説明

水硬性組成物

【課題】 建築物の外壁や構造物の表層の美観回復のための煩雑なメンテナンス作業が不要で、恒常的に建築物の外壁や構造物の表層の美観と風合いを保ち続けることができる、各種建築物の仕上げに用いられる水硬性組成物と、それを用いた硬化体層を表層に有する構造体を提供することを目的とした。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材とを含む水硬性組成物であって、細骨材は、粒子径が1mmを超える粒子を含まず、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、0.06〜0.12であることを特徴とする水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物の仕上げ材として使用でき、長期供用過程で仕上げ材表面が物理的に自然に風化して、自然で良好な風合いを有する仕上げ材表面が恒常的に維持される構造体の形成に用いられる水硬性組成物と、水硬性組成物を用いて得られる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種建築物の仕上げ処理には、多種多様な有機系仕上げ材や無機系仕上げ材が用いられるが、建築物は長期供用される過程で、その外壁や表層には風雨などによる汚れが付着し、さらにそれが蓄積されて、建築当初の美観や風合いが失われていることが多く見られる。
【0003】
各種建築物が長期供用される過程で、風雨などによる汚れが建築物の外壁や表層に付着・蓄積して、美観や風合いが損なわれる対策としては、清掃作業の頻度を高めたり、仕上げ材に光触媒などを活用する方法が考案されている。
【0004】
風雨などによる汚れを防止する方法としては、特許文献1に耐汚染性、吸水防止性に優れた防汚性目地構造体、及びそれら目地構造体の製造に有用な目地材処理剤を提供する事を目的とし、表面が光触媒活性及び/又は親水性であり、表面近傍より内部が撥水性であることを特徴とする防汚性目地構造体が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、可視光型光触媒効果、消臭性、抗菌性などの機能性材料を用いるにあたり、機能性が効率的に発揮されるようにした壁材やタイルなどの建材を提供することを目的として、光触媒であり、また珪藻土を含むモルタルによるモルタル壁材やタイルなどの建材が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−100188号公報
【特許文献2】特開2006−77554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各種建築物が長期供用される過程で、建築物の外壁や表層に風雨などによる汚れが付着・蓄積することを回避できれば、建築物の外壁や構造物の表層の美観回復のための煩雑なメンテナンス作業は不要となり、経済面および良好な景観形成の視点から社会的貢献度は高いものとなる。
【0008】
本発明は、建築物の外壁や構造物の表層の美観回復のための煩雑なメンテナンス作業が不要で、恒常的に建築物の外壁や構造物の表層の美観と風合いを保ち続けることができる、各種建築物の仕上げに用いられる水硬性組成物と、それを用いた硬化体層を表層に有する構造体を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究開発に取組んだ結果、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分を用い、特定の粒度を有する細骨材を水硬性成分に対して所定の割合で配合することにより、各種建築物の仕上げ材として使用でき、長期供用過程で仕上げ材表面が物理的に自然に風化して、自然で良好な風合いを有する仕上げ材表面が恒常的に維持される構造体を得ることができることを見出して本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の第1は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材とを含む水硬性組成物であって、細骨材は、粒子径が1mmを超える粒子を含まず、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、0.06〜0.12であることを特徴とする水硬性組成物である。
本発明の第2は、本発明の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルである。
本発明の第3は、本発明の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルの硬化体層を表層に有する構造体ある。
【0011】
本発明の水硬性組成物について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
(1)水硬性成分(100質量%)は、アルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏10〜40質量%からなること。
(2)水硬性成分は、白色アルミナセメント、白色ポルトランドセメント及び無水石膏からなること。
(3)細骨材(100質量%)は、微粒石灰石砂5〜25質量%、微粒珪砂50〜70質量%及びタルク20〜40質量%からなること。
(4)水硬性組成物は、さらに再乳化形樹脂粉末と、有機系軽量骨材と、有機系短繊維とを含むこと。
(5)再乳化形樹脂粉末は、樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化形樹脂粉末であること。
(6)有機系軽量骨材は、エチレン酢酸ビニル樹脂系軽量骨材であり、有機系短繊維は、ポリエステル樹脂短繊維であること。
(7)水硬性組成物は、さらに顔料、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
(8)水硬性組成物は、水硬性組成物100質量部と水20〜30質量部とを混練して水硬性モルタルを調製して建築構造物の壁に鏝塗り施工されること。
(9)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル硬化体は、材齢7日の長さ変化率が±0〜−0.04%の範囲であり、材齢28日の長さ変化率が±0〜−0.05%の範囲であること。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分を用い、特定の粒度を有する細骨材を水硬性成分に対して一定割合で配合することにより、各種建築物の仕上げ材として用いた場合に、長期供用過程で仕上げ材表面が物理的に自然に風化して、自然で良好な風合いを有する仕上げ表面を恒常的に維持できる硬化体組織を形成できるものである。
本発明の水硬性組成物を用いて得られる硬化体組織は、良好な自然風化性を有しているが多孔質構造ではないため、屋外環境での長期供用でも汚れ物質を硬化体表層に蓄積することのなく、自然で良好な風合いを有する仕上げ表面を恒常的に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水硬性組成物を用いて形成される水硬性モルタル硬化体が、恒常的に美観に優れ、自然な風合いを有する状態が保持されるメカニズムについて説明する。
図1は、本発明の水硬性組成物を用いた水硬性モルタル硬化体、一般的なモルタル硬化体及び多孔質なモルタル硬化体が長期供用される過程で生じるモルタル硬化体表層部の状態を模式的に示す断面図である。
【0014】
一般的なモルタル硬化体の場合、硬化体の構造・組織は、細骨材が充填された構造の隙間に水硬性成分と水とを含む水硬性ペーストが過剰に充填されて硬化した構造・組織を有しており、強度などの物理的特性は、本発明の水硬性モルタル硬化体の強度特性を上回るものとなるが、長期供用過程で硬化体表面には付着物などによる汚れが生じても、洗浄処理などを行わなければその汚れを除去することは困難である。定期的に洗浄するなどの措置をとらない場合、モルタル硬化体の表面には付着物などが増加して、美観を損なうことになる。
【0015】
また、水硬性ペーストが過少な多孔質なモルタル硬化体の場合、強度などの物理的特性は、本発明の水硬性モルタル硬化体の強度特性を下回りものとなるだけでなく、長期供用過程で硬化体表面には付着物などによる汚れ成分が、硬化体表面から孔を介して水硬性モルタル硬化体の内部へと徐々に浸透する。このため、モルタル硬化体の表層部が長期供用過程で自然風化して、汚れ成分などが付着した表面層が脱落しても、孔の内部に浸透した汚れ成分が、新たにモルタル硬化体表面に露出するために施工当初の美観を回復することは困難である。
【0016】
一方、本発明の水硬性組成物を用いて形成される水硬性モルタル硬化体は、細骨材が充填された構造の隙間に水硬性成分と水とを含む水硬性ペーストが過不足なく充填されて硬化した構造・組織に近似した状態を形成している。したがって硬化体内部は多孔質な構造とはなっていない。
建築物の壁構造体などの表層に、本発明の水硬性モルタル硬化体層に設けて長期供用すると、本発明の水硬性モルタル硬化体の表面にも、付着物などによる汚れが発生することが考えられる。しかしながら、本発明の水硬性モルタル硬化体は、水硬性成分と細骨材との割合を所定な範囲に設定し、過剰な強度を有さず適正な脆性を付与しているため、水硬性モルタル硬化体の表面は、長期供用過程で風雨に晒されたり、また大気中のCO2によって僅かずつ炭酸化され、継続的に極々わずかずつ風化が進行して、表面の汚れ付着部は風化を受けた部分とともに、水硬性モルタル硬化体の表面から脱落することになる。このように、水硬性モルタル硬化体の表面が長期供用過程で僅かずつ脱落して、水硬性モルタル硬化体の内部から新たな表面が露出するため、恒常的に美観に優れ、自然な風合いを有する状態を保持することができる。
【0017】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、細骨材は、粒子径が1mmを超える粒子を含まず、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、0.06〜0.12であることを特徴とする。
【0018】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0019】
本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合することによって、着色した水硬性モルタルの硬化体(水硬性モルタル硬化体)を得ることができる。本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合する場合には、アルミナセメントとして、高い白色度を有する白色アルミナセメントを用いることが好ましい。
【0020】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0021】
本発明の水硬性組成物に各種顔料を配合し、着色した水硬性モルタル硬化体を得る場合には、ポルトランドセメントとして、高い白色度を有する白色ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0022】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0023】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが好ましい。
水硬性成分は、水硬性成分を100質量%とした場合に、好ましくは、アルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏10〜40質量%からなる組成、さらに好ましくは、アルミナセメント35〜55質量%、ポルトランドセメント25〜45質量%及び石膏15〜35質量%からなる組成、より好ましくは、アルミナセメント40〜50質量%、ポルトランドセメント30〜40質量%及び石膏18〜30質量%からなる組成、特に好ましくは、アルミナセメント42〜46質量%、ポルトランドセメント32〜36質量%及び石膏20〜24質量%からなる組成
を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化過程の体積変化が殆どなく、クラックの発生を極力抑制した硬化体が得られやすいために好ましい。
水硬性成分を構成するアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の配合比率が、前記範囲から外れた場合、特に硬化過程の収縮によって硬化体にクラックを生じて美観を損ねたり、あるいは硬化過程の膨張によって硬化体が過度な脆性を有してしまうことから、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の配合比率は、前期の好ましい範囲とすることが好適である。
【0024】
本発明では、長期供用に対して充分な耐久性を有しつつ、長期の屋外曝露条件下で風雨による自然侵食や、大気中のCO2による炭酸化作用によって、硬化体表面から僅かずつ長期間かけて継続的に脆性剥離する特性を付与するために、特定の粒度の細骨材を、水硬性成分に対して所定の割合で配合して使用する。
【0025】
細骨材としては、粒子径が1mm以下の細骨材であれば、一般的に細骨材として用いられる公知の珪砂、川砂、海砂、山砂、石灰石砂などの微粒砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナセメントクリンカーなどを好ましく用いることができ、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石微粉末、ドロマイト微粉末、タルク微粉末、マイカ微粉末などを好ましく用いることができる。
【0026】
また、粒度構成が異なる2種類以上の細骨材を混合して、微粒分を好適な割合含む細骨材を調製して用いることができる。本発明で好適に用いることができる細骨材は、前記の所定粒度を満足していれば、特にその調製方法は限定されるものではない。細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0027】
本発明では、水硬性成分と細骨材との好適な配合比率において、良好な鏝塗り施工性と、緻密な組織を有しつつ、所定の脆性特性を有する硬化体組織を形成できることから、細骨材として、微粒石灰石砂、微粒珪砂及びタルクからなる細骨材を用いることが好ましい。
【0028】
細骨材は、細骨材を100質量%とした場合に、好ましくは微粒石灰石砂5〜25質量%、微粒珪砂50〜70質量%及びタルク20〜40質量%の範囲、さらに好ましくは微粒石灰石砂10〜20質量%、微粒珪砂52〜65質量%及びタルク23〜38質量%の範囲、特に好ましくは微粒石灰石砂12〜18質量%、微粒珪砂55〜60質量%及びタルク25〜35質量%の範囲の細骨材を用いることが、良好な鏝塗り施工性と、緻密な組織を有しつつ所定の脆性特性を有する硬化体組織を形成できることから好ましい。
【0029】
微粒石灰石砂、微粒珪砂及びタルクの割合が、前記の好ましい範囲から外れると、鏝塗り施工性が低下したり、硬化体組織が緻密化し過ぎて適正な脆性を付与できず、自然風化性が低下したり、逆に硬化体組織が疎な構造となって過度な脆性を有してしまい、構造体の表面仕上げ材として最低限必要な強度性状を得られないことがあるため、微粒石灰石砂、微粒珪砂及びタルクの割合は前記の好適な範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明では、良好な鏝塗り施工性と、緻密な組織を有しつつ、所定の脆性特性を有する硬化体組織を形成するために、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、好ましくは0.06〜0.12の範囲であること、さらに好ましくは0.07〜0.10の範囲であること、特に好ましくは0.08〜0.09の範囲であることが好ましい。
【0031】
水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、前記の好ましい範囲の場合、水硬性組成物を用いて得られる硬化体の構造・組織は、細骨材が充填された構造の隙間に水硬性成分と水とを含む水硬性ペーストが過不足なく充填されて硬化した構造・組織に近似した状態を形成でき、緻密性を有しつつ、好適な脆性特性を有する硬化体特性を得ることができる。
【0032】
水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、前記の好ましい範囲より小さい場合、水硬性組成物を用いた水硬性モルタルの鏝塗り施工性が低下するとともに、水硬性モルタル硬化体の脆性が過剰となり、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、前記の好ましい範囲より大きいと、水硬性モルタル硬化体の脆性が不足して、自然風化特性が損なわれることから、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)は、前記の好適な範囲とすることが好ましい。
【0033】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材とを含み、さらに再乳化形樹脂粉末と、有機系軽量骨材と、有機系短繊維とを含むことが好ましい。
【0034】
本発明の水硬性組成物は、屋外で水硬性モルタルを施工した場合の硬化体表面の乾燥による皺や気泡跡の発生や、材料分離によるブリーディング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を適正に高めてひび割れの発生を防止する効果と、硬化体と下地との接着強度を向上させる効果とを付与するために再乳化形樹脂粉末を使用することが好ましい。再乳化形樹脂粉末を用いることによって前記の効果が得られ、適正な脆性と好適な耐久性を有する水硬性モルタル硬化体を得ることができる。
【0035】
本発明の水硬性組成物で使用する再乳化形樹脂粉末としては、特に限定されるものではなく、市販の再乳化形樹脂粉末などから適宜選択して使用することができる。
本発明の水硬性組成物では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため樹脂成分については、粉末状の再乳化形樹脂粉末を好適に使用することができる。
【0036】
再乳化形樹脂粉末の製造方法については特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また再乳化形樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に再乳化形樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。
再乳化形樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形樹脂粉末を用いる。
【0037】
本発明では、再乳化形樹脂粉末として保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができ、特に、保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
【0038】
アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の1次粒子(エマルジョンの粒子)の平均粒径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、さらに好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性と、適正な脆性とを併せて得られることから好ましい。
1次粒子の平均粒径が前記範囲のアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好なこて送り性とこて伸び性とが得られる。
再乳化形樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性が低下するため好ましくなく、再乳化形樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性は良好であるが、モルタル施工時のこて送り性とこて伸び性が低下して作業性が悪くなることから好ましくない。
【0039】
本発明では、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末100質量%中に再乳化型樹脂粉末の1次粒子の粒径が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、さらに好ましくは、0.15〜0.9μmの粒子を95質量%以上含み、より好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75質量%以上含むものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性と、適正な脆性とを併せて得られることから好ましい。
前記範囲の粒径の1次粒子を前記の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を用いた水硬性モルタルでは、左官鏝などを用いてモルタル表面を平滑に仕上げる場合に、良好なこて送り性とこて伸び性とが得られる。
樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性が低下するため好ましくなく、樹脂成分の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性は良好であるが、モルタル施工時のこて送り性とこて伸び性が低下して作業性が悪くなることから好ましくない。
【0040】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。
再乳化型樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルジョンの状態(樹脂粉末化前の1次粒子の状態)、すなわち、水硬性モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0041】
本発明では、前記範囲の1次粒子径を前記範囲で含み、且つ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末を選択して用いることによって、モルタル施工時に優れた作業性が得られるとともに、モルタル硬化体においては下地との接着性に優れ、硬化体自体には適度な脆性を付与することができる。
【0042】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末は、噴霧乾燥処理などの工程を経て、1次粒子が凝集した2次粒子の形態で用いられる。
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは30〜90μmの範囲であり、より好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲であることが、再乳化型樹脂粉末を含む水硬性組成物と水とを混練してモルタル化する過程で、再乳化型樹脂粉末の2次粒子が水硬性組成物に含まれている細骨材によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすいことから前記範囲の2次粒子径を有する再乳化型樹脂粉末を用いることが好ましい。
再乳化型樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より大きくなるとモルタル化の過程で再分散されにくくなり、1次粒子が均一に分散した状態になり難くなることから好ましくなく、2次粒子径が前記範囲より小さくなると、工場においてプレミックスして水硬性組成物を製造する際に、再乳化型樹脂粉末が飛散して作業環境が悪化するなどのハンドリング性が悪くなることから好ましくない。
【0043】
本発明で使用する再乳化型樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜15質量部、さらに好ましくは5〜12質量部、特に好ましくは7〜10質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と、高い下地接着性と、適正な硬化体脆性とを併せて得ることができる。
樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、水硬性組成物に水を加えて得られるモルタルの粘度が高くなり、施工性およびこて作業性が低下し、表層の乾燥による皺や気泡跡が発生し易くなるとともに、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、モルタル硬化体の弾性向上によるひび割れ抑制効果が小さくなり、モルタル硬化体の表面仕上りも悪くなる傾向があるため好ましくない。
【0044】
本発明の水硬性組成物は、適正な脆性と好適な耐久性を有する水硬性モルタル硬化体を得るために、有機系軽量骨材と、有機系短繊維とを用いることが好ましい。
【0045】
有機系軽量骨材は、特に限定されるものではなく、エチレン酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、ナイロン樹脂系などの市販の有機系軽量骨材を適宜選択して用いることができ、特に、エチレン酢酸ビニル樹脂系有機系軽量骨材が、水硬性モルタル中で均一な分散状態を安定して得られることから好適に用いることができる。
【0046】
本発明で使用する有機系軽量骨材は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.2〜4.0質量部、より好ましくは0.4〜3.0質量部、さらに好ましくは0.6〜2.0質量部、特に好ましくは0.8〜1.5質量部の範囲で配合することによって、適正な脆性と好適な耐久性とを併せて得ることができる。
【0047】
有機系軽量骨材は、好ましくは10〜500μmの範囲の粒子径を有していること、特に好ましくは20〜200μmの範囲の粒子径を有していることが好ましい。
また、有機系軽量骨材は、嵩比重が好ましくは0.1〜0.5kg/リットルの範囲、特に好ましくは0.15〜0.3kg/リットルの範囲のものを用いることが好ましい。
有機系軽量骨材が、前記の好ましい範囲の粒子径と嵩比重とを有していることにより、良好な鏝塗り施工性が得られるとともに、硬化体表面に偏りのない脆性を付与できる。
【0048】
本発明で用いる有機系短繊維は、特に限定されるものではなく、ビニロン樹脂短繊維、アクリル樹脂短繊維、ナイロン樹脂短繊維、ポリエステル樹脂短繊維などの市販の樹脂短繊維を適宜選択して用いることができる。
本発明では、特に、ポリエステル樹脂短繊維が、水硬性モルタル硬化体の適度な脆性を損なうことなく、良好な耐久性を付与できることから好適である。
【0049】
本発明で使用する有機系短繊維は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1.0〜5.0質量部、より好ましくは2.0〜4.5質量部、特に好ましくは3.0〜4.0質量部の範囲で配合することによって、適正な脆性と好適な耐久性とを併せて得ることができる。
【0050】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分、細骨材、再乳化形樹脂粉末、有機系軽量骨材及び有機系短繊維を含み、顔料、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことができる。
【0051】
顔料としては、白色顔料、有彩色顔料及び黒色顔料などを用いることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。顔料を用いることにより、水硬性モルタルを着色し、着色水硬性モルタルとすることができるので、美観に優れた着色水硬性モルタル硬化体を形成できる。
【0052】
白色顔料としては、二酸化チタン(酸化チタン)、鉛白、酸化亜鉛などを挙げることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。
【0053】
有彩色顔料は、公知のものが制限なく使用でき、例えば金属の酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩などの無機顔料;アゾ系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、フタロシアニン系、ニトロ系、ニトロソ系、アントラキノン系、キナクリドンレッド系、ベンジジン系、縮合多環系等の有機顔料などを挙げることができる。また、着色繊維や光沢を有する金属粒子などであってもよい。有彩色顔料の色相については特に制限がなく、黄、青、赤、緑などのいずれのものでも使用することができる。これらの顔料は二種類以上を併用することができる。
【0054】
本発明で用いることのできる有彩色顔料の具体例としては、弁柄、群青、コバルトブルー、チタンイエロー、紺青、硫化亜鉛、バリウム黄、コバルト青、コバルト緑などの無機顔料;キナクリドンレッド、ポリアゾイエロー、アンスラキノンレッド、アンスラキノンイエロー、ポリアゾレッド、アゾレーキイエロー、ベリレン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンイエロー、ウォッチングレッド、パーマネントレッド、パラレッド、トルイジンマルーン、ベンジジンイエロー、ファーストスカイブルー、ブリリアントカーミン6B等の有機顔料、着色繊維、光沢を有する金属粒子などが挙げられ、これらの顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0055】
黒色顔料としては、カーボンブラック、鉄黒などをあげることができる。黒色顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0056】
白色顔料、有彩色顔料及び黒色顔料などを併用して用いることにより、無彩色で環境調和性が高い着色水硬性モルタル硬化体を形成でき、景観への配慮が強く求められる施工場所などに好適に用いることができる。
【0057】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物と水とを混練して調製する水硬性モルタルの可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、前記モルタルの使用が非常に容易になるため好ましい。
【0058】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(L−酒石酸ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウムなど)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0059】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
【0060】
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましく、さらに、これらを併用して用いることがより好ましい。
【0061】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.5質量部であり、
特に好ましくは0.25〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0062】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができ、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩を好適に用いることができる。
【0063】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0064】
水硬性組成物は、好適な鏝塗り施工性を確保するために流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いることができる。
【0065】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、リグニン系、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
【0066】
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜2.0質量部、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部、特に好ましくは0.7〜1.2質量部を配合することができる。
【0067】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテルやグアーガム等の化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることができる。
【0068】
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、水硬性モルタルの粘度が増加して、鏝塗り施工性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0069】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性モルタルの硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0070】
消泡剤は、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜3.0質量部、特に0.02〜1.0質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0072】
水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、微粒石灰石砂、微粒珪砂及びタルクからなる細骨材、再乳化型樹脂粉末、有機系軽量骨材、有機系短繊維、顔料、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤を含むものである。
【0073】
本発明では、水硬性成分、細骨材、再乳化型樹脂粉末、有機系軽量骨材、有機系短繊維、顔料、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤などを混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0074】
水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、水硬性モルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させて水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0075】
水硬性組成物は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、鏝塗り施工性、水硬性モルタル硬化体の特性(脆性、耐久性)などを調整することができる。
本発明で用いる水硬性モルタルは、水硬性組成物(S)と水(W)とを質量比(W/S)が、好ましくは0.20〜0.30の範囲、さらに好ましくは0.22〜0.29の範囲、特に好ましくは0.24〜0.28の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0076】
水硬性モルタルの施工厚さは、コンクリート下地表面の凹凸状態などによって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、コンクリート表面の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ1mm〜30mmの範囲、より好ましくは施工厚さ1.2mm〜15mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ1.5mm〜5mmの範囲でこて塗り施工することが好ましい。
特に本発明の水硬性組成物は、施工厚さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、最も好適な鏝塗り施工性を安定して得ることができる。
【0077】
本発明で用いる水硬性モルタルは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。
水硬性モルタルの可使時間は、モルタル調製から好ましくは60分間であり、さらに好ましくは90分間であり、特に好ましくは120分間である。
【0078】
水硬性モルタルは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後、数時間で硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
水硬性モルタル硬化体表面のショア硬度は、モルタルを打設してモルタル表面をこて仕上げして養生を行い、
好ましくは材齢1日のショア硬度が3〜10の範囲、さらに好ましくは材齢3日のショア硬度が15〜45の範囲、より好ましくは材齢7日のショア硬度が20〜45の範囲であり、特に好ましくは材齢14日のショア硬度が25〜45の範囲であり、モルタル施工(打設・こて仕上げ)が終了した後、緩やかに硬化が進行して、本発明の水硬性モルタル硬化体層を表層に有するコンクリート構造体を得ることができる。
【0079】
水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で、好ましくは±0〜−0.04%、さらに好ましくは±0〜−0.03%、特に好ましくは±0〜−0.025%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で、好ましくは±0〜−0.05%、
さらに好ましくは±0〜−0.04%、特に好ましくは±0〜−0.025%の範囲であり、前記の長さ変化率の特性を有する水硬性組成物が、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地となるコンクリート床との間で高い接着力を保持でき、高耐久な構造体を得ることができることから好ましい。また、上記の長さ変化率の範囲を外れた場合には、水硬性モルタル硬化体の硬化収縮によってクラックが生じることがあるため好ましくない。
【実施例】
【0080】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0081】
(特性の評価方法)
1)鏝塗り施工性 :
練り上がった水硬性モルタルをコテ板に取り、左官用コテを用いてコンクリート壁面に、5mm厚さに塗り付けた。
上記のこて塗り作業の過程で、コテ送り(重さ)、コテ伸び(塗り面積)について、3つの指標、大変良好:○、良好(実用上問題なし):△、不良(実用上問題あり):×、として評価した。
2)長さ変化:
水硬性モルタル硬化体の長さ変化は、JIS A 1129−1のコンタクトゲージ法に準じて長さ変化測定を行った。
3)硬化体表面のショア硬度:
水硬性モルタル打設後からの所定の経過日数において、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とする。
4)磨耗試験:
水硬性モルタル硬化体の脆性特性は、JIS K 7204「磨耗輪によるプラスチックの磨耗試験方法」に準拠して、材齢14日の水硬性モルタル硬化体について、磨耗量及び磨耗深さを測定した。測定条件は、回転数:200rpm、磨耗輪:GC150H、加重:250gで行った。
【0082】
(使用材料):水硬性組成物は、以下の材料を使用した。
・白色アルミナセメント : ターナルホワイト、ケルネオス社製、ブレーン比表面積4100cm/g。
・白色ポルトランドセメント : 太平洋セメント社製。
・普通ポルトランドセメント : 宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積3320cm/g。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・微粒石灰石砂 : 粒度=0.3〜1mm、有恒鉱業社製。
・微粒珪砂 : 粒度=20〜300μm、7号珪砂、瓢屋社製。
・タルク : 粒度=100μm以下、日本滑石社製。
・再乳化形樹脂粉末 : アクリル酸エステル/メタクリル酸エステルの共重合体のカチオンタイプ(1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末)、日本合成化学社製、LDM7100P。
・有機系軽量骨材: エチレン酢酸ビニル系共重合体粉末(EVA粉末)、粒径=20〜200μm、嵩比重=0.21kg/リットル、金義社製。
・有機系短繊維 : ポリエステル樹脂短繊維、京都繊維資材社製。
・凝結遅延剤a : L−酒石酸ニナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結遅延剤b : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
・増粘剤 : ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、マーポローズMX−30000、松本油脂社製。
・消泡剤 : ポリエーテル系消泡剤、77P、サンノプコ社製。
・顔料 : 着色粘土(紅陶土)、富沢建材社製。
【0083】
(水硬性組成物のモルタル調製)
表1に示す配合割合で水硬性組成物を調製し、水硬性組成物100質量部に対して所定量の水を配合し、回転数1100rpmのハンドミキサーを用いて3分間混練して、水硬性モルタルを調製した。
【0084】
[実施例1〜5、比較例1、2]
表1に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて調製した水硬性モルタルに関し、鏝塗り施工性を評価し、水硬性モルタル硬化体についてショア硬度測定、長さ変化測定および磨耗試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
(1)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、微粒石灰石、微粒珪砂及びタルクからなる細骨材とを含み、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が0.25である比較例1の場合、極めて優れた速硬性を示し、材齢1日で50を超えるショア硬度を発現し、水硬性モルタル硬化体の表面層は緻密で硬質な組織が形成されていた。
(2)アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、微粒石灰石、微粒珪砂及びタルクからなる細骨材とを含み、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が0.08である実施例1および実施例3〜5の場合、長さ変化は最大でも−0.04といずれも極めて小さな値を示した。また、比較例1の場合とは異なり、材齢1日のショア硬度は5〜6と小さな値を示し、その後材齢の経過に伴ってショア硬度は高くなるものの、材齢14日までの最大値は、実施例4の場合に44、実施例1、3、5では36以下であった。
(3)実施例1と同様に、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、微粒石灰石、微粒珪砂及びタルクからなる細骨材とを含み、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が0.25である水硬性組成物を用いて、水・水硬性組成物比を26%とした実施例2の場合、最も小さな長さ変化の値を示した。また、ショア硬度の発現については、実施例1及び実施例2〜5の場合よりさらにショア硬度の発現が緩やかで、且つ材齢14日のショア硬度の値も27と小さな値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の水硬性組成物を用いた水硬性モルタル硬化体、一般的なモルタル硬化体及び多孔質なモルタル硬化体が長期供用される過程で生じるモルタル硬化体表層部の状態を模式的に示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、細骨材とを含む水硬性組成物であって、細骨材は、粒子径が1mmを超える粒子を含まず、水硬性成分と細骨材との質量比率(水硬性成分/細骨材)が、0.06〜0.12であること
を特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分(100質量%)は、アルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏10〜40質量%からなることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性成分は、白色アルミナセメント、白色ポルトランドセメント及び無水石膏からなること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
細骨材(100質量%)は、微粒石灰石砂5〜25質量%、微粒珪砂50〜70質量%及びタルク20〜40質量%からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
水硬性組成物は、さらに再乳化形樹脂粉末と、有機系軽量骨材と、有機系短繊維とを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
再乳化形樹脂粉末は、樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が0.2〜0.8μmであり、樹脂粉末の1次粒子表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル共重合再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
有機系軽量骨材は、エチレン酢酸ビニル樹脂系軽量骨材であり、有機系短繊維は、ポリエステル樹脂短繊維であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
水硬性組成物は、さらに顔料、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
水硬性組成物は、水硬性組成物100質量部と水20〜30質量部とを混練して水硬性モルタルを調製して建築構造物の壁に鏝塗り施工されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル硬化体は、材齢7日の長さ変化率が±0〜−0.04%の範囲であり、材齢28日の長さ変化率が±0〜−0.05%の範囲であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルの硬化体層を表層に有する構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18489(P2010−18489A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181181(P2008−181181)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】