用モルタル、マソンリーモルタル、ポンプアップ用モルタル、スプレー用モルタル、壁の下地用モルタル、壁の仕上げ用モルタル、オートクレーブトライトウェートコンクリート(ALC)目地充填用モルタル、床仕上げ用モルタル(セルフレベリング材)、高流動コンクリート、水中コンクリート高靭性コンクリート等の広範囲のモルタル又はコンクリート等として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)、高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)、水溶性セルロースエーテル(C)、及び、水硬性無機粉体(D)を含む水硬性組成物であって、
前記房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)は、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位(b)とを含み、
前記繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)の総モル数に対する前記繰り返し単位(a)のモル数の比は、0.5以上0.99以下である水硬性組成物。
【化1】

(式中、
Aは、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールHO−A−OHの脱アルコール残基である2価の連結基を示し、
Bは、ジイソシアナートOCN−B−NCOの脱NCO残基である2価の連結基を示す。)
【化2】

(式中、
Dは、分子内に炭素数4から21の1価炭化水素基を少なくとも2個以上有する櫛形ジオールHO−D−OHの脱アルコール残基である2価の連結基を示し、
Bは、ジイソシアナートOCN−B−NCOの脱NCO残基である2価の連結基を示す。)
【請求項2】
前記水硬性組成物100質量%に対する前記房状疎水基を有する水溶性ポリウレタン(A)の含有量は0.1質量%以上2質量%以下、前記高性能減水剤及び/又は高性能AE減水剤(B)の含有量は固形分量で0.01質量%以上1質量%以下、前記水溶性セルロースエーテル(C)の含有量は0.1質量%以上2質量%以下、前記水硬性無機粉体(D)の含有量は10質量%以上99.79質量%以下である請求項1記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記櫛形ジオールHO−D−OHは、下記一般式(III)及び/又は下記一般式(IV)
で表わされる櫛形ジオールである請求項1又は2記載の水硬性組成物。
【化3】

(式中、
1は、炭素原子数1から20の炭化水素基又は窒素含有炭化水素基であり、
2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数4から21の炭化水素基であり、
ここで、R1、R2、及びR3における水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子、塩素
原子、臭素原子、及び沃素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子で置換されていてもよく、
Y及びY’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、及びCH2Cl基
からなる群より選ばれるいずれかであり、
Z及びZ’は、同一でも異なっていてもよく、酸素原子、硫黄原子、及びCH2基から
なる群より選ばれるいずれかであり、
n及びn’は、同一でも異なっていてもよく、
nは、Zが酸素原子の場合には0から15の整数であり、Zが硫黄原子又はCH2基の
場合には0であり、
n’は、Z’が酸素原子の場合には0から15の整数であり、Z’が硫黄原子又はCH2基の場合には0である。)
【化4】

(式中、
4は、全炭素原子数2から4のアルキレン基であり、
5は、炭素原子数1から20の炭化水素基であり、
6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数4から21の炭化水素基であり、
ここで、R4、R5、及びR6における水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子、塩素
原子、臭素原子、又は沃素原子で置換されていてもよく、
S、S’、及びS’’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、及びCH2Cl基からなる群より選ばれるいずれかであり、
T及びT’は、同一でも異なっていてもよく、酸素原子、硫黄原子、及びCH2基から
なる群より選ばれるいずれかであり、
P及びP’は、同一でも異なっていてもよく、
Pは、Tが酸素原子の場合には0から15の整数であり、Tが硫黄原子又はCH2基の
場合には0であり、
P’は、T’が酸素原子の場合には0から15の整数であり、T’が硫黄原子又はCH2基の場合には0であり、
Qは、0から15の整数である。)
【請求項4】
前記水硬性組成物は、モルタル用組成物である請求項1から3いずれか記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記水硬性組成物は、セメント板押出成形用モルタル組成物である請求項1から4いずれか記載の水硬性組成物。
【請求項6】
前記水硬性組成物は、コンクリート用組成物である請求項1から3いずれか記載の水硬性組成物。

【公開番号】特開2007−197313(P2007−197313A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350381(P2006−350381)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(501140544)三井化学ポリウレタン株式会社 (115)
【Fターム(参考)】